大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・165『JC巫女たちと舞のお稽古』

2024-12-31 14:49:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
165『JC巫女たちと舞のお稽古』   




 あれから挨拶もそこそこに衣装合わせ。


 令和で言うところの巫女服。

 もの知らずのわたしでも、昭和の時代では巫女装束と呼んだだろうぐらいは分かる。巫女服というのはコスプレ用語だからね。

 式場のアルバイトで御神楽さんの巫女姿で見慣れてるけど、自分が着るのは別だ。

「このコハゼを帯に挟んでね……」

 頼政さんの奥さんが教えてくださる。

「あ、なるほどぉ、これで着崩れないんだ」

 袴の後ろの腰当にコハゼ付いていて、それを帯に引っかけてずり落ちないようになってるんだ。

 それから、立ち居振る舞いを習っていると、後ろで歓声がおこる。

「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」

 お、わたしの巫女姿に見惚れてる奴がいる……と思ったら、姿見の向こうにプリマドンナかっちゅうくらいのゴージャスな巫女服のたみ子。歓声をあげているのは、お手伝い巫女をやる地元のJC(女子中学生)たち。わたしのことは自分たちの同類ぐらいにしか思ってないみたい。

「いやあ、たみちゃんも立派だわぁ!」

 奥さんもお世辞ではない賞賛の声。

「招き姫をやるのは初めてなのよ(^▭^;)」

 招き姫っていうのは、年越祭の主役らしい。

 わたしらは、スタンダードな巫女服の上に千早っていう一重の上を羽織るだけ。でも、たみ子のはほとんどお雛さま!

 十二単っぽくって、裳裾っていうのかなあ、長い御引きずりが付いていて、手にはごっつい房付きの扇、頭にはキンキラキンの冠。

 うわぁぁぁぁぁぁぁ……きれい……たまげたぁ……お招きさまだぁ……美幸ちゃんに負けないねえ……うん、本物だあ……いいなあ……

 JCたちは、たみ子を取り巻いて、なんだか白雪姫と七人の小人かっちゅう感じ。たみ子は令和でもあまり見かけない175センチの長身で美人ときてる。その上、このゴージャス巫女服。太刀打ちできるとしたら大谷翔平の奥さんぐらいだ。

「さあ、あんたたちも準備して!」

「「「「「ハーイ」」」」」

 奥さんが手をメガホンにして言うと、元気のいい返事をして、クルクルと巫女服に着替える。意外に薄着なんでビックリ。わたしなんか巫女服の下は七分袖のババシャツだっちゅうのに(^_^;)。

「はい、では、みんなに紹介します」

 全員正座して招き姫のたみ子と奥さんに向き合う。わたしはたみ子の横。

「今年から、招き姫をやってもらうたみちゃんです。去年までは総代さんとこの美幸ちゃんがやってたけども、お嫁に行っちゃったからね。で、そちらに控えているのが共姫をやっていただく時司巡さんです。最初は兼子ちゃんたちにやってもらうつもりだったけど、インフルエンザだから、急きょ湘南の宮之森から来てもらいました。今日と三が日いっしょにやってもらいます。他にも明日、三人来てもらいますので、よろしくね」

「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」

「よ、よろしく(^_^;)」

 お互いに挨拶して、簡単に巫女の所作を確認。初めてのわたしは失敗ばかりで恥ずかしかった。

 それから、参集殿という板敷の広いところに行って、たみ子の招き姫を中心に本番の稽古。ええと、お囃子っていうのかなあ、雅楽の楽団まで付いてる……って、本番は明日なんだ!

 JCの平巫女が控えてる前を共姫のわたしが付き従って中央に進む、正面の神さまに一礼して前に置かれた神楽鈴と扇を手に、招き姫が招き舞を舞う。

 小学五年から巫女舞をやってきたというたみ子の舞は見事だった。

 本番は拝殿の前の舞殿(まいどの)で舞って、御祭神である山の神様をお招きする。

 ちなみに、この神社には神さまを祀る本殿が無い。拝殿の奥には扉があって、その扉の向こうは山がそびえている。つまりは山全体が御祭神ということになっていてスケールが大きい。

 日ごろは山にお籠りになっている神さまを大晦日から元旦に掛けてお出ましいただく。お出ましいただくについては招き姫が共姫を引き具してお迎えの舞を舞うという寸法。舞殿の奥には特設の扉が置かれて、神職がそれを開けると同時に拝殿の扉もリンクして開けられるという分かりやすい演出もされるそうだ。

「昔はね、共姫もいっしょに舞ったんだそうよ」「あ、うちのお婆ちゃん娘時代にやったって」「ああ、舞殿、一人舞やるには広すぎるもんねぇ」「シ、聞こえるよ」「あ、気にしないでくださいねただの昔話だから(^_^;)」

 お稽古の後、豚汁とおむすびを振舞ってもらっていると、JCたちがお喋り。悪気はないんだろうけど、微妙に凹む。

「ねえ、明日来てくださる共姫さんたちは、どんな人なんですか?」

 のりちゃんというJCが目を輝かせて聞いてくる。

「あ、ええとね……」

 三人のイメージをかいつまんで話すと目を輝かせるJCたち。スマホの中に三人の写真が入ってるんだけど、スマホを見せるわけにはいかない。そのかわり、修学旅行や万博の話をするとメチャクチャ羨ましがってくれる。

「万博行きたかったねえ」「うんうん」「でも中学生で大阪はねえ」「東京だったらねえ」「横浜でも行けた」「高校は修学旅行関西方面だよ」「うん、でもぉ」「万博やってないしぃ」「万博以外でいいとこありますか?」

「ああ、それならねえ……」

 こないだ行ったばかりの修学旅行の話をすると、目を輝かせて聞いてくれるJCたち。総代さんたちへの挨拶に行っていたたみ子が戻って来ると、湘南の海の話になる。

「東京には行ったことあるんですけど、海は見たことないんですよねぇ」

「湘南の浜辺って、加山雄三が歩いてたりするんですよね?」

「ああ、加山雄三には会ったこと無いけど、小三のころに吉田茂に出くわしたことがあるよ」

「え、あの国葬になった!?」

「うん、和服で袴もちゃんとしてて、こーんな葉巻をね……」

 たみ子はリアル吉田茂を知ってるんだ、吉田茂って麻生さんのお祖父さんだよぉ~。

 いろいろ盛り上がってきて、のりちゃんがすごいことを言った。

「じつはね、もともとの共姫さん、インフルエンザじゃない人がいるんです」

「「え?」」

「じつは、男性経験を持ってしまった人が居てぇ……」「招き姫も共姫も男を知っていてはいけないんです」「みんな仲良しだから、みんなインフルエンザってことに」「あ、これは内緒でお願いします」

 この話題は奥さんがやってきて、それっきりになった。

 なんだけども……お二人は大丈夫ですよねって目で見るのは止めて欲しい(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!104『立派な悪魔だ(≧.≦)!』

2024-12-31 09:12:58 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
104『立派な悪魔だ(≧.≦)!』 





「そう……あなたは高峯純一さんの娘さんなのね」

「はい……オモクロ始めるときは、お母さんの苗字使ってました」


 撤収の間、旧保健室を借りて仁和さんと加奈子と香奈の三人で話したぞ。

 イントレを分解したりケーブルを巻いたり道具をトラックやバンに積み込んだりの音。それらが閉じた窓と半ばまで引いたカーテンで柔らかくなってよ。そこに傾き始めた黄昏というには少し間がある日差しもろ過されて、現世(うつしよ)と幽世(かくりよ)の狭間って趣きだぜ。

 ねらったわけじゃねえんだろうけど、自然とこういう雰囲気の中に入れるってのは、妖精の親分めいていて二和って人の凄みを感じさせるぜ。


 教室の撮影でライトが倒れて、危うく加奈子が下敷きになりそうになっちまった。

 それは、複合的な霊障でよ、廃校になった学校のダンス部の残留思念と、加奈子の父の高峯純一の生き霊のせいだってことまでは分かった。

 二和さんは、そこから先を探ろうとしてんだ。

「お父さんが反対していたことは、なんとなく分かっていました。最初から反対だったし、わたしが押し切った後も、積極的には賛成してはくれませんでした。わたしも親の七光りだって言われるのやだったから……でも、お父さん、あんなに心配していただなんて……」

「カナちゃんには悪いけど、それは違うわ」

「え……でも父は、あのエキストラの子の口を借りて、心配してくれていたんじゃ?」

「心配な我が子に、ケガをさせようとするかしら」

「あれは、ダンス部の残留思念じゃ……」

「そういうことにしておけば、高峯さん自身は傷つかずにすむでしょう?」

「え、じゃ、あれは……」

「お父さんは、あなたに嫉妬してるのよ」


 一瞬、保健室がグラリと揺れた。


「図星のようね、カナちゃん……」

「「はい」」

 加奈子と香奈が一度に返事した。

「ああ、二人ともカナちゃんだったわね。仁科さん、カーテン閉めてくれる。カナちゃんはスマホを出して」

 二人とも言われたとおりにし、仁和さんは、ロッカーから白衣を取りだして着たぞ。

「カーテンは結界……」

 香奈が独り言のように言った。

「この白衣が浄衣のかわり」

 仁和も独り言のように言うと、なにやら呪文を唱え、印を結んだ。加奈子は緊張してきたが、香奈(マユ)にはよく分かった。仁和さんの霊能力は、見抜くという点ではマユよりも優れてやがるけど、霊障を取り除くのは、マユの方が上手い……と思う。でもよ、仁和さんの真摯なやり方にマユは任せてみようと思ったぞ。

