大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!47『ライオンの夢』

2024-10-31 13:28:29 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
47『ライオンの夢』 






 声の主は町長だったぞ。

 メタボの禿げ頭だけど、気配は生活指導の梅崎に似てやがる。

「気になってサンチャゴの家を覗いたらベアが倒れていた。君たち二人の姿はないし、サンチャゴは寝てるし。サンチャゴが寝てるのはいつものことだが、ベアは倒れているし、先に来ているはずの君たちはいないし。そこでサンチャゴの瞳を見ると、君たちの気配を感じてな。心配になってここまで来たんだ」

「町長さん、夢の中に入ってこれるんだ」

「めったに使わんが、この程度の魔法はな……しかし、二人合体してZ指定の結界を超えるとは……君の仕業かな、マユだったな、なかなかの魔法使いだ」

「ふふん、そんなアマチュアじゃなねえよ。こう見えても悪魔のハシクレ、魔法でマユには勝てねえぞ」

「……そうだったのかい」

「どうする?」

「やれやれ……」

 町長は、ため息一つついて、岩の上に腰を下ろしやがった。

「もう、こうなったら、お願いするしかないな……ライオンが目覚める前に、この夢から出て行ってくれないかい。ミファ、マユ……」

「どうして、起きているライオンを見ちゃいけないの」

「……手に負えないんだよ、ライオンは。昔は……といっても、わたしなんかが生まれる前だけどね。ライオンのことは学校でも教えていた。みんなライオンを信じていた……そして、そのために大きな戦争までやってしまった……大勢の人が死んで、島は、さびれてしまった。だから、わしたちは、もうライオンを見ないことにしたんだ、考えることもやめた。いま、島でライオンを見続けているのはサンチャゴただ一人。だから起こすわけにはいかない。君たちに、起きたライオンを見せるわけにもいかないんだ」

「そうなんだ……でもね町長さん。そんなこと言ってたら、あたし達の島は、いつまでたっても今のままよ。あたし達、まだ子どもだけど、任せてくれないかなぁ。ライオンをどう受け止めるか……それは見てみなくちゃ分からないから、感じてみなくちゃわからないから」

 その時、ライオンが薄く開いた。


  (((⁰͈꒨⁰͈))) !! 


 三人、声にならない叫びをあげたぜ。


 気がつくと、ミファと二人、サンチャゴの小屋にもどっていた。ベッドの脇にはケットからはみ出たベアの脚がはみ出ていたぜ。


 ライオンが目覚めたとき、それは気配で分かった。島の空気が強い力でみなぎったからな。

 サンチャゴの目もライオンの目も……井戸の底のように真っ暗だった。でも、今すぐにでも紅蓮の炎が噴き上がってくるような予感をさせる闇で。町長も合体したマユとミファもその底知れない闇に、声にならない悲鳴をあげることしかできなかった。

「わ、わしが、やったわけじゃない(-_-;)」

 町長の震えの残った声がテーブルの下からした。町長は少し遅れて戻ってきたんだ。

「わかってるよ、町長さん。わたしも、ただ怖ろしかっただけだし」

 合体が解けて、本来の姿に戻ったミファが言った。

 マユは表情を読まれたくなくて、窓の方を振り向いた。

 ガタン

 でも、余裕が無くて横の椅子を倒してしまったぜ。

「ごめん……たぶん、もどしたのは、マユだ。ライオンの目を見るのには、町長は歳をとりすぎてるし。ミファは、まだ幼すぎる。そして……二人を守るには、マユの魔力は弱すぎたんだ。だから……たぶん、マユが反射的に二人を連れて夢から飛び出したんだ」

「そうなんだ」

「サンチャゴじいちゃんは!?」

 ミファの声で三人は、サンチャゴのロッキングチェアーを振り返る。

 サンチャゴは安らかな寝息を立てて眠っていた。

「こんな安らかな寝顔を見たのは、初めてだなぁ」

「うん……サンチャゴじいちゃんは、ライオンを見ることができたんだもんね」


 そうじゃねえ……二人には言わなかったけれど、マユには見えぞ。ライオンとサンチャゴの目の底にあるものを。ミファは怖さのあまり記憶からとんでしまっているけど、もう少し大人になれば無意識に思い出すだろう。マユは、そう思って言わなかったぞ。

 マユの未熟な魔法で、なんとか戻って来て、だいじょうぶかなぁと思ったけど……うん大丈夫。

 言い訳めいた大丈夫だけど、サンチャゴじいちゃんの小屋を出て坂道を町へもどるころには安心してきたぞ。ミファの肩から力みが消えていたからな。


 ミ、ミファァァァァァァ!


 ミファを呼ぶ声が安心をぶち壊すように坂道を駆け上がってきやがったぞ……!



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • 狼男
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  




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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!46『サンチャゴとライオン』

2024-10-30 07:55:51 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
46『サンチャゴとライオン』 





 気安く引き受けたミファだったけど、ロックオンまで二時間もかかるとは思わなかったぜ。

 ピクピクピク……

 R2ボタンを押している人差し指がケイレンをおこしかけてやがる。

 ロックオンして間もなく、サンチャゴじいちゃんのボートは、大きな島の浅瀬で停まった。

「あ、着いたんだ……」

 くそ、これならロックオンなんかやらなくて、ただボートを追いかけてるだけでよかったぞ(-_-;) 

 小さな碇を投げ入れると、身軽にボートから飛び降りて、膝まで水に漬かりながら砂浜に上がっていくサンチャゴ。

 遅れて浅瀬に着くと、ミファもサンチャゴを追いかけた。

 ノッポのヤシの木がブッシュって言うか薮の中からニョキニョキ生えてて、いかにもカリブの島だ。

 サンチャゴは砂浜からずんずんブッシュの中に進んで見えなくなっちまった。

――▼マークが、まだ点いているだろ。ロックオンを続けろ――

 無駄と思ったロックオンが、ここで役に立つ。

「サンチャゴじいちゃん、なんだか身軽になってたよ……」

――ってか、若返ってやがる。背筋は伸びてるし、あの身のこなしは……どうやら、ここからはドキュメンタリーじゃねえみたいだぞ――

 十分ほど行くとブッシュをぬけて、草原に出たぞ。


 え?


 ▼マークの下にいるのは……海兵隊のフル装備に身を固めた若者だ。


――あれ?……サンチャゴは?――

「あれだよ……じいちゃん、若い頃は軍隊にいたんだ。あれ、そのころのサンチャゴじいちゃんなんだよ」

――うそ……!?――

「だって、ここはもうドキュメンタリーじゃないんでしょ」

 小悪魔のマユよりも、人間のミファのほうが、目の前のことを正確に受け止めているようだぜ。

 サンチャゴ……サンチャゴ軍曹は、ゆっくりと草原を見渡した。むろんミファとマユが合体した女の姿は見えねえ。ここは、あくまでサンチャゴの夢の中なんだ。

 やがて、サンチャゴ軍曹は、なにを見つけて小走りで寄っていった。まるで宝物を見つけたハックルベリーみてえにな。


 え?


 それは、大きなライオンだった。


 ライオンは、金色に近い豊かなたてがみをしてて、それを草原を吹く風になびかせてうずくまってやがる。

 ZZZZZZZ……ZZZZZZZ……ZZZZZZZ……

 ゆったりとした呼吸は草原全体の時間を支配してるみてえに威厳があった。

 サンチャゴ軍曹は、かがんで、ライオンの顔を居眠っている友だちのように見ている。

 そして、目覚めるのを待つように、ライオンの横に並んで座ったぞ。

 海兵隊の軍曹とライオン……変な取り合わせだったけど、なんだか友だちみてえだ。

「サンチャゴじいちゃん、ライオンが目を覚ますのを待っているんだね」

――これだったんだな、サンチャゴが見ていた夢は――

「あたしたちも、待っていようよ、ライオンが目覚めるのを」

――おお。ライオンが目覚めたら、全ての秘密が分かる気がするぜ――

「なんだか、胸がドキドキしてきた」


 そこまでだ……!

 え?


