若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

自治体が読み解くマイナンバーの建前と本音 ~霞ヶ関文学を勝手に解釈~

2016年05月31日 | 政治
要介護認定申請などを介護事業者が行う際のマイナンバーの取扱について、厚生労働省からお触れが出てほぼ半年が経過した。

○厚生労働省老健局 平成27年12月15日付事務連絡「介護事業者等において個人番号を利用する事務について(依頼)」
=====【引用ここから】=====
Q7 個人番号を各種申請書等に記載することになるにあたり、個人番号を把握していない者、失念した者、個人番号カードを携帯していない者等が申請を行うことはできないのですか?
A7 申請書等に個人番号を記載することが各制度における法的な義務であることに鑑み、各種申請を初めて行う際には、原則として個人番号の記載が求められます。その際、申請者が自身の個人番号がわからず申請書等への個人番号の記載が難しい場合等には、市町村の住民基本台帳ネットワークを用いて当該申請者の個人番号を検索し、職員が記載して差し支えないこととなっています。

=====【引用ここまで】=====

この文章から、あなたは厚労省の「建前と本音」を読み取ることができただろうか。

介護認定の申請する人は、申請書に個人番号を記載することを「法的な義務」として求められる。しかし、これは「原則」であり、原則には例外がある。
この例外として、
「申請者が自身の個人番号がわからず申請書等への個人番号の記載が難しい場合には、市町村の住民基本台帳ネットワークを用いて当該申請者の個人番号を検索し、職員が記載して差し支えない」
と記されている。

この『等』はお役所お馴染みの言い回しであり、いわゆる霞ヶ関文学を構成する用語の1つである。この『等』の中身は幅広い。

・申請者が自身の個人番号を知らない場合
・単に書き忘れただけだが、個人番号は分からないと言い張っている場合
・認知症の本人に代わり個人番号カードを預かっていたが、預かっていた人がこれを紛失したけれど、紛失したと誰にも言えない場合
・申請代行する人が本人の個人番号を確認するのが面倒な場合
・申請者が番号制度に反対だから記入しないと言い張っている場合
・代行申請する人に対し不信感を持っていて、番号確認書類を預けるのが不安な場合

とか、いろいろな場面が想像できる。市町村の職員は住民基本台帳ネットワークで個人番号を検索できるので、どの場合でも、職員が記載する形で対応可能である。運用の仕方と申請時のやり取りによっては様々なケースを『等』に含めることができる。『等』を用いることによって、例外の運用を幅広くすることが可能である。例外の運用こそが厚労省の本音なんだと捉えるのがスマートではなかろうか。

正直なところ、市町村側で検索可能なのに、個人番号を「法的な義務」として本人側に記入を求める制度運用が私には理解できない。氏名/住所/性別/生年月日という本人確認4情報と保険証に記載されている被保険者番号さえ記入されていれば、申請の場面で個人番号なんて蛇足である。申請内容を市町村側がシステムに入力した後、そのシステムの内部で被保険者番号と住民コードと個人番号がひも付けされて、中央で管理しているサーバとの情報連携さえ出来れば何の問題もない・・・はず。

政府として
「これは『社会保障・税番号制度』です。国民は社会保障や税の各種手続でマイナンバーを記入しませう」
という建前を掲げているので、厚労省だけが正面から「うちの管轄する介護分野では記載しなくても良いですよ」とは言いにくいのだろう。だから、原則は記入としつつ、例外としての記入不要な場合を「申請者が自身の個人番号がわからず申請書等への個人番号の記載が難しい場合『等』」と拡大解釈が可能な形で示したと考えて、概ね間違いはないはずだ。

さて。

この半年の間に、厚労省の建前と本音を読み取ることができた自治体と、読み取れなかった自治体とで差が生じている。

きちんと本音を読み取れた自治体の例が、↓こちら

介護保険要介護(要支援)認定申請にかかる個人番号(マイナンバー)の取り扱いについて 流山市
=====【引用ここから】=====
※マイナンバーの記入がなくても申請できます。
  ~~~(中略)~~~
マイナンバーが分からない等の理由で申請書へのマイナンバーの記入が困難な場合は、マイナンバーの記入はせずに空欄のまま提出してください(被保険者が高齢等であることを鑑み、マイナンバーの記入がない申請書でも申請受理いたします)。
=====【引用ここまで】=====


読み取れなかった馬鹿正直な例が、↓こちら

http://www.city.ishioka.lg.jp/page/page003609.html
=====【引用ここから】=====
マイナンバー制度の導入にともない,平成28年1月以降は,申請書に被保険者本人の個人番号の記載が必要になります。
 個人番号記載欄を追加した,新しい申請書様式につきましては,準備でき次第,順次提供いたしますが,準備が整うまでは,従前の申請書に個人番号を追記しての対応となります。従前の申請書様式を用いる場合,申請書の右上余白に個人番号の追記をお願いいたします。

=====【引用ここまで】=====

引用元では、「申請書の右上余白に個人番号の追記をお願いいたします。」の箇所にわざわざ罫線まで引いて太字強調している。なんと言えばいいのやら。



マイナンバーは、あくまで国民の資産と収入を把握し課税漏れを防ぎ、将来的には資産課税や預金封鎖をするための納税番号であり、社会保障を冠しているのはただのカモフラージュ。なので、社会保障分野に携わる人は肩の力を抜いてほどほどにマイナンバーと付き合っていきましょう。ただでさえ人手が足りてない介護事業所が、マイナンバーの把握と管理で煩雑な事務に人手を割かれるなんて馬鹿馬鹿しいじゃないですか。
コメント
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