院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

「看護婦」と「看護師」の違い

2015-12-02 14:52:27 | 医療
 私がまだ駆け出しの医者だったころ、看護婦さんにいろんなことを教わりました。だから、年配の看護婦さんは私たちの先生でした。

 当時、看護婦さんは言いました。「最近の先生はやさしい。昔の先生は、ちょっとでも気に入らないことがあるとカルテが飛んできた」と。

 当時から、エックス線技師や臨床検査技師という免許はありました。しかし、彼らには当直がなく、休日夜間には私たち医者が、エックス線を撮り、検査室で白血球の数を数えました。

 疲れ切りました。カルテを投げたいと思ったこともありました。でも、やりませんでした。看護婦と言うな看護師と言えと言いますが、それなら、助産師を女性に限ってはいけないでしょう。「婦」と「師」には現実に即した微妙な違いがあるのです。


※私の俳句(冬)

  冬ぬくし隣の犬が我が庭に

本物の「うつ病」の原因はストレスではない!!

2015-11-19 11:41:12 | 医療

(「うつ病」を経験した歌手のマルシアさん。NHK「今日の健康」より。)

 子どもを亡くした母親が深く落ち込む。これは正常な反応であって、元来「うつ病」とは呼ばない。子どもを亡くしてにこにこしている母親のほうが、むしろ異常である。

 一方、特段のストレスがないのに、自殺願望が起こるほどに落ち込む場合がある。これが本物の「うつ病」である。

 ストレスに対する正常反応としての落ち込みと、「うつ病」による落ち込みをマスコミを中心として、世間は混同している。

 これは、DSM(アメリカの精神疾患の診断分類マニュアル)の弊害である。DSMの診断基準では、子どもを亡くした母親も「うつ病」ということになってしまうからだ。(ズル賢いことにDSMは死別反応を別扱いにして、「うつ病」に入れないようにと但し書きに書いてあるが・・。)

(DSMの基本姿勢は、現在の病状だけを見てものを言うべきだ。過去のことは考慮に入れないという潔いものだった。それがPTSDを初め、過去を問うようになったのは、大いなる自己矛盾と言えよう。)

 上のNHKの番組でも、DSMの診断基準が紹介されていた。マルシアさんは本物の「うつ病」だったと私は思うのだが、DSMの診断基準を「その通りだった」と肯定している。

 こういうところから、「うつ病」に関する誤った理解が世の中に蔓延するのだ。

※私の俳句(冬)

   かなたまで土蔵造りの雪の屋根

被害妄想の患者さんをカモにする業者

2015-09-22 05:32:14 | 医療
   (日本評論社刊。)

 被害妄想がある患者さんが悪徳リフォーム業者のカモになっていると、上の本で知って驚いた。

 悪徳業者は個別セールスをして、「電磁波で責められている」「盗聴器を仕掛けられている」と訴える患者さんに、「電磁波にシールドを掛けましょう」「盗聴できないように改築しましょう」ともちかけて、法外な値段を取るのだという。

 家じゅうにアルミ箔を張ったり、「盗聴器」捜しの道具を見せたりして100万円、200万円を支払わせるのだ。

 これらを暴露したの良心的な探偵である。悪徳探偵は被害妄想の依頼者と一緒に「盗聴器」を捜したりして大枚を取るらしい。逆にそういうカモがいないと、探偵稼業は食べていけないそうだ。

 何10年も精神科医をやっていて、そんなことも知らなかったことが恥ずかしい。


※今日、気にとまった短歌

  問ひたげな顔で寄り来る野良猫が皮手袋の匂ひを嗅げり (藤枝市)小野田奈緒

冊子『中井久夫の臨床作法』が出ました

2015-09-09 16:41:51 | 医療
  (日本評論社刊。)

 宣伝です。9月9日、上の冊子が発行されました。

 私も寄稿しています。

 意外だったのは、児童精神科医の小倉清先生、筑波大の斎藤環教授、ノンフィクションライターの最相葉月さんも寄稿されていることでした。このかたがたが中井ファンだとは知らなかったからです。

 ¥1,800+税です。

「更年期」は病名ではない!

