大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

千早 零式勧請戦闘姫 2040・12『付喪神 金立波の斎藤道三』

2025-02-18 10:35:41 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
12『付喪神 金立波の斎藤道三』 




 横の草むらから波が現れた。

 波と言っても本物の波では無く『入』の漢字の両脇に水玉があしらわれたデザイン文字のようなもので、一つだけが金色のハガキ大、残りのその他大勢はうすぼんやりした銀の名刺大で、半ば透き通ってグニャグニャしている。それが、ワチャワチャしながら草むらから出てくる様子は、幼児向けアニメのホログラムが投影されたみたいで、ちょっと微笑ましい。

 あ、この波は……斎藤道三の立波?

 岐阜県の子どもなら、小学校や中学校で一度は習った美濃の国の英雄斎藤道三のトレードマーク『立波の紋所』だと、ピンとくる。

 ガシャガシャ

 沢山のヨロイが揺すれるような音がして波が停まった。

 停まると同時に銀波たちが金波を守るように囲んだ。

 金波は銀波たちをなだめるように左右を見てから口をきいた。

――卒爾ながら、貴殿は零式勧請戦闘姫であられるか?――

 言われて、自分の姿を意識すると、きのうソーラーパネルたちと戦った時のウズメの姿になっている。
 ここのところ怪異が続いている千早だが、なんとか凌いでこられた。波たちに害意も感じられず、落ち着いて金波に訊ねることができた。

「ああ……うん。そうだけど、あなたたちは?」

――儂は、斎藤道三の兜の前立てじゃ――

「前立て?」

――ほれ、兜の前に金色の飾りが付いておろうが――

「ああ、あの角みたいなのね」

――さよう。儂は、道三入道が最後の戦をした時に、外れて地に埋もれた前立てなのじゃ――

「それって……」

 付喪神(つくもがみ)という言葉が浮かんだ。

 長年大事に使われた物は神や精霊を宿して付喪神になると言われている。

――長年草の中に埋もり、このあたりの精霊どものたばねとなった。近ごろ、このあたりも剣呑になってきて、しばらくは巡邏しておったが、いささか手に負えぬようになってのう、不本意ながら郎党どもを引き連れて一時避難の途中でござる――

「銀波は、その郎党たち?」

「いかにも、背後にこのあたりの精霊たちが続いてござる。立波の紋を現わしておれば、いくらかの魔よけには成り申すでな」

「ああ……でも、ここにいたソーラーパネルは昨日やっつけたわよ」

 ワチャワチャワチャ……銀波たちがざわつくのを制して金波が続ける。

「そうか、あれを退治したのは戦闘姫どのであったか。これは礼を申さなければならぬな。かたじけのうござった」

 ワチャ

 波たちの『入』が一瞬そよぐ。お辞儀をしたということらしい。

「あ、あ、どうもぉ(^_^;)」

 お礼を催促したみたいになって、千早は恐縮して頭を掻くが、その手は途中で停まってしまう。

「……それじゃ、なぜ逃げるの?」

――あれでござるよ……――

 金波は波の先を横に向けて学校の向こうを差した。

「学校の向こう……九尾丘?」

――さよう、ちとお耳を拝借――

 言うと金波はピョンと地面を蹴って千早の肩に載った。

 ちょっとビックリした千早だが、戦闘姫らしく鷹揚に耳を傾ける。

――じつは九尾山の……が……でござるよ――

「え、ええ!?」

――じゃによって、暫時戦略的撤退でござる――

「そ、そうなんだ」

――戦闘姫が立たれるのは実に二百年ぶり、我らも勇気百倍でござるが、敵も強うござる。ご自愛めされよ、またお目にかかり申そう!――

 クルリン!

 空中一回転したかと思うと、遠足の時に郷土資料館で見た通りの、でも縮尺1/12、フィギュアサイズの斎藤道三に変身。馬に跨って銀波たちを引き連れて犬山方面に消えて行ってしまった。

 チリン

 かわいい鈴音がして、再び時間が動き始め、千早は元の制服姿に戻ると、眠そうな顔をした貞治と並んで家に帰った。



 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中           農協の営業マン
  • 先生たち         宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち
  • 神々たち         スクナヒコナ
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・182『ナースチャが英字新聞で驚いた件』

2025-02-17 11:18:32 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
182『ナースチャが英字新聞で驚いた件』   





 移動教室のために廊下を歩いていると校長先生が向こうからやってくる。

 わたしも仲間も行儀のいい部類に入るので、きちんとお辞儀をする。

 年末に巫女さんの真似事をやった(163~167)こともあって、わたしらのお辞儀はキチンとしている。
 男子でお辞儀をするのはたみ子の従兄でもある高峰君ぐらい。10円男は相手がだれであろうとお辞儀なんかしない。

 ナースチャは優雅に小首をかしげるようなお辞儀。それも、きちんと相手の顔を視野に捉えて。相手の目を見つめることはないけど、視野に捉えていることで親愛感が自然に出ている。学習院で皇族の子弟がなさっているような(想像だけど)お辞儀。ま、なんたってロシア皇帝の第四皇女だからね、できがちがう。

 ちょっとビックリしたような顔で頷くようにお辞儀を返してくれる校長先生。

「校長、ビビってたぞぉ」

 10円男が下品なことを言う。無視。

「なにか屈託のある顔でしたねえ」

 ロコは少し心配が混じった好奇心。

「まあ、年度末だからね」

「いろいろあるんだろうねえ」

「…………」

 真知子とたみ子は少し大人の反応。佳奈子は、こういう細かい話には食いついてこない。

 
 わたしには分かった。


 杉野先生のこと、新聞に出ることは無いと教育委員会の知り合いから電話があったんだ。

 しょぼくれた校長先生だけど、意外と人脈は広い感じ。

 退職したら県教委のいいポジションだか県立大学の口だとかが約束されてたみたいだけど、今度の杉野先生の件ではいろいろ走り回ったみたい。

 でも、その甲斐もなく新聞社に情報を掴まれ万事休す!

