若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

SEALDsの社会保障論 ~ お馴染みのばらまき論 ~

2015年10月09日 | 政治
SEALDsについては、彼らの立憲主義への理解がいまいちだという点について過去述べたが、それ以上に、彼らの社会保障に関する理解と主張には酷いものがある。

SEALDs SOCIAL SECURITY 
=====【引用ここから】=====
社会保障の分野では、生活保護などセーフティ・ネットの切り下げ、介護保険サービスの削減などが行われています。雇用についても、非正規雇用の拡大に加え、今後は派遣労働を永続化させかねない労働者派遣法の改正も目指しています。加えて、2017年の4月には消費税が10%に引き上げられる予定です。
 社会保障を中心とした再分配システムが再建されないまま消費税増税が行われれば、格差拡大はますます進行します。

=====【引用ここまで】=====

社会保障の問題は、人口問題と密接にリンクしている。日本では、1990年代をピークに生産年齢人口は減少に転じている。総人口が減少し、生産年齢人口が減少する中、高齢者は増え続けている。2040年には高齢化率が35%を超える見込みだ。現状における年金、医療、介護の給付水準を維持するだけでも、消費税は10%どころか30%でも足りなくなると言われている。

これから採りうる選択肢としては、

社会保障給付を大幅に削減し、消費税を減税するか、
社会保障給付を削減し、消費税を据え置くか、
社会保障給付を据え置き、消費税を増税するか、
格差拡大を是正するために社会保障給付を拡充し、消費税を大幅に上げるか、

というくらいだろう。
(あるいは、負の所得税を導入して、様々な分野にまたがる複雑怪奇な社会保障給付を廃止・一本化して簡素化できれば、ベストではないが現行システムよりずっとましな再分配システムになると思うが、実現への道筋はどうすればよいか見当がつかない。)

生活保護の切り下げや介護保険サービスの削減を非難すると同時に消費税10%を非難するSEALDsの主張は、上記のいずれにも当てはまらない支離滅裂なものである。「給付は増やそう、負担は減らそう」というのは、古くから選挙の時だけ政治家が繰り返し言ってきた甘~い「買収」言説である。

高齢者による「給付は増やすかせめて現状維持、負担は減らしてほしい。ツケは後の世代がどうにかするだろう」といった主張は、短期的には合理的、20年位のスパンでは寿命により無関係となるので、高齢者が自己利益を最大化しようと上記主張をするのは納得できる。しかし、同じ主張を若い学生団体である(はずの)SEALDsが唱えているというのは理解に苦しむ。SEALDsとその賛同者だけで今後の社会保障の負担増を背負うという壮大な決意表明であれば非常に結構なことだが、同世代の他の者を社会保障給付の青天井の増加に巻き込むというのはただの無責任である。

=====【引用ここから】=====
いま求められているのは、国家による、社会保障の充実と安定雇用の回復を通じた人々の生活の保障です。過酷な業務や残業代の出ない長時間労働によって、働く人々の生活を脅かすブラック企業の問題も、近年問題とされています。政府には、労働者の生活を保障するためにこうした企業を規制していく責任があります。長期的にみれば、安定した社会保障や雇用保障の実現は国民の生活を守るだけでなく、健全な経済成長をもたらす基盤ともなるはずです。
=====【引用ここまで】=====

「過酷な業務や残業代の出ない長時間労働は、正社員の安定雇用と表裏一体のものである」という指摘は、随所でなされている。たとえ過酷な業務や残業代の出ない長時間労働の職場であっても、再就職先が無ければおいそれと辞職することができない。再就職先がないから、使用者の無理難題に耐えて今の職にしがみ付かないといけないのだ。再就職先が少ない一因は、多くの会社で今なお終身雇用制を採っていて中途採用数が少ない点にある。雇用の流動性を高め「ここの条件が悪ければ他所で働くぞ」という圧力をかけることができれば、これが労働環境の改善につながる。

人手不足な時期とそうでない時期とがある中で、人手不足な時期に合わせて正社員を雇用すると、会社としては大変なことになる。売り上げが下がって人手不足でない時期に必要ない人件費を払い続ければ、経営が傾きかねない。

正社員を解雇するための法的なハードルが高いため、企業は臨時・派遣社員で人手不足な時期を乗り切るか、少ない正社員を過酷な状況で働かせることで対処しようとする。正社員の解雇規制が、回りまわって過酷な労働環境となって正社員の首を絞めるのと同時に、雇用の調整弁として利用される不安定な派遣の問題を引き起こしている。

長期的にみれば、安定した社会保障や雇用保障の実現は国民の生活を脅かすだけでなく、健全な経済成長を蝕む元凶となっている。

=====【引用ここから】=====
 私たちが望むのは、格差の拡大と弱者の切り捨てに支えられたブラックな資本主義ではなく、豊かな国民生活の実現を通じた、健全で公正かつ持続可能な成長に基づく日本社会です。私たちは、多くの国民の生活を破壊しかねない現政権の経済政策に反対します。そして、公正な分配と健全な成長政略を尊重する政治を支持します。
=====【引用ここまで】=====

ブラック企業をはじめ現在の日本で見られる多くの問題は、資本主義の問題ではない。政府の規制によって生じた歪みのシワ寄せであったり、持続不可能な制度設計に原因があり、こうした規制や制度設計しか出来ない政府の存在そのものから生じる問題である。これは誰が政権を担っても同じことであり、政府と選挙システム、官僚機構に内在する原理的なものといってよい。

アベノミクスの金融政策をはじめとする現政権の経済政策は多くの国民の生活を破壊しかねない、という点には同意する。だが、SEALDsの呼びかける共産党中心のリベラル勢力の結集によって新政権ができ上がったら、社会保障給付の増加による社会保障負担の増加、雇用の流動性低下、経済活動の停滞によって多くの国民の生活は壊滅的な被害を受けるだろう。

フワフワっと「公正な分配と健全な成長政略を尊重する政治を支持します。」と口で言うのは簡単だが、具体的にどうやったら公正な分配が可能となるのか、具体的にどうやったら健全な成長が可能となるのかについての言及、提言がなければ、官僚機構に良いようにされるのがオチだ(具体的に提言したところで、政府の手を借りて再分配をしようとしたら、官僚機構に良いようにされるだろうけど。)。

こうした点から、社会保障に関するSEALDsの主張は全く支持できない。

市場は万能ではない。しかし、市場でできないことを政府にやらせようとしても、無理なものは無理である。
コメント
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