1961年
マウンドの上の富永は姿勢をただして安藤のサインをゆっくりのぞき込んで投げた。笑いもせず、おこりもせず、ただメガネを光らせるだけ。八回1点を失ったときも同じだった。「故障者続出で頭が痛かった。久保田がやっと復調してきたし投手陣はちょっと持ち直した」といっていた水原監督が、マウンドをおりてくる富永を握手して迎えた。八回、惜しいところでシャットアウトを逸したが、七月三十日の対阪急戦以来二十三日ぶりの勝利投手で5勝目をあげた。近鉄から8試合2勝目だが、安藤、山本(八)のホームランに守られて完投した富永は、言葉少なに「カーブがよくきまった。コントロールがよかったのが完投できた原因だ。八回は少し疲れて球が内角へそろいすぎた。しかし久しぶりの勝ちだから・・・。これからがんばる」とそそくさとぬれたアンダーシャツを片手に持って、帰りを急いだ。その富永のピッチングを土井垣武氏はつぎのようにみている。「カーブのコントロールが大へんよかった。球速がないのが欠点だったが、この日はスピードが乗り、近鉄が前半まったく打てなかったのは当然だ。ただカーブがいい代わりにシュートがないので、ピッチングの切りかえができない。前半カーブで外角を攻めれば、後半はシュートをまじえて打者のタイミングをくるわさないとなかなか完投できるものではない。また上から低目へきまる球の角度がいいので、外角に弱い共通点を持つ近鉄には好都合だった。ただ左打者にはピッチングに横の幅がないので弱い。その点近鉄が左打者を代打にくり出して攻めたのはよかった。1点とられた八回はそのっ左打者攻撃でピッチングがくるったからだ。こんご上位チームに投げるためにはシュートを投げるコツを覚える必要がある。それにしても富永がよく投げたので、東映投手陣はいくぶんよくなった。こんご東映が首位の南海をおびやかすには、投手陣を強力にしてぶつからなければならない。その点では富永の好投は大きなプラスだ」
マウンドの上の富永は姿勢をただして安藤のサインをゆっくりのぞき込んで投げた。笑いもせず、おこりもせず、ただメガネを光らせるだけ。八回1点を失ったときも同じだった。「故障者続出で頭が痛かった。久保田がやっと復調してきたし投手陣はちょっと持ち直した」といっていた水原監督が、マウンドをおりてくる富永を握手して迎えた。八回、惜しいところでシャットアウトを逸したが、七月三十日の対阪急戦以来二十三日ぶりの勝利投手で5勝目をあげた。近鉄から8試合2勝目だが、安藤、山本(八)のホームランに守られて完投した富永は、言葉少なに「カーブがよくきまった。コントロールがよかったのが完投できた原因だ。八回は少し疲れて球が内角へそろいすぎた。しかし久しぶりの勝ちだから・・・。これからがんばる」とそそくさとぬれたアンダーシャツを片手に持って、帰りを急いだ。その富永のピッチングを土井垣武氏はつぎのようにみている。「カーブのコントロールが大へんよかった。球速がないのが欠点だったが、この日はスピードが乗り、近鉄が前半まったく打てなかったのは当然だ。ただカーブがいい代わりにシュートがないので、ピッチングの切りかえができない。前半カーブで外角を攻めれば、後半はシュートをまじえて打者のタイミングをくるわさないとなかなか完投できるものではない。また上から低目へきまる球の角度がいいので、外角に弱い共通点を持つ近鉄には好都合だった。ただ左打者にはピッチングに横の幅がないので弱い。その点近鉄が左打者を代打にくり出して攻めたのはよかった。1点とられた八回はそのっ左打者攻撃でピッチングがくるったからだ。こんご上位チームに投げるためにはシュートを投げるコツを覚える必要がある。それにしても富永がよく投げたので、東映投手陣はいくぶんよくなった。こんご東映が首位の南海をおびやかすには、投手陣を強力にしてぶつからなければならない。その点では富永の好投は大きなプラスだ」