 と思ったら――マスコミが興味を失った――と連絡があったんだ。

 去年の自殺騒ぎで、マスコミの車が学校を取り巻く事態にまでなって、校長先生は、これ以上学校が書き立てられる事態を防ぎたかったんだ。

 集会の度に『四当五落』とか受験のことしか言わない人だけど、ちゃんと生徒のことを一番に考えている。


 移動教室の化学実験室まで行くと実習助手のAさんが不機嫌そうな顔(この人、不機嫌以外の顔見たことないんだけど)で宣言した。

「樫山先生、この授業には間に合わないから自習……ちょ、ストーブ点けんな!」

 ストーブを付けようとした男子を𠮟りつける。

「自習は教室か図書室で、ここは閉めるからなあ」

 樫山先生は乗ってたバスが事故って間に合わないらしい、それでAさんに生徒たちに伝えて欲しいと連絡があったんだ。

 Aさんは、ちょっとしたことでもイレギュラーなことを頼まれると不機嫌になる人みたい。


 仕方が無いので図書室へ行く。


 みんな適当に教科書やノートを広げて、ボンヤリしたり小声でお喋りしたり。名目通り自習しているのは数えるほど。

 ナースチャは英字新聞を読んでいる。日本語も読めるんだけど、ストレスなしに読めるのはロシア語とフランス語、次に英語みたい。

「О, я не могу в это поверить!(おお、信じられない!)」

 時どきロシア語で呟くナースチャ。

 何事かと覗き込むと、先月、南の島で発見された元日本兵のおじさんのニュース。

「戦争終わって27年もたってるのにバカみたいよ!」

 わりと大きな声だったので、遅れて入ってきた10円男やロコたちが寄ってきた。

「軍国主義の犠牲者だな」「なんだかロビンソンクルーソー」「なんか怖い」「英字新聞は周回遅れかなぁ」

 ああ、お祖母ちゃんが言ってたなあ。

「戦後二十年も三十年も経っても発見される日本兵がいる」って。

 お祖母ちゃん、写真も見せてくれたけど、ナースチャが広げてる新聞の写真とは違う。戦闘帽もキチンと被ってビシッと敬礼している姿だったと思う。

 文学の書架をあさっていた真知子が振り返って、小さく叫んだ。

「そうだ、久々にMITAKA(みんなで楽しく語る会)やろうよ!」

 ああ、いいねえ(^▽^)/

 みんなが返事して、さすがに司書のYさんに叱られてしまった(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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銀河太平記・279『メグミと青銅の騎士を調べる』

2025-02-16 11:09:45 | 小説4
・279

『メグミと青銅の騎士を調べる』 テル 




 子どもに飽きられたオモチャみたいに転がされていたのよしゃ。

 あちこち塗装も剥げてチタン合金の肌が剥き出しになって、図体が大きい分、みすぼらしさも増幅って感じなのよしゃ。

「なにやってんのよしゃ?」

「馬で引きずって来て無造作に投げ出したんだろうけど……」

 立ったまま青銅の騎士の姿勢を真似するメグミ。

 上げた右手の手首を頭の上で横に曲げ、左手は胸の上でヨダレを受け止めるようなかたち。両脚は死体みたいに内側に曲がってるんだけど、右脚が膝のところで直角に曲がって、左脚の上に載ってる。

 つられて、テルも真似してしまうのよしゃ(^_^;)。

 赤塚不二夫のイヤミのポーズ!?

 二人同時に思いついて、思わず「「シェーー!!」」ってシンクロしてしまったのよしゃ!

「アハハハハ(^▢^;)」

「お互い、古典マンガに詳しいみたいなのよしゃ(^▭^;)」

「そういや、テル博士は……」

「……チビ太?」

 前髪をグイっと上げてハゲみたいにしてみしぇた。

「アハハ、あ、いや……こうしちゃえばぁ」

 メグミはテルの前髪をピシッとそろえて、ハンベをミラーにして映したのしゃ。

「おお、ピノコぉ!」

「「アッチョンプリケ!」」

 アハハハハハ((´∀`))

 声が揃って笑ってしまう。

 これは、おかえしをしなきゃなのしゃ……!

「ちょっと、しゃがんで」

「ん?」

「こうやるとぉ……」

 メグミの髪を手で小さなツインテールにしゅる。

「秘密のアッコちゃん!」

「おお……遊んでないで調査しましょう」

「あ、そうなのよしゃ!」


 やっとレギュラーな気分に戻して青銅の騎士を調査!


「……図体が大きいのは核融合エンジンが小型化しきれてないせいねえ」

「三次元ICも前世紀の水準……通信速度を上げるのに、ケーブルの太さだけで対応してるのよしゃ」

「バリアーを張る機能も無いし……馬力だけで勝負って感じ……」

「ボディーの装甲厚を上げれば、もう8%ぐらいは剛性が上がるのよしゃ……でもしゃ……」

「そうすれば、俊敏性が犠牲になるし……」

「載せる馬は、倍以上の大きさになってしまうのよしゃ……いや、この重量と大きさだってよしゃ……」

「そうよねぇ……」

 ガシャガシャ カチャカチャ ギギギギ カチャカチャ……

 気が付いたら半分近く分解してるのよしゃ。

「もう少しサンプルを見ないとなのよしゃ……」


『オーーイ、準備できたわよーーー!』


 あちこち分解して調べてりゅと、ゲルの方から東鈴の声がかかって、とりあえず飲み会の方に行ったのよしゃ。

 


☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・11『ホーホケキョ』

2025-02-15 16:11:31 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
11『ホーホケキョ』 




 三日を予定していた蔵書点検は二日で終わってしまった。

 図書委員は地味でも真面目な者が多いので、準備と指導がよければチャッチャと済んでしまうのだ。

「お疲れさま。廃棄図書の中で気に入ったのあったら持って帰っていいわよ」

 仕上げの梅昆布茶を淹れながら宮本さんが壁際に集められた本たちを示す。

 雑誌や傷んだ本は、一年分まとめて蔵書点検に合わせて廃棄される。

 紙の実体本は二十一世紀も半ば近い2040年でも健在だ。紙やインクの匂い、肌触りやページをめくる時の感触などが再認識されて、学校では一定数の実体本を備えた図書室の設置が義務付けられて、九尾高校では、その基準以上の実体本を備えている。

 千早は、色あせたり表紙が取れかけたりしている三冊を選んでリュックに入れ、もう一冊を手に取って貞治に差し出した。

「入れといて」

「オレ、要らねえぞ」

「わたしのよ、もうリュックいっぱいだから」

「ちぇ、『誤訳怪訳日本の神話』……怪しい本だなぁ」

 そう言いながらも自分のリュックにしまう貞治。

 
 梅昆布茶の香りが外へ出ても続いていると思ったら、この三日余りで学校の梅は満開になって、桜も三分咲きになっている。

 
「さあ、歩くわよ!」

「お、おお」

 今日の二人は自転車に乗っていない。

 家の鳥居を出て貞治の教会の前まで行くと、農協の田中さんに声をかけられて車に乗せてもらったのだ。貞治は帰りの足が気にかかったが「天気もいいし、帰りは歩こう」ということにしたのだ。


 ホーーーホケキョ


「あ、鶯がちゃんと鳴いてる(^▽^)!」

「え、ウグイスならゼロフェスティバルの前から鳴いてるだろ」

「ああ、これだから男は……╮(︶﹏︶")」

「なんだよ」

「こないだまでは、ケキョケキョだったでしょ」

「ええ、そうだったか」

「そうよ、何年岐阜県人やってんのよ。ねえ鶯、こないだのバージョンやってみて」

 ケキョケキョ

「ほらね」

「……両方あるんじゃないかぁ?」

「もー、大和心を知らん奴だなあ」

「ま、まてよぉ……」

 ハンス(ハンドスマホ=腕時計型スマホ)を立ち上げて鶯の鳴き声を検索する貞治。ハンスには――出始めの鶯はケキョケキョとしか鳴かない、春が本番になってホーホケキョと鳴く――とあった。

