おにぎりを食べたいと思う客がいる。
↓
客がコンビニへ行く。
↓
客がおにぎりを手に取り、レジで店員に渡す。
↓
店員が代金を請求する。
↓
客が代金を支払い、おにぎりの引渡しを受ける。
このように、従来は、おにぎりの販売については自由に行われていたが、社会情勢の変化に伴うおにぎりに対するニーズの増大を背景に、誰もが安心しておにぎりを食べられるよう、おにぎりの提供を社会全体で支えることを目的として、「(仮想)おにぎり保険制度」が創設された。
おにぎり保険制度における、おにぎり入手までの流れは次のようになる。
おにぎりを食べたい客(又はその家族)が、市町村役場の窓口でおにぎり認定の申請をする。
↓
調査員が客の自宅を訪問し、身体機能、生活機能、認知機能などを調査する。
↓
客が主治医の診察を受ける。
↓
主治医が意見書を作成する。
↓
調査員が調査結果と意見書内容をシステムに入力し、どのくらいのおにぎりが必要か、月間で何個のおにぎりの提供を受けられるかの基準となる「要おにぎり度」をコンピューターで判定する(一次判定)。
↓
医師、栄養士、調理師などが集まっておにぎり認定審査会を開催し、「要おにぎり度」のコンピューター判定に対し意見を述べ、最終的な判定を行う(二次判定)。
↓
市町村が、判定された「要おにぎり度」を本人に通知する。
↓
客がマネージャーにおにぎり提供計画の作成を依頼。
↓
マネージャーが客やその家族と面談。
↓
マネージャーがおにぎり提供計画の原案を作成し、おにぎり事業所、客、家族で会議を開き、おにぎり提供計画を決定する。
↓
客と事業所(予めおにぎり提供事業者として都道府県や市町村の審査を経て指定を受けたものに限る)とで契約締結。
↓
おにぎり提供計画に基づき、事業所がおにぎりを提供。
↓
月ごとに、提供されたおにぎりの個数と種類を点数化して集計。
↓
事業所に配置された従業員の数、
おにぎりを握る人や運ぶ人の公的資格の有無、
国が定めるおにぎり管理研修の受講状況、
どういった客におにぎりを提供したか、
食中毒等の緊急時に備えた外部の事業者との連携状況
・・・等々に応じて加算、減算を行い、おにぎり事業所が公法人おにぎり連合会へ報酬を請求する。
↓
おにぎり連合会が点数を審査し、おにぎり報酬を算定。
↓
保険者(市町村)が総額の9割と審査手数料をおにぎり連合会に支払う。
↓
おにぎり連合会が事業所に総額の9割を事業所に支払う。
↓
客は、事業所に残りの1割を支払う。
…さてと。
おにぎり保険制度が創設されたことによって、弊害が生じた。
おにぎり保険制度の運営には、膨大な手間と時間を必要とする。当事者間の契約だけなら不要であった、マネージャー、医師、栄養士、調理師、SE、都道府県職員、市町村職員、連合会職員といった、多くの人がこれに従事させられることによって、本来なら提供されていたはずの他の商品やサービスの提供量が減ったか、あるいは提供そのものがなくなった。
また、制度創設によって、客への配慮・味の向上への意欲と同等かそれ以上に、事業所や報酬の審査を行う都道府県・市町村・連合会への配慮が必要になった。行政機関の審査に合格しなければ、客が承諾しても保険報酬が支払われないからだ。行政の審査を通らなくなるリスクを犯したくない。独自のおにぎりを提供するくらいなら、予め行政が示している類型に当てはめた無難なおにぎりを提供した方が間違いなく報酬審査を通る。これによって、おにぎりは画一的になり味は低下した。
弊害はまだある。
以前なら、客が代金を支払うとともにおにぎりを選ぶので、おにぎりが価格に見合ったものかどうかを客が判断していた。原材料の高騰で価格が上昇すれば、おにぎりの利用量を減らしたり、パン等の代替物に変えたりといった選択をすることになる。原材料の高騰という情報がおにぎりの値段を通して客へ伝わり、結果としておにぎりの消費量が自然と調整されていた。
ところが、おにぎり保険制度のもとでは、客は1割負担でおにぎりを買えるため、
「必要かどうかは置いといて、とりあえず毎月の枠上限までおにぎりを買っておこう」
と考える客が多数出現した。枠上限までおにぎりを購入する計画を、客に提示するマネージャーも続出した。
本来なら、価格メカニズムを通して、おにぎりに使用される米の量とチャーハンに使用される米の量が決定されていた。ところが、おにぎりだけが公営保険制度化されたために、おにぎりの消費量が本来の需要を超えて膨らみ、米がおにぎりの原料として優先して回されることになり、結果、チャーハンで使える米が著しく減ってしまった。
