かつて自民党政権下では、景気対策や「国土の均衡ある発展」の旗の下に、多くの公共工事を発注してきた。国土も人口も日本より多いアメリカを上回る、面積比で30倍とも言われるほどのコンクリートを使ってきた。その結果、多くの工事業者が公共工事に依存する体質が出来あがるとともに、国・地方ともに多額の借金を抱えることとなった。
ただ、いつまでも放漫財政を続けるわけにはいかない。必要のない工事を発注して、納税者が工事業者を食わせていくことは出来なくなった。国・地方ともに、公共工事の予算を削減した。民主党が言っていた「コンクリートから人へ」って言葉も、こうした背景に沿ったものだと思う。公共工事の発注で景気や雇用を下支えすることに、限界が訪れたといっていい。
ダンピング受注の背景には、元請け・下請け・孫請けを含む工事業者が、発注される公共工事と比べて多すぎるということがある。公共工事が減り、多くの工事業者が殺到する。当然、安くしなければ受注できない。業者の利益は減るだろうし、そこで働く従業員の賃金も下がるだろう。また、他の発注工事を探すなり、別分野に打って出るなり、場合によっては事業をたたむといったことも必要になるだろう。
利益の低下、賃金の低下を、「今までのやり方を改めるべきだ。あるいは、今の分野から他の分野へ移るべきだ」というシグナルとして受け取らなければならない。これは、工事や建設といった分野だけでなく、市場における全ての分野に共通して言えること。
公共工事と工事業者のアンバランスはどこかの時点で解消されなければならない。市場における調整過程に行政が介入して、工事業者が公共工事から他の仕事、他の分野へ移ろうとする動きを妨げてはならない。
ところが・・・
○野田市公契約条例の概要
平成21年5月に理念法としての公共サービス基本法が制定され、この流れを受け、平成21年9月に、千葉県の野田市が公契約条例なるものを制定した。条例では、市が発注した工事等を受注した業者に対し、そこで働く者へ最低賃金に上乗せした額を支払うよう義務付けている。
これは、市場のシグナルを歪めている。
たとえば、役所からの発注や援助に頼ることなく営業しているコンビニが、バイトに最低賃金を支払っている、とする。一方で、普段はバイトに最低賃金を払っている工事会社が、野田市発注の工事を受注したことで最低賃金に上乗せした額の支払いを義務付けられた、とする。一時的にではあるが、賃金が、
コンビニのバイト < 工事会社のバイト
となる。職を探す者はこれを見て「コンビニよりも工事会社の方が将来性がある」と勘違いしてしまうのではないか。業界の規模が縮小しているにも関わらず、市が「コンビニから工事会社へ移るべし」という誤ったシグナルを労働者に発している。
公共事業の予算削減、業界のパイの縮小、これに伴う就業者の移動。こうした大きな流れを自治体の公契約条例ごときで止めることはできない。自治体のこうした動きは、大きな流れへの適応を遅らせ、労働者の判断を誤らせ、問題を先送りにし、解決を困難にしてしまう。
かつて、石炭の需要が減る中で炭鉱が次々と閉鎖された。そこで働く者は別の業種、別の土地へ移ることを余儀なくされた。「公契約条例って良いよね」という人達は、かつての石炭業にも行政が全面的に介入し、石炭業で働く人達が石炭業で働き続けることができるようにすれば良かったとでも言うのだろうか?
地方分権・地域主権ということが言われ、公務員の世界では、地方分権・地域主権を実現するための手法の一つとして政策法務の重要性が強調されている。しかし、その政策法務の例が「公契約条例」では、あまりにもお粗末だ。規制を増やすだけしか能が無いのなら、政策法務や自治立法権なんて存在しない方が良い。
~ 追加1 ~
野田市の根本市長は、公契約条例制定時のインタビューで
○野田市公契約条例可決について
「今の賃金では若い人たちがこの仕事に入ってくることができなくなる」
と述べている。
若者がこの仕事に入ってこれるようにすることが、公契約条例の目的のようだ。誤ったシグナルを発する気まんまんである。
~ 追加2 ~
平成21年9月に制定され、平成22年度から実際に動き始めた、野田市公契約条例。その初入札の結果は・・・
○全国初の公契約条例に基づき初入札 野田市 - j-aizu 労働速報!