「……えい!……これでいいわ、カナちゃん。お父さんに電話してごらんなさい」

「はい……でも、なにを話したら……お父さんとは、あまり話したことがないんです」

「ホホ、それがいけないの。正直に今度のこと自慢すればいいわ。お父さん、黙っていてハケ口がないの。だから無意識に、こんな霊障をおこすのよ。正直に嫉妬させてあげれば収まる。いえ、収まるどころか、カナちゃんのいいアドバイザーになってもらえる」

「は、はい」

 加奈子は言われるままに電話をした。父の高峯は、朝方から熱が出て、寝込んでいたようだった。で、電話の向こうで、こう言いやがった。

『なんだか夢をみていた』

「どんな夢?」

『くそなまいきな女優が、へたくそな芝居をしやがるんで、意見をしようとしたら、無視しやがる。そこで、カッとしてスポットライトを蹴倒すんだ』

「ほんと……!?」

『そしたら、顔は分からないけど、監督みたいなのが出てきて意見しやがる。なんだか分が悪くなって、逃げ出したら、意識がとんじまって。胸苦しくなってきてな、冷や汗かいていたら、お前からの電話だ。で、なんだ。加奈子から電話してくるなんて、雨が……ほんとに降ってきたぞ。おい母さん、雨だ! 洗濯物……』

 それから、加奈子は、ここ最近の自慢話をしてやった。すると高峯は、なにかとケチをつけはじめやがる。仕事のことで父と話などしたことのなかった加奈子には、ちょっと新鮮だった。最後の方では、涙を流しながら親父を罵ってやがる。

「そんなに文句あるんなら、東京出てきて、わたしの仕事っぷり観てからにしてよ!」

『そんなこと言ったって、こんな体じゃなあ』

「今は、いい電動車椅子がある。それ送ってあげるから、実際に来なさいよ!」

 そうなんだ、加奈子の父、高峯純一は、撮影中の事故で下半身マヒになって、引きこもりっぱなしでいやがったんだ。

 加奈子の電話は、その親父の心を開かせ、火を付けたみてえだ。

 仁和さんは、そんな電話の遣り取りをニンマリ笑って聞いていやがったぞ。

 こいつ、立派な悪魔だ(≧.≦)!

 
 
 マユは、また一つ勉強できたことを、感動とともに感じていたぞ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院 オモクロでは仁科香奈
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
  • 由美子      英二の妹
  • 真田       由美子の元カレ
  • 美優       ローザンヌの娘 英二の妻
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・164『A町の神社に向かう』

2024-12-30 14:51:55 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
164『A町の神社に向かう』   




「埼玉と言うのは、東京の上に設えられた大屋根みたいなものでねえ」

 ハンドルを握りながら頼政さんが話す。たみ子と同じ埼玉が屋根っぽいという話みたい。

「それも、昔のかやぶき屋根、ほら、飛騨地方に合掌造りってあるでしょ」

 ああ、令和では世界的に有名になって、たしか世界遺産。オーバーツーリズムとかで、ちょっとパンクぎみだけど。

「合掌造りに限らず昔の茅葺屋根というのは養蚕をやったり、倉庫だったり作業場だったり、重要な役割が合ってね。埼玉もそうなんだ。国府こそは東京の府中市だけど、武蔵の国の中心は埼玉だった」

「フフ、伯父さんの埼玉王国論が始まった」

「王国というわけじゃないけど、東京は家康の開拓が始まるまでは海沿いの湿地帯だったからね。歴史も農業も埼玉の方が古い。その根っこにあるのが秩父の山や谷。武蔵の国の神々が坐す神社」

「言葉がむつかしいよ伯父さん」

「ああ、すまんすまん」

 文句を言うたみ子だけど、不満とかいうわけでは無くて、親しみの現れという感じ。甥っ子の高峰君は、微笑みながら静かに助手席に収まっている。親類付き合いがほとんどないわたしには、ちょっと羨ましい光景。

「まあ、わたしだけが言うんじゃなくて、町の人たちは、みんな同じように思っているんだ。だから、お祭りとか年末年始の行事は楽しみにしているし、大事に思ってくださってる」

「はいはい、だから、親友たちにも頼んで来てもらったんじゃない」

「ハハ、そうだな。ま、そう言うことだから時司さんよろしくね」

「あ、はい。わたしのことはメグリとか、グッチでいいです」

「ええ、そんな風に呼んでるのか? 秀夫は?」

「僕は時司さんだよ」

「そうだろそうだろ」

「あ、どっちでもいいですから(^_^;)」

「まあ、神主でもあるし、まあ、こんな感じでお願いするよ、時司さん」

「あ、はい」

「秩父の山に降った雨はね、幾つもの流れになって谷を削って扇状地を作って利根川を太らせる。その流れの一つが山を出たところに、うちのA町があるんだ。水は清いし、山が屏風になって風を防いでくれるし……」

「ああ、それを昔の人たちは神さまの恵と思ったんですね(^▽^)」

「うん。だけど、思ったんじゃなくて、神さまはほんとうにいらっしゃるんだよ」

「あ、あ、そうですよね(^_^;)」

 頼政さんは神主さんでもあるんだ「神さまと思った」は失礼だ。

「時司さんは、苗字から察すると、ちょっと由々し気な……」

「そうよ。伯父さん、グッチの家は昔々は朝廷の時間を管理するお役人だったんだよ」

「アハハ、ただの家系伝説ですよ」

「いやいや、時司は延喜式にも書かれている由緒正しい家系だ。いやあ、たみ子はいい友達を持っているなあ」

「そうだよぉ」

「いやあ、止してよ、伝説なんだからあ(^_^;)」

 まあ、魔法少女の家系だとまでは分かってない様子だから、いいとしよう。

「ああ……」

 高峰君が小さく感嘆の声を漏らす。

 小さな林を抜けると、秩父の山々を背負って一面の茶畑。茶畑には防霜扇の電柱が林立していて、その向こうには、それ自体が山々から流れ出て芽を吹いたような町が扇の形に広がっている。

 町が山に向かって窄まったところに大きな鳥居、あれが、たみ子の里の神社に違いない。

 なんか、華やかじゃないけども、雛壇のような床しさを感じさせる風景だ。

 道路が神社への一本道に入ると、ちょうど夕陽が谷の間から差して、町を茜に染めて、いかにも神さまの祝福を受けた町と神社に見える。

「朝は、真っ先に神社の鳥居が日に照らされてね、それもなかなかのもんだよ」

「あ、日の出を拝めっていうのは勘弁してね」

「ああ、今回はやらないよ。風邪でもひかれたら元も子もないからな」

 あ、そうだった。わたしらはインフルエンザで倒れた巫女さんたちのピンチヒッターだったんだ(^_^;)。

「のど飴あるけど、どう?」

 高峰君がのど飴を差し出してくれ、ありがたくいただくと、車は鳥居の前で左に曲がって神社の駐車場に向かうのだった。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!103『残留思念と生霊と』

2024-12-30 07:16:30 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
103『残留思念と生霊と』 




 マユも、香奈の中で感じていたぞ。

――なんだぁ……死霊でもなく生き霊でもねえ、天使みてえなもんでもねえし。レミみてえな妖精のたぐいでもねえ……――

 仁和さんは霊感が強いタレントさんとして有名でよ。一時は、自分でスピリチュアルな番組も持っていたんだけど、便乗商法が横行しちまって、自分も本来の歌手や俳優としての仕事に差し障っちまうんで、表だっては、そういうことに触れないようにしてきたんだ。

「……あなたも、なにか感じてるでしょう?」

 仁和さんは、スタッフが打ち合わせている間に、香奈(マユ)に、こっそり話しかけてきたぞ。

「え……いいえ、特に、なにもぉ(^○^;)」

 このボケは通用しなかったぜ。

「分かってるわよ、香奈ちゃんが人間じゃないことぐらい。でも、悪さをするようなものじゃないことも分かっているから……かわいい顔して、案外小悪魔かもね」

 え(゚д゚)!

 一瞬ドッキリしたけど、仁和さんが比喩的な意味で言っていることは分かった。仁和さんと言えど人間。悪魔や、小悪魔が、どんなものであるかは、正確には分からねえ。人間はよ「悪」という字が付いているだけで、もっと、危ない目で見て、まして話しかけてきたりはしねえもんだ。

「あなたのオーラはとても強くてピュアよ、いっしょに探しましょ。このままじゃ、なにか災いが起こる」

 仁和さんは、出番が終わると、グラウンドの端に行って、学校全体を眺めはじめた。

「始まりは、あの体育館……でも、今は、そこにはいない。どこだぁ……」


 ハーックション!!


