若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

リケンは、つくれる ~ 行橋市前副市長に学ぶ便宜供与と役員就任 ~

2020年07月28日 | 地方議会・地方政治

【便宜その1 土地購入】

ある財団法人が、元宴会場の建物を所有していました。宴会場は経営が行き詰まって廃業したものです。財団法人から相談を受けた市役所は、この旧宴会場の建物を公民館とかに使えないかといろいろ調べたのですが、建築基準に適合していない違法建築だと分かりました。
この宴会場が建っていた土地は周囲を川と一方通行の道路で囲まれており、交通の便利が良いとは言えない場所です。
その後、建物は取り壊され、不便な跡地が残りました。

そんな土地を、市役所は買いました。市役所が防衛省から補助金を貰い、市役所はこの補助金を使ってこの土地を財団法人から購入したのです。この購入時点で、市役所は土地を何に使うか決めていませんでした。

平成25年9月第7回行橋市議会 定例会会議録(第3日)
======【引用ここから】======
◆2番(工藤政宏君)
 是非よろしく、お願いいたします。それから、ミラモーレ跡地ですけれども、1億2000万円の防衛補助で購入しました。できるだけ早い段階で、この後どのようにしていくのか、是非、市民の意見を早い段階で汲んで下さい。地元市民の意見を是非汲むようにお願いします。汲むつもりがあるかないかだけ、総務部長、お願いします。
○議長(城戸好光君)
 総務部長。
◎総務部長(松本英樹君)
 ここの土地の利用について、先程、市長答弁を行いました。基本的には、工藤議員が冒頭言いましたように、定住人口が減ってきます。実際、我々としては定住人口を増やす、交流人口を増やすということを考えないといけませんので、そういった部分での交流人口を増やすための施設を造る。その場合に、じゃ何をするかというところで、交流人口ですので、市内だけではなくて市外から沢山人を呼ぶわけですので、どういった形で意見を聴くか、まだこれははっきり決めておりませんけども、必要であれば、何らかの形で意見を聴くことも重要なのかなというふうには思っています。

======【引用ここまで】======

こんなこと通常あるのでしょうか?
ちょっと考えにくいんですよね。

まず、一般的な話で考えてみましょう。
自治体が道路や公共施設を建てる為に、個人や団体から土地を購入するというのはよくあります。
・特定の建物や設備を作る計画がある
・その計画の一環として用地が必要になる
・該当する土地を購入する

というのが普通の流れです。
こういう事業をする、これくらいの効果が見込める、だからここの土地がいる、事業総額は幾ら位で、土地を買うためにこの金額が必要で、だから予算に計上したい・・・という話があって然るべきです。

何をするか決まっていない土地を買うということは、この土地で何をするかはあまり重要でなく、土地を買う事そのものがこの土地購入の目的となっていたことを示唆しています。財団法人としては、宴会場の後の用途も定まらず、処分に困る土地を市が買い取ってくれたのだから美味しい話です。

【予算査定は機能していないの?】

通常であれば、事業担当課が
「この土地、何にするかはまだ決めてないんだけど購入したい」
と提案したところで、財務担当課が
「寝言は寝て言え。何を建てるか決まってない土地の購入費なんてOKを出せるか」
と予算査定で落としてしまうことでしょう。

しかし、このケースでは、何をするかほぼ白紙なのに購入しています。予算査定をどうやって通過できたのでしょうか。

ちなみにですが、議事録には、財団法人と交渉を行い土地購入手続きを進め、責任者として議会で答弁を行っている人物として「総務部長(松本英樹君)」という名前が登場します。この前後の議事録も読むと、この松本英樹総務部長(当時)が財団法人と交渉し、旧宴会場の管理、調査、解体、跡地購入に至る一連を主導していたことが窺えます。
この総務部長のポストは、予算査定を行う財政課の属する総務部の長、という立場にあります。

【便宜その2 美術館を半分受贈】

少子高齢社会、人口減少社会において自治体運営を持続可能なものとしていかなければならないという危機感は、多くの自治体が有しています。税収は減り、担い手が減っていく中で、施設の維持管理費を減らしていかなければ、自治体には財政破綻が待っています。公共施設数を増やすというのは自殺行為なのです、が・・・。

