「性産業に関わったらダメだよ~」と説教する気持ち悪いおじさんを、逆に叱る女の子。
どうもこんばんは、若年寄です。
今回は、AMEBAの番組のまとめ記事
性産業は廃止すべき?給付金対象外は職業差別? 賛成派と反対派、紗倉まなが激論(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース
を読んでの感想です。
1.性産業を廃止すべきか否か?
2.性風俗店も持続化給付金の支給対象にすべきか否か?
です。
論点の組合せとしては、
①
②
③
( ④
も考えられるのですが、この論者は居なかったように思われるので除外 )
記事冒頭で
「まさにコロナ禍が浮き彫りにした職業差別であると思う。国民感情みたいな非常に曖昧な理由で差別をしてよいのかということに、しっかりと司法は向き合って答えを出すべきだと思う」
と主張する、訴訟を起こしたデリヘル経営者の代理人弁護士・亀石倫子氏や、番組に出演したSWASH代表の要氏は、①の論者に位置付けられます。
他方、ひろゆき氏は
「性風俗産業自体は“ご自由にやってください”と思う」
と述べつつ、新型コロナ感染症対策の観点から
「“肉体的接触をすることが商売だ”というビジネスを持続化するために税金を払うのはどうかと思っている。性風俗では必ず接触が伴うわけで、それに国がお金を払って続けてもらうのはおかしいのではないか」
と述べており、②の論者であることが分かります。
藤田孝典氏は、言うまでもなく、
「性暴力、性搾取を蔓延させている産業が調子に乗って、休業補償しろ、とか恥を知れ」
「性産業はなくなった方がいい、という認識の広がりが大事」
というガチガチの③論者。
私は、①に近い考え方を持っています。
以下、①の立場からまずは②を眺め、③を批判的に見ていきます。
そして最後は、途中で登場する「搾取」の論点についても見ていきましょう。
「今回のコロナに関していうと“肉体的接触をすることが商売だ”というビジネスを持続化するために税金を払うのはどうかと思っている。性風俗では必ず接触が伴うわけで、それに国がお金を払って続けてもらうのはおかしいのではないか。コロナが収まった後で栄えるのはいいと思うが、コロナの最中は止めた方がいいと思う」
「業種として、体液の交換がある業種はやはり感染リスクが高いので、現時点では国として進めるべき産業とは思っていない」
新型コロナウイルス感染症に関して出てきた給付金を、感染リスクの高い業種に交付するのは止めよう、という②論者の主張。
これは一見正しそうですが、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。
肉体的接触を伴う業種は、性風俗に限りません。理容師・美容師もそうですし、鍼灸・按摩・マッサージ店などもそうでしょう。また、肉体的接触だけでなく排泄物処理も行う介護職もいます。利用者客との接触を伴う業種は多数存在します。こうした業種が給付対象となっている中、性風俗産業を除外するのは、本当にリスクの度合いを判断しただけと言えるでしょうか。そこに職業蔑視が入っていないでしょうか。接触を伴う感染リスクの高い業種を給付金対象から外すべきという主張に従うならば、性産業のみならず多くの業種が除外されるはずです。売り上げの減少に加え、感染症対策で他業種以上に神経を使い経費も使ったであろう、という点ではいずれも共通しています。
もし仮に、最初から
「業種Aを対象としたA業持続化給付金」
という制度であったならば、
「A業でない性風俗産業は対象外ですよ」
という対応は適切だったと思います。
しかし実際には、
「基本的に全ての業種が対象です。ただ、国・地方公共団体、政治団体、宗教団体、性風俗産業は対象外」
という運営基準になっています。税法の関係を見たとき、実質的には性風俗産業だけを除外したものと言っていいでしょう。他業種と分けた基準は何なのか、感染するリスクと感染した際のリスクを考慮した上で設定した基準なのか、訴訟において政府当局担当者がどのように説明するのか見ものです。
以上、②論者に対する反論、疑問でした。
