若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

【職員基本条例】条例での処分基準明示は違法?

2011年11月25日 | 政治
大阪維新の会提出の職員基本条例案では、懲戒処分の基準や標準例が示されている。最近、懲戒処分の基準を条例で定めることの可否が、論点の一つとなっている。基準の定め方がどのようになっているかは、次のとおり。


○平成23年9月定例府議会議員提出第2号議案の概要
======【引用ここから】======
(懲戒処分の判断基準及び手続)
第十八条 法第二十九条第一項の規定により職員に対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分(以下「懲戒処分」という。)をするには、次の各号に掲げる事由のほか、日頃の勤務態度、非違行為後の対応等も含め総合的に考慮して行う。
 一 非違行為の動機、態様及び結果
 二 故意若しくは過失又は悪質性の程度
 三 非違行為を行った職員の職責及び当該職責と非違行為の関係
 四 他の職員及び社会に与える影響
 五 上司等への迅速な報告の有無
 六 過去の非違行為の有無
2 任命権者は、懲戒処分の可否及び処分内容について、第四十六条において規定する人事監察委員会の審査に付し、その結果を尊重し、懲戒処分を行わなければならない。
3 任命権者は、懲戒処分の対象となる職員(以下この条及び次条において「当該職員」という。)に弁明の機会を与えなければならない。
4 懲戒処分は、その旨を記載した書面を当該職員に交付して行わなければならない。

------(中略)------
(懲戒処分の標準例)
第二十条 別表第二の中欄に掲げる職員に対する標準的な懲戒処分は、別表第二の下欄に掲げるとおりとする。
2 別表第二にない非違行為については、別表第二との比較衡量のうえ、処分するものとする。

------(中略)------
別表第二(懲戒処分関係) [PDFファイル/117KB]
======【引用ここまで】======


このように、条例(案)上で処分基準や標準例を設けてあるが、これに対しては「条例で定めることは違法であり、あくまで任命権者の裁量に委ねられるべきである。」という意見がある。次のようなものである。


○2011-05-27 - 自治体法制執務雑感
======【引用ここから】======
職務上の義務違反があったとしても、一般的に「職員の義務違反に対して懲戒処分をするかどうか、および懲戒処分をする場合にいずれの処分を行うかは、任命権者が裁量権の範囲を逸脱した場合を除き、任命権者が裁量権によって決定すべきものとされている(最高裁昭52.12.20判決 判例時報874号3頁)」(橋本勇『新版逐条地方公務員法(第2次改訂版)』(P585))。
そうすると、懲戒処分の基準についても、当然処分権者(任命権者)が定めるべきもので、条例で定めることはできないと考えるべきであることになる。

======【引用ここまで】======


私はリバタリアンという思想的立場から、(首長を含む)公務員の裁量を明文規定で制限することが、個人の自由保障につながると考えている。「行政活動は、予め定められ明示されたルールに則って行われるべき。」という、行政杓子定規論者である。

裁量権によって決定すべきものとなると、基準を定めるか否か、どの程度定めるか、定めた基準を公表するか否かも裁量に委ねられることになる。

私の思想的立場からは、「どう定めるかは任命権者が裁量で決めることであって、条例化できない」という論者に「はい、分かりました。」と二つ返事で答えることはできない。行政の活動は、極力、上位の規範によって裁量の幅を拘束されるべきだ。

そういう批判的な目で、判例を改めて見てみる。

判例の事案は、税関職員に対する懲戒免職処分の取り消しを巡って争われたものである。最高裁は「この懲戒処分は裁量の範囲内」という結論を出したのだが、裁判所の判断として次のように述べている。


○判例検索 昭和47(行ツ)52 昭和52年12月20日
======【引用ここから】======
ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができる
======【引用ここまで】======


最高裁がとっているロジックは、
「(国家公務員の処分について)法律で具体的な基準を設けていない。したがって、懲戒権者の裁量に任されている。」
というものであって、
「(国家公務員の処分について)懲戒権者の裁量に任されている。したがって、法律で具体的な基準を設けてはいけない。」
とは言っていない。逆である。

この判例は
「法律で具体的な基準が定められていない中、どこまでが懲戒権者の裁量の範囲内として認められるか。」
がポイントなのであって、
「懲戒権者の裁量以外(法律・条例)で具体的な基準を定めることの可否」
は判例の射程外である。
「懲戒処分の基準は、任命権者が定めるべきもので、条例で定めることはできない」
という主張の根拠として、この判例を挙げるのは間違いだ。

ところで、地方公務員法には、


======【引用ここから】======
(人事委員会及び公平委員会並びに職員に関する条例の制定)
第五条  地方公共団体は、法律に特別の定がある場合を除く外、この法律に定める根本基準に従い、条例で、人事委員会又は公平委員会の設置、職員に適用される基準の実施その他職員に関する事項について必要な規定を定めるものとする。但し、その条例は、この法律の精神に反するものであつてはならない。

