若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

組合・選挙・紹介カード ~ 地方公務員法36条「署名運動の積極的関与」(勝手に)解釈 ~

2012年03月06日 | 労働組合
<橋下市長>「労組活動、条例で規制」 庁舎内事務所退去も (毎日新聞)1月4日(水)
=====【引用ここから】=====
 一方、面談では、昨年11月の市長選投開票前、市交通局庁舎内で平松邦夫前市長の推薦人紹介カードが出回っていたことについて、中村委員長が「あってはならないことで、責任を感じている」と深々と頭を下げて謝罪。政治活動をした職員を当面、役員活動停止処分にしたことを伝えた。
=====【引用ここまで】=====


交通局労組「非協力なら不利益」 リストに局長級幹部も (産経新聞)2月6日
=====【引用ここから】=====
 大阪市職員の労働組合が、昨秋の市長選で現職支援に積極的に動いていたことを裏付ける生々しい実態が6日、明らかになった。橋下徹市長率いる大阪維新の会が入手した、平松邦夫前市長支援のための「知人・友人紹介カード」と、管理用のチェックリスト。市交通局職員でつくる大阪交通労働組合(大交)が配布・回収を指示し、非協力的な職員には人事上の脅しともとれる「不利益」があることを示唆していた。
 「大阪市労連(市労働組合連合会、大交の上部組織)では、組合員が一丸となって知人・友人紹介活動に取り組み、平松市長を積極的に支援していくことが決定しています」
 「紹介カードを提出しない等の非協力的な組合員がいた場合は、今後不利益になることを本人に伝え、それでも協力しない場合は各組合の執行委員まで連絡してください」
 維新が入手したチェックリストには、交通局職員約1800人分の氏名などが記載され、協力しない職員への「脅し」ともとれる文言が記されていた。

=====【引用ここまで】=====


大阪市で浮かび上がった、公務員による政治活動。
組合が紹介カードを組合員に配布し、
組合員は知人・友人・親戚にカードに記入してもらい
(あるいは承諾を得て組合員が記入し)
組合がカードを回収し、取りまとめて候補者の後援会に送り、
後援会がカードの住所・電話番号を見て「ご支援をお願いします」と呼び掛けていくというものだ。

この紹介カードを媒介とした政治活動は、大阪市だけではない。
全国津々浦々、様々な選挙で行われている。


自治労長崎県職員連合労働組合 » 県職連合の動きがまだまだ 総力を挙げて長崎全4区を勝利しよう
=====【引用ここから】=====
知友人紹介者カードが全く足りない!!「あと3人」の取り組みを徹底しよう。 8月18日公示されました第45回衆議院選挙も残すところ後4日、まさに最終盤の戦いとなりました。県職連合も1区から4区まで全ての選挙区の民主党候補を推薦し、かつてないほどの取り組みを進めています。
=====【引用ここまで】=====


第22回参議院議員選挙 - 自治労福岡県本部
=====【引用ここから】=====
 前回の参議院比例代表選挙では、自治労の相原久美子が50万票以上を獲得したことから、えさきたかしの得票目標も50万票に置いているが、民主党逆風下にあって厳しい取り組みとなっている。しかし、えさきたかしの得票が労働界や民主党だけではなく、政権内における存在感と、確固たる発言力に直結する。しかも、えさきたかしは福岡県本部(柳川市職労)出身である。したがって県本部は全国の自治労の仲間の先頭に立つ決意で、「えさきたかし紹介者カード」を、組合員一人あたり10人を目標に集約している。
=====【引用ここまで】=====


いわき市職員連合労働組合 - 支持者カードの取り組み実施
=====【引用ここから】=====
 市職連合としては、「社民党・民主党を基軸に、民主リベラル勢力の総結集をめざす」の方針を踏まえて、2008年度第11回執行委員会及び市職連合第2回定期大会において、選挙区(福島5区=いわき市・双葉郡)は前回の衆議院選挙でも推薦した「吉田泉」氏(民主党)、比例区はもっとも労働者の立場に立つ制度政策を掲げる「社会民主党」を推薦決定し、たたかうことを決定しました。
 具体的な取り組みとしては、①教宣の発行と配布、②「支持者カード」の集約(取り組み中)、③総決起集会等への結集について提起していますので、政権交代にむけて取り組みをお願いいたします。