次に、③論者、すなわち性産業廃止論者の主張を見ていきましょう。
③論者である藤田氏は、廃止すべき理由として、
「女性の弱い立場の性を利用しながら、公序良俗に違反するような形で経営がされてきているので、そこに公金を支給するというのは、社会的にその産業を認めることに繋がってしまうのでやめていただきたいと思う。そもそも性は売ってはいけない」
と述べています。
そもそも論として、
「女性は弱い」
「性を売ってはいけない」
という藤田氏の好悪が先行しています。藤田氏のパターナリスティックなおじさん感情に照らして女性全般を一括りに保護の対象とし、藤田氏の正義感に合致しない業種を否定する、という流れになっています。
藤田氏の頭の中には
「女性は弱者であり、主体的に職業選択できず、性産業に従事する人はやむにやまれずそこで働いているのだ」
という固定観念があります。藤田氏は、社会福祉士の業務を通して接した中から、
「性暴力、中には年齢を隠して児童が性風俗店で働いているというケースもある。知的障害、精神障害でやむにやまれずそこで働いていて、なかなか自分で判断がつかない方もいる」
という、自己のストーリーに合致する事例をピックアップして紹介しています。
通常なら、これで押し通すことができるのでしょう。
弱者である当事者の声を代弁するスタイルで自説を補強する、というのが藤田氏の手法です。
ところが、スタジオにいるのは、主体的に性産業で働く当事者、紗倉まな氏。紗倉氏は、次のようにツッコミます。
「藤田さんが仰っている扱われ方が不当だとか劣悪な環境という話は、一部のケースではないか。一部が法を犯しているからといって、全ての性風俗産業に当てはまるわけではないと思う」
「潰すか潰さないかと言われるとすごく極論だし、暴論だなと思う。例えば職業適性として、自分が主体的にやりたいと思って、自らの意思で選択して入っていく人たちもいると思う。少ない時間で効率よくお金を稼ぎたいとか、目標のためにお金を稼ぎたいとか、多様な意思で働いている方がいらっしゃる中で、なぜ潰すという結論に至らなくてはいけないのか。無理やりやらされている方がいるのであれば、もちろんそういった環境は是正されるべきだと思う。しかし、私のような主体的に働いている人間と無理やりやらされている人間の割合もわからない中で、負の側面だけを誇張して潰すという風に結び付けられることに違和感がある」
もう、この議論は終了したようなものです。紗倉氏の完封勝ちです。
「自称・弱者の代弁者」と「当事者」とでは説得力が違いますし、述べている内容も雲泥の差。
藤田氏の主張は、個別に支援や保護を必要とするケースが存在する事を示しているのみで、業種全体を廃止する理由にはなりません。その業種に主体的に、任意に参入している人が一人でも居る限り、その活動を妨げる根拠たり得ません。
藤田氏はこれに対し尚も食い下がり、
「社会保障や社会福祉の制度をきちんと充実させて、『本当に選んでいるんだ』と言えるような環境を作らないといけないと思っている。大学生が『授業料のために行かざるを得ない』、シングルマザーのお母さんが『子供を育てるためにセックスを売らないといけない』というような証言ばかりだ」
と、「主体的に選んでいる人はいない」という印象操作を試みるものの、主体的に選んでいる人が反証として目の前にいるわけです。藤田氏は、この番組ではいつもの手法が通用しないというのを事前に勉強してくるべきでした。
「自分に向いていると思って、好きでこの仕事を選んだ」
という人と、
「その時の人間関係や経済状況では、この仕事しか選びようがなかった」
という人とが存在します。
この中間的な
「いくつかの職業候補がある中で、この仕事が収入面や内容、強度の面で割が良かった」
「遊ぶ金が欲しくて、遊びにいく時間帯と仕事の時間帯とがちょうど良い」
という人もいて、それぞれの要素がグラデーションの濃淡を構成しています。
絶対的貧困の中で生きるためにやむを得ずその仕事を選ぶしかなかったという人に対して、社会福祉士が公営・民間の支援サービスに繋ぐのは良いことだと思います。また、借金の質として親に売られた人、暴力で連れ去られてその仕事に従事させられた人のケースについて、警察が介入し保護するのは有りだと思います。