 合体した二人の後ろで声がしたぞ。




☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
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  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
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勇者乙の天路歴程 030『生麦事件・2』

2024-10-29 15:40:29 | 自己紹介
勇者路歴程

030『生麦事件・2』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




 瞬時に判断した。


 男一人は袈裟懸けに切られて落馬している。こいつは助からない。

 別の男は女性に「Run awey!(逃げなさい!)」と叫び、女性は馬首を巡らせて疾走していく。残った二人はあちこち切られながらも女性が逃げた反対方向に走っていく。女性を追わせないためだろう、わめきながら行列の注意を一身に集めている。

「ビクニ、おまえは侍たちを足止めしろ! スクナは付いて来てくれ!」

「了解!」「お、おお!」

 ビクニは後ろ向きの空中二回転ジャンプで侍たちの前に着地、 少佐の姿だし、なんとか時間を稼いでくれるだろう。

 わたしはスクナといっしょに駆ける! 

 小柄な上にナース服なので、オンブしてやらなければ……と、思ったが、なかなか、ちゃんと付いて来ている。

「スクナ、ガマンメンタムで治せるかい?」

「まかしといて! ガマンメンタムも効くけど、スクナの治癒魔法はレベル99だからね!」

「おお、それは頼もしい。あ、あれだ!」

 一里塚を過ぎたっところで、馬と一体化した男の姿が見えた。

 馬と一体化と言ってもケンタウロスというわけではない。出血が多いのだろう、馬の首にすがるように伏せて動かなくなっている。もう一人は、なんとか逃げおおせたのだろう、姿が見えない。よし、この男を助けよう!

「あ、落ちる!」

 スクナと同時にダッシュして、落馬寸前の男を抱えて杉木立の後ろに運ぶ。

「き、君たちは……?」

 苦しい息の中、わたしたちのことを訊ねる男。意識はあるんだ、助かるだろう。

「通りがかりの者です。まず、止血をします……」

 男のシャツを破って止血帯にしようと思ったが、スクナが包帯を出してくれる。

「じっとして、回復魔法をかけるから……大地に満ちたる命の息吹、この者の傷を癒し、命の火を繋ぎ留めよ……」

 詠唱とともに両手で〇を作ると、〇の中から光が出て、男の傷を照らして、みるみる傷口を塞いでいく。

「君は……ナースかと思ったら、魔術師なのか?」

「もう少しで、失血した血も復活するから、大人しくして……」

 ヤガミヒメの館からこっちの印象と違って、ものすごく真剣な様子に、ちょっと感動する。
 そう言えば、エプロンを取れば黒を基調としたナース服は修道女に通じるものがある。 

「……よし、これで、八割がた戻った」

「全部戻さなくてもいいのか?」

「あとは、ちゃんと食べて寝て、自然に直した方が体にいい」

 おお、やっぱりしっかりしている。

「あ、ありがとう、もうここで死ぬんだと覚悟したところだった……あ、女性の方は!?」

「だいじょうぶ。もうひとり仲間が助けに行っている。女性は無事に逃げたと思う。男性の一人は傷は負っているが助かると思う。落馬した一人は残念だが……」

「そうか……いや、ほんとうにありがとう。あやうく、この世界線で死ぬところだった」

 世界線?

 わたしもスクナも手が停まった。この時代の人間に世界線の概念などあるはずがない。

「君たちも違う世界線から来たんだろ? 君は円卓の騎士のようなナリだし、このお嬢さんはナースのナリはしているけど、魔術師のようだ」

「あなたは?」

「ジョン・タイター」

「え……ジョン・タイター!?」

 スクナは「え?」という顔だが、わたしは包帯を巻く手が停まってしまった。

 

☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • ビクニ        八百比丘尼  タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • スクナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!45『シーシュポスの岩みてえだ!』

2024-10-29 08:59:44 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
45『シーシュポスの岩みてえだ!』 




「このままじゃ、終わらないよ……」


 言葉の意味は、すぐに分かっぜ。

 あたりに、ウヨウヨとサメが集まってカジキマグロを狙い始めやがった!


 サンチャゴは、モリを構えて立ち上がった。


 波に揺れるボートの上で仁王立ちになり、獲物を狙うサメたちを寄せ付けまいと必死の形相だ。
 普通の人間なら、あの揺れるボートに立っていることすらできねえだろう。それをサンチャゴはサーファー顔負けのバランス感覚で立ってやがる。

 立っているだけじゃねえ、カジキマグロに寄ってくるサメのやつらを追い払ってやがる! 

 ガシ! ガシ! ドガ!

 最初の三匹は、急所の鼻面を一撃にして仕留めたけど多勢に無勢。一騒ぎ終わったころには、カジキマグロは半分近く食いちぎられていたぜ。

「こういうことなんだな……」

 マユは、小悪魔らしからぬ気弱さで呟いちまった。

「まだまだ、これからよ(-_-#)」

 ミファは怒りと闘志のみなぎった声で言うと、船縁をギュッとつかんだ。

「これが夢でなきゃ、魔法で助けてやれるんだけどな……」

「これは夢だけど、サンチャゴじいちゃんが言っていた最後の漁よ」

「……じゃ、これはドキュメンタリーなのか」

「うん。なにもかもサンチャゴじいちゃんの話のとおりだもん……ほら」

 また、サメの一群が来やがった。

 ガブガブ! ガシ! ガシ! ドガ! ガブ! ガシ! ガブガブ!

 カジキマグロは半分以上食われちまったぜ!

「まだまだサメは襲ってくるよ」

 ミファの予想どおり、サメはもう二回やってきて、とうとうカジキマグロを骨だけにしてしちまいやがった。

 しかし、サンチャゴは最後までサメと戦ったぞ。

 カジキマグロが骨だけになっちまって、サメも寄ってこなくなると、サンチャゴは、くたびれ果てて船縁に頬を乗せるようにしてくずおれちまった。

 え……?

 船べりに顎を載せながらも、サンチャゴは海の様子を窺ってやがる……また獲物の気配がして……え、これってループするんじゃね?

 あ、また竿を持ちやがった!


 シーシュポスの岩を思い出したぜ。


 二度まで神を欺いたシーシュポスは神に「そこの岩を山の上まで持ち上げろ」って言われるんだけど、山の上まで持ち上げた岩は、あくる日には音もなく麓まで降りてきてやがる。シーシュポスはまた岩を持ち上げて、また降りてきてを無限に繰り返すって、鬼みてえな罰だ。

 鬼は、こんなことはやらせねえ「鬼差別だ!」って怒ってやがったくれえだ。

 シーシュポスは心が折れて、死んだ魚みてえな目になって、今でも岩を運んでやがるけど、 サンチャゴジジイ、ここで無限に獲物を獲ってはサメに食われるやがるんだ!

 魔法は使えねえけど、見ることはできるぞ。小悪魔の目であたりを探ってみる……。

「あ、水平線に抜け道があるみてえだぞ!」

 ゲームの中のヒントみてえにピカピカしてるのが見えたぞ。きっと、別ルートにちげえねえ!

「あ、あそこはダメ」

「なんでダメなんだ?」

「あっちは、よその国の漁場なんだよ。うちの島はね、むかし大きな戦争に巻き込まれたの……で、負けちゃったから、漁場をひどく制限されて……頭の回る大人たちは、よその島に行って雇われ漁師をやっている。うちの島の漁師は優秀だから、どこでも重宝がられてる。あとは、ちょこっとした観光やら、葉たばこ作ったり……だから、島は、年寄りと女子どもだけになってしまったんだ」

「サンチャゴは、そういうのは出来ねえたちなんだなぁ……でも、もう一つの方は?」

「あっちは……(-_-;)」

「あっちは?」

 俯いてしまいやがる。

「ミファまでタソガレてどうすんだよ……」

「…………」

 言っても仕方がねえ感じなんで、ひとことグチっただけにする。

「それでも、サンチャゴじいちゃんは漁に出た。こうやってリアルに見ちゃうと、こっちまで折れちゃう……」

「でもよ、なんで、サンチャゴを眠らせつづけておくんだ? こんな夢を見続けるのはシーシュポス以上の拷問だぜ」

「そうだよね……」

 なんでだよ!? 

 ノドチンコのとこまで出てきたけど、マユはもう一回吞み込んだぜ。

 見てっかぁ、デーモン先生。マユも辛抱強くなっただろうが。

 ここは、もう出口がねえ。もう戻るぞ( ' ^ ' #) 。


 キリキリキリ

 カチューシャが閉まってきやがる!


 わ、分かった、もうちょっとだけ居てやっから(>皿<)!

