大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・172『近ごろ化学の授業は化学実験室』

2025-01-18 09:35:18 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

172『近ごろ化学の授業は化学実験室』  




 二学期の終り頃から化学の授業は化学実験室。

 と言っても、とくに実験をするわけじゃなくて、ずっと座学なんだけどね。


 なぜかというと寒さしのぎのためなんだ……聞いたわけじゃないんだけどね。

 先生は、あと一年で定年という富永先生。

 終戦までは満州の中学で教えていたというんだから寒さには強いはずなんだけどね。

 化学実験室にはストーブが二つある、実験室の前と後ろ。実験室だから、ガス栓は実験テーブルに一つずつあるしね。

 窓のカーテンは閉められていて、カーテンをめくるとすき間のできる『横滑り窓』にはゴムのパッキングがしてある。隅っこではスタンド付きの扇風機が首を振って空気をかき回してくれて部屋が均一に暖まるように工夫がされている。

「精神論言わないところがいいですね(^▽^)」

 ロコがストーブにあたりながら先生を褒める。部屋の暖かさに文句は無いんだけど、ストーブが点いてると、とりあえず集まってしまう(^_^;)。

「だよね、小学校の頃さ『体中顔だと思えば寒くない!』とか言われなかった?」

 たみ子が言うと「うんうん」とか「そうそう」とかの合いの手が入って、「顔が寒いんだからしょうがないよねえ」とか言って笑う。

「ほんとうに寒いところに居た人は、精神論じゃなくて、きちんと対策してるものなんだね」

 富永先生は半年かけて満洲から引上げてきたらしい。笑顔がそのまま顔のしわになったような人だけども、抑留もされずに引き上げられたのは相当な工夫と苦労があったと思う。

「独身だったからなんでしょうね」

 真知子がポツリと言って、「「ああ……」」とみんなが納得。

 親はみんな戦争を体験している。それも学童疎開とかじゃなくて、リアルに兵隊だったり女子挺身隊だったり。中には引揚者の親も居て、そういう機微は21世紀生まれのわたしには想像つかないところで理解してるんだ。

「春になったら、一年のときみたいに花見にいきたいわね」

 加奈子が水を向けてきて思い出した。

 おたふくでパンとか買って、みんなで宮之森城址公園に行ったんだ。

「そうですね、こんどはちゃんとしたお弁当持っていきましょう!」

 ガチャ

 ロコが小学生みたいに手を挙げた時、準備室との境目のドアが開いた。

 富永先生かと思ったら、実習助手のAさん(名前憶えてない)がぶっきらぼうな顔で宣言する。

「先生のご都合で自習。ここは閉めるから、教室に戻って。いいわね」

 そういうと、前のストーブを切って、こっちにやってくる。なんか、消されるのヤなんで、自分たちで消して廊下に出る。

 背中を丸めたり、ポケットに手を突っ込んで廊下を行く。

 化学準備室から教室へは三年の廊下を通る。

「半分もいないわねえ……」

 加奈子が微妙に棘のある言い方をする。

「ああ、もうすぐ卒業ですからねえ」

 そうなんだ。去年もそうだったけど、三学期になると三年生は半分も来ない。授業もほとんど自習みたいだし。

 ルーズというかファジーというか。

 図書室か学食という選択肢もあったけど、それは、なんだかいけないような気がして、みんな真面目に教室に戻った。

 


☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 

 


 
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01『ゼロ戦生誕百周年フェスティバル』

2025-01-17 15:01:43 | 不思議の国のアリス

千早 零式勧請戦闘姫 2040  
 01『ゼロ戦生誕百周年フェスティバル』 




 ドォーーン ドォーーン ドドンドン パチパチパチパチパチパチ


 もう少しでたどり着くという丘の上に花火が打ち上げられ、群青の空に綿あめのような白煙がいくつも咲いた。

「ああ、ま、間に合ったぁ……」

「走ったからねぇ……」

「一気に行くぞ!」

「あ、待ってよぉ!」

 なんとか余力を絞って丘の上にたどり着いた貞治(ジョージ)は、幼なじみの千早を急き立てて滑走路に急いだ。

 九尾丘(くびおか)は平たい台形で。プリンに似ていて、カラメルシロップが載っているあたりに戦前からの滑走路がある。
 街にはこれとは別に戦前からの空港があるのだが、こちらは自衛隊の基地空港で、自衛隊の記念日でもないと一般に公開されることは無い。

