若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

不正採用?情報漏洩?どっち? ~ 一次筆記試験全員合格問題の再燃 ~

2022年12月27日 | 地方議会・地方政治
どうもこんばんは、若年寄です。
ほぼ休眠中の当ブログですが、久々に記事をアップ。
今回のお題は「不正採用か情報漏洩か」です。

職員採用試験、市側から情報漏洩疑い 行橋市議会、百条委設置 「不正採用で取材」議員指摘 /福岡 | 毎日新聞 2022/12/24 地方版
======【引用ここから】======
 行橋市議会は23日、2019年度以降の職員採用試験を巡り、市側から行政情報が漏洩(ろうえい)した疑いがあるとして、地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置した。同日開かれた12月定例会最終日の本会議に議員提案され、議長を除く18人中、賛成17人、反対1人で可決した。
======【引用ここまで】======

最近、活字離れで読解力が低下していたようです。
新聞記事の見出しに
職員採用試験
不正採用
とあり、本文冒頭に
職員採用試験を巡り、市側から行政情報が漏洩した疑い
と書いてあるので、私はてっきり

「行橋市が職員採用に関する情報を漏洩した不正採用試験を実施した件で、行橋市議会がこれを調査する特別委員会を設置した」

と思ったんです。
ところがどっこい。
上記記事の続きを読み進めると、違う内容が書かれていました。

======【引用ここから】======
 提出者の田中建一市議は提案理由で、「20年4月以降に採用された職員らに対し、報道機関から不正採用に関する取材があった」と指摘。市側から捜査機関や報道機関への情報漏洩や、正規の手続きを経ずに行政情報が提供された疑いがあるとして、「市長部局の情報管理のあり方を議会として検証する必要がある」と述べた。
======【引用ここまで】======

市から捜査機関や報道機関への情報漏洩があった疑惑を調査する特別委員会、だそうです。
「不正な採用試験を追及する特別委員会」
というのは私の誤読で、
「報道機関や捜査機関への情報漏洩を追及する特別委員会」
というのが正解でした。

【誤読した理由】


ちょっと言い訳をします。
私が冒頭誤解した読み方をしてしまったのには、訳があります。
この件について、私は先入観を持っていました。

合格ライン操作は 実在する!?(1次筆記試験3割得点でも合格できる行橋市職員採用試験) - 若年寄の遺言

この2020年に書いた記事の内容をひと言でまとめますと、

一次筆記試験を受験した人全員が一次筆記試験をクリアできるよう、市がボーダーラインを底まで下げた

という、全国でも類を見ない超ド級の不正疑惑試験を紹介したものです。
この時の記憶があったので、冒頭の新聞記事を読んだ時、

「行橋市議会も2年越しでやっと不正な採用試験の追及を始めたか」

と思ったのです。
しかしこれは、思い込みに起因する誤読でした。

【本当に追及すべきはどっち?】


「行橋市職員採用試験情報漏えいの疑い」市議会が百条委設置|【西日本新聞me】2022/12/24 6:00
======【引用ここから】======
 今議会の一般質問でこの問題についてただした小見祐治議員によると、職員採用を巡って今年9月ごろ、20年以降に採用された複数の市職員の元に報道機関が取材に訪れた▽別の市職員が警察に呼ばれた▽心労で一時仕事を休んだ市職員もいた―という。小見議員は、受験者の点数や順位が正当な手続きを経ず外部に漏れた可能性があるとみている。
   -----(中略)-----
 百条委は、採用試験の検証は目的としていない。
======【引用ここまで】======

行橋市議会が追及するのは、あくまで行橋市から報道機関や捜査機関への情報漏洩である様子。
職員採用試験におけるボーダーライン設定と一次筆記試験全員合格は、検証の対象外とのこと。

本当に追及すべきはどっちなのでしょうか。

ところで、この西日本新聞記事では
20年以降に採用された複数の市職員の元に報道機関が取材に訪れた
と記載されていますが、これは情報漏洩によって引き起こされたものなのでしょうか。
この記事内容からは、受験者の点数や順位の漏洩があったとは直ちに判断できません。
県庁であれば、ヒラも含めた職員録をネットで公開、あるいは一般に販売しています。
公務における職員の氏名、所属などはそもそも公開可能な情報ですし、開示請求すれば採用年度も公開されるでしょう。
職員録を年度ごとに集めれば、採用年度を自力でチェックすることも当然可能です。
(この市役所では、職員の氏名と配属先も非公開なのでしょうか?)

それとも、取材を受けた複数の市職員や警察に呼ばれた別の市職員が、ピンポイントにボーダーライン付近の低順位者だけだったのでしょうか。
これならば話は違ってきます。受験者の点数や順位が漏洩していた可能性があります。

・・・・・おや?

追及している議員は、受験者の点数や順位を知っていたから、取材を受けた市職員や警察に呼ばれた市職員の名前を聞いて
受験者の点数や順位が正当な手続きを経ず外部に漏れた
と判断したのでしょうか。
そうなると、この市議会議員に受験者の点数や順位を漏らした人物が、報道機関や捜査機関にも漏らしたと考えるのが妥当ではないでしょうか。
受験者の点数や順位を知り得る人はそう多くないでしょうから。

さて、

また私の読解力不足かもしれませんが、この西日本新聞記事を読んで、私は

「報道機関の取材を受けた複数の市職員≠警察に呼ばれた市職員=心労で一時休んだ市職員」

と認識したのですが、もしそうだとしたら、同じ職場の職員等なら
「この前心労で休んだあの人が警察に呼ばれたのか」
と特定できてしまう可能性は高いです。
これって、一般質問を通じた情報漏洩ではないでしょうか。

本当に追及すべきはどっちなのでしょうか。

【今後の展開】


さて、情報漏洩を調査する百条委員会が設置されたわけですが、今後、どうなるのでしょうか。
地方自治法第100条の規定による委員会ですので、宣誓をさせた上での証人喚問が出来るなど、通常の委員会よりも重みがあります。

誰を、どのように調べるのでしょうか。
どの情報が、誰から誰に伝わったのか、どこまで判明するでしょうか。

市職員を取材した報道機関の人や、市職員を呼んで取り調べた警察の人を呼んで、
「誰からその市職員の事を聞いた?」
と尋ねるのでしょうか。
市長、副市長、人事担当部課長を個別に呼んで
「情報漏らしたのはお前だろ」
と詰めるのでしょうか。
市職員の誰が取材を受けて、誰が取り調べを受けたのか等に触れない訳にもいかないでしょう。
委員会の中ではどの程度まで個人情報を保有できるのでしょうか。

振り上げた拳の下ろし所が分からなくなって、迷走して暗礁に乗り上げてしまわないでしょうか。
調査委員会の委員長による高度な舵取りが求められます。
報道機関や捜査機関への「適法な情報提供」と「違法な情報漏洩」、この分水嶺を間違えると、場合によっては
「市議会による報道の自由や知る権利への侵害」
「市議会による捜査妨害」
になりかねないので、注意が必要です。






【採用試験の不正は許されるのか】


採用試験。

受験者の生涯を左右しかねない、重みのある関門。

一点差でこの関門を突破できた者と、一点差でこの関門に阻まれた者とが峻別される。

採用試験や資格試験における一次筆記試験では、この一点差をいかにクリアするかに1年間を費やす。
受験者によっては、まさにこの一点差に人生懸けて臨んでくる。

その位に重みのある一次筆記試験で、
「ボーダーラインを下げて全員合格にしました~」
というのは、受験者を舐めているとしか言いようがない。

(この記事を書いていて、2年越しに怒りが甦ってきた)

職務代理 ~落選後任期満了まで~

2022年03月05日 | 地方議会・地方政治

【2月21日】


この時は元気だったのに・・・

行橋市長選挙、田中純候補の出陣式へ 衆議院議員 きいたかし 福岡10区(北九州市門司区・小倉北区・小倉南区) | 衆議院議員きいたかし(城井崇)


【2月25日】


この時も元気って言ってたのに・・・

行橋市長選 候補者の横顔 朝日新聞2022年2月25日
======【引用ここから】======
田中 純氏(75)無現② 気力体力充実 8年の実績強調
ー----(中略)ー----
2014年の8回目で初当選。今回も気力体力は充実している、と3選出馬を決めた。
======【引用ここまで】======

【2月27日】


選挙で負けて・・・

44歳の工藤氏が初当選 行橋市長選 現職と新顔の元副市長を破る:朝日新聞デジタル
======【引用ここから】======
 福岡県行橋市長選は27日投開票され、無所属新顔で元市議の工藤政宏氏(44)が、3選を目指した現職の田中純(75)=立憲民主、国民民主推薦=、新顔で元副市長の松本英樹(63)の無所属2氏を退け、初当選を果たした。
======【引用ここまで】======

【2月28日】


落選の翌日、なんと、体調不良を理由とした職務代理!?!?

<田中・行橋市長>田中・行橋市長、体調不良 職務代理副市長に /福岡(毎日新聞)
======【引用ここから】======
 行橋市は28日、田中純市長(75)が体調不良のため、1日から当分の間、城戸好光副市長を職務代理者とする発表した。
 田中氏は27日投開票された市長選で、新人で元市議の工藤政宏氏(44)に敗れたばかり。1日開会の市議会3月定例会では城戸氏が答弁に立つ。田中氏の任期は17日まで。【松本昌樹】

======【引用ここまで】======

【支援者への影響】


田中純市長は、「当分の間」と期限を定めず職務代理を置きました。
もしこのまま、3月17日の任期満了まで復帰しなかったら、ですよ。
田中純氏に対し
「逃げた」
「無責任」
といった反感が生じるのは必至です。

この反感は田中純氏本人のみならず、支援した国会議員、県議、市議にまで及ぶんじゃないかと思います。

「こんな無責任な候補者を推していたのか。」
「選挙後10数日の職務すらこなせないような高齢者を、次の4年間も市長にさせようと支援運動していたのか。」
「選挙期間中、支援した議員は田中純氏を団体や企業に連れて回ったのに、市長の職務をさせるために議場には連れてこないのか。」

ってね。
このまま田中純氏が職務復帰しないまま任期を終えると、田中純氏を支援した議員達は今後の選挙のたびに
「あの職務放棄した無責任男を推した〇〇代議士(県議・市議)」
「人物眼の無さは折り紙つき」
といった十字架を背負って戦わなければならないこととなります。

【田中純「市長」最後の10数日】

さて。

上記の毎日新聞では3月1日から市議会3月定例会が開会されます。
おそらく、田中純氏にとって市長として臨む最後の市議会となるでしょう。

市長として公式の議事録が残る形で議場で話す最後の機会です。
自分の市政への想いを語り、2期8年の総括を行うことができる最後の場面です。

市長の仕事をしたくて立候補したんでしょ?

残り10数日とは言え、市長なんですよ。

給与も発生しているんですよ。
まだ決裁も残っているでしょう、行事も残っているでしょう。
まだ人事権だって予算執行権だって手元にあるわけです。

残り任期中に災害が起きる可能性もゼロではありません。
災害時に指揮をとるのは市長でしょ。

それでも、体調不良を理由に職務放棄しますか?