2015-09-08 00:11:08 | 医療
  (主婦の友社刊。)

 「更年期」とは人生の一時期を指す言葉で、「思春期」と同じく病名ではない。

 病名なら「更年期障害」とはっきり言うべきで、成書の表現は「更年期」とは病名だと読者が勘違いしても仕方がないような言い回しをしている。(上の例は、善意でもこういう表題を付けてしまうことがあるという一例で、この本だけがいけないという意味ではない。実例はもっと沢山ある。テレビなども同じである。)

 病気としての「更年期障害」は更年期の女性の2,3割に見られるとされているが、「そもそも更年期障害は存在しない」という説もある。

 最近、「うつ病」と言うべきところを、専門家でさえたんに「うつ」(正常な心性の一様態)と言ってしまうために、一般の人が「うつ病」と(正常反応としての)「うつ」を混同してしまって混乱を引き起こしていることは、2015-05-30 の記事で述べた。


※今日、気にとまった短歌

  機械とかに強そうな人とそうじゃない人がならんで綱引きをする (仙台市)工藤吉生

ほんとに熱中症?

2015-07-14 06:04:18 | 医療

兵庫の病院の健康ひろばより引用。)

 一昨日の日本列島は異常に暑く、熱中症で死者が2人出たと報道された。一人は北海道で、83歳の女性が路上で亡くなっていた。もう一人は埼玉県の94歳の女性で部屋で亡くなっているところを発見された。(昨日も4名の「熱中症死」がニュースで言われた。)

 死亡診断書死体検案書はだれが書いたのだろうか?たぶん、ちゃんとした病理解剖や司法解剖を行っていないだろう。ならば、なぜ熱中症と分かったのだろうか?

 80歳90歳の人の急死はありふれたことで、ポックリ逝けてよかったねという人もいるくらいだ。ふつうは心筋梗塞や脳卒中が多い。冬だったら熱中症とは診断されなかっただろう。

 その日が猛暑だったという理由だけで熱中症として片づけられたようだが、暑い日でも心筋梗塞や脳卒中は起こるのである。

 何が言いたいかというと、ほんとうかどうか分からない「死因」を大々的に発表して、国民の不安をあおるな!ということだ。


※今日、気にとまった短歌

  はなやかな開店の記憶まだ残るラーメン店の忽と消えたり (鹿児島市)柿本順子


虫歯と歯磨きに関するWHOの見解

2015-06-06 06:33:31 | 医療

(WHOの総会。日本財団のHPより引用。)

 WHOは、虫歯は砂糖の摂取量とは明らかに相関があるが、歯磨きが虫歯を予防するというエビデンス(科学的な証拠)はないという見解をとっている。

 それでは歯磨きを代表とする「口腔内清掃」が必要ないかと言えばそうではなく、老人の口腔内の雑菌などは誤嚥性肺炎の原因となるから、やはり「口腔内清掃」は必要である。

 虫歯が先進国で急に増えたのは中世で、サトウキビからの砂糖が普及してからだそうだ。さらに産業革命後、砂糖が容易に手に入るようになってから虫歯が飛躍的に増加したという。


※今日、気にとまった短歌

  目覚むればわれに背を向け下着きる妻ほの白し寝屋の片隅 (埼玉県)椙田隆

歯磨きの有効性

2015-06-05 05:23:39 | 医療

土浦市立都和南小学校のHPより引用。)

 2013-03-07 の記事で歯磨きの有効性を疑った。

 だが、この20年ほどで中高生の虫歯が20%ほど減ったらしい。やはり歯磨きは効果があるのだろうか?上の写真のように歯磨きの奨励は幼いころから行われている。(私が幼い時にもそうだったが・・。)

 歯の健康優良児というのがあって、そういう子には虫歯菌がいないと分かった。その子たちが特段熱心に歯磨きをしていたわけではなかったのだ。

 いまのお母さんたちは子どもの歯磨きに熱心である。そのせいで中高生の虫歯が減ったのだろうか?もしお母さんが虫歯菌がいない子の歯磨きを熱心にしているとしたら、いくぶん徒労の意味がある。