=====【引用ここまで】=====


沖縄防衛局長だけが問題か 宜野湾市職労も選挙運動を呼びかけ (WEDGE)
=====【引用ここから】=====
 しかし、翻ってみて、選挙にあたって公務員が特定の候補に肩入れをするような動きがこれまでになかったであろうか。問題となっている宜野湾市長選をめぐる文書を記者は入手した。文書は今年1月25日付。宜野湾市職員労働組合の執行委員長の名前で、組合員である市の職員に対し、市長選の2人の立候補予定者のうちの一方を応援する選挙活動をするよう呼びかけたものだ。
 この市長選では、沖縄県議会議員の佐喜真淳氏(47歳)=自民・公明推薦と元宜野湾市長の伊波洋一氏(60歳)=社民・共産・社大推薦の2人がすでに立候補を表明している。
 文書は「政治闘争(宜野湾市長選挙)の取り組みについて」と題して、「イハ洋一さんの勝利を目指し、支持者獲得1人20人以上を取り組みます」、「イハ洋一さんの勝利を目指し、組合員1人あたり週2行動に取り組みます」などの行動目標を挙げ、組合としてこれらの行動に取り組むので、「組合員のみなさんのご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます」としている。
 さらに、チラシや支持者カードを配布するときに受けるであろう質問に対する想定問答まで用意されている。ここでは、伊波氏がかつて宜野湾市長を辞任して10年11月の沖縄県知事選に出たにもかかわらず、再び宜野湾市長選に立候補するのはなぜか、と聞かれた場合には、「これまで行ってきた市民サービスの継続と拡大・充実、また『普天間基地の早期閉鎖・返還』と『県内移設反対』という、宜野湾市民の『ゆるがない意思』を今後も貫くためです」と答えるように指示している。
 実際にこの呼びかけを受けて、市の職員らは伊波氏への投票を呼びかける運動を開始しており、宜野湾市の市民は記者の取材に、平日の日中に呼びかけをされたと証言する。だとすると、勤務時間中に選挙活動をしていた疑いすら出てくる。