【法律上の問題】

さてさて。

市長の職務代理は、地方自治法第152条第1項

普通地方公共団体の長に事故があるとき、又は長が欠けたときは、副知事又は副市町村長がその職務を代理する。

という条文が根拠となります。

この「長に事故があるとき」に、一時的な体調不良は当てはまるのでしょうか。
どの自治体にも100%該当するわけではありませんが、考え方の指針として、次の例が参考になると思います。

○加東市長に事故があるときの職務代理者の設置基準
======【引用ここから】======
2 病気等により療養する場合
 病気等により2週間を超えて療養する場合で、その職務に自ら有効な意思決定をし、職員を十分に指揮監督できないような状況にあることが明らかなときに限り、職務代理者を置くものとする。

======【引用ここまで】======

典型例として、入院して手術する場合が挙げられると思います。
一定期間入院するためその間執務を行える見通しが立たない、そんな場合に使うのが職務代理です。
自治体によっては、入院療養が予定される場合であっても職務代理を置かずに対応した例もあるようです。

この例↓は、すごい丁寧な対応だと思います。
市長の入院について | 本巣市



2週間を超えて療養が必要なほどの体調不良なのか。
入院療養の必要な疾病が以前から分かっていたのか。
2週間を超えて療養が必要なほどの体調不良であったのに、それを隠して市長選出馬したのか。
それとも、一時的な体調不良に過ぎないのに地方自治法の規定を濫用して職務代理を置いたのか。
療養先から電話やメールによる指示ができない程の状態なのか。

田中純氏は、使途不明金情報隠蔽問題や本会議翌日専決処分といった、法律の想定を超えた職権濫用事例がいくつかあるのですが、今回の落選翌日職務代理もその濫用事例に追加できるかと思います。

3月1日~3月17日の市長給与は日割り計算されると思うのですが、返還請求の対象にならないだろうか。

【識者コメントの紹介】

最後に。

この職務代理に関して、ツイッター上で見つけた識者コメントを紹介して終わりたいと思います。

徳永克子さんtwitter


予想通り」と評される田中純氏・・・

white hatさんtwitter


立憲民主党の皆さん、国民民主党の皆さん、大家敏さん、麻生太郎さん、城井崇さん、あなた方の支援した現職候補が落選後に職務に戻ってきません・・・

ハコモノを減らして将来負担を減らそう ~公共施設等総合管理計画と行橋市長選~

2022年02月19日 | 地方議会・地方政治
『行橋市公共施設等総合管理計画』というものがあります。

公共施設等総合管理計画 | 行橋市ホームページ
行橋市公共施設等総合管理計画 平成29年3月

この中で、大事なことが書いてありますので紹介します。

市としては 施設や維持費の削減が必要であると考えています


別のところでは、
「最適配置の推進」
と銘打って、
①施設を1箇所にまとめる。
②民間に運営をゆだねる。(譲渡を含む)
③施設の廃止を進める。
④建替えの際に規模を縮小する。
⑤別の用途の施設として利用する。(既存建物を活用)
⑥公共施設等の再編による拠点整備とともに新たなニーズに応える。

という手法を示しています。


これについて、行橋市長選に名乗りを上げた3人に質問を投げかけるとしたら、次のとおり。

【田中純氏へ】

前回市長選において最大の争点は、新図書館の建設問題でした。

田中氏は当選後に新図書館を建設しましたが、それによる維持費の増加は公共施設等総合管理計画に反していませんか?
既存の旧図書館の活用ではダメだったんですか?
新図書館ができた後に商店街のスーパーが撤退するなど目に見えて衰退したわけですが、強行した新図書館建設事業が中心市街地の活性化に寄与しなかった事への反省の弁はありませんか?

【工藤政宏氏へ】

田中氏が建ててしまった新図書館をはじめ公共施設は増加していますが、その維持費は今後どう工面しますか?
以前当ブログにて、工藤氏の固定資産税減税論について紹介しましたが、維持費が膨らむ中で財源はどうしますか?
どの施設を廃止・縮小しますか?

【松本英樹氏へ】

松本氏が主導した増田美術館の公営化は、公共施設等総合管理計画に掲げた
②民間に運営をゆだねる。(譲渡を含む)
という考え方に逆行していませんか?
財団の維持管理費を市が肩代わりして、市の負担が増えていませんか?
美術館の旧オーナーと松本氏とは、2016年12月27日の毎日新聞記事によると「親交のある」仲と紹介されていましたが、具体的にどういう間柄だったのですか?

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前副市長の出馬タイミングと失策への関与 ~ 行橋市前副市長・松本英樹氏に正当性はあるか ~

2022年01月20日 | 地方議会・地方政治
タイトルのとおり、行橋市の松本英樹前副市長に正当性があるかどうかを考えてみたいと思います。

私は、
前副市長としての出馬タイミングは賞味期限切れであり、田中市政の失策にも深く関与している松本氏に、市長選に出馬表明するような資格・正当性は無い
と評価しています。

【パターン1 禅譲型】

副市長が市長に立候補するパターンには、3つあります。

そもそも、副市長とは何でしょうか。

副市長は、市長の市政運営を支える補助機関です。市長の意向を実現するために政策立案や組織内部の調整を行い、時には市長の名代として外部との交渉や記者会見も行う、市政のナンバー2です。女房役と言われる事もあります。

ですので、市長の施策方針と概ね同じ人物が選ばれます。市長が、自分を補佐するに足る人物を選び出し、議会の同意を得て任命することになります。

そして、市長が1期、2期、3期・・と務めて引退を決意した際に、ナンバー2として仕えてきた副市長を次の市長候補として推すということがよく行われます。

これを第1のパターン・「禅譲型」と呼ぶこととしましょう。

安倍元首相が退陣表明し、その官房長官であった菅氏が後任の首相となる。あるいは、福岡県知事であった小川氏が病気で引退する際、副知事であった服部氏が小川路線の継承を掲げて出馬し当選した例などは、その典型と言えるでしょう。

また、今後控えている選挙では、加東市なんかもそうでしょう。現職の安田正義市長が今期限りで退任する意向を示し、これを承けて令和4年1月に岩根正副市長が令和4年4月の市長選へ立候補する意向を表明しています。
4月の加東市長選 副市長の岩根氏、立候補表明へ|総合|神戸新聞NEXT

【パターン2 対抗馬型】

この「禅譲型」に対し、市長が継続して出馬を表明しているのに副市長も出馬を表明するパターンもあります。これを「対抗馬型」と呼ぶことにしましょう。

この対抗馬型は、住民から理解がしにくい所です。
従来の市長の路線と、その市長に仕え補佐していた人の路線と、どこがどう違うのか分かる住民はそう居ないでしょう。当の市長・副市長も、どこが違うのかと問われてスラっと答えられないんじゃないかなと思います。
立候補した副市長が市長を批判しても、その批判は補佐をしていた副市長にそのまま返ってきます。

「あなたが批判する市長の路線や施策を補佐し遂行しようとしてきたのは副市長、あなたでしょ?」

というブーメランが発生します。

なので、この「対抗馬型」を成立させるためには、明確な争点であったり、「前副市長である私は市長とここが違う」という点を説明できることが必要です。

何かハコモノを作る・作らない、とか、
施設を誘致する・しない、とか、
新たな規制や補助金を導入する・しない、とか、
そういった「どちらにするか」で市長と副市長が対立し、調整が付かず、副市長が
「もうあなたにはついて行けません。あとは選挙で決着を付けましょう」
といった対決構図があると、住民としては分かりやすいですね。

あるいは、市長から副市長として選任されたが、1期目の途中で
「この市長とは合わない」
となって任期途中で副市長を辞めるのであれば、住民としてもまぁ理解できるかと思います。

ここで、令和4年に選挙を控えた上田市の例を見てみましょう。

======
平成26年4月 母袋倉一市長の下で、井上晴樹副市長を選任。

平成30年4月 土屋陽一市長の下で、井上晴樹副市長を再任。

令和2年 井上晴樹副市長から土屋陽一市長へ退職届が提出されたが、コロナ対応等を理由に退職時期を延ばすこととし、令和3年3月31日付で退職することとなった。

令和3年12月 井上晴樹前副市長が令和4年3月の市長選へ立候補する意向を表明。

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井上氏が立候補を正式表明 3月の上田市長選 | 信濃毎日新聞デジタル
令和3年3月 上田市議会定例会 会議録

井上晴樹氏は、母袋前市長とは相性が良かったけれど、土屋市長とは合わなかったのだろう。母袋市長再選の前に、袂を分かって独自の井上路線を打ち出そうとしたのだろう・・・という想像はできます。

【パターン3 賞味期限切れ型】

ここで、本題である行橋市の松本英樹前副市長を見てみましょう。
松本英樹氏の場合は、「禅譲型」「対抗馬型」のいずれにも当てはまりません。

市長が立候補を表明していますので、「禅譲型」は成立しません。
かといって、ハコモノを作る・作らないといった明確な争点があるわけでもなく、市長1期目の途中で対立軸を提示したわけでもないことから、「対抗馬型」を成立させる条件も満たしていません。

田中純市長の1期目の終わり頃、行橋市は
「新図書館を作る・作らない」
で真っ二つに割れていました。
その選挙で田中純市長は再選を果たし、この市長を補佐してきた松本英樹氏も2度目の副市長選任を受けています。
田中純市長から、
「松本さん、2期目も副市長を頼みます」
と言われこれを受諾している時点で、松本氏は、細部に不満点はあれど、田中純氏の1期目の市政運営を全体としては容認したわけです。
この瞬間に、松本英樹氏は田中純市長の対抗馬として
「選挙を通じて対立軸を提示する」
という資格を失っています。

その後、松本英樹氏は田中純市長から副市長を解職されました。
その理由は、
市長に黙って会社役員に就任したから
というものでした。
(人として信用置けませんし、公職にある者が任期中に会社役員へ就任するのは公平性を疑わせますね。)

この解職の後、松本氏はそれまで主人であった市長に対し批判を展開し始めたようですが、
「それなら、なぜ田中純市長1期目の終わりに反旗を翻さなかったのか」
という疑問はずっと残ります。

この松本氏のパターンを「賞味期限切れ型」と呼ぶことにしましょう。

【拭いきれない「いまさら」感】

上記の新図書館を作る・作らないの時、私は

「無駄なハコモノは増やすべきでない。人口減少社会に突入するのにハコモノ増やして維持管理費を増やすのは自殺行為」

と反対をしてきました。この新図書館を作る・作らないで揉めている時に、時の市政ナンバー2・副市長が抗議を兼ねて辞意表明し、自らが反対派候補として出馬するか反対派候補の支援に回っていたら、91票差がひっくり返って田中純市長の2期目は無かったかもしれません。
その反旗を翻すべき時、明確な争点があった時には田中純市長に付き従い、今頃になって

トップダウンが強すぎる現市政で本当にいいのかを問いたい

と出馬しても遅い。遅すぎる。今じゃない。
トップダウンが強すぎることは、田中市政1期4年で分かっていたことじゃないのか。

そう、出馬タイミングから見るに、松本英樹前副市長はとっくの昔に「賞味期限切れ」なのです。

【松本英樹氏の汚点】

さてこの松本英樹前副市長ですが、田中純市長の下で1期目4年間+2期目途中2年間にわたって副市長を務めていました。

この6年間、松本氏は市政ナンバー2として田中純市長を支え、施策や運営を消極的にであれ承認してきた訳ですが、次の

1.実行委員会500万円使途不明金問題

2.新図書館建設

3.私立美術館の公営化


については、松本英樹氏は消極的な承認のレベルを遥かに超えた、積極的な関与をしています。過去の当ブログで紹介したネタですが、改めて確認しましょう。

【1.実行委員会500万円使途不明金騒動】

まず、田中市政を語る上で忘れてならないのが、使途不明金問題。

これは、市がイベント実行委員会を立ち上げて、そこに公金を入れて運営していたところ、約500万円の使途不明金が発覚。ところが、市はこれを有耶無耶に終わらせたという事件です。

この事件が発覚した時、議会は紛糾したというのが新聞記事になっていました。
当然ながら追及する議員もいましたが、
実行委員会の情報は開示の対象外
と市側は情報提供を拒み、事件の真相は不明なまま終わりました。

実行委員会方式で実施した事業の情報公開 ~ 実行委員会だから非開示とは限らない ~ - 若年寄の遺言

腐ってやがる・・・古すぎたんだ・・・ ~ 情報公開の谷のユクハシ ~ - 若年寄の遺言

この時、
実行委員会の情報は開示の対象外
として資料提供を拒む法解釈を示し情報隠蔽に加担したのが、当時の副市長であった松本英樹氏です。

この「実行委員会の情報は開示の対象外」という法解釈は、最高裁の決定に反しています。
他自治体では、イベント実行委員会の決算資料等をホームページでも出していると言うのに。

