大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

千早 零式勧請戦闘姫 2040・07『通学途中の異変』

2025-02-03 15:00:58 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
07『通学途中の異変』 




 未来の自転車は空を飛ぶ。


 保育所の年長さんの時、ぞうさん組の先生が言っていた。

 車の5%は空を飛ぶ時代なのだから自転車だって空を飛ぶだろうと千早は思った。自転車が空を飛ぶようになったら貞治といっしょに飛んでみたいとも思った。

 しかし、十年ちょっと未来の今日(こんにち)、九尾市の空を飛んでいる自転車は無い。

 千早は貞治と前後に連なって通学の途中だ。

「あ、やっと撤去にかかったぁ」

 三本松の角を曲がると右手に三十年ものの太陽光発電プラントがあったのだが、それが、解体撤去が決定して四年、いや五年目にようやく解体にこぎつけた。

『国の補助がやっとついたらしいぞ』

 ハンドルの上に1/4サイズで現れた貞治が――ざまあみろ――という顔で答える。

 空飛ぶ自転車は存在しないが、自転車のハンドルが多機能化し、前後を走っている人間のホログラムを1/4サイズで表示して会話できるようになっている。

 この機能が付いてから横に二列や三列になって走る自転車が劇的に減った。

 横目で相手を見て地声で喋るより、目の前に姿が見えて指向性の強いスピーカーから声が聞こえる方がいいに決まっている。

 最大五人までと話しができるが、道が混んでくると自動でホログラムは消えて音声だけになる。

――昔は、道幅いっぱいに広がって登下校して苦情が殺到したものです――

 こないだの離任式で校長先生が言っていたのを思い出す。

「プラントのあとは、なにができるんだろ?」

『田んぼになるって親父が言ってたぞ』

「おお、そりゃ楽しみだね」

『ああ、九尾丘の風車も撤去されたし、いい感じになるぜ』

 二十一世紀も半ばにさしかかり、太陽光や風力のエコ発電は、ミニ原発と深海からの採掘が商業ベースに乗ってきた化石燃料に置き換わりつつある。核融合炉さえも試験運転の目途が立つ今日、エネルギー事情は濃尾平野でも変わろうとしている。

 やっぱり濃尾平野には田んぼが似合うと思う千早だ。

 撤去工事は三分ほどの進捗状況で、角を曲がって100メートルも行くと相変わらずパネルの海が広がって――むかつくぅ――と思ったら貞治が消えた。後ろから自動車が接近して来たので、安全のため自動でオフになったのだ。

 プップー

 軽くクラクションが鳴ったと思ったら農協の田中さんの車だ。

「昨日はどうも!」

 短いお礼の言葉は聞こえたのかどうかは分からないけど、運転席の田中さんはニッコリ笑って手を振ってくれた。

 ブォォォ

 小さいが小気味いい加速音をさせて、農協のハイブリッドは二人を追い越していく。まだ農協の始業時間には間があるのだろうけど、働き者の田中さんは、お得意様周りの営業に出ているのだ。

「働き者だなあ、田中さん」

 蘇った貞治のホログラムが牧師の父親に似た笑顔で言う。時にはケンカもする幼なじみだが、この笑顔は褒めてやっていいと思う千早だ。

 あ!

 どこから風が吹いたのか、解体中のパネルがフワっと宙に舞い、田中さんの車目がけて飛んでいく!

 危ない!

 ピシ!

 瞬間氷結するような音がして時間が停まってしまった。



 
☆・主な登場人物

八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし)         千早の姉
八乙女介麻呂          千早の祖父
神産巣日神          カミムスビノカミ     
来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里            日本で最年少の九尾市市長
天野太郎            明里の兄
田中           農協の営業マン
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・177『ひょっとして、なにか覚醒した?』

2025-02-02 11:09:29 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
177『ひょっとして、なにか覚醒した?』   




――くそ、くそ、くそ……妹尾死ね! 妹尾のクソ! 死んじまえ妹尾! おまえに関係ないだろ! 自宅謹慎だぞ! 追って連絡あるまで謹慎! 懲戒! 懲戒処分だぞ! 戒告か? 訓告か? 停職? まさか解雇? くそ! クソクソ!――

 十円男の予測通り、杉野先生の心には妹尾先生への憎しみと懲戒処分が下ることへの恐怖心が渦巻いてる。

 校長先生から、処分内容が決まるまでは自宅謹慎してろと申し渡されたんだ。

――金が要るんだ! 優子は専業主婦になることを条件に結婚したんだからな……お袋も体弱いし……学校の給料だけじゃ足りないんだ! 仕方がないんだ! 給料安いから! 外で働かなきゃしかたないんだ! それを……それなのに……――

 ああぁ、どす黒い憎しみと不満が渦巻いて、近づいたらスターウォーズだったかの暗黒面に取り込まれそうで……でも、蛇に睨まれた蛙みたいで、蛇に睨まれたら身動き取れないんだろうけど。違うんだ、この距離とペースを崩したら、先生が振り返って「覗いたなあ(◣д◢) 」って牙を剥きそうで、ペースを崩せない。

 けっきょく、駅の通路で先生が向かう上りを避けて下りのホームに向かうまで後ろについてしまった。

 ホームに上がると、ちょうど電車が入って来て乗ってしまう。

 家に帰るには、先生と同じ上りに乗らなきゃいけないんだけどね。

 不可抗力で大宮市駅まで来てしまう。


 電車を降りて上りのホームに戻ろうと階段を下りる。


――夕刊は無理だけど、朝刊には十分間に合う――

 先生のではない想念が伝わってきた!

――二回も自殺者を出して、今度は教師の不祥事だぁ、まったく宮之森はクソだ。徹底的に叩いてやらなきゃな……くたばれ、日教組!――

 ゲゲ!

 こいつ毎朝新聞の記者だ!

 学校の周辺で取材して、これから教育委員会でウラを取って三面記事のトップに載せる気なんだ。

 杉野先生は自業自得だ。だけど、学校が新聞に書かれるのはイヤだ!

 これ以上、学校のみんなの心を掻き乱されるのはごめんだ!!

 ピシャーーン!

 なにかが弾けた……わたしの中でなにかが弾けた……クラっときて、思わず階段の手すりを掴む。

 胸がドキドキ、視野の端っこが白く光って……立ち眩み?
 
 いや、立ち眩みでドキドキはしないし、あれは目の前が暗くなる……なんだか、自分の中のエネルギーが鋭く放出されて、その余韻みたい。

 え……記者のオッサンも階段降りたところで立ちすくんでいる。

――え……オレ、なにをしようとしていたんだ?――

 あれ……記者の頭の中から杉野先生に関する情報が消え去っている。とうぜん、新聞社に戻って記事にしようという気持ちも消え去っている……。

 わたしがやった?

 湧き上がった疑問を咀嚼する間もなかった。

 イメージが湧いてきた。

 O新聞とK新聞……それにY新聞……その三社も杉野先生のことを記事にする気でいる。

 Y新聞は駅の近くだ!

 階段を一段飛ばしで降りて、改札もダッシュで抜けてロータリーの向こう側にあるY新聞に向かった。

 社会部の前に立つと、女性記者とデスクの姿が際立った。

 そうか、記事は書き上げられてデスクのところまで回っているんだ。

 ピッシャーーン!

 再び弾けて、二人の頭の中から杉野先生のことが消える。

 よし……エレベーターの前まで行って、まだ記事原稿が残っていることに気づいてイメージが湧く。

 念じると手の中に原稿、少し怒りがこみあげて――消去――と念ずる。

 ボ!

 一瞬の炎になって原稿は灰も残さずに消えてしまう。廊下をこっちに歩いて来ていた女性職員がビックリしている。ニッコリ笑っておくと、女性職員も少しぎこちないけど笑顔を返してくれて、まあ、なにかの錯覚だろうと思い直してくれる。

 次はK新聞! いや、近ければO新聞! 両方とも場所が曖昧。

 駅前に戻って『駅前付近の地図』で確認。

 K新聞が近い。

 ダッシュで二ブロック先のK新聞に向かって、さっきと同じように記者とデスクの記憶を消して記事原稿も……こんどは書かれた字だけ消す。

 さあ、残るはO新聞!