=====【引用ここまで】=====

※この記事にある、組合からの文書が↓こちら。





※↑転載元「宜野湾市職労も選挙運動を呼びかけ - 狼魔人日記



ここまで、前置き。

このように、全国各地で当たり前のように行われている紹介カードの配布回収だが、今回、大阪市の選挙管理委員会が地方公務員法違反に当たる可能性を示唆した。


大阪市交通局と労組、組織ぐるみの選挙支援か  :日本経済新聞
=====【引用ここから】=====
 大阪市交通局職員でつくる大阪交通労働組合(大交)が2011年11月の大阪市長選で、立候補した当時の平松邦夫市長を支援するため、交通局職員らを対象に大規模に「知人・友人紹介カード」の配布と回収をした可能性のあることが6日、地域政党「大阪維新の会」の調査で分かった。
~~~(中略)~~~
 地方公務員法は、選挙で職員が署名に関わるなどの政治的行為を制限している。市選管によると、交通局職員の場合は、同法が適用される係長級以上が紹介カードの提出に伴い、署名活動をしたとみなされれば違法行為になるという。
=====【引用ここまで】=====


○地方公務員法
=====【引用ここから】=====
(政治的行為の制限)
第三十六条 職員は、政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となつてはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない。
2 職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない。ただし、当該職員の属する地方公共団体の区域(当該職員が都道府県の支庁若しくは地方事務所又は地方自治法第二百五十二条の十九第一項 の指定都市の区に勤務する者であるときは、当該支庁若しくは地方事務所又は区の所管区域)外において、第一号から第三号まで及び第五号に掲げる政治的行為をすることができる。
一 公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること
二 署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること
三 寄附金その他の金品の募集に関与すること。
四 文書又は図画を地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎(特定地方独立行政法人にあつては、事務所。以下この号において同じ。)、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること
五 前各号に定めるものを除く外、条例で定める政治的行為
3 何人も前二項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め、職員をそそのかし、若しくはあおつてはならず、又は職員が前二項に規定する政治的行為をなし、若しくはなさないことに対する代償若しくは報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益若しくは不利益を与え、与えようと企て、若しくは約束してはならない。
4 職員は、前項に規定する違法な行為に応じなかつたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。
5 本条の規定は、職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され、及び運用されなければならない。

=====【引用ここまで】=====


職員は、
・特定の地方公共団体の執行機関(市長)を支持し、又はこれに反対する
・選挙において特定の人を支持し、又はこれに反対する
こういった目的で、署名運動を企画、主宰する等、署名運動に積極的に関与してはならない。

法律上禁止されているのは「署名運動への積極的な関与」なので、組合員がただ単に署名に応じるような行為は、この禁止規定の範囲外となる。では、どういったものが「署名運動への積極的な関与」となるのか。
「積極的な関与」について、大阪市の選挙管理委員会は基準となるようなものを示していない。また、これが争点となった訴訟の判決、行政実例を探し出すこともできなかった。

そこで、仮定の事例で考えてみよう。


・組合役員会で「次の市長選で、現職の○○氏を応援します」と決める。

・組合の総会で、組合役員が「次の市長選で、組合として現職の○○氏が再選を果たすよう応援します」と伝え、組合全体の方針として決まる。

・○○後援会が政策パンフレットと知人友人紹介カードを印刷し、組合へ送付。

・組合役員が組合員へ○○後援会の政策パンフを配布し、「○○氏の掲げる政策に理解を求めます」と伝える。


  ↓ (ここまでは、組合員への働きかけ、組合内部の動きのみ)

(1)組合役員が、○○後援会の紹介カードを組合員に配布し、「書いてくれる知り合いがいたら、住所、氏名を記入して○○後援会へ各自送ってください」と伝える。

(2)組合役員が紹介カードを組合員に配布し、「知り合いに連絡し、紹介カードに記入したら組合事務所まで提出してください」と伝える。

(3)組合役員が紹介カードを組合員に配布し、「知り合いに連絡し、紹介カードに記入したら組合事務所まで提出してください。組合員1人につきカード10枚以上提出してください」と伝える。