 教室のシーンのカメリハが終わって、本番に入る直前に香奈(マユ)は、大きなクシャミをしてみたぞ。

「カット、カット!」

 監督の声が飛んでキャストも緊張を緩めた。

 ん?

 と、同時に、大きなスポットライトが倒れ込んできて、席を立ちかけた加奈子目がけて倒れ込んできやがった!

「危ない!」

 ガッシャーン! キャーーー!!

 香奈(マユ)は、何事か予感していたんで、動きが速かったぞ。中腰になっていた加奈子の腕を思い切り引っ張って、加奈子は、危うくスポットライトの下敷きになることから免れたぜ。

 瞬間のことで、教室のみんなは悲鳴をあげたきり動けなかったぞ。こないだのスタジオの件から二度目だもんな。

「大丈夫か!?」

 別所Dだけが駆け寄ってきた。

「わたしは大丈夫です」

「わたしも……」

「よかったあ! でも、これで二度目だな……」

 別所Dの指摘は、現象的には正しい。

 オーディション会場でも、ライトが香奈の上に落ちてきて、それを庇った美紀がケガをしやがった。しかし、あれは、美川エルのアバターに入り込んだオチコボレ天使が調子にのって、とんでもない声量と音域で歌いやがって、ライトを吊ったクランクのネジが緩んで起きた事故だった(まあ、間接的には利恵のせいではあるが、悪意はねえ)。

 しかし、今のは、あきらかに悪意が働いていやがる!

「その子を掴まえて!」

 仁和さんが、一人のエキストラの子を指差した。その子自身は、なんの自覚もなく、仁和さんに指差され、ただオロオロ。香奈は、ゆっくりと、そのこの額に手を当てた。香奈は、教室中にわだかまっていた悪意が、その子に集中するのを感じた。

 その子はユラリと揺れたかと思うと、口を開きやがったぞ!

「……わたしたちの学校で……こんなことはしないで……わたしたちダンス部は、ようやく都の大会で優勝して、全国大会に出られるところだった……でも、学校が廃校になって……なって、それが果たせなかった。とっても悔しい……悔しい……だから、ここで歌ったり、踊ったりしないで……わたしたち、やっと我慢して、やっと自分たちの気持ちを押し殺した……殺したところなんだから……」

「あなた、潰れたダンス部の残留思念……」

「それだけじゃない。その残留思念に隠れて、もう一つなにかがいる」

 仁和さんが、印を結び、マユは心の中で呪文を唱えたぞ!

――エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……――

 今度は、男の表情になって喋りやがる!

「加奈子……だから、オレは反対したんだ。この世界は伏魔殿だ。スターダムに上り詰めるのは難しい。そして、そのスターダムに上り詰めるまでに、何人の仲間をけ落とさなければならないか、何度け落とされるか……今度、おまえはけ落とされて、また這い上がろうとしている。もういい、もう十分だ。ボロボロになる前に……戻っておいで」

「お父さん……」

 加奈子の目から、大粒の涙がこぼれたぞ。

「その声は……高峯純一さんね」

 仁和さんに見抜かれた高峯純一の生き霊は、ギクっとした表情になった、と思う間もなく抜けていき、その子は眠るようにくずおれちまった。
 
 仁和さんは、それ以上のことは言わず。体育館の舞台の隅で見つけてきた楽譜と振り付けのコンテをみんなに見せた。ダンス部が、都大会で優勝したときのそれで、曲は、オモクロが、やっとマスコミに取り上げられるようになったころの、その名も『おもしろクローバー』だったぞ。

「この振り付けで一回やってみよう。ここのダンス部の子たちのために」

「それがいいわ、お父さんのことは、あとで、わたしが……」

 別所Dが言い出し、仁和さんも賛同。オモクロ居残りグミのみんなで、歌って踊った。なんとも懐かしくて新鮮だ。

 別所Dは、それを『居残りグミ』のプロモの一部に取り入れることにした。


 ロケは夕方近くまでかかって、無事に終えることができたぞ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院 オモクロでは仁科香奈
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
  • 由美子      英二の妹
  • 真田       由美子の元カレ
  • 美優       ローザンヌの娘 英二の妻
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・163『今度は巫女のアルバイト』

2024-12-29 14:49:05 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
163『今度は巫女のアルバイト』   




 こういう巡り合わせってあるんだ。


 年末もいよいよ押し詰まった28日、たみ子から電話があった。

『ごめん、良かったらでいいんだけど、バイト頼めないかなあ』

「え、バイト?」

『うん、実はね……うちの身内のことなんだけど……』

「……うん……うん……うん、わかった」

『助かる、ありがとう!』


 というわけで、明くる29日、わたしはたみ子と共に相模線に乗り、二度乗り継いで、埼玉県のA駅に降り立った。


「やっぱり早く着いちゃった。ごめん、迎えがくるまで、30分ある」

「いいよいいよ、初めての土地だし、景色見てたらあっという間だよ」

「五年前にやっと市になったばかりの田舎なんだけど、空気だけはいいからね」

 地元の人が聞いたら気を悪くしそうなことを言う。でも、駅の待合は二人だけだし、わたしに気を使ってのことだから、あいまいに「そうなの?」と「そうなんだ」を返しておく。

 たみ子のお母さんは、これから向かう埼玉の小さな町の生まれ。

「埼玉県って、家の屋根みたいな形しててね、右半分が大宮とか川越とかが市街地で、西の左半分は山いうか田舎」

 なるほど、改札を通して見える東側は田んぼもあるけど、その向こうには街が背景のように見える。

「電柱に扇風機みたいなのが付いてるけど」

「ああ、茶畑。冬にね霜が降りたら茶畑壊滅しちゃうから、霜の降りる朝方に畑の空気かき回して霜が降りないようにしてるの。防霜扇て言うんだよ」

「ボウソウセン……暴走する船を想像した」

「ハハ、わたしも子供のころに聞いて、そう思った(^_^;)」

「お母さんの里は、こっちの山の方なんだよね」

「あ、うん……」

 ちょっと申し訳なさそうに言う。

 埼玉県の西半分は山が連なっている。そういうことには疎いわたしでも知ってる身延山とか秩父山とか。たみ子の話しじゃ、百を超える峰々や山々にはそれぞれ神さまが居て、その多くは神社によって祀られ、社家と呼ばれる神職の家系が守ってきた。

 たみ子のお母さんは、そういう社家の娘で、娘時代には巫女を務めていたそうだ。
 たみ子も、その血を受け継いでいるので、例大祭や年末年始に巫女が足りない時には手伝っているらしい。

「インフルエンザが流行っちゃって、巫女をする子が足りなくてね……」

 そう、それで急きょわたしに電話をかけて来たんだ。

「わたしは、巫女の衣装来て座ってりゃいいんだよね?」

「あ、少しだけ立ったり座ったり。でも、大したこと無いから(^_^;)」

「そうか、それくらいならどんと来いよ!」

 こないだのバイトじゃ、関西弁のオッサンとか、目の回りそうなベルトコンベアに苦労したけど、今度は巫女さんのコスプレだ。三食付いてギャラも出る。ちょっと寒いかもだけど、まあ、何とかなるさ。

 プップー

 駅の外でクラクションがして、たみ子も立ち上がって駆けていく。

「早く着いちゃってぇ、電話しようかと思ったんだけど、もう出てるだろうと思って」

「ああ、秋にダイヤ改正になったからね」

「あ、こちら、手伝ってくれる時司巡」

「時司巡です、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ。たみ子の伯父の武藤頼政です。今回は無理なお願いして申し訳ない」

「いえいえ、こちらこそ、貴重な経験をさせていただいて喜んでます」

「そう言ってもらえると、少し、こっちも気が楽になるなあ。あ、外は寒いから車の中で待ってて」

「え、伯父さんは?」

「ああ、あ、来た来たぁ」

 ちょうど次の下りの列車が入ってきていて、チラホラとお客が降りてくる。

「おーーい、こっちこっち!」

 頼政さんが手を振って、大股で駅舎を出てきたのは、委員長の高峰君だった!

 そうか、思い出した……たみ子と高峰君は従兄妹同士だったんだ(^_^;)!

