若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

今日の減税 明日の国債 令和の大増税〜減税派・星野しょう市議の進退を問う〜

2024年12月21日 | 政治
神奈川県大和市に、減税派の市議がいます。



そんな市議がXというチラシの裏紙で長文妄想を垂れ流していたので、こちらもチラ裏で感想コメントを残しておこうと思います。




======【引用ここから】======
アルゼンチンでミレイが大統領になった際、政治の現実を全く踏まえない空想的なリバタリアン達がいて、ミレイの邪魔をしていたという。
彼らを「カフェ・リバタリアン」という。
それは日本においては減税会や減税活動家にからむ「チラ裏」と呼ばれる人達と同類といえる。

======【引用ここまで】======

冒頭からツッコミどころ満載です。

減税会・減税派界隈は、以前より
「減税すれば官僚や政治家が歳出削減する」
「税金は余っている」
といった空想・妄想を主張してきました。

アベノミクスで膨らんだ赤字国債累積をどうするのか、金利をどうするのか、現在進行中の物価高をどうするのか・・・現代日本では、金融・財政を中心に問題山積みです。
こうした現実を踏まえない空想的な活動家集団が、減税会・減税派です。

新規の赤字国債を毎年発行している日本で、増税を止めてさらに減税まで持っていくためには、何が必要でしょうか。
星野しょう市議も言及しているアルゼンチンのミレイ大統領のように、
教育省、社会保障省、公共事業省、保健省、環境省・・・・要らん!!
というアフエラ祭りが必要です。
省庁まるごと廃止するレベルでの歳出削減が、日本にこそ必要です。

さぁ、現実を見ましょう星野市議。
大和市で減税・小さな政府を実現するため、大和市役所の何課からアフエラしましょうか。
削減対象を挙げないことには、「赤字国債に拠らない減税」の話は一歩も前に進みません。

======【引用ここから】======
彼らは空想的であり、減税や歳出削減を推進する減税会などの活動家に難癖をつけ、文句ばかり言う集団である。
======【引用ここまで】======

減税を推進する減税会なら見たことがありますが、歳出削減を推進する減税会はあまり見かけません。
逆に、インフレ目標政策でインフレを推進しながら減税しろという「三重県減税会」や、「積極財政と減税」を標榜した候補者(金子洋一氏)を選挙で応援した「神奈川減税会」等は知っているのですが、毎年の赤字国債発行額(大体35兆円~40兆円程度)を解消できるレベルの歳出削減を掲げた減税会というのは聞いたことがありません。
具体的で大規模な歳出削減を推進する減税会がありましたら、ぜひ教えてください。

======【引用ここから】======
(減税会は)自立、分散した存在であるため、目的や趣旨が必ずしも統制のとれたものではないが、概ね共通する事は減税や規制廃止などの主張を通じて「政府規模の制限、私有財産の保護、自由の拡大」を訴えていることだ。
======【引用ここまで】======

減税運動を推進しているシンクタンク『救国シンクタンク』は、倉山氏というリフレ政策(金融緩和、事実上の財政ファイナンス)を求めるリフレ派が主催者となっており、柿埜氏といったリフレ派学者も所属しています。救国シンクタンク所属で減税運動の主唱者・渡瀬氏も、予算規模の拡大に資するリフレ政策を運動論に組み込んでいます。減税会を「政府規模の制限を訴えている」と位置付けるのは明確なウソです。

歳出削減を明示できず財源を伴わない減税運動が現実化しても、政府は社会保障財源を赤字国債で賄う今までのやり方を踏襲して政府規模を維持・拡大することでしょう。

======【引用ここから】======
世界を白くあるべきだと願っても、いきなり全て変えられるわけでもなく、現実が黒であるなら、グレーという過程を経て白に向かう必要がある。
また、現実に生きる人間集団には常識と言う「思い込み」がある。
その常識が「世界は黒」となっていれば「世界は白であるべきだ」と言ってもすぐには人を説得できないだろう。

・・・・・要は相手が常識としている黒の部分を白に向けて少しずつ拡大する為の説得の「過程」が必要なのだ。

======【引用ここまで】======

「減税すべきだ」という信仰を持つ集団、減税派・減税会。
私はかつて減税派を称していましたが、この「減税すべきだ」という信仰、減税に向けた運動論のあまりな非現実さ・滑稽さを見て、過程を経て少しずつ「減税は無理だ」という常識に復帰していきました。
減税会には、赤字国債・社会保障といった政治の現実を踏まえた話をしていただきたいものです。

======【引用ここから】======
「歳出削減」よりも「減税」を優先的に主張するべきだと考えている。
その理由は「減税」により政府歳入を減らすことによってでしか、行政改革の動機が生まれず、政府の予算策定における、歳出削減への圧力をかける事ができないからだ。

======【引用ここまで】======

2024年12月現在、国民民主党がキャスティングボードを握り、政府に「基礎控除103万円の壁を178万円まで引き上げろ」と要求しています。これが実現すれば、所得税・住民税の減税となります。

では、この減税の機運に沿って、歳出削減への圧力は生じているでしょうか。
答えは、ノーです。

自民党は国民民主党に対し
「財源はどうするの?何の予算・事業を削減するの?」
とボールを投げましたが、国民民主党は
「それは政府与党がやることだ」
といって取り合いませんでした。なお、国民民主党はこの減税要求と同時に、高校無償化などの大規模なバラマキも並行して選挙公約として打ち出しており、歳出削減をやる気は全くありません。

また、地方においても減税による税収減は生じますが、国民民主党は地方自治体に大幅な歳出削減を求めていません。
それどころか、
「減収分は地方交付税交付金で補填される」
と主張し、暗に、歳出規模は今のまま維持できると言っているのです。