(4)組合役員が紹介カードを組合員に配布し、「知り合いに連絡し、紹介カードに記入したら組合事務所まで提出してください。組合員1人につきカード10枚以上提出してください」と伝える。組合役員が提出状況をリストでチェックし、ノルマを満たさない組合員に「10枚まであと4枚足りない」と催促する。

(5)組合役員が紹介カードを組合員に配布し、「知り合いに連絡し、紹介カードに記入したら組合事務所まで提出してください。組合員1人につきカード10枚以上提出してください。非協力的な組合員には不利益が及ぶこともあります。」と伝える。組合役員が提出状況をリストでチェックし、ノルマを満たさない組合員に「10枚まであと4枚足りない。非協力的だ」と催促する。



さて、どこからが「署名運動の企画、主宰等の積極的な関与」だろうか。

「企画、主宰」という例示列挙があるため、企画者や主宰者と同視しうる程度の関与が必要となろう。(1)の段階では、組合員から見た組合役員は「カードの配布元」でしかなく、主宰者たる後援会とは別個のものである。

ところが、(2)になると違ってくる。(2)のように、組合役員が組合員からのカード回収取りまとめを行う段階で、組合が後援会における役所内窓口となり、署名運動を主宰する後援会の役割を代行している。組合員は組合役員からカード配布を受け、提出も組合役員に対して行うため、後援会との直接の接点がない。組合員から見たら「組合役員≒後援会」ということになる。

(3)のノルマ設定、(4)の催促といった組合役員の役割が大きくなればなるほど、関与の積極性が高まってくる。後援会としては組合員にノルマを課すことはできないため、組合役員によるノルマ設定の時点で、組合役員は主宰者たる後援会以上の積極的な役割を果たしたことになる。

個人的には、(1)はとりあえず白、(2)の段階で黒っぽいグレー、(3)ないし(4)でほぼ間違いなく黒、(5)は真っ黒と評価する。ただ、これはあくまで個人的感想。今後、大阪市の事例で市長から処分が出されたり、処分に対する組合側の訴訟が提起される中で、一定の線引きがなされ、基準が確立されることを期待する。

また、こうした紹介カードの配布・催促・回収が勤務時間内に行われていれば、地公法35条の職務専念義務に明確に違反する。職場で配布等が行われていたら、36条2項4号で禁止される庁舎利用の疑いも生じてくる。

当たり前のように「1人10枚の紹介カード提出を!」なんてノルマ設定をし、選挙に関与していた自治労だが、今後は自粛していくべきだ。大阪市の事例がこのきっかけとなっていってもらいたいものだ。



ちなみに。

組合と組合員は、決して一枚岩というわけではない。
選挙と距離を置きたいと考える組合員。
組合推薦○○氏と対立する人を応援したいと考える組合員。
そもそも紹介カードに書けるような知人がいない組合員。
などなど、中身は様々だ。

地方公務員法第36条第5項にあるように、組合の対外的な政治活動を制約し、住民から見た「職員の政治的中立を保障すること」で、個々の内心・プライバシーという「職員の利益を保護」することができる。

共産党推奨「住宅リフォーム助成制度」の問題点 ~ 美味しい話には裏がある ~

2012年03月06日 | 政治
ここ数年、共産党が
「地域経済が活性化する」
「自治体単独でできる」
として、各地でPRを行っている事業がある。

「住宅リフォーム助成制度」というものだ。


○東郷町議会議員 かどはら武志: 蒲郡市の住宅リフォーム助成制度―短期間に大きな経済効果
=====【引用ここから】=====
 13日、東郷町議会経済建設委員会の県内研修があり私も参加しました。最初に蒲郡市の住宅リフォーム助成について報告します。
 蒲郡市は市内の業者に発注して住宅リフォーム工事を行う市民に助成金を出す事業を実施しています。助成金額は工事費の10%(20万円を限度とする)で、工事費が10万円以上の工事が対象になります。市役所が市民に配布したチラシには「市民の皆様が市内の業者さんを利用してご自分の市内にある居住住宅の屋根の葺替(ふきかえ)・外壁の塗替等改修工事、床の張替、畳替等の模様替工事、下水道排水設備工事等を行う場合に、工事費の一部を助成する制度です。」と書かれています。
 1回目は昨年10月から2000万円の予算で実施され、11月24日に予算を使い切り終了しました。2回目は2月1日から5000万円の予算で実施されます。

大きな経済効果

 2000万円の予算を使った1回目の事業では2億7900万円ものリフォーム工事が行われました(業者の見積書より)。そのうち補助対象になった工事費は2億4000万円で、直接の補助対象にはならない工事も3900万円分行われました。造園工事など住居に直接関係ない部分は対象外になりますが、リフォームのついでにこうした工事を行った市民もいたようです。市の予算のざっと14倍もの経済効果があったと言えます。しかもわずか1ヵ月と24日間の短期間にです。

=====【引用ここまで】=====


住宅リフォーム助成制度とは、ここで紹介されているように、
「地元の工事業者に依頼して200万円かけて外壁塗装や床の補修などを行った際に、自治体から20万円の助成金が出る」
というものだ。(自治体によって上限や補助率等は異なる)

この助成制度があることによって、利用者が
「よし、この機会に家の不具合を直すか」