 グ……地方紙のO新聞は駅一つ向こうの谷口(やとぐち)だ。

 間に合わない!

 O新聞の社屋が頭に浮かぶ、続いて、社屋が爆発してボウボウ燃えるイメージ!

 だめだ、念じたらほんとうになってしまう!

 どうしよう……迷っていると、O新聞の正面玄関のイメージ。

 すると、念じたわけでもないのにO新聞の玄関前に移動している。

 テレポテーション?

 考えている暇はない、すぐに社会部に飛んで、それまでと同じように記憶と記事原稿を消去した。

 終わったぁ……(-_-;)

 谷口の駅に向かう、二つ向こうの通りに伊勢半配送センターが見える。

 ほんのひと月前なんだけど、なんか懐かしい。

 首を駅に向け直す……視野の端に人影。

 あ

 どこか見覚えのある外人女性……たぶんソ連人。

 ブル

 いっしゅん怖気を振るって、そいつは消えた。

 蒸発したわけじゃなく、たぶんテレポーテーションだ。


 時司巡    


 ひょっとして、なにか覚醒した?

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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銀河太平記・274『朝ごはんを頂きながら』

2025-02-01 10:44:21 | 小説4
・274

『朝ごはんを頂きながら』 東鈴 




「いつもはたくさん作るんだけどね、今朝は、これで勘弁しとくれ」

 和食と洋食の選択式で文句は無いんだけど、お岩さんは申し訳なさそう。

 昨日の宴会は明け方近くまで続いて、大方の島民は河岸を変えたり自分の宿に帰ったらしいけど、何人かは座敷席で飲み続けていたらしい。むろん、我が主の悟兵もその中に入っていて、座敷の方でオイデオイデをしている。

「え、めずらしい、パンで朝ごはん~? さては飲みすぎたなぁ~」

「うるさいアルよ」

 と言いながらも席を詰めてくれる。

 和食のトレーを持って座敷に上がると、殿下は和食、悟兵はモーニングセットみたいなの。対面には仕事できそうなお姐さんが収まって納豆をかき回している。

「あら、五人じゃ狭いわね」

 マイさんが言うと悟兵は横の座卓を引き寄せる。

 実のところ、隣りの席に行きたかったんだけどね、マ、いいや。

「こちら、島の研究所の所長のメグミさんアル。こっち、秘書の東鈴アルね」

「あ、ども、先に頂いてます」

 温泉でハナが言ってたメグさんは、この人なんだ。

「東鈴です、えと、普通に喋っていいっすか?」

「ああ、もちろんよ。不躾だけど、いいボディーね」

「アハハ、再起動して間が無いんですけどね、調子はいいかな」

「ううん……触ってもいい?」

「え、あ、うん」

「東鈴、気を付けないと分解されるアルよ」

「しないわよぉ、本人の了解も無しにぃ~」

 了解したら分解しちゃうんだぁ(^_^;)

 しかし、だれかもそうだったけど、パット見だけでロボットと見抜くのはスゴイ。

「メグさんは、設備だけじゃなくて、島のロボットやら作業機械のメンテの元締めやってくれてるのよ」

 マイさんもお世辞ではない賞賛、大した人なんだろうけど、島の人間はお互いにもよそ者にも距離が近いというか隔たりが無い。

 人にしろロボットにしろ、こういうのはプログラムや規則でできるものじゃないと思う。
 島は落盤事故や日本政府の干渉やら戦争やらを経験して、うまく言えないけど練れてきてるんだ。悟兵がここにやってきたのは劉宏大統領のお使いだけじゃない、悟兵自身この島が好きなんだ。またどこかで冷やかしてやろう(^_^)

「そうそう、東鈴、あなたテルといっしょにモンゴルに行くんだって?」

「え?」

 あ……悟兵のやつ、勝手に決めたなあ!……一瞬むかついたけど、すぐに、それもいいかと思う。あのチビッ子博士は一人にはしておけない。それに、ちょっと面白いとも思う。

「あ、噂をすれば、本人が来ましたよ」

 殿下が首を向けた先、食堂の入り口でキョロキョロしているテル博士が見えた。


「いやあ、ちゃぶ台とはシブイのよさ!」


 和食と洋食のパンをトレーに載せてテル博士は座卓に感激した。

「あ、ちゃぶ台っていうんだ」

「うん、火星でもあんまり見かけないんだけど、友だちの家で見かけたのよさ」

「平賀博士、紹介しておきます。こちら、通称孫大人の孫悟兵」

「孫悟兵アルよ」

「あ、お目にかかれて嬉しいのよさ。昨日は遠目でしか見てなかったけど、なかなかいい感じのおじさんなのよしゃ」

 二人で握手、なんだか爺さんと孫娘。

「こちらが、島の研究所長の加藤恵さん」

「あ、気楽に片仮名のメグとかメグさんでいいから」

「お噂はかねがね、平賀テルなのよしゃ……ん?」

 ほんの一瞬フリーズするテル。でも、ほんのコンマ一秒くらいのことで、すぐに笑顔で握手。メグさんは普通にニコニコしている。

「わたしも興味あるから付いていくわ」

「モンゴルまでは、ワシの筋斗雲つかうヨロシ。東鈴、運転頼むアルよ」

「あ、うん」

「女性三人だと軽く見られることがありますから、ひとり男のお供を付けようと思います」

「あ、すみませんナノよさ、殿下」

 テル博士が恐縮していると、お岩さんがマーマレードのビンを持ってやってきた。

「きのうもらったマーマレード、ためしてみるかい」

「アイヤー、そのために来たんだったアル。試食するアル」

 マーマレードはパンにつけるのかと思ったら、紅茶に入れたり、舐めてから紅茶を飲んだり、濃茶のお茶うけにもいけることを初めて知った。

「あ、この味……」

 テル博士が、なにか思い当たったみたいだけど、すぐに話題は青銅の騎士やモンゴルの話しに戻る。

 なんか、和気あいあいとして、しまいに我が主のアルアル語もひっこんでしまう。

 悟兵が屈託なく過ごしているのは横に居て楽しい。

 みんなで、アハハと笑ったり、そうなんだと感心したり、ちょっと楽しいひと時が過ごせた。

 
 しかし、好事魔多しというか、調子に乗ったというか……。

 
 ドンガラガッシャーン!


 悟兵は食堂の階段を踏み外して頭を打ち、一晩付き添う羽目になってしまう(-_-;)。

 きのうはテル博士、今日は悟兵の看病……ま、いいけど。




☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・06『たこ焼きを食べながら』

2025-01-31 11:11:58 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
06『たこ焼きを食べながら』 




「ねえ、なんでお寺さんになんかにお嫁に行くの?」

 トレーのタコ焼きに爪楊枝をブッ刺しながら千早が聞く。

 爪楊枝は真ん中の二個に刺す。境界線をハッキリさせるための姉妹のルールだ。それぞれ真ん中から手元に向かって食べて行けば、数に間違いがなく、無用のいさかいをしなくて済むのだ。

「う~ん……大阪はタコ焼きの本場だしね」

「ああ……でも、相手はお寺さんだよ」

「八幡さまと阿弥陀さまは同じものなんだよ」

「え?」

「むかしむかし、仏教が入ってくる前に仏さまは神さまの姿で日本人の前に姿を現された。大日如来が天照大御神、阿弥陀如来が八幡神とかね」

「ああ、神仏シュウゴウってやつ?」

 中学で習った知識で対抗、意味はよく分かっていないが、四文字熟語で対抗する千早。

「紙に書いてみな」

「う、うん」

 広告の裏に書いた字は『神仏集合』だ。姉は黙って『神仏習合』に書き換えて話しを続ける。

「神宮寺て言って、神社とお寺がいっしょだったり、神前読経とか言って、神さまにお経唱えたりしたんだ。明治の神仏分離令で別々になったんだけど、すぐに撤回されたし、日本人はみんな納得してるしね」