ビーチバレー運営費使途不明 行橋市 副市長「各団体で予算執行違う」 議会文教厚生委の追及に壁 /福岡 毎日新聞2017年8月23日 地方版
======【引用ここから】======
 行橋市議会・文教厚生委員会が22日あり、市が実行委員会事務局を兼ねる「ゆくはしビーチバレーボールフェスタ」の2015年度決算で不明朗な会計処理があった問題を審議した。実行委員の松本英樹副市長(副会長)と米谷友宏教育部長が出席し、一部で領収書がない点などに松本副市長は「領収書の再発行はないが、支出は全て確認した」と述べ、改めて職員による着服を否定した。【荒木俊雄】
 市情報公開条例では、情報公開の対象機関は市長、教育委員会、議会など10部局で実行委は含まない。また、議会の調査権は自治体の補助金が適切に使われたかどうかの審査までとされ、同委に唯一示された使途のわかる資料は15年度決算書(A4判1枚)だった。

======【引用ここまで】======

○行橋市議会、監査求める決議否決 市は資料も非公開 /福岡 毎日新聞2017年9月27日 地方版
======【引用ここから】======
 市は着服否定の根拠として記者会見などで「570万円について、領収書のない部分も含めて支出確認がとれた」と説明。だが、実行委が市の情報公開対象外であることなどを理由に所管の市議会・文教厚生委員会にさえ領収書なども示していない。
 一方、最高裁は2005年9月、岐阜県が「実行委は別団体でその文書は公開条例の対象外」として市民団体に非公開とした文書を「公文書にあたる」と判断。公開を命じた2審判決を支持・確定させた。【荒木俊雄】

======【引用ここまで】======

もし、松本英樹氏に公僕としての良心があれば、実行委員会の支出に関する資料を隠蔽する事をためらったことでしょう。
もし、松本英樹氏が市職員あがりの副市長として情報公開に関する最高裁決定の知識を有していれば、隠蔽が誤りであることは分かったことでしょう。
もし、松本英樹氏に市政ナンバー2としての気概があれば、トップである田中市長からの隠蔽指示に公然と待ったをかけたことでしょう。

「この件については最高裁の見解も示されていることだし、副市長として、非開示には賛同できない」
と、議会や会見の場で述べるべきであったのです。松本英樹氏には、副市長としてあるべき良心、知識、気概が欠けていたことがこの事例から分かります。
イベント実行委員会の支出に関する情報を非開示とする最終決定をした田中純市長の責任は重大ですが、その決定の根拠となる歪んだ法解釈を示した松本英樹氏の責任も同等です。

【2.新図書館建設】

前述のとおり、行橋市を二分した案件として新図書館建設問題が挙げられます。田中市政1期目終了時の選挙では最大の争点となりました。

この問題について、新聞記事や議事録等から松本英樹氏の建設に対する賛否の考えを察することはできませんでした。

ただ、行橋市が防衛省から補助金をもらい、新図書館建設地となった旧ミラモーレという宴会場の跡地を公益財団法人増田美術・武道振興協会から購入する交渉の担当者となっていたのが松本英樹氏です。
防衛省のひも付き補助金で購入していなければ、建設目的が文教施設に限定されることはありませんでしたし、土地を買っていなければそもそも図書館建設問題は起こらなかったのです。

松本英樹氏は、新図書館建設問題の発端から関与している人物です。

【3.私立美術館の公営化】

以前、公益財団法人増田美術・武道振興協会が半分を所有し、理事長が半分を所有する私設の美術館がありました。これを、田中市政において、公益財団法人増田美術・武道振興協会が半分を所有し、市が半分を所有するという形態に変えました。土地・建物のうち理事長の持ち分を市へ譲渡し、公営美術館に改めつつ、市が行う美術館の管理運営を公益財団法人増田美術・武道振興協会が引き受ける形に変更しています。

税金支出を増やす名誉市民 ~ 他人の金でパトロン気取り2 ~ - 若年寄の遺言

公益財団法人増田美術・武道振興協会が管理を行う実態はほぼ変わらないのに、市から公益財団法人増田美術・武道振興協会へ管理委託料が支払われるという公金支出が余計に発生していることになります。
この一連において、松本英樹氏がメインとなって新聞記事に掲載されていますし、議会答弁も主となって行っています。

新図書館建設問題における、防衛省補助金を利用した財団法人から土地購入、
そしてこの美術館公営化に伴う管理委託料の財団法人への支払い、
さらには市の負担で財団法人オーナーの美術品寄贈を受け付けたことにより相続税が軽減され、
これと並行して、財団法人オーナが経営する企業の役員に松本英樹氏が就任、
・・・これはどう考えても縁故、癒着としか評価のしようがありません。

上記1・2・3は松本氏の副市長として関与した責任は免れないものと考えます。これ以外の事業についても、約6年の間に起きた施策・事件については、田中純市長とともにその批判を受けるべき立場にあります。

トップダウンが強すぎる現市政で本当にいいのか(僕は反対だったんだけど、トップがやれと言うからやったんだ)」
というのは、下っ端の職員ならいざ知らず、元ナンバー2が言うと非常にダサい。

【まとめ】

ということで、

田中純市長1期目終了時の4年前ならいざ知らず、2期目途中で解職された前副市長が出馬表明するのは賞味期限切れ。今更出てきて何をしようと言うのか、争点も全く明確ではありません。出馬理由が、解職されたという個人的な逆恨みくらいしか想像できません。
松本英樹氏がすべきは出馬表明ではなく、過去の不祥事や癒着についての説明と謝罪です。


行橋市長選に松本元副市長が出馬表明 「市民に寄り添う市政に」|【西日本新聞me】2021/5/21 5:57
======【引用ここから】======
 来年3月の任期満了に伴う行橋市長選に、元副市長で新人の松本英樹氏(63)が20日、無所属で立候補すると表明した。同市長選への立候補表明は初めて。
 松本氏は1982年に市職員となり、総務部長などを歴任。2014年に初当選した田中純市長(74)から副市長に起用された。だが次第に田中氏の市政運営に批判的になり、19年に解職された。現在は市内の不動産管理会社員。
 市内で記者会見を開いた松本氏は「トップダウンが強すぎる現市政で本当にいいのかを問いたい。市民に寄り添い、膝詰めで意見を聴きながら政策を決める運営に変えたい」と語った。
 同市長選には他にも複数人が立候補を準備している。 (石黒雅史)

======【引用ここまで】======

工藤市議が出馬表明 行橋市長選|【西日本新聞me】2021.09.10
======【引用ここから】======
 来年3月の任期満了に伴う行橋市長選に、新人で同市議の工藤政宏氏(43)が9日、無所属で立候補すると表明した。市長選への立候補表明は、無所属新人で元市副市長の松本英樹氏(63)に続き2人目。
 市内で記者会見を開いた工藤氏は、現在2期目の田中純市長の市政運営について「公正性の欠如や大型公共事業への膨大な予算配分、不透明な職員採用などに強い危機感を抱いている」と発言。「古い政治、行政を打破したい」と語った。
 東九州道今川パーキングエリア周辺開発事業は見直し、大賞賞金1千万円の国際公募彫刻展や大規模スポーツイベントなどは「対話を積み重ねながら在り方を考える」とした。
 工藤氏は行橋市出身。学習塾社員や茨城県議会議員秘書を経て2012年に市議初当選、現在3期目。(石黒雅史)

======【引用ここまで】======

田中氏 3選出馬表明 行橋市長選「人口増」など実績強調 2021年10月2日 毎日新聞
======【引用ここから】======
 任期満了(2022年3月17日)に伴う行橋市長選で、現職の田中純氏(75)が1日、3選を目指し無所属で立候補することを表明した。同市長選での立候補表明は元副市長の松本英樹氏(63)、市議の工藤政宏氏(44)=いずれも無所属=に続いて3人目。
 記者会見した田中氏は、「就任から市の人口は約1000人増え、税収も毎年約1億円ずつ増えた」と実績を強調。九州自動車道今川パーキングエリア周辺の開発や国際公募彫刻展などの事業も引き続き推進する意向を示した。

======【引用ここまで】======

人口問題と財政問題 ~ 行橋市政ウォッチ ~

2022年01月14日 | 地方議会・地方政治
知人のところに、「有言実行」と銘打った行橋市政に関するリーフレットが投げ込まれていました。
以前に私が書いた記事のテーマと重複している部分がありますので、読んで感想を述べたいと思います。

参考・以前の記事
田中純・行橋市長の「公約」「実績」を検証してみるコーナー - 若年寄の遺言

結論は、以前の記事と同じです。
8年間で行橋の人口問題、財政問題は改善していない。むしろ悪化している
ということです。

【行橋市の人口問題】


それにしても、表紙で笑ってしまいました。
有言実行
ですってwww

過去の選挙公約で
「人口10万人構想!」
とぶち上げていた行橋市長。

言ったとおりに実行しているのか。
2期8年を経た成果は、住民票ベースで

平成26年2月末の人口 72,830人
令和3年10月末の人口 72,830人

という、甘めの評価でも横ばい、ピーク時を考慮すれば人口減少が始まっています。
どこが有言実行なのでしょうか。

令和3年3月、市議会で工藤政宏市議から、田中純市長の人口10万人構想の公約を問われた際に、
リアルにこの人口減少時期に、リアルになるということは、私自身もクエッションだなということは、当時から申し上げていたはずであります。
などと供述する田中純市長。
自身の公約の実現可能性を自分で「クエッションだな」と否定し開き直る市長に、有言実行を求める。
木に縁りて魚を求めるようなものです。
このパンフを作った方々も、なかなか皮肉が効いています。

なお、

このグラフは国勢調査の人数なので、5年刻みでしか推移が分かりません。

グラフ中に「人口増に連動した税収曲線」とコメントが入っていますが、これもおかしい。
住民税の税収につながるのは住民票で把握している人数なので、税収と並べるのであれば国勢調査の人数ではなく住民票上の人数を並べないとおかしい。住民票上の人数を並べると人口減の開始が見える化されてしまうので、隠すために国勢調査の人数を使ったのでしょうか。

税収の増加については、総務省の資料を見る限り全国的に微増を続けています。自治体における税収増は全国的な傾向です。この8年の間に消費税増税をはじめとする税制改正が幾度か行われており、これが原因だと考えられます。
これを、田中純市長が実施した事業によって増えたと評価するのは困難です。実際、人口増えてないんだし、高齢者だけ増えてるんだし。

【行橋市の財政問題】

次に、



こちらの数字は、数字自体は合っていそうです。
私の以前の記事で紹介した数字を改めてご覧ください。
地方債は、
平成25年度決算
地方債現在高    173億 827万1千円 
うち、
臨時財政対策債    88億5738万5千円
(差し引きの債務)  84億5088万6千円

令和2年度決算
地方債現在高    214億8623万9千円
うち、
臨時財政対策債   101億4597万1千円
(差し引きの債務) 113億4026万8千円


そして、基金は、
平成25年度決算
基金全体   91億6771万2千円
うち、
財調基金   34億 815万7千円
減債基金    3億6627万2千円
その他    53億9328万3千円

令和2年度決算
基金全体  134億9950万2千円
うち、
財調基金   47億7899万3千円
減債基金    3億7168万6千円
その他    83億4882万3千円


ということで、パンフレットの数字自体は合っています。

問題は2点。

まず1点目は、基金の数字。
パンフレットの基金が全部込み込みの数字になっていて、比較対象を誤っているということです。

市の借金からは臨時財政対策債を除いているのに、基金は全ての基金込み込み。
基金の中には、借金に充てられない、使途を限定されたものが多数存在します。
借金の増減と比較すべき基金は、そうした特定目的基金を除く部分で見なければなりません。決まった目的があってそれ以外に使えない積み立て、こうしたものを除いた基金の残高はどうなっているでしょうか。
上記基金内訳の財調基金(自由に使える基金)と減債基金(借金返済のための基金)の合計は、

