若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

食料供給困難事態対策法案~自由軽視・市場軽視~

2024年03月03日 | 政治
1年以上間隔が空いての記事投稿となります。

さて、こんな記事を見かけました。

農家に増産指示、罰金も 食料危機時の対策法案、概要判明(共同通信) - Yahoo!ニュース
======【引用ここから】======
農林水産省が食料・農業・農村基本法改正案と併せて今国会に提出する食料供給困難事態対策法案(仮称)の概要が8日、分かった。コメ、小麦、大豆などが不足する食料危機時に政府が供給目標を設定。農家に増産計画の届け出を指示できるとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科す。

対策法案は、食料安全保障の確保を柱に据えた基本法改正案の内容を具体化する役割を持つ。2月下旬にも国会に提出する。

コメ、小麦、大豆のほかに「国民が日常的に消費するもの」や「国民の食生活に重要なもの」を政令で「特定食料」に指定し、出荷・販売業者にも供給量を調整する計画の届け出を指示できるとした。

======【引用ここまで】======

記事タイトルでは
農家に増産指示、罰金も
とあるのに、記事本文では
農家に増産計画の届け出を指示できるとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科す
と。
増産指示に従わなかった場合と、増産計画の届け出の指示に従わなかった場合とを混同させています。
見出し詐欺感の否めない共同通信記事でした。

上記記事を読んだ時点の感想としては、
「役所が生産量を把握し出荷・販売業者の供給量を調整するとか絶対無理でしょwどこの共産国なんだwww」
という笑いしかおきませんでした。

さて、この共同通信記事に対し旧ツイッター上で、次のようなブログ記事を見つけました。

『食料供給困難事態対策法案 農家に増産指示、罰金も』一部報道について農水省に聞いてみました | あるのは探究心



へぇ。農水省に直に聞いてみた人がいるのか・・・ということで読んでみました。





この中で注目すべき箇所は次のとおり。

======【引用ここから】======
① 事業者(生産者)の理解と協力の下で措置を行うことを基本に、国が生産を拡大すべき量等を提示した上で、事業者の自主的な取組を促す「要請」を行うこと

② 要請のみでは必要な量が確保できない場合に限り、「計画作成の指示」等を行うこと

======【引用ここまで】======

======【引用ここから】======
① 要請については事業者の自主的な取組を求めるものであるため罰則は設けないこと

② 一方で、計画作成の指示に対して届出がなければ、確保可能な供給量を把握できず、計画変更指示の必要性も判断できないことから、計画作成の指示違反については罰則(罰金)を設けることが妥当と考えられること

③ 計画に沿った事業の実施等への対応についても担保措置は必要であるが、抑制的であるべきであることから、生産資材や労働力の確保ができない場合などやむを得ない理由がある場合は除き、罰則によるのではなく公表措置をとることが妥当と考えられること

======【引用ここまで】======

【「要請」行政】

まず気になったのは、コロナ対策禍で何度も見かけた「要請」行政です。
命令でもないし強制でもない、あくまで自主的な取り組みを促すに過ぎないはずの要請。
しかし、政府・自治体の活動の根拠にはなる。
そして、「要請」に違反した者に対しては勧告を出し、勧告に従わなければ命令や罰金の対象となる・・・
といった一連の流れが、『グローバルキッチン 対 東京都』の裁判でも問題とされました。
損害賠償こそ棄却されたものの、東京都側の違法が認定されて判決は確定しています。

この「要請」行政は、社会的圧力を生む要因になる、位置づけが曖昧で取り扱いが難しい、として行政側でも問題視されている代物です。
(たとえば、
新型コロナのまん延防止を目的とした「要請」についての法的検討
を参照のこと。)
こうした懸念に対し、農水省に聞いてみたブログでは農水省の資料と見解を載せるのみで、なんの言及もありません。
29歳の農家さんにそこまで期待するのはちょっと無理だったようです。

【罰則の範囲】

次に。
冒頭紹介した共同通信記事では、
タイトル「農家に増産指示、罰金も
記事本文「農家に増産計画の届け出を指示できるとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科す
となっていました。
この点、農水省に聞いてみたブログでは、共同通信記事本文と同様、計画作成の指示違反、計画未届出が罰金の対象となるとされています。