このように、「減税すれば歳出削減される」という圧力は、現実の政治の中では全く生じておりません。減税派だけが叫んでいる妄想といって良いでしょう。

今の日本の財政は、社会保障給付その他の様々な政府支出に対し税収が全く足りておらず、この差額を赤字国債で埋めている状態です。国民民主党・減税派の求める今回の減税は、この差額・不足額大きくするだけのことです。

そして後半、減税会・減税派の妄想は加速します。




======【引用ここから】======
次に私自身の考えを話すために基本的な考えを述べる。
私は、小さな政府(制限された政府)を望む自由主義者であり、長期的な方向性として、減税、規制廃止、歳出削減を主張する地方議員である。

======【引用ここまで】======

この星野しょう市議、減税と歳出削減を主張する地方議員だと自称しています。
では、所属する市議会で彼はどの程度の歳出削減を要求しているかというと、
「総合計画策定に反対しその分の人件費削減を求める」
「私道の寄付に反対し整備費削減を求める」
というものでした(本人談)。
総合計画策定に反対し私道寄付に反対すること自体はとても良いことなのですが、これで削減できるのはせいぜい数百万円でしょう。
人口23万人、地方交付税交付金を20億円受け取っている大和市で、これで幾ら減税できるのでしょうか。

末端の支援者・運動員とは違い、議員として減税を主張するのであれば、減税による収入減とこれに対応する歳出削減を明示すべきです。粗でも良いので予算の大枠・構造を示すべきです。
こうした議員を政策面で支え、具体的な減収額と歳出削減額の試算を提示する役割を担うものとしてシンクタンクが期待されるところですが、減税運動を主唱している「救国シンクタンク」が歳出削減の具体化という面で全く機能していません。
星野しょう市議をはじめとした減税派の地方議員は、梯子を外されたピエロ状態になっていることに気づいているのでしょうか。

======【引用ここから】======
その上で「歳出削減」よりも「減税」を優先的に主張するべきだと考えている。
その理由は「減税」により政府歳入を減らすことによってでしか、行政改革の動機が生まれず、政府の予算策定における、歳出削減への圧力をかける事ができないからだ。

======【引用ここから】======

地方交付税交付金について大雑把な話をします。
「その自治体の人口・面積等から算出される標準的な支出額 - その自治体の税収」の差額を国が自治体に払うのが、地方交付税交付金という制度です。

地方自治体において、減税は歳出削減への圧力を生じさせるでしょうか。
その昔、名古屋市は、税収が多かったため地方交付税交付金を受け取っていませんでした。ところが、市民税減税を行ったため税収不足が生じ、以降14年間、地方交付税交付金を受け取ることとなりました。減税したのに、制度上、トータルでは歳入がそれほど減らないのです。

そもそも、名古屋市の減税日本は
「デフレ対策としての減税と財政出動」
「小さな政府と大きな公共サービス」
を掲げており、歳出削減を謳っていません。票集めのための福祉バラマキを継続し、国から地方交付税交付金を受け取って減税による減収分を補填してきました。
2024年に行われた名古屋市長選でも、当選した減税日本の候補者は減税のための事業廃止・歳出削減を打ち出すことはなく、逆に「名古屋城木造再建」というハコモノ事業に走ってしまいました。

残念ながら、地方交付税制度の枠組みの下では、地方行政に対し減税で歳出削減への圧力をかけることはできないのです。

他方、国政においても、原理は異なりますが、減税では歳出削減への圧力をかけることはできません。

======【引用ここから】======
ではなぜ国債発行が行われるのかと言えば「増税」によって将来的に政府歳入を増加させる事が可能だからだ。

しかし、前述の「黒からグレー、グレーから白」を目指す過程を思い浮かべて頂ければ、あくまでその時点での現実的な行動として「減税」が優先されているだけであり、当然だが「減税」の後に財政均衡を推し進めて「歳出削減」に繋げるのである。

======【引用ここまで】======

福祉・社会保障を中心にバラマキをし続け、歳出削減をすることができず赤字国債で穴埋めしてきた結果、GDP比で世界最悪の借金国となりました。この国債の元利償還と社会保障給付が増税圧力となっています。毎年、35兆円規模の国債を発行しています。
過去の国債を償還しつつ、現在の税収不足を解消し毎年の赤字国債発行を抑制するためには、増税と歳出削減を組み合わせて行わなければなりません。政治の現実を踏まえた時、「減税」が出てくる余地はありません。

財政均衡のためのルールとして、アメリカではペイアズユーゴ―法や債務上限が設定されています。EUでも加盟国の債務上限に関するルールが存在します。こうしたルールは、いずれも「歳出削減か増税によって赤字国債発行を抑制せよ」とするものです。
日本には、財政均衡のためのルール・慣行が全く存在せず、赤字国債を垂れ流し世界最悪の累積債務を築いてきました。この傾向は財政破綻するその瞬間まで続くでしょう。

減税しても破綻するまで赤字国債を発行しますよ、日本は。
おそらく、債務不履行・デフォルトとなるその直前まで赤字国債を発行することでしょう。
「減税すれば赤字国債を発行しなくなる」という財政規律は、日本ではとっくの昔に捨て去られてしまっています。

日本に必要なのは、歳出削減をすること。そして、財政均衡のためのルールを導入し慣行として定着させること、です。
こうした取組なしに、赤字国債発行を止めるあてのない減税を先行させることは有害なのです。
減税は無条件に良い政策ではありません。