平成25年度 令和2年度
 37億7千万  → 51億4千万

と、13億7千万円しか増えていません
臨財債を除く借金は

平成25年度 令和2年度
 84億  → 113億

と、29億円も増えているのに、です。

2点目として、この、臨時財政対策債を除く地方債が増え続けている事自体がヤバい、ということです。
こちらをご覧ください。



これは全国の数字をグラフ化したもの。
グラフの上部の赤い部分、臨財債は毎年増え続けています。しかし、赤い部分の下、臨財債を除く地方債は減り続けています。これが全国的な傾向です。

たとえば、最近、財政破綻するのではないかと話題になっている京都市。
トータルの債務は増えていますが、臨財債を除く市債は徐々に減っています。

※参考 12分40秒頃から
【なぜ京都は貧乏?完結編】臨時財政対策債の闇!国めちゃめちゃ悪い説を検証してみた


財政破綻が話題になる京都市ですら、臨財債を除く地方債は減らしています。
他方、行橋市では臨財債を除く地方債が29億円も増えています。全国的な動向と真逆を進んでいます。

人口増を目指し積極財政に打って出たものの、人口は思ったように増えなかった。
積極財政に打って出たのに、これをペイするだけの税収増に結び付かず、結果、地方債が増えた。

これが今の行橋市です。

(追記)
リーフレット中に、
「平成30年度 ふるさと納税額 全国13位」
とありますが、この頃、地場産品でも何でもないipadを返礼品にして、総務省から怒られてましたよね。

行橋市で固定資産税減税は実現するか ~ 工藤政宏 vs 田中純 ~

2021年12月20日 | 地方議会・地方政治
今回は、リバタリアンとして避けては通れない税金のお話をローカルな話題に載せてお送りします。

行橋市における割高な固定資産税を継続すると明言した田中純市長と、標準税率まで下げようと主張する工藤政宏市議。あなたはどちらを選びますか。

【工藤政宏市議による減税提案】

固定資産税は、標準税率が1.4%とされています。
1,719市町村のうち、91.1%の1,566市町村が標準税率を採用しています。

固定資産税制度について 平成28年8月 総務省自治税務局固定資産税課


他方、行橋市では1.5%という超過税率を採用しています。
割高な税を課している、9%しかいない少数派自治体ということになります。

これについて、工藤政宏市議の提案がこちら。

令和元年6月定例会 本会議3日目(R元.6.11)工藤政宏議員一般質問


行橋市議会 令和元年 6月 定例会(第14回) 06月11日-03号
======【引用ここから】======
・・・この固定資産税というものは、非常に多くの市民の方たちに公平公正に万遍なくお返しできるようなものでございますので、これはきちっとより多くのものを納めていただいて、そしてだから健全財政だというわけではなくて、まずは全国標準にして、先ほど市長は都市計画税のことも持ち出しておられましたけども、市長がおっしゃっているようなものに当てはまらないような自治体も恐らく多々あろうと思いますので、ぜひとも、まずは固定資産税をきちっと市民の方々にお返しして、1.4%にして、そして民の競争力、また他自治体との競争力というものも、それをお返しすることでさらに加速されるというふうに思っております
======【引用ここまで】======

固定資産税の標準税率は1.4%。行橋市は超過税率の1.5%。これを1.4%に下げよう。
税率を下げて減税分を市民に返す。
減税をすることで民間の競争力を高める。
税率を下げることで他自治体との競争力を加速する。

非常に良い観点からの提言だと思います。
さらに、ただ減税しろと言うだけでなく、所管部長から「行財政改革をすれば減税分の税収減があっても行財政運営は可能」という答弁まで引き出しています。

【いつまでも続く「当分の間」の税率】

余談ですが、上記会議録によると、この割高な固定資産税は、昭和の昔に行橋市が再建団体となったことが発端となっています。

1976年 財政再建計画
1977年 固定資産税を1.4%から1.6%に上げる条例改正
1980年 財政再建完了
1990年 固定資産税を1.6%から1.5%に下げる条例改正


割高な固定資産税は、財政再建のための増税だったことが窺えます。

ところが、です。
財政再建が終わって40年経ったのに、未だに割高なまま残っているのです。
課税根拠が無くなっても、あれこれ難癖を付けて一度上げた税率を元に戻さず維持し続ける・・・

そう、ガソリン税の暫定税率とよく似ていますよね。
筋の悪い為政者は、自分の裁量で左右できる予算を手放すまいと、一度上げた税率をそのまま維持しようとするのです。これは中央政府も地方自治体も変わりません。

【筋の悪い為政者・田中純市長】

さて本題に戻りまして、為政者である田中純市長がどう考えているかというと・・・

======【引用ここから】======
先ほど全国で90何%かが1.4%の標準課税率を採用しているとおっしゃいましたが、他方で何%かまでは調べておりませんけども、多くの都市が、都市計画税の場合は上限が0.3%と定められているわけですけれども、上限の0.3%乃至は行橋市と同程度の規模の中小の自治体においては0.2%程度オンをしているのが現状でございます。
 したがいまして、税を払う側の理屈から言いますと、私どもが1.5で都市計画税がゼロですから、1.5%支払う、他市の場合は、固定資産税が1.4ですけども、それに都市計画税が乗りますから、1.6%乃至は1.7%、現実的に私どもが人口政策で最も意識をしております北九州市は、まさに標準税率の1.4に都市計画税の0.3が乗っていって、1.7%という事態になっておりますので、我々が標榜しております人口政策に関しましても、比較的な優位はむしろ現状のままでも十分保てているというぐあいに感じているところでございます。
 以上、2点の理由で、当面、この固定資産税の標準税率を下げるつもりはありません。

======【引用ここまで】======

固定資産税に都市計画税を上乗せしている市町村が多い。
行橋市は都市計画税を上乗せしていない。
隣接する北九州市よりむしろ税率が安いんだ。
だから固定資産税の減税はしない。

と主張する田中純市長。
この理屈は、スタートの時点で事実に反しています。
詭弁のお手本として標本に飾っておきましょう。

田中純市長はこの答弁の中で、
他方で何%かまでは調べておりませんけども、多くの都市が、都市計画税の・・・0.3%乃至は行橋市と同程度の規模の中小の自治体においては0.2%程度オンをしているのが現状
と述べています。

調べておりませんけども」じゃなくて、ちゃんと調べてみましょう。

総務省|地方税制度|都市計画税
======【引用ここから】======
 2020(令和2)年4月1日現在、都市計画税を課税している団体は日本全国で645団体(東京都含む)です。日本全国の市町村総数は1,718団体であるため、日本全体で約3分の1の市町村が課税をしていることになります。
======【引用ここまで】======

裏を返せば、1,073団体、約3分の2の市町村が都市計画税を課税していないのです。
これが「現状」です。
多くの自治体が都市計画税を課税しておらず、同時に、9割以上の自治体では固定資産税を標準税率1.4%にしているのです。

【人口政策との兼ね合いからも、減税一択】

付け加えると、比較対象にも問題があります。

北九州市と比較した場合に固定資産税+都市計画税なら安いと言っても、その北九州市は政令市中で人口減少数第1位、高齢化率第1位。人口減少社会における自治体間競争の中で、決して勝ち組といえる都市ではありません。

北九州市との比較で優位に立ったといっても、圏域全体が沈む中での優位なので、これでは人口は増えません。現に、田中純市長の市政運営8年間で行橋市の人口は横ばい、この2年くらいで見れば減少が始まっています。
我々が標榜しております人口政策に関しましても、比較的な優位はむしろ現状のままでも十分保てている
という田中純市長の答弁が虚しく響き渡ります。

(田中純市長の人口政策は、田中純本人が
「リアリティのある、実現性のある数字として申し上げているのではない」
「クエッションだな」

と述べる程度の代物ですからね。公約って何なのでしょうか。)

人口減少社会における自治体間競争を考えた時、都市計画税をかけず固定資産税の超過税率もかけない自治体との競争は、その税率分だけスタートから不利となります。他の条件が同じであるならば、わざわざ税率の高い自治体で家を建てたり工場を建てたりはしないでしょう。

人口減少社会の潮流の中で本気で人口増を目指すなら、他の自治体と比べて固定資産税が高いという不利な条件は即座に廃止するはずです。田中純市長の人口政策がリアリティを欠いているというのは、こういう点からも裏付けられます。

他自治体より割高な税率をかけて税収に余裕があるはずなのに、臨財債を除く地方債が膨らみ続ける田中純市長のずさんな市政運営。田中純氏のような運営下手、投資下手に任せるのはそろそろやめて、工藤政宏市議による固定資産税減税に賭けてみませんか。

田中純・行橋市長の「公約」「実績」を検証してみるコーナー

2021年12月04日 | 地方議会・地方政治
行橋市長 田中純氏の8年間で

図書館は建てたが目的を果たせず、

増やすと掲げた人口は増えず、

借金だけが増え続けています。



以下、見ていきましょう。

【新図書館建設】

まず、市を二分する論争を巻き起こした新図書館建設問題です。
これは、目的を達成することができませんでした。

行橋市議会 平成28年12月 定例会(第4回) 12月14日-04号
======【引用ここから】======
◆4番(井上倫太郎君)
・・・平成26年2月24日、25日の各社新聞の京築版には、行橋市長選の記事が大きく取り上げられております。ここに私も振り返らせていただいて、熟読させていただいたんですが、田中市長は、既に当選前から、カフェ等を併設した価値の高い集客力のある図書館を中心とした公共施設を旧市街地に設置し、再開発する、と公約を掲げられております。
 また当選翌日には、旧ミラモーレ跡地に新図書館を建設する考えを示し、中心市街地に空洞化の歯止めをかけ、人の往来を取り戻し、昼間人口・夜間人口を共に高める呼び水にしたい。運営は公設民営あるいは民設民営にしたい、との記事が取り上げられています。

======【引用ここまで】======

この会議録から読み解くに、田中純市長の公約は、

目的:中心市街地に空洞化の歯止めを掛け、人の往来を取り戻す。昼間人口・夜間人口を共に高める。

手段:旧ミラモーレ跡地に、カフェ等を併設した図書館を中心とした公共施設を建設する。


となります。

手段は実行しました。
しかし、目的を達成できませんでした。

福岡・行橋 マルショク30日閉店 買い物難民懸念、空き店舗課題 毎日新聞 2021/6/29 18:49
======【引用ここから】======
 福岡県行橋市の中心商店街で60年以上にわたって営業を続けてきたスーパー「マルショク行橋店」が30日、閉店する。郊外型大型店の出店などで進んだJR行橋駅東口地域の空洞化を象徴する節目となり、地元住民や商店主の間には焦燥感や落胆の声が広がっている。
======【引用ここまで】======

なお、こうなる事については、多くの人が危惧していました。

行橋市議会会議録 平成29年12月 定例会(第8回) 12月21日-05号
======【引用ここから】======
◎請求代表(松本健二君)
・・・この事業に対して、平成26年秋から市民を交えて検討したとしながら、翌27年春に行われたパブリックコメントには、市民の多くの反対意見が、次のように寄せられています。
1つ、跡地に建設するものが図書館である必要は何でしょうか。
1つ、ミラモーレ跡地は、狭小な道路しかない不便過ぎる場所であり、そこに建設することは、そもそも考えられません。
1つ、建設するのならば、児童館を望みます。
1つ、買い物するわけではないので、図書館が出来ても街の活性化は望めないと思います。
1つ、管理運営を民間事業者が行うのは反対です。
1つ、会議や公募でもいいので、私たちの意見を出させてください。
 以上が出された意見の一部ですが、殆どがこの計画に疑問があるものでした。そしてそれらを解決することなく、市は事業を進めました。現在提案されている図書館等複合施設は、街の活性化に有効な核になり、市街地中心部の空洞化に歯止めをかけるとは、とても思えません。

