1966年
性格はプロ野球向きにできているのだろう。ちょっとしたことにビクともしない。プロ入り初ホーマーを打ったというのに、まるで無表情だ。「打ったの?真ん中から外角寄り低めの直球。打った瞬間、手ごたえがあったが、ホームランとは思わなかった。二塁を回りかけたとき、スタンドがワッといったのではいったかなと思ったんです」イースタンでの成績は二割七分三厘で、ホームランは一本。「イースタンでも、こんなの打ったことありませんよ。一軍は、ムードがいいですね」ケロリとしていった。マイヤーズ・コーチがひと目でほれ込み、マン・ツー・マンで指導していたが、どうやらこの成果は実ったようだ。「マイヤーズ・コーチには毎日手首の返しをいわれたが、きょうはよく返っていた。合宿に帰ったら電話するんだ」一軍入りしたのが優勝決定後の二十四日。初出場は二十五日の対中日戦。このときは代打で出て右飛。プロ入り二打席目に飛んだホームランというわけだ。ちょうどホームランを打ったとき、横浜市南区伏見町の自宅で母親のふみさんが横になっていたところ。球場にきていた青木スカウトからの電話であわててテレビをつけたそうだ。「そうですか。じゃ、最終回もっとがんばれば・・・」と、九回の三振をしきりにくやしがった。シーズン終了後には大リーグの教育リーグへ参加することになっている。「やっと近ごろになって実感がわいてきたのです。本場の野球を勉強できるなんて、こんなにうれしいことはない」渡航手続きをつづけているうちに教育リーグに参加する責任感というようなものをジワジワと感じたそうだ。ロッカーに山積されたホームラン賞。それには巨人・林様と書かれてある。「コレ、ほんとうにぼくがもらっていいんですか?」びっくりしたように賞品をみつめた。プロ入り初ホーマーの実感がわいてくるのも、合宿に帰ってひとふろ浴びてからではないだろうか。
林が打ったホームランは真ん中低めの速球。高めの棒球を打ったのなら少しもおどろかないのだが、あの低い球をうまくすくいあげたスイングの鋭さには恐れいった。二十五日、後楽園(対中日戦)でもライトへ大きなフライを打ったが、スケールの大きなプル・ヒッターであることを一打席ごとに証明している感じだ。林のいいところは、まず打席にはいった姿である。王や長島、野村、江藤、榎本、それに新人の広野を含めて、強打者はすべて打席でも姿がいい。自信をもっているからこそ、堂々とした姿になるのだろうが、それにしても入団当時の林と比べると、そのかわり方におどろく。本人の努力とマイヤーズ・コーチの指導のたまものだが、バットが鋭く、速く出るようになった。二度目の打席では高橋にカーブを投げられてタイミングが合わず、三振した。変化球と内角ぎりぎりの球に対するバッティングは、もう少しみてみないと結論が出せない。いずれにしても外人コーチを招いた成果が形になってあらわれたことは、非常に喜ばしいことだ。
性格はプロ野球向きにできているのだろう。ちょっとしたことにビクともしない。プロ入り初ホーマーを打ったというのに、まるで無表情だ。「打ったの?真ん中から外角寄り低めの直球。打った瞬間、手ごたえがあったが、ホームランとは思わなかった。二塁を回りかけたとき、スタンドがワッといったのではいったかなと思ったんです」イースタンでの成績は二割七分三厘で、ホームランは一本。「イースタンでも、こんなの打ったことありませんよ。一軍は、ムードがいいですね」ケロリとしていった。マイヤーズ・コーチがひと目でほれ込み、マン・ツー・マンで指導していたが、どうやらこの成果は実ったようだ。「マイヤーズ・コーチには毎日手首の返しをいわれたが、きょうはよく返っていた。合宿に帰ったら電話するんだ」一軍入りしたのが優勝決定後の二十四日。初出場は二十五日の対中日戦。このときは代打で出て右飛。プロ入り二打席目に飛んだホームランというわけだ。ちょうどホームランを打ったとき、横浜市南区伏見町の自宅で母親のふみさんが横になっていたところ。球場にきていた青木スカウトからの電話であわててテレビをつけたそうだ。「そうですか。じゃ、最終回もっとがんばれば・・・」と、九回の三振をしきりにくやしがった。シーズン終了後には大リーグの教育リーグへ参加することになっている。「やっと近ごろになって実感がわいてきたのです。本場の野球を勉強できるなんて、こんなにうれしいことはない」渡航手続きをつづけているうちに教育リーグに参加する責任感というようなものをジワジワと感じたそうだ。ロッカーに山積されたホームラン賞。それには巨人・林様と書かれてある。「コレ、ほんとうにぼくがもらっていいんですか?」びっくりしたように賞品をみつめた。プロ入り初ホーマーの実感がわいてくるのも、合宿に帰ってひとふろ浴びてからではないだろうか。
林が打ったホームランは真ん中低めの速球。高めの棒球を打ったのなら少しもおどろかないのだが、あの低い球をうまくすくいあげたスイングの鋭さには恐れいった。二十五日、後楽園(対中日戦)でもライトへ大きなフライを打ったが、スケールの大きなプル・ヒッターであることを一打席ごとに証明している感じだ。林のいいところは、まず打席にはいった姿である。王や長島、野村、江藤、榎本、それに新人の広野を含めて、強打者はすべて打席でも姿がいい。自信をもっているからこそ、堂々とした姿になるのだろうが、それにしても入団当時の林と比べると、そのかわり方におどろく。本人の努力とマイヤーズ・コーチの指導のたまものだが、バットが鋭く、速く出るようになった。二度目の打席では高橋にカーブを投げられてタイミングが合わず、三振した。変化球と内角ぎりぎりの球に対するバッティングは、もう少しみてみないと結論が出せない。いずれにしても外人コーチを招いた成果が形になってあらわれたことは、非常に喜ばしいことだ。