減税派・減税会の人とやりとりをすると、高確率で
「私たちは減税を求める。歳出削減を求めたければそっちで勝手にやれ」
という捨て台詞が出てきます。
私は、
「財源のない減税、歳出削減を伴わない減税は無責任で有害だからやめろ」
と言っているのです。話がなかなか噛み合いませんね。

======【引用ここから】======
また別の角度からの理由としては
1、 政府であろうが、地方自治体であろうが「基本的」には歳入の予想額から歳出を考えるので、減税によって歳入を減らすことで内側から行政改革や歳出削減の圧力がかかる。

======【引用ここまで】======

政府と地方自治体の財政の仕組みはまるっきり異なります。

地方自治体は歳入の予想額から歳出を考えますが、ある程度は税収減を地方交付税交付金でカバーできてしまうシステムのため、減税がそのまま歳入減にはならず歳出削減の圧力にはなりません。上述の名古屋市のとおりです。

政府の場合、社会保障制度や地方交付税制度などによって先に歳出の見込みが設定され、これを税収で賄えるかどうか、賄えないのであれば増税か赤字国債か、という流れで予算の大枠が組まれます。社会保障制度や地方交付税制度を変えることができなければ、増税か赤字国債かその両方か、の三択になります。

======【引用ここから】======
2、 歳入減少により発生する行政改革や歳出削減圧力の過程で既得権益の代表者である政治家同士が戦う過程が発生するが、政治家以外の立場から見れば楽である。
======【引用ここまで】======

現実には、星野しょう市議をはじめ減税派の議員が、減税に足りるだけの大幅な歳出削減を打ち出すことから逃げ回っており、政治家同士が戦う過程が発生していません(笑)。地方議員も政治家でしたよね(笑)。

======【引用ここから】======
3、 歳出削減から始めるということは、予算があるのに使わない状態になるので一時的にでも金を余らせる事になる。そして権力を拡大したい政府や行政又は政治家がその金を自発的に減税に充てるということは考えにくく、他の事に予算を付け替えてしまうだろう。
======【引用ここまで】======

この「削減した予算の付け替え」論は、地方自治体では発生しますが、政府、特に今の日本政府では基本的に発生しません。
税収の範囲内でやりくりをしている状態であれば、事業Aを廃止して浮いた予算で事業Bを行うという「削減した予算の付け替え」が生じます。ところが、今の日本政府は、事業Aと事業Bが税収では足りず、事業Bを丸ごと赤字国債で賄っているような状態です。事業Bを廃止すれば赤字国債を減らすだけであり、予算は余りません。

日本政府は、先に社会保障制度等から発生する費用の見込みを積み上げ、税収で賄えるかを計算し、賄えない分を赤字国債で補うということをこの数十年繰り返してきました。歳出削減がされれば、赤字国債の発行が減らせます。例年の赤字国債発行額35兆円以上の歳出削減がされて初めて、35兆円を超えた削減額の分だけ減税が可能になります。

======【引用ここから】======
4、 同じく歳出削減から始めると、特定の既得権益者から予算を外す事になり、相当の抵抗が考えられる。場合によっては身体的な迫害も覚悟しなければならないだろう。
======【引用ここまで】======

何を削るかの合意形成を後回しにして目先の減税を決めることで、政治力の弱い分野・業界の予算から削られることになります。それすら抵抗が強ければ、歳出削減を諦めて赤字国債でツケを回すことになります。
今の日本は、景気対策としての減税やバラマキ、増税の先送り、社会保障給付見直しの先送り、これらの積み重ねによって膨大な赤字国債を積み上げてしまいました。この利払いが今の増税圧力となっています。日銀がインフレ抑制のために金利を上げれば、利払いはさらに膨らみます。この状況で大幅な歳出削減を伴わない減税をすれば、「債務の償還が滞るのではないか」という信用不安を招き、国債の格付け下落、金利上昇を招きインフレ税が重く国民生活にのしかかってくることでしょう。

アルゼンチンのミレイ大統領のように、相当な覚悟をもって省庁の廃止や歳出削減を打ち出す必要があります。財源なき目先の減税を吹いて回る議員は徹底的に批判しますが、大幅な歳出削減を掲げる議員は応援します。

星野しょう市議が、大和市議会において、市長に対し大和市役所の何課を「アフエラ!!」と主張するのか、そして、大和市議会から『政府に○○省の廃止を求める意見書』を出すのか、楽しみにして待っていましょう。

-------(追記)-------

リフレ派救国シンクタンクで減税運動主唱者・渡瀬氏の信者の減税派の方から、よく、

「若年寄は地方公務員を辞めて歳出削減しろ。それが行革だ」

と言われます。
ところが残念ながら、私のような末端の地方公務員が辞めても、事業廃止・歳出削減できなければポストは残ります。空いたポストに後任者が座るので、トータルで人件費は減りません。事業廃止、歳出削減に努めてはいるものの、私が無能で非力なため、なかなか上司の賛同を得られず、事業廃止にまで漕ぎ着けることができないでいます。

他方、地方議会の場合、議員定数は議員提案で変えることができます。議員が定数削減を謳って定数条例改正を提案し可決されれば、ポストそのものを減らし人件費を削減することができます。

大和市議会で最下位当選だった星野しょう市議が議員定数削減条例案を出して可決されれば、星野しょう市議が議員を辞めてポストが減って人件費を削減できます。
おそらく、この方法が、星野しょう市議にできる唯一の行革だと思いますが・・・いかがでしょうか。
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食料供給困難事態対策法案~自由軽視・市場軽視~

