1966年
綿密な中らしい計算が生んだ一撃だった。石川にパーフェクトに押えられていた前の三打席は、とにかくヒットを打つことだけを考えた。245匁(919)のバットで合わせるバッティング。「振り回してはいけない。重いバットでジャスト・ミートしなければ完全試合をやられてしまう」七回の第三打席は石川の右を抜き、右前へ抜けそうないい当たりだった。一枝の初安打でヒットを打たなければならない責任感から解放された第四打席のバットは242匁(908㌘)の軽いのに変わっていた。「ねらっていいケースだからね。でもよくとびました。ストレートかシンカーだったと思う」いつもと変わらない口調。「修平(一枝)、おまえのヒットが勝因だ。おまえのがなかったらこっちのホームランは出てこなかったんだから」と一枝をたてた。3号ホーマーは四月十九日に同じ石川から甲子園で打った。それから4号(五月二十六日)が出るまで一ケ月半近くもホームランのブランクがつづいた。右足のヒザを痛め、完調にはほど遠いコンディションだったのだ。その故障もほとんどなおり「ホームランが打てるようになったことより、足が軽くなったのがうれしい」という。「サヨナラは二本目、ミドリさん(石川)からは通算三本目」と、これまでの自分の記録がスラスラとでてくる。阪神の杉下監督は、試合前こんなことをいっていた。「中と高木守には痛い目にあわされている。きょうは高木守がケガで出ないらしいね」いやがっていた一人が欠けた分を、もう一人が十分に補う活躍を見せられた杉下監督としては、たまらない気持ちだったに違いない。
綿密な中らしい計算が生んだ一撃だった。石川にパーフェクトに押えられていた前の三打席は、とにかくヒットを打つことだけを考えた。245匁(919)のバットで合わせるバッティング。「振り回してはいけない。重いバットでジャスト・ミートしなければ完全試合をやられてしまう」七回の第三打席は石川の右を抜き、右前へ抜けそうないい当たりだった。一枝の初安打でヒットを打たなければならない責任感から解放された第四打席のバットは242匁(908㌘)の軽いのに変わっていた。「ねらっていいケースだからね。でもよくとびました。ストレートかシンカーだったと思う」いつもと変わらない口調。「修平(一枝)、おまえのヒットが勝因だ。おまえのがなかったらこっちのホームランは出てこなかったんだから」と一枝をたてた。3号ホーマーは四月十九日に同じ石川から甲子園で打った。それから4号(五月二十六日)が出るまで一ケ月半近くもホームランのブランクがつづいた。右足のヒザを痛め、完調にはほど遠いコンディションだったのだ。その故障もほとんどなおり「ホームランが打てるようになったことより、足が軽くなったのがうれしい」という。「サヨナラは二本目、ミドリさん(石川)からは通算三本目」と、これまでの自分の記録がスラスラとでてくる。阪神の杉下監督は、試合前こんなことをいっていた。「中と高木守には痛い目にあわされている。きょうは高木守がケガで出ないらしいね」いやがっていた一人が欠けた分を、もう一人が十分に補う活躍を見せられた杉下監督としては、たまらない気持ちだったに違いない。