増田美術館 公設へ 館長が行橋市に土地・建物を寄贈 /福岡 毎日新聞2016年12月27日 地方版
======【引用ここから】======
 行橋市は26日、同市行事5にある増田美術館の館長、増田博さん(93)=同市神田町=が、同美術館の土地・建物を市に寄贈したことを明らかにした。増田さんは約60年間にわたって収集してきた横山大観や東山魁夷ら著名作家による日本画など194点(購入時総額約4億4600万円)を7月に市に寄贈し、22日の定例市議会最終日に同市の名誉市民第1号に決まっている。【荒木俊雄】
 増田さんは30歳ぐらいのころから美術品の収集を始め、建設会社経営の傍ら、2005年に増田美術館を開設。近代日本画では九州有数の展示内容・保管数を誇り、同美術館を管理する公益財団法人「増田美術・武道振興協会」(理事長=増田さん)所有の約150点を除く個人分を7月に市に寄贈していた。
 今回の寄贈は法人所有部分を除く、三つある展示室のうちの一つと事務室を含む鉄筋コンクリート造2階建て(延床面積約360平方メートル)と、駐車場を除く敷地約500平方メートル。関係者によると、同物件の今年の固定資産税評価額は建物が2850万円、土地が1370万円とされる。

======【引用ここまで】======

「財団法人理事長が、市へ、美術品と、美術館の半分を寄贈した」
一見美談のように見えますが、ここには問題が隠れています。

1.自治体の負担する維持管理費が増える。
2.権利関係が複雑になる。
3.美術館が増えるのではなく既存の美術館が公営になるだけなので、市民の美術品に触れる機会は大して変わらない。


(この内容については、以前に当ブログでまとめたものがありますので、そちらもご覧ください。
税金支出を増やす名誉市民 ~ 他人の金でパトロン気取り2 ~若年寄の遺言

これは、財団法人の側から見ると、
「運営方法はほぼそのままなのに、維持管理費は行政持ち」
という事になります。
実際、市役所側は毎年の維持管理費用に加え、必要に応じて追加費用を負担させられています。

平成29年3月第5回行橋市議会 定例会会議録(第2日)
======【引用ここから】======
新たに設置する美術館長の嘱託員報酬費といたしまして、217万2千円、美術館の管理運営委託料といたしまして411万8千円、並びに看板の書き換え料として63万円、合計692万円を計上いたしておりますが、この金額は市の負担経費と考えております。
 また開館に伴いまして、使用料等の収入でございますが、年間55万2千円を見込んで計上させていただいております。

======【引用ここまで】======

平成29年3月第5回行橋市議会 定例会会議録(第2日)
======【引用ここから】======
◎副市長(松本英樹君) 
 お答えいたします。まず、先ほどの説明が少し不十分なところがありましたので、改めて説明いたします。
 個人の方から寄附をいただいたもの、それからいま田中議員が言われるように、公益財団法人が所有する不動産、美術品がございます。市の条例をするに当たって、あの建物全体を市の美術館という位置づけの、今回の条例でありますので、当然そこには先方から借り受けるというものがございます。公益財団法人から見ると、公益財団法人の名義のまま市が美術館として運営する、これは公益財団上の問題も全くない。市としても一定程度の借り受けができるという条件のもとで全体を公の施設として設置することも、これも問題ないというところで、今回条例をあげていることを、まず前段でお話をしておきます。
 これからの費用負担ということでありますが、言いましたように、全体を市の美術館として設置をするわけですので、全体の必要経費としての算定が今回の金額でございます。

======【引用ここまで】======

令和元年9月第15回行橋市議会 定例会会議録(第5日)
======【引用ここから】======
 次に、文化課では、行橋市増田美術館の空調設備の更新にかかる経費219万8千円が増額補正されております。
======【引用ここまで】======

大赤字です。

施設は年数を経過すればするほど、空調、外壁、雨漏り、トイレ等の水回り、電気設備、様々なところで不具合が生じ追加費用が増えていきます。これを市役所が負担してくれるのですから、財団法人側としては美味しい話です。