「……あ、ほんとだ」

「参ったか!?」

「アハハ、二人で歩くのって、小学校以来だな」

「あ、話題変えた。ま、いいけど」

「濃尾平野は箱根の西じゃ一番の平野だからな、こういう季節は散歩するのにちょうどいい」

「ああ、それは言えるよねぇ……フフ」

「なんだよ」

「小さいころ、犬山城見に行こうって帰れなくなったことあったでしょ」

「あ、ああ……」

「橋渡ったところで、しゃがみ込んだら動けなくなったんだよね」

「そうそう、運よく車で送ってもらったんだよな」

「うん、教会の総代さんだったよね」

「え、神社の総代さんだろ?」

「え?」

「ん?」

 ほんの幼稚園ぐらいのころの思い出。

 犬山橋のたもとでへばっているとワゴン車が通りかかり「どうしたのかなあ? あ、怪しい者じゃないですよ、総代ですよ(^_^)」と優しい笑顔で言われたので、二人ともそれぞれの神社・教会の総代だと思っていたのである。

 総代さんは「お家にはナイショにしておきましょうね」と言ったので、晩ご飯に遅れることも無く帰れたこともあり、二人はずっと内緒にしていた。

「ああ……アハハ」

「昔のことだからね」

 まあ、なにかの思い違い。

 そう思った時、また、あの音がした。


 ピシ!

 
 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中           農協の営業マン
  • 先生たち         宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち
  • 神々たち         スクナヒコナ

 






 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・181『志忠屋で頼まれごと』

2025-02-14 11:03:19 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
181『志忠屋で頼まれごと』   




 学校の帰りに志忠屋に寄ってみようと思った。


 ナースチャのことやら魔法のことやら分からないことがいっぱいあるからね。

 それに、10円男だけじゃなくて、ナースチャに興味津々な子がいっぱいいるし。ナースチャのこと、ちゃんと分かっておかないと、さらにとんでもないことが起こりそうだし。

 そんなこんなを思いながら廊下を歩いていると、一人の女生徒が横に並んだ。

「そこの空き教室に入って」

 横顔で言われてビックリ……うちの制服を着たペコさん!

「ペコさん!?」

「話は中で」

 ドアの前に立つと、まるで自動ドアのように開いて、ペコさんに続いて入ったら……志忠屋だ!

 え、ええ!?

 振り返ると、ちゃんと志忠屋の自動ドア。もう一回振り返ると、タキさんが仕込の真っ最中で、シチューの鍋をかきまわしてる。

「……まあ座れ」

 後姿のまま命令されて、いつものカウンター席に座る。

 ピ

 パスタをゆでる時のタイマーを押すと、鍋から立ち上る湯気が停まってしまった。

「メグリも学校やろし、時間停めた」

「時間を……」

「ナースチャのこっちゃ」

「あ、ああ……」

「あいつは、違う時間軸から来た。こっちの世界ではアナスターシア皇女は家族もろとも殺されとる」

「やっぱし!」

「ロシアはエカチェリーナ二世とか、女でも皇位に就けるから、あいつが女帝になってロマノフ朝を再興する可能性がある。やりようによっては、立憲君主制が進んで、ソビエトが短期間で終了するか、帝政ロシアと並んで、こっちのソ連ほどの力を持つことなく衰退していくか」

「そんな大層なことなの……?」

「ああ、17歳のロシア少女が無残に殺されるのを黙って見てるわけにもいかんやろ……」

「う、うん……」

「メグリが覚醒したいうのも意味のあるこっちゃ、この流れは動かしがたいと、儂は思う」

「そ、そうなんだ(;'∀')」

「せやから、メグリ、おまえも気を引き締めてナースチャを護ってやれ」

「ええ、でも……わたしの力って知れてるしぃ」

「そんなことはない」

「ちゃんとコントロールとかできないし」

「慣れたらできる……それに、学校には結界が張られてるし、ペコとかもガードで入らせるし」

「え、ペコさんも!?」

「その制服姿はダテやない」

 タキさんが振ると、ペコさんは、こんな顔(^▭^;)して笑った。

 ペコさんて……?

「過去の世界に通ぅてるのはメグリだけやない」

「あ、それは……(๑º口º๑; ) 」

 アタフタと手を振るペコさん。

 志忠屋で普通の人間なのはペコさんだけだと思っていた……いや、きのう戻り橋のとこで普通じゃないとじゃ思ったけど……ああ、頭がついてこない!

「まあ、学校では日本語の上手いロシアのお友だちいう感じで付き合ってたらええ」

「う、うん……」

「せや、せっかく来たんやさかい、ほれ……」

 カウンターの下から信玄袋を二つ取り出すタキさん。

「これは?」

「弁当や、保温したある。二人で食え」

「あ、ああ、ども……」

 ピピピ ピピピ

 タイマーが鳴ると、再びシチュー鍋から湯気が立った。

 ペコさんは、まだ志忠屋に用事があるとかで「メグリ一人で学校へ戻れ」と言われ、おっかなびっくりで――学校へ――と思ったら、さっきの空き教室の前に戻っていた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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銀河太平記・278『火星人にはちょっと眩しい』

2025-02-13 09:56:56 | 小説4
・278

『火星人にはちょっと眩しい』 テル 




 テムジーン!

 ゴヘーーイ! 
 
 
 ビックリしたのよしゃ! 

 いきなり孫大人(東鈴につられて「ゴヘイ」と言いそうになるんだけど、テルだって最低の礼儀は心得てるのよさ)が叫んだかと思うと、どこにいるんだか「ゴヘーーイ!」と応える声がして、二秒ほど遅れて、テントの向こうから豆粒くらいなのが駆けてきて、草原の真ん中でガシっと抱き合って、互いに相手の背中をバシバシ叩くのよしゃ!

 なんか、久々に会った親友同士って感じで、子どもじみてるけど、まあ、微笑ましい……けど、ちょっとひいてしまうかもなのよしゃ。

「アハハ、あれ、あの二人のルーチンだから(^_^;)」

 何十年ぶりに逢ったのかと思ったら、二か月も経ってないらしいのよしゃ。

 あ、ちょっと説明しゅりゅのよしゃ。

 筋斗雲が着陸態勢に入ると、後ろのカーゴの口が開いて孫大人が転がり出て来たのよしゃ。

 マヌエリトが掴まえてくれたんで、大惨事にはならなくて済んだんだけど「明け方、テムジンに持っていくお土産のお酒が気になって筋斗雲のカーゴを見に行って――ちょっと味を確かめよう――って飲んだら、そのままカーゴの中で寝てしまったアルよ(^_^;)」ということなのよしゃ。

 東鈴にさんざん怒られたんだけど、ま、マヌエリトもブッキラボーだし、ま、いいかってことなのよしゃ。

「このスケコマシ! 今度は三人も女連れて……ん、幼女趣味はいかんぞ!」

 ん、今のはテルのこと見て言ったのよさ!