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!102『がんばる加奈子』

2024-12-29 07:18:59 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
102『がんばる加奈子』 




《居残りグミ》のプロモーションビデオは、東京郊外の廃校になった高校を使っておこなわれたぜ。

 廃校といっても、この年の四月までは現役だった学校でよ、校舎の中とかは、現役のころのまんまだ。

 校庭や中庭なんかに雑草が生えてやがる。いくら校舎が現役のまんまっていっても、外に草が生えてちゃ生きた学校にはならねえ。

 制作費が安いんで、業者に頼むこともできねえ。

「ちょうどいい、草むしりやって、身も心も温めてから撮影に入ろう(^_^;)」

 別所Dが言い訳めいた提案。

「あ、それいいかも。夏休み明けとかでやらされたし、雰囲気出るよ。そうだ、くじ引きで班決めやろう!」

 加奈子が提案して「じゃ、担当区域はジャンケンにしよう!」と香奈(マユ)もつづく。「そうだ、終わったら先生がジュースとか奢ってくれたよね。ねえ、別所先生?」と、もう役の高校生になりきっちまう。

「え、あ、先生安月給なんだぞ……まあ、校長先生に頼んでみるか」

「「「「うわあ!」」」」 「「「「やったー!」」」」

 こうやってエキストラのやつらとクラスメートの雰囲気を作っちまいやがる。


「アハハ、いいウォーミングアップになったね(^▽^:)!」


 汗を拭いながら加奈子が笑う。どこまでも前向きなリーダーだ。やっぱりオモクロのセンターを張ってきただけのことはある。と香奈(マユ)は感心したぞ。

――オチコボレ天使の雅部利恵が余計なことをしなければ、この加奈子たちだけでも、かなりの線まではいっただろうに――

 最初は思ったけど、これはいい試練にもなるんだと負け惜しみではなくて思ったぜ。

 その元凶の雅部利恵はよ、美川エルっちゅうオモクロの研究生になってやがる。

 抜群の歌唱力、リズム感、ルックス、スタイルで。すぐに選抜メンバーに加えられ、選抜メンバーの端っこで、オモクロをここまでにした自負心とともに。アイドルとして注目される喜びに浸っていやがる。
 
 腹立つけど、いまは考えねえことにする。

 午前中は、草刈りを手早くすませ、エキストラのやつらといっしょに女子高生の制服に着替え、校庭で昼休み風景の撮影。

 思い思いに、グラウンドで遊んでと、エキストラの子たちにディレクターが指示するが、なかなか自然な昼休みにはならない。所在なげに突っ立っているか、不自然に騒ぐだけ。ディレクターがいちいち動きを付けるが、数が多く、なかなか全員の演技指導に手が回らねえ。

「あなたたち、そこでトスバレー、あなたたちは向こうのベンチで……そう、『秋色ララバイ』ハモってて。で、あなたたち三人、いや四人で、わたしたちの前をキャッキャいいながら駆け抜けてくれる……そう、走りながらジャンケンてのいいかも。それをカメラさんがおっかけて、わたしたちと重なったとこで、歌になる。どうかしら、別所さん」

 加奈子は、あっと言う間に、冒頭のシーンを決めてしまいやがった。

「カナちゃん。監督の才能あるよ」

 ディレクターの別所は正直に誉めた。後ろのほうで、女先生役の仁和明宏がニコニコ笑って、こう付け加えたぞ。

「そのあと、ドローンで上から撮って、その端っこに、あたし歩くわ。三分のプロモだけど、放課後の居残り担当の先生出現のいい伏線になると思うの」

「あ、それ頂きます」

 ディレクター兼監督の別所は、こういう点にプライドがないので良い物はなんでも採用。絵コンテはあっさり書き換えられてリハーサル。


 今日のテストも赤点で 予想通りの居残り学習 居残り組

 夕陽差す中庭のベンチ 待ってるキミが大あくび 

 その口目がけて投げるグミ

 見事に決まってストライク……とはいかずに キャッチする手は左利き

 ニッコリ笑ってグミを噛む

 ゼリーより硬くキャンディーよりは柔らかく。

 歯ごたえハンパなグミ グミ おもしろグミ グミ だけど心に残る愛おしさ

 居残りグミ グミ おもしろグミ グミ 青春の歯ごたえさ~♪

 

 リハーサルは一発でOK、一応ランスルー、カメリハをやるのは別所の、良くも悪くも生真面目なところ。

 しかし、みんなのテンションはうまく上がっていて、冒頭のシーン1はワンテイクでOKが出た。

 そして、次の教室でのシーンの準備にかかったころ、女教師役の仁和明宏が呟いたぞ。


「なにか、変なものが混ざり込んできた……」



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院 オモクロでは仁科香奈
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
  • 由美子      英二の妹
  • 真田       由美子の元カレ
  • 美優       ローザンヌの娘 英二の妻
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!101『オモクロ居残りグミ結成!』

2024-12-28 06:54:04 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
101『オモクロ居残りグミ結成!』 




「わたし、そこの研究生にしてください!」

 香奈(マユ)はクチバシッテしまった……。


 と、かくして、オモクロ初の妹ユニット「オモクロ居残りグミ」が生まれたぞ。

 担当プロデューサーは別所。メンバーは加奈子を中心とした三人。他にクチバシッテしまった香奈を含め、研究生六人のバックで始まったぞ。

 デビュー曲『居残りグミ(''◇'')』は加奈子自身が作詞。作曲は、なんとHIKARIプロの専属作曲家の大久保の弟子塩田が、敵に塩を送るの精神で引き受けやがった。会長の光ミツルが、業界全体の活性化のために働きかけてくれてやがったんだぞ(^▢^)。

 週刊誌は「光ミツル、素敵に塩を送る」と特集を組んだ。当然オモクロのチーフプロディユ-サー上杉は面白くねえ。自分がNG出した企画に敵の親玉がケツを持ったんだからな。

 見開き二ページのページをめくると、ヒカリプロの広告。ヒカリ会長の大首イラストが半分以上で。いかにも「俺がめんどう見たぜ!」という構成になってやがる。

 グヌヌ……歯ぎしりするしかねえ上杉だったぜ。


 《居残りグミ》

 今日のテストも赤点で 予想通りの居残り学習 居残り組

 夕陽差す中庭のベンチ 待ってるキミが大あくび 

 その口目がけて投げるグミ

 見事に決まってストライク……とはいかずに キャッチする手は左利き

 ニッコリ笑ってグミを噛む

 ゼリーより硬くキャンディーよりは柔らかく。

 歯ごたえハンパなグミ グミ おもしろグミ グミ だけど心に残る愛おしさ

 居残りグミ グミ おもしろグミ グミ 青春の歯ごたえさ~♪


 加奈子の詞を読んだとき、香奈(マユのアバター)は笑ってしまった。まるで四コママンガのようなコミカルさ。

 歌詞の中味は、加奈子自身の体験。学校じゃ、いつも居残り組。オモクロでも居残りみたくなって、開き直っての作詞。

 これに塩田の曲が付くと、コミカルな中に、なにかイカシたノリがあり。別所は、この曲を大手製菓会社に持ち込み、その会社で売り上げ不振になっていた、グミのCMソングにしてもらいやがった(^_^;)。


 最初は、スーパーの前や駐車場。おもクロの原点に立ち返っての出発だったけどよ、発売三週目にはオリコンの五位に食い込んで、タマリのMCで有名な習慣歌謡曲に出演が決まったぜ。

 急遽、プロモーションビデオも作ることになったぞ!

 そんで、波紋は意外なところから広がってきやがる。ほんとうに、オチコボレ天使の後始末は大変だぜ。

 香奈のアバターの中でぼやくマユだったぞ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院 オモクロでは仁科香奈
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
  • 由美子      英二の妹
  • 真田       由美子の元カレ
  • 美優       ローザンヌの娘 英二の妻
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!100『一寸の虫にもゴミの魂』

2024-12-27 08:56:03 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
100『一寸の虫にもゴミの魂!』 





「センター外れたからか?」


 上杉は直球で聞いてきやがる。

「それもあります。やっぱアイドルだったら、センター狙いたいのは当然じゃないですか」

 加奈子も直球で答える。お互い直球なんだけど、上杉は微妙に口がゆがんでやがる。

 そういう顔されると、悪魔のアンテナ感度は高くなって、つむじの毛がアホ毛みてえに立っちまうぜぇ( Φ∀Φ) 。

「でも、吉良ルリ子のセンターは、かわりっこないぞ。加奈子だって分かってるだろう」

「ええ、今のオモクロじゃね」

「……今のオモクロが気にいらんのか」

「これはこれでいいと思う。でも、わたしは、わたしたちのオモクロがやりたいんです。想色クロ-バーじゃなくて、おもしろクローバーが」

「それは、ただの嫉妬だ」

「違うわ。ルリちゃんたちは力もあるし、オモクロにも愛情もってくれてます。だから美紀ちゃんだって、体張って香奈ちゃん護ってくれたわ」

 一瞬、上杉がこっちを見やがる。ガラス越しでもハッキリわかる、ゴミを見る目だぜ。

 くそ、一寸の虫にもゴミの魂っての知らねえなあ!

 グフ( ´艸`)

 間違えたと思ったら噴いちまった!

