堀川正美詩集「太平洋」
http://blogs.yahoo.co.jp/fifthjulyroad/8938076.html←からです!
今回紹介する堀川正美(1931-・東京生れ)の第一詩集「太平洋」1964からの一篇は戦後現代詩屈指の傑作として揺るぎない評価を得ているが、現代詩に興味のない人はさっぱり知らないのがこの詩人でもある。ミュージシャンズ・ミュージシャンという言葉が音楽の世界にはあるが、詩人仲間や後進詩人から圧倒的に尊敬され、一目おかれている存在。この人も寡作で、第二詩集「枯れる瑠璃玉」1970、第三詩集(全詩集)「堀川正美詩集」1978と詩論集「詩的想像力」1979の後は沈黙を守っている。ハート・クレイン、ディラン・トマスといった英米の夭逝詩人に影響を受けた人だが、事実上詩的夭逝を選んだ人でもある。
『新鮮で苦しみおおい日々』 時代は感受性に運命をもたらす。 むきだしの純粋さがふたつに裂けてゆくとき 腕のながさよりもとおくから運命は 芯を一撃して決意をうながす。けれども 自分をつかいはたせるとき何がのこるだろう? 恐怖と愛はひとつのもの だれがまいにちまいにちそれにむきあえるだろう。 精神と情事ははなればなれになる。 タブロオのなかに青空はひろがり ガス・レンジにおかれた小鍋はぬれてつめたい。 時の締切まぎわでさえ 自分にであえるのはしあわせなやつだ。 さけべ、沈黙せよ。幽霊、おれの幽霊 してきたことの総和がおそいかかるとき おまえもすこしぐらいは出血するか? ちからをふるいおこしてエゴをささえ おとろえてゆくことにあらがい 生きものの感受性をふかめてゆき ぬれしぶく残酷と悲哀をみたすしかない。 だがどんな海へむかっているのか。 きりくちはかがやく、猥褻という言葉のすべすべの斜面で。 円熟する、自分の歳月をガラスのようにくだいて わずかずつ円熟のへりを噛み切ってゆく。 死と冒険がまじりあって噴きこぼれるとき かたくなな出発と帰還の小さな天秤はしずまる。 (前記詩集より) お読みいただいた通り、外国語で書いた詩を日本語訳したような発想と用語、文体が特徴。そこが鼻についたり難解に感じる読者も多いだろう。 |