いつか観られなくなる日が来る、と早くから意識して買いあさり録りためた映画のビデオテープを処分しつつある。
捨てて捨てて泣く泣く捨てて、「見知らぬ人でなく」(1955年)の市販ソフト(DVD化されていない)と、テレビから録画した日本語吹替版の「隣の女」の二本だけが残る、というのがひそかに抱いている終わりのイメージだ。
「見知らぬ人でなく」は20歳そこそこの頃、深夜放送で観た。
その時思った、この主人公のキャラクターは僕だ、と。
そんなことは後にも先にもこの一度きりだ。
苦学して医師となり、へき地医療に身を投じた主人公(ロバート・ミッチャム)を魅了する美貌の未亡人がグロリア・グレアム。適役というか、タイプキャストというか。
主人公とは対照的に、都会での金儲けを選択する親友役にフランク・シナトラ。
主人公の先輩医師(チャールズ・ビックフォード):「きみはキャデラックに乗っていると聞いたが?」
シナトラ:「いいえ、キャデラックが僕に乗っているんです。」
このジョークは5年間使わせてもらった。
話が大きくそれた。
グロリア・グレアムの出演作で最も有名なのは、「地上最大のショウ」(1952年)か「素晴らしき哉!人生」(1946年)のどちらかだろう。
嫉妬に狂ったパートナーの象使いに殺されかけるシーンは子供心にもハラハラさせられた。この事件が後半、大惨事を誘発する。
後者では、主人公ジョージ・ベイリー(ジェームズ・スチュアート)をドナ・リードと取り合うおませな女の子。初期の作品だけに笑顔が若々しい。
ここには書かないが、私生活でのスキャンダルでハリウッドを追われた彼女の最晩年を描いた「リヴァプール、最後の恋」(2017年)が作られたのには少し驚いた。
「ガラスの動物園」の開演直前に倒れた彼女の楽屋には(「孤独な場所で」で共演した)ボギーから贈られたコンパクトや「十字砲火」(1947年)の宣材写真がさりげなくちりばめられていて、主演のアネット・ベニングはちょっとな、と思いながらも面白く観ることができた。
「地上最大のショウ」
「素晴らしき哉!人生」のエンディング。(58秒から登場)
「見知らぬ人でなく」の公開当時の予告編。
「なんて汚い真似を、お前はあのオールドミスのスウェーデン人看護師(オリビア・デ・ハビランド)をだまして結婚して、学費を出させる気だな?!」(1分27秒から)