そして注目すべきは、
③ 計画に沿った事業の実施等への対応についても担保措置は必要であるが、抑制的であるべきであることから、生産資材や労働力の確保ができない場合などやむを得ない理由がある場合は除き、罰則によるのではなく公表措置をとることが妥当と考えられること
の箇所。

整理しましょう。
〇 農家が増産計画の届け出の指示に従わなかった場合(計画未提出)・・・罰金
〇 届け出た計画に沿った増産等を行わなかった場合・・・公表
となります。

この「公表」も、コロナ対策禍において、事実上の強制・社会的圧力の要因となったものであるのは周知の事実ですね。
感染者が増えて複数の感染経路が考えられるにも関わらず特定の飲食店を感染源として「公表」し店側が損害賠償訴訟を提起したケースや、営業自粛等の「要請」に従わなかった店を「公表」して社会的圧力をかけて従わせようとしたケースなどがありました。
「公表」って、行政が直接手をくださずとも消費者や生産者等の相互監視の中で村八分的非難が行われるという点で、20万円の罰金よりもはるかに重たい制裁になりうる手法なんです。
「公表」を「抑制的」と位置付けるのは、あまりに非現実的でお役人的なものの見方だと思いますよ農水省さん?

ところで、
農水省に聞いてみたブログの主に、質問を投げかけてみたところ、不思議な回答をいただきました。





増産指示に従わなかった場合は「未提出に包摂される」・・・?
未提出に包摂されたら公表じゃなくて罰金になっちゃうのでは・・・?

2月27日閣議決定後の2月29日に記事をアップしているのに「他法令の例も参考にして検討を進めているところ」という農水省コメントが紹介されていたりと、なんとまあ、随分杜撰なブログだったなぁという感想です。

生産資材や労働力の確保ができない場合等やむを得ない理由があり、増産指示への対応が難しい旨の届出をした場合には罰則の対象とはならない
と農水省コメントを紹介し、
「ほら個人の自由に対してそこまで抑圧的でないんですよー、ここまでキチンと紹介しない共同通信の記事は随分杜撰だなぁ」
と農水省に尻尾を振る姿、私は真似したくありません。

【社会主義的生産調整】

さてさて。

食料供給困難事態対策法案の概要 第213回国会(令和6年 常会)提出法律案 農林水産省

政府・農水省は、農家をはじめ生産業者・販売業者に生産輸入拡大を要請し、不足が生じるおそれがある場合に計画書を作らせ、計画変更を指示し、その計画に沿った生産をさせるようです。

バターのような単一品目の需給調整に失敗した農水省が、市場価格という最も確度の高い情報を差し置いて農家提出計画で需給調整なんてできるわけがありません。食料供給困難事態に農水省が対処しようとして食料供給困難事態に拍車をかける、毛沢東やポルポトが失敗した道を辿るのでしょう。

農水省は、食料安保をテコにインセンティブ補助金をばら撒く口実を得ました。
農家は、農水省のばら撒く補助金に群がることでしょう。
この醜い光景、あと何度繰り返せば気が済むのでしょうか。
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不正採用?情報漏洩?どっち? ~ 一次筆記試験全員合格問題の再燃 ~

2022年12月27日 | 地方議会・地方政治
どうもこんばんは、若年寄です。
ほぼ休眠中の当ブログですが、久々に記事をアップ。
今回のお題は「不正採用か情報漏洩か」です。

職員採用試験、市側から情報漏洩疑い 行橋市議会、百条委設置 「不正採用で取材」議員指摘 /福岡 | 毎日新聞 2022/12/24 地方版
======【引用ここから】======
 行橋市議会は23日、2019年度以降の職員採用試験を巡り、市側から行政情報が漏洩(ろうえい)した疑いがあるとして、地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置した。同日開かれた12月定例会最終日の本会議に議員提案され、議長を除く18人中、賛成17人、反対1人で可決した。
======【引用ここまで】======

最近、活字離れで読解力が低下していたようです。
新聞記事の見出しに
職員採用試験
不正採用
とあり、本文冒頭に
職員採用試験を巡り、市側から行政情報が漏洩した疑い
と書いてあるので、私はてっきり

