大阪維新の会提出の職員基本条例案では、懲戒処分の基準や標準例が示されている。最近、懲戒処分の基準を条例で定めることの可否が、論点の一つとなっている。基準の定め方がどのようになっているかは、次のとおり。
○平成23年9月定例府議会議員提出第2号議案の概要
======【引用ここから】======
(懲戒処分の判断基準及び手続)
第十八条 法第二十九条第一項の規定により職員に対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分(以下「懲戒処分」という。)をするには、次の各号に掲げる事由のほか、日頃の勤務態度、非違行為後の対応等も含め総合的に考慮して行う。
一 非違行為の動機、態様及び結果
二 故意若しくは過失又は悪質性の程度
三 非違行為を行った職員の職責及び当該職責と非違行為の関係
四 他の職員及び社会に与える影響
五 上司等への迅速な報告の有無
六 過去の非違行為の有無
2 任命権者は、懲戒処分の可否及び処分内容について、第四十六条において規定する人事監察委員会の審査に付し、その結果を尊重し、懲戒処分を行わなければならない。
3 任命権者は、懲戒処分の対象となる職員(以下この条及び次条において「当該職員」という。)に弁明の機会を与えなければならない。
4 懲戒処分は、その旨を記載した書面を当該職員に交付して行わなければならない。
------(中略)------
(懲戒処分の標準例)
第二十条 別表第二の中欄に掲げる職員に対する標準的な懲戒処分は、別表第二の下欄に掲げるとおりとする。
2 別表第二にない非違行為については、別表第二との比較衡量のうえ、処分するものとする。
------(中略)------
別表第二(懲戒処分関係) [PDFファイル/117KB]
======【引用ここまで】======
このように、条例(案)上で処分基準や標準例を設けてあるが、これに対しては「条例で定めることは違法であり、あくまで任命権者の裁量に委ねられるべきである。」という意見がある。次のようなものである。
○2011-05-27 - 自治体法制執務雑感
======【引用ここから】======
職務上の義務違反があったとしても、一般的に「職員の義務違反に対して懲戒処分をするかどうか、および懲戒処分をする場合にいずれの処分を行うかは、任命権者が裁量権の範囲を逸脱した場合を除き、任命権者が裁量権によって決定すべきものとされている(最高裁昭52.12.20判決 判例時報874号3頁)」(橋本勇『新版逐条地方公務員法(第2次改訂版)』(P585))。
そうすると、懲戒処分の基準についても、当然処分権者(任命権者)が定めるべきもので、条例で定めることはできないと考えるべきであることになる。
======【引用ここまで】======
私はリバタリアンという思想的立場から、(首長を含む)公務員の裁量を明文規定で制限することが、個人の自由保障につながると考えている。「行政活動は、予め定められ明示されたルールに則って行われるべき。」という、行政杓子定規論者である。
裁量権によって決定すべきものとなると、基準を定めるか否か、どの程度定めるか、定めた基準を公表するか否かも裁量に委ねられることになる。
私の思想的立場からは、「どう定めるかは任命権者が裁量で決めることであって、条例化できない」という論者に「はい、分かりました。」と二つ返事で答えることはできない。行政の活動は、極力、上位の規範によって裁量の幅を拘束されるべきだ。
そういう批判的な目で、判例を改めて見てみる。
判例の事案は、税関職員に対する懲戒免職処分の取り消しを巡って争われたものである。最高裁は「この懲戒処分は裁量の範囲内」という結論を出したのだが、裁判所の判断として次のように述べている。
○判例検索 昭和47(行ツ)52 昭和52年12月20日
======【引用ここから】======
ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができる
======【引用ここまで】======
最高裁がとっているロジックは、
「(国家公務員の処分について)法律で具体的な基準を設けていない。したがって、懲戒権者の裁量に任されている。」
というものであって、
「(国家公務員の処分について)懲戒権者の裁量に任されている。したがって、法律で具体的な基準を設けてはいけない。」
とは言っていない。逆である。
この判例は
「法律で具体的な基準が定められていない中、どこまでが懲戒権者の裁量の範囲内として認められるか。」
がポイントなのであって、
「懲戒権者の裁量以外(法律・条例)で具体的な基準を定めることの可否」
は判例の射程外である。
「懲戒処分の基準は、任命権者が定めるべきもので、条例で定めることはできない」
という主張の根拠として、この判例を挙げるのは間違いだ。
ところで、地方公務員法には、
======【引用ここから】======
(人事委員会及び公平委員会並びに職員に関する条例の制定)
第五条 地方公共団体は、法律に特別の定がある場合を除く外、この法律に定める根本基準に従い、条例で、人事委員会又は公平委員会の設置、職員に適用される基準の実施その他職員に関する事項について必要な規定を定めるものとする。但し、その条例は、この法律の精神に反するものであつてはならない。
======【引用ここまで】======
とある。地方公共団体は職員に適用される基準の実施について条例で必要な事項を定めることとされている。条例で、基準の実施について定めることができて、実施すべき基準そのものを定めることができないというのは考えにくい。