「なに言うか、こう見えても火星で三本の指に入ろうかという大科学者アルよ、平賀照いうアルよ! 連絡しておいたアルよ!」

 大人はわざわざテルの公式プロフをホログラム出して説明しゅるのよしゃ。

「おお、これはお見逸れした。ここの部族長をしておるテムジンですじゃ。お見知りおきを、いや、遠目にはこちらかと」

「ああ、こちらも偉いアル。西之島の氷室カンパニーのメグミ博士アルよ」

「おお、島の技術レベルを一人で上げているという博士だな。よろしくメグミ博士」

「こちらこそ、博士は付けずにメグミでけっこうです」

「それから、後ろにいるのが西之島三勇士の一人、ナバホ村村長のマヌエリトアル」

「マヌエリトだ」

「おお、これがンナバホ族酋長の末裔か!」

「汝、チンギスハンの末裔か?」

「そうだ、いまでもテムジンの名を引き継いでいる」

「マヌエリトも先祖から引き継いだ名前」

「勇士マヌエリト!」

「勇士いらない、マヌエリトでいい」

「そうか、それでは、こちらもテムジンでいい。そうだ、東鈴はこちらの様子も分かっているだろうから、ゲルの中で酒盛りの用意を手伝ってくれるか、娘や息子たちの嫁もいるから、おしゃべりしながらやってくれ」

「お、それは楽しみ、行って来るね悟兵!」

「ああ、役に立ってくるヨロシ」

「青銅の騎士は状態のいいのを一体持ってきてある。酒盛りの用意ができるまで見ているといい」

「あ、ありがとうございますなのよしゃ(^▽^)!」

「素人目にも何種類かあるようだ。そっちはあとで手配する。悟兵、俺たちはいっしょに馬を走らせよう!」

「おおアル!」「うむ」

 長身のマヌエリトがノシノシ、オッサン二人はチョコマカと駆け足、すぐに競うように全力疾走して牧場に突撃。適当な馬に跨って駆けて行ったのよしゃ(^_^)。

 360度の地平線、その果てまで緑の草原、空にはゆったりと白い雲が流れて……西之島の海も良かったけどしゃ。

 これだけの酸素と水蒸気と緑に恵まれた地球。

 火星人には、ちょっと眩ししゅぎるのよしゃ。

「テル博士」

「あ、ごめん(^_^;)」

 メグミの声で我に返って、さっそく青銅の騎士を見に行ったのよしゃ!



☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・10『スクナヒコナ』

2025-02-12 10:21:50 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
10『スクナヒコナ』 




 ぶちまけられたカード目録は大方回収されたが、何枚かが書架と書架の間に入り込んでしまった。

「ああ、やっちゃったぁ……」

 カウンターから定規を持ってきて隙間に突っ込んで二枚は回収できたが、もう何枚かが奥に入り込んで定規では届かない。

「書架をどけなきゃ無理ですねぇ」

「ハァ~~」

 腰の後ろに手を当ててため息をつく宮本さん。首がうな垂れてお腹が前に出るので、ちょっとお婆さんじみてしまう。

 書架は図書室の中で最大のもので、動かすには中の本を全部出さなければならない。書架自体も男子が三四人でかからなければならないしろものだ。

 なんとかならないのかなあ……?

 そう思うと――そうだ、これも練習になる――とウズメが呟く。

 シャラン☆

 鈴の音がしたかと思うと、時間が停まって目の前に親指ほどの神さまが現れた。

『スクナヒコナよ』

「寝てるし……子の大きさじゃ、まだあの隙間は無理かも」

『いきなり何ミリってサイズじゃビックリするでしょ。千早の鼻息じゃ飛んでしまうかもしれないし。この子はいくらでも小さくなれるから大丈夫よ』

「あ、やっぱりわたしが変身するわけぇ?」

『そうよ、目をつぶって』

「あ、うん……」

 シャラン☆

 あっという間に小さくなると、目の前にツインタワー……いや、二つの巨大な書架。その隙間は、やっとスクナヒコナの首が入る程度で、ちょっと厳しい。

『二分の一って念じてみて』

 少年の声がした。

「あ、スクナヒコナ?」

『うん、慣れないだろうから、最初だけアドバイス』

「あ、よろしく」

 ひとこと挨拶して1/2をイメージする。

 フグ!?

 両側の書架が暴力的に迫って来て千早の首を両側から押しつぶしそうになった!

 え、なんで!?

『ああ……馴染まないまま念じたから、元の千早のサイズの1/2になってしまったんだ。もう一度やってみて』

「う、うん……」

 一度もとのスクナヒコナのサイズに戻って、しっかり親指サイズであることを自覚してからイメージしなおす。

 チロリン☆

 小さなエフェクトがしたかと思うと、その隙間は家の廊下ほどになった。

 よし、これなら大丈夫!

 暗い廊下のような隙間を進んでいくと、三枚のカードが見えた。

「でも……このサイズで見るととんでもないよぉ(^_^;)」

 カードの厚みは50センチほどもあって、大きさはテニスコート以上だ……それに、とんでもない量のホコリが絡みついて、この小さな体では不可能に思われた。

『だいじょうぶ、この程度なら風を起こして飛ばせるから』

「あ、そう……じゃあ……」

『あ、それじゃ無理っぽいかなあ(^○^;)』

 千早は、蝋燭の火を消すように手をハタハタさせていただけだった。

「それじゃあ……」

 思い切り空気を吸い込んで、体の反動をつけて吹いてみた。


 フゥーーーーーーーーー!!


 ボワ!!

 三枚のカードがホコリと一緒に飛び出した。


 気が付くと閲覧室のいちばん端っこの書架の前で、元の千早の姿でひっくり返っている。

「あれ?」

『風を起こす時は、しっかり踏ん張っていないと反動で飛ばされてしまうからね。大丈夫かい?』

「そうなんだ、でも、どこも打ってないみたい」

 少しホコリがついているが、どこも打ってないので安心しながらも驚く千早。

『僕の姿の時は、蓑虫(ひむし=蛾)の衣を被ってるからね、それがクッションになったんだと思うよ』

「そうなんだ」

 ホコリを払って書架の向こうに戻ると、貞治と宮本さんが不思議がっている。

「なんだったんでしょうねえ……」

「勝手にカードが出てきたわねえ……」

「あ、千早、どこに行ってたんだ?」

「あ、ああ、向こう側からね、息を吹きこんだら出てくるんじゃないかって……いやあ、やってみるもんねえ(^▢^;)」

 貞治と宮本さんは不思議そうに千早の顔と書架の隙間を見比べて、それでも無事にカードが戻ってきたので、春一番の隙間風かと納得した。



☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中           農協の営業マン
  • 先生たち         宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち
  • 神々たち         スクナヒコナ
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・180『転校生』

2025-02-11 11:16:25 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
180『転校生』   




「お早うみんな。突然だけども転校生を紹介します」


 朝礼の冒頭、花園先生はイレギュラーなことを言う。

 高校で転校生というのは珍しい、この二年間で一度も無かったし、もう二月も半ば。学年末テストまで十日ほどしかない。

 みんなビックリしながらもドアの外の気配に注目している。

「じゃあ、入って来て!」

 先生が大きめの声で言うと、ドアがガタピシいって5センチほど開く。

 5センチのすき間から見えるのは女子の制服。

 ガタ ガタピシ

 ドアは癖があって、普通に引いただけでは開かない、ちょっと手前側にひいて持ち上げるようにしないと一発では開かないんだ。

 ウ ウウ(''v'')

 ちょっと焦った声に廊下側の佳奈子が先生よりも早く助けに行く。

 ガタ ガラガラガラ

 え( ゚Д゚)!?