こうなると、チャーハンの業者は「おにぎりだけでなく、チャーハンにも保険適用せよ」とロビー活動をするようになる。そして、チャーハンが公営保険の枠組みに入ると、チャーハンの過剰消費が始まり、チャーハンで過剰に消費されたネギや卵が高騰するようになった。
おまけに、おにぎり事業所で働く従業員の低賃金も問題になった。というのも、保険制度の開始によって、国がおにぎり単価を設定するようになり、上質なおにぎりでもそうでないおにぎりでも、国の設定単価に合わせないといけなくなったからだ。個々の事業所で代金を変更することはできない。おにぎりが売り切れたからといって、おにぎりの値段を上げることができない。上質な米を使っておにぎりを作っても、腕のいい職人が作ったものでも、代金を上げることはできない。そのため、事業者はおにぎりの原材料費を下げるか人件費を削るかのどちらかでコストを下げて利益を獲得するようになったのだ。
制度が開始されたことによって、様々な分野で過剰消費や過少供給、賃金の歪み等が生じ、国民生活は貧しくなった。
あぁ、「おにぎり保険」のなんと恐ろしいことよ。
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客がコンビニへ行く。
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客がおにぎりを手に取り、レジで店員に渡す。
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店員が代金を請求する。
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客が代金を支払い、おにぎりの引渡しを受ける。
このように、従来は、おにぎりの販売については自由に行われていたが、社会情勢の変化に伴うおにぎりに対するニーズの増大を背景に、誰もが安心しておにぎりを食べられるよう、おにぎりの提供を社会全体で支えることを目的として、「(仮想)おにぎり保険制度」が創設された。
おにぎり保険制度における、おにぎり入手までの流れは次のようになる。
おにぎりを食べたい客(又はその家族)が、市町村役場の窓口でおにぎり認定の申請をする。
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調査員が客の自宅を訪問し、身体機能、生活機能、認知機能などを調査する。
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客が主治医の診察を受ける。
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主治医が意見書を作成する。
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調査員が調査結果と意見書内容をシステムに入力し、どのくらいのおにぎりが必要か、月間で何個のおにぎりの提供を受けられるかの基準となる「要おにぎり度」をコンピューターで判定する(一次判定)。
↓
医師、栄養士、調理師などが集まっておにぎり認定審査会を開催し、「要おにぎり度」のコンピューター判定に対し意見を述べ、最終的な判定を行う(二次判定)。
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市町村が、判定された「要おにぎり度」を本人に通知する。
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客がマネージャーにおにぎり提供計画の作成を依頼。
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マネージャーが客やその家族と面談。
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マネージャーがおにぎり提供計画の原案を作成し、おにぎり事業所、客、家族で会議を開き、おにぎり提供計画を決定する。
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客と事業所(予めおにぎり提供事業者として都道府県や市町村の審査を経て指定を受けたものに限る)とで契約締結。
