ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。

大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。 また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。

やすけく(再掲)

2022年03月03日 | 珠玉

 東日本大震災に伴う大津波で甚大な被害を蒙りその後解体されたK市の公民館、通称「やすけく」は昨年、跡地近くに再建されている。
そこを会場にして福法組、福祉施設等運営法人組合の役員会が開催されたのだが、いつもは「元カレ」の件で戦闘モードのなごやか理事長がなんとなく元気がない。
それどころか、額にうっすらと汗がにじんでいる。
心配になり、どこか調子でも悪いのですか、と声を掛けると、思いもよらない答えが返ってきた。
僕はこのやすけくで大震災に遭ってね、今日はよほど欠席しようか迷いながらも無理して出てきたのだけれど、やっぱりダメだね、いろいろ考えてしまって。
「帰りましょうか?」
「いいかな?」
「いいと思います。」
軽自動車の後部座席にひっそりと収まった理事長はしきりにハンカチで汗をぬぐっていた。
「ここから、海に近かったグループホームシグナレスへ向かった。
途中で、利用者様を乗せて逃げてきたシグナレスや、やまねこデイサービスの車列に会った。車を降り、避難経路や手順などの指示を出したあと、徒歩でホームのある場所へと向かったのだけれど、雪が降り出し、一緒についてきてくれた上級職員の髪にどんどん積り出した。
それを見て思った、ああ、自分はなんて無力なのだ。
寒さに震えながら一心に歩き続けるこの女性一人すら守れない。
いったい、今の今まで何をしてきたのか。
その場に膝をつき、頭を地面に打ち付けたかった。」
声を詰まらせた理事長の目から大粒の涙がこぼれ、私ももらい泣きしてしまった。

コメント
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