この美術館は、財団法人名義の部分と理事長個人名義の部分から成り立っていいました。もし、この美術館について、理事長個人名義の部分を財団法人に譲渡したとしても、市役所からはお金を貰えません。美術館の空調設備が壊れようとも、市が何かしてくれるということはありません。

ところが、市役所が美術館のうち理事長個人名義の部分を引き受け、既存の美術館を公営にしたことにより、財団法人は市役所から管理料や空調設備の更新費用等を貰えるようになったのです。市役所側にとっては大赤字のお荷物、財団法人側からしたら経費負担軽減となったのですが、財団法人にとってこんな美味しい話がどこから湧いてきたのでしょうか。

この経緯が、先ほどの新聞記事の続きにあります。

増田美術館 公設へ 館長が行橋市に土地・建物を寄贈 /福岡 毎日新聞2016年12月27日 地方版
======【引用ここから】======
増田さんと親交のある松本英樹副市長によると、土地・建物の寄贈を思い付いたのは美術品を寄贈したころから。「市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい」という気持ちからだという。
 増田美術館の運営は当面現状のままで、松本副市長は「大変ありがたい贈り物。早ければ来年3月議会に公設施設として使用するための条例案を提案したい」と話している。

======【引用ここまで】======

市役所にとっての新たな財政負担を「大変ありがたい贈り物」と言い換える松本英樹副市長(当時)。そう、先述の松本英樹総務部長(当時)と同一人物です。
財団法人の理事長と親交のある松本英樹副市長(当時)が、寄贈を受けることを決め、管理運営方法を決め、美術館を公営にして維持管理費用を行政負担にすることを決めたわけです。

【見返り?取締役就任】

その後、松本氏は市長から副市長職を解職されたのですが、その解職理由を読んでみると・・

行橋市副市長の突然の解職 市長「信頼できず」 松本氏「理解されず」 2019年10月5日 西日本新聞
======【引用ここから】======
 市長が例示した小さな不満の積み重ねとは①市の政策を批判する言動が目立つ②議会で市長の方針に反する答弁や振る舞い③再建中のホテルを支援する企業の取締役に就任したが報告もなく何をしているか不明―など。「意思疎通できず、信頼できなくなった」のが最大の理由という。
======【引用ここまで】======


再建中のホテルを支援する企業の取締役に就任した
とありますが、どこの企業でしょうか。

京都ホテル、7月に営業一部再開 再生計画案を債権者可決 /福岡 毎日新聞2020年5月27日 地方版
======【引用ここから】======
 行橋市の老舗ホテル「京都(みやこ)ホテル」を経営し、民事再生法に基づき経営再建を進めている「京都館」が7月に同ホテルの営業を一部再開することが、関係者への取材で判明した。ホテルは改装と新型コロナウイルス感染拡大の影響で休業中だが、7月1日からビアガーデンの営業を始める予定だ。【松本昌樹】
 地裁小倉支部で22日に債権者集会があり、同社が提出した再生計画案が債権者の賛成多数で可決された。地裁小倉支部は再生計画を認可するとみられる。
 京都館は2019年7月、地裁小倉支部に民事再生法の適用を申請。負債総額は約3億4000万円で、申請前に支援企業への営業譲渡を決めるプレパッケージ型と呼ばれる手法で再建を進めていた。行橋市内を中心に不動産事業などを展開する「増田」がスポンサーとなって土地、建物を買い取り債務返済に充てるとともに、京都館を同社の100%子会社化して新経営陣が経営に当たる計画案を示していた。

======【引用ここまで】======

行橋市を中心に不動産業などを展開する「増田」が、ホテルの再建支援をするそうです。

官報決算データサービス
======【引用ここから】======
株式会社増田
企業情報
会社名 株式会社増田
代表者 代表取締役 増田 博
所在地 福岡県行橋市神田町6番24号