2024年03月03日 | 政治
1年以上間隔が空いての記事投稿となります。

さて、こんな記事を見かけました。

農家に増産指示、罰金も 食料危機時の対策法案、概要判明(共同通信) - Yahoo!ニュース
======【引用ここから】======
農林水産省が食料・農業・農村基本法改正案と併せて今国会に提出する食料供給困難事態対策法案(仮称)の概要が8日、分かった。コメ、小麦、大豆などが不足する食料危機時に政府が供給目標を設定。農家に増産計画の届け出を指示できるとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科す。

対策法案は、食料安全保障の確保を柱に据えた基本法改正案の内容を具体化する役割を持つ。2月下旬にも国会に提出する。

コメ、小麦、大豆のほかに「国民が日常的に消費するもの」や「国民の食生活に重要なもの」を政令で「特定食料」に指定し、出荷・販売業者にも供給量を調整する計画の届け出を指示できるとした。

======【引用ここまで】======

記事タイトルでは
農家に増産指示、罰金も
とあるのに、記事本文では
農家に増産計画の届け出を指示できるとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科す
と。
増産指示に従わなかった場合と、増産計画の届け出の指示に従わなかった場合とを混同させています。
見出し詐欺感の否めない共同通信記事でした。

上記記事を読んだ時点の感想としては、
「役所が生産量を把握し出荷・販売業者の供給量を調整するとか絶対無理でしょwどこの共産国なんだwww」
という笑いしかおきませんでした。

さて、この共同通信記事に対し旧ツイッター上で、次のようなブログ記事を見つけました。

『食料供給困難事態対策法案 農家に増産指示、罰金も』一部報道について農水省に聞いてみました | あるのは探究心



へぇ。農水省に直に聞いてみた人がいるのか・・・ということで読んでみました。





この中で注目すべき箇所は次のとおり。

======【引用ここから】======
① 事業者(生産者)の理解と協力の下で措置を行うことを基本に、国が生産を拡大すべき量等を提示した上で、事業者の自主的な取組を促す「要請」を行うこと

② 要請のみでは必要な量が確保できない場合に限り、「計画作成の指示」等を行うこと

======【引用ここまで】======

======【引用ここから】======
① 要請については事業者の自主的な取組を求めるものであるため罰則は設けないこと

② 一方で、計画作成の指示に対して届出がなければ、確保可能な供給量を把握できず、計画変更指示の必要性も判断できないことから、計画作成の指示違反については罰則(罰金)を設けることが妥当と考えられること

③ 計画に沿った事業の実施等への対応についても担保措置は必要であるが、抑制的であるべきであることから、生産資材や労働力の確保ができない場合などやむを得ない理由がある場合は除き、罰則によるのではなく公表措置をとることが妥当と考えられること

======【引用ここまで】======

【「要請」行政】

まず気になったのは、コロナ対策禍で何度も見かけた「要請」行政です。
命令でもないし強制でもない、あくまで自主的な取り組みを促すに過ぎないはずの要請。
しかし、政府・自治体の活動の根拠にはなる。
そして、「要請」に違反した者に対しては勧告を出し、勧告に従わなければ命令や罰金の対象となる・・・
といった一連の流れが、『グローバルキッチン 対 東京都』の裁判でも問題とされました。
損害賠償こそ棄却されたものの、東京都側の違法が認定されて判決は確定しています。

この「要請」行政は、社会的圧力を生む要因になる、位置づけが曖昧で取り扱いが難しい、として行政側でも問題視されている代物です。
(たとえば、
新型コロナのまん延防止を目的とした「要請」についての法的検討
を参照のこと。)
こうした懸念に対し、農水省に聞いてみたブログでは農水省の資料と見解を載せるのみで、なんの言及もありません。
29歳の農家さんにそこまで期待するのはちょっと無理だったようです。

【罰則の範囲】

次に。
冒頭紹介した共同通信記事では、
タイトル「農家に増産指示、罰金も
記事本文「農家に増産計画の届け出を指示できるとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科す
となっていました。
この点、農水省に聞いてみたブログでは、共同通信記事本文と同様、計画作成の指示違反、計画未届出が罰金の対象となるとされています。

そして注目すべきは、
③ 計画に沿った事業の実施等への対応についても担保措置は必要であるが、抑制的であるべきであることから、生産資材や労働力の確保ができない場合などやむを得ない理由がある場合は除き、罰則によるのではなく公表措置をとることが妥当と考えられること
の箇所。

整理しましょう。
〇 農家が増産計画の届け出の指示に従わなかった場合(計画未提出)・・・罰金
〇 届け出た計画に沿った増産等を行わなかった場合・・・公表
となります。

この「公表」も、コロナ対策禍において、事実上の強制・社会的圧力の要因となったものであるのは周知の事実ですね。
感染者が増えて複数の感染経路が考えられるにも関わらず特定の飲食店を感染源として「公表」し店側が損害賠償訴訟を提起したケースや、営業自粛等の「要請」に従わなかった店を「公表」して社会的圧力をかけて従わせようとしたケースなどがありました。
「公表」って、行政が直接手をくださずとも消費者や生産者等の相互監視の中で村八分的非難が行われるという点で、20万円の罰金よりもはるかに重たい制裁になりうる手法なんです。
「公表」を「抑制的」と位置付けるのは、あまりに非現実的でお役人的なものの見方だと思いますよ農水省さん?

ところで、
農水省に聞いてみたブログの主に、質問を投げかけてみたところ、不思議な回答をいただきました。





増産指示に従わなかった場合は「未提出に包摂される」・・・?
未提出に包摂されたら公表じゃなくて罰金になっちゃうのでは・・・?

