少年時代の一時期を過ごしたあの大寺で、東大の学生がひと夏をすごしたことがある。
夕方には,御前(ごぜん)さまの晩酌の相手をしていた、ある時、
「ここの食事は ひどいからね」
そう言って、雪印の6Pチーズをくれた、その味がしみた、それと、ペンシル型の懐中電灯、これがうらやましかった、それは、夜でも買い物を命じられるからで、玄関までは甲斐イヌの老犬が見送ってくれる、
「おまえは ここまでなんだね」
「ワン」
帰ってくると、またお使い、おもわず、
「お店はとなりなのだから なぜ一度にしてくれないんだ」
すると、
「それもこれも おまえの修行のためなんだよ」
そう言って、一升トックリを引ったくり、
「グビグビグビ」
ひとさしユビでクチビルをおさえ、
「御前さまには ナイショだよ」
そんな大人たちの間で、その若者はさわやかであった、
「その後 どうしたんだろう」