この日、清掃4件(市内4カ所)の入札には14の業者が参加した。提出された、監督者など以外の作業員の最低時給は各社すべて830円。結局、総額が一番安い業者が落札した。契約額は1459万円~3880万円。各所で100万円以上の増額になった。10年度予算が決まった後に正式契約となる。
野田市民のみなさん、税負担ご苦労様です。
ただ、いつまでも放漫財政を続けるわけにはいかない。必要のない工事を発注して、納税者が工事業者を食わせていくことは出来なくなった。国・地方ともに、公共工事の予算を削減した。民主党が言っていた「コンクリートから人へ」って言葉も、こうした背景に沿ったものだと思う。公共工事の発注で景気や雇用を下支えすることに、限界が訪れたといっていい。
ダンピング受注の背景には、元請け・下請け・孫請けを含む工事業者が、発注される公共工事と比べて多すぎるということがある。公共工事が減り、多くの工事業者が殺到する。当然、安くしなければ受注できない。業者の利益は減るだろうし、そこで働く従業員の賃金も下がるだろう。また、他の発注工事を探すなり、別分野に打って出るなり、場合によっては事業をたたむといったことも必要になるだろう。
利益の低下、賃金の低下を、「今までのやり方を改めるべきだ。あるいは、今の分野から他の分野へ移るべきだ」というシグナルとして受け取らなければならない。これは、工事や建設といった分野だけでなく、市場における全ての分野に共通して言えること。
公共工事と工事業者のアンバランスはどこかの時点で解消されなければならない。市場における調整過程に行政が介入して、工事業者が公共工事から他の仕事、他の分野へ移ろうとする動きを妨げてはならない。
ところが・・・
○野田市公契約条例の概要
平成21年5月に理念法としての公共サービス基本法が制定され、この流れを受け、平成21年9月に、千葉県の野田市が公契約条例なるものを制定した。条例では、市が発注した工事等を受注した業者に対し、そこで働く者へ最低賃金に上乗せした額を支払うよう義務付けている。
これは、市場のシグナルを歪めている。
たとえば、役所からの発注や援助に頼ることなく営業しているコンビニが、バイトに最低賃金を支払っている、とする。一方で、普段はバイトに最低賃金を払っている工事会社が、野田市発注の工事を受注したことで最低賃金に上乗せした額の支払いを義務付けられた、とする。一時的にではあるが、賃金が、
コンビニのバイト < 工事会社のバイト
となる。職を探す者はこれを見て「コンビニよりも工事会社の方が将来性がある」と勘違いしてしまうのではないか。業界の規模が縮小しているにも関わらず、市が「コンビニから工事会社へ移るべし」という誤ったシグナルを労働者に発している。
公共事業の予算削減、業界のパイの縮小、これに伴う就業者の移動。こうした大きな流れを自治体の公契約条例ごときで止めることはできない。自治体のこうした動きは、大きな流れへの適応を遅らせ、労働者の判断を誤らせ、問題を先送りにし、解決を困難にしてしまう。
かつて、石炭の需要が減る中で炭鉱が次々と閉鎖された。そこで働く者は別の業種、別の土地へ移ることを余儀なくされた。「公契約条例って良いよね」という人達は、かつての石炭業にも行政が全面的に介入し、石炭業で働く人達が石炭業で働き続けることができるようにすれば良かったとでも言うのだろうか?
地方分権・地域主権ということが言われ、公務員の世界では、地方分権・地域主権を実現するための手法の一つとして政策法務の重要性が強調されている。しかし、その政策法務の例が「公契約条例」では、あまりにもお粗末だ。規制を増やすだけしか能が無いのなら、政策法務や自治立法権なんて存在しない方が良い。
~ 追加1 ~
野田市の根本市長は、公契約条例制定時のインタビューで
○野田市公契約条例可決について
「今の賃金では若い人たちがこの仕事に入ってくることができなくなる」
と述べている。
若者がこの仕事に入ってこれるようにすることが、公契約条例の目的のようだ。誤ったシグナルを発する気まんまんである。
~ 追加2 ~
平成21年9月に制定され、平成22年度から実際に動き始めた、野田市公契約条例。その初入札の結果は・・・
○全国初の公契約条例に基づき初入札 野田市 - j-aizu 労働速報!
この日、清掃4件(市内4カ所)の入札には14の業者が参加した。提出された、監督者など以外の作業員の最低時給は各社すべて830円。結局、総額が一番安い業者が落札した。契約額は1459万円~3880万円。各所で100万円以上の増額になった。10年度予算が決まった後に正式契約となる。
野田市民のみなさん、税負担ご苦労様です。