 コツン

 そのときボートの舳先が、なにかに当たった。

「ん、なんだろう……?」

 なにかの先には、まだ海が続いているけど、ゲームのエリア限界にきたように前に進めなくなっちまった。

 しかし、サンチャゴのボートは二人のボートを残して、その先に進んでいく。

 ジャジャーーン!

 すると、目の前に大きなアラームが映し出された。


 この先Z指定! CEROレーティング(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)


「なに、これ……?」

 ミファが首をひねった。

「だれだか知らねえけど、この夢に介入してるみてえだな」

「Z指定だったら、あたしたち入れないよ」

「フフ、こんなもの……」

 マユが、指を一振りすると、アラームは簡単に消えてしまった。

「え……どうやったの?」

 ミファは、マユに聞こうとしたが、マユの姿は見えねえ。

「マユ、どこに行ったの……海に落ちた?」

 ミファは船縁から海を見た。すると……。


 海面に映っていたのは、ミファでもマユでもない三十過ぎの女だったぜ。


 なかなかの美人みてえだ。

 ミファは驚いて、後ろを見て、もう一度海面を見た。その美人は紛れもなく、ミファ。

「……これって、あたし?」

――でもあるし、マユでもある――

 自分の頭の中で、マユの声がした。

「マユ!?」

――なんだか無意識にやっちまったぁ。マユとミファを足したみてえだな。すると、こういう三十過ぎのイケたおねえさんになる。三十過ぎだからZ指定は関係なしだ……ちょ、ちょっと、どこ触ってやがんだ(''◇'')!?――

「あたしって、こんなに胸大きくなるんだ!」

――ま、二人分足した姿だからな。どっちの要素で、こうなったか分からねえ。ま、体はミファが動かせ。考える方は、マユがやるから――

「で、とりあえず、どうしたらいいの。もうサンチャゴじいちゃんのボート見えないよ」

――足もとにコントローラーがあるだろ――

「あ、これ……ワイヤレスじゃないの?」

――首からぶら下げんだ。この夢に介入したやつは、ゲーム仕様にしたみたいだから。△ボタンを押してみ――

「あ……!」

 水平線に▼マークが現れた。

――その方角にサンチャゴがいる。R2ボタンがアクセル。L3のグリグリが舵だから、がんばれ。ボートが見えたらロックオンの※が出るから、R3で合わせて、押し込む。すると自動追尾になるからな――

「よっしゃー!」

 気安く引き受けたミファだったけど、ロックオンまで二時間もかかるとは思わなかった。R2ボタンを押している人差し指がケイレンをおこしかていたぜ(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
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  • 白雪姫
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!44『カジキマグロ』

2024-10-28 08:10:06 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
44『カジキマグロ』 


 
 


 いつの間にか、ストローハットはボートになってクルクル回ってやがる。

 マユは小悪魔でミファは港町の子だからボートに酔うことはねえ。

 しかし、様子が分かるのには、少し時間がかかったぜ。

 海は荒れてやがる。

 まるで海自身が何かを予感して興奮してるみてえだ。

 人の背丈ほどの波が絶えずわき起こり、マユには海の妖精たちが、なにかおもしろいことを見つけて騒いでいるみてに思えた。

「低気圧が過ぎたところみたい。ほら、波はまだ騒いでいるけど、空は青いよ」

 ミファが、港町の子らしく解説しやがる。

「こういうときは獲物がかかりやすいんだ……」

 ミファが、そう続けたとき、波間にチラッと他のボートが見えたぞ。

「あ、あれは……?」

「……サンチャゴのボートだ!」

「え、よく分かったわね」

 ミファが感心した。

「だってよ、ここは、サンチャゴじいちゃんの夢の中だからな」

「え……そうなの!?」

「見たいと言ったのは、ミファの方だぞ」

「夢って、こんなにリアルなの……潮の香りも、海の感覚も本物だよ」

「……それだけ、サンチャゴの想いが真剣だってことだ」


 波間に見えるサンチャゴジジイは格闘してやがった。


 リールを巻いては緩め、緩めては巻くを繰り返してやがる。

 ただの繰り返しじゃねえ、ボートのケツを獲物に向けながらだ。

 横からリールを巻くと、獲物の勢いで転覆させられる。それで、時どき足で梶棒を蹴って絶えずケツを向けてやがるんだ。 呼吸を整え獲物のそれに合わせてやがる。

 時どきサンチャゴは体ごと海に引きずり込まれそうになるけど、必死でふんばる。負けそうになるとリール空回りさせ、釣り糸を伸ばす。梶棒を蹴って尻を向ける。向けては竿ごと獲物を手繰り寄せる。

 伸ばして、引いて、梶棒を蹴って、リールを巻いて、また緩めて……そんなことを何十編もくりかえし、瞬間、サンチャゴジジイが渾身の力でふんばったとき、そいつは海の上に躍り上がるように姿を現した。

 ザッパーーン!!

 そいつは、マユの背丈の五倍もありそうなカジキマグロだったぜ!

「じいちゃん、がんばれえ(>〇<)!」

 ミファが思わず声をかけた。

「ここは夢の中だ。言っても聞こえねえぞ」

「でも、でも、サンチャゴじいちゃん、あんなにがんばってんのに……!」

「だから、夢だって。あんまり入り込みすぎると、夢の中から出られなくなっちまうぞ」

「う、うん……」

 それから何時間たっただろうか……ようやく、サンチャゴは獲物を船縁までたぐり寄せ、モリでトドメを刺した。マユもミファといっしょにボートの船底に尻餅をついてしまったぜ。

『く、くそ……こんな時に、あいつが居てくれたら』

 獲物のカジキマグロは大きすぎて、ボートに引き上げることができない。サンチャゴジジイは、仕方なく船縁に獲物をくくりつけた。

「あいつって、だれ?」

「……少年」

「少年? 新聞配達のエロガキか?」

「べつの子。いつもサンチャゴじいちゃんのボートに乗っていた」

「今日はいねえのか?」

「……親が反対していたから。サンチャゴじいちゃんは大物狙いで、坊主で帰ってくることが多くて稼ぎにならないって、親が反対してたんだ……これは、じいちゃんの最後の漁なんだ。じいちゃんの記憶……それとも願望なのか……」

「そうかぁ……でも、最後に大物仕留められてよかったじゃねえか」

「このままじゃ、終わらないよぉ……港まで持って帰って陸に上げるまでが漁なんだよ」

「そうなんだ」

 ミファの言葉通りサンチャゴの気は張り詰めたままだったぜ……。



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  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
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銀河太平記・256『エキシビジョンレース』

2024-10-27 15:45:01 | 小説4
・256

『エキシビジョンレース』 ツナカン 




 エキシビジョンレースはゲストの人たちのレースっす!


 1号艇=ココちゃん(須磨の宮心子内親王殿下)

 2号艇=森ノ宮茂仁殿下

 3号艇=周温来

 4号艇=ミナホ(マーク船長の部下の美少女アンドロイド)

 5号艇=ポチ(マーク船長の犬型クルー)

 6号艇=桔梗(扶桑幕府所属、ココちゃんのガード)


「み、みなさん、お手柔らかにお願いします(≧▢≦ )!」

 ココちゃんは緊張しまくりで、メッチャ可愛いっす。エキシビジョンだから見る方もやる方も楽しめばいいっす。でも、ココちゃんは根が真面目なお姫さまなんで、こういうお楽しみでも気が抜けないんすね。

 がんばれココちゃーん! 楽しめばいいからあ! 力ぬけえー! 

 温かい声援もココちゃんにはプレッシャーみたいなんすけど、プレッシャー感じた時の表情が可愛いんで、みんな調子にノルっす(^_^;)

「エキシビジョンではあるが、ボートにはブースターが付けてある! ここ一番という時にブーストをかけて、みんなをハラハラドキドキさせてほしい。通過地点には花火を仕掛けてあるから楽しみにな。では、いくぞ!」

 バキューーン!!

 船長がスターターのパルスガンを撃って、全艇いっせいのスタートっす!

「いっけー!」「ダッシュー!」「いけいけー!」「日本一ぃ!」「宇宙一ぃ!」「ココちゃーん!」「ココ姫ぇ!」

 いやあ、他のゲストには悪いんすけど、クルーはみんなココちゃんを応援するっす。

 ここだけの話っすけど、ココちゃんのボートには特性のパルスブースターが付けてあるっす。折り返し地点のところでブーストさせると、すっげードリフトしながら旋回してトップに出るようにしてあるっす!

