寒風吹きすさぶ。それでも畑に出た。ほうれん草の畑の草取りをした。やったところは、きれいになった。またすぐに生えて来るが。
ジャンパーの上にジャンパーを重ねている。首にはタオルを巻き付けている。頭は冬の厚手の帽子。それでも寒い。鼻水が垂れる。
耐えきれなくなって戻って来た。もうすぐお昼だ。日射しはある。明るい。巻かない白菜の黄緑色の葉っぱが、日に透けて見える。
寒風吹きすさぶ。それでも畑に出た。ほうれん草の畑の草取りをした。やったところは、きれいになった。またすぐに生えて来るが。
ジャンパーの上にジャンパーを重ねている。首にはタオルを巻き付けている。頭は冬の厚手の帽子。それでも寒い。鼻水が垂れる。
耐えきれなくなって戻って来た。もうすぐお昼だ。日射しはある。明るい。巻かない白菜の黄緑色の葉っぱが、日に透けて見える。
その男は、一生、低い位置に位置づけられて過ごした。無力だったからだ。
畢竟、高い位置に聳えている人たちの威張り声を聞くばかりだった。
無力を恥じたが、恥じても無力が覆ることはなかった。
男は怠け者であるので、高い位置に這い上がる努力もなさなかった。勉強も嫌いだった。挑戦する意欲も萎えていた。
だから当然と言えば当然だったのだ。自己否定が自己肯定を圧倒した。重たい否定に、次々蹂躙されて、呻いた。夢の中でも呻いた。
そういう日陰にいた。日は誰にでも平等に明るく当たっているのに、己を暗くして、日陰を覚えて、寒がった。
無力の男の逃げ場は仏陀だった。仏陀に抱き取ってもらわねばならなかった。そうでなければ心身があたたまらなかった。法華経が男の電気行火になった。
苦しいことが終わる。悲しいことも終わる。辛いことも終わる。やがて肉体が終焉を迎えると、そうなる。ほっとするだろう、きっと。
僕は無能力であった。弱虫だった。戦いうるだけの武器をも所持していなかった。
それで、おろおろしながら逃げるしかなかった。みっともなかった。
能力のある人たちの間を、吐息をつきながら、逃げ惑ってきた。
捕まることもあった。吊し上げられる羽目にもなった。勝ち目のない男は、詫びて詫びてばかりだった。
もうそれも終わりになる。詫びないで済むようになる。ほっとするだろう、きっと。死ぬ苦しみが残っているだろうが。
今日は12月25日。正月まで残る日数は今日を含めても7日間。土曜日。家族が起きるのが遅くて、朝ご飯も遅かった。
家内から、じっとしてばかりいないで、部屋の大掃除をしなさいと急き立てられている。同意するが、寒くて、実行に移せない。
指先がかじかむ。ときどき炬燵の中にいれる。尻の下に敷いていっときあたためる。何度も繰り返す。
着替えて外に出たくもある。雨は止んでいる。外に出ていったとしても、庭と畑を一周して見て回るだけだが。
寒いなあ。寒いと、炬燵に入ったきりになる。外に出ていかなくなる。窓ガラスの向こうを眺めているきりになる。
雀たちが大挙して押し寄せて、庭に設置している餌場の、くだけ米を啄んでいる。かと思うと一斉に飛び去っていなくなる。
代わる代わる。ちゅんちゅんちゅんちゅん鳴いて、鳴き交わしている。この凍てつく冬に、小さな体でいる。
☆
セーターもオーバーも着ていない。襟巻きも巻いていない。どうやって寒さを凌いでいるのだろう。
風をシャットアウトできる空間を確保しているのだろうか。大きな古い木にぽっかり空いた洞(うろ)があればいいんだけど。
昔は古びた藁屋根の藁の奥に潜り込んで夜を過ごしていた。いまは藁屋根がない。瓦屋根も侵入を許してくれない。
今は今。今は今でいい。ゆっくりなさいませ。のんびりなさいませ。過去は捨ててしまいなさい。
イヤだったこと、辛かったこと、苦しかったこと、悲しかったこと、負担にしていたこと、責められたこと、恐ろしかったこと、みんな切断なさい。
今は、今にいます。これまでずっと背中に背負って来た重い荷物を、下ろして軽くなりなさい。
白い雲の間から青空が覗いています。青い山が見えています。