院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

宇宙を認識するのは個人である

2017-12-31 01:30:08 | 心理

(ミツバチの巣。市立札幌大通高校のHPより引用。)

 ミツバチのような社会性昆虫は巣全体として見て、一個の個体のようにも見える。ハタラキバチ一匹一匹に個性はないが、ハタラキバチ同士は通信ができる。

 人間も同じである。それはすでにユングが指摘している。人間という種全体がもっている無意識的な考えを「集合無意識」と名づけた。

 ユング式に考えるなら個人は個性を持たない。だからこそ互いに通じ合うことができる。人間全体として一個の生物のようである。

 また人間をミクロコスモス(小宇宙)と呼ぶことがある。人間内部を考えるなら、そこには代謝系、酵素系、免疫系などきわめて複雑な過程が存在する。

 つまり人間は個人と宇宙の境界がない。別の言い方をするなら、個人がなくなれば宇宙もなくなる。なぜなら、宇宙を認識しているのは個人に他ならないから。

 今年8月まで入院生活をおくり、生死のことを考えることが多い一年だった。「俺が死んだら宇宙もなくなるんだな」と考えながら過ごした。来年はもっと明るいことを考えたい。

 ※今日の短歌
   告知され時間もないが未練もない浮かれた蝉はひっくり返る
   松田憲一郎(東京都町田市)

世評は移ろう

2017-11-14 06:40:37 | 心理

(四日市のコンビナート。Printest工場より引用。)

 私は中学生のとき写真に凝って、中学では写真部にはいっていた。朝から晩まで暗室にこもって現像や焼き付けをしていた。

 当時「アサヒカメラ」という趣味の雑誌があって購読していた。素人の応募写真をランク付けするコーナーがあり、あるとき四日市のコンビナートの写真が一等賞になった。講評には「コンビナートの勇壮さが感じられる」とあった。

 四日市のコンビナートが突然、批判され始めたのは、それからわずかに2か月後だった。私はそのとき初めて世評の移ろいやすさを知った。

 いま北朝鮮が批判の的になっていけれども、これだってどうなるかわかりゃしない。将来、北朝鮮は孤軍奮闘でアメリカや日本と対峙したと、好意的に評価されるときが来るかもしれない。

 ※今日の短歌
   氷塊はくろぐろとして眠りをり夜寒のわれに酒を注がしむ
   田上運棹(兵庫県)


高級腕時計に人気があるのはなぜか?

2017-10-07 02:18:14 | 心理

(パテックの多機能時計。ウィキペディアより引用。)

 時計はまずもって正確でなければならない。私の腕時計は安物で数万円だが、もう10年近く1秒も狂っていない。クオーツの電波時計だからだ。ソーラーなので電池も要らず世話なしである。

 ところが未だに高級腕時計に人気がある。それらは機械式だから私の時計より正確ではない。なのに何百万円もする。それを買う人がいる。なぜだろうか?

 見栄と言ってはそれまでだが、何百万円の腕時計をはめると、ほかの服装や車なども高価になる。そこまでする動機が私には分からない。

 ※私の俳句(秋)
    柿食うて今日の命を味わひし

カウンセリングは魔法の技にあらず!(パリ同時多発テロ被害者に対して)

2015-11-20 21:45:16 | 心理
 今回のパリ同時多発テロに当たって、精神科医のジャンピエール・ブッシュ氏が、テロ被害者の「心のケア」に当たっているらしい。

 ブッシュ氏は「国境なき人道家」という組織の人らしく、他の精神科医とすでに被害者120人にカウンセリングを行ったという。氏は被害者のレストラン・オーナーの家に泊まり込み、一人で30人の「心のケア」を行っているという。(本日付、毎日新聞愛知県版。)

 ここで氏が言っているカウンセリングとは何のことだろうか?「泊まり込んで30人のケア」というと救急救命を思い出すが、そこで止血や手術や薬物投与をしているわけではない。

 こうして、なんとなくカウンセリングが「魔法の技」のように思われていくことに疑念を覚える。

 氏は5%の人は治らない、時間がかかる人は4年はかかると述べているけれども、意味が分からない。というのは、カウンセラーがかかわらなくても、ストレス障害の治癒はその程度で、治癒には「時間薬」が一番効くからである。

 カウンセリングは過大評価されている。カウンセラーの門を叩いてがっかりした人は多いのではないか?