 折り返し地点のブイドローンには通過速度に応じて派手になる花火が仕掛けてあるんで、メチャ楽しみっす! 

「え、ツナカンもなにか仕掛けたのか?」

「え、なんだ、オデンカンもなんかやったのか!?」

「燃料タンクを大きくしたぞ、ノズルもいじったし」

「ええ、自分は燃料をパルスギに換えたぞ……」

「自分も……」「オレも……」「あたしも……」「実は……」

「ええ、おまえらもかあ!?」

「ええ、船長もっすかあ( ゚Д゚)!!」

 みんな、ココちゃんに肩入れして、ちょっとずつココちゃんのボートに仕掛けをしてたっす!

 ヒンメルの乗員は、こっそり仕掛けをすることにかけては右に出る者がねえってやつばかりっす。ちょっとビビったっす!

「ああ、でも……」

 ココちゃんは、性格がいいので、そういう裏技的なのは使わずに通過点を一つ二つと通過していくっす。

「まあ、ブースト使わなければ、普通の内火艇だからなぁ(^_^;)」

 第三ポイントを通過した時には5番目、6番目が森ノ宮殿下っす。

「意外にのろいのな、森ノ宮さん」

「ちがうぞ、オデンカン、万一のことが無いように、見守っているんだ」

「そうなんすかぁ……ちょっと詰まらねえかもっす」

「いや、折り返しを過ぎて、安心できたらダッシュをかけるつもりなんだろう」

「さすが船長、読みが深いっす!」

「フフフ、それぐらい読めなければ、貴様らのボスは務まらん」

「アハハ、そうっすね(^_^;)」

 
 で、それは、折り返し地点でスピンターンを決めようとした時に起こっちまったっす!

 
 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 


 

 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!43『サンチャゴ爺さん』

2024-10-27 08:52:12 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
43『サンチャゴ爺さん』 




 あれえ?

 サンチャゴじいちゃんの小屋は、近くで見ると意外に大きいぜ。

 岬の一軒家なんで、比較になる建物がねえことや、作りがザックリしているんで小さく見えてるんだろうけど……家の前に立つと、自分が小さくなったんじゃねえかと錯覚するほどに大きいぜ。


「お早う、じいちゃん」


 ミファのあいさつに応えははなかった。そんなことにかまわずに、ミファは中に進んでいきやがる。

 教室ぐらいの部屋に寝室や台所がついているだけのようなシンプルさ。漁具や海で拾ってきたガラクタがあちこちに散らばってやがるけど、足の踏み場もねえ……というわけでもねえ。

「来るたびに片づけているから、まあまあだけどね……ベッドにはいない……ということは」

 サンチャゴじいちゃんは、教室ぐらいの部屋の海側に面した大きな窓辺、そこのロッキングチェアで眠ってやがった。

 色あせた横しまのシャツにオーバーオール。骨太だけど、しぼんだ風船みてにに萎えてやがる。漁師特有の赤茶けた顔には深いしわが刻まれ、頬から下は真っ白な無精ひげ。

 戦場で迷子になって、もう一歩も動けねえジジイの兵隊みてえだ。

「サンチャゴは、海の上が一番似合うんだ。さあ、潮風を入れようね。ちょっと手伝ってくれる」

「おお、いいぞ」

 大人が二人両手を広げたぐらいの窓は、ごっつい樫の木でできている。ひとマス三十センチほどの格子のガラスは厚さが一センチほどもあって、横引きのシャッターを開けるくらいの力がいりそうだ。

「よいしょ!」「せーの!」

 ガラ ガラガラガラ!

 トロッコが走るみてえな音がして窓が開いたぜ。

「うん、これくらいでいいよ」

 ミファがOKを出すと、潮風が海鳥の声や波音といっしょに入ってきたぜ。

「さあ、タバコに火を点けるよ」

 ミファが、タバコの用意をしている間、ジジイの薄く開いた目を見た。白目は歳相応に濁ってやがるけど、瞳は、海の色をそのまま写したように青くて、ちょっと見とれちまったぜ。

 その瞳は動くことはなかったけど、瞳孔は、なにかを見つめてるみてえに絞り込まれてやがる。
 

 戦う男の瞳だと思ったぞ。


 小悪魔の歴史の授業で習った、プルターク英雄伝のサラミスの海戦、その中のデメトリオス一世の瞳と同じだと思った。

――退屈な授業を聞かせるより、こういう実物を見せた方がよっぽど分かりやすいぜ――

 マユは、自分の不勉強を棚に上げて感心したぞ。

 と……次の瞬間、青い瞳は死人みてえに力を失い、鋭く絞り込まれた瞳孔は、だらしなく緩んじまったぞ。

「ミファ、タバコを消せ!」

「え……?」

「いいから早く!」

 ミファにタバコを消させ、魔法で窓を全開にした……!

「こんなことをしたら、じいちゃんの体に悪いよ」

「悪くなんかねえよ。じいちゃんの瞳を見てみろ」

「……あ!」

「分かった……?」

「……うん」

「サンチャゴじいちゃんの目は戦う男の目なんだ。でもサンチャゴじいちゃんは起きることは無ぇ……んだろ。瞳は絞り込まれているけど、体は緩んだまま」

「これって……」

「たぶん……オンディーヌの呪いだ」

 ゾワ( ゚Д゚)


 そのとき背後に人の気配を感じた。


 いつのまにか、入り口のところにベアおばちゃんが立ってやがる。

「やっぱり、その子は魔女、いや、ひょっとしたら魔法少女!?」

「ちがうわ!」

「いま、たばこを消して、窓を魔法で閉めただろ。あんたたちみたいな子どもでなきゃ、サンチャゴの世話はできないけど、いつか、こんなことになるんじゃないかと心配もしていた。サンチャゴの夢を知りたがるんじゃないかって」

「ベアおばちゃん、やっぱりなにかあったのね。サンチャゴじいちゃんを起こしちゃいけないなにかが」

「ミファ、その子から離れるんだ。いま封じ込めてやるから!」

「おお( ゚Д゚)!」

 ベアおばちゃんは一枚のカードをかざしやがった。元プリマドンナだから、めちゃくちゃカッコよくて、思わず感動の声が出たぜ。

 けど、この小悪魔マユをどうこうできるシロモノじゃねえ。

「魔女封じの宝珠か……そんなもんでマユは封じられねえぞ」

「レアもののカードなのに……」

 パチ  ボ!

 マユが指を鳴らすと、カードに火が点いた。

「うわ、アチチ……!」

 ベアおばちゃんは、慌ててカードを手放しやがった。

 カードは意思あるものみてえにワンカートンのたばこの包みの上に落ちた。

「マユは、魔女でも魔法少女でもねえ、小は付いても悪魔なんだぞ。そんなヘナチョコカードにゃ負けねえぞ!」

 ブスブスブス

「グ、だれがブスだ! え、ちがうのか?」

 たばこの包みがくすぶり始めた。気を取り直して話してやったぞ。

「サンチャゴには、すでに、精霊オンディーヌの呪いがかかっていて、目覚めることはねえよ。その上ハバナたばこの煙……この煙を嗅ぐと仮死状態になって目の光りまで失ってしまうんだ。そうだろベア!」

「そ、それは……」

「うそだよ、そんなこと。だったら、いっしょにいるミファたちも仮死状態になっちまうじゃないか(;'∀')!」

「このたばこは、大人しか効き目がねえんだろ。だから子どもにだけ世話をさせてるんだ」

「グヌヌ……」

「消すぞ、ベア」

 くすぶるたばこに息を吹きかけてやった。煙はベアの顔を包み込むようにわだかまって、ベアは、あっけなくくずおれちまった。

「ベアおばちゃん!」

「だいじょうぶ、寝てるだけだ」

 それでもミファは、ベッドからケットを持ってきてベアに被せてやる。いいやつなんだ……けど、口には出さねえ。

「……そんなにサンチャゴじいちゃんの夢って、怖いものなの?」

「怖いものじゃなくて、危ないものなのかもしれねえぞ」

「……この目で確かめてみたい。この絞り込んだ瞳が見ているものを……でも、無理な相談ね。そのオンディーヌの呪いとかがかかっているようじゃ」


 ボォォォォォ


 開け放たれた窓から汽笛が聞こえてきた。めずらしく大きな船が入港してきたみてえだ。

 ボォォォォォ

 チラッと見ると灰色の軍艦だ。

 ボォォォォォ

 汽笛は、もう一度鳴って、気づくと、サンチャゴの目は汽笛が鳴る度に光が強くなっていってる。

 あれ?

