700万年前、サルからサル・ヒトへと踏み出した最初の一匹がいたはずだ。
彼の勇気・彼の決断によって、人類への遠大な進化がスタートする。
我々は、彼を「サルのキリスト」と呼んでもいいのではなかろうか。
ガリガリに痩せた一匹のサル、彼のこころの内はどんなものであったのか。
魁偉な容貌の二つの瞳の、なんと澄み切っていることか、なんと美しいことか、それは700万年の彼方を見つめていた。
一匹のサルが草原を見つめている、小さな痩せたサルで、このグループの誰よりも低い位置にいた。
アタマの悪いボスザルは陰気な若いサルが気に入らず、コトある毎に制裁を加えていた、だから、彼の体はキズだらけで、いつも血が滲んでいた。
群れのオンナ・サルも彼に関心がなく、これっぽっちの敬意も表さなかった。
草原から風が吹いてきた、密林の木の葉がササと揺れる、若者のこころが波立つ、
「この樹を下りれば、新しい世界が開ける」
長い旱魃で、彼らのグループのいる密林は離れ島になっていて、木の実は残り少なく、このままでは、全員が飢え死にしてしまうだろう。