(被害者に重要なのは、プロによるカウンセリングではなく、多くの人が「あなたのことは忘れないよ」とメッセージを送り続けることだ。)


※私の俳句(冬)

  屋根に雪乗せて帰港の巡視艇

老婆と幼な子

2015-10-05 01:32:32 | 心理

(楽しい夕食。中野区社会福祉協議会のHPより引用。)

 私の母(87歳)はグループホームにいる。昨日、息子(38歳)が私の母(つまり息子にとっての祖母)を訪ねた。私の孫(4歳男児)を連れて行った。母にとってはひ孫である。

 母が喜んだのはもちろんだが、ほかのお婆さんたちに4歳の子は大人気だったそうだ。幼な子を愛する気持ちは、基本的な感情のようである。


※私の俳句

  サルビアが続く海岸通りかな

床屋のジョーク

2015-08-02 04:22:42 | 心理

(セビリアの理髪師。CLASSICTIC より引用。)

村に床屋が2人しかいませんでした。1人は頭がボサボサで、もう1人はさっぱりと整っていました。あなたなら、どちらの床屋に刈ってもらいますか?

 整ったほうに刈ってもらいたいと思うかもしれませんが、村に床屋は2人しかいませんから、互いに頭を刈りあっていたはずです。ということは、整った頭はボサボサの床屋が刈ったのです。(^-^)

※今日、気にとまった短歌

  シテが舞ふ花弁が舞ふ篝火のかそけき揺れに小面が泣く (埼玉県)野村久雄

超危険業務に必要な報酬は「敬意」!

2015-07-18 05:58:57 | 心理

(サマワでの自衛隊車両。asahi.com より引用。)

 毛利衞さん以来、ものすごい危険業務である宇宙飛行から帰還して、精神的な危機に見舞われた人は一人もいない。彼らには国民の尊敬と歓呼があったからだ。かりに無名の人が宇宙飛行を命ぜられ、若田光一さんのように立てないほどの筋肉萎縮を起こして帰還し、それを誰にも知られず歓迎もされず、「はいご苦労さん、本給プラス危険手当1日2万4千円ね」と渡されてチャラにされたら、その人の精神状態はどうなるか分からない。

 イラクのサマワにPKOとして派遣された自衛隊員たちの精神状態を追った、元自衛隊中央病院精神科部長・福間詳氏のインタビュー記事が朝日新聞にあった(2015-07-17 付)。 氏は正しくも、自衛隊員の精神状態は国民のコンセンサスに左右される、社会の理解が不可欠だと指摘している。

 ベトナム戦争当時、アメリカ兵がベトナムで熾烈な戦いをやっているあいだに国内世論が反戦へと傾き、ベトナム帰還兵は歓迎されなかったばかりか人殺し扱いを受けたことで、少なからざる兵士が精神的に廃人のようになってしまった。国を背負って戦地に派遣された者には、お金ではなく熱烈な敬意が必要なのである。

(ところで、冒頭の2万4千円とはサマワに派遣された自衛隊員の危険手当の額である。)


※今日、気にとまった短歌

  お風呂だけ楽しみなのと言う母の足に老医は包帯巻かず (埼玉県)いのまさし

人を憐れむ心

2015-07-09 06:59:32 | 心理

(中国の乞食。4travels より引用。)

 他人を本当にかわいそうだと思ったことがある。小学校2年生のことだ。父親に連れられて江の島の坂を登っていたら、途中に男の老人の乞食がいた。痩せて目が赤くなっている。

 無視して通り過ぎようとする父親を引っ張って「かわいそうじゃない!」と無理に施しをさせた。父親は「情け深い子だね」と褒めてくれた。


※今日、気にとまった短歌

  さくら道突如足音迫りきておいこしてゆく野球部の背中 (兵庫県)田村繁子

認知バイアス

2015-07-02 06:09:19 | 心理

(昭和14年12月8日の東京日日新聞。しがけんバーチャル平和祈念館より引用。)

 金儲けでも出世でもよいが、ある人が事業で成功した原因を、本人は「自分の実力だ」と考え、他人は「運だ」と見る傾向がある。このように「原因」の評価に違いが生じるときには、どちらにも「認知バイアス」(先入観)がかかっていると考えられる。(「認知バイアス」とは平たく言えば「手前勝手」、「ご都合主義」、「ひいき目」、「独善」などで、本人はそれを意識しない。)

 「認知バイアス」は社会心理学の用語で下位分類があるが、話がまぎれるので省く。戦争の評価などは認知バイアスのかたまりで、交戦が始まると必ず双方が「相手が先に仕掛けた」というが、これは見え透いた嘘とも言い切れず、認知バイアスがかかっていることを知っておかれたい。