こうした、貧困や暴力によって強いられる事例は、性産業に限ったものではありません。個別事例に対し支援や保護をするのは結構ですが、業種そのものを廃止する理由にはなりません。絶対的貧困の中で生きる人への支援や暴力で強制された人の保護と、その業種を主体的に選んだ人の職業選択を尊重することとは、矛盾せず両立します。「支援や保護を要する労働者が居るから、その業種を廃止すべきだ」という主張は、全ての業種にブーメランとして飛んでくる可能性がある危うい意見です。
藤田氏が、児童やシングルマザー、障害のある人から支援を求められた事は、その人達を支援する理由にはなりますが、しかし、目の前にいる、主体的に職業を選んでいる紗倉氏の仕事を廃止しろと主張する理由にはなりません。
社会福祉士が性産業従事者から「風俗を強要されている、辞めて生活保護を受けたい」と相談を受けたら、その相談に応じたら良いでしょう。しかし、社会福祉士が性産業従事者から「仕事は問題ないが、子供の預け先を悩んでいる」と相談を受けた時に、保育園やベビーシッターの利用方法を教えることなく「性産業は廃止されるべきです。風俗の仕事を辞めて生活保護を受けなさい」と指導するのは大きなお世話であり、その人の主体性や尊厳を踏みにじる高圧的・強権的・パターナリズム的な行為です。
①論者の要氏が
「藤田さんはネガティブな事情を背景に働く人たちが多いということをもって、風俗が無くなるべきということをよく言われるが、風俗に限らず一般的な仕事でも『本当はやりたくないけど生活のために』という事情でやっている人は多い。だからといってその産業は否定されないし、廃止論は出てこない。ネガティブな理由でやっている、仕事を選んでいるというのは別におかしい話ではない」
と述べているとおりです。
結局のところ、最初に戻るのですが、藤田氏の性産業廃止論の根拠としては、
「そもそも性は売ってはいけない」
という藤田氏の価値観、嫌悪感、偏見に過ぎません。
私は仕事柄、社会福祉士に接する機会が結構あるのですが、個別の支援ケースを検討している中で嫌悪感剥き出しに「あなたが就いている仕事はまともな仕事じゃありません。調子に乗るな、恥を知れ」なんて言い出す社会福祉士が居たら、その場から追い出しますね。
藤田氏が、社会福祉士の肩書を付けて公の場でこうした発言を発信し続けることで、
「社会福祉士ってこんな偏見を持つ人ばかりなの?相談して大丈夫なの?」
と思う人が増えてしまうのではないでしょうか。
もし、紗倉氏やその他の性産業従事者が、
「仕事の面で困ったことがあります」
と相談に来たのであれば、社会福祉士として藤田氏が応じればよいでしょう。しかし、
「私は自分の意思で仕事をやっています」
という成人に対し、その職業を否定するということは大きなお世話であり、それを公言して回るのは営業妨害であり、ひいては社会福祉士に対する信用失墜行為です。
性産業は廃止すべき?給付金対象外は職業差別? 賛成派と反対派、紗倉まなが激論(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース
======【引用ここから】======
要氏の「他の労働も搾取があるのは一緒ではないか」との指摘には、「本人がやりたくないけどお金のためにやっているという状況は、お金がない人の状況を利用してやりたくないことをやらせているので、僕は搾取だと思う」と述べた。
======【引用ここまで】======
労働者が搾取されているのは、性産業だけなのでしょうか。
労働者が搾取されていることが、業種を廃止する理由になるのでしょうか。
いや待てよ。そもそも、搾取とはどういう状態なのでしょうか。
これについて、紗倉氏のコメントがこちら。
「搾取というのは、主体と客体を曖昧にする安易なマジックワードだと思う部分がある。一般的に第三者から見て搾取だと思っても、本人が搾取だと思わない限り搾取ではない」
「搾取」を「安易なマジックワード」と指摘する紗倉氏は鋭いと思います。
これに対し藤田氏は場外戦で
