○飯塚市政治倫理条例
この条例は、議員に対する資産報告書の提出義務や、政治倫理審査会による資産報告書の審査が規定されている。飯塚市議会は、12月定例会でこの資産報告書制度を廃止した。
<福岡・飯塚市議会>資産公開を廃止 議員提案可決 - BIGLOBEニュース
この資産報告制度は、市長や議員が高潔であることを証明させるために、自己の資産、地位や肩書き、年間の収入や贈与について報告することを義務付けるものだ。しかし、条例の規定どおりに報告書を提出しているからといって、提出した市長や議員が高潔かといえばそうではない。
例えば、Aという議員がいたとしよう。
この議員は、Bという業者から50万円を貰い、契約発注の担当課へ「ここの工事とあそこの工事はBにさせてやれ」と圧力をかけ、担当課がBに発注した。
資産報告書を作成する際、当然ながらAはこの50万円を記載しないだろう。飯塚市の条例では、資産額を証明する書類(通帳の写し等)の提出は義務付けられていないが、仮にこの義務付けがあったとしても、議員報酬等の振込口座として市が把握するX銀行の通帳のみを添付資料として提示し、Bから貰った50万円をY銀行の口座に振込んでおけば良い。あるいは、配偶者や子供、愛人、法人の口座に振込んでしまえば良い。提出された資産報告書をいくら読んでも、不正な50万円の動きは分からない。
政治倫理審査会は警察ではないため、捜査権は持っておらず、あくまでも提出された資産報告書に対して書面審査することしかできない。A議員のようにX銀行、Y銀行の口座を持っている場合に「私は、議員報酬の振込先であるX銀行の口座しか持っていない」と言ってX銀行の記載しかしなかったとしても、審査会はこれを受け取って審査する他ない。A議員がY銀行の口座を有しているかどうかは分からない。
条例で設置される政治倫理審査会に、強制的な調査権を持たせることは難しいだろう。一方で、資産報告制度の目的は、公職にある者の高潔性を担保することにあるが、これは贈収賄をはじめとする不正なお金の流れの把握ができなければならず、強制的な調査権を必要とする。資産報告制度に携わる者の努力では、解決は難しい。法律の絡んだ制度的問題である。
さて、この資産報告制度の廃止に対し、上記記事では次のような「識者コメント」を掲載している。
=====【引用ここから】=====
旧飯塚市の政治倫理条例制定にも関わった斎藤文男・九州大名誉教授(83)=行政法=は「言語道断の一言。資産公開は政治倫理条例の柱であり、それを抜くことは条例の無効化を意味する。公職にある者が身ぎれいであることを自ら立証するのが制度の趣旨。抜け道など不備があるなら、対象に配偶者や扶養親族を加えるなど改善すればいい。議員の都合で勝手にやめてしまうのは改悪であり許し難い」と批判した。
=====【引用ここまで】=====
「抜け道など不備があるなら、対象に配偶者や扶養親族を加えるなど改善すればいい。」
というが、資産報告の対象に配偶者や扶養親族を加えたところで、先に述べたように愛人の口座だったり、法人の口座だったりを作れば回避できる。また、複数の銀行に口座を持っていれば回避できる。こうした抜け道に対処するためには審査会に調査権を持たせる必要があるが、おそらく自治体レベル・条例レベルでは難しいだろう。仮に、市が条例の中に刑訴法第197条を真似て
「審査会は、資産報告書の調査について公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」
といった規定を設けたところで、銀行が応じるかどうか怪しいものだ(実のところ、刑訴法第197条第2項ですら強制的な規定ではない)。
コメントを寄せた斎藤文男は、資産報告・政治倫理審査会の制度的な問題点、欠陥を理解できていない。市長や議員に対する不信が制度の根底にあるのに、その市長や議員が提出する報告書を信用しなければならないという根本的な矛盾は、小手先の改善では覆い隠せない。労組御用達の極左名誉教授の、自分が設計した制度に対する問題意識の甘いこと、甘いこと・・・
資産報告制度よりも、
「市は、市長や議員が役員を務める会社に工事を発注してはならない」
「市は、市長や議員が株式総数の過半数を有する会社に補助金を交付してはならない」
といったお手盛り防止の規定や、不正が発覚した際の説明義務などを盛り込む方が実効性が高い。こうした観点から、上記記事にある
=====【引用ここから】=====
改正案は、議員有志の勉強会などで成案化され、資産・所得・関連会社の報告書の提出義務やその内容、閲覧に関する条文を削除した。一方、首長や議員らの口利きなどの影響を排除する対象に、市関連の公社や出資法人を追加し、贈収賄などの罪に問われた際の市民向け説明会の厳格化も盛り込んだ。
=====【引用ここまで】=====
という改正案の考え方、方向性は正しい。
・・・と、ここまで書いてふと思った。
当選時に、市長や議員が
「保有する口座や株式等の資産情報について、市長や議員に在職する間、市の要求に基づき全て開示します。また、市が調査し、銀行をはじめ関係各所へ照会を行うことに同意します。」
という同意文を個別に提出したとしたら、その効力はどこまで認められるのだろうか?
また、マイナンバー制が完全施行されて、全ての口座情報がマイナンバーにひも付けされるようになったら、資産報告制度の運用はどうなるのだろうか?
自治体独自事業として、資産報告制度を条例で個人番号利用事業にすることはできるのだろうか?