 そして、偶然か、魔法か、坂道で吹き飛ばされたマユのストローハットが、窓から、フワリと小屋のテーブルの上に舞い降りてきやがったぞ。

「じいちゃんを起こすことはできねえけど、夢の中に入っていくことはできるかもしれねえ」

「行ってみたい!」

「どんな夢だか分からねえ。場合によっちゃ夢に取り込まれて出てこれなくなるかもしれねえぞ」

「でも、見てみなくちゃ始まらないよ……お願い」


 ボォォォォォ


 南度目の汽笛が、とどめのように鳴り響いた。


「わかった。じゃ、マユの目を見つめろ……」

 そう言いながら、マユはストローハットを逆さにしたぞ。

「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 呪文と共に、マユとミファの体はどんどん小さくなって、逆さになったストローハットの中に収まった。

「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 呪文は、さらに続く。

 今度は、ストローハットそのものが小さくなり、浮き上がったかと思うと、サンチャゴじいちゃんの青い瞳の中に吸い込まれるように入っていったぞ!


 それは、巨大な青い渦に巻き込まれていくボートみてえだったぞ……。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • 狼男
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・135『やっと進路希望調査票を書く』

2024-10-26 11:23:17 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
135『やっと進路希望調査票を書く』   




 ちょっと考えた。


 進路よ、進路。

 毎日、令和から昭和の宮之森高校に通ってる。

 動機は制服。

 去年の春に開校以来の制服がモデルチェンジして、どこにでもある今風の制服に変わった。気づいたのは合格者説明会。部活とかに来てる在校生は旧制服だったけど、パンフに出てたのは『新制服』でビックリしたんだ。

 絶対昔の制服の方がいい!

 それで、昭和の宮之森に通って、もう二年。

 授業はつまらないけど、学校は楽しい。

 中学じゃ、最後まで名前と顔の一致しないクラスメートが居たけど、今はクラス全員……どころか、よそのクラスにも友だちが居る。

 ロコ、 たみ子、 真知子、佳奈子、演劇部の牧内さん、みんな一生の友だちになりそう。

 男子だって、10円男の加藤高明を始め、委員長の高峰君とかは小中学校時代の女友達よりも距離が近い。

 できたら、このまま昭和の学校に通いたい。大学に行って、就職もしてぇ……むろん令和の家から通うんだ。二重生活だね。

 我がままだけど、ドップリ昭和で暮らすのは二の脚。

 理由は何だと思う?

 ネットが無いから? スマホが無いから? あっちこっちでタバコ喫ってるから?

 ううん、トイレですよ、トイレ!

 洋式トイレはめったにないし、ウォシュレットはまだ発明されてないし、一般家庭はまだまだポットン便所だったりする。

 だからね、令和の時代から毎朝、戻り橋を渡って昭和で昼の生活をする。

 我がままかなあ……そう思って進路調査票と睨めっこ。


「いいじゃない、昭和で進学したら」


 テレビを観ながらお祖母ちゃんが言う。

 油断がならない、ちゃんと見てるんだよ、この年寄りは。

「旋(まわり)なんか、火星で暮らすつもりなんだしさぁ……」

 これは、お母さんへの皮肉だ。あの人はNASAの訓練所に行ったきり音沙汰がないからね。

「見てごらんよ、この総理大臣の顔ぉ」

「人を顔とか見かけで判断するのは良くないんだよ、ルッキズムって言ってさあ……」

 テレビを見ると……ああ、この人だったんだ(-_-;)

 おたふく(学校の前のお好み焼き)のテレビで見た総理大臣を思い出した。

 佐藤栄作、よく分からないけど、令和のこの人よりは100倍マシな感じだった。ググってみると、安倍さんの義伯父さんのお父さんだった。

 家系でドーノコーノは反則なんだろうけど、納得してしまった。

 締め切りを二日過ぎた調査書に『文系進学希望』と書いた。

 明日は日曜で総選挙だけど、1971年は大安の水曜日。

 学食のAランチは、クジラの竜田揚げの日。ちょっと楽しみ。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!42『ストローハットを飛ばされた!』

2024-10-26 09:13:50 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
42『ストローハットを飛ばされた!』 




「ミファ、サンチャゴにこれ」

 ベアおばちゃんがミファに包みを渡しやがる。

 気になる包みだけど、ここで聞くのはヤベエ気がしたぞ。ささいな疑問や質問を口にしたとたんに、全部が崩れてしまいそうな危なさがしやがるんだ。

 たとえばよ、トランプタワー……って、アメリカの元気なジジイじゃなくて、トランプの札を器用に積んでって、ピラミッドとかビルみたいに積むやつな。ちょっと一枚失敗しただけで全部が崩れっちまうって遊びがあるだろ。たいてい何人もでやって賭けにしてやがる。

 魔界でも、いい歳した悪魔のオッサンたちが『エンジェルタワー』って名前つけてやってやがる。崩れたら「奢れえ!」とか、嫌な仕事押し付けたりとかな。

 あのエンジェルタワーみたいな感じ。

 
「その包み、何が入ってんだ?」

 港町の狭い坂道を上がりながらマユは聞いたぞ。

「タバコよ」

「サンチャゴの爺さんにか?」

「うん(-_-)」

「だいじょうぶか(^_^;)?」

「うん。もう自分じゃ喫えないんだけどね、これを焚いとくと、サンチャゴじいちゃんはうなされないの」

「爺さん、かなり悪いんだな……」

「うん。もう何年も寝たり起きたり。近頃じゃ、起きてるのは日に二時間ほど。それも起きてるだけで、なんにも喋らないし、面と向かっても視線も合わない……でも、分かるんだ。瞳の奥には、何か訴えかけてくるような光があるから」

「光……」

 そこで二人は、坂道の上に出てきた。

「うわぁ……!」

 カリブの海が一望に開け、吹き上げる潮風が心地よく髪をなぶっていく。ストローハットが飛ばされないように反射的に頭をおさえたぞ。「キャ」なんて声上げちまって、その仕草が自分でも可愛くって――こんなのマユじゃねえ!――と戸惑っちまう。

「ウフ」

 ミファが笑いやがって、ますますオタつくぜ(#'∀'#)。

「う、うわー、すごいね、ここの眺め。100%の海だ( ゚Д゚)!」

 わざとビックリして誤魔化すんだけど、ほんとに感動してっから、ますますオタついちまう!

「晴れているときは絶景だけどね、海が荒れたときは、すごい風で、小さい子なんかは、とても通れたもんじゃないんだよ。この道をちょっと行ったとこの岬の先にサンチャゴじいちゃんの家があるの……ほら、あそこ」

 ミファが、道の先を指した。三百メートルほど先の岬にくすんだ小屋が見えた。

「お、ミファじゃないか」

 潮風に鍛えられた声が間近にして、二人は驚いて振り返った。驚いた拍子に、マユはストローハットを飛ばしてしちまった。

「いや、すまん驚かせてしまったな」

「町長さん!?」

「たまには、サンチャゴの様子を見ておこうと思ったんだけど、ミファ、行ってくれるところだったんだね」

「うん、ベアおばちゃんとこで時間くっちゃったけど」

「そっちのかわいい子は?」

「あ、従姉妹のマユ。休暇で訪ねに来てくれたの」

「そうかい。じゃ、わしが行くこともないな。よろしく頼むよ。マユちゃん、帽子すまなかったね」

「いいえ、たいしたもんじゃありませんから(^_^;)」

 よそ行きの言葉は口がムズムズするぜ。

「じゃ、わしは、これで。ちょっと日が高くなっちまったけど、漁にに出てみるよ」

「大きなカジキマグロでも釣れるといいね」

「ああ、サンチャゴにあやかってなあ」


 町長は、ベアおばちゃんと同じように、瞬間マユの顔を見つめて坂道をもどっていきやがった。


「ねえ、さっきも、そうだったけど、どうして従姉妹になっちまうんだ?」

「サンチャゴじいちゃんの家に着いたら話す……ああ、マユ( ゚Д゚)!」

「え……ああ(゚Д゚;) !」

 体が透け始めていやがる! 

