【便宜その1 土地購入】
ある財団法人が、元宴会場の建物を所有していました。宴会場は経営が行き詰まって廃業したものです。財団法人から相談を受けた市役所は、この旧宴会場の建物を公民館とかに使えないかといろいろ調べたのですが、建築基準に適合していない違法建築だと分かりました。この宴会場が建っていた土地は周囲を川と一方通行の道路で囲まれており、交通の便利が良いとは言えない場所です。
その後、建物は取り壊され、不便な跡地が残りました。
そんな土地を、市役所は買いました。市役所が防衛省から補助金を貰い、市役所はこの補助金を使ってこの土地を財団法人から購入したのです。この購入時点で、市役所は土地を何に使うか決めていませんでした。
平成25年9月第7回行橋市議会 定例会会議録(第3日)
======【引用ここから】======
◆2番(工藤政宏君)
是非よろしく、お願いいたします。それから、ミラモーレ跡地ですけれども、1億2000万円の防衛補助で購入しました。できるだけ早い段階で、この後どのようにしていくのか、是非、市民の意見を早い段階で汲んで下さい。地元市民の意見を是非汲むようにお願いします。汲むつもりがあるかないかだけ、総務部長、お願いします。
○議長(城戸好光君)
総務部長。
◎総務部長(松本英樹君)
ここの土地の利用について、先程、市長答弁を行いました。基本的には、工藤議員が冒頭言いましたように、定住人口が減ってきます。実際、我々としては定住人口を増やす、交流人口を増やすということを考えないといけませんので、そういった部分での交流人口を増やすための施設を造る。その場合に、じゃ何をするかというところで、交流人口ですので、市内だけではなくて市外から沢山人を呼ぶわけですので、どういった形で意見を聴くか、まだこれははっきり決めておりませんけども、必要であれば、何らかの形で意見を聴くことも重要なのかなというふうには思っています。
======【引用ここまで】======
こんなこと通常あるのでしょうか?
ちょっと考えにくいんですよね。
まず、一般的な話で考えてみましょう。
自治体が道路や公共施設を建てる為に、個人や団体から土地を購入するというのはよくあります。
・特定の建物や設備を作る計画がある
・その計画の一環として用地が必要になる
・該当する土地を購入する
・その計画の一環として用地が必要になる
・該当する土地を購入する
というのが普通の流れです。
こういう事業をする、これくらいの効果が見込める、だからここの土地がいる、事業総額は幾ら位で、土地を買うためにこの金額が必要で、だから予算に計上したい・・・という話があって然るべきです。
何をするか決まっていない土地を買うということは、この土地で何をするかはあまり重要でなく、土地を買う事そのものがこの土地購入の目的となっていたことを示唆しています。財団法人としては、宴会場の後の用途も定まらず、処分に困る土地を市が買い取ってくれたのだから美味しい話です。
【予算査定は機能していないの?】
通常であれば、事業担当課が「この土地、何にするかはまだ決めてないんだけど購入したい」
と提案したところで、財務担当課が
「寝言は寝て言え。何を建てるか決まってない土地の購入費なんてOKを出せるか」
と予算査定で落としてしまうことでしょう。
しかし、このケースでは、何をするかほぼ白紙なのに購入しています。予算査定をどうやって通過できたのでしょうか。
ちなみにですが、議事録には、財団法人と交渉を行い土地購入手続きを進め、責任者として議会で答弁を行っている人物として「総務部長(松本英樹君)」という名前が登場します。この前後の議事録も読むと、この松本英樹総務部長(当時)が財団法人と交渉し、旧宴会場の管理、調査、解体、跡地購入に至る一連を主導していたことが窺えます。
この総務部長のポストは、予算査定を行う財政課の属する総務部の長、という立場にあります。
【便宜その2 美術館を半分受贈】
少子高齢社会、人口減少社会において自治体運営を持続可能なものとしていかなければならないという危機感は、多くの自治体が有しています。税収は減り、担い手が減っていく中で、施設の維持管理費を減らしていかなければ、自治体には財政破綻が待っています。公共施設数を増やすというのは自殺行為なのです、が・・・。増田美術館 公設へ 館長が行橋市に土地・建物を寄贈 /福岡 毎日新聞2016年12月27日 地方版
======【引用ここから】======
行橋市は26日、同市行事5にある増田美術館の館長、増田博さん(93)=同市神田町=が、同美術館の土地・建物を市に寄贈したことを明らかにした。増田さんは約60年間にわたって収集してきた横山大観や東山魁夷ら著名作家による日本画など194点(購入時総額約4億4600万円)を7月に市に寄贈し、22日の定例市議会最終日に同市の名誉市民第1号に決まっている。【荒木俊雄】
増田さんは30歳ぐらいのころから美術品の収集を始め、建設会社経営の傍ら、2005年に増田美術館を開設。近代日本画では九州有数の展示内容・保管数を誇り、同美術館を管理する公益財団法人「増田美術・武道振興協会」(理事長=増田さん)所有の約150点を除く個人分を7月に市に寄贈していた。
今回の寄贈は法人所有部分を除く、三つある展示室のうちの一つと事務室を含む鉄筋コンクリート造2階建て(延床面積約360平方メートル)と、駐車場を除く敷地約500平方メートル。関係者によると、同物件の今年の固定資産税評価額は建物が2850万円、土地が1370万円とされる。