ということで、以上より、「条例で懲戒処分の基準を定めることの可否」は可である、どしどし処分基準を条例化しなさい!というのが、若年寄の結論です。
○平成23年9月定例府議会議員提出第2号議案の概要
======【引用ここから】======
(懲戒処分の判断基準及び手続)
第十八条 法第二十九条第一項の規定により職員に対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分(以下「懲戒処分」という。)をするには、次の各号に掲げる事由のほか、日頃の勤務態度、非違行為後の対応等も含め総合的に考慮して行う。
一 非違行為の動機、態様及び結果
二 故意若しくは過失又は悪質性の程度
三 非違行為を行った職員の職責及び当該職責と非違行為の関係
四 他の職員及び社会に与える影響
五 上司等への迅速な報告の有無
六 過去の非違行為の有無
2 任命権者は、懲戒処分の可否及び処分内容について、第四十六条において規定する人事監察委員会の審査に付し、その結果を尊重し、懲戒処分を行わなければならない。
3 任命権者は、懲戒処分の対象となる職員(以下この条及び次条において「当該職員」という。)に弁明の機会を与えなければならない。
4 懲戒処分は、その旨を記載した書面を当該職員に交付して行わなければならない。
------(中略)------
(懲戒処分の標準例)
第二十条 別表第二の中欄に掲げる職員に対する標準的な懲戒処分は、別表第二の下欄に掲げるとおりとする。
2 別表第二にない非違行為については、別表第二との比較衡量のうえ、処分するものとする。
------(中略)------
別表第二(懲戒処分関係) [PDFファイル/117KB]
======【引用ここまで】======
このように、条例(案)上で処分基準や標準例を設けてあるが、これに対しては「条例で定めることは違法であり、あくまで任命権者の裁量に委ねられるべきである。」という意見がある。次のようなものである。
○2011-05-27 - 自治体法制執務雑感
======【引用ここから】======
職務上の義務違反があったとしても、一般的に「職員の義務違反に対して懲戒処分をするかどうか、および懲戒処分をする場合にいずれの処分を行うかは、任命権者が裁量権の範囲を逸脱した場合を除き、任命権者が裁量権によって決定すべきものとされている(最高裁昭52.12.20判決 判例時報874号3頁)」(橋本勇『新版逐条地方公務員法(第2次改訂版)』(P585))。
そうすると、懲戒処分の基準についても、当然処分権者(任命権者)が定めるべきもので、条例で定めることはできないと考えるべきであることになる。
======【引用ここまで】======
私はリバタリアンという思想的立場から、(首長を含む)公務員の裁量を明文規定で制限することが、個人の自由保障につながると考えている。「行政活動は、予め定められ明示されたルールに則って行われるべき。」という、行政杓子定規論者である。
裁量権によって決定すべきものとなると、基準を定めるか否か、どの程度定めるか、定めた基準を公表するか否かも裁量に委ねられることになる。
私の思想的立場からは、「どう定めるかは任命権者が裁量で決めることであって、条例化できない」という論者に「はい、分かりました。」と二つ返事で答えることはできない。行政の活動は、極力、上位の規範によって裁量の幅を拘束されるべきだ。
そういう批判的な目で、判例を改めて見てみる。
判例の事案は、税関職員に対する懲戒免職処分の取り消しを巡って争われたものである。最高裁は「この懲戒処分は裁量の範囲内」という結論を出したのだが、裁判所の判断として次のように述べている。
○判例検索 昭和47(行ツ)52 昭和52年12月20日
======【引用ここから】======
ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができる
======【引用ここまで】======
最高裁がとっているロジックは、
「(国家公務員の処分について)法律で具体的な基準を設けていない。したがって、懲戒権者の裁量に任されている。」
というものであって、
「(国家公務員の処分について)懲戒権者の裁量に任されている。したがって、法律で具体的な基準を設けてはいけない。」
とは言っていない。逆である。
この判例は
「法律で具体的な基準が定められていない中、どこまでが懲戒権者の裁量の範囲内として認められるか。」
がポイントなのであって、
「懲戒権者の裁量以外(法律・条例)で具体的な基準を定めることの可否」
は判例の射程外である。
「懲戒処分の基準は、任命権者が定めるべきもので、条例で定めることはできない」
という主張の根拠として、この判例を挙げるのは間違いだ。
ところで、地方公務員法には、
======【引用ここから】======
(人事委員会及び公平委員会並びに職員に関する条例の制定)
第五条 地方公共団体は、法律に特別の定がある場合を除く外、この法律に定める根本基準に従い、条例で、人事委員会又は公平委員会の設置、職員に適用される基準の実施その他職員に関する事項について必要な規定を定めるものとする。但し、その条例は、この法律の精神に反するものであつてはならない。
======【引用ここまで】======
とある。地方公共団体は職員に適用される基準の実施について条例で必要な事項を定めることとされている。条例で、基準の実施について定めることができて、実施すべき基準そのものを定めることができないというのは考えにくい。
ということで、以上より、「条例で懲戒処分の基準を定めることの可否」は可である、どしどし処分基準を条例化しなさい!というのが、若年寄の結論です。