 ミファの姿や景色もぼやけ始め、学校のトイレの個室が浮かんできた。だれかに魔法をかけられたとピンときたので、大急ぎで記憶を巻き戻した。

 ベアおばちゃんのカフェで飲んだソーダにアラームが点いていた。

――まだ時間がたっていない。間に合う――

 マユは、ソーダを飲むところまで戻ってみた。

「大人は世話をしないんですか?」

 マユがソーダを一口飲んで聞いた。一瞬目が光って、ベアが続けた。


 41章の、そこまで戻ると、こう変えた。


「みんなでお世話してるんですね」

 マユはソーダを飲もうとした手を止めてお愛想を言ったぞ。ベアは一瞬残念な目になって続けた。

 景色は、ほとんど学校のトイレの個室に戻っていた。

 手遅れかと思ったら、青いモヤを吐き出している便器の中から手が伸びてきた。とっさに手を掴むと、もとの坂道に戻された……握った手の主はミファだった。

「危ないところだったね」

「従姉妹じゃないってことバレてるみたいだな」

「ううん、半信半疑ってとこ。マユが、この世界の人間だったら、ソーダの魔法は効かないから」

「そうか、じゃ、まだしばらくは大丈夫だな」

「でも、ベアおばちゃんまで、あいつらの仲間だとは思わなかった」

「急ごう」

「うん」


 二人は、岬のサンチャゴじいちゃんの小屋をめざして足を速めたぞ……。 


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • 狼男
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  

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馬鹿に付ける薬 023『噂のパリス』

2024-10-25 10:24:48 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
023:『噂のパリス 




 関所は谷間にあり、両側は崖が阻んで、どうしても関所を通らなければ先に進めないようになっている。

「どうしても通らなきゃならないのかぁ」

 面倒なことが嫌いなアルテミスが口を尖らす。

「あっちを見ろ」

 プルートが顎をしゃくって、手前の分かれ道を指す。

「あ、向こうにからでも行けるんじゃ……あ、橋が落ちてる」

 数歩先に進んだベロナが声を落として立ち止まった。

「元々、橋のある方が本道で、谷間の道は間道だったんだ。あれを避けてたら、道はないぞ」

「「ああ~~」」

 ワン!

 ついさっきまで名無しだったポチが薮の方を向いて一声吠えた。

「なに奴だ!」

 シャラン!

 大剣を構えてプルートが誰何する。ふだん無口なプルートが一喝すると大迫力で「待った待った、怪しい者じゃありやせん(^_^;)」と怪しいオヤジが出て来た。

「じつは、もう一本抜け道がありやす。この薮の向こうなんですがね、ほとんど獣道なんで案内無しでは通れやせん。お一人様5ギルいただけりゃ、ご案内いたしやすよ」

「怪しいぞ、おっさん」

「不躾よ、アルテミス」

「いやいや、面目ない。でも、案内するのは、この先に居るやつらです。要所要所で『右』とか『左』とか声で教えますんで」

「いや、俺たちはそのまま行く」

「でも、旦那、パリスの奴は難儀ですぜ」

「いざとなったら、ぶちのめしてでも通る」

「おお、元気のいいお嬢さんだ。でも、パリスには神のご加護があるようで、あいつを傷つけると……」

「望むところだ、この大剣の錆にしてやる。なんなら、その前に……」

 プルートが剣を構えると「いや、だったら、もうお好きにぃ(;'∀')」と後からやってきた旅人たちを相手にしに行った。


 列に並んでみると、前の方にバスケット選手のように背の高い狩人が、不器用そうに質問している。噂のパリスだ。


「……そうか、商品の仕入れか。じゃあ、なんでその商品なんだ? 別のものでも良かったのではないのか?」

「いや、それは……」

「お婆さん、孝行息子に会いに行くと言っていたけど、かえって息子の邪魔をすることにはならないのかい?」

「そげなことは……」

「きみは、都に受験に行くんだね。その勉強は都でなければできないものなんだろうか? そこのご夫婦は……観光かぁ、なにも遠くに行かずとも。 そちらの若者は……」

「だいぶこじらせてやがるなあ……」

「そうね、質問がどれも疑問形の否定ばっかりね」

「やはり、押し通るしかないか」

「そうだな、プルート、いっしょに突っ込むか!」

「ダメよ二人とも!」

「「ウッ」」

 ベロナが腕を伸ばして遮る。持続力は無いが、ベロナの一言には力がある。昴学院高校の生徒会長を二期務めた力は伊達ではない。仲間に加わったばかりのハチが子犬らしく「クゥン?」と首をかしげる。

「パリスは真剣なのよ。見ていれば分かるわ。旅人と真剣に話をして、そこから何かを学ぼうとしている。髪のご加護もあるようだけど、彼のあの姿勢には正面から応えてあげなければいけないわ!」

 そう言うと、ベロナは真っ直ぐ群衆の向こう、必死のパリスに近づいて行った。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス(再生してハチ)
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!41『ベアおばちゃん特製カリビアンソーダ』

2024-10-25 08:12:57 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
41『ベアおばちゃん特製カリビアンソーダ』 




 レミが言った「急場の問題」がキューバのナゾであることに気がついた……ファンタジーの世界は駄洒落で回ってんのかぁ?……そういや、レミの次に現れたのは目の前のミファ、この次はファソとか。まさかな(^_^;)


「ついてきて(^▽^)/」


 ミファは笑顔で言うと歩き出した。生まれながらの友だちに言うような気楽さだぜ。

 道を少し行くと、声をかけられた。

 横っちょの年季の入ったカフェでオバハンが手を振ってやがる。

「ミファー、今日は連れがいるんだねえ」

「うん、従姉妹のマユ。休暇で遊びにきてんの、昨日から」

「そりゃあ、気がつかなかった。こっち寄って、ジュースでも飲んでいきなよ」

「ありがとう、ベアおばちゃん」

 いくらも歩いてねえのに、ベアおばちゃんの飲み屋兼カフェに立ち寄ることになったぞ。

 テラスのテーブルに収まると、港が一望だ。小型の漁船やフェリーが舫っていて、ゆったりと波に揺られている。マストの間を器用に海鳥たちが飛び回って、こぼれた小魚をとったりして、豊かじゃねえけど、いい感じの港町だぜ。

 不思議に思った。ミファは、なぜ自分のことを従姉妹なんて言ったんだろう。またベアおばちゃんも、簡単に信じ込んでんだ……。

「はい、ベアおばちゃん特製のカリビアンソーダ」

「ありがとう。これにアルコールが入るとカリビアンリキュールになるんだよね」

「今日もサンチャゴのとこ行くんだろ」

 ソーダを勢いよく、かつ一滴もこぼさずにテーブルに置きながら、ベアおばちゃんが聞いた。

「うん。今日は、あたしの番だから」

「サンチャゴって?」

「ああ、ポンコツの漁師。若い頃は遠洋航路の貨物船なんか乗ってたんだけどね、近頃は飲んだくれては、寝たり起きたり。身の回りのこともできなくなっちまって、ミファみたいな子供たちが交代で世話してんだよ」

「このごろは、寝たり、寝たり、寝たり、起きたり、寝たりだよ」

「いよいよかねぇ……」

「よいよいだけど、まだまだ」

「大人は世話をしないんですか?」

 よそ行きの言葉で聞いた。一瞬目が光ってベアが続けた。

「サンチャゴは大人が嫌いでね。たまに正気になると大げんかになったりするから、ミファに頼んでんの。ま、マユもゆっくりしていきな」

「うん、ありがとう……勢いもいいけど、姿勢のいいおばちゃんだな」

「昔は、踊り子やってたの。プリマだったんだよ。ほんとうはベアトリーチェって名前なんだけど、このお店開いてからはトリーチェを取りーちぇ」

「アハハ、女の人なのにベアなんて熊みてえな名前で変だと思ってたぞ」

 ビュン!

