思い切ってドロンしたいなあ。思いきってと言うのは、金策がつかなくとも、ということだ。２～３日分ならなんとかなるだろう。我が家の大蔵大臣に頼んでみるとしよう。「またですか」と言われたらどうしよう。そしたら、引き下がろう。仕方がない。また今日のように畑に出て草取りに従事して、それでよしとしよう。情けないけど。働いていないから定期的に入って来る月給というものがない。しようがない。年金は、人より早めに辞めて早めに受け取りだしたから、わははあ、威張れたものじゃない。あれこれすぐに使い切って、けっこう微々たるものだ。
昼間のサイクリング用自転車を積み込んでおく。夜のハーモニカを鞄に詰めておく。目が覚めて眠られなくなったら？ 読経をしよう、音読で。声高に。じゃ、経典も鞄に詰めて。宿は安いところでいい。行った先でゲストハウスを探そう。ネット検索をすればどうにかなる。食事はコンビニの弁当で済まそう。
行くのは一人だ。自由がきく。というよりか我が儘がきく。というよりか、行き当たりばったりなのだ、僕の行動たるや。定見がない。常識がない。だから、複数で行ったら賛同は得られない。でも、さみしいはさみしい。夜が寂しい。禁酒、禁甘いお菓子をしているからなおさらだろう。これに耐えられるか。甘ちゃんだからなあ、この男。恐い顔をしているくせに案外、だらしないからなあ。耐えられなくなったらすっ飛んで帰ってくればいいだけの話だ。
ともかく、このところ家に籠もりきりだ。いつ息を引き取るかも知れないのだから、そうなる前に活動をしておいた方がいい。いいに決まっている。
やりたいとしていた農作業は一段落した。明朝、思い切ってドロンしたいなあ。温泉地を伝って、島根県、鳥取県、兵庫県まで足をのばしてみたくもある。北へ向かうのは寒さに向かうようなもの。雪に降り込められて身動きが取れなくなるかも知れない。僕の車には雪対策がしてない。器具も持ち合わせない。だったら、南がいいか。九州内だったら、東西南北何処へ行ったっていいかもしれない。
お昼に食べたざる蕎麦がおいしかったなあ。スメ（出汁スープ）が気が利いていた。鰹節の香りがくんとした。蕎麦の分量は半分にした。それで却って希少価値という効き目があったのかも知れぬ。喉を通っていかせたくないくらいだった。味を知るベロ（舌）が、いっしょに胃袋まで付いていきたいとねだったくらいだった。寒い冬の日のひんやりした笊蕎麦というのもいいなあ。やあ、おいしかったなあ。
一億年後に、このわたし（目下修行鍛錬中のわたし）を、わたし（それよりもうんと進化向上を果たしたわたし）が見ることがあったとしても、わたしの今日の姿は讃えられるであろう。その日のわたしは太陽系を離れた別の銀河に魂の王として暮らしていて、そこから過去を生きた懐かしいわたしを覗き見たとしても、わたしの今日の生き方はにっこりを誘うであろう。
城山が、青空の中にふんわり湧いている。これはわたしのフィーリングの山だ。２月２日。晴れ。１１時を過ぎて日射しが強くなった。あたたかい。１億年の一度くらいのたまたまだが、ここをわたしが生きている。いい気持ちをして生きている。不十分不徹底不完全のわたしの位置にいるわたしが、それなりにいい気持ちいい気持ちをしている。
わたしになくても、わたし以外にあればいい。わたし以外をわたしにしてしまえば、そこもわたしになる。大きなわたしになる。わたしの自慢はないけれど、あったってそれは高が知れている。そこに執着していたくない。そこを抜けていたい。もっともっと拡大していたい。宇宙大に膨張していたい。
ああ、いい気持ちだ。特別何にもないけど、嬉しくさせる何かが急に起こったわけでもないけど、見よう見方によって、いい気持ちになれる。冬の日のまぶしい光の中にいる。縮んでいた手足を伸ばす。快感ホルモンのアドレナリンが沸騰してくる。ここがいい。手にしているものは何にもないけど、これでいい。