======【引用ここまで】======

中心市街地の空洞化に歯止めをかける、という目的に対し、新図書館を建てるという手段のミスマッチ。
目的に対し手段がズレていたのです。

本来、中心市街地を活性化させようという目的があって、じゃあどこで何をしようか・・・と考えるのが思考の順序、筋です。

ところが、この行橋市では、上記の請求代表が述べるような「狭小な道路しかない不便過ぎる場所」の土地をあらかじめ買っており、しかも土地購入に際して国補助金を受けているため土地の使途が文化施設建設に限定されています。二重の足枷がはめられた状態で「さぁこの土地で何を建てる?」と考え始めているのです。市街地中心部の活性化という目的は、不便すぎる土地を買ってからの後付け口実でしかありません。

(なお、この不便すぎる土地の元の所有者は元私設美術館のオーナーでもあり、松本英樹元副市長と親交のあった人物と新聞で報じられています。この縁故による土地購入は田中純市長の就任前の話であることから、図書館建設という失策の責任の半分は田中純市長、もう半分の責任は松本英樹元副市長にあるというのが私の評価です。)

ともかく、目玉施策たる新図書館では、目的たる「市街地中心部の活性化」を達成できませんでした。
公共投資としての典型的な失敗例と言えましょう。

【人口10万人構想】

上記の中心市街地活性化に関連しますが、続いて、田中純市長の公約として
7万2千人の行橋市の人口を10万人まで増やす
というものがありました。

これも未達です。
10万人どころか、8万人になる気配すらありません。

田中純市長の就任が平成26年3月。
その直前の平成26年2月末の人口と、令和3年10月末の人口を比較してみましょう。

人口と世帯の情報 | 行橋市ホームページ
平成26年2月末の人口 72,830人
令和3年10月末の人口 72,830人


ホームページで内訳まで閲覧できた直近のものをたまたま並べたのですが、見事に横ばいでした。

日本全体の傾向としては「人口減少社会」であり、人口増が望めない中での横ばいなので、全国的に見れば決して悪い数字ではありません。しかし、公約との乖離が大きいのは、公約を信じて投票した有権者からすれば背信行為でしょう。

ここで問題になるのは、全国的に人口減少傾向が確実視される中、なぜ田中純市長は「7万2千人から10万人に増やす」という荒唐無稽な公約を掲げたのか、という精神構造です。

この点、田中純市長本人がどう評価しているかと言うと・・・

行橋市議会 令和3年3月定例会(第6回) 03月10日-04号
======【引用ここから】======
◆10番(工藤政宏君)
・・・そこで田中市長に御質問いたします。市長は、1期目から人口問題に非常に取組まれておりましたし、重視をされておりました。特に人口増加を最重要テーマとしまして、10万人都市構想、この大きなビジョンを掲げられておりました。このビジョンに心躍らせた市民も数多くいらっしゃったと思います。
 しかし徐々に市長のお口からは、この10万人都市構想を聞くことがなくなりました。この10万人都市構想は断念されたのか、どのようになったのか、端的にお答えください。

◎市長(田中純君) 
 お答え申し上げます。当時から申し上げておりましたように、10万人はリアリティのある、実現性のある数字として申し上げているのではなくて、目標であり、夢でありという言い方を常にしていたと思います。そういった意味では、リアルにこの人口減少時期に、リアルになるということは、私自身もクエッションだなということは、当時から申し上げていたはずであります。

======【引用ここまで】======

自分の公約に対し、
「私自身もクエッションだな」
と評価しているようです。

嘘でしょ?にわかに信じがたい会議録です。



ちょっと例え話を。

「顧客を7万人から10万人に増やします」
と目標を掲げた営業担当者がいたとします。
営業担当者は
「そのために投資しましょう。経費も使わせてください」
といい、オーナー社長であるあなたは
「今のご時世にそんなことできるのか・・・でもまぁやらせてみるか」
と思い許可しました。

結果、さんざん経費を使ったものの顧客は7万人のまま。
それを営業担当者に問い質すと、
「私自身もクエッションだなと思ってたんですよー」


・・・いつクビを切るの?今でしょ?



話を元に戻しましょう。

人口が7万2千人から10万人になるというのが、単なる予測、見込みの類いであれば、
リアリティのある、実現性のある数字として申し上げているのではない
という評論家然としたコメントで済むかもしれません。

しかし、田中純市長の場合は「人口を10万人にする、そのために図書館建設を始め様々な事業を行う」という理屈で大型公共事業を推し進めてきました。ですから、人口10万人どころか増加トレンドすら生み出せなかった責任は重大です。

別のところで、田中純市長は
人口の動向が全ての要因になり、年1、2%程度、人口が伸びていく状況であれば、全く懸念はないので、諸事業において財政がブレーキをかけることはない。
と述べています。
人口の伸びは止まっているので、諸事業にブレーキをかけないと大変なことになるでしょう。

【補論 人口の内訳】

なお、行橋市の人口は横ばいですが、その内訳も決して楽観視できるものではありません。

平成26年2月末の65歳以上高齢者数 18,738人
令和3年10月末の65歳以上高齢者数 21,906人


人口は横ばいなのに高齢者数が3,000人増えているということは、若年層、現役世代が3,000人減っているということです。
高齢化率は25.7%から30.1%に増加しています。
ちなみに、日本全体の令和3年9月の高齢化率は29.1%。

高齢者が増えるということは、市が支払う高齢者医療や介護の負担金も増えることを意味します。

行橋市では総人口こそ横ばいを維持しているものの、高齢者の増加傾向と現役世代の減少傾向は他の市町村と同じです。今後、高齢化に伴い社会保障経費が膨張するは明らかでありこれに備えなければならない点、全国の動きと同じです。これがいわゆる2025年問題です。

【財政問題】

行橋市では、全国的な動向以上に財政状況が悪化しています。

これについて田中純市長は、自身の財政運営を高く評価して「最高の決算だ」と自負しているようです。

例えば、
ゆくはし市議会だより 平成30年9月定例会
======【引用ここから】======
市長
臨財債が約100億円であり、債務から臨財債を引いた、いわゆるネットの債務とでも言えるものが、約100億円である。そして、基金が約110億円に達しているので、流動資産ベースで見ても、今の行橋市の資産は、ネットでプラスというかたちで、そういう意味も含めて、私は昨日の答弁で史上最高の決算であると申し上げた。

======【引用ここまで】======

地方債残高は200億円あるが、うち100億円は臨財債(臨時財政対策債)だから債務に含めない、基金はそれ以上にあるから決算は最高!という田中純市長。

田中純市長就任が平成26年3月なので、平成25年度決算と直近の令和2年度決算を比較してみましょう。

まずは地方債から。

平成25年度決算
地方債現在高    173億 827万1千円
 
うち、
臨時財政対策債    88億5738万5千円
(差し引きの債務)  84億5088万6千円


令和2年度決算
地方債現在高    214億8623万9千円

うち、
臨時財政対策債   101億4597万1千円
(差し引きの債務) 113億4026万8千円


臨時財政対策債も増えていますが、それを差し引いた債務も84億円から113億円へと29億円近く増えています。

次に、基金の状況を見てみましょう。

平成25年度決算
基金全体   91億6771万2千円

うち、
財調基金   34億 815万7千円
減債基金    3億6627万2千円
その他    53億9328万3千円


令和2年度決算
基金全体  134億9950万2千円

うち、
財調基金   47億7899万3千円
減債基金    3億7168万6千円
その他    83億4882万3千円


基金全体のうち、比較的自由に使える財政調整基金は13億円増え、地方債の償還に充てる減債基金はほとんど増えていません。その他というのは特定目的基金であり、地方自治法上、使途は限定されています。

臨財債を除く地方債は29億円増える中で、特定目的基金を除く基金は13億円しか増えていない。
借金は増えるが預金はその半分程度しか増えていない。
これでよく「最高の決算」と見栄を張ったものだと感心してしまいます。

付け加えると、全国的には、臨財債は増えるがその他の地方債は減る傾向にあります。

臨時財政対策債、急増する自治体財政の禁じ手 | 公益社団法人 日本経済研究センター:Japan Center for Economic Research


人口減少社会の到来に備え、臨財債が債務として増加する中でも他の地方債は減らしていき、地方債総額としては増えないよう手堅い自治体運営を心掛けている自治体が多い、ということだと思います。

ところが行橋市では、臨財債と並行してその他の地方債も増えています。
全国的な流れ以上に財政が悪化している、それが行橋市であるといえましょう。

【補論 臨時財政対策債】

ここまで、ずっと除外していた臨時財政対策債ですが、そもそも臨時財政対策債とは何なのでしょうか。除外して良いのでしょうか。

臨時財政対策債とは、国が自治体に渡していた地方交付税が不足した際に、
「とりあえず自治体で借金しておいて。後で元利返済分は国があげるから」
という借金、地方債です。

では、国は地方に対して、どのタイミングで借金返済のためのお金をあげるのか。どういう形であげるのか。

この疑問について、都道府県の臨財債に関し次のような記事がありました。

地方自治体の借金返済金 25道府県で積み立て不足の状態 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン 2019年12月14日
======【引用ここから】======
返済のための資金が国から交付される地方自治体の借金、「臨時財政対策債」をめぐり、25の道府県で、事実上、資金の積み立てが不足している状態になっていることが総務省の調べで分かりました。
(中略)
返済のための資金は20年から30年に分割して、毎年、国から交付されていて、多くの自治体が、今後、本格的な返済の時期を迎えることになります。
======【引用ここまで】======

「後で返すから」
というのは、20年~30年の分割払いで毎年返すということだったようです。
そして・・・

参議院議員野田国義君提出臨時財政対策債の発行及び償還並びにその在り方に関する質問に対する答弁書
======【引用ここから】======
 臨時財政対策債を満期一括償還方式(償還期限の満了の日において元金の全部を償還する方式をいう。以下同じ。)で発行した地方公共団体においては、地方交付税の基準財政需要額に算入された当該臨時財政対策債の元金償還額に相当する額を減債基金(地方財政法施行令(昭和二十三年政令第二百六十七号)第十一条第三号に規定する減債基金をいう。以下同じ。)に積み立てていれば、当該臨時財政対策債の満期時においてその元金の償還に必要な財源が確保される仕組みとなっているが、当該相当額を減債基金に積み立てていない場合には、当該臨時財政対策債の満期時においてその元金の償還のために減債基金以外の財源が必要となることもあり得るため、政府としては、満期一括償還方式で発行している地方債の償還財源を確保するため、減債基金への計画的な積立てを行うことが財政運営上適切であると認識している。
======【引用ここまで】======

国から都道府県に対して、臨財債償還分として、毎年、20年~30年の分割払い用として地方交付税に上乗せしているから、臨財債の満期が来た時にスムーズに返済できるよう上乗せ分を減債基金に積んでおきなさい、と政府は述べています。
上のNHK政治マガジンの記事は、この積立金が不足している事を指摘しています。

もし、
「国は、返済のための資金を20年~30年で分割して毎年交付している」
という構図が都道府県と市町村とで同じであったら、行橋市はアウトです。
臨財債が88億円から101億円に膨らむ中で、政府が「計画的に積み立てろ」としている減債基金は3億6千万円から3億7千万円へとほとんど増やしていないのですから。
借金返済のためのお金を政府がくれているのに、それを積み立てて満期に備えることなく消費してしまっているのが、今の行橋市です。

今後、臨財債の償還が始まって減債基金が足らなくなれば、政府が説明するように
当該相当額を減債基金に積み立てていない場合には、当該臨時財政対策債の満期時においてその元金の償還のために減債基金以外の財源が必要
となります。
たとえば、条例改正して職員の退職金支給額を大幅減額すると同時に、特定目的基金である職員の退職手当への積立金を取り崩す、とかね。