======【引用ここまで】======


この代表者・・・今回の財団法人の理事長と同一人物と思われます。

整理しましょう。

・松本氏が総務部長として財団法人の理事長と交渉し、市役所が財団法人から土地を購入する事を決めた。この土地は、購入時点で何を建てて何をするか決めていなかったことから、財団法人から購入する事そのものが目的だった可能性がある。
・松本氏が副市長として財団法人の理事長と交渉し、財団法人が運営する美術館のうち理事長個人名義の部分の寄付を受けた。この結果、美術館は市営となり、美術館の管理費や設備更新費用は市役所の負担となり、財団法人側はこうした費用負担を免れた。
・松本氏は副市長在職中、財団法人の理事長が代表を務めていた企業の取締役に就任した。


ここまでで生じた諸々の費用は全て市役所の負担、すなわち納税者の負担です。


【注意】

これを見て
「企業に便宜を図ったら、私にも役員ポストを用意してくれるかもしれない」
と思った地方公務員の人がいたら、注意が必要です。

副市長は特別職なので、地方自治法の請負制限規定に抵触さえしなければ、公職在職中であっても、企業の役員に就任することができます。
しかし、一般職の地方公務員の場合は地方公務員法の兼業禁止規定があるので、役所に在籍したまま役員就任というわけにはいきません。役所を退職してから役員に就任させてもらえるよう、将来の約束をしっかりと取り付けることが必要でしょう(マテ

【後任の副市長】

ところで、空席になっていた副市長職について後任候補が決まったようです。

行橋市副市長に元議長城戸氏 田中市長が意向表明
======【引用ここから】======
福岡県行橋市の田中純市長は30日、2人のうち1人が空席になっている副市長に、元市議会議長の城戸好光氏(70)を選任する意向を明らかにした。7月中旬に臨時市議会を招集して提案する。城戸氏は4月の市議選で7回目の当選を果たしたが、6月26日に辞職。これを受け市選管は10日に選挙会を開き、次点の藤本広美氏(73)=当選4回=の繰り上げ当選を決める予定。田中市長は、城戸氏の選任について、市長与党だった藤本氏の繰り上げ当選も「大きな要素」と語った。
======【引用ここまで】======

この市役所では、以前に職員が500万円の使途不明金を出したり、職員採用において1次の筆記試験を全員合格させたり、と不祥事が相次いでいたのですが、新たな選任を契機に不祥事体質を刷新できたら良いのです、が。

【2020.7.30追記 ~ 副市長人事案件否決される】

上記の臨時会が7月30日に開かれたそうですが・・・

賛成9票
反対8票
白票2票(反対とみなす)


となり、賛成少数で副市長人事案件が否決されました。
様々な箱物予算を可決し、使途不明金の監査請求を否決する等、まとまって動いてきた市長与党の結束に綻びが生じたようです。
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日弁連「生活保護Q&A」を批判的に眺めてみる ~プログラム規定説の再評価を~

2020年07月02日 | 政治
前回記事

制度を利用しても構わないけど、制度を基本的人権と勘違いしてはいけない ~生活保護水準を巡る訴訟で請求棄却~ - 若年寄の遺言

を書く際にいろいろ読んだのですが、その中で、

『Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?』日本弁護士会連合会

というパンフレットがありました。
今回のお題は、このパンフへのツッコミです。

〇納税者の不満に向き合っていますか?

『Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?』日本弁護士会連合会
======【引用ここから】======
Q1 生活保護利用者が過去最高になったと聞きますが?
A1 人数は最高になりましたが、利用率は減っています。

Q2 それでも生活保護の利用率は高いのではないですか?
A2 日本の生活保護利用率は、先進諸外国とくらべると極めて低い数字にとどまっています。むしろ、数百万人が保護から漏れています。

======【引用ここまで】======

この日弁連パンフレットは
「生活保護へのバッシングは不当だ、生活保護制度を擁護しよう」
という趣旨で作成されています。

欧米の生活保護利用率を挙げていますが、欧米では生活保護へのバッシングはないのでしょうか。

生活保護制度へのバッシングという観点からは、
保護を受けるに際して扶養できる親や子の調査
資産状況の把握
保護受給後の生活状況や支出の指導管理
・・・等を通して、不正な受給や不当な使途を制限されていれば、
「納めた税金が適正に使われている」
という納税者の納得感が醸成され、生活保護の利用率が高くても納税者は強い不満を抱かないということは考えられます。
(移民・難民への各種支給に対する不満はどこの国でも根強いようですが)

