もう目が覚めてしまいました。まだ明日を跨いでいません。6時の朝湯までにはたっぷりあります。どうしたらいいのでしょう。何をしたらいいのでしょう。途端に備え付けの寂しさの井戸がこんこんと音を立てて溢れて来ます。聞こえていた隣の部屋の老夫婦のお喋りももう途絶えています。一人旅はここを辛抱しなければなりません。朝方まで随分あります。眠くなるまで取り敢えず本を読むことにします。人にはいるのに、さぶろうには女の人がいません。いつもいません。是は何故なのでしょう。それはたぶんさぶろうが極端に我が儘者だからです。協調性がまるでないからです。どんな情けも撥ね除けてしまうのです。こんな男だから孤立は不可避です。
寒いなあ。布団からはみ出ている脚が寒いなあ。自分からはみ出させておいてこうです。昼間はあんなに暑かったのに、夜になると冷え込んで来て寒いなあ。宿にはこころの布団というものはないのか。