「行橋市が職員採用に関する情報を漏洩した不正採用試験を実施した件で、行橋市議会がこれを調査する特別委員会を設置した」

と思ったんです。
ところがどっこい。
上記記事の続きを読み進めると、違う内容が書かれていました。

======【引用ここから】======
 提出者の田中建一市議は提案理由で、「20年4月以降に採用された職員らに対し、報道機関から不正採用に関する取材があった」と指摘。市側から捜査機関や報道機関への情報漏洩や、正規の手続きを経ずに行政情報が提供された疑いがあるとして、「市長部局の情報管理のあり方を議会として検証する必要がある」と述べた。
======【引用ここまで】======

市から捜査機関や報道機関への情報漏洩があった疑惑を調査する特別委員会、だそうです。
「不正な採用試験を追及する特別委員会」
というのは私の誤読で、
「報道機関や捜査機関への情報漏洩を追及する特別委員会」
というのが正解でした。

【誤読した理由】


ちょっと言い訳をします。
私が冒頭誤解した読み方をしてしまったのには、訳があります。
この件について、私は先入観を持っていました。

合格ライン操作は 実在する!?(1次筆記試験3割得点でも合格できる行橋市職員採用試験) - 若年寄の遺言

この2020年に書いた記事の内容をひと言でまとめますと、

一次筆記試験を受験した人全員が一次筆記試験をクリアできるよう、市がボーダーラインを底まで下げた

という、全国でも類を見ない超ド級の不正疑惑試験を紹介したものです。
この時の記憶があったので、冒頭の新聞記事を読んだ時、

「行橋市議会も2年越しでやっと不正な採用試験の追及を始めたか」

と思ったのです。
しかしこれは、思い込みに起因する誤読でした。

【本当に追及すべきはどっち?】


「行橋市職員採用試験情報漏えいの疑い」市議会が百条委設置|【西日本新聞me】2022/12/24 6:00
======【引用ここから】======
 今議会の一般質問でこの問題についてただした小見祐治議員によると、職員採用を巡って今年9月ごろ、20年以降に採用された複数の市職員の元に報道機関が取材に訪れた▽別の市職員が警察に呼ばれた▽心労で一時仕事を休んだ市職員もいた―という。小見議員は、受験者の点数や順位が正当な手続きを経ず外部に漏れた可能性があるとみている。
   -----(中略)-----
 百条委は、採用試験の検証は目的としていない。
======【引用ここまで】======

行橋市議会が追及するのは、あくまで行橋市から報道機関や捜査機関への情報漏洩である様子。
職員採用試験におけるボーダーライン設定と一次筆記試験全員合格は、検証の対象外とのこと。

本当に追及すべきはどっちなのでしょうか。

ところで、この西日本新聞記事では
20年以降に採用された複数の市職員の元に報道機関が取材に訪れた
と記載されていますが、これは情報漏洩によって引き起こされたものなのでしょうか。
この記事内容からは、受験者の点数や順位の漏洩があったとは直ちに判断できません。
県庁であれば、ヒラも含めた職員録をネットで公開、あるいは一般に販売しています。
公務における職員の氏名、所属などはそもそも公開可能な情報ですし、開示請求すれば採用年度も公開されるでしょう。
職員録を年度ごとに集めれば、採用年度を自力でチェックすることも当然可能です。
(この市役所では、職員の氏名と配属先も非公開なのでしょうか?)

それとも、取材を受けた複数の市職員や警察に呼ばれた別の市職員が、ピンポイントにボーダーライン付近の低順位者だけだったのでしょうか。
これならば話は違ってきます。受験者の点数や順位が漏洩していた可能性があります。

・・・・・おや?

追及している議員は、受験者の点数や順位を知っていたから、取材を受けた市職員や警察に呼ばれた市職員の名前を聞いて
受験者の点数や順位が正当な手続きを経ず外部に漏れた
と判断したのでしょうか。
そうなると、この市議会議員に受験者の点数や順位を漏らした人物が、報道機関や捜査機関にも漏らしたと考えるのが妥当ではないでしょうか。
受験者の点数や順位を知り得る人はそう多くないでしょうから。

さて、

また私の読解力不足かもしれませんが、この西日本新聞記事を読んで、私は

「報道機関の取材を受けた複数の市職員≠警察に呼ばれた市職員=心労で一時休んだ市職員」

と認識したのですが、もしそうだとしたら、同じ職場の職員等なら
「この前心労で休んだあの人が警察に呼ばれたのか」
と特定できてしまう可能性は高いです。
これって、一般質問を通じた情報漏洩ではないでしょうか。

