ヨハン・ケラー
ヘラクレスの最後の試練は、冥界に行ってその門の番犬ケルベロスを連れてくることだった。ケルベロスは頭が三つある獰猛な番犬だ。それを聞いた時さすがのヘラクレスも青くなったが、彼は神に導かれながら冥界に向かった。ステュクスの渡し守カロンを脅しつけ、様々な死者の亡霊と出会いながら、ヘラクレスは冥界を進み、やっとハデスの御殿についた。そこでハデスにケルベロスを貸してくれるようにたのんだ。するとハデスは「武器を使わずに奴に勝てたら貸してもよい」といった。早速ヘラクレスはケルベロスにいどみ、それを腕でしめつけて降参させた。こうしてヘラクレスは最後の試練も乗り超えた。
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勇猛な英雄が最後に戦うものと言えばやはり、死でしょう。歴史上、これと闘おうとした男はかなりいますが、勝てたものはいません。どんな英雄も最後には死の軍門に下り死んでゆく。だがこの神話は、その死すらも従えてしまいそうなほどに、すごい男の姿というものを語っています。いかにも、最盛期の男というものは、死も従えてしまいそうなほど雄々しく見えるのだ。それもまた男というものです。絶対的にそれに逆らえない時期がある。勇猛というものは、盛り上がっていく苦しいエネルギーの最頂点というものを知っている。実にそれがいい。何もかもがいずれは終わることだとは知っているが、それを実にうまく活用できるのが男というものです。