 九尾丘の滑走路は短く、せいぜい双発のプロペラ機が離発着できる程度で、日ごろは地元の企業や飛行クラブ、近隣のレシプロ機の中継飛行場として使われている。

 2040年の今年は皇紀二千七百年にあたっていて、100年前に正式採用された零式艦上戦闘機、ゼロ戦生誕百周年フェスティバルが、この九尾丘飛行場で開かれようとしている。

 そう広くもない飛行場には世界中からラジコンやらレプリカ、それに世界でも数機しか残っていない本物のゼロ戦が展示され、国内はおろか海外からもゼロ戦やレシプロ戦闘機のファンが集まってきた。

 二人が観衆の後ろに混じれた時、この春に当選したばかりの女性市長がクレーン車のバケットに収まってせり上がってきた。

『ようこそみなさん、ゼロ戦生誕100周年フェスティバルにお越しくださってありがとうございます。高いところからではありますが、九尾市市長の天野明里(あまのあかり)が開会のご挨拶をさせていただきます』

 キャー! アカリ! 待ってました! アカリちゃ~ん! アカリ市長! アカリーン!

 陽気な掛け声があちこちから湧いてくる。

 天野明里は、ほんの一昨年までアカリンの愛称で名をはせてきたアイドルで、祖父の天野翔(あまのかける)の引退にともなって出馬して当選した日本最年少の市長である。

『今年は、みなさんご存知の通り、皇紀二千七百年の記念すべき年にあたっています。主に東京でさまざまな記念行事が行われて、あたかも東京のお祭りのようになっていますが。この、九尾市にも大きな意味があります……』

 そこまでで、数千人の観衆、ネットで中継や個人配信の動画を見ている人々には分かった。

 ゼロ戦は試作機のころから愛知の工場で作られた後、各務ヶ原やこの九尾市にある(現在は自衛隊が使っている)飛行場まで運ばれて試験飛行、あるいは配備先の航空基地に送られた。

『ゼロ戦は、三菱の工場を子宮として育まれましたが、その旅立ちは終戦に至るまで、この九尾の飛行場でした。そのゼロ戦の旅立ちを百年後の今日、再び行うことは大変意味深いことであると思います。月面に基地が作られ、人類の火星到達も夢ではない今日、その飛翔の意味は大きく夢のある事に違いありません。九尾市市長天野明里は、ここにゼロ戦生誕100周年フェスティバルの開会を宣言します!』