本当に追及すべきはどっちなのでしょうか。

【今後の展開】


さて、情報漏洩を調査する百条委員会が設置されたわけですが、今後、どうなるのでしょうか。
地方自治法第100条の規定による委員会ですので、宣誓をさせた上での証人喚問が出来るなど、通常の委員会よりも重みがあります。

誰を、どのように調べるのでしょうか。
どの情報が、誰から誰に伝わったのか、どこまで判明するでしょうか。

市職員を取材した報道機関の人や、市職員を呼んで取り調べた警察の人を呼んで、
「誰からその市職員の事を聞いた?」
と尋ねるのでしょうか。
市長、副市長、人事担当部課長を個別に呼んで
「情報漏らしたのはお前だろ」
と詰めるのでしょうか。
市職員の誰が取材を受けて、誰が取り調べを受けたのか等に触れない訳にもいかないでしょう。
委員会の中ではどの程度まで個人情報を保有できるのでしょうか。

振り上げた拳の下ろし所が分からなくなって、迷走して暗礁に乗り上げてしまわないでしょうか。
調査委員会の委員長による高度な舵取りが求められます。
報道機関や捜査機関への「適法な情報提供」と「違法な情報漏洩」、この分水嶺を間違えると、場合によっては
「市議会による報道の自由や知る権利への侵害」
「市議会による捜査妨害」
になりかねないので、注意が必要です。






【採用試験の不正は許されるのか】


採用試験。

受験者の生涯を左右しかねない、重みのある関門。

一点差でこの関門を突破できた者と、一点差でこの関門に阻まれた者とが峻別される。

採用試験や資格試験における一次筆記試験では、この一点差をいかにクリアするかに1年間を費やす。
受験者によっては、まさにこの一点差に人生懸けて臨んでくる。

その位に重みのある一次筆記試験で、
「ボーダーラインを下げて全員合格にしました~」
というのは、受験者を舐めているとしか言いようがない。

(この記事を書いていて、2年越しに怒りが甦ってきた)
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今日の減税、明日の増税、令和末期の大増税

2022年10月31日 | 政治
先日、こんなニュースが飛び込んできました。

経済対策、第2次補正予算案29.1兆円程度に 異例の規模:朝日新聞デジタル 西尾邦明2022年10月27日 19時42分
======【引用ここから】======
 政府は27日、総合経済対策の裏付けとなる2022年度第2次補正予算案を一般会計で29・1兆円程度とする方針を固めた。
   -----(中略)-----
 財源は21年度の剰余金や好調に推移している税収の上ぶれ分も使うが、大半を国の借金である赤字国債でまかなう。国債残高は約1千兆円あり、財政の悪化が避けられない情勢だ。
======【引用ここまで】======

「大半を赤字国債でまかなう」とありますが、割合や細かい数字が不明。
なので、補正額を29.1兆円、全額赤字国債と仮定して表にまとめてみましょう。



一般会計総額が139兆円、その約半分の68兆円の国債を発行するという、狂気を感じる数字になっています。

この数字を頭に置いたうえで、私のツイートがこちら。



私の脳内イメージを、さっきの表につなげてみましょう。
こんな感じ。



社会保障、社会保障以外、地方交付税を半分にして、コロナ関連のバラマキや補正による景気対策、物価高対策などのバラマキを全廃して、やっと、国債発行ゼロかつ7兆円くらいの減税ができるようになります。

子供世代、孫世代への負担を軽くするためには、今の社会保障や地方交付税といった様々なものを半減するくらいの険しい茨の道を避けては通れません。私はこの規模の緊縮財政が必要だと考えています。そこまでやって、やっと減税が見えてくると考えています。

これに対し噛みついてきた減税派の方がいたので、紹介します。





「バラマキの財源で減税可能」
「それを原資に減税した方が良いというのは、現実に即した常識的な議論」

だそうです。

この主張に基づいて、先ほどの表に追加してみましょう。
バラマキ補正予算は赤字国債が財源でしたから、そこを財源として据え置きにしつつバラマキ補正予算をゼロにするとこうなります。



すごいですね!!
36.7兆円の減税ができるので、消費税廃止も夢じゃない!