2月27日閣議決定後の2月29日に記事をアップしているのに「他法令の例も参考にして検討を進めているところ」という農水省コメントが紹介されていたりと、なんとまあ、随分杜撰なブログだったなぁという感想です。

生産資材や労働力の確保ができない場合等やむを得ない理由があり、増産指示への対応が難しい旨の届出をした場合には罰則の対象とはならない
と農水省コメントを紹介し、
「ほら個人の自由に対してそこまで抑圧的でないんですよー、ここまでキチンと紹介しない共同通信の記事は随分杜撰だなぁ」
と農水省に尻尾を振る姿、私は真似したくありません。

【社会主義的生産調整】

さてさて。

食料供給困難事態対策法案の概要 第213回国会(令和6年 常会)提出法律案 農林水産省

政府・農水省は、農家をはじめ生産業者・販売業者に生産輸入拡大を要請し、不足が生じるおそれがある場合に計画書を作らせ、計画変更を指示し、その計画に沿った生産をさせるようです。

バターのような単一品目の需給調整に失敗した農水省が、市場価格という最も確度の高い情報を差し置いて農家提出計画で需給調整なんてできるわけがありません。食料供給困難事態に農水省が対処しようとして食料供給困難事態に拍車をかける、毛沢東やポルポトが失敗した道を辿るのでしょう。

農水省は、食料安保をテコにインセンティブ補助金をばら撒く口実を得ました。
農家は、農水省のばら撒く補助金に群がることでしょう。
この醜い光景、あと何度繰り返せば気が済むのでしょうか。
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不正採用?情報漏洩?どっち? ~ 一次筆記試験全員合格問題の再燃 ~

2022年12月27日 | 地方議会・地方政治
どうもこんばんは、若年寄です。
ほぼ休眠中の当ブログですが、久々に記事をアップ。
今回のお題は「不正採用か情報漏洩か」です。

職員採用試験、市側から情報漏洩疑い 行橋市議会、百条委設置 「不正採用で取材」議員指摘 /福岡 | 毎日新聞 2022/12/24 地方版
======【引用ここから】======
 行橋市議会は23日、2019年度以降の職員採用試験を巡り、市側から行政情報が漏洩(ろうえい)した疑いがあるとして、地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置した。同日開かれた12月定例会最終日の本会議に議員提案され、議長を除く18人中、賛成17人、反対1人で可決した。
======【引用ここまで】======

最近、活字離れで読解力が低下していたようです。
新聞記事の見出しに
職員採用試験
不正採用
とあり、本文冒頭に
職員採用試験を巡り、市側から行政情報が漏洩した疑い
と書いてあるので、私はてっきり

「行橋市が職員採用に関する情報を漏洩した不正採用試験を実施した件で、行橋市議会がこれを調査する特別委員会を設置した」

と思ったんです。
ところがどっこい。
上記記事の続きを読み進めると、違う内容が書かれていました。

======【引用ここから】======
 提出者の田中建一市議は提案理由で、「20年4月以降に採用された職員らに対し、報道機関から不正採用に関する取材があった」と指摘。市側から捜査機関や報道機関への情報漏洩や、正規の手続きを経ずに行政情報が提供された疑いがあるとして、「市長部局の情報管理のあり方を議会として検証する必要がある」と述べた。
======【引用ここまで】======

市から捜査機関や報道機関への情報漏洩があった疑惑を調査する特別委員会、だそうです。
「不正な採用試験を追及する特別委員会」
というのは私の誤読で、
「報道機関や捜査機関への情報漏洩を追及する特別委員会」
というのが正解でした。

【誤読した理由】


ちょっと言い訳をします。
私が冒頭誤解した読み方をしてしまったのには、訳があります。
この件について、私は先入観を持っていました。

合格ライン操作は 実在する!?(1次筆記試験3割得点でも合格できる行橋市職員採用試験) - 若年寄の遺言

この2020年に書いた記事の内容をひと言でまとめますと、

一次筆記試験を受験した人全員が一次筆記試験をクリアできるよう、市がボーダーラインを底まで下げた

という、全国でも類を見ない超ド級の不正疑惑試験を紹介したものです。
この時の記憶があったので、冒頭の新聞記事を読んだ時、

「行橋市議会も2年越しでやっと不正な採用試験の追及を始めたか」

と思ったのです。
しかしこれは、思い込みに起因する誤読でした。

【本当に追及すべきはどっち?】


「行橋市職員採用試験情報漏えいの疑い」市議会が百条委設置|【西日本新聞me】2022/12/24 6:00
======【引用ここから】======
 今議会の一般質問でこの問題についてただした小見祐治議員によると、職員採用を巡って今年9月ごろ、20年以降に採用された複数の市職員の元に報道機関が取材に訪れた▽別の市職員が警察に呼ばれた▽心労で一時仕事を休んだ市職員もいた―という。小見議員は、受験者の点数や順位が正当な手続きを経ず外部に漏れた可能性があるとみている。
   -----(中略)-----
 百条委は、採用試験の検証は目的としていない。
======【引用ここまで】======

行橋市議会が追及するのは、あくまで行橋市から報道機関や捜査機関への情報漏洩である様子。
職員採用試験におけるボーダーライン設定と一次筆記試験全員合格は、検証の対象外とのこと。

本当に追及すべきはどっちなのでしょうか。

ところで、この西日本新聞記事では
20年以降に採用された複数の市職員の元に報道機関が取材に訪れた
と記載されていますが、これは情報漏洩によって引き起こされたものなのでしょうか。
この記事内容からは、受験者の点数や順位の漏洩があったとは直ちに判断できません。
県庁であれば、ヒラも含めた職員録をネットで公開、あるいは一般に販売しています。
公務における職員の氏名、所属などはそもそも公開可能な情報ですし、開示請求すれば採用年度も公開されるでしょう。
職員録を年度ごとに集めれば、採用年度を自力でチェックすることも当然可能です。
(この市役所では、職員の氏名と配属先も非公開なのでしょうか?)