 目の前に転校生を見て目を丸くする加奈子。

 ドアが完全に開いて、その子の姿が露わになって、今度はクラスの全員がビックリ! 

 わたしは座ったまま30センチも跳びあがってチョービックリ(◎Д◎)!

「はい、簡単に自己紹介してちょうだい」

「はい、ロシアからやってきましたアナスタシアと言います。ナースチャと呼んでください」

 ホォォォォォォ

 教室のみんなからため息が漏れる。

 カワイイ! 外人! ロシア語訛の日本語! 抜けるような白い肌! プラチナブルーの瞳! 制服を着てさえ分かるナイスボディー! 侵し難い品の良さ! 微妙な緊張感にくすぐられる保護してあげたい感!

「ナースチャはご家庭の都合で日本に来ました、日本語に不自由はないけども、慣れない日本での生活なので、みんな、協力してあげるようにね」

「先生、一つだけ質問いいですか?」

 10円男が手を挙げる。

「簡単にね。気が進まなかったら答えなくてもいいからね」 

「よかったらフルネーム教えてもらえませんか? ちなみに、ボクのフルネームは加藤高明」

 花園先生に伺うような顔をしてから、ナースチャはロシア語で黒板に名前を書いた。

 Анастаси́я Никола́евна Рома́нова, 

「アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァと読みます。でも、フルネームで呼ぶと舌噛みますからね。ナースチャでいいです(^_^;)」

 アハハハ ウフフフ ハハハハ

 暖かい笑い声が起こって教室は和やかな空気に包まれる。

「もう一つだけ、ロシアっていうことはソ連ということでいいんですよね?」

 笑みを絶やさず、でも、キッパリとナースチャは言った。

「いいえ、ロシア人です」

 10円男が鼻白んで、ナースチャは付け加えた。

「日本だって言うでしょ、ボクは東京人とか、北海道は道産子とか、沖縄はウチナンチューとか……ね(^ー^)」

「あ、ああ、そういう意味ね。うん、わかるわかる(#^○^;)」

 デレた顔で頭を掻く10円男。みんなもクスクス笑って「じゃ、席は……時司さんの横ね」

「ハイ、よろしくトキツカサさん(^▽^)」

「ええ、こちらこそ(^□^)」

 笑顔で応えながら昨日のことを思った。


「時空を超えてナースチャを保護することになったの、1919年じゃ庇いきれないから、2025年でね」

 そう言いながらスマホにタッチすると、スマホの上にタキさんの首が浮かんだ。

「ナースチャを確保、敵のエージェントは追払ったけどメグリちゃんに見られてしまったわ」

『しゃあないなあ……』

「あ、それと、メグリちゃん、ちょっと覚醒したっぽくて、ファイアーボールとか撃てるようになったみたい」

『そうか、覚醒したのはペコばっかりやないちゅうこっちゃな。おい、メグリ』

「な、なによ、タキさん」

『ワケあってナースチャを預かることになった、お前にも協力してもらわならあかんさかい、そのつもりでな』

「え、あ、ちょ……」

「じゃ、よろしく。ナースチャも行くよ」

「Да (ダー)」

 そう言うと二人の姿が消えて、わたしが居るのも令和のこっち側になっていて、振り返ると我が家が見えた。

 ペコさんのなのかタキさんのなのか、それとも、その合わせ技なのか、すごい魔力だ。

 
 そして、家に帰ってググって驚いた!


 ナースチャ、皇女アナスタシアは1918年、皇帝や皇帝一家とその従者もろともボルシェビキに撃ち殺されていた!


 え、え? じゃあ、あのナースチャは? お前にも協力してもらわならあかん……とは?


 そして、今朝からナースチャはわたしの横の席でクラスメートになってしまった!


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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銀河太平記・277『モンゴル草原の馬に見惚れて』

2025-02-10 09:33:01 | 小説4
・277

『モンゴル草原の馬に見惚れて』 東鈴 





 成層圏航路から高度を下げると、モンゴルの平原。


 なだらかな草原が広がって放牧されている馬たちがあちこちに見える。草を食んだり軽やかにポクポク歩いていたり。母馬の後ろを仔馬が速足でついていたり。

 満洲にも馬は居るけど、ここほど馬格は良くない。馬の半分以上は人で言えば義体、あるいはロボットのオートホースなんだけど、距離を置いて眺めているとリアル馬と区別がつかない。

 その馬たちやモンゴルの草原を飽くこと無く見続けるテル博士。

 あいかわらず、キャノピーに両手とオデコをくっつけて、幼稚園児の遠足モード。

「イルカの時みたいにそばによって欲しいのよしゃ」

「ダメだよ、馬が驚いて暴走する。モンゴル人たちが困るからね」

「あ、しょうか……」

「モンゴルの大地は生きてるって実感できるものねえ」

 メグさんがフォローすると、小さくため息をついて言葉を続ける。

「うん……この景色から馬と草を消したら、地形的には火星の平原とおなじなのよしゃ。でも、やっぱり人が住む環境には緑と生き物の姿が欠かせないのよしゃ」

「そうねぇ……」

 テル博士の言葉に、思わず『火星の野生動物』を検索してしまう。

 赤い大地は荒涼として、時おり吹く風が赤褐色の砂を舞い上げ、その度に火星の骨格のような赤茶けた岩や礫が露出する。その岩の下や隙間から小動物がピョンピョン跳ね飛んで……これは生き物じゃない。チーチェだ。愛玩用に地球から持ち込まれたロボペットが野生化して、自己改造をしながら増殖する厄介者。

 戦争や事故で廃棄されたり放棄されたマシンやロボットから大小のパーツを切り離してボディーや大きなパーツを作る。そして義体やロボットの関節や開口部に取りついてICやら微細パーツをかすめ取ってPCを作ってはめ込み。完全に人の手から離れた個体を無限に作っていく。

 その過程で、いつの間にかマッパウィルスが生み出され、それがロボットや義体に感染してマッパ病を発症させ、多くの犠牲者を出した。そのチーチェは人の手によって武器化され第二次マース戦争まで引き起こした。

 最近、ようやく克服されて戦争も終わったけど……そのワクチンを作ったのが……ああ!? わたしの横で子どもみたいに外の景色を見ているテル博士なんだ!


 ああ、わたしってば、目の前のことばっかりに気を取られて、我ながら考察能力低すぎ!


「そこ……目的地」

 
 マヌエリトがボソッと呟いて、急制動をかけながら右旋回!

 ブチョ!

