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アシメックはオロソ沼に自生する恐ろしいほど美しい稲の群れを見た。コクリの花は正しい。稲は金色に熟れていた。アシメックはわくわくした。あの丈の高い稲からは、すばらしくうまい、赤いビーズのような米がたくさんとれるのだ。
「よーし、乗れ!」
アシメックの声を合図に、村人たちはいっせいに舟に乗った。舟に乗るのは女が多かった。男もいたが、女の方が稲刈りの労働にはむいているのだ。男は岸に茣蓙を敷いて待機した。中に五人ほどの男が、岸の一隅に座り、丸太をたたいたり弓の弦を弾いたりしながら、労働歌を歌い始めた。
神のめぐみ、神のたから、神のひかり。
カシワナカは何でもくれる。
稲はうれしい、稲は美しい。
たんと刈れ、たんととれ。
神にほまれを、神をうやまえ。
リズムのいいその歌にのって、稲舟に乗ったものたちは一斉に稲の群れに向かい、その熟れた穂先を刈り始めた。稲舟はすいすいと沼の水面を進んでいく。毎年やっていることだから、やり方はわかっている。穂先に触ると、硬いほど実った米の感触がわかった。みんなの顔が喜びに満ちた。
女たちは勤しんで稲を刈り取った。鉄のナイフはとても便利だった。石包丁だったら四度刈ったところで刃が欠けるが、鉄のナイフはずっと切れ味がよい。手入れをしていけば、永遠に切れ味が変わらないという。
刈った稲の穂先で舟がいっぱいになってくると、女たちはいったん舟を岸に戻した。そして稲を岸で待機していた男たちにわたした。男たちはうれしそうにそれを受け取り、いったん茣蓙の上に広げると、それを次々に、茅袋の中に入れ始めた。男たちの仕事は、その刈り取った稲の穂先を村にもっていって、それを乾燥場に広げることだった。村には広く空けられた稲の乾燥場があり、一面に茣蓙が敷かれていた。稲はしばらくそこで干され、籾をとって、村の稲蔵に保存されるのだ。