若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

同性婚を上げるんじゃない、異性婚を下げるんだ

2018年09月21日 | 政治
「法の下の平等」という大原則がある。

この言葉には様々な意味・解釈・要素がぶら下がっている。
「法の下の平等」の諸要素の中で、おそらく誰もが認めるものとして「法適用の平等」という原則がある。法律は、誰に対しても平等に適用されなければならない、という原則だ。

この「法適用の平等」があるため、法律は1億人を超える日本国民に平等に適用されなければならない。これは大事な原則だが、法律を画一的に適用してしまうが故に多様な人間関係のあり方が成立するのを阻害している。

他者加害を禁止する法律以外の、政府によって適用されるありとあらゆる法律そのものが、個人の自由を脅かす存在である。

【同性カップルの法律婚化=画一化】

さて。

============
○ 日本国憲法
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

============

これについて、トークイベント「できる?できない?同性婚」に出演した木村草太氏は
同性婚は憲法で禁じられていない。憲法は、同性婚に法律婚の地位を与えることを禁じていない
と主張している。
○同性婚「憲法で認められない」は間違い、憲法学の通説は「違反しない」…木村草太教授が解説

このトークイベントの主催者は「『結婚の自由をすべての人に』実行委員会」とあるが、主催者は同性カップルの法律婚化を後押しする木村氏の主張をどのように理解しているのだろうか。

冒頭で私が提示した、「法律の存在が画一化を招き個人の自由を失わせる」という視点からは、木村氏の主張は、様々な形態、態様が可能な現状の同性カップルに対し、わざわざ「同性カップルの画一化」を強制しようとする危険な考え方として映る。
「結婚の自由をすべての人に」よりも「結婚の画一化をすべての人に」の方が似合っている。

仮に、異性間の法律婚と同程度の効果を発生させる形で同性婚を法制化したら、

 夫婦同氏(民法750条)
 同居・協力・扶助義務(751条)
 配偶者血族との間の親族関係(752条)
 成年擬制(753条)
 夫婦間の契約の取消権(754条)
 婚姻費用の分担(760条)
 日常家事債務の連帯責任(761条)
 相続権(890条)
 貞操義務(判例)

といった様々な効果が一式セットになってやってくる。
果たして、すべての同性カップルがこのフルセットを望んでいるのだろうか。
個々の事情に応じて、個別に扶養契約や代理契約を結べば良いのではないだろうか。

【法律によって生じた不平等を法律の追加で解決しようとする愚策】

Aが法律上の保護を受けている。Bは法律上の保護を受けていない。
この場合、政府の介入を良しとする論者は
「Bに対しても保護をしよう」
と主張する。
政府の介入に否定的な論者は、
「Aに対する保護を廃止しよう」
と主張する。

木村氏はどちらであろうか。

○同性婚「憲法で認められない」は間違い、憲法学の通説は「違反しない」…木村草太教授が解説
======【引用ここから】======
さらに、最近は、アメリカの判例の影響もあって、同性婚を認めないことに、違憲の疑いをかける学説も増えてきています。例えば、宍戸常寿教授は、共著『憲法Ⅰ基本権』(日本評論社・2016年)455-6頁の中で、異性婚と同性婚などの他の結合の保護の不平等は「合理的な根拠」がない限り、平等権侵害になると指摘しています。
======【引用ここまで】======

「同性婚を(法律上)認めないことは違憲の疑いあり」という学説をわざわざ紹介する木村氏。彼は政府介入が大好きで、実は個人の自由にあまり重きを置いていないことが分かる。

LGBTはレインボーフラッグで象徴される。

個人ごとの性自認や性的指向が異なり、考え方も多種多様であろう。こうした中で、異性間と同性間のカップルの不平等解消のため、同性カップルを法律婚化しそのあり方を画一化してしまうことが果たして良いのだろうか。

異性婚に対する法律上の保護が他と比べて手厚すぎるということであれば、それは「法律によって設定された特権」であり、憲法14条に違反するものとして廃止すべき対象である。

