世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

2011-11-27 08:47:15 | 月の世の物語

あるところに、青いこんもりとした欅の森があり、神が貝の砂を固めて作ったという、小さな白い図書館を守っていました。それは一見とても小さな建物ですが、その蔵書の数は星の数ほどもあるといい、小さな子供の絵本から、神の生まれた頃の世界の地図帳まで、ありとあらゆる文献をそろえておりました。

「お探しのものはありました?」黒い服を着た女性の司書が、まじないの言葉をつぶやきながら、本を探していた役人に問いかけました。すると役人はかぶりをふり、言いました。「なかなか。何せとても古い時代の言葉なものですから」その役人は、月のお役所で、不思議な古代文字を解読するためにつくられた、特別班の中のひとりでした。役人は、深緑の世界の賢い魚のことやら、それからもらってきた青い水晶のことやら、その中に浮かぶ金の文字のことなどを、司書に説明しました。
「たったの三文字なんですが、これを全部解読すると、百科全書四冊分くらいにはなるらしいんですよ。仕事は始まったばかりですが、今からもう頭が痛い」役人は、書架を見ながら少々長いため息をつきました。

「金の文字の浮かぶ青水晶ですか。なんだかとても美しい感じですね」司書が言うと、役人は「コピーを持ってますから、お見せしましょうか?」といってポケットから一つの小さな白い石を出し、それを指でくるくる回して、ふっと息を吹きかけました。すると石はあっという間に、猫の頭ほどの大きさの青い水晶になりました。
「まあ、お役人さんの魔法は、すごいですね」司書が驚きながら言うと、役人は、「幻ですが、手でさわれますよ。ご覧になってみますか」と言いました。司書は持っていた本を脇にはさみ、役人にすすめられるまま両手で青水晶に触ってみました。確かに、石に触っている感触がしました。少し軽いですが、重さもありました。そして、明かりに透かして見ると、その中には本当に、金色の複雑な文字が三つ、浮かんでいました。

「あら?」と彼女は首をかしげました。「よくわからないけれど、ほら、ここの二本の線を組んであるところ、どこかで見たような感じがするわ」司書が言うと、役人はびっくりしたように彼女を見つめました。司書は青水晶を役人に返すと、「ちょっとお待ちになって」と言いながら、奥の書庫に向かい、やがてそこから一冊の本を持ってきました。「この前から、ときどき背表紙の文字が光るようになって、気になってはいたんですけど」司書は言いました。
司書が持ってきたのは、くすんだ赤い色をしたハードカバーの薄い本でした。本の表紙には、比較的新しい時代の古代文字で題名が書いてあり、鳥と猿と花の模様が印刷してありました。「ごらんになってみます?」役人は、司書に渡された本を手に取り、開いてみました。すると本は強い光を発し、役人の顔を青く照らしました。

「おお」役人は思わず声をあげていました。その本の中の活字のほとんどすべてが、切り取った青水晶の紙をはりつけたように光り、微妙に震えていました。猿や鳥や子供を描いた挿絵がところどころにあり、それも微かに青く染まっていました。役人はしばらく、黙ったまま本を読んでいました。それは一人の子供が、猿と鳥といっしょに、船にのって冒険に出ていくという、子供のための物語でした。

本を読んだ後、コピーの青水晶を見てみると、役人にも、確かにわかるという感じがしました。理由は不明ですが、一つ目の文字の隅の、二本の金色の線の交差が、この物語の中にある何かと合致するのです。「なんだろう、この不思議な感じは」役人は、短い物語を何度も何度も読み返しました。

司書は、「お貸しいたしますから、役所に戻ってみなさんとお考えになっては?」と役人に言いました。すると役人は、はじめて隣に人がいるのに気づいたかのように、「あ、ああ、確かにそうですね。ありがとう」と言いました。

役人が本を借りて帰っていくと、司書は本の整理を始めました。と、彼女は、書架に並んだある本の中から、光る活字の列が、数珠のように連なって出てきて、空中で踊りだすのを見ました。司書はあわてて活字を捕まえ、元の本の中に戻しました。
「なんだか不思議なことが起こりそうね」司書はその本の中の青く光る活字の列を見つめながら、言いました。
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