「そうなの?」

「そうだよぉ、お寺の檀家と神社の氏子足したら総人口の倍近いんだからね。両方かねて納得なんだよ」

「ふ~~ん」

「なにい、千早ぁ、お姉ちゃんが居なくなって寂しいとかあ~(`∀´)」

「ナイナイ(#`Д´#)!」

「股従姉の薬子さん憶えてる?」

「クスコ?」

「ほら、美中八幡の」

「ああ、お祖父ちゃんの実家」

 祖父の介麻呂は美中八幡からの養子で、薬子は股従姉になるのだが、年が離れていることもあって、千早は記憶があいまいだ。

「薬子さんもお寺さんにお嫁に行ってるんだよ」

「え、そうなの?」

「うん、高校生の時にお邪魔したんだけど、薬子さんもお寺もいい感じでさ。ま、いい出物と思ったわけさ」

「ふーーん」

 姉が簡単に言う時は往々にして――それ以上は聞くな――なので、千早は話題を変えた。

「ねえ、知ってる、うちの八幡さまってカミムスビノカミだって」

「うん、知ってるよ。境内の祠が、そもそもうちの神社の始まりで、その御祭神は神産巣日神でしょ」

「いや、それが……」

「神さまと仏さまがいっしょだったりするんだから、神さまがいっしょだっておかしくないでしょ」

「え、ああ……」

「さあて、お書入れが溜まってたんだ、やっつけてしまうか……」

「お札なら授与所にいっぱいあるよ」

「夏祭りの分よ」

「え、もう夏祭りぃ?」

「千早の字じゃ授与品にできないでしょ」

「ウ……」

「貞治とか見習って、少しは習字も稽古しときなさいよぉ。それに、そろそろ新学期でしょ、フラフラしてちゃだめだぞぉ」

「フラフラなんかしてないもん!」

 それには応えずに、颯爽と社務所のバックヤードに向かう挿。

 なんだか、一本とられたようで面白くなく、ドサっと座りなおすと自分の分のタコ焼きが三つ残っていた。



☆・主な登場人物

八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし)         千早の姉
八乙女介麻呂          千早の祖父
神産巣日神          カミムスビノカミ     
来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里            日本で最年少の九尾市市長
天野太郎            明里の兄


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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・176『熱は下がったけど……』

2025-01-30 11:59:30 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

176『熱は下がったけど……』  




「ありがとうございました、教室に戻ります」

 熱も下がったので、お礼を言って保健室を出ようとした。

「ちょっと待って」

 机で書類仕事をしていた長瀬先生が呼び止める。妹尾先生は用件を済ませてすでに姿がない。

「ハヒ(;'∀')」

 あんな話を聞いた後なので変な声が出てしまう。

「つぎの時間は体育でしょ、5時間目だし、今日は、もう早退しなさい」

「え、あ……」

 先生は返事も待たずに早退許可書を書いてくれる。


 キンコーンカンコーン……

 
 教室への階段を踊り場まで上がったところでチャイムが鳴って、学食に向かう生徒たちが結構な勢いで降りてくる。

 おっと(;'∀')

 思わず隅に身を避けたところで、ちょうど駆け下りて来た十円男と目が合ってしまう。

「大丈夫か?」

 残り二段ぐらいのところから声をかけられ、その勢いで踊り場の隅へ。

「あ、うん」

「ほんとか?」

 あんな話を聞いた後なので、あまり大丈夫じゃない返事になる。

 人の流れを避けながらなので、ますます隅っこ。20センチくらいの近さになる。

――あ、伊勢半の時の顔だ――

 年末のバイトで見せた人を気遣う顔だ。

「実は……」

 その気遣いに甘えるように、さっきの話をした。

「懲戒処分……よくて戒告、下手すりゃ停職、首もありうる」

「ええ……!?」

「講師登録して講義までやってちゃなあ。それに妹尾は予備校まで踏み込んでるんだろ……下手すりゃ新聞とかに書かれるかもな」

「あ、ああ……」

 学生運動をやって留年しただけあって、こいうことには詳しそう。

「去年、書かれてるだろ」

 そうだ、去年は栗原さん金原さんの件で新聞に書かれたんだ! 同じ宮之森で不祥事があったら絶好のネタに違いない。

「まあ、杉野は授業もサボりまくりだったからなぁ、自業自得。おまえも、あんまり関わるな」

「あ、うん」

「早退すんのか?」

 手にした許可証を見られてしまった。

「うん、家で寝てる」

「ああ、そうしろ。一人で大丈夫か?」

 気遣う彼の後ろを続々と学食に向かう生徒たち……同級生たちも混じって、ちょっと誤解っぽい顔つきで通り過ぎていく。

「だ、だいじょうぶ、じゃね!」

 自分でも分かるくらいの赤い顔になって階段を駆け上がって教室に向かった。


 準備を整えて昇降口を出ると、バツの悪いことにちょっと前を杉野先生が歩いている。

 コートにポケットを突っ込み、トボトボうな垂れて歩く姿は正視に堪えない。

 何かあったんだ――おまえも、あんまり関わるな――十円男の言葉が蘇り、横道に入る。

 商店街の手前で戻る。

 え!?

 さっきの半分の近さに先生の後姿。

――#$%&@?+ωΛ%&#=##!――

 ああ……読む気も無いのに、先生の想念が飛びこんでくるよお!




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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銀河太平記・273『朝の磯辺と越萌マリと』

2025-01-29 10:31:38 | 小説4
・273

『朝の磯辺と越萌マリと』 東鈴 





 磯打つ波が目にも耳にもここちいい。

 あれから、テル博士を宿舎に連れていき、ハナは食堂に戻り、あたしもそのままテル博士の宿舎で寝てしまった(^_^;)。ハンベで知らせておいたけど、悟兵からの返事はない。

 火星からの長旅で疲れてもいるんだろう、博士はそのまま寝かせておいて海辺に出てきたところ。

 イー・アル・サン・シー……

 北京語の掛け声で漢明連絡所の兵隊たちが朝の体操をやっている。その脇を通ると神社の社殿が見えて、その向こうが磯だろうね。

 当たり。

 絶好の日の出スポットなんで、人がいるかと思ったんだけど、わたし一人。

 まあ、島にやって来てから半日のあれこれを放電するにはちょうどいい。

 埋立地を入れても20平方キロょっとの西之島、面積では奉天の半分ほど、その広くも無い島に万を超える人とロボットが共生しパルス鉱を採掘しながら穏やかに暮らしている。

 人種も様々で西之島戦争の義勇兵とかも残っていて、敵国だった漢明兵も非武装の連絡所とはいえ配置されている。

 構成から見れば満洲といい勝負のカオス。

 なのに、鉱山島としての活気を失うことなく落ち着いている。

 ずっとというわけにはいかないだろうけど、季節が一巡りするくらいの間、住んでみたい気になる。

「あら、そこに居るのは孫大人のところの東鈴ね」

 振り返ると絶世の美女……越萌マリが立っている。

「あ、ども……あ……昨日は見かけませんでしたね」

 初対面なのに、微妙なタメ口になってしまう。テル博士に敬語を使ってしまった反動かなあ。

「昨日は恩智に帰っていて……あ、恩智っていうのはうちの本社があるところね」

「あ、そうですよね、シマイルカンパニーのCEOやってらっしゃるんですから」

「経営はもう人に任せてるんだけどもね、節目節目にはキチンと直に顔を合わせて……けっきょくは近くの温泉に浸かって骨休めしちゃうんだけど」

「あ、わたしも、ここのハナと扶桑のテル博士と温泉に入ってました(^▽^)」

「あら、平賀テル、もう来てたの?」

「はい、食堂で会ったのが最初なんですけどね、子どもと間違えてビール飲んでるの叱っちゃって(^_^;)」

「ハハ、わたしも映像でしか見たこと無いんだけど、直に見たらそうなると思うわ」

「アハハ、でも、お風呂でいっしょになったら、もう生まれながらの友だちみたいになりましたけど」

「大人は元気にしてる?」

「ええ、変なアルアル星人になっちゃってますけどね」

「フフ、アルアル星人ねぇ。候補生時代に出会った頃もアルアル星人だったなあ」

 候補生……そうだ、この人はPIして越萌マリと名乗っては居るけど、正体は児玉元帥なんだ。

 思い至ったところで、そのアルアル星人からメールが来た。


――これから食堂で朝飯、とっとと来るよろしアル!――



 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・05『レンチンが終わるまで・3・ゼロ戦との縁』

2025-01-28 16:41:13 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
05『レンチンが終わるまで・3・ゼロ戦との縁』 




 どうやら夢を見ている。

 レンジの中でたこ焼きが回って、神楽鈴が鳴ったかと思うと異変が起こった。

 カミムスビノカミ(神産巣日神)が現われて、神楽鈴を投げ渡され、邪悪な黒影と戦う羽目になった。

 なんとかやっつけたと思ったら、今度は意識が飛んで体が動かない。


 金縛り…………?