藤田孝典さんのツイート
======【引用ここから】======
セックスワークに限らず、賃労働全般が資本による労働搾取。
搾取とは「階級社会において、生産手段の所有者が、直接生産者からその労働の成果を取得すること」(広辞苑2018)
性労働も例外なく、性風俗事業者の搾取対象。
「本人が搾取だと思わない限り搾取ではない」は根本的に誤り。
======【引用ここまで】======
「セックスワークに限らず、賃労働全般が資本による労働搾取」
と述べ、反論した・・・つもりになっていますが、これは完全に墓穴を掘っています。
性産業廃止論者である藤田氏は、その廃止すべき根拠として性産業における搾取を挙げていました。ところが、紗倉氏の指摘に狼狽したのか、ろくに考えず反射的に「賃労働全般が搾取なんだ」と述べてしまったのです。しかも、本人が搾取と思っているかどうかは関係ないんだ、というおまけ付き。
さぁ大変。
自発的に契約を締結して賃金を受け取り労働力を提供する労働者の従事する産業全般が、廃業すべきということになります。
藤田氏の主張は根本から間違っています。指摘を受けてもまともな反論ができず、ごまかしと嘘を重ねることに。
藤田孝典さんのツイート
======【引用ここから】======
廃業、廃止を促すのは性風俗産業だけではないですよ。
過去には人材派遣業、外国人技能実習制度、劣悪な無料低額宿泊所、個別にはワタミ、電通、以前のZOZOなどにも、改善不可能なら廃業すべきでは、と意見表明してきました。
======【引用ここまで】======
搾取を理由に業種そのものの廃止を主張し、賃労働全般を搾取と位置付けたのだから、(NPOを含む)賃労働を行う全業種に対して廃業を求めるのが筋です。自分が嫌いな特定の業種・業者に対し廃業を求めたとしても、だからどうしたという話です。
これが、藤田氏のごまかし。
次に、ZOZOについてですが、ネット番組や新習志野駅での街宣活動を通して、派遣社員や非正規従業員の賃上げを要求してはいました。また、ユニオンへの加入を勧めていました。しかし、「ZOZOは廃業すべき」と述べたものがあったでしょうか。
これが、藤田氏の嘘。
(新習志野駅で出勤途中のZOZO従業員に対し
「ZOZOは廃業すべきだ」
なんて主張をして、実際に廃業されたら困るのは従業員でしょうよ。)
支援を求めてきた人の情報をネタにメディアや講演会で喋り、知名度を上げ、気に食わない知名人・業種・企業を「搾取だ」とつるし上げ、社会保障の拡充を求める。マルクス主義華やかなりし頃はこれでいっぱしの社会派学者・活動家になれたのでしょうが、今では「それが搾取なの?」と多くの人が言えるようになったわけでして。
その職業への適性や能力が無くとも、一旦採用されればろくな働きや成果を出さずとも給料を貰い続けることのできる大企業正社員・公務員と、その正社員の一時的欠員や時期的な過不足を調整するために利用される有期・低賃金の非正規労働者。正社員の地位が非正規労働者の存在によって保障されていて、非正規労働者よりも高給を得ている現状は、身分制度と呼ぶことができます。この身分制度・階級社会の中で、非正規労働者は正社員に搾取されているのです。
藤田氏は非正規労働者の低賃金を批判しているものの、正社員の解雇規制緩和・撤廃に反対しています。搾取側の正社員労組から資金援助を受け、仕事を貰う等、身分制度を擁護する側の広告塔として活動しているのが実態です。
マルクス主義と偏見の同居する藤田孝典氏。彼の職業差別問題については、これからも追及しようと思います。
どうもこんばんは、若年寄です。
今回は、AMEBAの番組のまとめ記事
性産業は廃止すべき?給付金対象外は職業差別? 賛成派と反対派、紗倉まなが激論(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース
を読んでの感想です。
【論点整理】
まず、このタイトルからも分かるかと思いますが、この番組での議論には論点が少なくとも2つは有ります。1.性産業を廃止すべきか否か?
2.性風俗店も持続化給付金の支給対象にすべきか否か?