「だったら、加奈子もがんばってセンター奪い返してみろ!!」

 すっげえ剣幕にガラスがビリビリ震えて、加奈子もビクッとしやがる……でも、なにか白いものが加奈子の口に吸い込まれ……あ、いま噴き出しちまったゴミの魂だ(''◇'')。

「おもしろと想色じゃ、もんじゃ焼きとフランス料理。けして一緒にはならない。上杉さんだって、そこんとこ分かって、もんじゃ焼きにフランス料理の真似させてるんでしょ」

「フランス料理じゃ、いやか?」

「いや」

「はっきり言うなあ。お互い、ロケバスで寝泊まりしながら這い上がってきた者同士だから、はっきり言うけど、もう、うちはフランス料理に変わっちまったんだ。いまさら、もんじゃ焼きにはもどれん」

「だから、別のユニットで出して。フランス料理の手伝いもちゃんとするから」

「うちの事務所に、別のユニット作る余裕はない。やっとAKRの背中が見えてきたところなんだぞ」

「ムグ」

 あ、ゴミの魂が腹の中に入っちまったぞ!

「……じゃ、わたしオモクロ辞める」

「それはダメだ。まるで、新しいオモクロが、古いオモクロを追い出したみたいで、スキャンダルになる!」

「一寸の虫にもゴミの魂よ!!」

 オフィスのドアが急に開いて、加奈子が飛び出してきやがる。その風圧で香奈(マユのアバター)は一瞬目をつぶるほどだったぜ。

『待って、カナちゃん!』

 一瞬マユは、自分のことが呼ばれたのかと思ったけど、すぐに勘違いだって分かったぞ。

「別所君……!?」

「ああ、見間違えたかな?」

 それは、ちょっと前まで上杉のアシスタントをやっていた別所だった。アシ時代のパーカーじゃなくてブレザー羽織ってやがる。

「やっと、プロデューサーのはしくれになった」

「おめでとう。苦労が実ったわね」

 加奈子は、素直に喜んでやった。

「カナちゃんの苦労だって実らなくっちゃ」

「……え?」

「オレが、引き受ける。新しいユニット」

「別所くんが……失敗したら、この事務所にいられなくなるよ」

「思ってないだろ、失敗するなんて」

「だけど、別所君を巻き込めないよ」

「この仕事、リスクはつきものだ。オレ、カナちゃんの思い入れは本物だと思っている。一寸の虫にもゴミの魂なんだろ」

「……ありがとう、別所君!」

 廊下の端で手を取り合う二人を、上杉が怖い顔で睨んでやがったぞ。

「勝手にしろ……」

 そう呟いて、上杉は廊下の反対方向に行っちまいやがった。


 やっぱり、オチコボレ天使がやるお節介は、どこかで歪みが出てくる。オモクロヒットで雅部利恵は大満足だろうが、こんなことには毛ほども気付いていねえだろ。

「ユニットの名前は『オモクロ・E残り組』にしよう!」

「居残り組?」

「ううん、アルファベットのEを付けて、E残り組!」

「いいね、それでいこうよ『オモクロ・E残り組』!」

「わたし、そこの研究生にしてください!」

 香奈(マユ)はクチバシッテしまった……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
  • 由美子      英二の妹
  • 真田       由美子の元カレ
  • 美優       ローザンヌの娘 英二の妻
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  
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銀河太平記・265『鈴麗』

2024-12-26 14:22:22 | 小説4
・265

『鈴麗』 鈴麗 




 満洲というのは辛い土地。

 村の年よりたちは『辛い大地』という。『土地』と『大地』は一字違いだけど、意味は大きい。

 子どもは、自分の村と周辺しか知らないから、単に土地。

 大人たちは、作物を売りに行ったり出稼ぎに行ったりで地平線の向こうまで知っているんで『大地』っていう。中には火星のマス漢まで稼ぎに行ったり移住したりした人も居て、そういう人が都会や火星の匂いをさせて帰ってくると別の意味で土地って呼ぶ。

「銀河宇宙の規模で言えば満洲の土地なんて、目の前にホワホワ浮いてる小麦のカスみたいなもんさ」

 三年前までニキビ面で麦踏みしてた関石が得意そうに言ったときは、こいつは関石の皮を被った宇宙人かと思った。村の大人たちもたいていは――関石は火星に行って田舎者になった――と言っていた。

 辛い土地なのは主人というか支配者がコロコロ変わるから。

 ロシアが来たり、漢明が来たり、日本が顔を出したり、半島の人が来たり。いちおうはマンチュリアって国になってるけど、奉天以外は、程度の差はあるけど、そういう外国の会社や公司が大きな顔をしている。

 そういう外国の力が強いせいで大小の争いが絶えない。

 隣りのA鎮とY鎮は20年前だったかの戦争で消えてしまった。関石の父ちゃんはY鎮の出身だったから、あいつが火星に行ったのはそのことも理由なのかもしれない。他にもK鎮という村があったらしいんだけど、K鎮はもっと前の戦争で消えてしまって、いまはロシアの企業農場になってる。すぐ隣が漢明系の農場なんで争いが絶えない。巻き込まれる満州人はいい迷惑。

 他にも鉱山やら工場やらが土地の人間と関わりなく建っていたりして、なんだか荒んでいる。

 そんな中で、うちの孫鎮だけは落ち着いている。

 理由は小爺の孫家が村を守てくれているから。うかつに手を出したらこっちの農園や工場どころか本国の本社が乗っ取られたり潰されたり。

 孫一族は、もう三百年近く、この村の長を務めて村を守ってくれている。昔々は馬賊っていって、ちょっと妖しい勢力だったらしい。だけど、三百年の間に商売や開発や私設の軍隊やら投資やら観光やら興行やらいろんなことをやるようになった。

 でも、村では、そんな顔は全然見せない。村の真ん中に、それほど大きくないお屋敷があって、劉さんとか孫家の番頭さんが常駐して村の世話をしてくれている。時どきは小爺自身が村に帰って来て、畑や牧場の世話をする。

 小さいころは老孫と呼んでいた。村に一軒だけあるコンビニと同じ発音なんで混乱したけど、コンビニとは関係ないらしい。少し大きくなると、大人たちが呼ぶように小爺って呼んだ。本人は老孫でも小爺でもどちらでもいいらしい。外の世界で孫大人と呼ばれているのは村を出てから気が付いた。

 小爺は気が向くと子どもたちの中に入って遊んでくれたり、外の世界のことを教えてくれたり。楽しいオッサン、オッサンなんだけどサッカーとかやると関石なんかよりも上手くって「小爺はオッサンの皮を被った化物だ」って嬉しそうに言っていた。

 小さい子はサッカーはできないんで『だるまさんがころんだ』をやる。それも世界の『だるまさんがころんだ』をね。

『一、二、三、我们都是 木头人』とか『一二三、紅綠燈、過馬路、要小心 』とか『Un, deux, trois, soleil 』とか『1,2,3, Pollito inglés! 』とか『ぼんさんが 屁をこいた』とかね。世界のだるまさんをやるんだ。他にも鬼ごっことか缶蹴りとかも、いろんな国のバージョンでね。

 ルールはハンベを使っちゃいけないこと。

 子どもの頃はPCとかAIとかは使わないで遊べというのが小爺のコンセプトだった。

 いちど鬼ごっこして、小爺を捕まえた時、見かけによらずタクマシイ背中と、子どもみたいな目の輝きに驚いたことがある。

 年に一二度、小爺は老婆婆を連れてくる。いや、老婆婆が付いてくる。老婆婆が一人でやってくることもある。

 奉天のお店やお屋敷で働く若者を探しに来ているらしい。

 村では御奉公と言ってるけど「いやいや、契約社員。昔流に言えば丁稚とか女中のことさ」と老婆婆は言う。

 実際、二三年働くと「ロシアの企業農場よりはマシ程度の給料だった」と言って帰って来る者がほとんど。

「ねえ、奉天のお屋敷で働かないかい?」

 そう持ち掛けられた時は嬉しかった。

 兄弟や友だちは「ただの女中奉公だよ」って言う。「子どじゃないんだからさ、いまさら老孫と遊んでもねえ」とも言う。

「昔はさ、愛人とかにされるとか言う大人も居たけど、みんな古臭い礼儀作法とか憶えるだけで帰ってくるしい、手ぇ付けられた子なんて一人もいなかったし」

 中には、古い礼儀作法とかが気に入られて、漢明やら日本に嫁いだ子もいるけど、漢明の方は離婚して戻ってきたし、日本に行った子は普通の中産階級の奥さんになってるだけ。村の女の子が思う玉の輿からは遠い。

 でも、わたしは晩熟(おくて)なのか老孫、いや小爺のところで働くのも悪くないと思った。

 そして、奉天のお屋敷に着いて、少し驚いた。

 女中というか奉公人というかの何人かの名前に『鈴』の字が付く。

 老婆婆も本名は小鈴だし。今は空席だけど秘書さんの中には秋鈴や夏鈴という名前もあった。

「じつは、あんたの鈴麗という名前はわたしが付けたんだよ」

「ええ!?」

 ちょっとビックリした。

「鈴麗のお母さんを見ていい人だと思って、それで、このお母さんの娘なら、きっといい娘さんになると思ってね。お父さんもお母さんも喜んでくれて……」

 うん、鈴麗という名前は子どものころから気に入っていた。

「あ、どうもありがとうございました」

 だから、普通にお礼を言った。


 お礼を言うと老婆婆は真剣な顔になって言った。


「実は、鈴麗……小爺の子どもを生んでくれないかい?」

「え……ええ……?」

「鈴麗に孫家の跡継ぎを生んで欲しいんだよ」

「そ、それって……!?」

「正式な奥さんにしてやれるかどうかは小爺次第だから、ここで約束はできないんだけどね。いや、無茶な頼みだということは承知の上。生まれた時から、鈴麗には素養があると感じて、ずっと見て来たんだ、どうだろうねえ……」

「そんなの、いま言われて答えられることじゃないわ」

「ああ、すまないね、いきなりすぎたね。老婆婆も年だからね……いや、驚かせてごめん。ま、老婆婆の気持ちということで、ま、小爺にはなにも言ってないから、秘書見習いってことで、ま、励んでおくれ」

 そう言うと、気まずそうに後ろで組んで行ってしまった。

 小爺がカルチェタランに戻って来て「鈴麗はそういう対象ないアル」と、直接ではないけど言われて、いっしょに付いていく東鈴が……ちょっと眩しく見えて。

 その東鈴の姿が眼下に見えて……え、ベッドに寝かされてるのはわたし?

