プロ野球 OB投手資料ブログ

昔の投手の情報を書きたいと思ってます

吉田勝豊

2017-01-17 21:14:59 | 日記
1966年

バルジ大作戦のようなゲームにピリオドを打ったのは、吉田勝のバットだった。握りの細い黄色いバット。多摩川でレギュラーと離れて黙々とバッティングをしていたときのものだ。ボールのあとが一ダースばかり塗料をはがしていた。二軍落ちを象徴するように、その打球のあとはあちこちととんで、正確な位置を示していなかったが、この夜のヒットは左中間へジャスト・ミートでとんでいった。「シュートだったかな。まっすぐきたけどね」多摩川の日焼けが残っているせいか、笑うといやに歯が白い。吉田勝の背中、腕をナインがつっついてすり抜ける。長島はわざわざ報道陣のあいだをリスのように走り抜けて握手をしにきた。「ヨシさん、ナイス・バッティング。いやあ、よかった、実によかったよ」長島も二度ほど特訓で多摩川行き。そこで吉田勝の努力をみているのだ。六月一日、富山の対大洋戦が一軍カムバックの第一戦。六回、代打に出て、中前タイムリーし、チームの勝利に貢献している。このところ当たっているのは川上監督のカンも同じ。「池沢とか塩原とか代打の切り札はいたが、吉田勝を出したのは多摩川で彼が打っているときのフォームが目に焼きついていたからだ。瞬間に吉田勝の名が浮かんだわけです」というのは、富山での川上監督の話。この夜はニュアンスが違う。阪神ベンチが太田を出していたため左に強い吉田勝を送った。杉下監督はすぐ安部にスイッチ。しかし、ここで川上監督は代打の代打を出さなかった。「安部は軟投のピッチャー。左にも強いが、ゆるい球にも吉田勝は強い」打たれた安部の説明はこうだ。「西鉄時代は自信を持っていた。ほとんど負けなかった。きょうだって外角を攻めれば勝っていたはずだ。しかし、サインは内角。もう少し考えて投げればよかった」だが、川上監督が西鉄ー東映のころの二人の関係を知っていたとしても、吉田勝を代えなかったろう。「迷いはカンをにぶらせる」というのが川上監督の信念だ。バスへ向かう吉田勝の足はだんだんはやくなった。報道陣にかこまれていて一人ぼっちになってしまったからだ。「最初は引っぱろうと思っていたけど、三振してはまずいという考えもあった。でも一死満塁なら外野フライでもいいという頭があったから、気持ちは楽だった。このところバットを短くもっていたせいか、スイングが小さくなった。だからきょうは少し長くもって大きく振るように気をつけた。これもよかったんだね。代打?やはり最初から出たいよ」五月十八日、一軍とわかれて多摩川へ行くことがきまったとき、吉田勝はこういって後楽園を去った。「なあに、すぐもどってくる。もどってきてオレは必ず打つよ」この言葉はウソではなかった。
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中田昌宏

2017-01-17 20:56:52 | 日記
1966年

ことし十年目。もうベテランもいいところだ。だが練習量では若い選手に決して負けない練習熱心さだ。「自分で納得できるまで打ち込まないとどうしても調子が出ないんだ」という。だから練習量の少なくなるロードではあまりいい結果が出ない。この日で七本になったホームランも、そのうちロードで打ったのはたった一本。ロードの不成績は内弁慶なのではなく、練習量の波だという。試合後、ベンチにどっかと腰をすえた中田はごきげんだった。五月十一日、対東京五回戦以来一ケ月ぶりに出たホームランのせいだ。「もうホームランの味なんて忘れていたよ。五本でことしのホームランは終わりだと思っていた」流れる汗をぬぐいながらホームランの瞬間を再現した。「一本目はまっすぐかシュートだったと思う。内角へヤマをはっていたんだ。いい感じでバットが出たよ。てっきりファウルになると思っていた。一塁へ走りながら思わずはいってくれと祈ったよ」そういって質問を持たずに言葉をつづけた。「とにかくホームランよりチームが勝つことの方がうれしいんだ」前夜、小林オーナーにハッパをかけたれたことが、よほどこたえているようだ。「もうオーナーに心配させたくないからね。とにかく勝つことよ」笑顔が消えそうになってはまたよみがえる。中田をごきげんにしている理由がもう一つある。いままで苦手だった左投手攻略のメドがついたことがそれ。「きのうも鈴木からタイムリー、きょうも安打にはならなかったけど、いい感じでバットが振れた」その攻略法は右肩を十分回してバットをためて打つことだという。五月十四日、対南海戦で死球を受けて退場して以来、久しぶりに見せたスカッとした中田の表情はいつまでもつづいていた。
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