今ある問題を、「法律の追加」で対応しようとするのは悪手。
「法律の削減」なら、法律で作られた不平等を是正するとともに、個人の自由の保障に資することができる。

市区町村によるザルな実態調査と、そもそも抜け道だらけの社会保障 ~ 国保の外国人不正利用問題 ~

2018年09月14日 | 政治
「社会保障制度と外国人受け入れとは相性が悪い」というのが持論の私。
社会保障について、採るべき道は3つ。

1.自国民、外国人を問わず手厚く適用させる。そのためには少々の抜け穴も容認する。
2.自国民への給付を圧迫しないよう、外国人への適用を厳格に制限する。
3.自国民への厚遇や抜け道をふさいで公平性を保つと同時に、社会保障給付を削減、縮小させる。


私は断然3番推しだが、これに同意してくれた人はあまりいない。
いわゆる左翼は1番、右翼は2番を推しているが、この1番と2番の対立の中で話題となっていたのが「外国人が国保を悪用しているのではないか」という論点。

これについて、厚労省が始めた調査が議論を呼んでいる。

外国人の国保調査に論議 開始半年、偽装滞在は未確認 - 共同通信
======【引用ここから】======
 外国人が高額医療を受ける目的で来日し、偽りの在留資格で国民健康保険(国保)に加入する恐れがあるとして厚生労働、法務両省が1月に始めた調査制度が論議を呼んでいる。約半年で在留資格偽装がはっきりしたケースは見つかっておらず、外国人を特に疑う調査で偏見を助長すると中止を求める声も出ている。
======【引用ここまで】======

この記事を受けて、1番を推す左翼から
外国人の国保不正利用はデマだった
という声があがっている。

果たして、そんな単純なものだろうか。

モリカケや自衛隊日報問題、障害者雇用水増し問題で
「行政が歪んでいる。行政は信用ならない」
と主張してきた左翼が、厚労省の調査内容を鵜呑みにしている姿は滑稽である。