それとも、取材を受けた複数の市職員や警察に呼ばれた別の市職員が、ピンポイントにボーダーライン付近の低順位者だけだったのでしょうか。
これならば話は違ってきます。受験者の点数や順位が漏洩していた可能性があります。

・・・・・おや?

追及している議員は、受験者の点数や順位を知っていたから、取材を受けた市職員や警察に呼ばれた市職員の名前を聞いて
受験者の点数や順位が正当な手続きを経ず外部に漏れた
と判断したのでしょうか。
そうなると、この市議会議員に受験者の点数や順位を漏らした人物が、報道機関や捜査機関にも漏らしたと考えるのが妥当ではないでしょうか。
受験者の点数や順位を知り得る人はそう多くないでしょうから。

さて、

また私の読解力不足かもしれませんが、この西日本新聞記事を読んで、私は

「報道機関の取材を受けた複数の市職員≠警察に呼ばれた市職員=心労で一時休んだ市職員」

と認識したのですが、もしそうだとしたら、同じ職場の職員等なら
「この前心労で休んだあの人が警察に呼ばれたのか」
と特定できてしまう可能性は高いです。
これって、一般質問を通じた情報漏洩ではないでしょうか。

本当に追及すべきはどっちなのでしょうか。

【今後の展開】


さて、情報漏洩を調査する百条委員会が設置されたわけですが、今後、どうなるのでしょうか。
地方自治法第100条の規定による委員会ですので、宣誓をさせた上での証人喚問が出来るなど、通常の委員会よりも重みがあります。

誰を、どのように調べるのでしょうか。
どの情報が、誰から誰に伝わったのか、どこまで判明するでしょうか。

市職員を取材した報道機関の人や、市職員を呼んで取り調べた警察の人を呼んで、
「誰からその市職員の事を聞いた?」
と尋ねるのでしょうか。
市長、副市長、人事担当部課長を個別に呼んで
「情報漏らしたのはお前だろ」
と詰めるのでしょうか。
市職員の誰が取材を受けて、誰が取り調べを受けたのか等に触れない訳にもいかないでしょう。
委員会の中ではどの程度まで個人情報を保有できるのでしょうか。

振り上げた拳の下ろし所が分からなくなって、迷走して暗礁に乗り上げてしまわないでしょうか。
調査委員会の委員長による高度な舵取りが求められます。
報道機関や捜査機関への「適法な情報提供」と「違法な情報漏洩」、この分水嶺を間違えると、場合によっては
「市議会による報道の自由や知る権利への侵害」
「市議会による捜査妨害」
になりかねないので、注意が必要です。






【採用試験の不正は許されるのか】


採用試験。

受験者の生涯を左右しかねない、重みのある関門。

一点差でこの関門を突破できた者と、一点差でこの関門に阻まれた者とが峻別される。

採用試験や資格試験における一次筆記試験では、この一点差をいかにクリアするかに1年間を費やす。
受験者によっては、まさにこの一点差に人生懸けて臨んでくる。

その位に重みのある一次筆記試験で、
「ボーダーラインを下げて全員合格にしました~」
というのは、受験者を舐めているとしか言いようがない。

(この記事を書いていて、2年越しに怒りが甦ってきた)
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今日の減税、明日の増税、令和末期の大増税

2022年10月31日 | 政治
先日、こんなニュースが飛び込んできました。

経済対策、第2次補正予算案29.1兆円程度に 異例の規模:朝日新聞デジタル 西尾邦明2022年10月27日 19時42分
======【引用ここから】======
 政府は27日、総合経済対策の裏付けとなる2022年度第2次補正予算案を一般会計で29・1兆円程度とする方針を固めた。
   -----(中略)-----
 財源は21年度の剰余金や好調に推移している税収の上ぶれ分も使うが、大半を国の借金である赤字国債でまかなう。国債残高は約1千兆円あり、財政の悪化が避けられない情勢だ。
======【引用ここまで】======

「大半を赤字国債でまかなう」とありますが、割合や細かい数字が不明。
なので、補正額を29.1兆円、全額赤字国債と仮定して表にまとめてみましょう。



一般会計総額が139兆円、その約半分の68兆円の国債を発行するという、狂気を感じる数字になっています。

この数字を頭に置いたうえで、私のツイートがこちら。



私の脳内イメージを、さっきの表につなげてみましょう。
こんな感じ。



社会保障、社会保障以外、地方交付税を半分にして、コロナ関連のバラマキや補正による景気対策、物価高対策などのバラマキを全廃して、やっと、国債発行ゼロかつ7兆円くらいの減税ができるようになります。

子供世代、孫世代への負担を軽くするためには、今の社会保障や地方交付税といった様々なものを半減するくらいの険しい茨の道を避けては通れません。私はこの規模の緊縮財政が必要だと考えています。そこまでやって、やっと減税が見えてくると考えています。

これに対し噛みついてきた減税派の方がいたので、紹介します。





「バラマキの財源で減税可能」
「それを原資に減税した方が良いというのは、現実に即した常識的な議論」

だそうです。

この主張に基づいて、先ほどの表に追加してみましょう。
バラマキ補正予算は赤字国債が財源でしたから、そこを財源として据え置きにしつつバラマキ補正予算をゼロにするとこうなります。



すごいですね!!
36.7兆円の減税ができるので、消費税廃止も夢じゃない!