これが、田中純市長の言う「最高の決算」の中身です。


~以下、資料~
福岡県 市町村財政状況の推移(平成24年度から28年度) 行橋市

福岡県 市町村財政状況の推移(平成27年度から令和元年度) 行橋市

令和2年度 行橋市歳入歳出決算及び基金運用状況審査意見書

平成28年度 行橋市歳入歳出決算及び基金運用状況審査意見書

行橋市 財政事情 令和2年度決算

横暴な東京都知事の杜撰な命令事前通知を読んでみた ~がんばれグローバルダイニング~

2021年03月24日 | 地方議会・地方政治
地方自治体の中では職員数最多。
大学の多い土地柄で、受験生のレベルも高い。
首都公務員というブランド。

そんな、地方自治体の中では一番優秀である(はずの)東京都職員。
良くも悪くも

「さすが東京都、そこまでやってるのか」
「東京都でこのくらいなら、うちはこれだけ出来ていれば大丈夫」

と、参考にしている自治体も多いことでしょう。

さて。

「グローバルダイニング 対 東京都知事」
の時短営業要請・命令を巡って、グローバルダイニング作成の弁明書と、東京都作成の命令事前通知が公開されているのですが、これがなかなかに興味深い。

【グローバルダイニング】東京都知事宛弁明書20210311.pdf

【緊急】グローバルダイニング、小池都知事から「命令」届く。|外食ニュース | FDN フードリンクニュース

上記のように、東京都と言えば、地方自治体としてはトップクラスの人材が集まっているはずなんです。
それなのにこの程度の事しか出来ない。この程度の通知文しか作れない。



この事実は、全国の道府県職員・市町村職員を勇気づけることでしょう(マテ

ひと言で言うと、杜撰なんです。

「へぇ、東京都職員ですらこの程度の通知文しか作ってないんだ。東京都が作る命令通知ですらこの程度なら、うちはもうちょっと雑でもいいかも」

と、他の自治体職員に思わせるほどのレベルの低さです。

【「正当な理由」って何?】

グローバルダイニングは、弁明書の中で

【グローバルダイニング】東京都知事宛弁明書20210311.pdf
COVID-19のような弱毒性のウイルスは完全に封じ込めるのは不可能であると考えております。

ハイリスクの方々を守ることができれば、リスクの低い若い世代の家庭での感染についてはそれほど恐れることはありません(同様に当社の顧客もローリスクの年代の方が大半です)

不要不急の外出を控えるよう言いつつ、(時間や人数が限られているとはいえ)映画やイベント、テーマパークなどの営業が認められるような緊急事態宣言に何の意味があるのでしょうか。
少なくとも外食は、それを必要とする人は、どの時間帯においても少なからず居ります。


等々、東京都の発出した要請に対し、その範囲・程度・対象等々の条件設定がおかしいのではないか、必要性や妥当性の観点から問題があるのではないか、といった観点・考え方を示しています。そして、義務ではない要請の段階であれば従う必要はないはずだと述べています。

これに対し、東京都の通知文では、弁明書の中身に一切触れていません。
東京都は、命令事前通知の中で

【緊急】グローバルダイニング、小池都知事から「命令」届く。|外食ニュース | FDN フードリンクニュース
貴社が提出した令和3年3月11日付「弁明書」において、当該要請に応じないことに正当な理由があると主張する。しかし、当該弁明書に記載された内容からは、法第45条第3項に定める「正当な理由」があるとは認められない。

と述べるのみ。

「正当な理由なんて、無いものは無いんだよバーカバーカ」

という子供の喧嘩レベル。中身がすっからかんです。
そもそも、東京都職員は弁明書を読んだのかな、と疑わせるレベルです。
東京都はグローバルダイニングに対し、何のために弁明書を書かせたのでしょうか。

東京都として、
正当な理由
をどのようなものと解釈したうえで、法第45条の命令規定を運用しているのかが全く示されていません。条文を運用し命令を発するのであれば、「正当な理由」の解釈を取り敢えず自前で行っているはずですが、そこが分からない。

東京都の考える「正当な理由」とは何で、グローバルダイニングの弁明書の内容がどういう観点から「「正当な理由」があるとは認められない」と判断したのか、命令事前通知からは読み取ることができません。漠然としています。

(そもそも、国の緊急事態宣言の発令自体がエビデンスの無い漠然としたものです。飲食業界という政治力の弱い分野を生贄にして、国民向けに「政府はコロナ対策しています」という演出をしているに過ぎませんが、それはさておき。)

おそらく、東京都の小池百合子都知事や都職員は
正当な理由
の有無を判断するための、基準や考え方を持っていないのでしょう。

だから、判断基準に照らして
「〇〇だから正当な理由なしと判断します」
といったことが言えない、書けない。
基準や根拠を持たないまま、

「正当な理由が無いと認められる場合は命令を出せると法律に書いてある。正当な理由がないとあたくしが認めたから命令を出した」

というオウム返しのレベルで命令を発する。
そう、杜撰なんです。

要請を命令に格上げして、行政として民間事業者に対し権利を制限し義務を課す。
これって結構重大なことですよ?
命令ってそんな程度で出して良いものなんですか?違うでしょう?

【逆らう者を狙い撃ち】

続けて、東京都の命令事前通知に書かれた命令を行う理由を読んでいくと、

貴施設は、20時以降も当該施設を使用して飲食店の営業を継続し、客の来店を促すことで、飲食につながる人の流れを増大させ、市中の感染リスクを高めている。加えて、緊急事態宣言に応じない旨を強く発信するなど、他の飲食店の20時以降の営業継続を誘発するおそれがある。

と出てきます。

(1)20時以降も営業して感染リスクを高めている。
(2)緊急事態宣言に応じない旨を強く発信し、他の飲食店の営業継続を誘発するおそれ。

東京都は、この2点を命令理由として挙げています。

時短命令は「狙い撃ちだ」 グローバルダイニングが都を提訴…請求額は「104円」(弁護士ドットコムニュース) - Yahoo!ニュース
=====【引用ここから】=====
都による時短営業命令は3月18日、時短要請に応じていない約2000施設のうち、27施設に出されたが、そのうち26施設がグローバルダイニングの店舗だった
=====【引用ここまで】=====

2000施設中27施設に命令を出し、うち26施設がグローバルダイニングの店舗。ほぼグローバルダイニングのみを対象としている、と言ってよいでしょう。

命令理由(1)については2000施設全てに共通しているので、実質的に、東京都は命令理由(2)の「緊急事態宣言に応じない旨を強く発信した」点に基づいて、グローバルダイニング1社をピンポイントで選定したことになります。どのくらいの飲食店が、グローバルダイニングの発信を受けて営業継続路線に変更したのか、といった蓋然性の分析も一切していません。

いつから日本は、表現行為を理由に行政命令の対象を選定するようなことが許される国になったのでしょうか。江戸時代の「お上に楯突くとは不届き千万」精神がそのまま生きています。

今回の東京都の手法は、
「都知事の施策に反対意見を述べると不利益処分を受ける。不満に思っても黙っておこう」
という委縮効果をもたらします。
これはよくない。表現の自由の保障を考えた時、これは非常によくない。

要請を出し、さらに命令を出すのであれば、命令を出す行政側が命令の理由・必要性を明確に示すべきです。
規制行政全般に言えることですが、立証責任・説明責任は規制を行う側が果たすべきです。
表現行為や営業活動は行政が規制・介入・禁止しないのが大前提。
自由であるのが原則であり、例外として規制するなら、規制する側が根拠や規制の必要性をしっかり説明するのが筋です。

東京都の命令事前通知からは、表現の自由や営業の自由に配慮した形跡が一切見られません。なんせ、弁明書の内容に一言も言及していないのですから。
弁明書の内容をスルーした都知事の横暴、都職員の杜撰さに対し、何か一矢報いることはできないのでしょうか。

【がんばれグローバルダイニング】

そんな私の想いをくみ取ってくれたのか、グローバルダイニング側は東京都の命令に反発し提訴。
舞台は訴訟に移っていきました。

時短命令は「狙い撃ちだ」 グローバルダイニングが都を提訴…請求額は「104円」(弁護士ドットコムニュース) - Yahoo!ニュース
=====【引用ここから】=====
同社代理人の倉持麟太郎弁護士によれば、時短命令の違憲性・違法性を問うとともに、法的な根拠や科学的な根拠があいまいなまま飲食店営業を一律に制限することの是非、コロナ禍の名のもとにおこなわれてきた過剰な規制や改正特措法の違憲性について問題提起するという。

訴訟では、(1)時短命令は、時短要請に応じないことを発信していたグローバルダイニングを狙い撃ちしたもので、平等原則に反し、表現の自由及び営業の自由を侵害する、(2)同時短命令は特措法上の要件を満たしていない、(3)飲食店が主要な感染経路であるという明確な根拠もなく営業を一律に制限できる特措法の規定は、営業の自由を侵害しており違憲――などを主張していくという。

倉持弁護士は「自由が制限されている時点で『実害』だと認識している。行政のとったコロナ対策で社会的弱者になってしまった人もいる。今回の訴訟を『声なき声』を集約するプラットフォームにしていきたい」と話した。

「経済的余裕は一切ない」(長谷川社長)という同社の弁護団は、今回の裁判について、提訴と同時に「コロナ禍、日本社会の理不尽を問う」と題したプロジェクトをクラウドファンディングサービス「CALL4」で立ち上げ、支援を募っている。

=====【引用ここまで】=====

今回の東京都の命令がお咎めなしになると、表現の自由、営業の自由、法適用の平等は大きく損なわれます。そして、全国の自治体職員に「この程度で良いんだ」と勘違いさせる悪しき先例を残すことになります。

がんばれグローバルダイニング。
東京都の横暴、杜撰さ、そして政府の規制の恣意性を白日の下に晒すんだ。

私も、クラウドファンディングで一口応援しようかな。

-----(2021年3月25日追記)-----
新型インフルエンザ等対策特別措置法の第45条第3項に、

3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。

とあります。

特に必要があると認めるときに限り

みせしめ・生贄・一罰百戒…これら以外で、何か現状でグローバルダイニングを狙い撃ちする必要あったのかな?
「他の飲食店の時短営業無視を誘発するおそれがあり、感染まん延につながるおそれがある」
つまり、
「おそれがある × おそれがある」
という蓋然性の低い状態で、「特に必要がある」って言い張るのは苦しいんじゃいかなーと私は個人的に思うんですけど、皆さんどう思います?
ねぇ東京都職員さん?

菅総理父子もビックリの縁故主義 ~松本英樹(行橋市前副市長)氏に学ぶ相続税と寄付と縁故の効用~

2021年03月14日 | 地方議会・地方政治

【相続税の計算について】

あなたが、4億4600万円の美術品を一人で相続したとしたら、相続税って幾らになると思いますか?