 よく見ると、体はほの白く光ってるんだけど、頭……脳みそのところが黒くて生命を感じない……髪の毛が剃られて、頭の横からだけチューブとケーブルが伸びて……繋がった機械はモニターに横に真っ直ぐな線を引いているだけで、やっぱり死んでる?

 あ……意識が飛ぶ…………それから目の前が真っ白になり……気が付いたら、夢の中でぼんやり目覚めたみたいな、途切れ途切れの意識で、わたしは東鈴と重なってしまっていた。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!99『桃畑加奈子の決意』

2024-12-25 09:24:44 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
99『桃畑加奈子の決意』 






 病院を出て横断歩道を渡る間、今度は加奈子の心に魔法をかけたぞ。


 いや、魔法なんてしろものじゃねえ。

 おもしろクロ-バー時代の曲をハミングしてやったんだ。ちっとはドーパミンとかセロトニンが増えるんじゃねえかってな。

 知井子とかがな、たまにやってやがんだ。あいつらボキャ貧だからよ、友だちがブルーな時に掛けてやる言葉が見つからなくて、適当に適当な曲をハミングしてやがる。場違いな曲で逆効果になる時もあるけどよ、それでも、やらねえよりはマシって感じでよ。

 それで、横断歩道を渡りきるころには、加奈子の心に、あるアイデアと小さな勇気が湧いてきやがった……。

 トントン

 事務所に着くと、加奈子は、真っ直ぐにプロデユーサーのオフィスのドアを叩きやがった。

「上杉さん、ちょっと、お話いいですか」

「ちょっと待ってくれ。で、問題はだな……」

 上杉は、ルリ子担当のマネージャーと話の真っ最中だ。

「そう、曲のイメージですよね。ソロってことになると……」

 その言葉で分かったぞ。上杉はルリ子のソロデビューを考えてやがんだ。加奈子は聞こえないふりをしてやがる。

「あ、すまん。加奈子、少し廊下で待っていてくれないか」

「あ、はい」

 廊下に出てきた加奈子は能面のように無表情だ。

「あら、まだいてくれてたんだ……あ、そうか、あんたたちもこれからなんだ! って言うことは」

「はい、病院に居る間に発表があって」

「あ、そうなんだ、おめでとう!」

「これから、制服の採寸やらグループ分けとかあって……」

 ロビーから、スタジオへ上がる階段、廊下まで、合格者とその付き添いで一杯だった。加奈子は、それにも気づかないくらい自分のアイデアで頭も心もピカピカだったんだ。

「大変ね……この中から選抜メンバーに残るのは……香奈(マユ)ちゃんは、付き添いの人は?」

「あ……家は、両親そろって反対されて……」

「そっか……わたしも、そうだったな」

「加奈子さんも、そうだったんですか」

「うん、ブレイクするまではね。今は親も喜んでくれてる。メジャーになれたし、一応選抜メンバーだし」

「そ、そうですよ」

「最後尾だけどね……」

「加奈子さん……」

「わたし、ポジティブだよ。病院じゃ少しヘコンデたけど、さっき横断歩道渡ってたら、なんだか昔のオモクロのころの曲がローテーションしてきちゃって、元気出てきたの。最後尾ってことは、これからは前に行くだけでしょ(^▢^)!」

「ですよね(^▽^)!」

「でも、努力とかで、前列に出られるほど、今のオモクロは甘くない。ちょっと考えてんの……」

 そのとき、ルリ子のマネージャーが出てきやがった。

 香奈(マユ)は、ぺこんとお辞儀をしたが、空気がそよいだほどにも感じてやがらねえ、加奈子のことさえな。加奈子は、すかさず入れ違いにオフィスに入りやがった。

「なんだ、呼んだ覚えはないぞ」

「廊下で待ってろって、いったじゃないですか」

 それにはかまわずに電話に出やがる。

「そうだっけ……あ、もしもしオモクロの上杉です。先ほどアポとった……」

 上杉は、加奈子に構うこともなく、スマホを構えやがる。

「話を聞いてよ、上杉さん」

「あ、うちの吉良ルリ子のことで……あ、AKRさんと打ち合わせ中……じゃ、はい、10分後ってことで」

 どうやら相手は放送局のエライサンのよう。アポを取ってやがったのにソデにされたみてえだ。

「アハ( ´艸`)」

 思わず加奈子は笑いやがる。ソデにした上杉がソデにされてやがるんだもんな。

「笑うな。じゃ、五分だけ」

「十分じゃないの?」

「オレにだって、五分くらい休憩する権利はある」

「あ、そ」

「手短に言え」

 上杉は、タバコに火を付けながら言った。

「わたしユニット組みたいんです」

「ゲホ……なんだと!?」


 オフィスのみんなの目線が集まった……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
  • 由美子      英二の妹
  • 真田       由美子の元カレ
  • 美優       ローザンヌの娘 英二の妻
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・162『昭和46年のメリークリスマス』

2024-12-24 11:35:56 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
162『昭和46年のメリークリスマス』   




 うっかりしていた、24日は終業式だ。それにクリスマスイブでもある。


 気が付いたのは頼まれたあくる日なんだけど「こっちこそ間違えて申し訳ない、23日まででかまわないよ」と科長さんの方から言ってくれた。

「加藤君(10円男)が気が付いてね、言ってくれたみたいよ」

 安藤さんが種明かししてくれる。

「いや、仕事の方も20日を過ぎるとバッタリ減るんだ。お歳暮もお仕舞だし、まあ、バイトの中でもベテランクラスは残して稼がせてやろうと声をかけてくれるんだ」

 お礼を言いに行くと、もう一つ奥深い種明かしをしてくれる。

「ああ、なるほどぉ」

 でも、電話の一本くらいしてくれても……と思わないでもない。わたしのスマホは、50年の歳月を超えて令和でも繋がるようになってるんだから。

「電話はしたらしいよ、二回とも留守だったって」

 あ、そうか、1971年は、まだ留守電サービスは無いんだ。スマホは基本マナーモードにしてるしね。


 そして、無事に終業式。


 もらった通知表は赤点もなし。5もないけどね、平均を取ると3.6といったところ。二期校を目指す面々は相応の成績のようで、みんな穏やかな顔をしている。

「いい、二期校とか私学の高めを狙ってる人は、次の三学期が最後のチャンスだからね。その気があるんなら、最後のがんばり見せてね! 三年になったら、その時の成績でしか受験先決められないからね!」

 花園先生が檄を飛ばす。

 全体の終業式じゃ「二年生は、いま持てる力に見合う進路先を探そう。三年になって高望みをすると高い確率で浪人することになる」と校長先生は言っていた。花園先生の方が微妙に夢を持たせてくれている。

「大正生まれと戦後生まれの違いでしょうねえ」

 ロコは冷静に分析する。

「そうだな、日本は自分の力を見誤って戦争に突入して大敗を喫したんだからなぁ」
「異議なーし!」

 委員長の高峰君と10円男は日本の国運まで話を広げながらパイプ椅子を並べる。女子とボランティアは前列にゴザを敷く。花壇の前にはビールケースを並べ、その上にコンパネを敷いて特設ステージ。そして、その背後には去年より一回り大きくなった焚火というか聖火台というかのエフェクト。さらに、その上の渡り廊下から看板が下げられ、去年の三倍マシマシの規模とデコレーション!

 伊勢半のバイトでぜんぜんカメてなかったけど、なんだか文化祭と同じくらいの力の入れようで、令和少女はビックリだ。

 去年も盛り上がったけど、中庭の真ん中に池があることもあって、参加者の半分以上は遠巻きにしていたって感じ。

 それを少しでも集中させようとステージとゴザの桟敷席、パイプ椅子の椅子席と、その後ろに立見席。ぜんぶ埋まったら500人くらいは入れそう。

 ガーガーピーー ピーガーー 

 マイクやアンプのテストを始めると早くも桟敷席に座布団持参の一年生たちが座り始める。顔を見ると、文化祭のウェディングパラダイスやら、テスト中の顔見世とかで来ていた子たちが中心になってる。

 中庭の両脇は本館と南館、この様子を見た生徒たちも次々に集まって来て、準備が整った時点で桟敷席の全部と椅子席の半分が埋まってしまった!