 感心しているマユの目の前を新聞が飛んでいった。

「びっくりするじゃないのよ!」

 ミファが怒鳴った。

「かわいい子といっしょだからよ。紹介してくれよ!」

 テラスの下で、日焼けした新聞少年が吠えやがった。 

「あたし、ミファの従姉妹でマユ。あんたは?」

「おれ、ジョルジュ。今夜空いてる?」

「マユには婚約者がいるの。あんたなんか足もとにも及ばないような!」

「今はバイトの途中だから、終わったら、そのテラスぐらいには足は及ぶぜ」

「油売ってると、ボスに言いつけちゃうぞ!」

「ヘヘ、じゃ、またミファのいないときにな」

 口笛を吹いて新聞少年は行っちまった。

「あたし、いつ婚約なんかしたんだ?」

「そういうことにしておかないと、直ぐに虫が寄ってくるからね」

「……どうして、従姉妹て設定なんだ?」

 マユがミファの耳に口を寄せて聞くと、奥で新聞を読んでるオッサンが驚いた。

「白雪姫の国が内戦状態だってよ!」

 マユは、オッサンたちの輪の間に顔を入れて、新聞のおおよそを読んだぞ。


 ええ、なんだこりゃ!?


 白雪姫の国は、王妃側と白雪姫側に別れて内戦状態。そこにアニマのゲッチンゲン公国が絡んで、眠れる森の美女の国が仲介。でも失敗して争いに巻き込まれやがった。そして、マユが、この港町に一瞬で来たような気がしていたけど、実際には一週間かかっていたことを知ってしまって……ファンタジーの世界のゆがみは広がっていくばかりだ。

 スマホで確認すると、リアル世界の時間では半日すぎてやがる「ここでの一年はそっちじゃ十秒ぐらい」とレミは言ってやがったけど、それほどでもねえみてえだ。

 でも、まあ、もう少しなら大丈夫か。
 


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • 狼男
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  


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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!40『急場のことなのよ!』

2024-10-24 08:24:31 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
40『急場のことなのよ!』 




「おかしくないのよ」
 
 分かれ道のところに、レミが立っていた……。

「ファンタジーの世界はさまざま。打ち出の小槌で大きくなっちゃう小人もいるし。ガラスの靴穿いて王子さまのハートをゲットした子もいるわ。ガラスの靴って、どう考えても穿いて歩けるシロモノじゃないでしょ。見つめ合っただけで赤ちゃんができることもあるし、木で人形の子どもを作ったら、本当の子どもになった話もあるし。人間が豚さんになって空中戦をやって、女の子のキスでもとの人間にもどったり。おむすびが転がって長者になったり。まあ、いろいろ。マユの仲間にもいるでしょ。結婚式に呼ばれなかったら呪う魔女とか、帽子屋の少女を九十歳のお婆ちゃんにしちゃうのとか」

「アハハ、まあそうだけどな……」

 魔女とか魔法使いってのは、そうやって事件を起こして人間を鍛えるって、損な役割なんだけどな、ここは笑ってスルーしとく。

「それより、いいのか。あの二人、姿が見えねえぞ」

 気がつくと、赤ずきんと狼男の姿がなかった。

「多少問題はあるけど、いいんじゃない。ハッピーエンドにしたんだから。これで、とりあえず白雪姫と赤ずきんちゃんの問題が解決したわ。つぎ、お願いしていいかしら」

「もう、つぎかよ(^_^;)」

「問題多いのよ、この世界。急場のことで申し訳ないんだけど……」

「急ぎの用事かぁ?」

「そう、急場のことなのよ!」
 
 そう言うと、レミはストローハットを思い切り空高く放り上げやがった!


 エイ!


 ストローハットは、思いのほか高く舞い上がり、マユの視界は一瞬の間、青空とストローハットだけになっちまったぞ。


 ストン


 ストローハットが落ちたのは石畳の上だったぜ。


 さっきまでは、森の中の分かれ道。草の生えた地面と薮しかなかったのに……レミのやつもなかなかやるぜ。

 海の香りがして、マユは周りを見た。

 右手の方は、桟橋がいくつもあって、小さな漁船たちが繋がれている。左手は、漁師たちの家や魚の水揚場、飲み屋なんかが並んでる。

 どこからか、賑やかな歌や音楽が聞こえてきて、なんとなくカリブの港町が連想されたぞ。

「そう、ここは、カリブの港町よ。マユ」

 わ( ゚Д゚)!

 目の前に、バミューダパンツにギンガムチェックのシャツの女の子がストローハットを持って立ってやがる。

「お、おまえ……」

「あたし、ミファ。レミに頼んでおいたの。マユの手が空いたら、こっちに来てもらえるように」

 そう言いながら、ミファはストローハットをズイっと差し出しやがる。

「ん、なんだ!?」

「被ってみて」

「え、こうか?」

「……うん、けっこういけてんじゃん。セーラー服にストローハット。港町にピッタリだよ。あたしに着いて来て……」

「おい」

「…………」

「聞いてんだろうが、おい」

「『おい』じゃないわ、ミファよ」

 こいつ、ちょっとめんどくせえかもな。

「じゃあ、ミファ」

「なあに(^▽^)?」

「ここ、どこの港町?」

「あ……キューバ。街の名前はかんべんしてくれる」


 マユは、レミが言った「急場の問題」がキューバのナゾであることに気がついた……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • 狼男
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  



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やくもあやかし物語2・078『ほんとうは寝っ転がりたい』

2024-10-23 15:26:20 | カントリーロード
くもやかし物語 2
078『ほんとうは寝っ転がりたい』 




 ザワワァ……ザワワァ……ザワワァ……


 風が草原(くさはら)……ううん、草原を(そうげん)を渡っていく。

 戦いが始まるまでは草原(くさはら)だったんだけど、魔王子やっつけて、魔王女のスカート結界が消えてしまうと、腰砕けになってしまいそうなくらいに広い。

 これは立派な草原(そうげん)だよ。

 クサハラなら、ちょっと走ったら道路や街やらが見えてくる。そして、まあ一区切り、ちょっと休もうかという気になる。

 ソウゲンは違う。

 例えばモンゴル草原。何日走っても草が続いて果てしがない。

 世界征服をやるんだ! ってチンギスハン並の根性がないと前に進めない。

 ひょっとしたら、あの姉弟が最後っ屁の魔法を使ったのかと思ったよ。

 だけど、わたしの妖慣れした勘は同じものだと言っている。

 つまりは、わたしの中の『がんばる気持ち』が萎えてきたんだ。


 草のまばらなところを選んで腰を下ろす。


 ほんとうは寝っ転がりたいんだけど、リュックを腰に当てて足を延ばすだけにする。

 いま、寝っ転がったら起き上がれなくなるからね。

 さっきまではメイソンたちが居てくれて賑やかだった。

 荷物の運搬に来てくれただけで、いつまでも居られるわけじゃないのは分かってるけど、いざ居なくなると、とても寂しい。

 メイソンなんか一番の男友達とか言ってくれた。まあ、言葉のアヤだけどね。戦いの最中に少しでも景気を付けようって、いわばノリだけどね。

 そういうことを言ってくれる人間が居るのと居ないのとじゃ大違い。

 こんな時だから憎まれ口でもいい……ポケットに触ってみると、感触だけで分かる。相棒の御息所はとうぶん起きない。

 ミチビキ鉛筆……も口を利かずにただの鉛筆になっている。

 激しい戦いだったし……そうだ、こっちに来てからは喋ってないよ。

 気の弱いヤクモはリュックのポケットを探ってスマホを出す。異世界だから通じるわけも無いんだけど、黒電話の交換手さんなら……電池が切れてる。

 充電ケーブルはあるけど、ソウゲンじゃどうしようもない。

 スマホも無しにチンギスハンはどうやってたんだろ?

 ああ、ダメだダメだ。


 エイヤ!


 チンギスハンに成れないヤクモはなけなしの力を振り絞って立ち上がる。


 いちおうは気持ちを切り替えたからね。しばらくは歩けそう。

 知ってる歌を唄う。頭からシッポまで知ってる歌は少ないので、十分ほどしか続かない。

 中学の校歌が一分持たなくて、お母さんのオハコだった『帝國歌撃団』を歌う。

 うん、調子が出て来た!

 出て来た調子のままに走る!

 すると。

 突然ソウゲンが終わって海が現れた。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!39『ちょっと腹が立ったぜ』

2024-10-23 08:22:37 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
39『ちょっと腹が立ったぜ』 




 見交わす二人の目から☆が出て、空中でぶつかると大きなハートマークになりやがった!