『市長の開会宣言に続きまして、ゼロ戦隊の展示飛行に移ります。滑走路にご注目ください、まずはAI操縦に寄りますラジコンゼロ戦100機の編隊飛行です!』

 ウィーーーン ウィーーーン ウィーーーン ウィーーーン ウィーーーン

 縮尺1/10のゼロ戦が三機ずつの小編隊になって次々に発進。たちまちのうちに丘の上空で大編隊になって、さまざまに編隊の形を変えて飛行する。

 続いて1/6、1/4、1/3、のゼロ戦が飛び立ち、九尾の上空は二百に近い模型のゼロ戦が飛び回って、雰囲気を盛り上げていく。

「え、本物じゃないの?」

 次に滑走路に現れた三機は、それまでの電気モーターの甲高い音ではなく、轟々としたエンジン音、そしてなによりも、その大きさで、多くの観客は千早同様に本物と思った。

「いや、エンジンが栄の音じゃない……」

『実機に見えていますが、これはウクライナ製のレプリカゼロ戦21型で……』

 次に飛び立ったのは、少し短足で微妙にずんぐりした不器用そうなレプリカ。

「あ、『トラトラトラ!』に出たテキサンレプリカのゼロ戦だ!」

 真打登場の前に興奮マックスの貞治。

 それに引き換え、千早は少し飽きてきて、駐機場の屋台の方に気を取られてきた。

「ああ、やっぱり焼きそばは屋台のに限るわねえ……ソースの焦げる匂いたまら~ん(^_^;)」

「お、次、いよいよ本物だ!」

『いよいよ真打でございます。スミソニアン博物館からお借りいたしました52型、これはエナーシャで発動機を起動させるところから始まります』

 キュウィ~~~~~~ン キュウィ~~~~~~ン

 整備兵に扮したスタッフが、重そうにエナーシャで起動すると、ブルンとうなりを上げてプロペラが回り始め、操縦士が「コンタクトォ!」と叫んで、その回転音は一オクターブ上がって、52型は滑走路に侵入。

 ブォーーーーン!!

 そして一気にブーストをかけて、いつのまにか居なくなったラジコンやレプリカのゼロ戦に変わって九尾丘の空に8の字を描いた。

「さあ、次は着陸! 場所取りに行くぞお!」

「あ、その前に焼きそばぁ! 綿あめも食べたいしい!」

「なに言ってんだ、ゼロ戦が先だぁ!」

「あ、もう~! 貞治ぃ~!」

 滑走路の先を駆ける貞治にシブシブ千早が付いて走り『千早 零式勧請戦闘姫』の物語が始まった。



☆・主な登場人物

八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
八乙女挿(かざし)         千早の姉
来栖譲二(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

 


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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!118『名残り雪』

2025-01-16 09:14:36 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
118『名残り雪』 






 四番目のやつは、そっくりだったぞ……浅野拓美に!

 ハッピーハッピークローバー 奇跡のクローバー ♪

 \(^o^♪(^O^♪(^O^♪)^o^)/

 三番が終わって決めポーズ! 

 直後……四人目のそいつは滲んで消えやがった。

「みなさーん! 今、ここにいた子は、HIKARIプロの、わたし達の情熱。そして東京工科大学の司先生の技術によって生み出された、わたしたち三つ葉のクローバー四枚目の葉っぱです。わたしたちとみなさんの情熱や愛情がマックスになったときに現れる、四人目のバーチャルアイドルです!」

 リーダーの萌が宣言しやがる。

「みなさーん、もう一度会いたいですかあ!?」

「うおー!」「ハーイ!」「会いたい、会いたい!」などの声が一斉にした。放送局のコンピューターにも、視聴者の「もう一度会いたい!」というコメントが殺到。

 もう一回! もう一回! もう一回! もう一回! もう一回!!

 もう一回コールが高まる中、そいつは再び現れた……。

「ありがとう、みなさん! みなさんの熱い思いで、もう一度、みなさんに会えることができました。三つ葉のクローバーへのみなさんの愛情がマックスになったとき、それをエネルギーにして、わたしは現れることができます。わたしは四枚目の葉っぱです! 四葉のクローバー! 花言葉は『幸福』です。でも、まだ名前がありません。この《ハッピークローバー》のCDを買っていただくと、命名カードが付いています。どうか、それに素敵な名前を書いて送ってください。素敵な名前付けてもらえるの楽しみにしています。とりあえず四枚目の葉っぱ『幸福』からのお願いでした。じゃ、また皆さんの愛情で会えますように……」

 花言葉『幸福』は両手を胸にあて、優しい笑顔のまま消えていきやがった。

「どう見ても拓美……」

 ため息をつくマユに、密やかに声が掛かったぞ。


 ……マユ、わたしに付いてきて……

 え?