です。
論点の組合せとしては、
①
1.性産業を廃止する必要はない。
2.性風俗店も持続化給付金の支給対象とすべき。
2.性風俗店も持続化給付金の支給対象とすべき。
②
1.性産業を廃止する必要はない。
2.性風俗店は持続化給付金の支給対象とすべきでない。
2.性風俗店は持続化給付金の支給対象とすべきでない。
③
1.性産業を廃止すべき。
2.廃止すべき業種を持続化給付金の支給対象とすべきでない。
2.廃止すべき業種を持続化給付金の支給対象とすべきでない。
( ④
1.性産業を廃止すべき。
2.現在存在する業種なので持続化給付金を支給すべき。
2.現在存在する業種なので持続化給付金を支給すべき。
も考えられるのですが、この論者は居なかったように思われるので除外 )
記事冒頭で
「まさにコロナ禍が浮き彫りにした職業差別であると思う。国民感情みたいな非常に曖昧な理由で差別をしてよいのかということに、しっかりと司法は向き合って答えを出すべきだと思う」
と主張する、訴訟を起こしたデリヘル経営者の代理人弁護士・亀石倫子氏や、番組に出演したSWASH代表の要氏は、①の論者に位置付けられます。
他方、ひろゆき氏は
「性風俗産業自体は“ご自由にやってください”と思う」
と述べつつ、新型コロナ感染症対策の観点から
「“肉体的接触をすることが商売だ”というビジネスを持続化するために税金を払うのはどうかと思っている。性風俗では必ず接触が伴うわけで、それに国がお金を払って続けてもらうのはおかしいのではないか」
と述べており、②の論者であることが分かります。
藤田孝典氏は、言うまでもなく、
「性暴力、性搾取を蔓延させている産業が調子に乗って、休業補償しろ、とか恥を知れ」
「性産業はなくなった方がいい、という認識の広がりが大事」
というガチガチの③論者。
私は、①に近い考え方を持っています。
以下、①の立場からまずは②を眺め、③を批判的に見ていきます。
そして最後は、途中で登場する「搾取」の論点についても見ていきましょう。
【性風俗店も持続化給付金の支給対象にすべきか否か?】
②の論者であるひろゆき氏のコメントから、給付金の対象とすべきか、外すべきかを見てみましょう。「今回のコロナに関していうと“肉体的接触をすることが商売だ”というビジネスを持続化するために税金を払うのはどうかと思っている。性風俗では必ず接触が伴うわけで、それに国がお金を払って続けてもらうのはおかしいのではないか。コロナが収まった後で栄えるのはいいと思うが、コロナの最中は止めた方がいいと思う」
「業種として、体液の交換がある業種はやはり感染リスクが高いので、現時点では国として進めるべき産業とは思っていない」
新型コロナウイルス感染症に関して出てきた給付金を、感染リスクの高い業種に交付するのは止めよう、という②論者の主張。
これは一見正しそうですが、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。
肉体的接触を伴う業種は、性風俗に限りません。理容師・美容師もそうですし、鍼灸・按摩・マッサージ店などもそうでしょう。また、肉体的接触だけでなく排泄物処理も行う介護職もいます。利用者客との接触を伴う業種は多数存在します。こうした業種が給付対象となっている中、性風俗産業を除外するのは、本当にリスクの度合いを判断しただけと言えるでしょうか。そこに職業蔑視が入っていないでしょうか。接触を伴う感染リスクの高い業種を給付金対象から外すべきという主張に従うならば、性産業のみならず多くの業種が除外されるはずです。売り上げの減少に加え、感染症対策で他業種以上に神経を使い経費も使ったであろう、という点ではいずれも共通しています。
もし仮に、最初から
「業種Aを対象としたA業持続化給付金」
という制度であったならば、
「A業でない性風俗産業は対象外ですよ」
という対応は適切だったと思います。
しかし実際には、
「基本的に全ての業種が対象です。ただ、国・地方公共団体、政治団体、宗教団体、性風俗産業は対象外」