======【引用ここまで】======
「財団法人理事長が、市へ、美術品と、美術館の半分を寄贈した」
一見美談のように見えますが、ここには問題が隠れています。
1.自治体の負担する維持管理費が増える。
2.権利関係が複雑になる。
3.美術館が増えるのではなく既存の美術館が公営になるだけなので、市民の美術品に触れる機会は大して変わらない。
2.権利関係が複雑になる。
3.美術館が増えるのではなく既存の美術館が公営になるだけなので、市民の美術品に触れる機会は大して変わらない。
(この内容については、以前に当ブログでまとめたものがありますので、そちらもご覧ください。
税金支出を増やす名誉市民 ~ 他人の金でパトロン気取り2 ~若年寄の遺言)
これは、財団法人の側から見ると、
「運営方法はほぼそのままなのに、維持管理費は行政持ち」
という事になります。
実際、市役所側は毎年の維持管理費用に加え、必要に応じて追加費用を負担させられています。
平成29年3月第5回行橋市議会 定例会会議録(第2日)
======【引用ここから】======
新たに設置する美術館長の嘱託員報酬費といたしまして、217万2千円、美術館の管理運営委託料といたしまして411万8千円、並びに看板の書き換え料として63万円、合計692万円を計上いたしておりますが、この金額は市の負担経費と考えております。
また開館に伴いまして、使用料等の収入でございますが、年間55万2千円を見込んで計上させていただいております。
======【引用ここまで】======
平成29年3月第5回行橋市議会 定例会会議録(第2日)
======【引用ここから】======
◎副市長(松本英樹君)
お答えいたします。まず、先ほどの説明が少し不十分なところがありましたので、改めて説明いたします。
個人の方から寄附をいただいたもの、それからいま田中議員が言われるように、公益財団法人が所有する不動産、美術品がございます。市の条例をするに当たって、あの建物全体を市の美術館という位置づけの、今回の条例でありますので、当然そこには先方から借り受けるというものがございます。公益財団法人から見ると、公益財団法人の名義のまま市が美術館として運営する、これは公益財団上の問題も全くない。市としても一定程度の借り受けができるという条件のもとで全体を公の施設として設置することも、これも問題ないというところで、今回条例をあげていることを、まず前段でお話をしておきます。
これからの費用負担ということでありますが、言いましたように、全体を市の美術館として設置をするわけですので、全体の必要経費としての算定が今回の金額でございます。
======【引用ここまで】======
令和元年9月第15回行橋市議会 定例会会議録(第5日)
======【引用ここから】======
次に、文化課では、行橋市増田美術館の空調設備の更新にかかる経費219万8千円が増額補正されております。
======【引用ここまで】======
大赤字です。
施設は年数を経過すればするほど、空調、外壁、雨漏り、トイレ等の水回り、電気設備、様々なところで不具合が生じ追加費用が増えていきます。これを市役所が負担してくれるのですから、財団法人側としては美味しい話です。
この美術館は、財団法人名義の部分と理事長個人名義の部分から成り立っていいました。もし、この美術館について、理事長個人名義の部分を財団法人に譲渡したとしても、市役所からはお金を貰えません。美術館の空調設備が壊れようとも、市が何かしてくれるということはありません。
ところが、市役所が美術館のうち理事長個人名義の部分を引き受け、既存の美術館を公営にしたことにより、財団法人は市役所から管理料や空調設備の更新費用等を貰えるようになったのです。市役所側にとっては大赤字のお荷物、財団法人側からしたら経費負担軽減となったのですが、財団法人にとってこんな美味しい話がどこから湧いてきたのでしょうか。
この経緯が、先ほどの新聞記事の続きにあります。
増田美術館 公設へ 館長が行橋市に土地・建物を寄贈 /福岡 毎日新聞2016年12月27日 地方版
======【引用ここから】======
増田さんと親交のある松本英樹副市長によると、土地・建物の寄贈を思い付いたのは美術品を寄贈したころから。「市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい」という気持ちからだという。
増田美術館の運営は当面現状のままで、松本副市長は「大変ありがたい贈り物。早ければ来年3月議会に公設施設として使用するための条例案を提案したい」と話している。
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市役所にとっての新たな財政負担を「大変ありがたい贈り物」と言い換える松本英樹副市長(当時)。そう、先述の松本英樹総務部長(当時)と同一人物です。
財団法人の理事長と親交のある松本英樹副市長(当時)が、寄贈を受けることを決め、管理運営方法を決め、美術館を公営にして維持管理費用を行政負担にすることを決めたわけです。
【見返り?取締役就任】
その後、松本氏は市長から副市長職を解職されたのですが、その解職理由を読んでみると・・行橋市副市長の突然の解職 市長「信頼できず」 松本氏「理解されず」 2019年10月5日 西日本新聞