 それは仁和さんだった。返事も待たずに仁和さんはスタジオを出て行った。マユは、引き寄せられるように、そのあとに付いた。

 着いた先は、階段を下りたロビー。そのロビーのガラスの外には、東京の夜景が眼下に広がってやがる。この一年見慣れた東京の夜景が。

 ああ、あのあたりが学校……事務所はあのあたり……なにか、その夜景は、とても懐かしく、愛おしく思えたぞ。


「さあ、こっちへ……」


 仁和さんのガラスの前には、いつの間にかガラスのドアができていた。ノブが付いているんでドアっぽいけど、ガラスはガラス、素通しで夜景が見えている。

 仁和さんがドアを開けると……二十畳ほどの応接室みてえになっている。応接って言っても、あいかわらず外の夜景はそのままに見えてやがる。

「失礼します……」

 そう言って、部屋に入ろうとしたとき、思念が飛び込んできた。


―― 入っちゃダメ! そこは…… ――


 仁和さんがドアを閉めたんで消えちまったけど、それは、オチコボレ天使の雅部利恵っぽい。

「今のは……」

「そう、オチコボレ天使の雅部利恵よ。あの子は立場を超えて、あなたに友情を感じ始めている」

「仁和さん……」

「まだ気がつかないか……あなたの担任よ」

「あ……え、ええ!? サタン先生(⊙∀⊙) !」

「不思議に思わなかった? 人を思い浮かべる時、わたしにだけは『さん』付けしていたろが」

 え、あ……( ゚Д゚)

 ぜんぜん意識してなかったぞ……なんか悔しい(-_-;)。

「そういうところがお前の可愛さだ」

「へへへ……(*´ω`*)」

「フフフ」

 って、なに和んでるんだ!

「では、これを……」

 仁和……サタン先生は空中から、A4の紙を取りだし、マユに渡したぞ。

「追認合格書……」

「まずは、おめでとう。晴れて単位認定……」

「先生、マユは……」

「愛情を持ちすぎてしまったな、この世界に」

「まだやり残したことが……」

「もういい。マユ、おまえは十分に知った。人間は苦悩の果て、様々なものを失って、試練を重ね、傷ついた果てに心を高めていくものだということをな……いろんなことがあったな、拓美の救済も見事だったぞ……」

「あのバーチャルアイドルは……」

「創ったのは人間だ。わたしは時どきマユや拓美がやったことにアクセントを付けて見せただけだ……」

「そうだったのか、よかった……」

「さあ、向こうのドアから、魔界に戻るぞ」

「先生。まだ、やり残したことが……」

「これ以上はダメだ。天使の領域に踏み込んでしまう。マユはあくまでも悪魔なのだからな」

「オヤジ……ギャグですか」

「そういうノリでオサラバしておけ……この期に及んで、そのカチューシャを締め上げたくはないしな」

「わ……分かりました」

「今度は、任務として、この世界に。そのときまでは……な」

「はい」

 サタン先生が小さく頷くと、魔界と現世の狭間の部屋は一瞬で消えちまったぞ。


「消えた……」


 雅部利恵は、美川エルの姿のままガラスの前で小さくため息をつきやがる……ガラスの外、おりから降り出した名残り雪が東京の夜景を滲ませてやがった。



 魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  小悪魔だけどな(≧▢≦)!・第一部……完


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銀河太平記・269『ハナとシゲジイ』

2025-01-15 11:14:47 | 小説4
・269

『ハナとシゲジイ』 東鈴 




「悟兵のオッサンもよ、フーちゃん連れてねえんだったら、こんな思わせぶりな着陸すんなよな!」

 むかつく言い方なんだけど、目に涙を浮かべ、口をへの字にしてプーたれる姿は純真そのもので、プイと背を向けた巫女服に声をかけてしまう。

「ごめんな。フーちゃんてのは漢明の胡盛媛中尉のことだな。そいつなら、劉宏大統領のとこで任務に就いてる」

「劉宏のとこでか、そうか……」

「そうアルヨ、ハナちゃん。こいつは東鈴、奉天で儂の秘書やってる。勉強のためにいっしょに連れて来た。仲良くしてやって欲しいアルね」

「そ、そうか、それなら仲良くしてやらねえこともねえ……オレ、ハナだ。めちゃくちゃ有能だから、そっちのお岩食堂と、こっちの氷室神社のあれこれを任されてんだ。分からねえことがあったらハナに聞け」