支出の管理という点で、家や家具をほぼ現物支給の形で生保受給者へ貸し与え、現金では食費くらいしか支給しないという運用も考えられるでしょう。
現金なら受給者の裁量で消費できるわけですが、元手となる税金は納税者の自由・財産権を制約して行政が強制的に集めたもので、納税者の義務と引き換えに受給者の裁量を大きく認めろという主張は、反感を煽る要素になると思います。

納税者の反感を煽る要素の一つに受給者のギャンブルがあります。
そもそも、日本の他、田舎でもギャンブルができるほど津々浦々にパチンコや公営ギャンブルの場外販売所がある国はあまり例がなく、そのため他国では、保護費をギャンブルに突っ込むようなケースをあまり考慮しなくて良い、というのもあるでしょう。

〇「捕捉率」の怪

なお、日弁連パンフにある
数百万人が保護から漏れています。
というのは、「捕捉率」の議論になります。

捕捉率とは、保護を受けられるはずの人、生活保護を受給する水準以下の生活をしている人が全体で何人存在し、そのうち何人が実際に生活保護を受給できているかの割合を指します。
この率は、分母にあたる保護の対象となるべき水準の設定によってどのようにも変わってきます。
生活困窮者の定義や支給条件はバラバラで、この状態で国ごとに比較して意味があるのでしょうか。

資産額の多寡や扶養可能親族の有無を問わず、単に収入額だけで保護を判定する仕組みであれば捕捉率を算出できるでしょうが、資産や親族も考慮する制度を採用している国において、保護を受けられるはずの人の総数をどうやって把握しているのかどうか疑問です。
イギリスの捕捉率「47~90%」という幅の広いいいかげんな数字が、この捕捉率の曖昧さと困難さを物語っています。
計算した人の数だけ答えが違う、それが捕捉率です。

日弁連パンフでは、他に捕捉率として64.6%、91.6%等々の数字が並べられていますが、この高率が
「政府が、生保申請していない国民の収入・資産・家族の扶養能力まで事細かく把握している」
ことの現れなのだとしたら、非常に恐ろしい。
そこまで国民の情報を収集・把握しているということです。
日弁連はマイナンバーによる全ての預貯金口座の付番制度化に反対していますが、捕捉率の議論とどう整合性を図るつもりなのか、見解を問いたいところです。

(なお、私は
「生活保護の捕捉率は無用の概念」
「あくまで申請者に対し受給要件を満たしているかどうかを個別に判定すれば足りる」
「全預金口座をマイナンバーに紐付けするのは反対」
という立場です。)

〇不正受給に不当な使途が入っていない制度の在り方を問う

『Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?』日本弁護士会連合会
======【引用ここから】======
Q3 不正受給が年々増えていると聞きますが?
A3 不正受給の割合は保護費全体の0.4%程度で大きな変化はありません。しかも、その中には、悪質とはいえないケースも含まれています。

Q4 お金持ちの家族が生活保護を受けているのは「不正受給」ではないのですか。家族が扶養できるかどうかは徹底して調べるべきでは?
A4 「不正受給」ではありません。また、徹底調査が行きすぎると、本当に生活保護を必要とする人が利用できなくなってしまいます。

======【引用ここまで】======

法律・基準に違反した受給、収入や資産を過少申告し福祉事務所職員を欺いた受給という意味での不正受給は少ないのは、これは確かにそうです。
実際のところ、生活保護へのバッシングを招いているのは、不正受給よりも、保護費の大半をパチンコに突っ込んで残りの金で生活するような
「保護費を支給しなくてもパチンコ止めれば生活できるんじゃね?」
といったケースが大きな要因です。

生活保護を受ける人は大きく分けて2種類います。
失業や病気、家族構成の変化といった要因によって保護を受けるようになった人と、そもそも金の使い方が杜撰で生活を維持管理できないから保護を受けるようになった人です。

前者のケースの場合、保護費を支給することに反感を持つ人は少ないでしょう。
失業した、離婚して身寄りのない母子家庭になった、重病を患って今までのように働けなくなった、そうした人に対する保護の支給に文句を言う人はあまりいないでしょう。

