可愛い花を摘み飛び跳ねたマルブンのなだらかな山 アルプスで花摘む皺少女
ありのままの社会にすぐに溶けこむ筆者にはリヒテンシュタイン(以下L)はとりわけ楽しい国だった。観光客の一人もいないハイランド、早朝のマルブンで、「アルプスの少女」アヤコは、なだらかな山を駆け巡りながら色とりどりの高山の花を摘み、可愛い花束を手に下界を見下ろしつつ「ヤッホー」と叫び、「ヤッホー」と答える山彦との会話を楽しんだ。アルプスの少女ハイジがスイスはアルムの大自然を駆け巡ったように、皺少女アヤコはLの高地マルブンで心ゆくまでアルプス劇場の主役を演じた。夕方にもまたやって来て、夕陽を浴び真っ赤に染まった山間で乳牛やかわいい大角の山羊を見た。マルブンは丘のように優しい山が折り重なるスキー場だが夏は人が少ない。日本の皇太子殿下がこの国の侯家から招かれてスキーをなさった山だ。誰も乗っていないリフトが揺れていた。乗って来たバスは少女アヤコが戻るまで待っていた。筆者は今マルブンの花のカラフルな標本を眺めながらこれを書いている。
お伽の国の城主様 立憲君主国Lはスイスと同様中立国、スイスから入国すると検問がなく、スイスとの関税協定によりスイス・フランを使用する。公用語はドイツ語、首都はファドゥーッだ。我々はスイスとの国境の街、サルガンスから郵便バスでファドゥーツに来た。チューリッヒで友だちになった一女性はL出身、結婚してスイスへ。「スイスは物価が高いからファドゥーツへ買い物に行く」と言っていた。ファドゥーツで親切にしてくれた一女性は「スイスから嫁いで来た」と語った。両国は密接な関係がある。税金は安く失業率は低いと聞いた。ファドゥーツ城は下の街から見ると山の頂上に、まるでお伽の国のお城のように聳え立ち、誰でもそこまで登ってみたくなる。よいしょ、よいしょ、と自分を励まし、休み休み登ったがそれでも友だちになったドイツ人家族より早くお城に着いた。何とこのお城は筆者が生まれた年に建立、オーストリアのリヒテンシュタイン家12代目、フランツ・ヨーゼフII世侯(先代)がウイーンからファドゥーツのこの城へと住いを移したのだった。筆者と同い年のこのお城の先代は既に亡く、現在はその息子の侯爵ご一家がお住まいだ。侯爵家は国家元首、政治力は大きい。
ライン川を見下ろし口笛二重奏 首都ファドゥーツと高地マルブンの中間に位置するトリーゼンベルクは何という長閑な村だろう。海抜700-2000m、日当たりのいい斜面や坂の多い村、東スイス・アルプスからライン峡谷を見はるかすと圧倒される眺望だ。中心部は海抜900m、この村の象徴オニオン・タワーがすぐに眼に飛び込んでくる。夜はとびきり神秘的なオニオン・タワーは天辺にユニークで巨大な玉葱の尖塔が載っている聖ジョーゼフ教会の時計塔だ。玉葱の色は上品な青銅色、内部もとても美しい。筆者夫婦はその向かい側のホテル・クルムに泊まった。夜中に目覚めたらそのオニオン・タワーが筆者の眼前、見上げる高さで神秘な藍色に輝いていた。真夜中の幻想的オニオン劇場に魂を奪われ眠ることあたわず、地元産Bioワインで乾杯した。坂道ばかりのトリーゼンベルグぶらぶら歩きは地球千鳥足夫婦、毒舌夫と頑固妻の意気を高揚させ陽気にした。意見衝突の多い「異文化」夫婦もここでは仲良し、アルプスの少女ハイジやペーターのように口笛の合奏を楽しんだ。歩き疲れるとカフェーに入り、そこのテラスからコーヒー片手にライン川を見下ろし、「絶景かな!」と口々に叫んだ。騙され事件も問題も無く、「ヤッホー」と「絶景かな!」を連発した国だった。(彩の渦輪)
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