・・・国債の68.7兆円、どうすんの?
これが現実に即した常識的な議論?
笑わせんなよ。
このように減税の財源を国債とすることで、後日、償還費用が増税圧力となって返ってきます。
「今日の減税、明日の増税、令和末期の大増税」
です。

減税派の議論を見ていますと、甘い。
甘いと言わざるを得ません。
ちょっと無駄な歳出を見つけると、鬼の首をとったように
「またこんな無駄な事業をやっている!税金は余っている!減税だ!」
と騒ぐのですが、しかし、実際は余っていません。

バラマキの原資は国債であり、国債を積み増して無駄なことをやっているのです。まずはこの国債をどうにかしないといけません。全てのバラマキを止めると同時に、社会保障であっても半減するくらいの覚悟がないと、減税までたどり着きません。
それくらい、国債に依存した今の政府・国民の体質は厄介だということです。

「バラマキの財源で減税可能」
などという寝言は、MMTerだけにしてほしいものです。
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最低賃金を何円上げれば良いか、アトキンソン氏は知ることができる(んなわけない)

2022年07月25日 | 政治
ちょっと前に、ノーベル経済学賞の事が話題になりました。

ノーベル経済学賞を受賞したカードによる最低賃金の研究をどこよりもわかりやすく解説! | 「原因と結果」の経済学 | ダイヤモンド・オンライン
======【引用ここから】======
 この問題に挑んだのがカリフォルニア大学バークレー校のデビッド・カードとプリンストン大学のアラン・クルーガーである。彼らは、ニュージャージー州とペンシルベニア州の境界をまたいで隣り合う郡に着目した。アメリカでは、最低賃金の変更は州ごとに行われるので、1992年にニュージャージー州だけは最低賃金を4.25ドルから5.05ドルに上げ、ペンシルベニア州では据え置かれるということが起こった。
----(中略)----
 カードらの分析の結果、最低賃金の上昇は雇用を減少させないことが明らかになった(注1)。また、最低賃金の上昇は、ニュージャージー州の企業による価格の上昇をもたらしていることも明らかになった。つまり、企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、価格に転嫁することによって切り抜けようとしたのである。
======【引用ここまで】======

RIETI - ノーベル経済学賞に米3氏 「自然実験」で因果関係推定
======【引用ここから】======
両氏は問題解決のため、ペンシルベニア州東部と同一の経済圏に属するニュージャージー州で、92年に最低賃金が引き上げられたことに注目した。低賃金労働者が多いファストフード店の雇用変動を調べると、多くの経済学者の予想に反して、最低賃金が引き上げられたニュージャージー州の雇用はペンシルベニア州東部に比べ若干増えていた。
----(中略)----
理論面でも、最低賃金の引き上げが雇用を減らさない理由として、現状の労働市場では、企業が賃金を決める力を持つ状態(モノプソニー)が成立しているとする仮説が注目された。
======【引用ここまで】======

この、モノプソニーとは何でしょうか。

日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける | 国内経済 | 東洋経済オンライン | デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長
======【引用ここから】======
「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します。つまり低賃金なのは一種の「搾取の結果」であり、必ずしもその人が低スキルだからではないと考えるのです。
======【引用ここまで】======

強い力をもつ企業が労働者を搾取する・・・懐かしい響きですね。

真新しい概念であるどころか、古い古いマルクス主義を焼き直しただけの主張です。こんな古い概念が今さらになってノーベル経済学賞を取ったのかと驚く方もいるかもしれません。ノーベル平和賞と経済学賞はいつものことながら眉唾ものです。

さて。

この「モノプソニー」による搾取が生じるのはどういうメカニズムなのか。上記のアトキンソン氏が解説しています。ちょっと長くなりますがご覧ください。

日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける | 国内経済 | 東洋経済オンライン | デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長
======【引用ここから】======
以下のケースをご覧ください。最低賃金の引き上げによって企業が雇用を増やすメカニズムが明白になります。

時給1000円で1000人を雇用している企業があり、同じ仕事をする人をもう1人新たに雇用すると、1時間あたり1200円の収益が上がるとします。この場合、労働市場が完全競争だと1200円の時給を払わないといけないのですが、「モノプソニー」の力が働くと1000円で雇えるため、利益が200円も余計に増えます(この200円が「搾取」にあたります)。