 
 真っ赤なお鼻のぉ トナカイさんは~ いつもみんなの~ 笑いもの~(^^♪


 だれでも知っている『赤鼻のトナカイ』から『クリスマスイブの集い1971!』が始まった!

 今年もいよいよ千秋楽!

 ううん、まだまだありそうな気がする。

 とりあえず昭和46年のメリークリスマス!!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!98『桃畑加奈子を励ます!』

2024-12-24 08:28:35 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
98『桃畑加奈子を励ます!』 




「あの時、あなたの一番近くにいたのはわたしなの」

 一昔前の人口音声みてえな声に返す言葉がねえ。視線はガラス張りに向けられたままだしよ。

「助けなきゃ。そう思った……ほんとよ。でもその前に美紀ちゃんが動いていた。で、動けなくなってしまった」

 なんか、面倒くさい話になりそう(^_^;)。

 気づかれないように息を吐いてから聞いたぞ。

「どういうことですか?」

「美紀ちゃんは、心底からからオモクロが好きなんだ。だから、とっさに体が動いたのよ」

 マユは、仁科香奈の顔で当惑したぞ。応えようによっちゃ、オモクロ創立メンバーのプライドとか傷つけっちまいそうでよ。

「美紀ちゃんたちは、あとからやってきて、おもしろクローバーを想色クローバーのオモクロにかえてしまった。そしてAKRに肩を並べるほどのアイドルグル-プにしたわ。力とオモクロへの愛情がなきゃできないことよ。だから、たとえオーディションの受験生でも、危険だと思ったら自然に体が動くのよ……それに圧倒されて、わたしは体が動かなかった……でも、これって言い訳よね」

「どうしてですか……」

「だって、わたしが飛び込んでいったら、おそらく、だれも怪我せずに、あなたを助けられたわ……でも、咄嗟には動けなかった。万一怪我したらステージに立てなくなる。今でも影が薄いのに、怪我したら二度と戻れなくなる」

「そんなこと、とっさのことだったんだから、いま思い悩んでもしかたないですよ」

「さっき、お見舞いに来てね、ドアをノックしようとしたら、聞こえてきたの、お医者さんの声『大丈夫、少し時間はかかるけど必ず元通りになるから』って言ってるの。そしたらね、心の底に残念に思ってる自分がいるのに気付いて。でも、ひとつ深呼吸して――後輩を見舞いに来た優しい先輩――に切り替えられて、ソツなくお見舞いの言葉も出てきて、本当は真逆の事思ってるのにね。なんだか、メチャクチャ嫌になってきて…………っていうか、こんなとこ、こんな顔を写真とか取材とかされたらいやでしょ! 病院はともかく、外に出たら、きっと二三人は記者とか来てるし!」

「あ、ああ……」

 気を飛ばしてみると、玄関を出たところに文秋と芸能Pの記者が待ち構えているのが分かる。

 ちょっと指を動かして二人の大腸を過敏にしてやる。

「ああ、でも、ここに居ても解決にはなりません。あ、うん。今なら大丈夫な気がします。うん、だいじょうぶです。いざって時は自分が庇いますし、いえ、きっと大丈夫です(‘へ‘)!」

「マユちゃんて面白いね。元のオモクロ向きかもしれないね」

「え、あ、そうですか(^_^;)」

「よし、うん、元気出て来た! 行こうか!」

「ハイ!」

 なんとか元気になった加奈子に引っ張られるようにしてエレベーターに乗る。もう一度気を飛ばして、文秋と芸能Pがトイレの個室に居ることを確認!

「大丈夫、ほんとうに居ないみたいです!」

「え、あ……ほんとに居ないんだ(^_^;)」

 え、え、なんでションボリ?

 
☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
  • 由美子      英二の妹
  • 真田       由美子の元カレ
  • 美優       ローザンヌの娘 英二の妻
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  

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銀河太平記・264『嗚呼東鈴!』

2024-12-23 12:00:01 | 小説4
・264

『嗚呼東鈴!』 老婆婆小鈴 




 ウィーーーーーーン

 
 かそけき動作音をさせて筋斗雲が降りてくる。

 筋斗雲は小爺自慢のボートで、地球上のどこへでも一時間有れば飛んでっちまうという優れもの。
 しかし、動作音がまるっきりしないので、いつも驚かされていた。ウィーーーーーーンという音は「あまり無音だと老婆婆が腰を抜かすといけないから」と、小爺がわざわざ付けたギミック。音源は200年前のマブチモーターだというんだから恐れ入る。

「哎呀( ゚Д゚) !」

 出かけてから、まだ一週間ほどなのに、筋斗雲のボディーはひどく汚れちまってる。これ一つで火星航路の客船が一隻買える値段だというのに、小爺はほんとうに、ものを大事にしない!

「あれれ?」

 きれいに着地させた筋斗雲から出てきたのは東鈴一人だけだよ。

「小爺は?」

「カルチェタラン。モンゴルで飲み過ぎちゃったから、少し寝るって」

「おまえさんは?」

「うん、筋斗雲を工場に持っていくとこ、ちょっと荒っぽい乗り方したもんで」

「工場なら、ずっと北だろうに」

「なに言ってんの! 老婆婆がしょんぼりしてるから、様子見に降りてきたんじゃないか!」

「そうか……人に見られないように上がってきたのにねえ」

「なにがあったの? なんか、七日ぶりじゃなくて七年ぶりって感じだよ」

「嗚呼……」

「なによ、京劇の台詞みたいな溜息ねえ」

「実は……」

「ええ、鈴麗が!?」

「ああ、まったく運の無い子だよ……この年寄りの、人生最後の希望だったのにさあ……」

「そう、いい子だったけど、老婆婆、なんか適当に便利使いしてなかった?」

「そ、それは」

「うん?」

 東鈴の気安さに、全部話した。もう秘密にしても仕方がないしねえ。

「そうかぁ……老婆婆がぜんぜん義体化してなかったのは、そういう理由だったんだ……」

 東鈴は鈴麗のことよりも、この皺くちゃババアのことを気に掛けてくれている。

「そんなことないよ」

「ん?」

「あ、ごめん。心読んじゃった……でも、頭の半分じゃ鈴麗のことも考えてんだよ」

「ありがとうねえ……」

「大丈夫だよ、きっと……」

 わたしの肩にまわした東鈴の手が停まった。

「どうかしたのかい?」

「義体化しない体って、こんなにか細いもんなんだね……」

「ちょ、止しとくれよ、そういう同情は!」

「そうだ、PIしよう!」

「ピ、ピーアイ!?」

「うん、パーフェクトインストール! ソウルさえ生きてたら鈴麗をあたしに移し替えられるよ!」

「PIなんて、めったに成功しないよ」

「大丈夫よ、東鈴は劉宏大統領や児玉元帥と同じJQシリーズ、きっとうまくいく!」

「ちょ、ちょっと東鈴!」

 東鈴は、屋上から飛び降りて、直接一階から地下の孫房に向かって行ってしまった!

 いくら、早く行ったって、あのセキュリティーは……と、思ったら、それも簡単に潜り抜けて、ラボを兼ねた診療室に入っていた。

「老婆婆、ダメだ。鈴麗の脳波完全に停まって、もう、ソウルが拾える状態じゃないよ」

「……いや、だから言ったろぅ」

「東鈴はJQシリーズの最新だから、少しの間だったら脳波の痕跡からでも拾えると思ったのに……」

「あ、ありがとうよ東鈴。でもね、たとえPIできてもダメなんだよ」

「え、どうして? PIできたら生き返るんだよ、体って義手とか義足とかと同じ道具なんだからさ」

「バカだねえ」

「な、なによ!?」

「義体やロボットじゃ子が産めないだろうが」

「あ……そうか……そうだった(O_O;) 」

 崩おれるようにしゃがみ込む東鈴、その頭を抱いてツールボックスに腰を下ろす。

 やっぱり東鈴、おまえはいい子だよ。情においては人もロボットも関係ないよ、生きるというのは、やっぱり心と心なんだねえ……。

 ブゥーーーーーーン

 これはギミックじゃない。ついさっき脳死したばかりの鈴麗の体に繋いだ生命維持装置の音だよ。昔みたいに、あちこちチューブや電極でつなぐことは無い。外からのパルス信号とエネルギーで一年は体を生かしておくことができる。これを切るのは、せめて小爺にやってもらおう。

 悟勇ちゃん、ごめんね、最後の最後で小鈴は失敗してしまったよ……。

「そうだ!」

 ゴツン

「ウ、急に頭を上げないでおくれ、顎に当っちまったじゃないかぁ……」

「老婆婆、鈴麗の体は、まだ生きてるんだよね?」

「え、ああ、それは……」

「だったらさ!」

「え?」

「耳貸して!」

「え……え……ええ(◎Д◎)!?」

 嗚呼東鈴!?

