平成27年第1回渋谷区議会定例会(平成27年3月)において、ある条例が可決された。同性カップルのパートナーシップ証明が全国的に話題になり、賛否の議論を巻き起こしたあの条例である。その条文を見てみよう。
○渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例
=====【引用ここから】=====
(定義)
第二条
八 パートナーシップ
男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の
性別が同一である二者間の社会生活関係をいう。
=====【引用ここまで】=====
この「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質」を、誰が、何を根拠に判断するのだろうか。男女の婚姻関係には、様々な形態がある。同居か別居か、生計が同一か否か、共同生活を営んでいるか否か、扶養の有無、性交渉の有無、子供の有無・・・何をもって「婚姻関係の実質」と呼ぶのだろうか。
法律婚における「男女の婚姻関係」の条件が婚姻届の提出という形式行為であり、婚姻の意思の有無の他にいかなる実質も備える必要がないため、「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質」という規定は、何も定義していないに等しい。本条例の根幹を成す「パートナーシップ」の定義でこの有様で、条例をどのように運用するのだろう。
=====【引用ここから】=====
(区が行うパートナーシップ証明)
第十条
区長は、第四条に規定する理念に基づき、公序良俗に反しない限りにおいてパートナーシップに関する証明(以下「パートナーシップ証明」という。)をすることができる。
2 区長は、前項のパートナーシップ証明を行う場合は、次の各号に掲げる事項を確認するものとする。ただし、区長が特に理由があると認めるときは、この限りでない。
一 当事者双方が、相互に相手方当事者を任意後見契約に
関する法律(平成十一年法律第百五十号)第二条第三号に
規定する任意後見受任者の一人とする任意後見契約に係る
公正証書を作成し、かつ、登記を行っていること。
二 共同生活を営むに当たり、当事者間において、区規則で
定める事項についての合意契約が公正証書により交わされて
いること。
3 前項に定めるもののほか、パートナーシップ証明の申請手続その他必要な事項は、区規則で定める。
=====【引用ここまで】=====
このパートナー証明が、全く無駄なものということがお分かりいただけるだろうか。賛成論として「同性カップルの一方が緊急入院した場合、病院の面会を断られる!だからパートナー証明が必要なんだ」ということが言われているが、それなら事前に公正証書などで意思表示をしておけば足りるのだ。
○渋谷区の同性パートナー証明書は、本当に必要なのか?
=====【引用ここから】=====
しかし、同性カップルには内縁が全く認められておらず、もしパートナーが突然の事故や病気に陥り、面会謝絶に陥った際に、公正証書や養子縁組、医療現場における事前意思表示などといった書類を事前に準備していないと、パートナーに会わせてもらえないのです。
=====【引用ここまで】=====
条例では、パートナーシップ証明をする場合には公正証書の作成を要求している。ここが重要である。公正証書で足りるものについて、公正証書を基にパートナーシップ証明を発行してどうするのか。携わる職員と経費の無駄である。
公正証書があれば足りるのに、その公正証書を基に発行されるパートナーシップ証明。位置づけが中途半端で、蛇足の雰囲気が漂うパートナーシップ証明について、条例は次のように区民に要求している。
=====【引用ここから】=====
第十一条 区民及び事業者は、その社会活動の中で、区が行うパートナーシップ証明を最大限配慮しなければならない。
2 区内の公共的団体等の事業所及び事務所は、業務の遂行に当たっては、区が行うパートナーシップ証明を十分に尊重し、公平かつ適切な対応をしなければならない。
=====【引用ここまで】=====
パートナーシップ証明の前提として公正証書があるのだから、公正証書のコピーを持参するなどしておき、これで当事者の意思を確認すれば足りることである。区役所ごときが重ねて発行したパートナーシップ証明を改めて尊重する必要がどこにあるというのか。この条例では、引用した条文の他にも、苦情への助言や是正勧告、関係者名の公表などの介入手段が盛り込まれている。この問題は本来なら、当事者間の意思を書面で確認すれば済む、行政は口出し不要の領域である。そこに行政が裁量を振りかざして乗り出してくる根拠を与える本条例は、有害無益である。
法律婚を「民法に規定された各種権利・義務を相互に負う契約」と考えた時、同性のカップルはこれに相当する権利・義務を相互に負う契約を締結し、必要であれば公正証書などの形で作っておけば良い。異性による一夫一婦制を定めた民法を変える必要がないとは思わないが(むしろ法律婚という制度そのものを廃止してしまえと考えている)、民法に何ら変更を加えることなく、今回のように自治体が条例で小手先の手当てをしてどうにもなるものではない。
「この条例でセクシャルマイノリティーが暮らしやすくなる」なんて甘い考えは持たない方がいい。担当者レベルの思い付きで不要な支出を増やし事務を煩雑にし人手を必要とする根拠を作り、行政の裁量だけが徒に増えていくだけである。
・・・こうやって行政は肥大化していくのです。
==========
ところで、この条例には随所に「区規則で定める」とした書き方が見受けられるが、渋谷区議会では規則で定める点も含めた運用方法について審査をしたのだろうか。規則への委任で定める内容が条例の運用方法を大きく左右すると思われるが、区長側が「その点は、現時点では何も決まっていません。これから規則で定めていきますので」で濁し、区議会側が「まぁ、仕方ないか」でうやむやにして可決したのであれば、議会としての役割を果たしていない。機能しない議会の議員に報酬を払うのは、ドブに金を捨てるようなものである。
○渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例
=====【引用ここから】=====
(定義)
第二条
八 パートナーシップ
男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の
性別が同一である二者間の社会生活関係をいう。
=====【引用ここまで】=====
この「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質」を、誰が、何を根拠に判断するのだろうか。男女の婚姻関係には、様々な形態がある。同居か別居か、生計が同一か否か、共同生活を営んでいるか否か、扶養の有無、性交渉の有無、子供の有無・・・何をもって「婚姻関係の実質」と呼ぶのだろうか。
法律婚における「男女の婚姻関係」の条件が婚姻届の提出という形式行為であり、婚姻の意思の有無の他にいかなる実質も備える必要がないため、「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質」という規定は、何も定義していないに等しい。本条例の根幹を成す「パートナーシップ」の定義でこの有様で、条例をどのように運用するのだろう。
=====【引用ここから】=====
(区が行うパートナーシップ証明)
第十条
区長は、第四条に規定する理念に基づき、公序良俗に反しない限りにおいてパートナーシップに関する証明(以下「パートナーシップ証明」という。)をすることができる。
2 区長は、前項のパートナーシップ証明を行う場合は、次の各号に掲げる事項を確認するものとする。ただし、区長が特に理由があると認めるときは、この限りでない。
一 当事者双方が、相互に相手方当事者を任意後見契約に
関する法律(平成十一年法律第百五十号)第二条第三号に
規定する任意後見受任者の一人とする任意後見契約に係る
公正証書を作成し、かつ、登記を行っていること。
二 共同生活を営むに当たり、当事者間において、区規則で
定める事項についての合意契約が公正証書により交わされて
いること。
3 前項に定めるもののほか、パートナーシップ証明の申請手続その他必要な事項は、区規則で定める。
=====【引用ここまで】=====
このパートナー証明が、全く無駄なものということがお分かりいただけるだろうか。賛成論として「同性カップルの一方が緊急入院した場合、病院の面会を断られる!だからパートナー証明が必要なんだ」ということが言われているが、それなら事前に公正証書などで意思表示をしておけば足りるのだ。
○渋谷区の同性パートナー証明書は、本当に必要なのか?
=====【引用ここから】=====
しかし、同性カップルには内縁が全く認められておらず、もしパートナーが突然の事故や病気に陥り、面会謝絶に陥った際に、公正証書や養子縁組、医療現場における事前意思表示などといった書類を事前に準備していないと、パートナーに会わせてもらえないのです。
=====【引用ここまで】=====
条例では、パートナーシップ証明をする場合には公正証書の作成を要求している。ここが重要である。公正証書で足りるものについて、公正証書を基にパートナーシップ証明を発行してどうするのか。携わる職員と経費の無駄である。
公正証書があれば足りるのに、その公正証書を基に発行されるパートナーシップ証明。位置づけが中途半端で、蛇足の雰囲気が漂うパートナーシップ証明について、条例は次のように区民に要求している。
=====【引用ここから】=====
第十一条 区民及び事業者は、その社会活動の中で、区が行うパートナーシップ証明を最大限配慮しなければならない。
2 区内の公共的団体等の事業所及び事務所は、業務の遂行に当たっては、区が行うパートナーシップ証明を十分に尊重し、公平かつ適切な対応をしなければならない。
=====【引用ここまで】=====
パートナーシップ証明の前提として公正証書があるのだから、公正証書のコピーを持参するなどしておき、これで当事者の意思を確認すれば足りることである。区役所ごときが重ねて発行したパートナーシップ証明を改めて尊重する必要がどこにあるというのか。この条例では、引用した条文の他にも、苦情への助言や是正勧告、関係者名の公表などの介入手段が盛り込まれている。この問題は本来なら、当事者間の意思を書面で確認すれば済む、行政は口出し不要の領域である。そこに行政が裁量を振りかざして乗り出してくる根拠を与える本条例は、有害無益である。
法律婚を「民法に規定された各種権利・義務を相互に負う契約」と考えた時、同性のカップルはこれに相当する権利・義務を相互に負う契約を締結し、必要であれば公正証書などの形で作っておけば良い。異性による一夫一婦制を定めた民法を変える必要がないとは思わないが(むしろ法律婚という制度そのものを廃止してしまえと考えている)、民法に何ら変更を加えることなく、今回のように自治体が条例で小手先の手当てをしてどうにもなるものではない。
「この条例でセクシャルマイノリティーが暮らしやすくなる」なんて甘い考えは持たない方がいい。担当者レベルの思い付きで不要な支出を増やし事務を煩雑にし人手を必要とする根拠を作り、行政の裁量だけが徒に増えていくだけである。
・・・こうやって行政は肥大化していくのです。
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ところで、この条例には随所に「区規則で定める」とした書き方が見受けられるが、渋谷区議会では規則で定める点も含めた運用方法について審査をしたのだろうか。規則への委任で定める内容が条例の運用方法を大きく左右すると思われるが、区長側が「その点は、現時点では何も決まっていません。これから規則で定めていきますので」で濁し、区議会側が「まぁ、仕方ないか」でうやむやにして可決したのであれば、議会としての役割を果たしていない。機能しない議会の議員に報酬を払うのは、ドブに金を捨てるようなものである。