「任せた覚えはないけどな……まあ、こいつが居なきゃ食堂も神社も少々不便ではある」

 神主服のジジイが割って入ってきた。たぶん、シゲジイとかシゲ老人とか呼ばれてる名物爺さんだ。

「重田茂三、孫大人(たいじん)の秘書なら知っておろうが、この神社の神主をやっておる。あとでお参りしてくれると嬉しい」

「はい、心がけておきます」

「このジジイに敬語なんていらねえからな」

「そうなのか?」

「こら、余計なことを言うな」

「お、みんな集まってきたぞ!」

「そうか、じゃあ、まあ、とりあえずは神さまにご挨拶するアルか」

「おお、よい心がけじゃ。おーい、孫大人は最初に神社にお参りだ、お前らもいっしょにお参りせい!」

 シゲジイの声か、神さまの御威光なのか、集まった者たちはわたしらを先頭に境内に入った。

「え?」

 境内に入ってビックリした。 神社のハイデンという祠は、四隅の柱の上に神社らしい屋根が載っているだけでスカスカなのだ。

「この氷室神社の御祭神は、秋宮空子内親王、それと、ここから見える海と空じゃ。空と海がご神体、ゆえに拝殿のどこから拝んでもいいわけじゃ。ま、いまは太陽も南中しておるから、正面からでよいじゃろう」

 な、なるほど考えたもんだ。よく見ると、賽銭箱も正面のほか東西にもあって、どこからお参りしてもお賽銭が受けられるようになっている。

 合理的なような、がめついような。

「では、二礼二拍手一礼でいくからの。おっと、その前に……」

 シゲジイが言葉を呑み込むと、あちこちからお賽銭が投げ込まれる。

 チャリン チャリンチャリン チャチャチャリンリンリン

 みんな――ハメられた(^_^;)――という感じで、それでも人数を超える音がして、この島の陽気さと緩さが感じられる。この雰囲気は好きになれるかもしれない。

「さあ、じゃあ、うちの食堂で歓迎会だよ!」

 オオオオオオオオオオオ!

 大柄なオバサンが腕を振って赤屋根の食堂に誘うと山賊みたいな声が上がった。



☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!117『アイドル蒸発!!』

2025-01-15 08:14:06 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
117『アイドル蒸発!!』 





 つづいて、いろんなことが起こったぞ。


 レコード大賞の受賞曲をAKRが感激の内に歌っている間、ほんの一瞬テレビの画面にノイズが走ったぞ!