「で、いいのかよ。こいつが狼男のままで?」

 ポトン

 マユの一言で、ハートマークは赤ずきんと狼男の間に落ちてきた。

 赤ずきんは、それを子どもが大事なぬいぐるみを愛おしむようにだっこしやがった。

「よくないけど……満月の夜だけ避ければ、こんなふうに、ただの男の子だから……ね」

 赤ずきんは再び狼男に目を向けやがる。むろん☆が出て、見返した狼男の目からも☆が出て、空中に、さっきと同じような♡マークが浮かんだぞ。

 ちょっと腹が立ったぜ。

「それじゃ♡マークが増えるだけだろーが!」

 マユの一喝で、ハートマークは再び赤ずきんと狼男の間に落ちてきて、今度は狼男がだっこしやがった。

 お揃いになったんで、二人はいい雰囲気だぞ。

 くそ!

 なんだか、そのままバレンタインチョコのコマーシャルに使えそうな感じになっちまいやがる。

「いいか、このまま狼男のままでいたら、満月の晩は、こいつ、なにするか分かったもんじゃねえぞ。それに、このファンタジーの世界はおかしくなりはじめてっから、暦通りに満月になるかどうかも分かんねえぞ」

「そ、そんな……」

 赤ずきんが、満月を想像したためか、あたりは急に夜になり、お日さまが満月に変身した。

「ガルル~、ガルル~……」

 狼男が、さっそく変身し始めた。マユは特大のビーチパラソルを出して月光を遮断したぞ。

「ガルル~……ルル~ルンルンルン♪」

 狼男は、気のいい恋するアンチャンにもどった。

 その気のよさに、さっきのバツの悪さなんかふっとんじまった! 赤ずきんと二人で「てんとう虫のサンバ」なんか歌い出し、さすがのマユもあきれてしまったぞ。そんで、調子に乗って二番の終わりまで唄いやがった……。

  ……まあるい まあるい お月さま 愛の光で ほほえんで 森の月夜は ふけました♪

 とたんに、ビーチパラソルの中に、小さな満月が現れた!

「あ、ヤベ!」

 再び狼男は……。

「ガルルル~……」

「いいかげんにしろ(>◇<)!!」

 パッシャーーン!

 マユの大声で、満月もハートマークも粉々に散ってしまった。

 生活指導のタコ部屋で、不純異性交遊をとがめる先生と生徒みてえになっちまった。

 だけど、しばらくしてマユに名案が浮かんぞ!

「なあ、狼男。おめえ国籍を日本にしちまえ」

「え……日本人になるの?」

「いいや、日本オオカミだ」

「日本オオカミ……聞いたことないよ」

「そりゃそうだ、百年前に絶滅してる」

「「……ぜ・つ・め・つ( ゚Д゚)」」

「そうだ、だから、おめえが日本国籍をとっても狼男になることはねえ。日本にはリアル狼のイマジネーションがねえ。だから狼男のイマジネーションも、せいぜいアニメか映画のレベルでしかねえ。ファンタジーの世界ってよ、イマジネーションの世界だからな、おめえがなろうと思っても成りようがないってわけだ」

「それ、いいかも……」

 ということで、マユは魔界の役所に連絡をとって、狼男の国籍を日本に変えてやった。

 日本名もマユが考えてやったぞ。

――流狼似 謙信――

「「うん、かっこいい(^▽^)!」」

 二人とも、大納得。

「で、最初の話だけど、二人、裸でなにしてやがったんだ(#`Д´#)!?」

 マユは、オチコボレの小悪魔らしい質問を頬を染めて浴びせたぞ!

「そりゃあ……愛する二人が裸ですることって……ねえ(#*´ω`*#)」

 赤ずきんは、自分のマントと同じくらいに赤くなって、狼……流狼似謙信に目配せしやがった。

 これ以上ハートマークを出されては、たまらねえので、二人の目から出てきた☆をすぐにたたき落とした。それにむくれたように、赤ずきんが言いやがった。

「わかったわ。百聞は一見にしかず。ここでやって見せてあげる!」

「そうだ、問題解決祝いに、マユにも見てもらおう!」

 二人は、さっさと服を脱ぎ始めた!

「あ、あの、これって、一応ラノベだぞ!……ジュニア対象だからな!」

「だから、なんだってのよ!」

 赤ずきんは、そう言ってスカートを落として謙信はズボンを脱ぎやがった(#'∀'#)。

「あ……そういう行為に及ぶのはダメだぞ!」

 マユは、両手で顔を覆ったが、しっかり指の間から見るものは見ていたぞ。

 そして、二人の愛する者が、息を弾ませ始めたことは……。

「な、なんだ、それ!?」

 二人が、やり始めたのは、激烈なアッチムイテホイだ。裸といっても赤ずきんは花柄のパレオ付きセパレート、謙信はひざ丈の水着だったぞ。

「……やっぱ、ファンタジーの世界はおかしくなってやがる」


「おかしくないわよ」


 分かれ道のところで声がしたかと思うと、レミのやつが立っていやがった……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • 狼男
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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勇者乙の天路歴程 029『生麦事件・1』

2024-10-22 16:54:07 | 自己紹介
勇者路歴程

029『生麦事件・1』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




 やっぱり居た!


 いや、居たどころの騒ぎではない。生麦村に続く街道沿いの田畑、あぜ道、林の際、鎮守の境内、沿道の百姓家の庭先などに結構な人間が集まっている。

 さすがは幕末に屈指の雄藩として名をはせた薩摩の大名行列。在地の百姓や町人、街道をゆく旅人たち、数は少ないが横浜居留地の外国人たちも混じって行列が通りかかるのを待っている。

 待ってはいるが、みな、この時代の作法を心得ていている。街道よりも高いところで待っている者はいない。

 田畑やあぜ道は街道の路面よりも低く、普通に立っていれば見下ろすというような無作法なことにはならない。人家の二階や屋根や築地の上から覗くような者も居ない。わんぱく盛りが二三人木に登ろうとしていたが、周囲の年かさたちに叱られて降りていく。外国人たちも、そういう日本人の作法を見て笑いながらも倣っている。

「この分なら大丈夫なんじゃないですかねえ」

 白兎が楽観的なことを言う。

「課長代理、姫の事以外はいい加減じゃない?」

 スクナが意地悪を言う。

「そ、そんなことはない!」

「そう? なんか緊張感なくない?」

「ないよ! そうでなきゃ、裏街道をここまで全力疾走なんかしないよ!」

 そう、我々は始まりの村を通過している大名行列を避けて、裏街道を駆けに駆けてここまで来たんだ。行列が差し掛かるには、もう少しありそうだ。

「ちがう! もう始まっているぞ!」

 ビクニが駆けだした。

「ビクニ!」

 来たばかりの裏街道を駆け戻る!

 裏街道は表街道に並行しているわけではない、いま駆け抜けてきたところは弓形になっていて、二つ目の張り出しを過ぎたところで混乱が見えて来た。

 馬に乗った四人の英国人が行列を縫って先に行こうとしている。

 そうだ、英国人たちは散歩のついでに大名行列を見物しようとしたんだ。

 当然、先触れの侍は「脇へ寄れぇぇぇぇ…………」と声を上げながら進んでくる。言葉は分からずとも、避けるか退避すべきと思うはず。

 しかし、彼らは、そのまま行列を遡行するように進んでしまい、久光の籠近くまで近づいた。
 お供の薩摩藩士の殺気にようやく怖気を振るって馬首を逆さにして戻ろうとし行列を乱してしまう。

 産婆と飛脚以外は横断してはいけない大名行列を乱してしまったのだ。それも、日本一勇猛で知られた薩摩の行列だ!

 チェストー!

 薩摩示現流の裂ぱくの声が聞こえたかと思うと、一丁先の行列の中で血しぶきが上がった!

 ヒヒーーン! ウワァアア! キャーー! オオ!

 人馬の悲鳴と雄たけびが響く!

「英国人たちを助けるぞ!」

 叫びながら走った。

 生麦事件では死者二名負傷者一名が出て大騒ぎになる。英国は、この事件の損害賠償を求めて明くる年には薩英戦争が起こる。

 いや、誤解のために起きようとしている惨劇、今なら間に合う。

 止めなければ!

 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • ビクニ        八百比丘尼  タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • スクナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ
  
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