・・・国債の68.7兆円、どうすんの?
これが現実に即した常識的な議論?
笑わせんなよ。
このように減税の財源を国債とすることで、後日、償還費用が増税圧力となって返ってきます。
「今日の減税、明日の増税、令和末期の大増税」
です。

減税派の議論を見ていますと、甘い。
甘いと言わざるを得ません。
ちょっと無駄な歳出を見つけると、鬼の首をとったように
「またこんな無駄な事業をやっている!税金は余っている!減税だ!」
と騒ぐのですが、しかし、実際は余っていません。

バラマキの原資は国債であり、国債を積み増して無駄なことをやっているのです。まずはこの国債をどうにかしないといけません。全てのバラマキを止めると同時に、社会保障であっても半減するくらいの覚悟がないと、減税までたどり着きません。
それくらい、国債に依存した今の政府・国民の体質は厄介だということです。

「バラマキの財源で減税可能」
などという寝言は、MMTerだけにしてほしいものです。
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最低賃金を何円上げれば良いか、アトキンソン氏は知ることができる(んなわけない)

2022年07月25日 | 政治
ちょっと前に、ノーベル経済学賞の事が話題になりました。

ノーベル経済学賞を受賞したカードによる最低賃金の研究をどこよりもわかりやすく解説! | 「原因と結果」の経済学 | ダイヤモンド・オンライン
======【引用ここから】======
 この問題に挑んだのがカリフォルニア大学バークレー校のデビッド・カードとプリンストン大学のアラン・クルーガーである。彼らは、ニュージャージー州とペンシルベニア州の境界をまたいで隣り合う郡に着目した。アメリカでは、最低賃金の変更は州ごとに行われるので、1992年にニュージャージー州だけは最低賃金を4.25ドルから5.05ドルに上げ、ペンシルベニア州では据え置かれるということが起こった。
----(中略)----
 カードらの分析の結果、最低賃金の上昇は雇用を減少させないことが明らかになった(注1)。また、最低賃金の上昇は、ニュージャージー州の企業による価格の上昇をもたらしていることも明らかになった。つまり、企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、価格に転嫁することによって切り抜けようとしたのである。
======【引用ここまで】======

RIETI - ノーベル経済学賞に米3氏 「自然実験」で因果関係推定
======【引用ここから】======
両氏は問題解決のため、ペンシルベニア州東部と同一の経済圏に属するニュージャージー州で、92年に最低賃金が引き上げられたことに注目した。低賃金労働者が多いファストフード店の雇用変動を調べると、多くの経済学者の予想に反して、最低賃金が引き上げられたニュージャージー州の雇用はペンシルベニア州東部に比べ若干増えていた。
----(中略)----
理論面でも、最低賃金の引き上げが雇用を減らさない理由として、現状の労働市場では、企業が賃金を決める力を持つ状態(モノプソニー)が成立しているとする仮説が注目された。
======【引用ここまで】======

この、モノプソニーとは何でしょうか。

日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける | 国内経済 | 東洋経済オンライン | デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長
======【引用ここから】======
「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します。つまり低賃金なのは一種の「搾取の結果」であり、必ずしもその人が低スキルだからではないと考えるのです。
======【引用ここまで】======

強い力をもつ企業が労働者を搾取する・・・懐かしい響きですね。

真新しい概念であるどころか、古い古いマルクス主義を焼き直しただけの主張です。こんな古い概念が今さらになってノーベル経済学賞を取ったのかと驚く方もいるかもしれません。ノーベル平和賞と経済学賞はいつものことながら眉唾ものです。

さて。

この「モノプソニー」による搾取が生じるのはどういうメカニズムなのか。上記のアトキンソン氏が解説しています。ちょっと長くなりますがご覧ください。

日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける | 国内経済 | 東洋経済オンライン | デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長
======【引用ここから】======
以下のケースをご覧ください。最低賃金の引き上げによって企業が雇用を増やすメカニズムが明白になります。

時給1000円で1000人を雇用している企業があり、同じ仕事をする人をもう1人新たに雇用すると、1時間あたり1200円の収益が上がるとします。この場合、労働市場が完全競争だと1200円の時給を払わないといけないのですが、「モノプソニー」の力が働くと1000円で雇えるため、利益が200円も余計に増えます(この200円が「搾取」にあたります)。

労働市場の状況が変わって1000円で雇える人がいなくなり、新しい人を雇用するには時給1100円を払わなくてはいけなくなったとします。これでも、この新しい人は高い利益率を生み出すのですが、企業はこの人を雇わないと考えられます。

なぜなら、新しい人に時給1100円を支払うと、すでに雇用されて同じ仕事をしている1000人の時給も、1000円から1100円に引き上げなければならないからです。この場合の人件費の増加は、新しい人に支払う1100円だけではなく、1000人×100円+1100円=10万1100円となります。たとえ赤字にならないとしても、利益が大きく削られることになるので、新しい人が雇われることはありません。

このケースで、仮に政府が最低賃金を1100円に上げると、新しい人を雇うにせよ雇わないにせよ、既存の1000人の時給は1100円にしなくてはいけなくなります。この場合、経営者にとって、新しい労働者を雇うことで生まれる新たなコストは時給分の1100円だけです。1200円の収益は超えていませんから、削られた過剰利益を少しでも取り戻すために、新しく人を雇います。

これが、「モノプソニー」による搾取の範囲内なら、最低賃金を引き上げても、雇用が減るどころか増えることになるメカニズムです。

======【引用ここまで】======

この説明では、ある企業の限界生産性が1時間あたり1,200円であると簡単に説明されています。限界生産性が1,200円なのに、1,000円で雇用している、1,000円で雇用できてしまう最低賃金はおかしい、この差額200円が搾取されている、という主張です。

アトキンソン氏は、限界生産性が1,200円の企業であれば、労働市場の状況が変わって1,000円から1,100円になった際に、最低賃金を1,100円に引き上げれば雇用が増える、と力説します。

しかし、これを可能にするためには、

・企業の限界生産性が1,200円であることが事前に分かっている。
・労働市場が1,000円から1,100円になった。
・今だ!1,100円に最低賃金を引き上げろ!