 それは、マユのアバターから、浅野拓美の霊が抜けていき、マユ本来の魂に入れ替わる瞬間。ほんの0・5秒ほど電磁波が出てよ、中継のカメラに影響を与えたからだ。

 そして、観客席の前、出場者の席から神楽坂の仁科香奈がひっそりと消えたぞ。

 仁科香奈はよ、マユが拓美にアバターを貸して居所が無くなるんで、間に合わせに作ったアバターだ。魂が抜けてしまえば存在できねえ。

 AKRの歌が終わって、ステージに出る途中、香奈の横のポジションのやつが気づいたぞ。

「あれ……香奈……?」

 最初は、気分でも悪くなって席を外したのかと思われた。

 けども、楽屋にも化粧室にも香奈の姿は無くてよ。マネージャーやスタッフ総動員で、ホール中探したが見つからねえ。日付が変わるころには警察に捜索願が出されたぞ。


――アイドル蒸発!!――


 マスコミも年を跨いで一カ月ほどは、特集番組を組んだり大騒ぎになったけど、神楽坂に新メンバーが補充され、梅が堅い蕾をつけるころ、世間は関心を失っていっちまったぞ。

――これでいい――

 マユはそう思った。

――あんたの、やってることって訳分かんない!――

 オチコボレ天使の雅部利恵からは、そんな思念が送られてきたけど、利恵も何かを察しやがったのか、それ以上のことは言ってはこなかったぞ。


「さあ、がんばるんだ。三つ葉のクローバー!」


 黒羽が三人の顔を見ながら言った。

「「「はい!」」」

 萌、知井子、潤、三人の声がそろいやがる。

「萌は愛情、知井子は信仰、潤は希望。そして、三人の想いが一つになったとき、幸福という、四枚目の葉っぱが現れる。稽古通り対応できるように……いいな」

 念を押す黒羽の後ろで、会長の光ミツルが笑ってやがる。


「スタンバイお願いします」


 ADが密やかに声をかけた。三つ葉のクローバーのデビューは、二か月後、坂東テレビの看板歌謡番組「ヒットチャート10」の最後に行われたぞ。

 AKRのメドレーが終わって、スタンバっている三人にカメラが向けられた。


《ハッピークローバー》

 青空に誘われて アテもなく乗ったバスは岬めぐり
 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘

 ジュン! チイコ! モエ! 

 走る岬の先には白い灯台 その足もとに一面のクロ-バー

 諸君! その花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の印! 

 チイコがしたり顔してご説明

 茎は地面をはってあっちこっちに根を出して 高さおよそ20cmの茎が立つ草

 茎や葉は無毛 本名はシロツメグサですぞ!

 なんで そんなにくわしいの くわしいの

 いいえ 悔しいの 悔しいの

 だってあいつは それだけ教えて空の彼方よ

 ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー
 その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー

 ハッピー ハッピークローバー 奇跡のクローバー 


 一番が終わって、それは現れやがった……一瞬の決めポーズになった三人の後ろから、そいつが現れた。そして、三つ葉のクローバーは四つ葉になって、曲は二番、三番と続いていくぞ。

「やった! カメラを通しても透けてない!」

 モニターを見ながら司準教授はガッツポーズ。

「本番中よ」

 横の仁和明宏が、頬笑みながらたしなめた。

 驚いたぞ。

 四番目のそいつ、そっくりだ……あの浅野拓美によ! 



☆彡 主な登場人物

マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗      マユの同級生
沙耶       マユの同級生
知井子      マユの同級生
指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
デーモン     マユの先生
ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
レミ       エルフの王女
ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
白雪姫
赤ずきん
ドロシー
西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
由美子      英二の妹
真田       由美子の元カレ
美優       ローザンヌの娘 英二の妻
光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
浅野 拓美    オーディションの受験生
大石 クララ   オーディションの受験生
服部 八重    オーディションの受験生
矢藤 絵萌    オーディションの受験生
上杉       オモクロのプロディューサー
桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  

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滅鬼の刃・エッセーラノベ 37『眼病始末記・2』

2025-01-14 15:55:17 | エッセー
 エッセーラノベ    
37『眼病始末記・2』  




 少し怒ったような顔で、それでも約束の5分前に着いたT病院玄関前、栞はちゃんと待ってくれていました。

 え?

 家にいたころから、めったに目を見て話さない栞ですが、「朝からすまんなあ」の言葉に反応もせずに、じっと私の顔を見ています。

「どこに穴が開いてんの?」

「え?」

「目に穴が開いてんでしょ?」

「開いてんのは網膜だから外からは見えないよ」

「え、あ、そうなんだ」

「でも、白内障だから瞳が濁ってるだろ?」

「え、いや、お祖父ちゃん、昔からそんな目だったし」

 何年かぶりで孫娘と目が合って、ちょっと嬉しかったのですが、それもほんの十数秒。

 再び目どころか顔をそらせて私の斜め前を歩きます。

 その斜め後姿は、久々に会ったからだけではない緊張感がありました。


 思い出しました。


 四歳の時、髄膜炎を患ってひどい目に遭っていたんです。

 夜間に高熱を発して隣接するH市の病院に救急搬送されました。救急当直の医者は「多分風邪ですね、熱が続くようなら電話していただくか、かかりつけのお医者さんに行ってください」と、なにも処置されること無く帰されました。

