世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

要求①

2018-05-29 04:43:18 | 風紋


その年の春、アシメックは例年参加している鹿狩りに参加しなかった。歌垣の楽師役もほかのやつにたのんだ。そのことに、村のみんなも不安を感じ始めていた。オラブのことが原因で起こった、ヤルスベ族との間の険悪な雰囲気は、日に日に濃くなっていた。

「もともと、評判のよくない女ではあったらしいんだ」
歌垣が終わって数日の後、アシメックの家に役男が集まって話し合った。ダヴィルの報告を聞くためだ。ダヴィルはヤルスベとの付き合いが深かった。だからヤルスベに行って、つてを頼っていろいろと調べてきたのだ。

「向こうの知り合いに、いろいろ話を聞いてみた。あの女、まだ若いんだがね、言いがかりをつけて無理矢理人のものを奪うなんてこともしたことがあるらしい」
ダヴィルは言った。アシメックは囲炉裏を見ながら、苦い顔をした。

「あれから何度かお詫びの品を届けに行っただろう。あれで味をしめたらしいんだ。わざと怪我をして、人のせいにして、お詫びの品をせびるなんてことをやってるんだと。それでヤルスベ族は困ってるそうだ」
場からため息がもれた。役男たちは呆れた顔を見かわした。膝を打って嘆くものもいた。

「オラブのやつめ! なんてことをしてくれた!」
「どうする。こんなことになったのもカシワナのせいだって、ヤルスベ族の人間は言ってる」
「まずいな。鉄のナイフがもらえなくなるかもしれない」

役男たちは口々に言いあった。アシメックは目を閉じ、考え込んだ。先祖の知恵やカシワナカの教えの中に答えを探そうとした。だが何も見つからない。ヤルスベ族との間の感情が、こんなに険悪になってきたのは初めてだ。今までにも、何度かケンカじみたことはあったが、なんとかうまく行っていた。神の名前は違うが、どちらの部族の神も、みだらにケンカをしてはいけないと教えていたのだ。




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする