ちょっと前に、ノーベル経済学賞の事が話題になりました。
ノーベル経済学賞を受賞したカードによる最低賃金の研究をどこよりもわかりやすく解説! | 「原因と結果」の経済学 | ダイヤモンド・オンライン
======【引用ここから】======
この問題に挑んだのがカリフォルニア大学バークレー校のデビッド・カードとプリンストン大学のアラン・クルーガーである。彼らは、ニュージャージー州とペンシルベニア州の境界をまたいで隣り合う郡に着目した。アメリカでは、最低賃金の変更は州ごとに行われるので、1992年にニュージャージー州だけは最低賃金を4.25ドルから5.05ドルに上げ、ペンシルベニア州では据え置かれるということが起こった。
----(中略)----
カードらの分析の結果、最低賃金の上昇は雇用を減少させないことが明らかになった(注1)。また、最低賃金の上昇は、ニュージャージー州の企業による価格の上昇をもたらしていることも明らかになった。つまり、企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、価格に転嫁することによって切り抜けようとしたのである。
======【引用ここまで】======
RIETI - ノーベル経済学賞に米3氏 「自然実験」で因果関係推定
======【引用ここから】======
両氏は問題解決のため、ペンシルベニア州東部と同一の経済圏に属するニュージャージー州で、92年に最低賃金が引き上げられたことに注目した。低賃金労働者が多いファストフード店の雇用変動を調べると、多くの経済学者の予想に反して、最低賃金が引き上げられたニュージャージー州の雇用はペンシルベニア州東部に比べ若干増えていた。
----(中略)----
理論面でも、最低賃金の引き上げが雇用を減らさない理由として、現状の労働市場では、企業が賃金を決める力を持つ状態(モノプソニー)が成立しているとする仮説が注目された。
======【引用ここまで】======
この、モノプソニーとは何でしょうか。
日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける | 国内経済 | 東洋経済オンライン | デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長
======【引用ここから】======
「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します。つまり低賃金なのは一種の「搾取の結果」であり、必ずしもその人が低スキルだからではないと考えるのです。
======【引用ここまで】======
強い力をもつ企業が労働者を搾取する・・・懐かしい響きですね。
真新しい概念であるどころか、古い古いマルクス主義を焼き直しただけの主張です。こんな古い概念が今さらになってノーベル経済学賞を取ったのかと驚く方もいるかもしれません。ノーベル平和賞と経済学賞はいつものことながら眉唾ものです。
さて。
この「モノプソニー」による搾取が生じるのはどういうメカニズムなのか。上記のアトキンソン氏が解説しています。ちょっと長くなりますがご覧ください。
日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける | 国内経済 | 東洋経済オンライン | デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長
======【引用ここから】======
以下のケースをご覧ください。最低賃金の引き上げによって企業が雇用を増やすメカニズムが明白になります。
時給1000円で1000人を雇用している企業があり、同じ仕事をする人をもう1人新たに雇用すると、1時間あたり1200円の収益が上がるとします。この場合、労働市場が完全競争だと1200円の時給を払わないといけないのですが、「モノプソニー」の力が働くと1000円で雇えるため、利益が200円も余計に増えます(この200円が「搾取」にあたります)。