 ISに対する意識にも、欧米側とイスラム圏に違った認知バイアスがかかっていることだろう。学術論文がデータを重んじ強迫的なまでに他の文献に当たるのは、認知バイアスを防ぎたいという意味を含んでいる。(それでも学術論文にさえ認知バイアスはかかってしまうのだが。)


※今日、気にとまった短歌

  五枚中伴侶残るは二枚だけきょうだい五人の結婚写真 (千葉県)毘舎利愛子

「努力」と「成績」の関係

2015-05-19 05:28:02 | 心理

(予備校教師・林修さん。リクナビNEXTより引用。)

 大学教養部の心理学の授業で、「努力をするから成績がよい」は誤りで、「成績がよいから努力をする」が真相だと教わって、目から鱗が落ちた。「動機づけ」の講義のときだったと思う。

 考えればすぐにわかるように、いくら努力しても成績が上がらなければイヤになってしまうだろう。反対に、努力した分だけ成績が上がれば努力も楽しくなるかもしれない。

 ここで出てくるのは、残念ながら「素質」という言葉である。同じ努力をしても、成績が上がる学生と上がらない学生が出てくるのは「素質」の違いという他はないのではないか?


※今日、気にとまった短歌

  手洗いの蛇口はどれも空を向く小学校の夏真っ盛り (広島県)岩本幸久

ブラックバイトが成立する理由

2015-05-14 06:40:18 | 心理
   (○之内出版刊。)

 「いま辞めるなら罰金だ」といういうようなバイト学生の引き留め方は暴力的で、むかしの「タコ部屋」と同じである。ブラックバイトになぜ学生がからめとられるのか、いまどき雇用者のは強圧的な態度だけからでは説明ができない。

 学生側の要因を指摘する考え方もある。「まじめな学生ほど仕事に穴をあけたくなくて、無理なシフトを引き受けてしまう」、(社会経験が足りないから)「ひどい待遇でも、そういうものだと思ってしまう」といった意見である。

 しかし、これまでのブラックバイトに関する考察で抜けていることがある。それは、学生が「この仕事もなかなかいいじゃないか」と感じてしまうことである。これは社会経験の少なさではなく、人間にはそういう傾向がもともとあるのだ。

 アメリカの社会心理学者フェスティンガーは次のような実験を行った。

(1)対象者をA、B、C群にわけて、つまらない作業をやらせる。
(2)作業後、A群には20ドルの報酬を与えた。B群には1ドルの報酬、C群にはゼロ。

 各群に作業の楽しさを訊いた。その結果、「楽しかった」、「またやりたい」と答えた者が有意に多かったのは1ドルしかもらえなかったB群だった。

 報酬が不満足だと、人間には自分がやった仕事を無意識に「楽しかった。またやりたい」とかえってボジティブに位置づける傾向があることを、この実験は示している。自分がやった仕事が「つまらないことだった」とは考えたくない心性を人間はもっているのだ。

 ブラックバイト学生に限らず、多くの勤労者がこの心性を働かせながら仕事をしているのだと思われる。


※今日、気にとまった短歌

  食という普遍しずかに介護所の食事マナーに認知差の無く (杉並区)本間木丈

庭とは何か?

2015-05-12 06:51:04 | 心理

(庭付き一戸建て住宅。gracelande のHPより引用。)

 庭には2種類があって、ひとつは農家が作業をする場所、もうひとつは大名などが権威の象徴として見せる庭です。

 げんさい、どこの都市も中心部にはマンションばかりが建っていて、庭付き住宅がありません。そのため、庶民の庭付き一戸建て願望には根強いものがあります。

 マンションには広い公園が付いているものもあります。しかし、それが庭の代わりにはなっていないようです。つまり、マンションの公園は自分だけのものであるという 2013-03-06 に述べた「自己所属性」がないからです。

 ですから、庶民が求めている庭は、農家の作業場としての庭ではなく、大名が権威を誇示する庭のほうだと思われます。


※今日、気にとまった短歌

  庭先のコンクリートに今もある行方不明のミケの足跡 (茨城県)菊池うらら

人類はみな性倒錯(栗本慎一郎説)

2015-03-23 05:00:08 | 心理
  (栗本慎一郎著、カッパブックス。)

 30年前、私は上の本によって思考方法を大きく変えられ、目から鱗が落ちました。カッパブックスでしたが私には大部の思想書のように思えました。
 

 内容を極端に大ざっぱに言ってしまうと「人間はパンツをはいた時点で、みな性倒錯だ」というのが私なりの理解でした。そう考えると、たとえば他人に見られながらのSEXが好きな人、制服でのSEXが好きな人、普通のSEXが好きな人がぜんぶ等質になります。