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おにぎり提供計画に基づき、事業所がおにぎりを提供。
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月ごとに、提供されたおにぎりの個数と種類を点数化して集計。
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事業所に配置された従業員の数、
おにぎりを握る人や運ぶ人の公的資格の有無、
国が定めるおにぎり管理研修の受講状況、
どういった客におにぎりを提供したか、
食中毒等の緊急時に備えた外部の事業者との連携状況
・・・等々に応じて加算、減算を行い、おにぎり事業所が公法人おにぎり連合会へ報酬を請求する。
↓
おにぎり連合会が点数を審査し、おにぎり報酬を算定。
↓
保険者(市町村)が総額の9割と審査手数料をおにぎり連合会に支払う。
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おにぎり連合会が事業所に総額の9割を事業所に支払う。
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客は、事業所に残りの1割を支払う。
…さてと。
おにぎり保険制度が創設されたことによって、弊害が生じた。
おにぎり保険制度の運営には、膨大な手間と時間を必要とする。当事者間の契約だけなら不要であった、マネージャー、医師、栄養士、調理師、SE、都道府県職員、市町村職員、連合会職員といった、多くの人がこれに従事させられることによって、本来なら提供されていたはずの他の商品やサービスの提供量が減ったか、あるいは提供そのものがなくなった。
また、制度創設によって、客への配慮・味の向上への意欲と同等かそれ以上に、事業所や報酬の審査を行う都道府県・市町村・連合会への配慮が必要になった。行政機関の審査に合格しなければ、客が承諾しても保険報酬が支払われないからだ。行政の審査を通らなくなるリスクを犯したくない。独自のおにぎりを提供するくらいなら、予め行政が示している類型に当てはめた無難なおにぎりを提供した方が間違いなく報酬審査を通る。これによって、おにぎりは画一的になり味は低下した。
弊害はまだある。
以前なら、客が代金を支払うとともにおにぎりを選ぶので、おにぎりが価格に見合ったものかどうかを客が判断していた。原材料の高騰で価格が上昇すれば、おにぎりの利用量を減らしたり、パン等の代替物に変えたりといった選択をすることになる。原材料の高騰という情報がおにぎりの値段を通して客へ伝わり、結果としておにぎりの消費量が自然と調整されていた。
ところが、おにぎり保険制度のもとでは、客は1割負担でおにぎりを買えるため、
「必要かどうかは置いといて、とりあえず毎月の枠上限までおにぎりを買っておこう」
と考える客が多数出現した。枠上限までおにぎりを購入する計画を、客に提示するマネージャーも続出した。
本来なら、価格メカニズムを通して、おにぎりに使用される米の量とチャーハンに使用される米の量が決定されていた。ところが、おにぎりだけが公営保険制度化されたために、おにぎりの消費量が本来の需要を超えて膨らみ、米がおにぎりの原料として優先して回されることになり、結果、チャーハンで使える米が著しく減ってしまった。
こうなると、チャーハンの業者は「おにぎりだけでなく、チャーハンにも保険適用せよ」とロビー活動をするようになる。そして、チャーハンが公営保険の枠組みに入ると、チャーハンの過剰消費が始まり、チャーハンで過剰に消費されたネギや卵が高騰するようになった。
おまけに、おにぎり事業所で働く従業員の低賃金も問題になった。というのも、保険制度の開始によって、国がおにぎり単価を設定するようになり、上質なおにぎりでもそうでないおにぎりでも、国の設定単価に合わせないといけなくなったからだ。個々の事業所で代金を変更することはできない。おにぎりが売り切れたからといって、おにぎりの値段を上げることができない。上質な米を使っておにぎりを作っても、腕のいい職人が作ったものでも、代金を上げることはできない。そのため、事業者はおにぎりの原材料費を下げるか人件費を削るかのどちらかでコストを下げて利益を獲得するようになったのだ。
制度が開始されたことによって、様々な分野で過剰消費や過少供給、賃金の歪み等が生じ、国民生活は貧しくなった。
あぁ、「おにぎり保険」のなんと恐ろしいことよ。