労働市場の状況が変わって1000円で雇える人がいなくなり、新しい人を雇用するには時給1100円を払わなくてはいけなくなったとします。これでも、この新しい人は高い利益率を生み出すのですが、企業はこの人を雇わないと考えられます。
なぜなら、新しい人に時給1100円を支払うと、すでに雇用されて同じ仕事をしている1000人の時給も、1000円から1100円に引き上げなければならないからです。この場合の人件費の増加は、新しい人に支払う1100円だけではなく、1000人×100円+1100円=10万1100円となります。たとえ赤字にならないとしても、利益が大きく削られることになるので、新しい人が雇われることはありません。
このケースで、仮に政府が最低賃金を1100円に上げると、新しい人を雇うにせよ雇わないにせよ、既存の1000人の時給は1100円にしなくてはいけなくなります。この場合、経営者にとって、新しい労働者を雇うことで生まれる新たなコストは時給分の1100円だけです。1200円の収益は超えていませんから、削られた過剰利益を少しでも取り戻すために、新しく人を雇います。
これが、「モノプソニー」による搾取の範囲内なら、最低賃金を引き上げても、雇用が減るどころか増えることになるメカニズムです。
======【引用ここまで】======
この説明では、ある企業の限界生産性が1時間あたり1,200円であると簡単に説明されています。限界生産性が1,200円なのに、1,000円で雇用している、1,000円で雇用できてしまう最低賃金はおかしい、この差額200円が搾取されている、という主張です。
アトキンソン氏は、限界生産性が1,200円の企業であれば、労働市場の状況が変わって1,000円から1,100円になった際に、最低賃金を1,100円に引き上げれば雇用が増える、と力説します。
しかし、これを可能にするためには、
・企業の限界生産性が1,200円であることが事前に分かっている。
・労働市場が1,000円から1,100円になった。
・今だ!1,100円に最低賃金を引き上げろ!
という金額の大小関係が成り立つ地域とタイミングでの政策決定ができる場合に限られます。
私、企業の限界生産性を正確に1円単位まで計算できたものを見たことが無いんですよ。ましてや、ある地域全体における限界生産性の水準を1円単位でとなると、断言しましょう、不可能ですよ。最低賃金を計算するための推計なんですから、もちろん1円単位でお願いします。
もし、このカード氏らの研究で、この限界生産性を事前に推計し、A州では4.5ドル、B州では5.0ドルと予想したうえで、AB両州が最低賃金4.2ドルから4.8ドルに引き上げ、A州では失業が増えB州では雇用が増えたという観測が出来たなら、
「すごい!!!!」
って思いますよ。
でも、そういった実証をしたわけではありません。ニュージャージー州はたまたま5.05ドルに引き上げ、隣のペンシルベニア州ではたまたま最低賃金を据え置いただけです。そのたまたまの結果から、こういう因果関係が成り立つのではないかという仮説を述べたに過ぎません。
「データ分析に基づいて「モノプソニー」の力を測り、その範囲内で適切に、毎年最低賃金を引き上げていくと同時に、中小企業の統廃合を進めて規模を拡大し、産業構造を強化するべきだ」
と主張します。
しかし、どうやって限界生産性を正確に掴み、その範囲内で最低賃金を上げるということができるのでしょうか。その点に関する実績が無いにも関わらず、「これが日本を救う道」と大言壮語しているのです。データ分析をミスって限界生産性を超えた最低賃金引上げをやってしまった場合の責任をアトキンソン氏は取らないし、取れないというのに。
アトキンソン氏がやるべきは、日本全体における限界生産性という雲を掴むような話ではなく、小西美術工藝社という自身が経営する会社の限界生産性を正確に把握し、その限界まで従業員の賃金を引き上げることです。
日本では県ごとに最低賃金を設定しています。県の規模で限界生産性を1円単位で把握するのは不可能じゃなかろうかと思うのですが、アトキンソン氏ほどのデータ分析のプロであれば、自身が経営する会社の限界生産性を把握する位ならどうにかなるんじゃないですかね。
ところで、冒頭のダイヤモンド・オンライン記事では、