しかし、後者の、金の使い方の杜撰なケースについては、保護費を現金で支給しても問題は解決しません。
穴の開いたバケツに水を注ぐようなものです。
金の使い方の杜撰なタイプは、別に制度に違反しているわけではないし、福祉事務所を騙したわけでもないので、0.4%の「不正受給」にはカウントされません。
しかし、このタイプの人が、納税者の不満を煽る存在なのです。

金の使い方が杜撰で生活困窮に陥るタイプの人に必要なのは、現金支給よりも、使途の調査や指導管理です。
ここを改善しないと、制度としての信頼が揺らぎます。
ところが、保護受給者への調査・指導・管理を強めようとすると
「保護受給者への不当な抑圧だ」
と反対するんですよね、左派が。

社会運動家や地方議員が役所窓口に同行し保護受給をできるよう働きかけ、その見返りとして団体や政党へ加入させ、保護費から団体へのカンパ・党費・機関紙購読料を払わせているケースがあるとしたら、保護費の使途調査は面白くないんでしょうね。

〇最低賃金や年金との比較

『Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?』日本弁護士会連合会
======【引用ここから】======
Q6 生活保護基準が最低賃金や年金より高いのはおかしくないですか?
A6 最低賃金や年金が低すぎることが問題です。

======【引用ここまで】======

例えば、左派が主張するように最低賃金を1500円に引き上げれば、今まで時給900円で働いていた人の大半は仕事を失い、残った人が新たな最低賃金1500円を得るとともに重労働に晒されることになります。
最低賃金の上昇は失業者の増加につながります。

税収は増えず、他の社会保障給付や教育予算は維持維持しなければならない・・・となると、生活保護総額を増やす事は難しく、生保受給者の数が増えれば、一人当たりの生保受給額は今以上に減らされるかもしれません。

賃金は、長期的には労働生産性で決まります。
ほっとプラス藤田氏が
「(この業界の賃金は)だいたいこんなもんです
と述べたように、賃金は、業種や職種・業務内容、従事しようとする労働者の数、景気、といったいろんな要素を総合して、時間を経ていく中で
「だいたいこんなもんです」
という相場が決まります。

また、年金については、田中角栄の頃に積立方式から賦課方式に切り替えてしまった事によって、少子高齢化の影響をモロに受けるようになりました。
賦課方式の下で、保険料を支払う現役世代の減少と年金を受け取る高齢者の増加が同時に進めば、当然ながら高齢者一人当たりの受け取る年金は減らさざるを得ません。

賃金も年金も、それぞれ別の要素や事情に基づいて決まります。
賃金は長期的には労働生産性で決まり、賦課方式の年金は現役世代の負担と高齢者のバランスで決まります。
これらを踏まえながら、「最低限度の生活」が今はどのくらいなのかを政府当局が判断することになります。
賃金が上がらず、年金額は上げられず、物価上昇や税金・公共料金による圧迫が強まれば、当然ながら国民全体の生活水準は上がらないわけで、「最低限度の生活」の水準が下がるとしてもやむを得ないだろうと思います。

〇納税者の負担は下がる

『Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?』日本弁護士会連合会
======【引用ここから】======
Q7 生活保護基準が引き下げられても、非利用者には関係ないのでは?
A7 いろいろな制度に影響します。あなたも影響を受けるかもしれません。

======【引用ここまで】======

いろいろな制度に影響する例として、

①住民税の非課税限度額が下がり、今まで無税だった人が課税される。
②非課税だと安くすんでいた負担が増える。
 ・介護保険料、医療費上限、保育料、一部自治体の国民健康保険料など
③保護基準に基づいて利用条件を設定している施策が利用できなくなる。


が挙げられています。
これらは殆どが所得税・住民税が非課税となっている人・世帯を対象とするものです。
所得税や住民税を払っている人には関係ありません。
むしろ、①~③の各種支援制度は納税者の負担で成り立っていることから、生活保護基準が引き下げられることによって納税者の負担は軽くなる可能性すらあります。