 さらに、サドマゾや幼児愛、老人愛、死体愛までもが別の性的な嗜好と大差がなくなってしまいます。(被害者がいるかどうかを別問題とすればの話ですが・・。)

 「LGTB」とはレズビアン、ゲイ、トランスジェンダー、バイセクシュアルの頭文字で、それらの人を差別してはいけないという方向に世は動いています。

 はっきり証明されたわけではありませんが最近有名な「性同一性障害」はどうも先天的な状態なのではないかと考えられています。この厳しい世の中、性同一性障害の人は過酷な世渡りを強いられてきました。これはれっきとした「疾患」で、とても気の毒です。

 ひるがえって「LGTB」は「疾患」なのでしょうか?そうではなくて、「好み」とか「嗜好」の部類に入るのではないでしょうか?ここを混同してはならないでしょう。

 先進国では同性婚が認められつつあります。栗本慎一郎氏の「人類オール性倒錯」の観点からは、それも当然の成り行きでしょう。

 人類にとってSEXはイコール子造りでは、もはやありません。いくぶん珍しいSEXでも好きなようにやってくださればよろしい。ところが、ここで変なカップルが出てきたのです。それは、女性の同性婚のカップルですが、(他の男性の人工授精による)子どもが欲しいと言い出したのです。

 SEXの自由と子造りを混同しているのではありませんか?人類にとってSEXと子造りはぜんぜん別物です。同性婚でSEXを享受するのはよいでしょう。しかし、最先端医療によって子どもをもうけるというのは、いかがなものでしょうか?なにか勘違いしているのではありませんか?みなさまは、どう思われますか?

(昨日から、このブログのテンプレートやサイズが急に変わりました。これは私がしたことではなく、たぶんブログ会社が勝手にやったことで連絡もありませんでした。しかし、すぐに直せないので、このまましばらく様子を見ます。)


※今日、気にとまった短歌

  夏休みに綿を育てる子は気儘いまだ「農奴」といふを知らずに (富山県)仲井真理子

「予見の自己成就」

2015-03-12 05:38:33 | 心理

(耐久レーサー志望の女性ドライバー。athlete yell のHPより引用。)

 「1ヒメ2トラ3ダンプ」とは恐い運転をする順番です。1960年台に日本のモータリゼーションが始まったころ言われたことは、すでに書きました。(2013-07-26)

 前回の記事では女性は、無意識だが「わざと」下手に運転していたという表現を用いました。ところがすでに、アメリカの社会学者ロバート・K・マートンが「予見の自己成就」というスマートな用語を使用していることを最近知りました。

 周囲の者たちの「予見」(こうあって欲しいという気持ち)を本人が先取りして、そのように行動してしまうことをいいます。

 モータリゼーションが始まったころ、男性たちは女性には運転が下手であってほしい(下手に決まっている)と思ったから、女性はその気持ちを汲んで(無意識に)下手に運転していたということですね。

(マートンは少しかじったことがあるのですが、気が付きませんでした。)


※今日、気にとまった短歌

  ぷよぷよのように連鎖をして消えろ展望台を埋めるカップル (仙台市)工藤吉生

「広場恐怖症」とは何でしょうか?

2015-03-06 05:04:03 | 心理

(テッサロキニの古代アゴラの通廊。ウィキペディア「アゴラ」より引用。)

 アゴラとは古代ギリシャのポリスにある広場で、人々が行きかったり交流したりする場所でした。

 そういう場所がイヤだという病態を「アゴラ恐怖症」、訳して「広場恐怖症」と言います。そのような人たちは、だだっぴろい場所がイヤなのではなく、広場には人がたくさんいるからイヤなのです。

 この病態の人たちは、急病など何らかの理由で倒れるのではないかという不安をいつもかかえています。もし、人ごみで倒れたらたちまち人垣ができるだろうと想像し、この人たちは堪らない気分になります。

 「広場恐怖症」の人たちが一番嫌いなのは広場よりも混んだバスや電車です。ただでさえ狭い空間ですから、倒れたりしたら大騒ぎになるに決まっています。だから、このような人たちはバス電車に乗りたがりません。(通勤通学はどうするのかというと、徒歩や自転車やバイクで行います。この人たちは「人前で見苦しい姿を見せたくない」という矜持をおもちですから、好感がもてます。)

 ここで、前々回に述べた「降りられない恐怖症」と「閉所恐怖症」を思い出されませんか?じつは「広場恐怖症」はこれらと類似の病態なのです。でも、いずれも神経症レベルで、重症な疾患とは言えません。


※今日、気にとまった短歌

  ドライブで君と聴いてたユーミンのカセットが棚に三十年ある (藤沢市)水上昌子