若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

終身雇用は崩れつつあるが存在する、だから問題なのであって ~自称弱者の味方は既得権益の守り手~

2020年02月20日 | 労働組合

藤田孝典さんのツイート
======【引用ここから】======
終身雇用制度が未だにあると思い込んでいる時点で語り合えない。終身雇用制度など大多数の労働者にはない。
事実として、40代以下では転職経験がない人を探す方がむしろ難しい。妄想から議論は出来ない。

======【引用ここまで】======

40代以下では転職経験がない人を探す方がむしろ難しい
終身雇用制度など大多数の労働者にはない

労働者全体における正社員の割合は減っており、終身雇用が崩れつつある会社・業種が増えているのは確かにそうでしょう。
しかし、

終身雇用制度が未だにあると思い込んでいる時点で語り合えない。

というのは、藤田氏の認識が歪んでいると言わざるを得ません。
妄想はやめてください、藤田さん。

終身雇用制度が有るか無いかで言えば、有ります。
崩れつつあるとは言え、有ります。

 ・一度雇った後で解雇するためのハードルが高い解雇規制
 ・賃金を下げるためのハードルが高い賃金規制

こういった各種規制は法律や判例上認められており、これに各企業が雇用形態や賃金体系を適合させる中で、新卒一括採用だったり終身雇用だったり年功序列賃金といった労働慣行が成立してきました。
この各種規制を否定する法律や判例が出てきたわけではありませんので、制度としての終身雇用は残存しているというのが事実です。

そして、終身雇用が制度として残っているという事実が、正社員と非正規雇用、大企業と中小企業の間の不公平や歪みを生み出す一因となっています。

【解約できない契約の怖さ】

仕事ができるかどうか、向いているかどうかは、採用試験や数回の面接では分かりません。
面接でハキハキしてた人を福祉事業所で雇ったのに、働き始めてみると要援護者への対応が横柄で、事務をさせても簡単な申請者リストとかもろくに作れない、なんて事も。
雇った後になって、業務遂行能力の無さやその業務・業種への適性の無さが判明するなんて事は多々あるわけです。
その人を雇い続けるのは組織にとって損失であり、同時に、労働者の能力を活かす機会が減ることで長期的には地域・社会の非効率さを増すことになります。

能力・適性の無い従業員を解雇すれば、その空いたポストに他の人を雇い入れることができるようになります。
解雇規制が無い、あるいは規制が緩く比較的解雇が容易な環境であれば、
「低学歴で使えるかどうか分からないけど、一度雇ってみようか」
と、今まで不遇だった人にもチャンスが生じるわけです。

どんな契約でもそうなのですが、自分にとって利益が見込めるから契約をするのが人の常。
利益が生じるかどうか見通せない状況で、一旦締結したら30年以上解約できない契約を結ぶ人はそうそう居ません。
これは雇用契約でも同じことで
「使えるかどうか未知数の人材を、一度雇ったら定年までは容易には解雇できない」
という法規制は、正社員の身分保障を高め安定性をもたらす効果がありますが、他方で、正社員採用の道を狭め、中途採用の機会を減らしてしまい、転職の選択肢を少なくしてしまっているのです。

【解雇規制の弊害】

法律や判例上、正社員の解雇にはハードルの高い規制が存在しています。

 「きちんと説明したかどうか
 「解雇する人選は適切だったかどうか
 「会社の存続が難しい
 「能力不足を理由に解雇する前に研修をしろ
 「配置転換をしろ
 「非正規労働者の首を先に切れ
 「解雇よりも新規採用抑制で対応せよ

などなど。
比較的ホワイトな大企業は、訴訟になった時の手間や企業イメージ低下を恐れてこうした解雇規制を遵守しています。

しかし、ブラック企業にとっては企業イメージの低下なんて今更な話なので気にしないでしょうし、小規模で従業員数の少ない企業にとっては能力や適性の無い従業員を雇用し続ける事は経営を圧迫するので解雇に踏み切る率は高くなるでしょう。

するとどうなるか。

比較的待遇の良い大企業正社員としての雇用は新卒一括採用の時点である程度固定されてしまい、再就職先としての選択肢は待遇の悪いブラック企業や中小企業での雇用か、あるいは非正規労働者か、という状況が生じます。

※参考 【20代の転職失敗談】大手企業を入社3年目で退職。夢だった業界に飛び込んだ25歳の末路

こうした状況を見聞きしていると、大企業正社員で就職できた人は、自分が今の会社に合ってないと感じていても、再就職先の選択肢を考えた時に二の足を踏んでしまいます。
業務内容が自分に向いていない、職場環境や人間関係が自分に合わないと思っても、無理をしてしまうわけです。

【解雇規制という不都合な真実】

一度正社員として雇われた人は、本人が辞めるか定年まではよほどの事がないと解雇されない、という正社員ルール、解雇規制。

解雇規制は、労働市場を固定化し、中小企業の労働者や非正規労働者のステップアップを妨げ、「雇用の調整弁」として利用される不遇な状況から脱出するのを邪魔する壁として機能しています。
「正社員イス取りゲーム」のイスが空かず、非正規労働者はずっと不遇な状況でグルグル回ってなきゃいけないのです。

のみならず、就職したところが自分に向いていないと感じている正社員にとっても、転職機会を減らし逃げ道を塞ぐものとなっています。
職場での鬱病発症や過労死の一因であるとの指摘もなされています。

にも関わらず、冒頭の藤田氏は、終身雇用や解雇規制の問題点を指摘し非難するどころか、
「そもそも終身雇用制度なんて無いんだ」
と、この問題を見なかったことにしています。

藤田氏にとって、解雇規制・終身雇用に言及されるのは不都合なのでしょう。
氷河期世代問題にしても、上に挙げた解雇規制の一つ、

 「解雇よりも新規採用抑制で対応せよ

が大きな原因です。
不況期に既存の正社員雇用を守るため、企業がこの規制に沿って新規採用を抑制したことが、正社員のレールに乗れなかった新卒浪人の大量発生に繋がったのです。

ところが、氷河期世代発生の原因を解雇規制に求めることは、藤田氏にとっての「不都合な真実」。
氷河期世代の問題についても解雇規制に言及することはなく、それどころか、

と、採るべき対処法がアベコベになってしまっています。
今、雇用の安定性を高めてしまっては、不況が再び到来したときに第二、第三の就職氷河期世代を誕生させてしまいます。

藤田氏が、性質のまるで異なる(場合によっては利害が対立する)正社員労組・公務員労組・中小労働者のユニオンなどを味噌糞一緒くたにして
「労働組合万歳!!資本家・経営者は敵だ!!労働者は権利要求すれば良いのだ!!」
という主張を繰り返しているのは、彼の依頼主に向けたポーズ、処世術なのだろうというのが、私の見方です。

既得権層たる正社員労組、公務員労組にとって、解雇規制は絶対死守したい既得権の本丸。
そんな正社員労組や公務員労組から講演依頼を受ける藤田氏が、解雇規制・終身雇用への言及を避けながら
「労働者は権利要求していればいいんだ」
と効果の無い念仏を繰り返しているのは、中小企業労働者や非正規労働者の代弁者を自称すると同時に、正社員労組・公務員労組のマスコットでもある彼にとっては合理的な行為なのです。


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ここまで長々と書いてまいりましたが、解雇規制については私のブログよりも、↓こちら

解雇規制は、実は従業員を苦しめている! | 荘司雅彦オフィシャルブログ「荘司雅彦の最終弁論」powered by Ameba

を読んでいただいた方が、分かりやすくて良いと思います。