労働市場の状況が変わって1000円で雇える人がいなくなり、新しい人を雇用するには時給1100円を払わなくてはいけなくなったとします。これでも、この新しい人は高い利益率を生み出すのですが、企業はこの人を雇わないと考えられます。

なぜなら、新しい人に時給1100円を支払うと、すでに雇用されて同じ仕事をしている1000人の時給も、1000円から1100円に引き上げなければならないからです。この場合の人件費の増加は、新しい人に支払う1100円だけではなく、1000人×100円+1100円=10万1100円となります。たとえ赤字にならないとしても、利益が大きく削られることになるので、新しい人が雇われることはありません。

このケースで、仮に政府が最低賃金を1100円に上げると、新しい人を雇うにせよ雇わないにせよ、既存の1000人の時給は1100円にしなくてはいけなくなります。この場合、経営者にとって、新しい労働者を雇うことで生まれる新たなコストは時給分の1100円だけです。1200円の収益は超えていませんから、削られた過剰利益を少しでも取り戻すために、新しく人を雇います。

これが、「モノプソニー」による搾取の範囲内なら、最低賃金を引き上げても、雇用が減るどころか増えることになるメカニズムです。

======【引用ここまで】======

この説明では、ある企業の限界生産性が1時間あたり1,200円であると簡単に説明されています。限界生産性が1,200円なのに、1,000円で雇用している、1,000円で雇用できてしまう最低賃金はおかしい、この差額200円が搾取されている、という主張です。

アトキンソン氏は、限界生産性が1,200円の企業であれば、労働市場の状況が変わって1,000円から1,100円になった際に、最低賃金を1,100円に引き上げれば雇用が増える、と力説します。

しかし、これを可能にするためには、

・企業の限界生産性が1,200円であることが事前に分かっている。
・労働市場が1,000円から1,100円になった。
・今だ!1,100円に最低賃金を引き上げろ!

という金額の大小関係が成り立つ地域とタイミングでの政策決定ができる場合に限られます。

【限界生産性を1円単位で正確に予測する?】

ノーベル経済学賞をとったカード氏の1992年ニュージャージー州の事例でも、事前に限界生産性を把握していた訳ではありません。最低賃金を5.05ドルに引き上げたが雇用が減らず若干増えたという現象から、おそらく、ニュージャージー州のこの当時の多くの企業での限界生産性が5.05ドルを少し上回っていたのだろう、という推測が成り立つに過ぎません。

私、企業の限界生産性を正確に1円単位まで計算できたものを見たことが無いんですよ。ましてや、ある地域全体における限界生産性の水準を1円単位でとなると、断言しましょう、不可能ですよ。最低賃金を計算するための推計なんですから、もちろん1円単位でお願いします。

もし、このカード氏らの研究で、この限界生産性を事前に推計し、A州では4.5ドル、B州では5.0ドルと予想したうえで、AB両州が最低賃金4.2ドルから4.8ドルに引き上げ、A州では失業が増えB州では雇用が増えたという観測が出来たなら、
「すごい!!!!」
って思いますよ。

でも、そういった実証をしたわけではありません。ニュージャージー州はたまたま5.05ドルに引き上げ、隣のペンシルベニア州ではたまたま最低賃金を据え置いただけです。そのたまたまの結果から、こういう因果関係が成り立つのではないかという仮説を述べたに過ぎません。

【アトキンソン氏がすべきこと】

アトキンソン氏は、

データ分析に基づいて「モノプソニー」の力を測り、その範囲内で適切に、毎年最低賃金を引き上げていくと同時に、中小企業の統廃合を進めて規模を拡大し、産業構造を強化するべきだ

と主張します。
しかし、どうやって限界生産性を正確に掴み、その範囲内で最低賃金を上げるということができるのでしょうか。その点に関する実績が無いにも関わらず、「これが日本を救う道」と大言壮語しているのです。データ分析をミスって限界生産性を超えた最低賃金引上げをやってしまった場合の責任をアトキンソン氏は取らないし、取れないというのに。

アトキンソン氏がやるべきは、日本全体における限界生産性という雲を掴むような話ではなく、小西美術工藝社という自身が経営する会社の限界生産性を正確に把握し、その限界まで従業員の賃金を引き上げることです。