と思い立ち、業者に依頼する。助成金が呼び水となって工事業者への仕事発注が増え、その工事業者が建築資材の発注をし・・・といった具合に、予算に比べて大きな経済効果を得ることができる。

と、共産党は力説している。
上記サイトの例でいくと、

・市の予算額 :  2000万円
・工事発注額 :2億7900万円
(・補助対象額:2億4000万円)
(・補助対象外:  3900万円)
・経済効果  :14倍

こうしてみると、
「おっ、共産党は良いこと言うなぁ」
「地元の建設業の仕事が増えて、地域経済が活性化するぞ」
「良い事づくめじゃないか。なぜうちの自治体では実施しないのか」
と思えてしまう。

そう思ったそこの方、ちょっと待たれよ。

市の予算額2000万円に対し、2億7900万円の工事が発注されている。自治体としては「少ない予算額で大きな事業ができた」と評価できるかもしれない。

では、この差額2億5900万円はどこから出ているのか。
住民の財布からである。

市が助成金として用意した2000万円が呼び水となって、住民は2億5900万円の支出をしている。この支出は、市の助成事業がなければ、他のところへ回っていたはずのものである。食料品であったり、衣料品であったり、教育資金であったり、自動車であったり、と。

Aさんが市から20万円の助成金を受け取り、自腹で180万円支出し、合計200万円で市内の工事業者に床の張替えと畳の交換を依頼した、とする。工事業者は床板や畳を発注する。発注を受けた業者は、床板を作るために木材を購入し・・・という具合に経済波及効果が生じる。これが共産党の説明。

ところが、Aさんの180万円が、例えば、自動車の購入資金として貯めていたものだったとしたらどうだろうか。Aさんは、市の助成制度をきっかけに床の張替えを思いつき、180万円をこれに充ててしまったため、自動車の購入は「まぁ、あと5年は今の車に乗れるだろう」と先送りされることになる。自動車の売り上げが減り、タイヤの発注が減り、ゴムの需要が落ち込む。こちらでは、マイナスの波及効果が生じることになる。

どこかでお金が動く一方で、これが無ければ動いていたはずのお金が動かなくなる。共産党が強調するプラスの経済波及効果と、目に見えないマイナスの経済波及効果。どちらが大きいのか、自治体は測定する術を持っていない。持ってはいないが、共産党が主張するようにプラスの面だけで考えると大きな間違いとなる。市への申請手続き、工事確認検査に関する手間、これに充てられる職員人件費も、マイナス要素として加えなければならない。


しかも。

住宅リフォーム助成制度では、助成対象となるのが「市内の業者に工事を発注した場合」に限られる。そのため、
「隣の市に昔から知っている腕の良い業者がいるから、普段ならそっちに注文する。ただ、そうすると助成を受けられないから、仕方なく市内業者に注文した」
といった事例が発生することになる。行政の力を借りることで、腕のあまり良くない業者が、腕の良い業者が得ることの出来たはずの注文を横取りしてしまう。

この状態が長期間続くと、
「他市業者との競争に勝つため、工事の質を向上させよう」
という意欲を奪うことになる。業者の企業努力、創意工夫が低下し、結果、住民の利便性は後退する。


さらに。

行政は、「所得再配分による格差是正」を大義名分の一つとして活動しているが、この住宅リフォーム助成制度は「所得再配分」の観点から見ても問題がある。

自己所有の家の補修に対して助成する、住宅リフォーム助成制度。持ち家があるということは、資産があるということだ。住民一般から集めた税金を、比較的豊かな家屋所有者への助成に投じる。貧者から富者への所得再配分を行うということであり、行政が住民間の格差を拡大させる結果となる。


住宅リフォーム助成制度は、プラスの経済波及効果と同時にマイナスの経済波及効果を生じさせ、他所との競争に打ち勝つことのできない業者を延命させ、貧困層から富裕層へ所得を移転させる。逆進性が強く、業者の競争力を低下させ、住民の利便性を後退させるのが、住宅リフォーム助成制度である。

全国各地で共産党議員がバラ色の経済効果を描き、首長へ住宅リフォーム助成制度の実施を働きかけている。しかし、そこには描かれていない影の部分を見落とさないよう、注意する必要がある。





見えるものと見えないもの フレデリック・バスティア (1850)
=====【引用ここから】=====
 経済の領域では、行為や習慣、制度や法律は単一の結果を生み出すだけでなく、結果の連続を生み出す。これらの結果のうち、最初のもののみが直截的なものであり、それは原因と同時に明らかとなる―――それは見えるのだ。その他のものは連続のうちに隠れている―――それらは見えない。もしそれらが我々にとって予見できるのであれば結構である。良い経済学者と悪い経済学者の間においては、このことがまったくの違いとなる―――片や見える結果について考慮し、片や見える結果についてだけでなく、予見する必要のある結果についても考慮するのである。さて、この違いは巨大なものである。なぜなら、ほとんど常に、直後の結果は好ましいものである場合、その究極的な結果は致命的であり、その反対もまた真なるからである。よって、悪い経済学者は、その後に大いなる悪を呼ぶ小さな現在の善を追求するということになるからである。その反面、本当の経済学者は来るべき大いなる善を、現在の小さな悪のリスクと引き換えに追求するのだ。
=====【引用ここまで】=====