======【引用ここまで】======


とある。地方公共団体は職員に適用される基準の実施について条例で必要な事項を定めることとされている。条例で、基準の実施について定めることができて、実施すべき基準そのものを定めることができないというのは考えにくい。

ということで、以上より、「条例で懲戒処分の基準を定めることの可否」は可である、どしどし処分基準を条例化しなさい!というのが、若年寄の結論です。

総合計画の基本構想のみを議決対象としたい自治体へ

2011年11月11日 | 地方議会・地方政治
地方自治法が改正されて総合計画の策定義務が無くなり、基本構想は議決事件から外された。以前、当ブログにて、議決事件として「総合計画の策定」を挙げている議会基本条例、自治基本条例を紹介したが、自治基本条例もない、議会基本条例もない、議決事件に関する条例も持っていない自治体はきっと多いことだろう。

そういう自治体が、従来どおり議決を経て総合計画の基本構想を策定しようとするのであれば、次のような条例を新規に制定しないといけない。


============
   地方自治法第96条第2項の規定による議会の議決すべき事件を定める条例(案)
(趣旨)
第1条 この条例は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第96条第2項の規定により、議会の議決すべき事件を定めるものとする。
(議決事件の指定)
第2条 議会の議決すべき事件は、次のとおりとする。
 (1) 総合的かつ計画的な市行政の運営を図るための基本構想の策定、変更又は廃止をすること。
   附 則
 この条例は、公布の日から施行する。

============


仮に、こうした条例を制定しないまま、基本構想を議案として議会に提出した場合、どうなるのか。この議案は提出の根拠を持たないものであるから、これに対する議決は無効というか、無意味である。この議決は基本構想に対する機関意思を示すだけであり、基本構想の成立・不成立には何ら影響しない。


(・・・案を作ってみて、
「条建てにする必要はないかな」
「号が一つしかないから、号にする必要ないかな」
とも思ったので、もし実際に使う場合は各自治体のスタイルに合わせてほしい。)


ちなみに、改正自治法の成立は平成23年5月。これ以前に制定された条例では、基本構想が法律上の議決事件となっていたことを前提として、
「地方自治法第2条第4項に定める基本構想に基づく基本計画」
と、基本計画を追加した形で議決事件を定めている。

これから条例を制定して、基本構想のみを議決事件にしようと考えている自治体が、平成23年5月より前に制定された他団体の条例をコピーするとおかしなことになるので、注意が必要だ。

また、基本計画を議決事件として追加している自治体の議会会議録を見てみると、その多くが議員提案となっている。「法律で定められた基本構想だけでなく、基本計画についても関与したい」という議員の思いが表れたものと推察する。

自治法が改正された、でも従来どおり基本構想のみ議決を経て策定したいと考えているのであれば、首長提案とすることをお勧めする。議員提案条例となったら、きっと基本計画も議決事件に加えた形になってしまうだろう。




そもそも、地方自治法が改正されて、総合計画の策定義務が無くなったのだから、総合計画の必要性そのものをしっかりと議論してほしい。作るだけ作ったけど、実際には職員も議員も首長も誰も見ないような計画なら、自治法改正を機会に策定を止めてしまった方が良い。無駄な計画策定は、コンサルを喜ばせるだけだ。

大阪府の職員基本条例案雑感 ~ 法規ジャングルへようこそ ~

2011年11月10日 | 政治
○「教育基本条例案」「職員基本条例案」ようやく上程されました 大阪府立高等学校教職員組合

府高教ホームページの解説によると、大阪維新の会が9月21日に「教育基本条例案」「職員基本条例案」を提出したところ、この2議案は「議長預かり」になり、2週間経った10月5日に上程された。議案が上程された10月5日に、議案の全文が初めて府議会ホームページで公開された。

(議案として上程され、正式に公開されたのは10月5日。hamachan氏は、検討段階の全文を遅くとも8月18日に入手している。hamachan氏の入手の早さは際立っている。)

大阪維新の会が提出した、大阪府の「職員基本条例案」全文。
これに対する大阪府総務部の「『職員基本条例案』の内容について確認(質問)事項」。


この二つを眺めてみて思ったのが、
「国の法律や政令、地方公共団体の条例や規則が入り混じっている分野(税、職員人事、給与など)で、それぞれの整合性を保ちながら新規条例を制定するのは至難の業だ。」
ということ。

国に、法律があり、政令があり、各省の規則がある。こうした国の規定から、ある部分は地方公共団体の条例に委任され、別の部分は別の機関の規則に委任される。法律、政令、条例、規則が網の目のように張り巡らされている。