行政のやること為すこと、きちんと疑ってかかろうじゃありませんか。

【市区町村には実態調査をする能力がない】

外国人の国保調査に論議 開始半年、偽装滞在は未確認 - 共同通信
======【引用ここから】======
 外国人が高額医療を受ける目的で来日し、偽りの在留資格で国民健康保険(国保)に加入する恐れがあるとして厚生労働、法務両省が1月に始めた調査制度が論議を呼んでいる。
~~~~~~(中略)~~~~~~
 調査制度は、外国人による公的医療保険の不正利用で保険制度が損害を受ける恐れがあるとの医療関係者の指摘を受け始まった。対象となる在留資格偽装は問題と指摘された利用形態の一つ。調査では国保加入間もない外国人が高額医療を申し込む時、国保を運営する市区町村は、その外国人が在留資格通りの活動をしているか実態を確認する。疑わしければ入管が調査、不正と分かれば在留資格を取り消す。
======【引用ここまで】======

外国人の不正加入を調査=国保適正化へ実態把握-厚労省
======【引用ここから】======
 厚労省は1月から、留学生なのに通学していない、企業経営者なのに事業を行っていないなど、在留資格に疑いがあると判断した外国人加入者について、市区町村が地方入管に通知する仕組みを試験的に運用している。
 今回は、(1)入管への通知件数(2)入管の調査により在留資格を取り消した件数(3)資格取り消し後、市区町村が保険給付費の返還を本人に請求したか-などを調べる。

======【引用ここまで】======

よーく読んでほしい。

調査の主体は、在留資格の審査を担当する法務省入国管理局・・・ではなく、市区町村になっている。市区町村の事態調査に基づき、入管が追加調査をする流れになっている。
では、在留資格が「留学」の外国人が国保加入後2ヶ月で高額療養費の申請をしてきたとして、どうやって市区町村職員が実態把握をするのだろうか。

業務に専門性を持つ入管職員と違い、市区町村の職員は
「教育委員会→下水道→国保」
といった畑違いの人事異動を数年サイクルで繰り返すド素人集団。
そして、その業務は書類中心の形式審査。

そんな市区町村職員に実態調査をさせたとしても、彼らが行えるのはせいぜい学生証の確認が関の山。学校に対し当該外国人の出席状況を照会するといった、手間のかかる追加調査はしないだろう。照会したとしても、学校側に回答義務がなければ実効性は薄い。

また、仮に学校への照会や自宅訪問、通学風景の視認といった徹底的な実態調査を行い、その結果
「学生証は持っているが、ずっと入院治療していた外国人」
がいたとしても、市区町村はそうそう入管に報告はしないことは容易に想像できる。
真意は医療目的だが留学の在留資格のために形式的に入学手続だけ行った外国人なのか、ちゃんと留学するつもりだったが急病になってしまったのかの判別が付かないからだ。
「入国前に日本の病院への入院手続きをしていた」
といった超の付く特殊事例でなければ不正利用と断言するのは困難だ。

【市区町村には実態調査をする気がない】

この調査制度では、市区町村職員には調査に協力するインセンティブが全く無い。

国保の運営主体は市区町村から都道府県に移行している。
○平成30年4月から、国民健康保険は広域化されます
市区町村にとって、
「外国人の在留資格を質すのは本来なら入国管理局の仕事」
「国保財政の健全化を図るのは都道府県の仕事」
であって、自分達の仕事とは思っていないだろう。
調査すればするほど忙しくなる一方、報告しなくても何のペナルティもない。
報告した職員の給料が上がるわけでもない。

下手に報告して、追加調査によって不正利用が発覚したらどうなるか。
保険給付費の返還の必要性が生じ、医療機関に対し7割分の診療報酬を返すよう通知しなければならなくなる。そうすると、医療機関は不正利用をしていた患者本人から保険適用を受けていた7割分の支払いを改めて請求しなければならなくなる。
さらに、市区町村の担当者は国や都道府県から貰っている給付費負担金の減額修正をし、これを返還し、保険料を原資とする部分も修正をし・・・・
・・・と、携わる公務員や医療機関に膨大な手間が生じることになる。

市区町村の担当職員が
「えっ?不正とは思わなかったです。在留資格が『留学』で、学生証を持っていたから」
と上司に報告し、厚労省や法務省、都道府県に「不正利用はありませんでした」と調査結果を提出すれば、それでおしまい。
これならみんなハッピーである。

【対象抽出方法がザル】

厚労省は以前に、入国後間もない外国人への高額治療について
日本の保険証が狙われる ~外国人急増の陰で~ - NHK クローズアップ現代+