 真っ白な中に鳥居が浮かび上がる――うちの鳥居だ――そう気づくと、鳥居を中心に神社の全景が浮かび上がる。

 拝殿も本殿も今と同じなのに、社務所は写真でしか見たことのない昔の木造だ。

 昔の神社?

 鳥居で一礼して数名の男たちがやってきた。

 一人は映画で見たような古い飛行服、スーツにゲートルを巻いたのやら整備士のツナギを着た者、ハンチング帽に法被姿の者。

 手水舎で作法通りに手を洗い、口を漱ぐと二列に並び、真ん中のスーツ姿が鈴を鳴らす。

 ガランガランガラン……パンパン……

 二礼二拍手、そしてトドメの一礼をしたところで停まった。

 時間が停まった……いや、不動の礼のまま祈っているのだ。

――こんなに真剣に祈っている人、見たことないよ――

 感心して見ていると、千早の横にカミムスビノカミが立った。

「この人たちは、ゼロ戦を運んでいるのよ」

「え、ゼロ戦?」

「ほら、あそこ」

 カミムスビノカミが指差すと、外に景色が広がって、参道の手前の道に妙なものが見えた。

 四輪の大きな台車の上に翼と胴体に分けられたゼロ戦が載っている。明るい灰色にピカピカの日の丸。

 二十一型?

 詳しくは分からない千早だが、貞治がいちばん感激していたので、そうではないかと思ったのだ。

 でも、どうして牛が曳いてるの!?

 ゼロ戦を載せた台車は、平安時代のように牛が曳いているではないか!

 2040年の今日ではクラシックに見えるゼロ戦だが、それでも全金属製モノコックのレシプロ戦闘機。それが、平安時代のように牛が曳いているのに違和感とおかしさを感じないではいられない千早だ。

「名古屋の工場から九尾の飛行場まで、牛車で運んだのよ」

「なんでぇ、トラックとかあったでしょ!?」

「道路事情が悪かったから、トラックで運ぶと振動で狂いが出たり、最悪壊れることもあったからね。今もね、お参りに来てるのよ。故障が見つかったのが神社の近くだったから」

「そうなんだ」

「で、あれが初号機」

「エヴァンゲリオンみたい」

「まさにねぇ……紀元二千六百年、大陸は激戦続きだし対米英戦も現実味を帯びてきた昭和15年だからね。浦安の舞ができたのも、少しでも平和な時代が続きますようにって祈りが籠められているのよ」

「そうなんだ……」

「このわたし、神産巣日神は百年に一度、人に力を与えられるの。元々は神を産む力だけど、もう八百万というくらいに増えたからね、今度は人にその力を与える。それが、百年前の1940年だったのよ。でも、ちょうどそれをやろうとした時にめぐり合わせたのが、この人たち」

「なにかお祈りしてる」

『願わくば、この零式艦上戦闘機を無事に進発させてただき、回天の力と武運を賜りますよう、開発者一同伏して願い奉ります……』

「わたしはビビッときてしまった!」

「ああ、こんなに真剣にお願いされたら……」

「ううん、わたしが人に与えようとしていたのが、これなのよ!」

 タカムスビノカミが空中で指を振るうと文字が現れた。

 零式勧請戦闘姫!

「え……ええ!?」

「零式とは、ゼロ戦同様に皇紀の末尾、勧請とは神を請い迎えるの意味、そして戦闘姫とは、その神の力を帯びて戦う姫巫女のことなのよ! でも、人は、その響きと同じ零式艦上戦闘機を作って、渾身の願いを捧げて来た。わたしは、その力と加護を、その初号機と、それに続くゼロ戦達に与えたの」

「それって……」

「そう、本当は、千早、あなたのひいお祖母ちゃんの葛(かずら)に授けようと思った」

 拝殿で浦安の舞を舞っている巫女が浮かび上がる。

「あれ、ひいお祖母ちゃん?」

「そう、この年に制式化されたばかりの浦安の舞だけど、一番の舞手だった」

 シャラン

 扇が剣鈴に持ち替えられ、葛の舞は佳境に入るところだ。

「うわぁ……」

 姉の舞が日本一だと思っていたが、100年前の曾祖母の舞は、その上をいっていると思う千早だ。

「うん、浦安の舞が定着し、みんなに喜ばれるようになったのは葛の力が大きいのかもしれないわね」

「わたし、あんな風に舞えるかなあ……」

「無理でしょうね」

「ガク(*óㅿò*) 」

「でも、今日から千早は零式勧請戦闘姫だからね」

「ええ!?」

「よろしくね(''◇'')ゞ」

 チーーーン!

 その一言を残してカミムスビノカミが消えると同時にレンジが任務終了の鐘を鳴らした。



☆・主な登場人物

八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし)         千早の姉
八乙女介麻呂          千早の祖父
神産巣日神          カミムスビノカミ     
来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里            日本で最年少の九尾市市長
天野太郎            明里の兄
 

 

 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・175『聞いてしまった(;'∀')』

2025-01-28 08:48:53 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

175『聞いてしまった(;'∀')』  




 少しまどろみかけてきた時、ドアの開く音がして誰かが入ってきた。


『長瀬さん、少しいいかなあ』

 あ、グラマーの妹尾先生だ。

『生徒が寝てるから、静かにね……』

 長瀬先生も予測していたようで、奥のデスクでヒソヒソ話し始めた。

『実は……』

 先生同士の内緒話……聞いちゃいけないと思うけど、聞いてしまう……聞こえてしまう。

――こんな葉書が来たよ――

――え……なに、これぇ!?――

 長瀬先生の声には驚きと軽蔑の響きがあった。

――差出人の住所も名前も無いけど、これは杉野のやつだ――

 え、杉野……杉野って、現国の杉野先生?

 え…………ええ!?

 葉書の文面が見えて息を呑んでしまった!

 病院のそれのようにベッドはカーテンで仕切られていて、葉書が見えるはずも無いんだけど、それはハッキリイメージとして浮かんできた。

〔教師と言えど勤務時間外に人が何をしようと自由のはず、それに干渉するのは、一個の独立した人格への謂れなき攻撃であり、厳に慎まなければならない行為であって……〕

 え?

