世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

テコラ誕生⑤

2018-05-24 04:12:44 | 風紋


家ではソミナがコルの腰布を換えてやっていた。小便で汚したという。ソミナはこのところコルに夢中だ。世話をしたくてしょうがないのだ。小便で汚れた腰布でさえ、うれしげにつまんで、いそいそと洗いにいく。アシメックはそんなソミナの様子を満足そうに見た。妹が幸せになっていくのは、彼の悦びだった。

その幸せを阻むものは、なんとしてでも何とかせねばならない。アシメックは囲炉裏のそばに座りながら、また考え込んだ。漁場の交渉をした時の、ゴリンゴのいわくありげな目つきが思い浮かんだ。

常に不安なことはあったが、その冬は平穏に過ぎた。春の風が吹き始め、イタカにミンダが咲き始めるころ、モラは子供を生んだ。娘だった。

モラが一晩苦しんで産んでくれた娘を抱いた時、ネオは震えて涙を流した。神に出会った時でさえ、こんな目はしないだろうというほど、大きな驚きの目をした。

「これ、おれとモラのこども?」
「そうよ」

モラは寝床で疲れた目をしながら、満足そうに答えた。初めての出産は怖かったが、なんとか自分でやり終えたことが、自分でもうれしかったのだ。ネオが自分の産んだ娘を抱いて、泣いて喜んでいるのも、おもしろかった。そんな男など今まで見たことはなかったのだ。

「か、かわいいな。名前、なんてするの?」
「テコラってつけるの。わたしの好きな名前。いいでしょう」
「うん、いいよ、いいよ」

ネオは素直に喜んだ。それは「気持ちのいい香り」という意味だった。女の子らしくていい。花やおいしい食べ物の香りみたいに、きっといてくれるだけでうれしい娘になるだろう。ネオの手の中で、テコラは指を吸いながら眠っていた。小さいのに、もうまつげがある。爪も生えてる。そんなことが不思議でたまらなかった。なんていいものなんだ、これ。

ネオはテコラをモラに戻すと、飛び上がるように立ち上がり、そのまま何も言わずに家を出て行った。そして走って村を横切り、サリクの家に飛び込んだ。




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