 キャノピーに張り付いたテル博士がキャノピーに圧着したようになり、メグさんはシートに掴まり、マヌエリトは泰然自若としたまま。筋斗雲は、テムジンのキャンプの端っこに着陸した。

 

☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・09『図書館司書の宮本さん』

2025-02-09 15:34:22 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
09『図書館司書の宮本さん』 




 キンコーンカンコーン キンコンカーンコーン……


 春休み中なのだから焦る必要もないのだが、チャイムが鳴るとペダルを踏む脚に力が入ってしまう千早だ。

「ハハハ、パブロフの犬だな」

「うるさい、いくよ!」

 ガラガラの駐輪場に自転車を止め、昇降口で上履きに履き替えると図書室を目指す。

 九尾高校の図書室は独立した木造二階建てだ。

 昭和時代からの校舎を建て替えるにあたって、それまで校舎の一部でしかなかった図書室を独立した建物にしたのが三年前。

 先代市長の肝いりで、旧制中学当時がそうであったように独立した図書館になった。

 独立した建物なので、図書館と呼ぶのが正しいのだが、生徒の多くは小学校以来呼び慣れた「図書室」と呼んでいる。

「あら、早いわね」

 司書室のガラス越しに司書の宮本さんが首を覗かせる。

「え、9時からじゃないんですか?」

「連絡いってなかった?」

「図書館便りには9時……だったよね?」

 貞治がポケットからクシャクシャの図書館便りを出すと――令和22年度蔵書点検 3月25日 午前9時~12時 各クラスの図書委員は図書館に集合すること――と書かれている。

「ああ、あとで時間変更のメモ回したんだけど……」

「「ああ……」」

 揃って溜息を漏らす千早と貞治。

「こういうとこだけは気が合うんだからなあ……」

 二人の担任、右田と左藤は仲が悪いが、こういう点にルーズだということでは一致している。

 くそぉヽ(`Д´#)ノ   またかぁ(`m´#) 

 そう思っても口には出さない。

――こういう局面であからさまに文句を言わないのは、お互い神主と牧師の子どもであることだけが理由ではないのかもしれない――

 宮本さんは思うのだが、彼女も口には出さない。そのかわり、熱い梅昆布茶を淹れて蔵書点検のだんどりを説明する。

「……という感じで、カード目録と照合して欲しいの」

「けっこうな量ですねぇ」

「うん、でも、図書委員全員でやれば、ひとり三日で800,一日じゃ300にもならないから楽勝よ。とりあえず、総記と哲学から始めてもらえるかなあ。あ、梅昆布茶飲んでからでいいからね」

「はい」「らじゃー」

 梅昆布茶と、お茶うけのクッキーをお腹に収めると、カードボックスから引き出しごと引き抜いて二人は作業にかかった。

「総記ってしれてるんだなあ」

「哲学は引き出し二つ分あるよぉ……よっこいせ」

 図書館の蔵書は二十一世紀に入ったころには電子管理されるようになり、貸し出しも返却もポスシステムなのだが、九尾高校では昔ながらのカード目録も併用している。

「重さとか見た目の量で実感できるからねぇ」

 自分も文学の目録をチェックしながら説明してくれる宮本さん。

「ああ、たしかに……」

 宮本さんがとりかかっている文学はカードボックスの実に半分を占めている。

「よいしょっと……」

 宮本さんは、模範を示そうと引き出し三つを重ねてテーブルに持って行こうとした。

 ガツン

 あ!?

 狭い通路を抜けようとして、引き出しの一つが書架に当ってしまった。

 ガッシャーン!

 落した引き出しの一つは掛け金が外れてしまい、数百枚のカードが床に飛び散ってしまった!


☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中           農協の営業マン
  • 先生たち         宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・179『ナースチャ』

2025-02-08 11:24:53 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
179『ナースチャ』   




 
「Пожалуйста! Помогите!(パジャァオスタ! ロマギニア!)」


 ロシア語だ!

 たびたびソ連のエージェントに襲われたので、この言葉の響きは一発で分かって、瞬時に日本語に変換された。

『おねがい、助けて!』

 声の主は褐色の髪にプラチナブルーの瞳の少女。万博のソ連館のコンパニオンが同じ感じ。ほら、ガガーリンバッジくれたユリアってやつ。バッジは70年代の世界には存在しないICで、それが発信機になってて、花火見物の夜に撃ち殺されそうになった!(049『宮之森城花火大会』)

 でも声の主は髪と瞳こそは同じだけど、メチャクチャ怯えて助けを求めて突進してくる。

 新聞社を四つもやっつけて高揚してるわたしは、少女を背中で庇って立ちふさがった!

「そこをどけ!」

「Het(ニェット)!」

 ユリアの日本語にロシア語で応えるわたし。

 その返事にユリアの瞳が一瞬でソ連国旗のように赤くなり、鎌とトンカチの代わりに二発の銃弾のイメージ!

 ゾワ

 髪の毛が逆立つ! 

 自分で分かる。このあとピシっと弾けたら、5メートル先のユリアは炎に包まれて弾け飛んでしまう!

 ズザ

 ユリアは一瞬でジャンプ、電柱を蹴って反動をつけたあと、戻り橋を音速ほどの速さで渡って消えた。

 ボ……シュ

 その瞬間までユリアが立っていたところにバスケットボールほどの火球が灯って消えた。キャンセルしきれなかった爆裂魔法の余韻だ。

 ユリアは瞬間で姿を消したつもりなんだろうけど、わたしは全部トレースできていた。殺そうと思えば、そのコンマ一秒足らずの間に5回は殺せた。

「ど、どうもありがとう」

 翻訳魔法なんだろうか、そういうのがかかったままなので、その子の声は普通の日本語で聞こえた。

「だいじょうぶ? ケガはない?」

「ええ、あなたのおかげで……あなたも魔法少女だったんですね。おかげで助かりましたぁ(#'∀'#)」

「あなたもって……あなたも魔法少女なの?」

「いえ、魔法少女は、さっきの女です。ボルシェビキの魔法少女なんです。探知能力に長けているので、さっき見つかって追いかけて来たんです」

 ボルシェビキ?

「あ、ロシア共産党、去年改名したところだからボルシェビキって前の名前で呼んでしまって……日本にも魔法少女は居るって聞いてましたが、さっそく助けてもらえるとは……これも神のご加護です」

 その子は、サウンドオブミュージックのマリアみたいにきれいに十字を切った。

「あ、よかったら、説明してくれる。あのユリアってのはわたしにも因縁のあるやつなんで」

「その前に、ひとつだけ確認させてください。あなたのファミリーネームはトキツカサなんですね?」

「あ、うん。時司巡」

「よかったぁ、ほんとうによかったあ! 日本に着いたら魔法少女のトキツカサに頼れと言われてきたんです!」

「そ、それはそれは……で、あなたは?」

「はい、ロシア皇帝ニコライ二世第四皇女、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァと申します」

「え、ロシア皇帝第四皇女( ゚Д゚)!?」

「はい、去年ボルシェビキに命を狙われたんですけど、日本政府のお蔭で助かって、先日日本にやってくることができたんです」

「そ、そうなんだ」

 さっきまでの高揚感は微妙に冷めてきて、ちょっと面倒なことに巻き込まれたなあという気がしてきた。

「アナスターシャは微妙に長いですから、ナースチャと呼んでください」

「う、うん」

 どうしようかと思ったら、戻り橋のところで気配!

 反射的にナースチャを背中で庇う!