という運営基準になっています。税法の関係を見たとき、実質的には性風俗産業だけを除外したものと言っていいでしょう。他業種と分けた基準は何なのか、感染するリスクと感染した際のリスクを考慮した上で設定した基準なのか、訴訟において政府当局担当者がどのように説明するのか見ものです。
以上、②論者に対する反論、疑問でした。
次に、③論者、すなわち性産業廃止論者の主張を見ていきましょう。
【性産業を廃止すべきか否か?】
ここからがメインです。③論者である藤田氏は、廃止すべき理由として、
「女性の弱い立場の性を利用しながら、公序良俗に違反するような形で経営がされてきているので、そこに公金を支給するというのは、社会的にその産業を認めることに繋がってしまうのでやめていただきたいと思う。そもそも性は売ってはいけない」
と述べています。
そもそも論として、
「女性は弱い」
「性を売ってはいけない」
という藤田氏の好悪が先行しています。藤田氏のパターナリスティックなおじさん感情に照らして女性全般を一括りに保護の対象とし、藤田氏の正義感に合致しない業種を否定する、という流れになっています。
藤田氏の頭の中には
「女性は弱者であり、主体的に職業選択できず、性産業に従事する人はやむにやまれずそこで働いているのだ」
という固定観念があります。藤田氏は、社会福祉士の業務を通して接した中から、
「性暴力、中には年齢を隠して児童が性風俗店で働いているというケースもある。知的障害、精神障害でやむにやまれずそこで働いていて、なかなか自分で判断がつかない方もいる」
という、自己のストーリーに合致する事例をピックアップして紹介しています。
通常なら、これで押し通すことができるのでしょう。
弱者である当事者の声を代弁するスタイルで自説を補強する、というのが藤田氏の手法です。
ところが、スタジオにいるのは、主体的に性産業で働く当事者、紗倉まな氏。紗倉氏は、次のようにツッコミます。
「藤田さんが仰っている扱われ方が不当だとか劣悪な環境という話は、一部のケースではないか。一部が法を犯しているからといって、全ての性風俗産業に当てはまるわけではないと思う」
「潰すか潰さないかと言われるとすごく極論だし、暴論だなと思う。例えば職業適性として、自分が主体的にやりたいと思って、自らの意思で選択して入っていく人たちもいると思う。少ない時間で効率よくお金を稼ぎたいとか、目標のためにお金を稼ぎたいとか、多様な意思で働いている方がいらっしゃる中で、なぜ潰すという結論に至らなくてはいけないのか。無理やりやらされている方がいるのであれば、もちろんそういった環境は是正されるべきだと思う。しかし、私のような主体的に働いている人間と無理やりやらされている人間の割合もわからない中で、負の側面だけを誇張して潰すという風に結び付けられることに違和感がある」
もう、この議論は終了したようなものです。紗倉氏の完封勝ちです。
「自称・弱者の代弁者」と「当事者」とでは説得力が違いますし、述べている内容も雲泥の差。
藤田氏の主張は、個別に支援や保護を必要とするケースが存在する事を示しているのみで、業種全体を廃止する理由にはなりません。その業種に主体的に、任意に参入している人が一人でも居る限り、その活動を妨げる根拠たり得ません。
藤田氏はこれに対し尚も食い下がり、
「社会保障や社会福祉の制度をきちんと充実させて、『本当に選んでいるんだ』と言えるような環境を作らないといけないと思っている。大学生が『授業料のために行かざるを得ない』、シングルマザーのお母さんが『子供を育てるためにセックスを売らないといけない』というような証言ばかりだ」
と、「主体的に選んでいる人はいない」という印象操作を試みるものの、主体的に選んでいる人が反証として目の前にいるわけです。藤田氏は、この番組ではいつもの手法が通用しないというのを事前に勉強してくるべきでした。
【主体的な職業選択を妨げる社会福祉士】
ありとあらゆる業種において、「自分に向いていると思って、好きでこの仕事を選んだ」
という人と、
「その時の人間関係や経済状況では、この仕事しか選びようがなかった」
という人とが存在します。
この中間的な
「いくつかの職業候補がある中で、この仕事が収入面や内容、強度の面で割が良かった」
「遊ぶ金が欲しくて、遊びにいく時間帯と仕事の時間帯とがちょうど良い」