 歯磨きより虫歯菌の撲滅が先決だ。一時、虫歯菌のワクチンがとりざたされたが、うやむやになった。

 虫歯菌がいない人は老齢になっても虫歯がない。しかし、歯槽膿漏などはにはなる。


※今日、気にとまった短歌

  ゴールデンウイークの始まり部下の居ぬ職場に昼飲むコーヒーの味 (八王子市)高橋悠

「うつ」と「うつ病」の混同

2015-05-30 06:10:40 | 医療
(朝日新聞社刊。)

 「うつ病」とたんなる「うつ」は別物である。「うつ」は健康人の沈んだ心の状態を指す言葉で、病気ではない。試験に落ちたとき、失恋したときなど、「うつ」状態になるが、これは正常反応としての心の状態である。

 巷では両者が混同されている。「うつ」と言えば「うつ病」を示すようなイメージがあるが、まったく誤りである。両者の区別が理解されないから、日経のような大新聞でさえ「職場の”うつ”に備える」というような見出しを打ってしまう。


※今日、気にとまった短歌

  満面の笑顔に会えば鎮めたる疑念はまたも浮上するなり (大分市)今井紀一

学校保健に思う

2015-05-24 02:34:31 | 医療

栃木県医師会のHPより引用。)

 私が小学生のころ、国を挙げて寄生虫撲滅をやっていた。学校で検便をやり、寄生虫卵が見つかると虫下し(サントニンといった)が学校から与えられた。

 生徒は大便をマッチ箱などに入れて担任に提出した。その日は教室中に便臭がただよった。私は男だったが、それでも大便を提出するのには抵抗があった。女子はもっとだっただろう。

 学校では体格の計測が定期的にあった。それは男女一緒に行われた。小学5年生くらいになると、もう胸が出てきている女子もいた。上のイラストでは、体重測定をしている子は服を着ている。私たちのころはパンツ一枚になったように記憶する。

 学校での検便はまだやっているのだろうか?私の子どもたちのときには、すでになかったように思うが・・。(学校で私たちのころのような仕方で大便を集めたら、たぶん親から抗議があるだろう。)


※今日、気にとまった短歌

  老親の誕生祝いがいつしかに家族会議へ変わりておりぬ (横浜市)おのめぐみ

聖マリアンナ医科大学の精神保健指定医不正問題

2015-04-23 07:18:06 | 医療

(転載不可!)

 上の写真は私の「精神保健指定医の証」です。私は顔も名前もばればれですが、ブログに載せるときには隠させてください。

 このたび聖マリアンナ医科大学で、精神保健指定医をとるために不正が行われました。手続きは症例報告の提出だけですから、簡単に厚労省を騙せます。簡単だからこそ、やってはいけないことなんです。性善説に水を差すことになります。

 熟練した印刷工によると、ニセ札は造ろうと思えばいつでも造れるのだといいます。でも、熟練工にはそれをやっちゃおしまいよ、という気概があるので造らないのだそうです。熟練工は造幣局の技術者なぞに負けるはずがないという自信をもっています。

 聖マリアンナ医科大学の一部の精神科医たちは「それをやっちゃおしまいよ」ということをやってしまいました。熟練した印刷工のような気概がなく、残念なことです。


※今日、気にとまった短歌

  着膨れの減る地下鉄に隣り合ふ大きをとめと小さきわたし (名古屋市)萩迫綾子

いちめんのなのはな

2015-03-30 06:10:55 | 医療

(渥美半島の菜の花。筆者撮影。)

 「いちめんのなのはな」というフレーズをえんえんと繰り返す山村暮鳥の詩があります。この詩を私は好みません。いくら同じフレーズを繰り返しても写真のような「一面の菜の花」が連想されないからです。与謝蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」の俳句のほうが17文字でよほど菜の花畑を思い浮かべることができます。