相続税の税率と速算表 | 相続税申告相談プラザ|ランドマーク税理士法人

こちらのサイトを参考に、相続税を計算してみましょう。

基礎控除額:3000万円+600万円×1人=3600万円

課税価格 :4億4600万円-3600万円=4億1000万円

法定相続人は一人のため、人数按分の計算は除外。

法定相続分に応ずる取得金額の区分が6億円以下に該当するので、速算表によれば税率50%。控除額4200万円。

4億1000万円×50%-4200万円=1億6300万円

納税額が1億6300万円、いやー大変な額ですね。
つくづく、相続税は世紀の悪法だなぁと思わずにはいられません。
(ご自分の相続税を計算する際は、リンク先の資料や国税庁のサイトもよく読んで、自己責任でお願いします)

【相続税対策としての寄付】

このように、相続税は非常に高い。
ですが、遺産が現預金であれば、相続税の計算をして差し引くだけでで済むので、まだましです。不幸中の幸いといったところでしょうか。

ところが、美術品や不動産となるとハードルはさらに上がります。
評価額を算定し、相続税を払うために一部または全部を売却し現金化に迫られるケースもあります。これは容易ではありません。

お金で貰うならともかく、美術品の形で貰っても対応に困る人は多いはずです。
親が趣味で買い集めた美術品。しかし残された遺族には、美術品の知識も興味もない。相続してもどうしたらいいか分からない。相続人にとって無用の長物であっても、しかし、そのまま相続すれば税金が発生します。

じゃあ欲しい人にあげてしまえばいい、所有者が亡くなる前に誰かに寄付してくれたらいいと考える人もいるでしょうが、ちょっとお待ちを。
寄付する相手によって、課税されるかどうかが変わってきます。

公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税の特例のあらまし|国税庁
======【引用ここから】======
 個人が、土地、建物などの資産を法人に寄附した場合には、これらの資産は寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、これらの資産の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税されます(所得税法第59条第1項第1号)。

 ただし、これらの資産を公益法人等に寄附した場合において、その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられています(租税特別措置法第40条)。

======【引用ここまで】======

このように、単に他人に寄付、譲渡しただけでは、所得税が課税されるおそれがあります。公益法人に寄付すれば非課税になるようですが、手続きや要件が込み入っていて複雑です。

もっと簡単な方法は無いものでしょうか。


それがあるんです。


No.3108 国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人に財産を寄附したとき|国税庁
======【引用ここから】======
1 法人に財産を寄附したとき
 個人が法人に財産を寄附したときは、その財産を時価で譲渡したものとみなされて譲渡所得が課税されます。
 しかし、個人が法人に財産を寄附した場合でも譲渡所得が課税されない場合があります。

2 課税されない場合
(1) 国や地方公共団体に対して財産を寄附した場合
 この場合は、特に要件はなく何らの手続きも必要ありません。

======【引用ここまで】======

このように、国や地方公共団体に対して寄付をしてしまえば、税務上の手続きをとることなく所得税も相続税も免れることができます。

【役所は寄付を受け入れてくれるか】

ただ、気を付けなければいけない点があります。
役所がその寄付を受け取ってくれるかどうか、この関門を突破しなければいけません。

相続人から見て
「貰っても管理が厄介だなぁ」
と考える物は、役所にとっても同じように厄介なのです。

土地を自治体へ寄贈する場合は必ず引き取ってもらえる?寄付の方法も解説
======【引用ここから】======
自治体は土地の寄贈を受け入れないことが多い

土地を自治体に寄贈しようと思っても、受け入れてくれないケースがほとんどです。
土地の所有者にとっては、土地を所有しているだけで固定資産税がかかることが、土地を手放したい主な理由でしょう。

しかし、その固定資産税の支払い先は自治体です。自治体にとって、固定資産税は重要な収入源といえます。
また自治体としては、用途がない土地の寄贈を受け入れたところで管理コストがかかるだけです。

======【引用ここまで】======

管理の必要な物を寄付された役所は、予算を組んで管理費用を計上することになります。
管理のために人員を割く必要も出てきます。

消滅自治体が懸念されるこのご時世。
役所は、予算捻出や人員確保に頭を悩ませています。公共施設の整理・削減をして人口減少に対応し、自治体の持続可能性を模索している自治体は多いです。

こうした中、普通、自治体は二つ返事で

「はい、寄付してくれてありがとう」

とは言ってくれません。
むしろ、
維持管理費等が著しく市の財政的な負担となる作品
の寄付はお断りします、と明記している自治体もあるくらいです。

役所にとって、寄付の受け入れは財政負担、つまり住民負担を伴う厄介者なのです。

【役所に寄付を受け入れてもらう方法】

処理に困る所有物を、役所に寄付して管理してもらいたいという声は多くあります。

例えば、老朽空き家を役所が引き取ってくれれば、所有者としては楽ですよね。

空き家を所有しているが、遠方に住んでいて使い道はない。
雑草が伸び建物は老朽化し、外壁も崩れそう。
害虫や悪臭が生じて近隣から苦情が出ている。
草刈りをしたり、建物を崩して更地にすれば近隣住民に迷惑はかかりませんが、それにはお金や手間がかかります。
「役所が寄付で受けてくれたら楽なのに」
と思っている方は多いと思います。

しかし、前述のように、役所は簡単には寄付を引き受けてくれません。
どうすれば、役所に寄付を受け入れてもらうことができるでしょうか。

その有効な手段が、コネです。
役所の有力者とコネ・縁故があれば、寄付を受け入れてもらう可能性が高くなります。
その究極形というか、特異な例が↓こちら。

増田美術館:公設へ 館長が行橋市に土地・建物を寄贈 /福岡 - 毎日新聞
======【引用ここから】======
 行橋市は26日、同市行事5にある増田美術館の館長、増田博さん(93)=同市神田町=が、同美術館の土地・建物を市に寄贈したことを明らかにした。増田さんは約60年間にわたって収集してきた横山大観や東山魁夷ら著名作家による日本画など194点(購入時総額約4億4600万円)を7月に市に寄贈し、22日の定例市議会最終日に同市の名誉市民第1号に決まっている。【荒木俊雄】
 増田さんは30歳ぐらいのころから美術品の収集を始め、建設会社経営の傍ら、2005年に増田美術館を開設。近代日本画では九州有数の展示内容・保管数を誇り、同美術館を管理する公益財団法人「増田美術・武道振興協会」(理事長=増田さん)所有の約150点を除く個人分を7月に市に寄贈していた。
 今回の寄贈は法人所有部分を除く、三つある展示室のうちの一つと事務室を含む鉄筋コンクリート造2階建て(延床面積約360平方メートル)と、駐車場を除く敷地約500平方メートル。関係者によると、同物件の今年の固定資産税評価額は建物が2850万円、土地が1370万円とされる。
 増田さんと親交のある松本英樹副市長によると、土地・建物の寄贈を思い付いたのは美術品を寄贈したころから。「市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい」という気持ちからだという。
 増田美術館の運営は当面現状のままで、松本副市長は「大変ありがたい贈り物。早ければ来年3月議会に公設施設として使用するための条例案を提案したい」と話している。 〔京築版〕

======【引用ここまで】======

この行橋市の事例は、極めて異例です。

【異例づくめの行橋市への寄付】

どう異例なのか。
上記の記事を部分ごとに読んでいきましょう。

======【引用ここから】======
増田さんは約60年間にわたって収集してきた横山大観や東山魁夷ら著名作家による日本画など194点(購入時総額約4億4600万円)を7月に市に寄贈
======【引用ここまで】======

一見、美談のように見えますが、注意が必要です。
美術品寄付の時点で、行橋市は美術館を持っていなかったのです。

美術館の無い市役所が、美術館のオーナーから美術品の寄付を受ける。市役所には美術品を専用に保管するスペースも適切に管理・展示するノウハウも無いわけです。

なので、

「寄付しようというお気持ちはありがたいのですが、いただいても管理できかねるので寄付はお断りします」

となるのが一般的に予想されるところです。

ところが、この行橋市は寄付を受けました。

じゃあ美術品の管理はどうするかというと、結局この美術館を運営する財団法人に対し、運営の委託をしています。美術品を寄付しつつも、結局は元の美術館が実質的には保管・展示する。オーナーとしては、美術品の相続税を免れ、一方で、美術館運営は従来どおり財団法人で行います。加えて、市役所から美術品管理委託料という収入を得ることができる、という不思議なカラクリが成立しています。

さらに異例なのは、土地・建物の一部を寄付した点。

======【引用ここから】======
 今回の寄贈は法人所有部分を除く、三つある展示室のうちの一つと事務室を含む鉄筋コンクリート造2階建て(延床面積約360平方メートル)と、駐車場を除く敷地約500平方メートル。関係者によると、同物件の今年の固定資産税評価額は建物が2850万円、土地が1370万円とされる。
======【引用ここまで】======

美術館という一つの土地・建物のうち、オーナー個人名義の部分だけの寄付を受ける。これによって、オーナーは相続税だけでなく固定資産税も免れるわけですが、この「役所が土地・建物の一部分の寄付を受け入れる」というのもまた通常考えにくいのです。

建物の一部分を寄付された場合、市役所所有部分と法人所有部分との境界で、管理や修繕を巡って混乱やトラブルが生じる可能性があるからです。今は市役所と財団法人の関係性が良いとしても、将来、関係がこじれた際に
「これは市で修理しろ」
「いやここは法人所有部分だからそっちで修理しろ」
「言う事をきかないなら、今後ここの通路を通ることはまかりならん」
などの揉め事が発生するのは、容易に想像ができます。

こうした点を考慮して、寄付を受け入れる条件として

将来に係争又は苦情が発生するおそれがない物件であること。

と明記している自治体もあります。当然のことです。

続けて、寄付者の心中を代弁している松本英樹副市長(当時)のコメントに、理解しがたい箇所があります。

======【引用ここから】======
 増田さんと親交のある松本英樹副市長によると、土地・建物の寄贈を思い付いたのは美術品を寄贈したころから。「市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい」という気持ちからだという。
 増田美術館の運営は当面現状のままで、松本副市長は「大変ありがたい贈り物。早ければ来年3月議会に公設施設として使用するための条例案を提案したい」と話している。

======【引用ここまで】======

私的な鑑賞用として収集していた個人コレクターが、美術館を持つ市役所に美術品を寄付する時に
市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい
と述べるのであれば、まだ一応は納得できます。
今まで個人で楽しんでいたけど、広く市民にも作品に触れてほしい、だから公営美術館に寄付して展示してもらいたい・・・これなら理屈としてはとおります。

しかし、この寄付した人は美術館の開設者、館長でした。多くの市民が美術品に接する機会を既に提供していたわけです。なので、
市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい
というのはどうも筋が通りません。
自分の美術館で展示すればいいじゃん、って思いませんか?
個人所有の美術品、そして土地・建物の個人所有部分を、全て財団法人に一本化すれば良かっただけのことです。

私人が収集した美術品を、私人が運営する美術館で多くの人が鑑賞できる状態が
大変ありがたい贈り物
なのであって、これを美術品と美術館の一部を役所名義にして運営費用を市民負担にすることは純粋な意味での贈り物ではありません。松本英樹氏の詭弁です。

このように、市役所に美術品、そして美術館の土地・建物の一部を寄付したことで、このオーナーは相続税と固定資産税を免れました。さらに、美術館の運営費用を市役所持ち(=市民負担)とすることに成功しています。

持つべきものは役所有力者との縁故です。

【行橋市民負担となった美術館費用】

美術品の寄付、そして美術館の土地・建物の部分的な寄付によって、行橋市では具体的にどのくらいの費用負担が生じたのでしょうか。

平成29年3月第5回行橋市議会 定例会会議録(第2日)
======【引用ここから】======
新たに設置する美術館長の嘱託員報酬費といたしまして、217万2千円、美術館の管理運営委託料といたしまして411万8千円、並びに看板の書き換え料として63万円、合計692万円を計上いたしておりますが、この金額は市の負担経費と考えております。
 また開館に伴いまして、使用料等の収入でございますが、年間55万2千円を見込んで計上させていただいております。

======【引用ここまで】======

平成29年3月第5回行橋市議会 定例会会議録(第2日)
======【引用ここから】======
◎副市長(松本英樹君) 
 お答えいたします。まず、先ほどの説明が少し不十分なところがありましたので、改めて説明いたします。
 個人の方から寄附をいただいたもの、それからいま田中議員が言われるように、公益財団法人が所有する不動産、美術品がございます。市の条例をするに当たって、あの建物全体を市の美術館という位置づけの、今回の条例でありますので、当然そこには先方から借り受けるというものがございます。公益財団法人から見ると、公益財団法人の名義のまま市が美術館として運営する、これは公益財団上の問題も全くない。市としても一定程度の借り受けができるという条件のもとで全体を公の施設として設置することも、これも問題ないというところで、今回条例をあげていることを、まず前段でお話をしておきます。
 これからの費用負担ということでありますが、言いましたように、全体を市の美術館として設置をするわけですので、全体の必要経費としての算定が今回の金額でございます。

======【引用ここまで】======

令和元年9月第15回行橋市議会 定例会会議録(第5日)
======【引用ここから】======
 次に、文化課では、行橋市増田美術館の空調設備の更新にかかる経費219万8千円が増額補正されております。
======【引用ここまで】======