――実は、現場を押えた――

――とうとうやったんだね――


 イメージが浮かんできた。


 大浜市の予備校が入っている雑居ビル、その向かいの喫茶店で妹尾先生は冷めたコーヒーを飲み干すと、レシートと料金を置いて表に飛び出した。

 予備校は、講義が終わって生徒たちが出てくるところだ。

 待つこと数分、ビルの自動ドアから生徒と談笑しながら出てきたのは杉野先生だ。

「杉野、貴様、やっぱり予備校で働いていたんじゃないか(-ˇ_ˇ-) !」

「ゲ( ꒪⌓꒪)!?」

 目を剥く杉野先生。 キョロキョロと目が泳ぎながらも怒りに顔が赤黒くなっていく。

「明らかな服務規程違反だ! これまで、さんざん指摘され注意されてきて、ずっとシラを切ってきたが、さっき、事務所で講師登録していることも確認したぞ!」

「…………」

「武士の情け、学校には黙っておいてやる、これを機に本務に専念しろ……いいな」

「お、おう……(-_-;)」

 それだけ言うと、妹尾先生はクルリと踵を返し、夜の駅前通りを駅に向かって歩いていった。


――それで、妹尾先生、どうするつもり?――

――本人に突きつけた――

「貴様が出したんだな!」「知らん!」

 ああ……このやり取りで妹尾先生はブチギレたんだ。


 えらいことを聞いてしまった。

 むろん、長瀬先生も妹尾先生もチョーヒソヒソ声で、並の人間には聞こえない。

 でも、魔法少女の血を引くわたしには聞こえてしまう。

 それに……具体的な待ち伏せの話しは妹尾先生してないよ。

――実は、現場を押えた――とうとうやったんだね――

 そのやりとりを聞いただけで分かってしまったんだ……(;'∀')

 
 ちょっと、自分の能力が恐ろしくなってきた……。


 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 

 


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銀河太平記・272『湯あたりのテル博士』

2025-01-27 11:13:28 | 小説4
・272

『湯あたりのテル博士』 東鈴 




「いや、気にしなくていいのよさ。考え事してゆと、他のことはお留守になってしまうのよさ……」

 そう言って鼻の下までお湯に浸かって難しい顔の幼児体形、いやテル。

 いや、扶桑科学研究所の主任研究員に呼び捨てはマズイ。

「こちらの、ちゃんとした名前は、なんて呼んだらいいのぉ?」

 こっそりハナに聞いてみる。

「え、ああ……テル、おめえ、ちゃんとした名前はなんてんだ!?」

「え、あ、ちょ!」

 本人に聞くなよ!

「あ、平賀照……」

 気にすることも無く質問に応える。応えながらもハンベの仮想モニターを三つも出して調べものに余念がない。その表情は一人前の科学者のそれで、声をかけるのも憚られるよ。

 真ん中のモニターにはいろんなロボットのスペックや3D図面が続々と表示され、両脇のセカンドモニターにはパーツの構成や組成や構造式やらが10倍速ぐらいで流れている。

「ああ、やっぱり現物見ないと分からないのよしゃ!」

 モニターは青銅の騎士の三面図で停止した。

「あの、平賀博士……」

「え、ああ、ごめん……あ、呼び方はテルでいいのよさ」

「あ、いや、そんな(^_^;)」

「食堂のことなりゃ、もう気にしてないかりゃ、いいのよさ。で、あんたも島の人なのかにゃ?」

「え、あ、孫大人の秘書で東鈴といいます。昼に島に着いたばかりで」

「さっきの歓迎会、テルも出てたじゃねえかぁ(^▭^)」

「あ、ああ、えらく混んでゆと思ったら……」

「テルよぉ、風呂に入ぇるときぐらい、ハンベは止せよ、のぼせっちまうぞ」

 ハナが注意する。なんだかお姉ちゃんが妹に言うみたいでおかしい(^_^;)

「え、あ、ああ、しょれもしょうなのよさ……」

 ハンベは仕舞ったけど、心はまだ半分以上あっちに行ったまま。

「博士、青銅の騎士の研究をなさってるんですか?」

「え、あ、ああ、気になってりゅのよさ」

「あれは、頑丈で打たれ強いロボットでしたけど、弱点さえ分かればどうということのないしろものでしたよ」

「そうそう、ハナもマイさんといっしょに戦ったけど、コツさえつかめば楽勝だったぜ」

「え、二人ともあれと戦ったにょか!?」

「おお、バッチリな!」「わたしは観戦してただけだけど」

「話聞かしぇて!」

「お、おお」

 あの戦いは、モンゴル軍の戦闘術と戦術的機動性、漢明軍の戦略的展開に見るべきものがあった。だから、はるばる火星からやってきての調査なら、そっちの方かと思ったけど、テル博士の着眼点はあくまでも、あのコケ脅しの青銅の騎士。

「関節は?」「首のサーキットは?」「ケーブルは?」「ジェネレーターは?」「反応速度は?」「姿勢制御系は?」「外殻の反発係数は?」「瞬発時の内殻温度は?」「外殻塗装は?」

 矢継ぎ早の質問、そのほとんどは専門的過ぎて答えられるものではなかったけど、目の輝きと鋭さは見た目の体形と異なって、めちゃくちゃ鋭く、ハナもわたしもタジタジで、腕を組んだり天井を仰いだり。

「やっぱし、現物を見なきゃ分からないのよさ(>〇<)!」

 ザップーーン

 ユデダコみたいな顔で叫ぶと、そのまま仰向けにひっくり返って沈んでしまうテル博士だった(^_^;)。


 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・04『レンチンが終わるまで・2・神産巣日神』

2025-01-26 11:48:12 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
04『レンチンが終わるまで・2・神産巣日神』 




――か、神さま!?――

 千早は声も出さずに驚いた。

 神さまとは、祝詞や巫女舞で醸された空気の中に気配として感じるものであって、リアルに姿を現すものではない。目の前の特注の巫女のような姿が現われても千早の理解は追いつかない。

――言の葉を改める―― 

 そう言うと、同じ装束でありながら、学校の先輩ほどの気安い雰囲気になった。

「ええとね、わたしは、この浦安八幡の祭神で神産巣日神(カミムスビノカミ)なんですよ」

「え、うちの御祭神は八幡様だけど……」

「ああ、八幡神というのはフランチャイズ……かな?」

「フランチャイズ!?」

「みたいなね(^_^;) 神産巣日神って、ぜんぜんメジャーじゃないでしょう?」

「ああ、ええと……」

 よその子どもよりは神さまを知っている千早だが、なにせ、日本は八百万(やおよろず)の神々の国、知らない神さまはいっぱいある。

「いちおう、イザナギ、イザナミとかのうんと上なんだけどね……でも、ポピュラーじゃないからね、神産巣日神じゃ人が集まらないでしょ?」

「あ、ああ……」

 たしかに、参拝客が多いのはナントカ八幡とかナンチャラ天神アレコレ稲荷。

「神主も巫女も霞食べて生きてるわけじゃないからね、ほどよくお賽銭がいただける神社じゃないと大変でしょ。コンビニ出すんだって、オーナーの名前じゃなくて系列元のローソンとかファミマとかフランチャイズしちゃうでしょ。それみたいなものよ」

「ああ、たしかに……」

 応えながら千早は思い至った。子どもの頃に祖父の介麻呂から聞かされた神話にそれらしいのがあった……ような気がする。

「そうよ、この世に最初に現れたのがアメノミナカヌシノカミで、その次がタカムスビノカミとカミムスビノカミで、つまり、そのカミムスビというのがわたしなわけなのよ!」

「ああ、でも、出てくるだけですぐに消えちゃって、それっきりなんじゃ……」

 貞治が言ってた聖書と同じだと思う千早だ。聖書においてもキリストに至るまでいっぱい人が出てきて「覚えきれねえ」と父親の跡を継がない言い訳にしている。

「わたしのこと、NPCだと思ってるでしょ」

「あ。いやそれは……」

「まあ、たしかに前座っぽいんだけどね、わたしには大変な役割があるのよ」

「大変な役割?」

「読んで字のごとく、神産巣日神というのは神を産む役目を負った神なのよ」

「神を産む!?」

「うん、原動力というかジェネレーターというか……あ、さっそく来た!」

 ピシ!

 一瞬でカミムスビは元の神の顔になると、手にした神楽鈴を千早に投げてよこした。

「ちょ、なにぃ!?」

「それを持って戦って、ザコだから今の千早でも勝てる!」

 シャララ~~~ン

「え、ええ!」

 鈴が鳴ると、巫女鈴は三つに分かれ、一つは両刃の剣となって腰に、一つは左手の盾、もう一つは勾玉の首飾りとなって胸に輝き、身には日本史で見た短甲という胴鎧をまとっている。

 ズチャ

 意識せずに抜剣した。

 ええ?

