1969年
投手がマウンドに立つ。まず規定投球練習する。その間に捕手はその投手の「きょうはどんなタマがいけるか」をまず感じでつかむ。そして、回を追って行くうちにその日の勝負ダマをきめて行く。この日の石岡は、右打者に対しての内角シュートがさえていた。捕手の加藤は、そのシュートをうまく配合した。五回表、1点を取られてなお無死満塁のピンチ。しかし、ここで打席に王を迎えたときの加藤は、ためらわずにシュートを多く要求した。0-3からストレート(ファウル)についでここぞと投げたシュート。王はファウルするのが精いっぱいとみると、内角ストレートで一塁フライにうち取った。つづいて長島には直球、シュート、そして高めのフォークボール。長島は3球ともファウルしたあとに、低めのフォークボールでから振りの三振。シュートファウルされるだけで威力は十分だった。「これでピンチは切り抜けた」と石岡自身も思ったという。ヤマ場はすぎた感じで、九回表二死まで進んで行った。しかし、八回を終わって141球も投げていた石岡。普通投手の限界は130球前後とされるが、その限界を越えてもなお投げつづけていたのは、五回の最大のピンチにONをうち取った自信があったからだろう。だが、そこで球威の減退をいち早く見取らなければならないのも、これまた当然捕手の役目である。九回二死から黒江を迎えても、加藤は初球カーブのあとの2球目をシュートでストライクを取ったものの、3球目のシュートははずれ、カーブ、ストレートと2球つづけてボールを投げ四球。王の初球に、いきなりストレートで向かって行ったとき、右前へはじき返されていた。二死一、三塁。別所監督がマウンドに飛び出した。「交代をさせるつもりで出たが、捕手もスピードは落ちていないというし、石岡自身もだいじょうぶといったので、続投させる気になった」という。だから、そこで長島に対する攻め方だけをバッテリーと打ち合わせたそうだ。石岡が改めてマウンドに立ったとき「内角にマトをしぼっている感じだったから、外角だけを攻めよう」と心にきめたという。いきなり、外角カーブでストライクを取ってからの石岡は、立てつづけにカーブの連発でカウント2-2までもっていった。そして5球目は「歩かせてもいいぞ」といっていた監督の言葉を思い出し「外角ややはずれたボールになるカーブ」を投げた。その瞬間、長島のバットは快音を残し打球は左中間の芝生にたたき込まれた。長島は「どんなタマだったかわからない」と興奮気味である。そして石岡は「ボールだったのに・・・」をくりかえす。別所監督に「石岡はだいじょうぶです」と進言した加藤捕手には「もっとはっきりいえばよかった」という気持ちとともに「それまでよかったシュートを投げさせれば・・・」という悔いが残ったかも知れない。
投手がマウンドに立つ。まず規定投球練習する。その間に捕手はその投手の「きょうはどんなタマがいけるか」をまず感じでつかむ。そして、回を追って行くうちにその日の勝負ダマをきめて行く。この日の石岡は、右打者に対しての内角シュートがさえていた。捕手の加藤は、そのシュートをうまく配合した。五回表、1点を取られてなお無死満塁のピンチ。しかし、ここで打席に王を迎えたときの加藤は、ためらわずにシュートを多く要求した。0-3からストレート(ファウル)についでここぞと投げたシュート。王はファウルするのが精いっぱいとみると、内角ストレートで一塁フライにうち取った。つづいて長島には直球、シュート、そして高めのフォークボール。長島は3球ともファウルしたあとに、低めのフォークボールでから振りの三振。シュートファウルされるだけで威力は十分だった。「これでピンチは切り抜けた」と石岡自身も思ったという。ヤマ場はすぎた感じで、九回表二死まで進んで行った。しかし、八回を終わって141球も投げていた石岡。普通投手の限界は130球前後とされるが、その限界を越えてもなお投げつづけていたのは、五回の最大のピンチにONをうち取った自信があったからだろう。だが、そこで球威の減退をいち早く見取らなければならないのも、これまた当然捕手の役目である。九回二死から黒江を迎えても、加藤は初球カーブのあとの2球目をシュートでストライクを取ったものの、3球目のシュートははずれ、カーブ、ストレートと2球つづけてボールを投げ四球。王の初球に、いきなりストレートで向かって行ったとき、右前へはじき返されていた。二死一、三塁。別所監督がマウンドに飛び出した。「交代をさせるつもりで出たが、捕手もスピードは落ちていないというし、石岡自身もだいじょうぶといったので、続投させる気になった」という。だから、そこで長島に対する攻め方だけをバッテリーと打ち合わせたそうだ。石岡が改めてマウンドに立ったとき「内角にマトをしぼっている感じだったから、外角だけを攻めよう」と心にきめたという。いきなり、外角カーブでストライクを取ってからの石岡は、立てつづけにカーブの連発でカウント2-2までもっていった。そして5球目は「歩かせてもいいぞ」といっていた監督の言葉を思い出し「外角ややはずれたボールになるカーブ」を投げた。その瞬間、長島のバットは快音を残し打球は左中間の芝生にたたき込まれた。長島は「どんなタマだったかわからない」と興奮気味である。そして石岡は「ボールだったのに・・・」をくりかえす。別所監督に「石岡はだいじょうぶです」と進言した加藤捕手には「もっとはっきりいえばよかった」という気持ちとともに「それまでよかったシュートを投げさせれば・・・」という悔いが残ったかも知れない。