「最低賃金の上昇は、ニュージャージー州の企業による価格の上昇をもたらしていることも明らかになった。つまり、企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、価格に転嫁することによって切り抜けようとした」
と解説があります。
小西美術工藝社では、限界生産性まで従業員の賃金を引き上げた際、価格に転嫁するのでしょうか。それとも、数年前に流行った
#くいもんみんな小さくなってませんか日本
みたいな事をするのでしょうか。アトキンソン氏がどこにしわ寄せをするのか、興味深く見守りたいと思います。
アトキンソン氏は、モノプソニーの説明の中で、
「「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します」
と述べています。
売り手たる労働者が多く買い手たる企業が少ない買い手市場では、モノプソニーが容易に成り立ちます。逆に、様々な賃金・労働条件を提示して雇用を求める企業が多数存在する売り手市場では、企業が労働者の足元を見て買い叩くのは難しくなります。
モノプソニーの成立を妨げるためには、買い手たる企業が多数いること、雇用が流動的であることが必要です。本来であれば、雇用の流動性を高めるために解雇規制を撤廃し、企業の新規参入を妨げる各種規制も撤廃し、多数の買い手が出現できる状況を目指すべきです。
ところが、モノプソニーの弊害を強調するアトキンソン氏であるにもかかわらず、
「データ分析に基づいて「モノプソニー」の力を測り、その範囲内で適切に、毎年最低賃金を引き上げていくと同時に、中小企業の統廃合を進めて規模を拡大し、産業構造を強化するべきだと強調してきました。」
と、買い手の数を少なくして統廃合を進めよ、いわば寡占化を進めよと述べてコラムを締めくくっているのです。
アトキンソン氏の主張に沿った政策が実現すれば、寡占化した企業の下でモノプソニーの強化が図られ、最低賃金は「当たるも八卦当たらぬも八卦」な限界生産性予想に基づく引上げが行われ、外れれば失業者が増えるという世の中になります。
当たれば雇用は増えるかもしれませんが、その増えた雇用で、企業から政府へデータ提供事務とかをやらせるのでしょう。
嫌だなぁ。
ノーベル経済学賞を受賞したカードによる最低賃金の研究をどこよりもわかりやすく解説! | 「原因と結果」の経済学 | ダイヤモンド・オンライン
======【引用ここから】======
この問題に挑んだのがカリフォルニア大学バークレー校のデビッド・カードとプリンストン大学のアラン・クルーガーである。彼らは、ニュージャージー州とペンシルベニア州の境界をまたいで隣り合う郡に着目した。アメリカでは、最低賃金の変更は州ごとに行われるので、1992年にニュージャージー州だけは最低賃金を4.25ドルから5.05ドルに上げ、ペンシルベニア州では据え置かれるということが起こった。
----(中略)----
カードらの分析の結果、最低賃金の上昇は雇用を減少させないことが明らかになった(注1)。また、最低賃金の上昇は、ニュージャージー州の企業による価格の上昇をもたらしていることも明らかになった。つまり、企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、価格に転嫁することによって切り抜けようとしたのである。
======【引用ここまで】======
RIETI - ノーベル経済学賞に米3氏 「自然実験」で因果関係推定
======【引用ここから】======
両氏は問題解決のため、ペンシルベニア州東部と同一の経済圏に属するニュージャージー州で、92年に最低賃金が引き上げられたことに注目した。低賃金労働者が多いファストフード店の雇用変動を調べると、多くの経済学者の予想に反して、最低賃金が引き上げられたニュージャージー州の雇用はペンシルベニア州東部に比べ若干増えていた。
----(中略)----
理論面でも、最低賃金の引き上げが雇用を減らさない理由として、現状の労働市場では、企業が賃金を決める力を持つ状態(モノプソニー)が成立しているとする仮説が注目された。
======【引用ここまで】======
この、モノプソニーとは何でしょうか。
日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける | 国内経済 | 東洋経済オンライン | デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長
======【引用ここから】======
「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します。つまり低賃金なのは一種の「搾取の結果」であり、必ずしもその人が低スキルだからではないと考えるのです。
======【引用ここまで】======
強い力をもつ企業が労働者を搾取する・・・懐かしい響きですね。
真新しい概念であるどころか、古い古いマルクス主義を焼き直しただけの主張です。こんな古い概念が今さらになってノーベル経済学賞を取ったのかと驚く方もいるかもしれません。ノーベル平和賞と経済学賞はいつものことながら眉唾ものです。
さて。
この「モノプソニー」による搾取が生じるのはどういうメカニズムなのか。上記のアトキンソン氏が解説しています。ちょっと長くなりますがご覧ください。
日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける | 国内経済 | 東洋経済オンライン | デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長
======【引用ここから】======
以下のケースをご覧ください。最低賃金の引き上げによって企業が雇用を増やすメカニズムが明白になります。
時給1000円で1000人を雇用している企業があり、同じ仕事をする人をもう1人新たに雇用すると、1時間あたり1200円の収益が上がるとします。この場合、労働市場が完全競争だと1200円の時給を払わないといけないのですが、「モノプソニー」の力が働くと1000円で雇えるため、利益が200円も余計に増えます(この200円が「搾取」にあたります)。
労働市場の状況が変わって1000円で雇える人がいなくなり、新しい人を雇用するには時給1100円を払わなくてはいけなくなったとします。これでも、この新しい人は高い利益率を生み出すのですが、企業はこの人を雇わないと考えられます。
なぜなら、新しい人に時給1100円を支払うと、すでに雇用されて同じ仕事をしている1000人の時給も、1000円から1100円に引き上げなければならないからです。この場合の人件費の増加は、新しい人に支払う1100円だけではなく、1000人×100円+1100円=10万1100円となります。たとえ赤字にならないとしても、利益が大きく削られることになるので、新しい人が雇われることはありません。
このケースで、仮に政府が最低賃金を1100円に上げると、新しい人を雇うにせよ雇わないにせよ、既存の1000人の時給は1100円にしなくてはいけなくなります。この場合、経営者にとって、新しい労働者を雇うことで生まれる新たなコストは時給分の1100円だけです。1200円の収益は超えていませんから、削られた過剰利益を少しでも取り戻すために、新しく人を雇います。
これが、「モノプソニー」による搾取の範囲内なら、最低賃金を引き上げても、雇用が減るどころか増えることになるメカニズムです。
======【引用ここまで】======
この説明では、ある企業の限界生産性が1時間あたり1,200円であると簡単に説明されています。限界生産性が1,200円なのに、1,000円で雇用している、1,000円で雇用できてしまう最低賃金はおかしい、この差額200円が搾取されている、という主張です。
アトキンソン氏は、限界生産性が1,200円の企業であれば、労働市場の状況が変わって1,000円から1,100円になった際に、最低賃金を1,100円に引き上げれば雇用が増える、と力説します。
しかし、これを可能にするためには、
・企業の限界生産性が1,200円であることが事前に分かっている。
・労働市場が1,000円から1,100円になった。
・今だ!1,100円に最低賃金を引き上げろ!
