【市場価格が適正価格】
政府当局は適切な価格を定めることはできません。そのための手段も情報も持っていません。
適切な価格は、市場における価格競争を通じて発見されます。
市場の中で商品やサービスの取引・交換が積み重なり、他の類似する商品やサービス、代替可能な商品やサービスとの比較が繰り返されることで、手探り的に「だいたいこんなもんだ」という相場が出来上がります。
これ、私が一人で言ってるんじゃありません。
厚生労働省 介護保険における福祉用具
======【引用ここから】======
福祉用具の貸与及び購入は、市場の価格競争を通じて適切な価格による給付が行われるよう、保険給付における公定価格を定めず、現に要した費用の額により保険給付する仕組みとしている。
======【引用ここまで】======
厚生労働省の中にも、そう思っている人はいるんですよ。
(ただ、この話を全面的に認めてしまうと厚生労働省そのものが崩壊してしまうので、このまっとうな話をごく一部分にしか適用していませんが。)
【介護現場崩壊の原因は公定価格】
さて。介護業界に携わる人々の低賃金が問題になっています。
その一方で、現役世代が減少するのと同時に高齢者が増えているため、介護業界は様々な職種が不足していて、様々な事業所で常に求人募集を出しているような状況です。
これは、市場原理で考えるとおかしな話です。
需要が増えれば価格は上がる、人手不足であれば賃金が上がるのが自然です。
人手不足なのに賃金は上がらない、そして人手不足を原因として閉鎖する事業所も増えています。
まさに、介護現場は崩壊の危機に瀕しています。
なぜこんな事態になってしまうかというと、サービス費用が保険点数で決まっているのと、サービス利用者数に対する必要職員数を政府が決めているためです。
事業所の収入面は、ケアプランを作ったら1つ幾ら、ヘルパーを派遣して身体介護50分提供したら幾ら、といった単位で決まっています。
他方、必要職員数については、ケアマネ1人が担当できる利用者は○人まで、グループホームでは利用者○人につき1人介護職員を配置せよ、といったルールが細かく決まっています。
事業所がサービスの単価を上げたり、職員一人あたりの対応する利用者人数を増やしたりすれば収入増が見込めますが、下手をすると事業所は不正請求や基準違反を問われることになり、営業停止等に追い込まれてしまいます。
必然的に、一人の職員に幾らまでなら払えるかが決まってきます。
いかに人手不足であろうとも、この一人の職員に払える賃金の上限を超えて求人募集を出すわけにはいきません。
このように、政府当局の定める単価設定と必要職員数の基準があるために、今日の介護業界における低賃金と人手不足という矛盾した現象が同時に発生しています。
【価格引き上げは解決策にあらず】
そこで、「じゃあ政府当局が単価設定を上げればいいじゃん」
と考えたあなたは、ちょっと短絡的です。
報酬単価を上げれば事業所の収入は増えますが、利用者の自己負担と保険者(自治体)の給付費も増えます。
利用者の自己負担が増えても、高齢者である利用者は収入が増えるということはあまり無いので、自己負担が増えた分だけ生活は苦しくなります。
保険者(自治体)の給付費が増えれば、自治体で徴収する保険料を増やすか、国・都道府県・市町村の税投入を増やさなければなりません。
いずれにしても、最終的には国民負担が増えることになるのです。
この手の社会保障給付の増加が、国債発行残高の増加や消費増税への圧力となっています。
約20年前の介護保険制度開始時に、政府当局担当者が価格や必要職員数、サービス供給量などを設計しました。
適正価格を分かりようのない政府当局の設定したサービスの公定価格に基づき、需給のバランスが崩れたまま今日に至っています。
今となってはどうしようもありませんが、せめて、せめて、市場競争の中で介護サービスの価格が成立し、無理のない適正なものとして根付いた後だったなら。
その価格を基準として介護保険制度を始めていれば、まだマシだったと思います。
しかし実際には、介護サービスの相場が市場競争の中で試されて根付く前に、公的サービス中心の老人福祉・老人医療の枠組みの延長線で介護保険制度を開始してしまいました。
市場に成立した相場に沿ってサービス単価や必要職員数を設定したのではなく、政府当局担当者の気分で設定してしまったのです。
その時に生じた歪みを、20年近く経過した今日まで是正できずに引きずっています。
歪みの原因を放置して官僚が思いつきで小手先の修正を繰り返したため、歪みは大きくなりました。
低い自己負担による需要の過剰な掘り起こし、
2倍に膨れ上がった保険料負担、
介護従事者の低賃金
人手不足 etc・・・
これらは全て、市場競争によらない公定価格・規制によって引き起こされたものです。
公定価格による歪みを直すには、単価設定や各種基準を一つずつ廃止していかなければなりません。
単価設定を上げるだけだと、新たな歪みが別の場所で生じることになってしまうでしょう。