若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

議会基本条例不要論 ~ 形だけパクッても議会改革とは言わせませんよ ~

2012年07月20日 | 地方議会・地方政治
議会基本条例は、平成23年の時点で260自治体にて制定されている。平成18年に栗山町議会で制定されたのが始まりであり、それから現在までの5年間で、ちょっとした「議会基本条例ブーム」が起きている。

ブーム、流行りに乗って、雨後の竹の子のごとく次から次へと各地で制定される議会基本条例。一問一答方式、議員間討議、議会報告会etc、制定数が増えるにつれて、条例がパターン化されてきた感は否めない。先発の議会基本条例は別として、後発組の、特にこの2年位の間に制定された議会基本条例の中には、前文から本文の規定まで他自治体のものをコピペしたような条例すらある。

議会基本条例に限らず、後発の条例は、何となく先進自治体の条例をコピーすることで、何も考えず体裁を整えることができる。しかし、そうした条例は果たして実効的なものになるだろうか。私は懐疑的である。

先発の議会基本条例を制定した、栗山町での経緯を述べたものがあったので、これを引用する。


○自治基本条例と議会基本条例(下) 自治総研通巻388号 2011年2月号
=====【引用ここから】=====
この町議会はそれまでも、住民からの多様な要望に敏感に応えて、さまざまな議会の改革をやってきた。しかしそれらの改革は単発なものだから、一つひとつが個々に消えていきかねない。これらの諸改革を風化させないために、一本の条例としてまとめたい。議会の内部でこのように考えた人がいて、初の議会基本条例という格好になった。ご本人の橋場さんがそう語っておられる。
=====【引用ここまで】=====


先発自治体である栗山町では、まず議会内部の様々な改革を行っている。その改革事項は、規程や要綱を制定して行われたものもあるだろうし、議員間の申し合わせという形で行われたものもあるだろう。様々な形式で予め実施してきた諸改革を、条例という形でまとめて成文化したのが、栗山町の議会基本条例である。

一方、後発組の議会基本条例では、条例に目新しいものを盛り込み、条例制定後からその項目を実施していこうとするパターンが多い。栗山町とは逆なのだ。

従来、実施して無いことを新規に条例に謳いこみ、実施してみたは良いものの、どうもうちの議会には馴染まない・・・となった場合、条例の規定は形骸化する。死文化する。先発条例を見て、必要な項目とそうでない項目とを取捨選択せず、様々な項目をそのまま総花的に条例に盛り込んだ場合、形骸化の可能性は極めて高い。

議会基本条例を制定すると、何となく「私達は議会改革に取り組んだ!」という気分になれる。しかし、制定した条例が形骸化しては意味が無い。議決機関として、監視機関として、首長と議論をし、議員間で討議をし、政策形成過程を納税者から見えるようにするという実質が重要なのであって、議会基本条例そのものはただの文字・文章に過ぎない。

二元代表制の一翼を担う議会として、その機能を強化するのであれば、まずそのために必要と思われる施策を実施することだ。その後に条例化して風化を防ぐ必要があるならば、条例化すれば良い。

そうして作った条例であれば、金太郎飴になるはずがない。

様々な実施項目より先に議会基本条例を作ろうというのは、「他所が作ったからウチも」という猿真似であり、「私が主導して議会基本条例を作った!」「ウチも議会改革に取り組みました」という手柄が欲しいだけの話。

無用のことである。

同様のことは、自治基本条例にも言える。手柄欲しさの猿真似で、すぐ形骸化するのが目に見えているような総花的条例は、作らない方が良い。作る労力、作った後に形ばかりの事業をする労力が無駄になる。

いかにして首長、執行部と向き合い、無駄な事業や利益誘導に待ったをかけるか。本会議、委員会という公開の場で議論をし、過程を見えるようにし、事業を仕分け、不要と判断した事業を予算修正で落とす、削る。そういった具体的施策の積み重ねが大事であって、議会基本条例制定は最後で良い。



~ 平成24年7月24日追記 ~

議会基本条例は何処へ行く? 議運委 傍聴記 - … 「傍聴席」 所沢の民主主義をサポートするささやかなメディア… - Yahoo!ブログ
=====【引用ここから】=====
 この条例が検討されていた「議会基本条例制定委員会」の熱気溢れる状況とは大分違った、何か奥歯にものが挟まったような雰囲気です。印象評価で恐縮ですが、早い話が3月定例会では賛成し条例は成立してみたものの、いざこれを実行しようとすると今までの経験では対応しきれないし、困ったことだなあ、できれば適当なところでお茶をにごしたいものだ、そんな空気が何となく感じられるのです。
=====【引用ここまで】=====


条例制定を先行させて、いざ実際に条例を運用する段階になると勢いが鈍くなる。

条例制定という形式的なところに標的を定め、そこまででエネルギーを使い切ってしまったのか。そもそも実質的な議会改革をするつもりは無く、「議会基本条例を制定して議会改革を行いました」という評判だけが欲しかったのか。