「ああ、間に合った!」


 その声は志忠屋のアルバイトのペコさんだった( ゚Д゚)!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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滅鬼の刃・エッセーラノベ 40『我が青春の着ぐるみショー・2』

2025-02-07 15:09:42 | エッセー
 エッセーラノベ    
40『我が青春の着ぐるみショー・2』  




 学生時代、体重は今よりも20キロも軽く、ジーパンのサイズも68センチぐらいのを履いていました。体格も華奢で、チームのボスから「女キャラに穴が空いたら頼むわな」と言われて、時どき女キャラの着ぐるみに入っておりました。 前述したようにキャンディーキャンディーの院長先生はレギュラーでしたし、イライザに入ったこともありました(^_^;)。

 着ぐるみショーではアクション(擬闘)がほとんどありませんので、わたしのような運動神経が鈍い者でも務まったのでしょう。

 そんなある日『キャプテンハーロック』の仕事が入って、女王ラフレシアの役が回ってきました。女王ラフレシアはゲームで言えばラスボスで、植物から進化した宇宙人マゾーンの女王 です。

 肌は緑色なのですが、プロポーションやヘッドは典型的な松本美人。まあ、メーテルを悪役にしたようなミテクレです。

 手下を引き連れ、ハーロックに立ち向かい、最後は手下全員がやっつけられたあと「この次は負けないから」的な捨て台詞を残して去っていきます。

 そのあとは前回で書いたようにフィナーレで盛り上がって、握手会サイン会になります。

 これに並ぶのは、たいてい子どもたちなのですが、一割か二割大人が居ます。大方は、子どもに付き添ってきたお父さんやお母さんなのですが、マレに一人で見に来ているニイチャンやオッサンがいます。

 こういうニイチャンやオッサンは要注意、ヘッドのスリットから、そういうオッサンが見えると女子の中の人は警戒します。

 着ぐるみの中の人は、バイトとは言え子供に夢を与えるのが仕事ですので、楽屋以外でヘッドを取るとか声を出すとかは禁止です。それを良いことに、女キャラに接触、往々にしてボディータッチをカマシてきます。

 握手会ですから握手は大人であっても拒めませんが、それ以外に触れるのはご法度です。
 スタッフが付いていて「握手以外はご遠慮ください」と言ってくれるのですが、混雑すると追いつきません。胸やらお尻にタッチ、中にはムンズと掴んでくる猛者も居ます。

 春の連休シーズン、とある遊園地の野外劇場で『キャプテンハーロック』をやった時のことです。

 ハーロックのところに人が集中するので、他のキャラは少し離れて握手や写真撮影に応じていると、いきなり胸を掴まれました(''◇'')。後ろから覗き込む面は五十前後のオッサンです。

 なにさらしとんじゃ! とは言えません。

 ラフレシアの雰囲気でノンノンと指と首を振って――禁則事項です――と知らせます。 着ぐるみはウレタンの胸が入っているので、つまらないと思ったのか、今度はお尻を揉んできます。

 すぐにスタッフがやんわりと摘まみだしましたが、オッサンはニヤニヤ、してやったという顔をしてやがりました。

 楽屋に戻ると、ボスが「大橋くん、手ぇ見せてみい」と言います。

 易者に見せるように手のひらを見せると、ボスは「……やっぱりなあ」と納得。

「え、なにがやっぱりなんですか?」

「きみ、手ぇ小さいから、あのオッサン、最後まで女やと思てたんやで」

「ええ!?」

「ちょっと〇子」

 MCの〇子さんが呼ばれて「ちょっと手ぇ比べてみぃ」と、ふたりの手の平を合わせます。

 おお…………

 楽屋のみんなが感心します……わたしの手と〇子さんの手は指の先までピタリと重なります。

「そんなに手が大きい方じゃないんだけど……」

 〇子さんは、他の女性スタッフと比べて自分が標準であることをアピールしておりました。


 その後、神戸まつりのパレードで「大橋くん、今日はモモレンジャーな」とモモレンジャーをやらされ、ちょっと危機感を感じました。

 ひょっとしたら、ヒーローショーをやらせられるんじゃ!?

 ヒーローショーと着ぐるみショーは似て非なるものなんですが、それは、いずれ稿を改めて。

 
 

 



 
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銀河太平記・276『筋斗雲は西を目指して』

2025-02-07 10:46:59 | 小説4
・276

『筋斗雲は西を目指して』 東鈴 




 筋斗雲はカンパニーの上をゆっくり旋回してから西を目指した。

 神社の前ではハナがピョンピョン跳ねながら手を振っている。目につくのは紅白の巫女服が目立つからばかりじゃないだろう。

 筋斗雲に翼があったらと思った。ズングリした筋斗雲ではバンクで挨拶しても分かりにくいからね。

「成層圏航路をとろうか、一時間早く着くけど」

「ううん、これでいいのよしゃ。海見てるの楽しいのよしゃ」

「火星には海ってないものね」

 メグさんが合わせると、鼻にしわを寄せて笑うテル博士。

 こういうところは、ひいき目に見ても小学生なんだけど、立派な大人。それも火星で三本の指に入るというサイエンティスト。敬意をもって接しなくちゃいけない。

「イルカ、泳いでる……あそこ」

 マヌエリトが散文的に言う。

 このインディアンの酋長は接し方がよく分からない。まあ、歓迎会で姿を見て、声を聞いたのはついさっきだから、何を言ってんだってことなんだけど、予測としてね。

 いつも悟兵の相手ばかりしてるから、同じ空間に居る人間とは無駄口をたたいていないと、微妙に気づまり。

 グィィィ~ン

 そう思いながらも筋斗雲の高度を下げてイルカ見物のポジションをとる。

「うわあああ(^▽^)」

 もう完全に小学生、いや、幼稚園児。キャノピーに両手とオデコをつけて、ヨダレまで垂らしてるし(^_^;)

「おいしそうなのなのよさ!」

 グフ( ゛艸゛)!

「そ、そういう感覚なんだぁ(^_^;)」

「火星の人口は10億で頭打ちなのよしゃ、主な理由は食料なのよしゃ。海がないしねぇ、しぇめて、地球の1/5でも海があったら、大気循環が活発になるし、養殖でない魚やクジラも獲れるようになるのよしゃ……」

「養殖の魚ねえ……」

 テル博士とメグさんの呟きがシンクロする。

 高度を5メートルにまで下げて、キャノピーを開けるわけにはいかないけど、外の音を流して雰囲気を盛り上げてやる。

 ザッパーーン

 間近でイルカがジャンプして、マヌエリトの瞳がキラリと光った。

「あれ一頭で、100人、1か月のたんぱく質」

 今のはインディアンとして? 孤島の前市会議員として?

「しかし、しょの前に戦争……」

「え、戦争は、もう終わったんでしょ?」

「停まってるだけなのよしゃ、人も資源も足りないかりゃ……力が回復したら、九分九厘、また始まるのよさ……」

「そうなんだ……」

「そのために、抑止力……東鈴、やっぱり成層圏航路とってなのよしゃ!」

「お、おお」

 グィィィ~ン

 筋斗雲は30度の仰角をとって上昇、水平線が見る見る地球の輪郭に変わっていった。

 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・08『アラベスクをキメるウズメノミコト』

2025-02-06 11:17:26 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
08『アラベスクをキメるウズメノミコト』 




 ズバッ!