この条例は、議員に対する資産報告書の提出義務や、政治倫理審査会による資産報告書の審査が規定されている。飯塚市議会は、12月定例会でこの資産報告書制度を廃止した。
<福岡・飯塚市議会>資産公開を廃止 議員提案可決 - BIGLOBEニュース
この資産報告制度は、市長や議員が高潔であることを証明させるために、自己の資産、地位や肩書き、年間の収入や贈与について報告することを義務付けるものだ。しかし、条例の規定どおりに報告書を提出しているからといって、提出した市長や議員が高潔かといえばそうではない。
例えば、Aという議員がいたとしよう。
この議員は、Bという業者から50万円を貰い、契約発注の担当課へ「ここの工事とあそこの工事はBにさせてやれ」と圧力をかけ、担当課がBに発注した。
資産報告書を作成する際、当然ながらAはこの50万円を記載しないだろう。飯塚市の条例では、資産額を証明する書類(通帳の写し等)の提出は義務付けられていないが、仮にこの義務付けがあったとしても、議員報酬等の振込口座として市が把握するX銀行の通帳のみを添付資料として提示し、Bから貰った50万円をY銀行の口座に振込んでおけば良い。あるいは、配偶者や子供、愛人、法人の口座に振込んでしまえば良い。提出された資産報告書をいくら読んでも、不正な50万円の動きは分からない。
政治倫理審査会は警察ではないため、捜査権は持っておらず、あくまでも提出された資産報告書に対して書面審査することしかできない。A議員のようにX銀行、Y銀行の口座を持っている場合に「私は、議員報酬の振込先であるX銀行の口座しか持っていない」と言ってX銀行の記載しかしなかったとしても、審査会はこれを受け取って審査する他ない。A議員がY銀行の口座を有しているかどうかは分からない。
条例で設置される政治倫理審査会に、強制的な調査権を持たせることは難しいだろう。一方で、資産報告制度の目的は、公職にある者の高潔性を担保することにあるが、これは贈収賄をはじめとする不正なお金の流れの把握ができなければならず、強制的な調査権を必要とする。資産報告制度に携わる者の努力では、解決は難しい。法律の絡んだ制度的問題である。
さて、この資産報告制度の廃止に対し、上記記事では次のような「識者コメント」を掲載している。
=====【引用ここから】=====
旧飯塚市の政治倫理条例制定にも関わった斎藤文男・九州大名誉教授(83)=行政法=は「言語道断の一言。資産公開は政治倫理条例の柱であり、それを抜くことは条例の無効化を意味する。公職にある者が身ぎれいであることを自ら立証するのが制度の趣旨。抜け道など不備があるなら、対象に配偶者や扶養親族を加えるなど改善すればいい。議員の都合で勝手にやめてしまうのは改悪であり許し難い」と批判した。
=====【引用ここまで】=====
「抜け道など不備があるなら、対象に配偶者や扶養親族を加えるなど改善すればいい。」
というが、資産報告の対象に配偶者や扶養親族を加えたところで、先に述べたように愛人の口座だったり、法人の口座だったりを作れば回避できる。また、複数の銀行に口座を持っていれば回避できる。こうした抜け道に対処するためには審査会に調査権を持たせる必要があるが、おそらく自治体レベル・条例レベルでは難しいだろう。仮に、市が条例の中に刑訴法第197条を真似て
「審査会は、資産報告書の調査について公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」
といった規定を設けたところで、銀行が応じるかどうか怪しいものだ(実のところ、刑訴法第197条第2項ですら強制的な規定ではない)。
コメントを寄せた斎藤文男は、資産報告・政治倫理審査会の制度的な問題点、欠陥を理解できていない。市長や議員に対する不信が制度の根底にあるのに、その市長や議員が提出する報告書を信用しなければならないという根本的な矛盾は、小手先の改善では覆い隠せない。労組御用達の極左名誉教授の、自分が設計した制度に対する問題意識の甘いこと、甘いこと・・・
資産報告制度よりも、
「市は、市長や議員が役員を務める会社に工事を発注してはならない」
「市は、市長や議員が株式総数の過半数を有する会社に補助金を交付してはならない」
といったお手盛り防止の規定や、不正が発覚した際の説明義務などを盛り込む方が実効性が高い。こうした観点から、上記記事にある
=====【引用ここから】=====
改正案は、議員有志の勉強会などで成案化され、資産・所得・関連会社の報告書の提出義務やその内容、閲覧に関する条文を削除した。一方、首長や議員らの口利きなどの影響を排除する対象に、市関連の公社や出資法人を追加し、贈収賄などの罪に問われた際の市民向け説明会の厳格化も盛り込んだ。
=====【引用ここまで】=====
という改正案の考え方、方向性は正しい。
・・・と、ここまで書いてふと思った。
当選時に、市長や議員が
「保有する口座や株式等の資産情報について、市長や議員に在職する間、市の要求に基づき全て開示します。また、市が調査し、銀行をはじめ関係各所へ照会を行うことに同意します。」
という同意文を個別に提出したとしたら、その効力はどこまで認められるのだろうか?
また、マイナンバー制が完全施行されて、全ての口座情報がマイナンバーにひも付けされるようになったら、資産報告制度の運用はどうなるのだろうか?
自治体独自事業として、資産報告制度を条例で個人番号利用事業にすることはできるのだろうか?