人生をあやつる神様がいるとしたら、
なかなかおつなことをしてくれる。
7月から私の職場第2工場に1人の派遣社員のひとが来た。
私とは仕事はちがって、
成型した不良品から樹脂を剥がし、
ガラスを成型する前の、
素板の状態にするのが彼の仕事だった。
私とは直接関係ないので、これまで挨拶程度で、
会話らしきものはなかった。
ところが昨日の5時過ぎ、その機会に恵まれた。
普通は仕事が終わったその頃には、
休憩室にはたいがい何人かの人がいる。
それが昨日は、彼と2人だけだった。
なにがきっかけだったのだろう。
彼は退社していいのに、
私は成型日報やその他1日の業務内容を
何枚かの書類に書く仕事があるのに、
煙草をくゆらし、私たちは話しはじめた。
彼は、遠慮しながら言葉を選びえらび、
充分なこころ配りをして話してくる。
私はこの会社に来たいきさつや家族のことを話した。
彼も大雑把に同じ様なことを話してくれた。
小さなお子さんがいるのに、
派遣社員とは大変だな、と思った。
彼の歳を訊くと34歳という。
私は自分のホームページ「九想庵」を教えた。
「今日、のぞいてみます」と彼は帰った。
今日みんながいるときの彼の態度は、
以前と変わらなかった。
5時過ぎ、なぜかまた2人きりになった。
「九想庵見てくれました?」私が訊くと、
「見ました」と彼がいう。
小説も2編読んだという。
「俳句がいいですね。詩人ですね」
そんなことをいってくれた。
「会社じゃゆっくり話せないから、こんど飲みましょう」
と私はいった。
彼はこれから、
会社の夏休みのときにするバイト先に
面接に行くと帰っていった。
夜、彼からメールが来ていた。
明日から第1工場で仕事することなった、
と書いてあった。
そうすると、これからほとんど会うことはない。
彼の短歌が書いてあった。
はらわたのくさりおちゆくたびごとにくちなは一匹孵る心地す