 剣を抜くと同時に太陽光パネルを切った。パネルは両断されて農協の車を挟むように飛んでいき反対側の田んぼに突き刺さった。

 再び武人埴輪のように変身した千早だが、今度は頭にティアラのような天冠(てんかん)、背中にはマントが付いて魔法少女のようになっている!

――グレードアップ? また戦えってことぉ!?――

 一瞬、不満に思う千早だが、体が自然に動く。

 まだ解体が進んでいないパネルの間から黒い影たちがむくむくと湧き上がってくる。

――昨日より数が多い!――

 思うと同時に突進して中央の二体の核を切る!

 ズサズサ!

 一体はすぐに霧消したが、一体は核の中心を外してしまって不完全燃焼の煙のように蟠る。

 ゴホゴホ……

――少し吸い込んだ――

 煙を避ける。

 しかし、その数秒の間に四体の影が千早を取り囲み、輪を描き始める。

――囲まれる!――

 シュラララーーン☆ シュラッ☆ シュラッ☆ シュララッ☆ シュラン☆

 単に囲みの外に出ようとしただけなのだが、花火が爆ぜるように跳ねまわり、跳ねるたびに瞬間の決めポーズになってしまう。

――て、敵をやっつけなきゃ!――

 シュラッ☆ シュララッ☆

 数体撃破するが、やっぱり、1/100秒ほどの決めポーズ。

 追ってきた敵を眼下に捉え、そのままぶちのめせばいいのに、白鳥が羽を広げるようにポーズ! 螺旋を描きながら急降下して影の核を四つに切って霧消させる!

 シュラッ☆ シュラッ☆ シュララッ☆ シュラン☆

 それから、連続して残りを切り伏せると、目に見える範囲から敵の姿は消えてしまった。

 シャラン

 剣と盾と勾玉が震えたかと思うと、一つに合体して浦安の舞の剣鈴に変わる。

 シャラン!

 もう一度震えると、剣鈴の柄を握る手が現われ、その先が膨らんだかと思うと派手な巫女服の女神がバレーのアラベスクを決めて出現した。

 え( 〇Д〇)?

『どーもぉ、アメノウズメノミコトでーす(^▽^)』

「アメノウズメ?」

『ノミコト。ま、微妙に長いし、長い付き合いになりそうだし、アメノウズメでもいいわ』

「あの、天岩戸の……」

『そうよぉ、引きこもりのアマテラスを岩戸から引っ張り出した第一の功労者のアメノウズメノミコト、その人よ!』

 千早は思い至った。

「あんなに無駄な決めポーズやらフリを付けて戦ったのは、あなたのせい?」

『そーだけど、こんど無駄って言ったら、こうなるからね』

 シャラン

 ウズメが口をΣにして鈴を鳴らすと、停まっていた時間が動き出し、農協の車はグシャグシャになって、貞治の胴体からは血しぶきを上げながら首が千切れ飛んでしまった。

「ええ!?」

 ウズメが口をωにして、再び鈴を鳴らすと、情景は巻き戻って停止した。

『千早は巫女舞もヘタッピだからね、あたしが付いて踊れるようにしてやるから』

「あ、えと……」

『千早は神を宿す器になったけど、主神は、このウズメノミコトだから』

「主神はカミムスビノカミさんじゃあ……」

『カミムスビは神社の主神だ』

「あ、そか……」

『これからは幾柱も神を宿すことになる、管理するものが居ないと困るだろが』

「ああ、はい……ええとぉ」

『なんだ?』

「アメノウズメでも、ちょっと長いからウズメさんでいい?」

『ミコト省略かあ?』

「あ、さん付けはしてるし」

『……まあ、いいか』

「ありがとうございます!」

『うん、じゃあ。これからも励めよ』

 シャラン

 鈴の音とともにアラベスクを決めたかと思うと星くずになってウズメは消えてしまった。


 風を感じたかと思うと、貞治のホログラムが戻り、農協の車は何事もなく先を進んで、学校のある九尾本町の家並の中に混じっていった。



☆・主な登場人物

八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし)         千早の姉
八乙女介麻呂          千早の祖父
神産巣日神          カミムスビノカミ 
天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役  
来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里            日本で最年少の九尾市市長
天野太郎            明里の兄
田中           農協の営業マン
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・178『「Пожалуйста! Помогите!」と叫ぶ声!』

2025-02-05 10:52:00 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
178『「Пожалуйста! Помогите!」と叫ぶ声!』   




 危うく新聞に書かれるのを防いで帰路に着く。

 ジィィィィィィィィ…………

 頭の奥がしびれてるみたいで、電車に乗っても駅を出て戻り橋を目指しても、どこか頼りない……自分と周囲の景色の間に薄皮が張ったような、VRのゴーグルで仮想世界を見ているみたいによそよそしい。

 あれ?

 いつものように護岸のGの標(003『ええ! 1970年!?』)が見えて戻り橋が現れるはずなのにGの標が現れない。

 左岸のM、右岸のGを認識することで、人には見えない戻り橋が現われて、戻り橋を渡ることで令和と昭和を行き来できる。

 もう二年になるので、普通の橋を渡るように当たり前になっていた……標が無くなる、いや、見えなくなるのは初めて。

 ちょっと焦った(;゚Д゚)。

 昭和の宮之森に通っているけど、自分のリアルは令和にある。

 このまま昭和に置いてけぼりになったら帰るところが無くなってしまう。

 キョロキョロして、上流側の寿橋を渡る。寿橋は令和にも昭和にもあるリアルの橋だから、当然渡れる。

 戻り橋の下は時間が流れているんだけど、寿橋の下は普通に水が流れていて、渡った先はとうぜん昭和の町で、自分の家があるはずのところはただの空き地。

 少しだけ踏み込んで川沿いを歩いて見ると……え?

 護岸のコンクリートにMの標。

 混乱した。

 Mの標は令和側にあって、それを認識したら戻り橋が現われて昭和に行ける……で、戻り橋が現れた。

 サラサラサラ サラサラサラ サラサラサラ…………

 ゆったりと時間が流れる音がして、それは紛れもなく異界の戻り橋。

 でも、立っているのは昭和の橋のたもと。不用意に渡ったら昭和よりも古い時代に行ってしまうかもしれない。

 だって、Mの標は時を遡る標だからね。

 令和から昭和に渡って1972年。その差は53年。

 1972年の昭和から53年遡ったら……1919年。

 たぶん昭和の前の大正時代。大正は西暦から11を引くんだから……大正8年?

 ええと、こないだ関東大震災100周年とか言ってたからぁ……だめだ、大正時代の知識なんか全然ないよ。

 さっき、新聞社を周って杉田先生の記事を消しまくった勢いは消え失せて、橋のたもとに立っているのは、元々のわたし。

 とりあえず、寿川の向こう側に戻ろう。

 回れ右して、速足で寿橋に向かう。

 タタタタタタ!

 戻り橋を渡って来る足音! それも走ってるし!

 かかわりになっちゃダメだ! そう思って目を背けようとした時に、足音は橋を渡り切って叫んだ!

「Пожалуйста! Помогите!(パジャァオスタ! ロマギニア!)」

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
コメント
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