======【引用ここから】======
山屋記者:実は国はこの問題を重くみて、去年(2017年)、実態調査をしているんです。外国人が国民健康保険に加入して、半年以内に80万円以上の高額な治療を受けたケースが、1年間におよそ1,600件あったことが分かっています。
======【引用ここまで】======


1年間におよそ1,600件
という数字を示していた。

ところが、いざ市区町村による実態調査を実施する段階になって、厚労省は及び腰になった。関係各所での事務の煩雑さを重く見たのだろうか。

外国人の国保調査に論議 開始半年、偽装滞在は未確認 - 共同通信
======【引用ここから】======
 この制度に先立ち厚労省は昨年3月、高額治療を受けた外国人のレセプト(診療報酬明細書)を調査。2015年11月~16年10月の1年間、国保加入から半年以内にC型肝炎治療薬の処方など一定の高額医療を受けた外国人は19人で「不正の可能性が残る」とされたのは2人だった。外国人の国保加入者の総数は約95万人(16年4月)。
======【引用ここまで】======

病名や金額の条件で上手く絞り込んだ結果、対象を1,600件から19人への大幅圧縮に成功している。この絞り込みを行った厚労省の役人もまた、「霞ヶ関文学」の担い手である。

もし厚労省が万難を排し本気の実態調査を考えているならば、当初示した1,600件のレセプトを該当する市区町村に提示し、
「少なくとも、この1,600件については必ず調査し回答するように。併せて、窓口受付等の中で不正利用の疑いがあれば随時調査するように」
という形で通知するだろう。

ところが、現実には上記のように
「厚労省としては、対象になりうるのは全国で2人程度と見込んでいる」
と、やる気の無さを市区町村に暗に示した上で

外国人の国保調査に論議 開始半年、偽装滞在は未確認 - 共同通信
======【引用ここから】======
調査では国保加入間もない外国人が高額医療を申し込む時、国保を運営する市区町村は、その外国人が在留資格通りの活動をしているか実態を確認する。
======【引用ここまで】======

と、対象の抽出を市区町村の判断に委ねている。
外国人の高額医療の申し込みがあっても、市区町村の担当職員が
「入国間もない外国人だとは気づきませんでした」
「不正利用とは思いませんでした」
とスルーしてしまえばそこまでだ。

【違法なのか、抜け道なのか】

この問題は、外国人が国保を不正利用(制度の枠を超えた違法な利用)しているというよりも、制度がザルで合法的な抜け道がたくさんある、という方が適切だろう。
右翼は
「不正利用(制度内の抜け道利用)する外国人は許せない。抜け道をふさげ」
と主張し、左翼は
「調査の結果、不正利用(制度の枠を超えた違法な利用)をしていた外国人は出てこなかった」
と主張しているのではないか。
外野から眺めていて、議論がかみ合っていない気がしてきたのは私だけだろうか。

上記で例として挙げた
「学生証は持っているが、ずっと入院治療していた外国人」
というケースは、在留制度と国保制度を上手く利用した抜け道なのだ。

抜け道がある以上、それを利用するのは日本国民であれ外国人であれ悪いことではない。
抜け道を作ってしまった政府当局担当者の落ち度だし、そもそも、社会保障給付を多くの人に適用しようとすれば抜け道ができてしまうのは避けようがない。対象者が多ければ多いほど、想定外の利用方法を編み出す人が出てくるのは当然である。
抜け道を考えたとき、実数が圧倒的に多い日本国民の抜け道利用数の方が多いのは間違いないだろう。

と、ここまで考えて、やはり最初に戻る。

自国民への厚遇や抜け穴をふさいで公平性を保つと同時に、社会保障給付を削減、縮小させる。

これがきっと最適解だ。

国民皆保険がいかに杜撰でダメな制度か、考え直してみませんか?

価格メカニズムの機能不全 ~社会保障制度をいつまで続けます?~

2018年09月04日 | 政治
パンの料金は様々だ。
同じメロンパンでも、
材料が違う、
製法が違う、
作ってから売るまでの時間が違う、
場所代が違う、
買いに来る客層が違う…といった背景を反映して、50円のメロンパンがある一方で500円のメロンパンもある。当たり前だが店ごとに値段が違う。

ところが、社会保障制度では、「何のサービスを提供したか」という形式的な観点で料金が決まる。政府が「メロンパンは一個100円」と決めているようなものだ。

【歯医者の場合】

虫歯の治療で歯医者に行く。
健康保険の範囲内で、虫歯を削って詰め物で固めるという内容が同じなら、上手な歯医者だろうが、治療箇所に痛みと違和感が残る下手な歯医者だろうが料金は同じ。診察して何点、前歯を抜いて何点、画像診断で何点、と決まっている。

