だきしめるには 小さすぎ
てばなすなんて ぜったいできない
(「詩の絵本」マーガレット・ワイズ・ブラウンより)
表題の詩のタイトルは「たからもの」。レナード・ワイスガードの描いた挿絵には、ビンの中に大切に封じ込められた、一匹のほたるが描かれています。
このたった二行のことばに、わたしは生きる人間の幸せと喜びが凝縮されていると思います。
美しく豊かなこの世界に、神様が忍び込ませたそれこそ無数の、金貨のような幸せの一つを、子供は見つけた。なんて美しいほたる! まだ幼い子供はその宝物の扱い方を知らない。一匹のほたるが、神様の胸からどんなに深い愛を運んで来たかまだわかることはできない。ただ目の前の小さな奇跡の火花を見て、自分の中に起こった愛の気持ちに高鳴るままに、どきどき、わくわくしている。
感動が彼の魂を豊かにし、愛のともしびをかきたててゆく。何げないたった一匹の虫が、取るにたらない小さな虫けらが、子供の心に運んできたものは何だったろう。
ひとりの子供に、愛することの幸せを教えるために。野に放たれた一匹の虫が使われたのだ。それは奇跡のような出会い。そしてこの世界には、そんな奇跡の出会いがあふれている。ただ、人がそれを見逃しているだけなのです。
(2006年4月ちこり36号、言霊ノート)