ガラパゴス諸島の別の島での情景。かつての入り江が陸地で遮断され、フラミンゴの飛来する淡水の沼になっていた。その沼に動いている生きものを遠くから発見した。凝視するとそれは亀だった。1匹の大亀が岸に近づこうとしているが、近づくにつれて水が引き、もがいている。その沼から灌木群を隔てて海がある。その亀は海の匂いのする方向へ泳いで来たのはよいが、そこは水が減り泥沼になっていたのだ。泥に身体の自由を奪われ、両手両足を懸命にばたつかせる。が、ドロドロの地面には抵抗がなく、前進出来ない。大きな体を浮かせるのが精いっぱいだ。筆者からは結構な距離があり、時折り頭の向きが変わるのが見えるだけでその表情はわからない。だが、死にもの狂いの彼の動作はひしひしと伝わってくる。その沼が水を満たしていたかつての日、スイスイ泳いだ経験があったからこそ横断しようとしたのだろう。だが、今は底なしの沼、前進しようと意思働けど身体は自由にならない。見ていて哀れでたまらないのだがどうしようもない。係員が助けに行ったが足を取られて諦めてしまった。 亀は10日間ぐらい食べなくてもよい体質だと言われる。が、いずれは力尽きて死ぬ運命に従わざるを得ないのだろうか。自然の残酷さに心が乱れた。偶然の幸運に会って助かるよう祈るばかりだ。情報の発達している人間社会なら気象状況から予測も行動も可能だ。本能に知恵と工夫を重ねて今日まで進歩し続けてきた人間と異なり、この大亀がここまで生きてこられたことが不思議であったが、それ故にこそ、亀だから、と眼をそらすのは辛い。人間も亀も運命にさいなまれた一個の平等な生命体なのだ。亀の幸運を祈るのみの、筆者の無力さを嘆いた。数年前の、だが、忘れぬ情景だ。(自悠人)写真は類似の亀
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