という金額の大小関係が成り立つ地域とタイミングでの政策決定ができる場合に限られます。

【限界生産性を1円単位で正確に予測する?】

ノーベル経済学賞をとったカード氏の1992年ニュージャージー州の事例でも、事前に限界生産性を把握していた訳ではありません。最低賃金を5.05ドルに引き上げたが雇用が減らず若干増えたという現象から、おそらく、ニュージャージー州のこの当時の多くの企業での限界生産性が5.05ドルを少し上回っていたのだろう、という推測が成り立つに過ぎません。

私、企業の限界生産性を正確に1円単位まで計算できたものを見たことが無いんですよ。ましてや、ある地域全体における限界生産性の水準を1円単位でとなると、断言しましょう、不可能ですよ。最低賃金を計算するための推計なんですから、もちろん1円単位でお願いします。

もし、このカード氏らの研究で、この限界生産性を事前に推計し、A州では4.5ドル、B州では5.0ドルと予想したうえで、AB両州が最低賃金4.2ドルから4.8ドルに引き上げ、A州では失業が増えB州では雇用が増えたという観測が出来たなら、
「すごい!!!!」
って思いますよ。

でも、そういった実証をしたわけではありません。ニュージャージー州はたまたま5.05ドルに引き上げ、隣のペンシルベニア州ではたまたま最低賃金を据え置いただけです。そのたまたまの結果から、こういう因果関係が成り立つのではないかという仮説を述べたに過ぎません。

【アトキンソン氏がすべきこと】

アトキンソン氏は、

データ分析に基づいて「モノプソニー」の力を測り、その範囲内で適切に、毎年最低賃金を引き上げていくと同時に、中小企業の統廃合を進めて規模を拡大し、産業構造を強化するべきだ

と主張します。
しかし、どうやって限界生産性を正確に掴み、その範囲内で最低賃金を上げるということができるのでしょうか。その点に関する実績が無いにも関わらず、「これが日本を救う道」と大言壮語しているのです。データ分析をミスって限界生産性を超えた最低賃金引上げをやってしまった場合の責任をアトキンソン氏は取らないし、取れないというのに。

アトキンソン氏がやるべきは、日本全体における限界生産性という雲を掴むような話ではなく、小西美術工藝社という自身が経営する会社の限界生産性を正確に把握し、その限界まで従業員の賃金を引き上げることです。

日本では県ごとに最低賃金を設定しています。県の規模で限界生産性を1円単位で把握するのは不可能じゃなかろうかと思うのですが、アトキンソン氏ほどのデータ分析のプロであれば、自身が経営する会社の限界生産性を把握する位ならどうにかなるんじゃないですかね。

ところで、冒頭のダイヤモンド・オンライン記事では、

最低賃金の上昇は、ニュージャージー州の企業による価格の上昇をもたらしていることも明らかになった。つまり、企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、価格に転嫁することによって切り抜けようとした

と解説があります。
小西美術工藝社では、限界生産性まで従業員の賃金を引き上げた際、価格に転嫁するのでしょうか。それとも、数年前に流行った

#くいもんみんな小さくなってませんか日本


みたいな事をするのでしょうか。アトキンソン氏がどこにしわ寄せをするのか、興味深く見守りたいと思います。

【アトキンソン氏の矛盾】

最後に、アトキンソン氏のコラムの中で辻褄の合わない部分を指摘したいと思います。

アトキンソン氏は、モノプソニーの説明の中で、

「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します

と述べています。
売り手たる労働者が多く買い手たる企業が少ない買い手市場では、モノプソニーが容易に成り立ちます。逆に、様々な賃金・労働条件を提示して雇用を求める企業が多数存在する売り手市場では、企業が労働者の足元を見て買い叩くのは難しくなります。

モノプソニーの成立を妨げるためには、買い手たる企業が多数いること、雇用が流動的であることが必要です。本来であれば、雇用の流動性を高めるために解雇規制を撤廃し、企業の新規参入を妨げる各種規制も撤廃し、多数の買い手が出現できる状況を目指すべきです。

ところが、モノプソニーの弊害を強調するアトキンソン氏であるにもかかわらず、

データ分析に基づいて「モノプソニー」の力を測り、その範囲内で適切に、毎年最低賃金を引き上げていくと同時に、中小企業の統廃合を進めて規模を拡大し、産業構造を強化するべきだと強調してきました。

と、買い手の数を少なくして統廃合を進めよ、いわば寡占化を進めよと述べてコラムを締めくくっているのです。

アトキンソン氏の主張に沿った政策が実現すれば、寡占化した企業の下でモノプソニーの強化が図られ、最低賃金は「当たるも八卦当たらぬも八卦」な限界生産性予想に基づく引上げが行われ、外れれば失業者が増えるという世の中になります。
当たれば雇用は増えるかもしれませんが、その増えた雇用で、企業から政府へデータ提供事務とかをやらせるのでしょう。

嫌だなぁ。
コメント
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