日本では県ごとに最低賃金を設定しています。県の規模で限界生産性を1円単位で把握するのは不可能じゃなかろうかと思うのですが、アトキンソン氏ほどのデータ分析のプロであれば、自身が経営する会社の限界生産性を把握する位ならどうにかなるんじゃないですかね。

ところで、冒頭のダイヤモンド・オンライン記事では、

最低賃金の上昇は、ニュージャージー州の企業による価格の上昇をもたらしていることも明らかになった。つまり、企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、価格に転嫁することによって切り抜けようとした

と解説があります。
小西美術工藝社では、限界生産性まで従業員の賃金を引き上げた際、価格に転嫁するのでしょうか。それとも、数年前に流行った

#くいもんみんな小さくなってませんか日本


みたいな事をするのでしょうか。アトキンソン氏がどこにしわ寄せをするのか、興味深く見守りたいと思います。

【アトキンソン氏の矛盾】

最後に、アトキンソン氏のコラムの中で辻褄の合わない部分を指摘したいと思います。

アトキンソン氏は、モノプソニーの説明の中で、

「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します

と述べています。
売り手たる労働者が多く買い手たる企業が少ない買い手市場では、モノプソニーが容易に成り立ちます。逆に、様々な賃金・労働条件を提示して雇用を求める企業が多数存在する売り手市場では、企業が労働者の足元を見て買い叩くのは難しくなります。

モノプソニーの成立を妨げるためには、買い手たる企業が多数いること、雇用が流動的であることが必要です。本来であれば、雇用の流動性を高めるために解雇規制を撤廃し、企業の新規参入を妨げる各種規制も撤廃し、多数の買い手が出現できる状況を目指すべきです。

ところが、モノプソニーの弊害を強調するアトキンソン氏であるにもかかわらず、

データ分析に基づいて「モノプソニー」の力を測り、その範囲内で適切に、毎年最低賃金を引き上げていくと同時に、中小企業の統廃合を進めて規模を拡大し、産業構造を強化するべきだと強調してきました。

と、買い手の数を少なくして統廃合を進めよ、いわば寡占化を進めよと述べてコラムを締めくくっているのです。

アトキンソン氏の主張に沿った政策が実現すれば、寡占化した企業の下でモノプソニーの強化が図られ、最低賃金は「当たるも八卦当たらぬも八卦」な限界生産性予想に基づく引上げが行われ、外れれば失業者が増えるという世の中になります。
当たれば雇用は増えるかもしれませんが、その増えた雇用で、企業から政府へデータ提供事務とかをやらせるのでしょう。

嫌だなぁ。
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職務代理 ~落選後任期満了まで~

2022年03月05日 | 地方議会・地方政治

【2月21日】


この時は元気だったのに・・・

行橋市長選挙、田中純候補の出陣式へ 衆議院議員 きいたかし 福岡10区(北九州市門司区・小倉北区・小倉南区) | 衆議院議員きいたかし(城井崇)


【2月25日】


この時も元気って言ってたのに・・・

行橋市長選 候補者の横顔 朝日新聞2022年2月25日
======【引用ここから】======
田中 純氏(75)無現② 気力体力充実 8年の実績強調
ー----(中略)ー----
2014年の8回目で初当選。今回も気力体力は充実している、と3選出馬を決めた。
======【引用ここまで】======

【2月27日】


選挙で負けて・・・

44歳の工藤氏が初当選 行橋市長選 現職と新顔の元副市長を破る:朝日新聞デジタル
======【引用ここから】======
 福岡県行橋市長選は27日投開票され、無所属新顔で元市議の工藤政宏氏(44)が、3選を目指した現職の田中純(75)=立憲民主、国民民主推薦=、新顔で元副市長の松本英樹(63)の無所属2氏を退け、初当選を果たした。
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【2月28日】


落選の翌日、なんと、体調不良を理由とした職務代理!?!?

