シルクロード、ローマへの道第七巻:パミールを超えて(パキスタン・インド)の感想だ。紀元後2000年の歴史を超えた遊牧民族及び農耕民族の生きざまが現在まで繋がっている。大小の民族の自然淘汰からなる国作りを経て現今のアジアがある。パター族は伝統的に武器作りが有名であった。ペシャワール地方で銃や弾丸を手作り生産していた器用な人種。何でも分解、研究して模造品を作り上げた一例だが、英国のフィリィップ殿下がこの村を訪問した折り、護身用の小銃を持っていたので、村民が借りることを所望した。半日後にもう小銃ができた。殿下は出来栄えに驚かれたという。弾を入れて連発すれば熱で銃身が歪む欠陥はあっただろうが、何でも熱心に摸倣し遂げる人種だったのだろう。伝統から変化をつけられず、進展のない民族もあったのだが。通常の暮らしは物々交換、食べ物は自給自足で、決して暮らしは楽ではなかった。取材班が農民に幾つかの質問をしてみた。
「あなた方の一番の楽しみはなんですか?」「仕事です。この作業です」
「農業するのに機械は使わないですか?」「使っています!」「田に水を汲み上げるのにポンプを使ってます!」「外には?」「外には使っていません!」
「農業は好きですか?」「好きか嫌いかはあまり考えたことはありません!」
「ベナレスに行ったことがありますか?」と、インドの地方人へ。「まだ行っていません。一度は行って沐浴したいと思っています!」
「生まれ変わったら何になりたいですか?」「勿論人間に。出来たらもっとカーストの高い医者とか弁護士の家に生まれたいです!」
現代の農業は機械が中心だが、手作業との組み合わせで、シルクロード時代と似たようなことをしている。人間は生まれた国や境遇によって人生が決まる。時代が古ければ古いほど個人の命運の格差は大きかっただろう。時代と共に選択の自由が増えてきた。自己の個性を生かし、信念を全うして生きられるようになった我々は幸せだと思いながら読んだ。(自悠人)