そういった分野で条例を新規に制定しようとすると、既存の法律に抵触したり、別に制定権を持つ機関が存在したり、同じことを別の条例で定めてあったりする。どの事柄がどの法規に定めてあるか等、その分野に精通した職員なり学者の全面的な協力がなければ、整合性を保つことはまず不可能だ。

府議が「職員人事に関する条例を作ろう!」と思い立っても、そこには既存の法規の壁が立ちはだかる。府職員の力を借りない(借りることができない)と、壁と睨めっこを続けることになる。

地方公共団体が独自に政策や事業を実施しようとした時、国の法律や政令は壁となって立ちはだかる。しかし、時と場合によっては、「議員、それは○○法に抵触するから、そういう職員の処分方法は条例化できませんよ。」と職員の身分保障を擁護する盾となる。

法律があるから自治体単独では変えられない部分と、議員提案条例で変えることのできる部分。詳しい人が精査をすれば、この二つをきっちり分けて、条例で変えられる部分だけを拾い集めて条例化することができるのだろう。

しかし、こと職員人事、身分保障に関する部分で、職員が手を貸すとは思えない。

税、給与、人事分野などでは、その分野の専門家の力を借りなければ、新規条例を制定することはできない。しかし、その分野の専門家は往々にしてその分野の既得権者なので、自己に不利益になるような条例化に手を貸すことはまずない。

大阪府の職員基本条例案は、処分基準の明確化(条例上での明文化)、相対評価による人事評価など、優れた点がいくつもある。知事の裁量に委ねられている部分を条例で制限するのは、自由主義の観点からは望ましいものと考える。

ところが、準特別職員制度と「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律」との整合性や、地方公務員法上の人事委員会と人事監察委員会制度との整合性、他の任命権者の権限を知事が介入した点など、問題点も多い。

私としては、この条例案は可決・成立させてほしい。施行された上で、訴訟になって法律に抵触すると判断された部分だけ削ぎ落とされていけばいい。

もし、この条例案が、他法規との整合性がとれていないという理由で廃案、否決となってしまうとなると、「やはり専門家には敵わない。議員提案条例で職員の身分保障にメスを入れることはできない」ということになってしまう。

ちょっと乱暴な言い方になるが、他法規との整合性なんて、後から裁判官が判断すれば良いんだ。整合性を保つのが法制担当者の腕の見せ所なのだが、それはこの際置いておこう。

国有財産、公有財産と民有地との境界確定(業務メモ)

2011年11月08日 | Weblog
○福岡高裁 事件番号平成20(行コ)22 裁判年月日 平成21年02月04日
======【引用ここから】======
国有財産法に基づく境界確定協議は,行政庁と隣接地所有者とが対等の立場で協議することが予定されているもので,私法上の契約の性質を有するものであり,行政庁の優越的地位に基づいてなされるものではないと解されるところ,法律によらなければその効果が付与されない性質のものとは解されず,国有財産の場合と公有財産の場合とで,法律の有無によって,その法的性質が異なるものとは認められない。
======【引用ここまで】======


あなたの土地の隣に、市道、国有地、個人が所有していないあぜ道や水路が存在する。そういった場合、行政が「上から目線の処分」をすることは出来ない。土地の境界に関して、行政は一方的に境界を決めるといった優越的地位に立っていない。境界を確定するための協議は「私法上の契約」と同じものであり、あなたの同意がなければ成り立たない。

次に。


○旧法定外公共物に関する境界確定事務等取扱要領
======【引用ここから】======
5 境界確定を行う土地の範囲
 境界確定は、原則として、旧法定外公共物と隣接土地との境界を確定することにより行うものとする。
 なお、以下の場合のほか、財務局長が適当と認める場合においては、対側地の境界線の確定は要しない。
① 土地区画整理事業、土地改良事業及び国土調査法に基づく地籍調査が完了している地域
② 道路査定図等公共物管理者の保有する資料により、境界が明確な場合
③ 過去において、対側地の境界確定が完了している場合

======【引用ここまで】======


例えば、あなたの土地が里道に接している場合。

里道の境界確定をすることで、あなたの土地と里道との境界が確定する。同時に、この里道の境界確定をすることで、里道を挟んだ反対側の土地(対側地という)の境界も確定する。そのため、対側地の所有者の同意も必要となる。

対側地の所有者にとって、自分の知らない所で自分の土地の境界が勝手に確定されてしまうことを防ぐためのルールだ(ただ、このルールは旧法定外公共物という国有地のルールなので、自治体所有の土地についてはそこのルールがあるかもしれない。)。

ただ、これは原則。原則があるところには例外がある。

何らかの理由で、里道と対側地の境界が既に確定しているのであれば、対側地の所有者の同意は不要となる。区画整理事業や国土調査が既に行われていれば、その資料に基づいて境界を決めても「知らないところで勝手に決められた」ということにはならない。

既に境界を判明させるための資料がある、という例外的な場合を除いては、対側地の所有者の同意が必要だ。