<田中・行橋市長>田中・行橋市長、体調不良 職務代理副市長に /福岡(毎日新聞)
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 行橋市は28日、田中純市長(75)が体調不良のため、1日から当分の間、城戸好光副市長を職務代理者とする発表した。
 田中氏は27日投開票された市長選で、新人で元市議の工藤政宏氏(44)に敗れたばかり。1日開会の市議会3月定例会では城戸氏が答弁に立つ。田中氏の任期は17日まで。【松本昌樹】

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【支援者への影響】


田中純市長は、「当分の間」と期限を定めず職務代理を置きました。
もしこのまま、3月17日の任期満了まで復帰しなかったら、ですよ。
田中純氏に対し
「逃げた」
「無責任」
といった反感が生じるのは必至です。

この反感は田中純氏本人のみならず、支援した国会議員、県議、市議にまで及ぶんじゃないかと思います。

「こんな無責任な候補者を推していたのか。」
「選挙後10数日の職務すらこなせないような高齢者を、次の4年間も市長にさせようと支援運動していたのか。」
「選挙期間中、支援した議員は田中純氏を団体や企業に連れて回ったのに、市長の職務をさせるために議場には連れてこないのか。」

ってね。
このまま田中純氏が職務復帰しないまま任期を終えると、田中純氏を支援した議員達は今後の選挙のたびに
「あの職務放棄した無責任男を推した〇〇代議士(県議・市議)」
「人物眼の無さは折り紙つき」
といった十字架を背負って戦わなければならないこととなります。

【田中純「市長」最後の10数日】

さて。

上記の毎日新聞では3月1日から市議会3月定例会が開会されます。
おそらく、田中純氏にとって市長として臨む最後の市議会となるでしょう。

市長として公式の議事録が残る形で議場で話す最後の機会です。
自分の市政への想いを語り、2期8年の総括を行うことができる最後の場面です。

市長の仕事をしたくて立候補したんでしょ?

残り10数日とは言え、市長なんですよ。

給与も発生しているんですよ。
まだ決裁も残っているでしょう、行事も残っているでしょう。
まだ人事権だって予算執行権だって手元にあるわけです。

残り任期中に災害が起きる可能性もゼロではありません。
災害時に指揮をとるのは市長でしょ。

それでも、体調不良を理由に職務放棄しますか?

【法律上の問題】

さてさて。

市長の職務代理は、地方自治法第152条第1項

普通地方公共団体の長に事故があるとき、又は長が欠けたときは、副知事又は副市町村長がその職務を代理する。

という条文が根拠となります。

この「長に事故があるとき」に、一時的な体調不良は当てはまるのでしょうか。
どの自治体にも100%該当するわけではありませんが、考え方の指針として、次の例が参考になると思います。

○加東市長に事故があるときの職務代理者の設置基準
======【引用ここから】======
2 病気等により療養する場合
 病気等により2週間を超えて療養する場合で、その職務に自ら有効な意思決定をし、職員を十分に指揮監督できないような状況にあることが明らかなときに限り、職務代理者を置くものとする。

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典型例として、入院して手術する場合が挙げられると思います。
一定期間入院するためその間執務を行える見通しが立たない、そんな場合に使うのが職務代理です。
自治体によっては、入院療養が予定される場合であっても職務代理を置かずに対応した例もあるようです。

この例↓は、すごい丁寧な対応だと思います。
市長の入院について | 本巣市



2週間を超えて療養が必要なほどの体調不良なのか。
入院療養の必要な疾病が以前から分かっていたのか。
2週間を超えて療養が必要なほどの体調不良であったのに、それを隠して市長選出馬したのか。
それとも、一時的な体調不良に過ぎないのに地方自治法の規定を濫用して職務代理を置いたのか。
療養先から電話やメールによる指示ができない程の状態なのか。

田中純氏は、使途不明金情報隠蔽問題や本会議翌日専決処分といった、法律の想定を超えた職権濫用事例がいくつかあるのですが、今回の落選翌日職務代理もその濫用事例に追加できるかと思います。

3月1日~3月17日の市長給与は日割り計算されると思うのですが、返還請求の対象にならないだろうか。

【識者コメントの紹介】

最後に。

この職務代理に関して、ツイッター上で見つけた識者コメントを紹介して終わりたいと思います。

徳永克子さんtwitter


予想通り」と評される田中純氏・・・

white hatさんtwitter


立憲民主党の皆さん、国民民主党の皆さん、大家敏さん、麻生太郎さん、城井崇さん、あなた方の支援した現職候補が落選後に職務に戻ってきません・・・
コメント (1)
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