○社会保険歯科診療報酬点数早見表

このため、下手な歯医者のとこは空いてるのに、上手な歯医者だと朝8時に整理券を貰っても治療してもらうのは昼ごろといった混雑状態が生じる。

これは眼科でも同じ。皮膚科でも同じ。総合病院でも同じ。
人気のある病院は、それはもう朝から高齢者でごった返している。

【デイサービスの場合】

高齢者が施設に通うデイサービス。
○どんなサービスがあるの? - 通所介護(デイサービス)
======【引用ここから】======
通常規模の事業所の場合
(7時間以上8時間未満)

利用者負担(1割)
(1回につき)
要介護1 645円
要介護2 761円
要介護3 883円
要介護4 1,003円
要介護5 1,124円

======【引用ここまで】======

施設ごとにサービスの内容は異なっている。
折り紙で指先を使わせている施設、
認知機能回復のためマージャンを取り入れるとか工夫をする施設、
マシンで負荷をかけて筋トレさせる施設、
垂れ流し続ける時代劇を見るだけの施設・・・etc
当たり前だが、スタッフの応対も施設によって違う。

なのに、値段は上記表で設定された内容で統一されている。

【公定価格の弊害】

社会保障制度における公的保険では、政府がサービスごとに単価を決めている。
近隣の施設が概ね似たり寄ったりのことをしているので自然と地域での相場が出来上がった、というわけではない。厚生労働省が全国共通の単価表を定めている。

公定価格が無ければ、上手だが料金の高い医者と、下手だが料金の安い医者という住み分けができ、利用者に選択の幅が増える。しかし、料金が同じである現状では、下手な医者に行くのはどうしても待ち時間が嫌だという利用者だけ。それ以外の人(特に高齢者)は上手な医者に集中する。開業医なら行列ができて売上ウハウハと喜べるかもしれないが、患者の多い総合病院で働く勤務医となると「今日で17連勤!?」とかになる。

日本の総合病院の「3時間待ちの3分診療」や、デンマークにおける「インフルエンザに罹って診察を予約し、実際の診察は2週間後」といった笑い話(?)は、公定価格の下で需給バランスが崩壊していることを示している。

介護では、加算の枠を超えて人手を増やしてきめ細かい世話を提供しても、利用者を部屋にタコ詰めにして監視用のスタッフを置いてテレビを垂れ流しにしても、単位としては同じであり、施設側の売り上げは変わらない。こうした状況ではサービス改善のインセンティブは生じにくくなる。施設経営者は、利益を上げるため利用者にとっては不必要だが単位面では美味しいサービスを組み込もうとする。

公的保険制度の下では、利用者の状態改善よりも保険点数を積み上げて利益を出そうと考える事業者が増える。社会保障費がうなぎ上りとなった一因がここにある。

【共産主義国の悩み】

社保審-介護給付費分科会 第145回(H29.8.23) 参考資料1
======【引用ここから】======
ストラクチャー評価及びプロセス評価
• 介護保険制度創設時から導入されている。
• 成果にとらわれず、かけた手間や体制等を客観的に評価できる。
• 事業者は手間をかけること自体が評価されるため、サービス提供方法を効率的にするインセンティブや、利用者の状態改善等の効果をあげようとするインセンティブが働きにくい。

アウトカム評価を導入する際の課題
① 介護サービスについては、どのような内容をアウトカム評価の項目として設定すべきかの判断が、社会的・文化的価値観の違いや個人の人生観や思想信条の相違に左右されることから、評価項目の設定についてコンセンサスを得ることが困難である。
② 高齢者は身体・精神機能の悪化・改善を繰り返すことが多く、評価する時点によって全く異なった判定となり得ることから、評価時点の設定が困難である。
③ 事業所の努力や責任の及ばない要因の影響(例えば、家族や本人の努力)により、高いアウトカムが得られることがあり、アウトカムが事業所のサービスの質を反映しているとは限らない。
④ 居宅サービスの利用者は、様々なサービスを組み合わせて利用している場合が多く、要介護度や自立度等の指標が改善したとしても、提供される介護サービスの中のどのサービスが効果的であったかの判断が困難である。

======【引用ここまで】======

共産国では、生活に必要な商品やサービスを政府当局が統制していた。その中では商品を求める長蛇の列ができる一方で、劣悪なサービスが改善されず提供され続ける。そして、商品の慢性的な過不足が解消されることはない。