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市長が例示した小さな不満の積み重ねとは①市の政策を批判する言動が目立つ②議会で市長の方針に反する答弁や振る舞い③再建中のホテルを支援する企業の取締役に就任したが報告もなく何をしているか不明―など。「意思疎通できず、信頼できなくなった」のが最大の理由という。
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「再建中のホテルを支援する企業の取締役に就任した」
とありますが、どこの企業でしょうか。
京都ホテル、7月に営業一部再開 再生計画案を債権者可決 /福岡 毎日新聞2020年5月27日 地方版
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行橋市の老舗ホテル「京都(みやこ)ホテル」を経営し、民事再生法に基づき経営再建を進めている「京都館」が7月に同ホテルの営業を一部再開することが、関係者への取材で判明した。ホテルは改装と新型コロナウイルス感染拡大の影響で休業中だが、7月1日からビアガーデンの営業を始める予定だ。【松本昌樹】
地裁小倉支部で22日に債権者集会があり、同社が提出した再生計画案が債権者の賛成多数で可決された。地裁小倉支部は再生計画を認可するとみられる。
京都館は2019年7月、地裁小倉支部に民事再生法の適用を申請。負債総額は約3億4000万円で、申請前に支援企業への営業譲渡を決めるプレパッケージ型と呼ばれる手法で再建を進めていた。行橋市内を中心に不動産事業などを展開する「増田」がスポンサーとなって土地、建物を買い取り債務返済に充てるとともに、京都館を同社の100%子会社化して新経営陣が経営に当たる計画案を示していた。
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行橋市を中心に不動産業などを展開する「増田」が、ホテルの再建支援をするそうです。
官報決算データサービス
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株式会社増田
企業情報
会社名 株式会社増田
代表者 代表取締役 増田 博
所在地 福岡県行橋市神田町6番24号
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この代表者・・・今回の財団法人の理事長と同一人物と思われます。
整理しましょう。
・松本氏が総務部長として財団法人の理事長と交渉し、市役所が財団法人から土地を購入する事を決めた。この土地は、購入時点で何を建てて何をするか決めていなかったことから、財団法人から購入する事そのものが目的だった可能性がある。
・松本氏が副市長として財団法人の理事長と交渉し、財団法人が運営する美術館のうち理事長個人名義の部分の寄付を受けた。この結果、美術館は市営となり、美術館の管理費や設備更新費用は市役所の負担となり、財団法人側はこうした費用負担を免れた。
・松本氏は副市長在職中、財団法人の理事長が代表を務めていた企業の取締役に就任した。
・松本氏が副市長として財団法人の理事長と交渉し、財団法人が運営する美術館のうち理事長個人名義の部分の寄付を受けた。この結果、美術館は市営となり、美術館の管理費や設備更新費用は市役所の負担となり、財団法人側はこうした費用負担を免れた。
・松本氏は副市長在職中、財団法人の理事長が代表を務めていた企業の取締役に就任した。
ここまでで生じた諸々の費用は全て市役所の負担、すなわち納税者の負担です。
【注意】
これを見て「企業に便宜を図ったら、私にも役員ポストを用意してくれるかもしれない」
と思った地方公務員の人がいたら、注意が必要です。
副市長は特別職なので、地方自治法の請負制限規定に抵触さえしなければ、公職在職中であっても、企業の役員に就任することができます。
しかし、一般職の地方公務員の場合は地方公務員法の兼業禁止規定があるので、役所に在籍したまま役員就任というわけにはいきません。役所を退職してから役員に就任させてもらえるよう、将来の約束をしっかりと取り付けることが必要でしょう(マテ
【後任の副市長】
ところで、空席になっていた副市長職について後任候補が決まったようです。行橋市副市長に元議長城戸氏 田中市長が意向表明
======【引用ここから】======
福岡県行橋市の田中純市長は30日、2人のうち1人が空席になっている副市長に、元市議会議長の城戸好光氏(70)を選任する意向を明らかにした。7月中旬に臨時市議会を招集して提案する。城戸氏は4月の市議選で7回目の当選を果たしたが、6月26日に辞職。これを受け市選管は10日に選挙会を開き、次点の藤本広美氏(73)=当選4回=の繰り上げ当選を決める予定。田中市長は、城戸氏の選任について、市長与党だった藤本氏の繰り上げ当選も「大きな要素」と語った。
======【引用ここまで】======
この市役所では、以前に職員が500万円の使途不明金を出したり、職員採用において1次の筆記試験を全員合格させたり、と不祥事が相次いでいたのですが、新たな選任を契機に不祥事体質を刷新できたら良いのです、が。
【2020.7.30追記 ~ 副市長人事案件否決される】
上記の臨時会が7月30日に開かれたそうですが・・・賛成9票
反対8票
白票2票(反対とみなす)
反対8票
白票2票(反対とみなす)
となり、賛成少数で副市長人事案件が否決されました。
様々な箱物予算を可決し、使途不明金の監査請求を否決する等、まとまって動いてきた市長与党の結束に綻びが生じたようです。