 帰宅しても、熱は下がることなく40度近くになります。意識も朦朧としてきた様子で、呼びかけにも応えません。

 すぐに救急ではなく、掛かりつけの小児科に運びました。

 何人か先客がいましたが、看護婦さんが先生に言ってくださって、すぐに診ていただけました。

「髄膜炎よ。こっちから電話するから、すぐ市民病院に行って!」

 先生はタクシーの手配までしてくださって、そのまま市民病院に直行。運転手さんも心得ていて、救急搬送口に着けてくださって、すぐに診察の上処置していただきました。

 その時、右手の甲と脊髄にぶっとい注射。おそらく手の甲は点滴、脊髄のが髄膜炎治療のための注射です。

「おねがいぃ! やめてくらしゃいー(><)!」

 それまで熱で朦朧としていた栞が、そこだけははっきり叫んで泣いて頼んでいました。

 あの時の恐怖が身に染みているんでしょう。

「治るんでしょ?」

 待合で座っていると、横顔のままポツンと言います。

「ああ、治るさ」

 答えながら、実はビビっておりました。

 わたしも、自分のことで病院の世話になるのは15年ぶり。手術と名のつくものは42年ぶりです。

 実は、栞と同じく4歳の頃に、目に鉄粉が入ってめちゃくちゃ痛く、一晩おふくろになだめられて眼医者に連れていかれました。

 たぶん、そうとう怖かったんでしょう、眼医者でどんな治療を受けたのか記憶がありません。

 どころか、眼医者がどんな人だったか、眼医者がどんな建物で、どこにあったのかまるで憶えていません。

「目を洗浄してもらった」

 お袋がそう言って、子どものわたしは――くり抜かれた目玉がホーローの洗面器の中で洗われてるの図――を想像してしまいました。

『大橋さん、一番診察室へ』

 呼び出しがかかって、栞に茶封筒を渡します。

「手術したらろくに見えないだろうから、支払いとかはこれで頼む。余ったら、栞の生活費にしたらいいからな」

「う、うん」

 さすがに緊張した顔で茶封筒を受け取りました。

 そして、簡単な手術が始まる……のかと覚悟したのですが、その日は改めて診察。一週間後の手術を決めるだけでした。

 一週間後も付き添ってくれることを打ち合わせ、予定よりも早く終わったので「飯でも食いに行くか」と水を向けましたが「バイト、間に合うから……」と、そのままY駅目指して足早に去っていきました。


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銀河太平記・268『西之島にセスナ機みたいに着陸する』

2025-01-14 15:44:59 | 小説4
・268

『西之島にセスナ機みたいに着陸する』 東鈴 




 もし、地球というものに意識とかソウルとかがあるとしたら、地上の支配者である人類に不満やら期待やら言いたいことがいっぱいあるに違いない。地表に出現して、たかだか百万年あるかないかのクソ虫、目方を計っても世界中のアリンコの総重量ほども無い。そいつらが、三百年前には核を、そして二十三世紀に入ってからはパルスエネルギーを使うようになって、その使いようによっては母なる地球自体をも滅ぼしかねない――何様のつもりだ!?――と噴き出た不満やら期待やらが、堪えきれずに吐き出した毒。それが海上で凝り固まったような島。毒はまだまだ噴き出しきれずにモクモクと煙となって噴き出されているみたい。

 筋斗雲のキャノピーを通して見える西之島は、そんな風に見えた。

「ハハ、東鈴にも毒に見えたか?」

「ん? なんで分かるのよ!?」

「ずっといっしょにいるからなあ、どこか似てきてしまうんだろ」

「気持ち悪いんですけど」

「まあ、そう言うな。毒は使いようによってはクスリにもエネルギーにもなる。だから四万人……いまはそれ以上か……人が住むようになって、日夜パルス鉱を掘り出してる。面白い島アル……」