〇財政への圧迫

『Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?』日本弁護士会連合会
======【引用ここから】======
Q8 財政破綻を防ぐには生活保護を減らせばいいのではないですか?
A8 誤解です。

======【引用ここまで】======

これについて日弁連は
日本の生活保護費(社会扶助費)のGDPにおける割合は0.5%。
OECD加盟国平均の1/7にすぎません。諸外国に比べて、極端に低いのです。
生活保護費が財政を圧迫しているとはいえません

と説明していますが、これはおかしい。

すぐ上の箇所で、当の日弁連自身が
「(生活保護基準は)いろいろな制度に影響します
と述べているじゃないですか。

生活保護を受けていない非課税者に対して、諸々の行政サービスを挙げて
「生活保護基準を引き下げるとあなた達への行政サービスに影響が出ますよ!他人事じゃないんですよ!」
と煽っておきながら、財政への影響を述べる際には生活保護費だけを挙げ、生活保護基準に関連する他の行政サービスの費用に触れないのはフェアなんですかね。

生活保護に連動する(非課税世帯向けの)サービスにも影響があると日弁連は述べているので、日弁連には、そういう連動する部分も込みで財政への影響を検証すべきです。

また、日本の場合は労使折半や解雇規制などを通して、社会保障の役割の相当な部分を企業に負わせています。
生活保護をはじめとする社会保障の費用を増やすのであれば、その分、企業の社会保障負担を軽くしたり、解雇規制を廃止し正社員であっても金銭解雇できる仕組みを採用すべきです。
(そもそも、不況期に非正規労働者を犠牲にして正社員の雇用を守る事を裁判所が積極的に勧めるという、露骨な身分制を採用している国は他にあるでしょうか?)

〇プログラム規定説の再評価を

日弁連の主張をざっくりとまとめると、
「生活に困った方はどんどん生活保護を申請していただきたい。役所は困っていそうな人を漏れなく把握し保護費を支給しろ。利用率を欧米並みに上げるべきだ。保護基準も下げるな、上げろ。申請に対する審査や支給後のチェックを細かくするな。そもそも最低賃金や年金を上げろ。」
ということになります。
給料で生活する労働者をはじめ、多くの納税者の負担が全く考慮されていません。

困っている人に注目して
「困っている人がいるぞ!助けろ!」
と言うのは簡単ですが、それを制度として組み立てて運営するのは大変です。
誰かに追加の負担を強いるのか、他の制度をどこか削るのか、他の制度とのバランスをどう図るのか、そういったお金のやり繰りをしなければいけません。

生活保護は、立憲主義的な意味での基本的人権と呼ぶのはふさわしくなく、納税者の負担・義務の上に成り立つ給付制度の一つにすぎません。
憲法に書いてあることから予算編成の際に一定の配慮が求められるとは言え、生活保護の権利性を強調する事はその分納税者の義務強化につながります。
憲法を「自由の基礎法」と考える立場から、こうした納税義務の強化につながる主張は受け入れがたいものがあります。

憲法上の基本的人権、特に自由権については、政府の権力行使を制限することで国民の権利を守る「国民 対 政府」の構図となっています。
国民の権利が政府の義務となっています。

ところが、生存権規定については、政府が国民に給付するためには、その裏で政府が国民から税金を徴収せねばなりません。
政府は徴税をする媒介・代理人に過ぎず、実質的には「国民 対 国民」の構図となります。
生存権規定における「国民 対 国民」の関係を考えた時、生存権を基本的人権と呼ぶのは抵抗があります。

憲法第25条の生存権規定については、その法的性質についていくつかの見解があります。
その中で、
「生存権規定は国家の政治的・道徳的義務を明らかにしたものであり、個々の国民に具体的権利を保障したものではない。生存権の具体的な実施に必要となる予算は、国の財政政策の問題であり、それは政府の裁量に委ねられる」
とする考え方を、「プログラム規定説」と呼びます。

日弁連や共産党、左派の活動家からは非常に不人気な「プログラム規定説」ですが、自由権規定との相性の悪さや、生存権規定を実現しようとした時の「国民 対 国民」の構図を考えた時、むしろ肯定的に傾聴すべき説だと思います。
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