という人もいて、それぞれの要素がグラデーションの濃淡を構成しています。
絶対的貧困の中で生きるためにやむを得ずその仕事を選ぶしかなかったという人に対して、社会福祉士が公営・民間の支援サービスに繋ぐのは良いことだと思います。また、借金の質として親に売られた人、暴力で連れ去られてその仕事に従事させられた人のケースについて、警察が介入し保護するのは有りだと思います。
こうした、貧困や暴力によって強いられる事例は、性産業に限ったものではありません。個別事例に対し支援や保護をするのは結構ですが、業種そのものを廃止する理由にはなりません。絶対的貧困の中で生きる人への支援や暴力で強制された人の保護と、その業種を主体的に選んだ人の職業選択を尊重することとは、矛盾せず両立します。「支援や保護を要する労働者が居るから、その業種を廃止すべきだ」という主張は、全ての業種にブーメランとして飛んでくる可能性がある危うい意見です。
藤田氏が、児童やシングルマザー、障害のある人から支援を求められた事は、その人達を支援する理由にはなりますが、しかし、目の前にいる、主体的に職業を選んでいる紗倉氏の仕事を廃止しろと主張する理由にはなりません。
社会福祉士が性産業従事者から「風俗を強要されている、辞めて生活保護を受けたい」と相談を受けたら、その相談に応じたら良いでしょう。しかし、社会福祉士が性産業従事者から「仕事は問題ないが、子供の預け先を悩んでいる」と相談を受けた時に、保育園やベビーシッターの利用方法を教えることなく「性産業は廃止されるべきです。風俗の仕事を辞めて生活保護を受けなさい」と指導するのは大きなお世話であり、その人の主体性や尊厳を踏みにじる高圧的・強権的・パターナリズム的な行為です。
①論者の要氏が
「藤田さんはネガティブな事情を背景に働く人たちが多いということをもって、風俗が無くなるべきということをよく言われるが、風俗に限らず一般的な仕事でも『本当はやりたくないけど生活のために』という事情でやっている人は多い。だからといってその産業は否定されないし、廃止論は出てこない。ネガティブな理由でやっている、仕事を選んでいるというのは別におかしい話ではない」
と述べているとおりです。
結局のところ、最初に戻るのですが、藤田氏の性産業廃止論の根拠としては、
「そもそも性は売ってはいけない」
という藤田氏の価値観、嫌悪感、偏見に過ぎません。
私は仕事柄、社会福祉士に接する機会が結構あるのですが、個別の支援ケースを検討している中で嫌悪感剥き出しに「あなたが就いている仕事はまともな仕事じゃありません。調子に乗るな、恥を知れ」なんて言い出す社会福祉士が居たら、その場から追い出しますね。
藤田氏が、社会福祉士の肩書を付けて公の場でこうした発言を発信し続けることで、
「社会福祉士ってこんな偏見を持つ人ばかりなの?相談して大丈夫なの?」
と思う人が増えてしまうのではないでしょうか。
もし、紗倉氏やその他の性産業従事者が、
「仕事の面で困ったことがあります」
と相談に来たのであれば、社会福祉士として藤田氏が応じればよいでしょう。しかし、
「私は自分の意思で仕事をやっています」
という成人に対し、その職業を否定するということは大きなお世話であり、それを公言して回るのは営業妨害であり、ひいては社会福祉士に対する信用失墜行為です。
【搾取?】
最後に、性産業従事者は搾取されている(だから性産業は廃止すべきだ)という流れで、「搾取」の論点が生じます。性産業は廃止すべき?給付金対象外は職業差別? 賛成派と反対派、紗倉まなが激論(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース
======【引用ここから】======
要氏の「他の労働も搾取があるのは一緒ではないか」との指摘には、「本人がやりたくないけどお金のためにやっているという状況は、お金がない人の状況を利用してやりたくないことをやらせているので、僕は搾取だと思う」と述べた。
======【引用ここまで】======
労働者が搾取されているのは、性産業だけなのでしょうか。
労働者が搾取されていることが、業種を廃止する理由になるのでしょうか。