 体は空に浮き、眼下には神社、目の前には邪悪な黒い影が浮かんで、神社を取り囲むようにゆっくりと回っている。

 黒い影は悪そのもの……倒さなければ……心の底でつぶやく者があって、千早は半ば無意識で影に切りかかっていった。

 セイ!

 ッ……ズボ!

 振り下ろす前に一瞬のためらいが出て、影の腕と思しき所を切り落とすだけになった。

 シュボ

 二秒とかからぬうちに影の腕は再生し、半ば警戒、半ばバカにするように輪を縮めて千早に迫ってきた。

――核を切らなければだめ――

 カミムスビの声がして、千早は剣を構え直した。

 影の胸あたりに青く燃える核が見えた。

 今度こそは!

 口と気を一度に引き締めて再び影に立ち向かい、一閃で核をたたっ切ると、影は霧消していった。

 次だ!

 スパ! スパ! スパパパ!

 最初の半分の手応えもなく影は核ごと切れて吹き飛んでしまった。


 あ、ああ…………


 直後、目の前が真っ白になって意識が飛んでしまう千早であった。

 


☆・主な登場人物

八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし)         千早の姉
八乙女介麻呂          千早の祖父
来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里            日本で最年少の九尾市市長
天野太郎            明里の兄
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・174『学校の暖房についてからのぉ……ヘーックチ!』

2025-01-25 09:07:18 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

174『学校の暖房についてからのぉ……ヘーックチ!』  




 教室のストーブは円筒形と箱型の二種類がある。

 両方とも腰ぐらいの高さで、鳥かごみたいなボディーの中にスケルトンという穴だらけの素焼きの筒が入っていて、筒の中にガスバーナーがある。箱型は外からは様子が分からない。

 両方とも、職員室入ったところの壁に全クラス分の連結ホースがぶら下げてあって、連結ホースは50センチほど青いゴムホースで、両端にカチット栓が付いている。

 朝一番に来たものは職員室まで、このゴムホースを取りに行って、ストーブと元栓を連結して自分で点ける。

 カチカチカチカチカチカチカチカチ……

 気ぜわしく点火プラグが明滅して、数秒から数十秒後、ボッと音がしてガスに火が点く。日によってはガスの巡が悪くって、何度もカチカチカチを繰り返さなければならない。

 やっと安定して燃え始めると、ストーブのパーツが熱膨張してチンチンチンと音がする。やがて、スケルトンがオレンジ色に焼けて、やっとストーブは暖房力を発揮する。箱型も同じだと思うんだけど、こいつは外からは様子がうかがえない。カチカチカチカチとボッは同じなので似たような作りなんだろうね。

 そうそう、ゴム管には(2-3)とかクラスの札が付いている。職員室のホース掛けを見れば、どのクラスが使用中か一発で分かる仕掛けになっている。

 ゴム管の取り忘れは放っておかれるけど、昼休を過ぎてもゴム管を返しに来ないと『2年3組、連結ホースが返却されていません、至急職員室まで返却しなさい』と名指しで放送される。

 それで、ここからが本題なんだけど、ストーブの使用は4時間目まで。

 規定では――4時間目を過ぎても室温が18度を下回る時は連続して使用を認める――ということにはなっている。

 でもね、この18度っていうのは教室で計った温度じゃない。

「あれはな、事務室と校長室の間が両方からイケイケの給湯室兼倉庫になっていて、そこの温度計で判断してるんだ」

 十円男がこっそり教えてくれる。

 さすがは留年生、並みの二年生ではうかがい知れないことまで知っている。

「でも、それって事務室と校長室の間なんでしょ!?」

「おお」

「ハア……」

 短くも非難がましい会話になる。

 十円男の話では、事務室・校長室・保健室というのは、地球規模で言うと亜熱帯。ガンガンに暖房効いてるからね。その亜熱帯に挟まれた給湯室は広さが教室の1/3しかないし、境目のドアは開けっ放しのことが多く、その亜熱帯からの気流で、あの給湯室は温帯なんだ。

 でも、給湯室独自には暖房設備が無いので、そこで学校全体の室温にしているわけなんだと。

 前にも言ったけど、教室は窓側も廊下側も隙間だらけ。校舎は鉄筋コンクリートだけどもドアは木製。窓は鉄製だけどもパッキングされてないんで、キッチリ閉めても風が侵入してくる。

 なにが言いたいかと言うと、給湯室で18度を超えていても、教室はそうじゃない場合が多いってこと! 特に窓側の後ろの席は全然違う!

 ヘーックチ!

 五時間目の樫山文男の授業で盛大にクシャミが出てしまう。ヘーックチ!のチ!は、なんとか我慢したんでマックスのヘーックション!にはならなかったことの現れなんだけど、盛大に鼻水と涎を噴出してしまってグチャグチャ。

「顔赤いですよぉ」

 ロコが心配してオデコに手を当ててくれて、直後に叫んだ。

「先生、時司さん、すごい熱です!」

「ああっ……保健室に行って来なさい(-_-;)」

 樫山文男は、授業を中断させられた不快感をもろにため息に載せて、それでも指示だけはする。

 十円男でさえ、心配そうな顔をする中、わたしは保健室に。

 廊下を歩いていると悪寒がし始め、保健室で計ったら8度2分も熱があった。

「しばらく寝てなさい」

 ちょうど居合わせた長瀬先生にベッドで寝ているように指示され、毛布を顎の下まで被って目をつぶった……。

 

 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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銀河太平記・271『酔っ払いでいっぱいになる前に温泉に』