 とんでもないことを言い出したよ(''◇'')!

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!97『お見舞い』

2024-12-23 08:33:54 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
97『お見舞い』 




 足利病院は美優が入院していた病院よりも立派だったぜ。
 
 立派というのは、規模が大きく経営が順調そうだということで、中味のことじゃねえ。美優が入っていた病院は、なんともアットホームで、亡くなった美優が、結婚間近のナースにカメオを作ってやったほど、病院と患者の距離が近え。

 足利病院は、敷地が総合大学かっちゅうくらい広くて、通りに面した入り口には交通整理を兼ねたガードマンが二人付いていて、駐車場を横目に見ながら着いた本館の正面にはバス停……と思ったら、病院専属の送迎バスとタクシー乗り場もあって、ここにも案内を兼ねたガードマン。

 入ると、見えただけで五つも各種の受付のカウンター。その横にはスーパーのレジみてえな支払いやら受付やらの機械が並んでやがる。

 普通に病室にたどり着こうと思ったら二三回は道に迷うか人に聞かなきゃかぁ……面倒なんで、ナビ魔法でルートを表示して、病室へ直行。

 ……トントン

――安藤美紀様――と書かれた個室のドアをノックする。

「……どーぞ」

 微かだけど、美紀の返事がして、仁科香奈の姿をしたマユは病室に入えったぞ。

「失礼します……」

「あ、あなふぁ……」

 美紀は、左の頬骨を骨折して顔の左半分がパンパンに腫れあがっちまって、はっきりした声が出せねえ。

 マユのせいじゃねえんだけどよ、なんか申しわけなくって戸惑っちまう。

「わたしのために、美紀さん……こんなことになってしまって、本当に申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました!」

「いいのよ、仁科さんのせいじゃないんだふぁら。あなたこそ、無事でなによりだふぁ。あの位置じゃ、まともに頭に当たっていたれしょうふぁら」

「ほんとうに、ほんとうにありがとうございました」

「フフフ……痛ぅぃ……笑ふと響くの」

「ごめんなさい、笑わせてしまって!」

 ゴツン!

 反射的に頭を下げ、ベッドの手すりに、したたかに頭をぶつけてしまった。

「フ……見舞いに来て、怪我なんかしないれね。で、オーディションの結果ふぁ?」

「はい、なんとか合格させていただきました」

「よかったぁ。これからいっしょにがんばりましょふね」

「はい、よろしくお願いします(≧▭≦)!」

「頭……気をとぅけてね(^_^;)」

 マユは、また危うくベッドの手すりに頭をぶつけるところだったぜ。

「わたし、しばらくふぁ選抜メンバーからは外れるけろ、カナちゃんが代わりに入ってくれるから安心」

「カナさんって……」

「桃畑加奈子。おもしろクロ-バーのころにセンターらった。ついさっきお見舞いに来てくぇて……」

 頭を手すりにぶつけたドジさで、気を許して、美紀はいろんなことを話してくれた。

 オモクロに入るまでは、自分でも嫌になるほど、意地の悪い子だったこと。ルリ子にくっついていればラクチンだったこと。でも、こうしてオモクロのメンバーになれば、とても才能がある努力家で、今は心から尊敬できる仲間なんだとかな……それが、顔が腫れてるもんだから、フニャフニャ言葉になっちまってよ、それが自分でも可笑しくってフワフワ笑いやがってよ……やっぱり、美紀やルリ子は成長していやがるぜ。

 オチコボレ天使・雅部利恵は間違ってなかったのかぁ……。

 え?

 フロアーの待合いロビーに戻ると、濁った思念を感じたぞ。

 あ、ああ……。

 思念は、あの桃畑加奈子のだったぜ。

 加奈子は、ボンヤリとガラス張りを通して、晩秋の東京の街を見ていやがった。


「桃畑加奈子さん……ですよね」

「あなた……仁科香奈さん?」

「はい、いま美紀さんのお見舞いをしてきたところです」

「……本当は、わたしのはずだった」

「え……?」

「ああやって、怪我をして、ベッドに横になっているのは、わたしのはずだったのよ」

 加奈子の濁った思念の中に、東京タワーとスカイツリーが見えた。

 たしかに、このガラス張りからは、その両方が見えやがる。

 加奈子は、少し顔を背けて、その両方を見てやがる。涙を見られたくないからなんだろうけど、何かを託して見比べているようにも思えたぜ。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
  • 由美子      英二の妹
  • 真田       由美子の元カレ
  • 美優       ローザンヌの娘 英二の妻
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  
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銀河太平記・263『屋上の老婆婆』

2024-12-22 18:35:50 | 小説4
・263

『屋上の老婆婆』 老婆婆小鈴 




 勇ちゃんごめんね……ごめんね勇ちゃん……勇ちゃんごめんね……


 壊れた玩具人形みたいに詫び言を繰り返す、繰り返しながら真カルチェタランの地下廊下を歩く。

 カチャン

 オートロックのドアが改めて施錠する。

 ここは、出入り共に生体認証しなきゃ通れない。北大街一番と言われるセキュリティーを誇る真カルチェタラン。その中でも孫一族と限られた側近しか足を踏み入れられない孫房。

『小鈴アルカ?』

「小鈴」

 チャカ

 生体認証に加えての音声認証で解錠してくれて、やっと地上に上がれる。

 カルチェタランかお屋敷か……少し迷って、屋上に上がる。

 バンカーバースト級のミサイルの直撃を受けても貫通させない屋上の床……偽装のコンクリだから仕方が無いけど、小さく日本語の『レ』に似た傷が付いている。

 ミサイルの破片が撥ねた痕……もう二センチもズレていたら、あの子に当らず、この老婆婆に当っていたろうに。

 小爺(シャオイェ)が「ああ、もう時間ないから、行くアルヨ!」と回れ右した時に、どうして「鈴麗も付いてお行き!」と強く出なかったんだろ。

 気立ての良さもお頭の具合も遺伝的形質も三代までさかのぼって調べ上げ、孫家の跡継ぎを生むにはもってこいの娘。いいや、生むだけじゃない。三代さかのぼって子育ての技量まで調べ上げたさ。いい子を産んでも、きちんと育てなきゃ意味がない。そのへんの失敗は歴代王朝にいっぱいあるものねえ。秦の始皇帝も、そこで失敗して秦王朝は二代で滅んでしまった。劉備玄徳の蜀も二代しかもたなかった。

 その厳しい条件に見合ったのが鈴麗。

 目立たないよう、それとなく小間使いとして雇い入れ、少しずつ慣らして小爺の世話をさせ、自然に……と思っていた。

 だから、無理はせずに、東鈴と出かけるのにも通り一遍の小言で済ませた。

 東鈴は優秀なJ級ロボットだけども、ロボットに子は生せないからね。


 勇ちゃん……いいえ、小爺、悟勇。

 あなたが息を引き取る時に、この小鈴は誓った。悟兵坊ちゃんは、わたしの手で立派な孫家の跡継ぎにしますからって。

『子どもなんて、親類から養子を取ればいい。この悟勇は跡継ぎを生ませるために小鈴と結婚したいわけじゃないんだ。一生の伴侶になってもらいたい。僕の、この孫悟勇の奥さんになってもらいたい、ただ、それだけなんだ……』

 とっても嬉しかった。

 でも、先祖代々お世話になっている孫家を、わたし一人の気持ちで不安定にするわけにはいかない。勇ちゃんのいいお嫁さんになる自信はあったけど、気持ちもあったけど、孫家を次の時代に伝えていくためには、わたしじゃだめなんだ。

 だから、アンチエイジングとかもやらず、皴も伸ばさず白髪も染めずに、ただただ、孫家の裏方として生きてきた。

 鈴麗を見つけた時は、どんなにうれしかったか。

 嬉しかったから、けして急がず、不自然にもならず……だから、くどくは言わなかった。東鈴も旅の相棒としては十分な子だったしねえ。満洲も漢明も、いや、世界中が不安定な時代。小爺には十分な働きをしてもらわなきゃならない。

 でも、まさか、小爺を見送ったその日に、漢明とロシアのミサイルが奉天の上空で火花を散らすとは……いや、あれはメンツをかけてマンチュリアが飛ばした迎撃ミサイルかも……ああ! どちらにしろ、あのミサイルの欠片が、この屋上に落ちてきて、鈴麗の頭に当るなんて!

 まったく、まったく、なんの因果なんだろう。

 もう二センチ、いや、一センチだけでもズレて、この老婆婆に当っていたら……あそこまで育てたんだ、きっと小爺、悟兵坊ちゃんの眼鏡にもかなって、二年もすれば立派な跡継ぎが……。

 嗚呼…………………

 長い溜息をついていると、虫の鳴くような音がして、振り仰ぐと小爺の筋斗雲が屋上に下りようとお尻を振ったところだった。

 

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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