という金額の大小関係が成り立つ地域とタイミングでの政策決定ができる場合に限られます。
【限界生産性を1円単位で正確に予測する?】
ノーベル経済学賞をとったカード氏の1992年ニュージャージー州の事例でも、事前に限界生産性を把握していた訳ではありません。最低賃金を5.05ドルに引き上げたが雇用が減らず若干増えたという現象から、おそらく、ニュージャージー州のこの当時の多くの企業での限界生産性が5.05ドルを少し上回っていたのだろう、という推測が成り立つに過ぎません。私、企業の限界生産性を正確に1円単位まで計算できたものを見たことが無いんですよ。ましてや、ある地域全体における限界生産性の水準を1円単位でとなると、断言しましょう、不可能ですよ。最低賃金を計算するための推計なんですから、もちろん1円単位でお願いします。
もし、このカード氏らの研究で、この限界生産性を事前に推計し、A州では4.5ドル、B州では5.0ドルと予想したうえで、AB両州が最低賃金4.2ドルから4.8ドルに引き上げ、A州では失業が増えB州では雇用が増えたという観測が出来たなら、
「すごい!!!!」
って思いますよ。
でも、そういった実証をしたわけではありません。ニュージャージー州はたまたま5.05ドルに引き上げ、隣のペンシルベニア州ではたまたま最低賃金を据え置いただけです。そのたまたまの結果から、こういう因果関係が成り立つのではないかという仮説を述べたに過ぎません。
【アトキンソン氏がすべきこと】
アトキンソン氏は、「データ分析に基づいて「モノプソニー」の力を測り、その範囲内で適切に、毎年最低賃金を引き上げていくと同時に、中小企業の統廃合を進めて規模を拡大し、産業構造を強化するべきだ」
と主張します。
しかし、どうやって限界生産性を正確に掴み、その範囲内で最低賃金を上げるということができるのでしょうか。その点に関する実績が無いにも関わらず、「これが日本を救う道」と大言壮語しているのです。データ分析をミスって限界生産性を超えた最低賃金引上げをやってしまった場合の責任をアトキンソン氏は取らないし、取れないというのに。
アトキンソン氏がやるべきは、日本全体における限界生産性という雲を掴むような話ではなく、小西美術工藝社という自身が経営する会社の限界生産性を正確に把握し、その限界まで従業員の賃金を引き上げることです。
日本では県ごとに最低賃金を設定しています。県の規模で限界生産性を1円単位で把握するのは不可能じゃなかろうかと思うのですが、アトキンソン氏ほどのデータ分析のプロであれば、自身が経営する会社の限界生産性を把握する位ならどうにかなるんじゃないですかね。
ところで、冒頭のダイヤモンド・オンライン記事では、
「最低賃金の上昇は、ニュージャージー州の企業による価格の上昇をもたらしていることも明らかになった。つまり、企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、価格に転嫁することによって切り抜けようとした」
と解説があります。
小西美術工藝社では、限界生産性まで従業員の賃金を引き上げた際、価格に転嫁するのでしょうか。それとも、数年前に流行った
#くいもんみんな小さくなってませんか日本
みたいな事をするのでしょうか。アトキンソン氏がどこにしわ寄せをするのか、興味深く見守りたいと思います。
【アトキンソン氏の矛盾】
最後に、アトキンソン氏のコラムの中で辻褄の合わない部分を指摘したいと思います。アトキンソン氏は、モノプソニーの説明の中で、
「「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します」
と述べています。
売り手たる労働者が多く買い手たる企業が少ない買い手市場では、モノプソニーが容易に成り立ちます。逆に、様々な賃金・労働条件を提示して雇用を求める企業が多数存在する売り手市場では、企業が労働者の足元を見て買い叩くのは難しくなります。
モノプソニーの成立を妨げるためには、買い手たる企業が多数いること、雇用が流動的であることが必要です。本来であれば、雇用の流動性を高めるために解雇規制を撤廃し、企業の新規参入を妨げる各種規制も撤廃し、多数の買い手が出現できる状況を目指すべきです。
ところが、モノプソニーの弊害を強調するアトキンソン氏であるにもかかわらず、
「データ分析に基づいて「モノプソニー」の力を測り、その範囲内で適切に、毎年最低賃金を引き上げていくと同時に、中小企業の統廃合を進めて規模を拡大し、産業構造を強化するべきだと強調してきました。」
と、買い手の数を少なくして統廃合を進めよ、いわば寡占化を進めよと述べてコラムを締めくくっているのです。
アトキンソン氏の主張に沿った政策が実現すれば、寡占化した企業の下でモノプソニーの強化が図られ、最低賃金は「当たるも八卦当たらぬも八卦」な限界生産性予想に基づく引上げが行われ、外れれば失業者が増えるという世の中になります。
当たれば雇用は増えるかもしれませんが、その増えた雇用で、企業から政府へデータ提供事務とかをやらせるのでしょう。
嫌だなぁ。