2025-01-24 12:34:00 | 小説4
・271

『酔っ払いでいっぱいになる前に温泉に』 東鈴 




 そのガキはジョッキと唐揚げを載せた小皿を持つと――気分わるい!――という感じで二つ隣りのテーブルに行ってしまった。

 それから30分ほど配膳やら厨房の手伝いをすると、臨時に召集されたアルバイトの子たちがやってきて、お岩さんたちと小休止。

「さっきの子はねえ、ああ見えても扶桑科学研究所の主任研究員なんだよ。むろん立派な大人さ」

「あのチビッ子が?」

「おお、テルって言ってよ、なんかの調査の為に昨日来たばっかりだ」

「調査?」

「ああ、なんでも、こないだのノモンハン事変の調査をするのに協力して欲しいって、殿下と交渉中なんだよ」

「モンゴルのやつらは気難しい、いきなり火星のチビッ子が行ったって協力なんかしてもらえねえしな」

「ああ、そう言えば、戦場にこっちの元帥……あ、いまはマイさんだったけ来てたわね」

「おお、青銅の騎士が気になるってマイさんが言うもんでよ。ハナもメグさんといっしょに行ってたんだぞ」

「ええ……あ、マイさんのそばでチョロチョロ駆けまわってるのいたあ!」

「チョロチョロ言うな(><)」

「ああ、ごめんごめん(^_^;)」

「青銅の騎士って、ちょっと頑丈なだけのポンコツだったんだろ。マイさんも取り越し苦労だったみたいな様子だったし……あ、市長」

 お岩さんが振り向いた先、厨房の裏口から半身を覗かせているバーコードのオッサンが「あ、どうもぉ」という感じで手を振っている。

「紹介しとくよ、こっち西之島市市長の及川軍平さんだ。こちらは孫大人の秘書で東鈴。たった今までフロアのヘルプやってもらってたんだ」

「あ、どうも、市長の及川です……」

「え、リアル名刺! 初めて見ました!」

「アハハ、ちょっとしたこだわりでして。インパクトあるでしょ(^○^;)」

「なんで裏口から入ぇってくんだよ、市長なら堂々と表からくりゃいいのによ」

「いや、厨房から少し観察……いや、変な意味じゃないですよ……よし、じゃあ、いきますか」

「今夜は泊っていきなよ、この分じゃ朝まで飲んでいそうだし」

「はい、いま、その決心をしたところです。素面に戻るのは明後日になりそうですから、またいずれ東鈴さん(^_^;)」

 けして役人的なそれではない笑顔を見せてフロアに行く市長。ググると元は国交省のキャリア官僚。西之島の市長になるにはいろいろあったんだろうなと想像する。

「そうだ、バイトの子たちも来てくれたし、ひとっぷろ温泉に浸かってきたらどうだい。夕方になったら酒臭いやつらでいっぱいになっちまうからさ」

「え、いいのか!?」

「いいさ、神社の方も神主があのざまだし」

 なるほど、シゲジイ神主は真っ赤な顔で孫悟や殿下とできあがってしまってる。


 カッポーーーン  ザザザザーーーー


 それだけで心がほぐれそうな音にひかれて温泉に浸かる。

 西之島は火山島なので、島のどこを掘っても温泉が湧き出そうなものだけど、地下水に限界があるので、自然なままで温泉になるところは意外に少ない。

「ここはよ、落盤事故の始末してる時に見つかった温泉なんだけどよ、戦争で整備が遅れてたのをやっと完成させたとこなんだ」

 説明しながらクルクルと裸になるハナ。巫女服の時は気づかなかったけど、胸から下、太ももの途中までの肌がツギハギでケロイドになっているところもある。アッケラカンとはしているけど、壮絶な人生を送ってきたことが偲ばれる。

「あ、ごめん。まだ皮膚の再生済んでないとこがあってよ、まあ、風呂に浸かったら見えなくなるからカンベンな(^_^;)」

「あ、ううん」

「メグさんとかは、さっさとやっちまおうって言うんだけど、あの手術は半日以上かかってよ、術後も激しい運動はダメとかカッタルくってよ、ノビノビにしちまって。まあ、性格の方はノビノビしてっからカンベンだ」

「プ( ´艸`)」

「あ、シャレるつもりはなかったんだけどな……東鈴はきれいな肌してんなあ……触っていいか?」

「うん、、いいよ」

「じゃ、ちょっとだけ……スリスリ……スリスリ……このスベスベ感は並のもんじゃねえなあ」

「あ、そうかなぁ」

 と応えながら、自分でもハッとする。鈴麗の一部を移植してから、どうも体の一部が変化しつつある。でも、それはマイナーチェンジ的なもので、自己点検しても特段驚いたりするものでもなく、驚いたり興味を持つものでもないと放ってある。

 入口の方で人の気配、目を向けると湯気の向こうに幼児体形のシルエット。

 一発で分かって、取りあえずお詫びを言う。

「さっきはすみませんでした!」

「ヒ!」

 いきなりだったのでビックリしてツルリンと滑った。

 ザバ!

 ハナがワープするようなスピードで飛び出し、転倒しきる前に幼児体形を助けた!


 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)

村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・03『レンチンが終わるまで・1・異変』

2025-01-23 13:50:55 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
 03『レンチンが終わるまで・1・異変』 




 たこ焼きをレンチンしながら千早は思う

――なんで、一回見合いしただけで結婚に踏み切れるのか?――

 姉の挿は去年の秋に見合いして、年が改まって間もなく婚約してしまったのだ。

 神社の年始は忙しく、挿に代わって覚えなければならない巫女のあれこれも多く、学校も三月足らずのうちに期末テスト学年末テスト。ほかにも諸々があって、今朝のゼロ戦生誕100周年フェスティバルに行ったのが久々の息抜きの千早だった。

 レンジの中でたこ焼きが回っているのを見ていると、拝殿の方から、祖父介麻呂の祝詞が聞こえてきた。

 拝殿からは距離があるのだが、介麻呂の祝詞は地鎮祭などでもよく響いて評判がいい。それに加えて挿の巫女舞が続くのだ。自分の家の神社なのにホワホワと聞きほれてしまう千早だ。


 天野太郎は市長になった明里に比べて影が薄い。

「月読(つくよみ)みたいだ」

 父の感想に挿も千早も頷いたものだった。

 月読とは月読命のことだ。父のイザナギが黄泉の国から戻って右目を洗った時に生まれ「月と夜を治めろ」とイザナギに命ぜられ、それ以来ほとんど現れることのない影の薄い神さまである。神社の娘だから姉妹ともども知っている千早だが、一般的にはアマテラス、スサノオの姉弟に挟まれて知られることが少ない神さまだ。

 天野家は九尾市の名家で、戦前から町長や市長を輩出している。それも、力にものを言わせての独占というものではなく、市長職を踏み台にして県知事や中央政界に打って出ようという色気も無い。その天野の長男でありながら、父の会社の係長に甘んじている天野太郎は――よくできたご長男――と地味に好感を持たれている。

――あ、お姉ちゃんのことだった(^_^;)――

 千早は、よく言うと反射のいい娘なのだが、興味がすぐに移る……というよりは飛んでしまい、時どき反省する。

――たった一回の見合いだし、それも相手はお寺の坊主だぞぉ――

 写真を見た時に「ああ、人付き合いのいい人だろうな」と千早は思った。

 神社も寺も、言ってみれば人を相手にする仕事なので人付き合いの良さは大事だ。仏頂面で口下手では氏子も檀家も減っていくだろう。

 それと、挿が嫁ぐお寺はちょっと面白い。

 旦那の妹……と思ったら同居の従妹らしいのだけれど声優のS。Sは去年ブレイクしたエルフのアニメで主役の声をやっている。Sはそれ以外にも千早の好きなアニメの数々に出ていて、そのSと親類になれると思うと、ちょっとワクワクしている。

――でも、まだお姉ちゃん23歳だよ、もったいない――


 シャリン


 神楽鈴が鳴って、いよいよ挿の巫女舞が始まった。

 そろそろ加熱も終わったかと視線を落とすと……レンジのタコ焼きは止まったままだ。

――あれ?――

 壁の電波時計も停まっているし、その下の出窓からは空にピン止めされたように雀が羽を広げたままフリーズしている。

 ええ……?

 振り返ると、キッチンの先は参集殿や拝殿に繋がる廊下のはずが、群青の空が広がっている。

 出窓の空とは違って、雲は流れて爽やかなそよ風さえ吹きこんできて、たこ焼きのそれではない香しい匂いさえ漂っている。

――貞治がやってるMRみたいだ――

 しかし、MRのゴーグルをしているわけでもない、だいいちMRでは匂いまではしない。

 すると、拝殿から漏れてくるそれとは違う神楽が聞こえ、滲み出るようにして人影が現れた。

 人影は近づきながらしだいに姿を明らかにし、千早の二間ほど前に進んだ時には浦安舞の正式装束の巫女になった。

――いや、巫女装束じゃない――

 その装束には縫い目が見当たらない。皴やヒダの寄り方も物理法則に従っているのではなく、アニメのそれのように、きれいにカッコよく見せるためにそよいでいる。


――これは神さまだ――

 
 千早は思った。


――いかにも 身はこの社の祭神たる神産巣日神(カミムスビノカミ)であるぞよ――


 神さまは、口も動かさずに千早に応えた。




☆・主な登場人物

八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし)         千早の姉
来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里           日本で最年少の九尾市市長
天野太郎           明里の兄
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・173『化学の講師はガタピシ男』

2025-01-22 15:00:49 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

173『化学の講師はガタピシ男』  




 化学の富永先生が休職された。


 去年の秋ぐらいから具合が悪かったらしく、お医者さんからは――仕事をお休みになって治療に専念された方がいいですよ――と言われていた……と担任のハナちゃんが朝礼の時、固い表情で告げて、クセのある前の引き戸を器用に開け閉めして出て行った。

