アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

福岡の方に是非読んでいただきたく

2020年09月17日 | Weblog
 私と同じ「におい」がする作家「小檜山 博さん」のエッセーの一部を…

 少し前、転勤で福岡に住んでいる息子に会いに妻と出かけた。ついでに菅原道真をまつってある天満宮を見ようと、鹿児島本線の電車で太宰府へ向かうことにした。案内書も地図も持っていないため、博多駅でホームや乗る電車を間違えるなど、しばらくうろうろしたあとやっと普通電車に乗った。車両には客が六人しか乗っていなかった。
 妻が「この電車でいいのかしらね」と不安がる。電車はまだ発車しない。妻が向かい合った席に座っている二十歳くらいの女性に「この電車、太宰府へ行きますか?」と聞いた。すると女性は黙ったまますっと立って開いている電車の扉からホームへ出て行ってしまった。ぼくは、ああ、見知らぬ人にかかわりたくなかったのかもしれないな、と思った。いままで何度か体験したことがあるのだった。
 僕らの隣に掛けていた中年の女性が「次の駅で特急に乗り換えて三つめの駅で降り、太宰府行きの普通に乗り換えるといいですよ」と教えてくれる。
 気づくと、電車から出て行った若い女性が、伸び上がって電車の屋根近くについている行き先表示板を見上げている姿が見え、そのあとすぐにどこかへ走って行った。まもなく彼女が車内へ戻ってきてぼくと妻に「大丈夫ですよ、この電車、太宰府へ行きます」と言ったのだ。走って駅員か誰かに確認してきたものなのだ。
 これにはぼくも驚いた。少し前、見知らぬ人にかかわりたくないからなどと思った自分の軽率さを、深く恥じた。そのとき斜め前にいた六十歳くらいの女性もわざわざ立ってきて「急がないのでしたら、このまま乗っていると太宰府へ着きますから」と笑顔で教えてくれた。ところが、ぼくらの様子を見ていたらしい、一つ隣の車両にすわっていた初老の男性が立って歩いてくると「何?どうしたの」と聞いた。そしてさらにくわしく天満宮への行き方を教えてくれた。
 なんと近くにいたほとんどの人が寄ってきて旅人のぼくらに話しかけ、細かく教えてくれたのである。たまげてしまった。
 そのときぼくは、どうして人々がこの土地へ来たがるのか、わかった気がした。

 いかがでしょうか。福岡の人たちへの、最大級の賛辞です。私など、何度かこみ上げてくるものがありました。若い女性の行為のくだりでは泣いちゃいました。人って、かくも優しいのか。
 福岡の皆さんに是非読んでいただきたいです。