いや待てよ。そもそも、搾取とはどういう状態なのでしょうか。
これについて、紗倉氏のコメントがこちら。
「搾取というのは、主体と客体を曖昧にする安易なマジックワードだと思う部分がある。一般的に第三者から見て搾取だと思っても、本人が搾取だと思わない限り搾取ではない」
「搾取」を「安易なマジックワード」と指摘する紗倉氏は鋭いと思います。
これに対し藤田氏は場外戦で
藤田孝典さんのツイート
======【引用ここから】======
セックスワークに限らず、賃労働全般が資本による労働搾取。
搾取とは「階級社会において、生産手段の所有者が、直接生産者からその労働の成果を取得すること」(広辞苑2018)
性労働も例外なく、性風俗事業者の搾取対象。
「本人が搾取だと思わない限り搾取ではない」は根本的に誤り。
======【引用ここまで】======
「セックスワークに限らず、賃労働全般が資本による労働搾取」
と述べ、反論した・・・つもりになっていますが、これは完全に墓穴を掘っています。
性産業廃止論者である藤田氏は、その廃止すべき根拠として性産業における搾取を挙げていました。ところが、紗倉氏の指摘に狼狽したのか、ろくに考えず反射的に「賃労働全般が搾取なんだ」と述べてしまったのです。しかも、本人が搾取と思っているかどうかは関係ないんだ、というおまけ付き。
さぁ大変。
自発的に契約を締結して賃金を受け取り労働力を提供する労働者の従事する産業全般が、廃業すべきということになります。
藤田氏の主張は根本から間違っています。指摘を受けてもまともな反論ができず、ごまかしと嘘を重ねることに。
藤田孝典さんのツイート
======【引用ここから】======
廃業、廃止を促すのは性風俗産業だけではないですよ。
過去には人材派遣業、外国人技能実習制度、劣悪な無料低額宿泊所、個別にはワタミ、電通、以前のZOZOなどにも、改善不可能なら廃業すべきでは、と意見表明してきました。
======【引用ここまで】======
搾取を理由に業種そのものの廃止を主張し、賃労働全般を搾取と位置付けたのだから、(NPOを含む)賃労働を行う全業種に対して廃業を求めるのが筋です。自分が嫌いな特定の業種・業者に対し廃業を求めたとしても、だからどうしたという話です。
これが、藤田氏のごまかし。
次に、ZOZOについてですが、ネット番組や新習志野駅での街宣活動を通して、派遣社員や非正規従業員の賃上げを要求してはいました。また、ユニオンへの加入を勧めていました。しかし、「ZOZOは廃業すべき」と述べたものがあったでしょうか。
これが、藤田氏の嘘。
(新習志野駅で出勤途中のZOZO従業員に対し
「ZOZOは廃業すべきだ」
なんて主張をして、実際に廃業されたら困るのは従業員でしょうよ。)
支援を求めてきた人の情報をネタにメディアや講演会で喋り、知名度を上げ、気に食わない知名人・業種・企業を「搾取だ」とつるし上げ、社会保障の拡充を求める。マルクス主義華やかなりし頃はこれでいっぱしの社会派学者・活動家になれたのでしょうが、今では「それが搾取なの?」と多くの人が言えるようになったわけでして。
【搾取構造を擁護しているのは藤田孝典氏】
なお、現代日本における最大の搾取構造は、正規・非正規労働者の身分格差にあります。その職業への適性や能力が無くとも、一旦採用されればろくな働きや成果を出さずとも給料を貰い続けることのできる大企業正社員・公務員と、その正社員の一時的欠員や時期的な過不足を調整するために利用される有期・低賃金の非正規労働者。正社員の地位が非正規労働者の存在によって保障されていて、非正規労働者よりも高給を得ている現状は、身分制度と呼ぶことができます。この身分制度・階級社会の中で、非正規労働者は正社員に搾取されているのです。
藤田氏は非正規労働者の低賃金を批判しているものの、正社員の解雇規制緩和・撤廃に反対しています。搾取側の正社員労組から資金援助を受け、仕事を貰う等、身分制度を擁護する側の広告塔として活動しているのが実態です。
マルクス主義と偏見の同居する藤田孝典氏。彼の職業差別問題については、これからも追及しようと思います。