何となく、雰囲気が伝わってくる。
竜頭蛇尾な感は否めない。

この引用元の記事は2009年に書かれたものだが、約3年経った今どうなっているのか。気になるところである。形骸化してなければ良いけど。



~ 平成24年7月30日追記 ~

4年半におよぶ議会改革の集大成―栗山町議会基本条例― 地方自治問題研究機構
=====【引用ここから】=====
議会には数々の前例や慣例が存在しますが、それは内規(慣習)であり、情報公開の対象にはなっていません。議会報告会での意見のように、4年半に及んだ議会改革・議会活性化等のさまざまな取り組みを安定的に持続させ、住民との約束とするためには具体的な形をもった条例化が最適と考えました。
=====【引用ここまで】=====


議会改革に関する取組みを前例や慣例、内規、慣習の形で蓄積してきたものを、条例の形で成文化する。そうであるからこそ、「約束」として実効性を持たせることができる。

先に議会基本条例を作り、その後に個別施策について要綱を制定する段階や実施する段階になって、
「どうやるの?」
「やらなきゃいけないの?」
「形だけしておけば良いんじゃない?」
となるようでは、実効性は担保されない。
議会基本条例はただの空手形となる。

ふるさと雇用再生特別基金事業は「半分成功」? ~ 補助金で見えなくなったもの ~

2012年07月17日 | 政治
○ふるさと雇用再生特別基金事業 概要
=====【引用ここから】=====
事業のアウトライン
・地方公共団体は、地域内でニーズがあり今後の地域の発展に資すると見込まれる事業のうち、その後の事業継続が見込まれる事業を計画し、民間企業等に事業委託。(地域の当事者からなる地域基金事業協議会において事業選定等)
・民間企業等が求職者を新たに雇い入れることにより雇用創出。

事業の規模 2500億円(労働保険特別会計)
    ※平成20年度2次補正予算による措置

=====【引用ここまで】=====


国が都道府県に交付金を投げ、都道府県がその金で基金を作り、都道府県や市町村が「地域内でニーズがあり今後の地域の発展に資すると見込まれる事業のうち、その後の事業継続が見込まれる事業」を計画して民間委託し、その人件費を基金から支払おう、という、ふるさと雇用再生特別基金事業。

これが、平成23年度末をもって終了となった。
その結果が報じられた。


○“失業者対策の柱” 継続雇用は半数 NHKニュース
=====【引用ここから】=====
リーマンショックのあと失業者が急増したことを受けて、国は地域で継続的な雇用を生み出すため「ふるさと雇用再生特別基金事業」という雇用対策を打ち出しました。この対策は、企業などが新たな事業を立ち上げて失業者を雇った場合、交付金で人件費などの費用の全額を賄うもので、3年間の総事業費はおよそ2500億円に上りました。
高齢者への宅配サービスや農産物の直売所など全国でおよそ7000の事業が新たに生み出され、ことし2月の時点では2万6500人余りが雇用されていました。
ことし3月末でこの事業が終了したことから、厚生労働省が、4月に追跡調査したところ、継続して雇用されていた人はおよそ1万3000人と半数にとどまっていたことが分かりました。
このうち正社員は、およそ6800人と全体の4分の1でした。
これについて厚生労働省は、「雇用を生み出す一定の効果はあったが、十分だったかどうか検証したい」と話しています。

=====【引用ここまで】=====


んで、このNHKニュースの根拠となる、追跡調査の結果を探してみたが、ちょっと見つけられなかった。ちなみに、平成23年度末のデータは、


○ふるさと雇用再生特別基金事業 平成23年度実績
=====【引用ここから】=====
      事業数  雇用創出数(人)   事業額 (円)
1 北海道   103     386    1,648,503,619
2 青森     232    1,044    3,098,946,884
3 岩手     284     927    2,692,270,505
4 宮城     168     946    2,393,002,336
5 秋田     223     812    2,547,826,707
      ・
      ・
      ・
 合計    7,332    32,679    99,874,583,354

=====【引用ここまで】=====


となっている。

補助金が無くても継続できる事業なら、企業家が利益を求めて実施する。厚生労働省は「地域内でニーズがあり今後の地域の発展に資すると見込まれる事業のうち、その後の事業継続が見込まれる事業」の人件費に交付金を出すとしているが、そんな事業があれば、銀行が金を貸すであろうし、出資者を募ることもできるであろう。

実際には、地域内にニーズが無いか、事業継続が見込めないかのどちらかだから、銀行も出資者も無視する。役場の人間に「地域内でニーズがあり今後の地域の発展に資すると見込まれる事業のうち、その後の事業継続が見込まれる事業」を計画する能力はない。それが出来る奴なら、役場を辞めて企業家になっている。