当時、行橋市副市長であった松本英樹氏は、自身と親交のあった美術館オーナーの利益のため、負担付きの寄付を引き受けています。先述のとおり、これは通常なら考えにくいことです。
彼が交渉した寄付引き受けによって生じた費用負担は、市役所の負担、つまり市民の負担です。

一部が市役所名義で一部は財団法人名義の建物を市営美術館にする条例を制定したことで、この条例がある限り、半永久的に市は財団法人名義の部分を借り受けて美術館を運営するようになります。美術館運営の方式を指定管理者とするのか運営委託とするのか分かりませんが、いずれにせよ、美術館建物に財団法人名義の部分がある限り、この財団法人以外に美術館の運営を任せる事は難しいでしょう。

指定管理者制度ではおおよそ5年ごとに施設を管理する企業・団体を公募して見直すのですが、この財団法人は事実上、美術館管理運営という公共事業を恒久的に受注する地位を得た事になります。

行橋市副市長であった松本英樹氏は、一部市役所名義・一部財団法人名義の建物でも法律上は可能であるという説明に終始し、そもそも市民負担で美術館運営を始めることが良いことかどうか、また金額は妥当かどうかがほとんど触れられていません。

公務員は「全体の奉仕者」であると言われますが、この松本英樹前副市長は、まるで増田氏の奉仕者、増田家の番頭のように振舞っています。

その後、実際に増田家の番頭となりました。

【副市長在職中に企業の取締役に就任する松本英樹氏】

松本英樹氏は、副市長在職中に増田氏が代表を務める企業で取締役となったのです。

福岡)行橋市副市長、突然の解職 広がる波紋


行橋市副市長の突然の解職 市長「信頼できず」 松本氏「理解されず」 2019年10月5日 西日本新聞
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 市長が例示した小さな不満の積み重ねとは①市の政策を批判する言動が目立つ②議会で市長の方針に反する答弁や振る舞い③再建中のホテルを支援する企業の取締役に就任したが報告もなく何をしているか不明―など。「意思疎通できず、信頼できなくなった」のが最大の理由という。
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京都ホテル、7月に営業一部再開 再生計画案を債権者可決 /福岡 毎日新聞2020年5月27日 地方版
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 行橋市の老舗ホテル「京都(みやこ)ホテル」を経営し、民事再生法に基づき経営再建を進めている「京都館」が7月に同ホテルの営業を一部再開することが、関係者への取材で判明した。ホテルは改装と新型コロナウイルス感染拡大の影響で休業中だが、7月1日からビアガーデンの営業を始める予定だ。【松本昌樹】
 地裁小倉支部で22日に債権者集会があり、同社が提出した再生計画案が債権者の賛成多数で可決された。地裁小倉支部は再生計画を認可するとみられる。
 京都館は2019年7月、地裁小倉支部に民事再生法の適用を申請。負債総額は約3億4000万円で、申請前に支援企業への営業譲渡を決めるプレパッケージ型と呼ばれる手法で再建を進めていた。行橋市内を中心に不動産事業などを展開する「増田」がスポンサーとなって土地、建物を買い取り債務返済に充てるとともに、京都館を同社の100%子会社化して新経営陣が経営に当たる計画案を示していた。

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官報決算データサービス
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株式会社増田
企業情報
会社名 株式会社増田
代表者 代表取締役 増田 博
所在地 福岡県行橋市神田町6番24号

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総務部長時代から親交のある財団法人のオーナーとの交渉役を務め、便宜を図ってきた松本英樹前副市長ですが、彼は副市長在職中に、オーナーの経営する会社の取締役になりました。そう、副市長であると同時に名実ともに増田家の番頭となったのです。これは、親交や縁故を通り越して癒着のレベルです。

総務部長時代に交渉に当たっていた頃から、便宜の見返りとして将来の地位を約束していたかどうかは分かりません。しかし、長期にわたり寄付の件や旧宴会場跡地の件で財団法人に便宜を図ってきたのは事実であり、その関係企業で取締役に就任したのも事実です。

そして、一連の過程で生じた費用負担は全て市役所の負担です。

【過去を振り返ると】

この件について、私は結構前から追いかけていました。
その中で、2016年12月29日に

これで、副市長が辞任後にこの法人の理事や美術館の館長などに就任したり、副市長の身内がこの法人から利益を得ていたりしようものなら、住民や職員はこの二匹の狐に一杯食わされたということになる

とコメントしていたのですが、まさか副市長辞任後ではなく在職中に役員になるとは思ってもいませんでした。

最近、菅義偉首相の長男正剛氏が、総務省幹部らを繰り返し接待していたニュースが話題になっています。接待を受けた総務省幹部は処分、菅正剛氏が勤めていた東北新社の二宮清隆社長は引責辞任、菅正剛氏は部長職を解職されました。

松本英樹氏におかれましては、癒着がバレて副市長を解職されたのですから、二度と公職に関わることなく余生を過ごしていただければと思います。

※今回記事は、新聞記事や議会会議録等の公表情報をもとに以前作成した

リケンは、つくれる ~ 行橋市前副市長に学ぶ便宜供与と役員就任 ~ - 若年寄の遺言

をベースに、加筆修正したものです。

二重行政を解消しようとするならば、本丸は「都道府県の廃止」 ~大阪都構想否決結果に寄せて~

2020年11月12日 | 地方議会・地方政治
どうもこんばんは、若年寄です。

大阪府・大阪市の二重行政を解消しようと、大阪維新の会が大阪市を廃止して4つの特別区に再編する「大阪都構想」を打ち出し、住民投票を仕掛けていました。
これが、令和2年11月1日の投票の結果、賛成少数で否決されました。

〇「大阪都構想」再び否決 松井大阪市長 任期全うし政界引退へ | 選挙 | NHKニュース
「賛成」67万5829票
「反対」69万2996票

【二重行政とは何か】

大阪維新の会は、大阪府と大阪市の二重行政を解消するため大阪市を廃止しようとしていましたが、そもそも二重行政とは何でしょうか。

二重行政とは、中央省庁と都道府県庁で同じような業務を実施し、あるいは都道府県庁と市町村役場で似たような公共施設を建設する等、複数の行政機関で公共事業が重複している状態を指します。二重行政の状態では、機能の同じ建物が近くにできてしまう無駄が生じたり、何かをしようとした時に中央省庁と都道府県庁、都道府県庁と市町村役場のそれぞれから許可を得たり調整しなければならないという非効率が生じます。

例えば、こちら

〇「国と地方の二重行政」の弊害の事例 福岡県
労働関係紛争、バリアフリー、職業紹介、職業訓練、商工会議所への指導、理美容の許認可、水産物販売・・・
様々な分野で中央省庁と都道府県庁が縄張り争いを繰り広げ、シマでの権益を主張しています。
「うちのシマで何やっとんじゃ、よそものが口出すんじゃねぇ」
「お前らこそ俺の縄張りで何勝手なことしとんじゃ」
って、まるでヤ〇ザですね。

【都道府県庁と市町村役場】

また、都道府県庁と市長村役場での二重行政もあります。

例えば、こちら。

事前協議について | 長崎県
特定施設入所者生活介護事業所 事前協議の流れ

お分かりいただけるでしょうか。

事業者が事業を始めようとする時に、介護保険の保険者である市町村と話をし、県とも話をしなければならない構図となっています。事業者からすれば、県と市町村の両方とやり取りをしなければならない事になります。さらに、市町村がOKを出したとしても、県がNOと言えば手続きはやり直しという非効率さ。

自分が事業者なら、
「なんだよここの県。面倒くさいなぁ。早く書類受理して手続きを進めろこの税金泥棒め」
「県庁と役場で言う事が違ってごちゃごちゃ煩いから、他の県で事業しようかな」
と思うところです。
(ちなみに、法律上は、事業者がやり取りすべきは県のみであり、市町村は意見書という形で出てくるだけ、という流れになっています。法律で定められた指定権者としての県の事務を、要綱レベルで勝手に市町村事務にしてしまう事は法律上問題無いのでしょうか。)

日本が生産性を低下させ国際的な地位を年々低下させているのは、様々な分野に張り巡らされた規制の多さ・複雑さであると指摘されています。規制の複雑さに拍車をかけているのが、これです。複数の行政機関の間で、ある時は権限を奪い合い、ある時は事務負担を押し付け合うことを繰り返す中で、複雑さ・非効率さがどんどん増していきます。
中央省庁の省庁間での権限争い、自治体内部での担当部署争いという「縦割り行政」と、中央省庁・都道府県庁・市町村役場という水平方向での重複という「二重行政」、縦と横に入り組んだ規制によって、個人や企業は雁字搦めになっています。その中で、無理強いされる無駄な作業のなんと多いことか。

【補完性の原理】

さて。

行政用語で、「補完性の原理」という言葉があります。地方自治における基本的原理とされているものです。

 個人でできることは個人で
 個人でできないことは家族で
 家族でできないことは地域で
 地域でできないことは最小の自治体単位で
 最小の自治体単位でできないことは広域的な行政単位で
 広域的な行政単位でできないことは国(中央省庁)で

というように、問題解決を出来るだけ身近な単位で処理し、それが出来なかった時に初めて一つ大きな単位での処理を検討する考え方です。これは、個人・家族・地域でできることに行政は手出しすべきでない、とするもので、「小さな政府」の考え方とも馴染みやすい理念だと思います。

さてこの時、最小の自治体単位は市町村であるわけですが、広域的な行政単位は即ち都道府県・・・とはなりうません。特定の問題について単独の市町村では解決できない場合に、複数の市町村で広域的に取り組めば対処できるものがほとんどだからです。隣り合う4~5市町村で解決できる事柄について、数十の市町村を管轄する都道府県が出てくる必要はありません。逆に、隣り合う市町村では対処できない、数十の市町村を管轄する規模でなければ対処できない事例って何があるでしょうか。

個別事案ごとに必要性に応じて広域連合を作れば足りるわけですし、その個別事案が消滅したり広域処理が不要になれば解散させる必要があります。恒久的に市町村役場よりも広域的な団体として都道府県庁を置いておく必要はなく、むしろ恒久的に置いておくことで、都道府県庁が自己増殖的に不要な業務を勝手に作ってしまいます。有害です。

【二重行政は都道府県/政令市に限らない】

今回、大阪維新の会は、現行の地方自治法の中で出来る事、出来ない事を考慮した上で、二重行政を解消する方策として「大阪市の廃止と特別区化」を大阪市民に提示しました。そして否決されました。

二重行政の問題は、大阪府/大阪市だけで生じているのではありません。大阪府と府内全ての市町村でも生じており、また、全国各地の都道府県と市町村の間でも生じています。今回、大阪市を廃止することはできなかったわけですが、二重行政の問題は大阪市固有の問題ではなく、大阪市を廃止できたとしても二重行政の弊害は全国各地で残ったままとなります。

いっそのこと、都道府県を廃止してしまえばどうでしょう。都道府県を廃止し、都道府県がやっていた事業の中で、どうしても残すべき必要があると個々の市町村で判断すればその市町村で継続すればいいし、不要であれば都道府県廃止と一緒に事業も廃止してしまえばいい、ということになります。必要な業務だけど個々の市町村で実施するのが難しければ、近隣市町村で組んで広域的に実施すれば良いのです。

都道府県を廃止することで、中央省庁との二重行政を解消することもできます。

都道府県庁の職員は、都道府県の廃止とともに一旦は全員失業することになります。ですが心配ありません。都道府県庁がやっていた業務の中で必要なものは市町村が実施するようになるわけで、そこでのノウハウを持った元都道府県庁職員を市町村職員として雇おうという需要が生じます。もし市町村職員としての雇用が生じなかったとしたら、それは、元都道府県庁職員が不要な仕事で飯を食っていたことの証拠に他なりません。

(単一市町村であっても、既存の公共施設を廃止してわざわざ同種の施設を建てるという無駄なハコモノ行政をやってしまうところもあるわけで、都道府県庁を廃止したからといって行政の無駄を根絶できるというわけではありませんが。)