 窓や戸をキッチリ閉めても冷気が忍び寄るポンコツ校舎なので、キチンと開け閉めするのは、先生も生徒も必須のスキルなんだ。

「花園先生のお父さんも北支からの引揚者ですからねえ」

「ホクシ?」

「え、ああ、中国ですよ、中国の北の方」

「あ、ああ」

 入学以来の親友も、やっぱり昭和人。同じ17歳だけど、生まれはゴジラと同じ昭和29年。たまにだけど、今みたく、とっさに言葉が分からないことがある。

「実験室を温めていたのも、自分の健康のためだったんだなぁ……」

 アンパンを頬ばりながら十円男。

 アルバイトでは、ちょっとだけ見直してやったけど、今の一言はいただけない。

「不謹慎だぞ」

「え、ああ……すまん」

 以前なら鼻で笑うか、批判的シカト面になった奴だけど「すまん」の三文字が言えただけ進歩と許してやる。

「今日の化学は教室、代わりの先生が来るからな」

 さっそく調べて来たんだ。委員長の高峰君が教卓で簡潔に説明。むろん引き戸はキチンと閉めてる。


 かくして、二時間目の化学はひざ掛けを下半身に巻き付けて代わりの先生を待つ。


 ガタ ガタピシ ガタガタ

 
 前の引き戸をガタピシ言わせながら代わりの先生が入って来る。大学を出たばかりという感じのニイチャンだ。

「起立」

「あ、そういうのはいいから」

 高峰君の礼節を手をヒラヒラさせていなすと、そいつは出席をとることも無く、黒板に名前を書いた。

 樫山文男

 意外という感じの「え?」と、主に女子のクスクス笑い( ´艸`)が起こる。

 なんでクスクス?

「一字違いだけど『おはなはん』とは関係ない。学年末テストまで一か月だけど、富永先生に代わって君たちの化学を受け持ちます。むろん、学年末テストも僕が作るから、そのつもりで」

 それだけ言うと、とっとと授業を開始する樫山文男。

 一時間、仏頂面で授業をやると「今日はここまで」と宣言して同時に二時間目終了のチャイムが鳴る。

 キンコーンカンコーン……

 終わりの起立・礼も、むろん省略して、ガタ! ピシ! 力技で戸を開けて出て行ってしまった。

 なんかムカつく若造だ。

 あとでググると『おはなはん』は4年前に爆発的にヒットした朝ドラと分かる。主演は樫山文枝さんというメチャクチャ可愛い女優さんだった。

 午後からは室内温度が18度を超えているとかでストーブは無し!

 このムカつく話題は次回!

 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 


 
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銀河太平記・270『島守睦仁とアルアル悟兵』

2025-01-21 11:31:22 | 小説4
・270

『島守睦仁とアルアル悟兵』 東鈴 





 にぎやかに氷室神社に参拝した後、そのままお岩食堂で歓迎会になった。


 お岩食堂は、カルチェタランのフロアと同じくらいの広さなんだけども、壁や天井に増改築した跡が見えて、氷室カンパニー(行政区的には南区らしい)発展の様子がうかがえる。

 悟兵が見せびらかすように、ゆっくりと筋斗雲を着陸させたこともあって、食堂は、とりあえず駆けつけた暇人やら、休憩中やら、サボってきたのやら、百人ほどが集まって賑やか。

 カルチェタランのある北大街も国籍不明の怪しい街だけど、ここは、その猥雑さから怪しさを引いた健康な陽気さがある。

「取りあえずはレプリケーターのアテで飲んどくれ! ランチの後で大したものは作れないけど、乾杯してる間に適当に作ってやるから!」

 お岩さんが宣言すると「オオ!」とか「分かった!」とか「了解!」とか返事があって、オッサン、ニイチャン、ネエチャン、ロボットに正体不明やらが酒やビールを注いだりレプリケーターに突進したり、なんとも猥雑で怪しい(^_^;)。

 怪しいんだけども、北大街みたいな落ちついた危なさは感じられない。

 悟兵とあちこち飛び回ったけど、ここの猥雑さは好きになれそうだ。

「みんな、とりあえず酒とアテは確保しただろ。ちょっと注目!」

「おお、サブも一人前になったアル」

「サブ?」

「ああ、昔は元気がいいだけの若造だったけど、フートンの主席代理になって大人になったアル」

「へえ、主席代理ぃ」

「殿下から、話があるから聞くように!」

 大方が静かになって、出入り口に近いテーブルの端っこから人の良さそうなオッサンが立ち上がる。

「申しわけない、一言だけ挨拶を」

 済まなさそうに言っただけで、少し残っていた喧騒も止む。いや、止むどころか全員が端近の、劇場で言えばほとんど立見席のそこに注目する。

「突然ではありますが、孫大人が筋斗雲に乗って戻って来てくれました。あ、つい嬉しいもので『戻ってきた』と言いましたが……本人もご異議がないようなので『戻ってきた』でいきます。西之島もようやく落ち着いて採掘作業やインフラの整備に掛かれるようになりました。島守としてこれほど嬉しいことはありません。ええと……とにかく、乾杯しましょう!」

 オオ!!!!

 すごい雄たけびが上がって乾杯すると、元の猥雑な酒盛りに戻ってしまう(^_^;)。

「済まない、孫大人。わたしだけが挨拶して、大人が話す間もなかった(-_-;)」

「いやいや、酒盛りは悟兵も好きアル。悟兵もあちこちで飲むから気遣いいらないアルよ」

「こちらは、新しい助手さんですか?」

「はいい、東鈴と云います。ちょと口やかましいアルけど、優秀アル。よろしくしてやってくださいアル」

「氷室睦仁です。改まった席では殿下を使っていますが、まあ、氷室鉱山の社長です。よろしく」

「東鈴です。改まった応対は苦手ですので、普通に話してかまいませんか?」

「ああ、むろんです(^_^)」

「あの、島守って呼称を使っていらっしゃったけど、あれは?」

 わたしのアーカイブに『島守』の呼称は無い。

「ああ、殿下という敬称が苦手なので発明しました」

「アハ、発明しちゃったんですか!?」

「自分では気に入ってるんですけどね、島を守るでシマモリ。防人(さきもり)に通じるカッコよさがあります」

「考えたアルね。音読みしたらシマノカミ(島の神)。現人神(あらひとがみ)のニュアンスに通じるアル」

「あ、それは無いですから(''◇'')ゞ」

 慌てて手をワイパーみたく振る。孫悟の十倍は誠実な人物のよう。

「大人も、アルアル語、可愛くていいですね」

「ああ、言ってやってくださいよ。そばで聞いていると気持ち悪くてぇ!」

「アハハ、気持ち悪がられてますよ」

「いいんじゃないですか」

「え、どうしてぇ!?」

「う~ん、距離感がいいと思います」

「距離感?」

「ああ、そうアル!」

「なによ」

「これ、厨房のお岩さんに持って行ってほしいアル」

「え、ああ」

「なんですか、これは?」

「マーマレードある。北京に寄ったら大統領にことづかったアル。あとで悟兵も行く言うといてアル」

「へいへい……あ……ちょっと……ごめんなさいね……通りますぅ……」

 昼時の学食みたいに混雑したホールを抜けて厨房のお岩さんに声をかける。

「お岩さん」

「え、あ、大人の?」

「はい、東鈴です。ボス、島守と話してるんで、預かりもの……」

「すまないね、手が離せないから、そこ置いといて」

「あ、はい」

『餃子10人前、唐揚げ10人前上がったぁ!』

 さっきのサル……ハナが鍋ふって、でもお岩さんは手が離せない、

「あいよ……」

「あ、あたし、手伝いましょうか?」

「え、すまないねえ。じゃ、5番テーブルだから、お願い」

「了解(^^ゞ」

 ヒョイヒョイとテーブルの間を縫って5番のテーブルへ。

「はい、おまち! 餃子10人前、唐揚げ10人前!」

 ドン ドン

 お皿を置いて気が付いた。真っ先にお箸を伸ばしてきた女の子(どう見ても小学生)が片手で生ビールをかっくらってる!

「ちょ、子どもがビール飲んじゃダメでしょ!」

「ム~、あたしは子どもじゃないんりゃから! ビールぐらい飲んでもかまわないのよしゃ~」

「どこがかまわないのしゃ~よ!」

 ギロ(≖△≖)

 ゲ、なんちゅう目つきだ! 




☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)

村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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