役場の人間に出来るのは、「地域内でニーズがあり今後の地域の発展に資すると見込まれる」ように書面上は見えるような計画書を仕上げ、交付金からの補助を滞りなく受けるようにすることだけ。役場の人間が地域内のニーズを掘り起こして継続可能な事業を実施できるなら、そもそも地方はこんなに駄目になっていない。

この手の補助事業は、地域内でのニーズに応え、事業を継続し、収益を上げている企業から税金を徴収し、継続の見込みの無い非効率な事業にその金を渡すという、無駄そのもの。この無駄に2500億円も投じられた。

都会で働く皆様、大変申し訳ございません。
納税者の皆様が納めた税金2500億円は、こうして、地方の非効率な会社を一時的に潤すためだけに費やされました。


NHKの報道によると、補助対象となっていた26,500人のうち、半数の13,000人が継続雇用となり、残り半分は雇用が終了している。役場の人間の立てた計画のうち、半分は「事業継続が見込まれる」という点で失格だった。

では。

半分は継続雇用となっているのだから、役場の人間のうち半分は「事業継続が見込まれる」計画を立てたので合格点をあげて良いだろうか。また、仮に、継続した雇用が半数の13,000人に留まらず、26,500人全員が継続雇用となっていたら、このふるさと雇用再生特別基金事業は「大成功!!!」と胸を張って言って良いのだろうか。


私はそうは思わない。


厚生労働省は、この事業の対象となった元失業者の人数を何気なく「雇用創出数」とサラッと表現しているが、ここが落とし穴。

もし、民間企業が
「何か、新卒じゃなくて失業者を雇用したら国が金をくれるらしい。ちょうど新しく人を雇おうと考えていたから、失業者を雇って補助金を貰った方が得だ」
と考えて、この制度を利用していたとしたらどうか。これは雇用を「創出」していない。単に新卒者から失業者へ雇用を移転させただけだ。

補助金を投じた事業の成果を考える際に、補助対象者、補助利用者の数だけを積み上げて「成果があった!」というのは間違っている。補助が無かった場合とを比較しないと、本当の効果は見えてこない。

忘れまじ… マニフェスト、党議拘束、増税

2012年07月12日 | 政治
○統治機構を考える(その3):議員の独立性(党議拘束と選挙) 三年先の稽古
=====【引用ここから】=====
また、そもそもイギリスの政党の執行部は、ただ自分の気の向くままに所属議員を縛り付けているわけではない。イギリスでは、選挙のときにマニフェストで方針を提示して、それに賛同した人だけが選挙に出馬しているという建前がある。したがって、国民にそのマニフェストが選択されて政権をとればそれを粛々と実行して行くのが与党議員の役目ということになる。造反は有権者との契約違反であり、造反者を出さないことが与党の責務とも言えるのである。
=====【引用ここまで】=====


イギリスの政党における党議拘束の根拠は、マニフェストによる選挙に置かれている。マニフェストを提示して有権者の判断を仰ぎ、マニフェストを実行するのが政権与党の役割であり、マニフェストに対する造反を出さないために党議拘束をかける必要性が生じてくる、ということだ。

党所属議員は党執行部が出す党議拘束に縛り付けられるが、党執行部は選挙の際に提示したマニフェスト、有権者との契約に拘束される。党が有権者と締結した契約を履行する必要があるから、党所属議員に対し党議拘束をかけることが正当化されている。

さて。

日本の政治において、党執行部の考えと、党所属議員の考えと、党が掲げるマニフェスト、このいずれかが食い違った場合、有権者は何を基準に投票すれば良いのであろうか?納税者が政治家を拘束する術が、日本にはどうも無さそうだ。

「代表無ければ課税無し」として、国王の課税に待ったをかけるために議会は生まれた。政府の提示した増税に待ったをかけるか、増税を容認するかが議会民主制の本質であり、議会の存在意義である。議会民主制の中で「増税を容認するか、しないか」以上の争点は存在しない。まずここを有権者に問う必要があったはず。

ところが、「消費税増税論を4年間封印する」と掲げて大勝した民主党は、4年経たずに増税案を国会へ提出し、可決させた。最大野党の自民党は「消費税法案成立後に解散を」などと呆けたことを言う。増税が決まってから解散総選挙して、何の意味があるというのか。

政府の課税に対する納税者のコントロールが、全く効いていない状態。議会民主制の形骸化も甚だしい。納税者が承認しようが否認しようが、政府は関係なく増税してくる。こんなことをしているから、議会不要論が出てくるのだ。

私に出来ることは、増税に賛成した人に一票を入れず、増税に反対した人に一票を入れて、増税議員が一人でも減ることを願うことくらいしかない。

2012年消費税増税法案 衆議院賛成議員一覧 - 選挙 - livedoor Wiki(ウィキ)

2012年消費税増税法案 衆議院反対・棄権欠席議員一覧 - 選挙 - livedoor Wiki(ウィキ)