上記の社保審の資料を読んで
「共産圏の管理当局担当者もこんな悩みを抱えていたんだろうなぁ」
と想像した。
自分が担当する分野で、サービスの質が低下しているのに生産コストばかり上昇していく。
どうにかしなければ党の役員から粛清されてしまう。
どうすればサービスの質を向上させることができるのか。いくら考えても答えは出ない。

こうした現象は「政府が決めている」ところに原因がある。

市場価格は、
かけた手間、サービス提供体制、労働時間、原料の価格、
といった生産者側の都合だけで決まるものではない。
サービスの質、サービスを受けた後の状態改善、利用者の満足、
といった消費者側の要因が価格に影響する。
この消費者側の要因は
社会的・文化的価値観の違いや個人の人生観や思想信条の相違
という個人的・主観的要素によって左右される。

生産者側の都合と、消費者側の「自分の満足のために幾らまで出せるか」という打算とが個別の取引の中でせめぎあい、合意した金額が市場における価格となる。
このプロセスの中で、原材料の高騰や労働者不足、サービス内容、他の類似サービスとの比較といった様々な情報が価格に反映される。

社保審の資料で書かれているとおり、主観的なアウトカムの把握・評価が困難であることから政府当局は客観的に評価できるものだけで価格設定をしてしまっている。そのために実態とかけ離れてしまう。政府が決める公定価格の限界がここにある。

【社会保障をやめるべき時】

上記の社保審の資料では、
======【引用ここから】======
○ 介護保険サービスにおける質の評価のあり方については、以前から社会保障審議会介護給付費分科会における今後の課題とされており、複数年にわたり調査研究事業等を実施し、検討を重ねているところ。
======【引用ここまで】======

とあり、「指導・監査の徹底」「質の評価が可能と考えられる指標の検討」を目標に掲げているが、これは無駄な努力である。むしろ、指導監査の徹底や指標の作成によって、形式的な書類作成が増え弊害は一層大きくなるだろう。

質の評価は主観的な価値観を内包するものであり、市場における個別取引を経た価格形成プロセスを抜きに語ることはできない。利用者の高齢者には出来ることだが、政府当局のキャリア官僚には出来ないことである。原理的にそうなのだから仕方ない。

質の向上のために、政府にできることはただ一つ。
社会保障という全国一律公定価格システムをやめることだ。

給与天引きと社会保障 ~ 世代間支え合い?略奪? ~

2018年09月01日 | 政治
みなさんの給与明細に書いてある

「所得税」「住民税」
「年金保険料」「健康保険料」「介護分」

という毎月の天引きの項目。
この多くは、高齢者のために使われている。

じゃあ、具体的に高齢者1人につき幾らくらいかかっているのか。
ざっくりと計算してみた。
サンプルとして、厚生年金を受け取っている高齢者が要介護3になった場合で考えてみよう。

======
年金  :税金3.6万円 + 若年者の保険料10.2万円 
 =13.8万円。

医療保険:税金3.5万円 + 若年者の保険料2.7万円
 = 6.2万円。

介護保険:税金13.7万円 + 40歳~64歳の保険料8.2万円
= 21.9万円。

======
(これはあくまでも一例です)

介護を使っている高齢者1人に対し、毎月、保険料と税金合わせて41.9万円を投じている。
高齢者が介護を使っていない場合でも、毎月、保険料と税金合わせて20万円を投じている。
(高齢者自身が払っている保険料は除いている)

高齢者が増えれば、その分だけ給与明細の
「所得税」「市・県民税」
「年金保険料」「健康保険料」「介護分」
が増える。
その分手取り額は減る。

高齢者が1人居ることで、
月20万円~40万円、年240万円~480万円
だけ現役世代の負担が生じている。
現役世代と高齢者が3:1の騎馬戦型で考えると、現役世代一人当たり年間で80万円~160万円を高齢者のために負担している計算。これが将来的には1:1の肩車型になり、現役世代の一人当たり負担はおよそ3倍になる。現役世代にここまで重い負担を課すことが果たして妥当なのか、考えるべき時だ。

街角で
「年金減額に反対!高齢者の生活を守れ!消費税増税反対!」
とデモをしている高齢者は、
「お前達の給与明細の年金保険料を吊り上げてやる!所得税も上げてやる!」
と言っていることに気付いていない。気付いていてデモをしているとしたら、これほど厚かましいことはない。
社会保障給付は、現役世代が汗水垂らしてやっと手にした稼ぎから捻出されているもの。このことがもっと高齢者の間で浸透していってほしい。