 先日の土日に、渥美半島をドライブしました。すごい菜の花畑が続いていました。途中、同行者が気分が悪くなったので、救急要請をしました。(いくら近くに医者がいても心電計もレントゲンもなければ、どうしようもないのです。とくに今回は心血管系の病が疑われたので・・。)


(そのときの救急車内。筆者撮影。)

 結果は、とくに悪いところはないとのことでした。担当の若い救急医はきびきびと説明をしてくれ、遺漏がありませんでした。さすが、この地方の一流病院、渥美病院だと感心したことでした。


(渥美病院前景。筆者撮影。)


※今日、気にとまった短歌

  降る雨が風花になるところまで登りゆきたし冬の坂道 (藤枝市)小野田奈緒

アルコール問題に行政はどこまで関与するべきか?

2015-02-05 05:58:37 | 医療
 もう定年退職されましたが、30年ほど前にある行政マンと知り合いました。彼はアルコール依存症の問題に熱心に取り組んでいました。

 断酒会の開催に協力して、休日も返上することがありました。断酒会のメンバーには、酔うと家族に暴力を振るって、あとでそれを覚えていない人が多かったです。

 そういう人とは別に、アルコール依存症者には暴力などの問題を起こさず、ただ静かに呑んで体を壊していく人もいます。上の行政マンが世話をする断酒会にはそのような人がいませんでした。

 そのことを彼に訊ねますと、「迷惑をかけられている家族や周囲のために僕は援助をしているのです。迷惑をかけないアルコール依存症者は放っておきます」とのことでした。

 本人が体を壊すかどうかよりも、まず家族や周囲を暴力から守ることが重要だとの彼の立場でした。私はそこに行政マンらしい優先順位付けを見て、その合理性に感心したのでした。(医療の側からは、暴力を振るっても振るわなくても同じアルコール依存症だと見てしまいがちなのです。)


※今日、気にとまった短歌

  覗きみてからあげだーと声張りて十四歳は塾に行きたり (福岡市)市川登美榮

続・医者と経験年数(使えない研修医)

2015-01-16 07:00:59 | 医療

(テレビドラマ「ドクターX」の米倉涼子さん。テレビ朝日のHPより引用。)

 医者に経験が重要なことは当然ですが、経験年数だけでは多くを語れないと感じています。もしかすると医者の能力には経験年数より資質のほうが寄与度が大きいかもしれません。

 むかしは「使えない研修医」というのはごく稀にしかいませんでしたが、最近では10人に1人くらいいると大病院勤務の友人が言っています。「使えない研修医」は何年たっても使えるようになりません。

 ただし、「使えない研修医」でさえ、インターネットで病気について調べてきた素人さんよりはマシです。「使えない」のは知識ではなくて、機転とか対人スキルの問題だからです。


※今日、気にとまった短歌

  新人の吾子を守れよ真白なる形態安定加工のワイシャツ (東京都)荒川ゆみ子

医者と経験年数

2015-01-15 06:21:08 | 医療
   (飢餓陣営せれくしょん。)

 尊敬するW院長(故人)が卒後3年目のころに、自分の患者さんについて精神鑑定をして裁判所に呼ばれたことがあるそうです。鑑定結果は統合失調症。

 相手側の鑑定人は当時の犯罪心理学の権威T教授だったそうです。その鑑定結果は詐病(仮病)で、裁判所で決着をつけることになりました。

 相手側の弁護士は若き院長に「あなたは医者になって何年目ですか?」とわざと尋ねました。院長はありのままに答えました。

 裁判の結果は、患者は詐病で有罪となったそうです。この事実を院長は、人生でもっとも悔しかった経験として私に語りました。(10年後くらいに、やはり統合失調症だったことが明らかになりました。)

 私は医者(なかんづく精神科医)は3年目くらいが一番冴えていると考えています。とくに精神療法は3年目くらいが一番うまい。体力精神力もあり、全身全霊で患者さんにぶつかっていけるからでしょう。


※今日、気にとまった短歌

  「山の美しさに感動して詠める」
  ひいらぎの かほりやまめて せせらぎる どぜうてふてふ くましかりこす 山下洋輔