少子高齢化がどうして問題なのかといえば、年金・医療・介護といった社会保障制度が維持できなくなるからだ。社会保障制度が無ければ、あるいはもっと小規模でシンプルなものであれば、そこまで少子高齢化を問題視する必要がない。

また、社会保障制度と移民・難民受け入れとは相性が悪い。
入国してくる外国人が自分で稼げる人でなければ、自国民向けの社会保障給付を圧迫するからだ。

外国人排斥の論調は、社会保障制度が無ければ、あるいはもっと小規模でシンプルなものであればここまで大きくならないはずだ。
ドイツは難民問題で連立政権が揺れている。
日本では外国人の国保タダ乗りが問題になっている。
「外国人受け入れに制限をかけろ」という論調の背景には、外国人の流入によって「権力による奪い合い」という構図を持つ社会保障給付の熾烈さに拍車がかかることへの危惧がある。

社会保障推進論者には、

「巨大で複雑な社会保障制度が強権的な略奪によって維持されている」
「社会保障制度の重さに若年層が耐えかねている」
「社会保障給付の取り合いが外国人排斥の火種になっている」

といったことを一度省みてほしい。
社会保障制度は罪深いものだ。



以下、計算の内訳。
(ほんとにざっくりだし、年度によっても異なる)

【年金の場合】


○社会保障に関する基礎資料 - 厚生労働省
======【引用ここから】======
○ 年金額
 老齢基礎年金 月66,008円(平成22年度)
  ※ 平均額:月5.4万円(平成20年度)
 老齢厚生年金 月232,592円(平成22年度、夫婦2人分の標準的な額)
  ※ 平均額:月16.4万円(単身、基礎年金を含む)(平成20年度)
○ 保険料収入(公的年金制度全体)
 32.1兆円(平成22年度予算ベース)
○ 国庫負担額(公的年金制度全体)
 11.2兆円(平成22年度予算ベース)
○ 給付費 (公的年金制度全体)
 51.4兆円(平成22年度予算ベース)
○ 積立金(国民年金・厚生年金)
 128兆円(平成21年度末、時価ベース)

======【引用ここまで】======

1年間で配る年金の額が、51.4兆円。

これに対し、現役世代から集める保険料が32.1兆円。
国庫負担金、つまり税金からの支出が11.2兆円。合わせて43.3兆円。
不足分の8.1兆円は積立金を崩して穴埋めしている。
大雑把に計算すると、
 保険料:税金:積立金 = 62:22:16
という構成割合。

老齢厚生年金の平均額が月16.4万円。
これを上記の構成割合で計算すると、
 保険料 10.2万円
 税金   3.6万円
 積立金  2.6万円
となる。

【医療保険の場合】


○社会保障に関する基礎資料 - 厚生労働省
======【引用ここから】======
後期高齢者医療制度の運営の仕組み(平成20年度)
<対象者数> 75歳以上の後期高齢者 約1,300万人
<後期高齢者医療費> 11.9兆円(平成20年度概算要求ベース:満年度)
       給付費 10.8兆円 患者負担1.1兆円
 公費 約5割
 高齢者の保険料 1割
 後期高齢者支援金(若年者の保険料) 約4割

======【引用ここまで】======

後期高齢者が1300万人、医療費総額が11.9兆円。
単純計算で、1人あたり年間91.5万円の医療費がかかっている。
1月あたり7.6万円。
うち、患者自己負担は0.7万円、給付費が6.9万円。

この給付費を上記の構成割合で計算すると、
 公費(税金)  3.5万円
 高齢者の保険料 0.7万円
 若年者の保険料 2.7万円
となる。

【介護保険の場合】


○社会保障に関する基礎資料 - 厚生労働省
======【引用ここから】======
税金  50%
保険料 50%(1号被保険者20%、2号被保険者30%、人口比に基づき設定)

======【引用ここまで】======

○要介護3の場合の月額費用比較例 |ベネッセスタイルケア
======【引用ここから】======
住宅型有料老人ホームでのケアプランと費用例
利用サービスと月額費用
支払い額
訪問介護   29,045円
福祉用具貸与  1,400円
合計     30,445円

======【引用ここまで】======

介護保険の構成割合は
 税金:高齢者の保険料:40歳~64歳の保険料
=5 :   2   :   3

1割自己負担で30,445円負担している。
残り9割の274,005円は、介護保険から支払われる。
上記構成割合で計算すると、
 税金        13.7万円
 高齢者の保険料   5.5万円
 40歳~64歳の保険料 8.2万円
となる。