 ウィーーーン

 筋斗雲はマブチモーターそっくりの音を響かせて着陸態勢に入る。

「え、空港に下りるんじゃないの?」

「表玄関はつまらないアル」

 筋斗雲は垂直離着陸ができるんだけど、悟兵は、まるで大昔のセスナ機みたいにゆっくりと飛行場とも呼べない空き地目指して降りていく。

 空き地の右が海、左が緩い岩場、岩場には何本かの舗装されたのやら未舗装やらの道が見える。道は島の西やら東に伸びて、胡同とかナバホ村とかに繋がって、山の向こうの役所や新興住宅地に及んでいるんだろうね。いくつかの道はカンパニーの鉱山に繋がっているようで、鉱夫らしい人間やロボットが行き来している。

 空き地と海岸の間に『鳥居』と云うんだろうね、略字の門みたいなのがあって、関帝廟に似た、でも関帝廟よりは地味な祠の屋根。祠の向こうには、ささやかに漢明の国旗を立てた二階建て、たぶん漢明の連絡所。

 空き地から、ちょっと岩場に入ったところに小学校の講堂ぐらいの赤屋根。赤屋根には物干し台があって、洗濯ものがたなびいてる。あれが悟兵ご贔屓のお岩食堂。

「なに食っても美味しいぞぉ」

「あ、人がいっぱい出て来たぁ!」

「そりゃあ、孫大人の御来光だからなぁ、みんな心待ちにしてくれてるアルよ~~(^▢^)!」

 真っ先に予想停止位置に駆けつけてきたのは、赤白の巫女服にエプロンを付けたサルみたいなやつ。

「東鈴は初めてだ、愛想よくするアルよ~」

「分かってるわよ」

 カチャ

 キャノピーを開けると、目の前にサル!

「お帰り! 孫大人! お帰り! フーチャ……(☉Д⊙)」

 フーチャまで言って、サルの目が険しくなる。

「だれだ、この女? フーちゃんはいねえのかよ(ー"ー;)!」


 着いた早々、めっちゃ気分悪いんですけど!


 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった


※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・171『ちょっとコラージュ』

2025-01-14 14:36:54 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

171『ちょっとコラージュ』  




「ああ、これじゃダメだ」

 そう言うと直美さんは焼き付けたばかりの印画紙を左のトレーに入れた。

 左はボツ、右が合格品を収めるトレー。左には四枚入っていて、右は空のまま。

「一息つこう」

 直美さんは、わたしを促して現像室を出た。



 二年生も三学期、高校生活も2/3が終わってしまって、あれこれがルーチンというか慣れてしまった。それは前回も言ったよね。

 じつは写真館のバイトもそう。

 事実上の館主である直美さんの助手をやってるんだけど、仕事の八割以上は結婚式場の記念写真。

 だから、人から「なんのバイトやってるの?」と聞かれたら「結婚式場です」と答えてしまう。

 慣れてしまうと、特別に語ることも無くなってきて、改まってお話することもないんだけど、成人式の前日に特別な結婚式があった。

 新郎は25歳のサラリーマン、新婦は短大を出たばかりの20歳。

 新婦は光子さんといって、ほんとは高校卒業と同時に結婚して、新郎の鈴木さんといっしょに新郎の赴任先であるアメリカに行くところだった。

 しかし、高三の夏に脳腫瘍であることが分かって、結婚は延期。

 光子さんは健気な人で、短大に通いながら病気の治療に励んだんだ。

 なにもしないで病気の治療をするんじゃなくて、人生、なにごとも前向きで田中さんの横を歩いて行きたかったんだ。

 短大で保育の勉強をして、結婚したら自分も保母さんとして働く。ただ、漫然と病院に通って、いつかは入院。そして、ずっとベッドの上で病人として過ごすのは嫌だったんだね。たとえ、週に三日とか四日しか通えない短大でも目的のある生活を送りたかったんだ。

 田中さんは、会社に頼んで光子さんが治るまでアメリカ行きを伸ばしてもらった。

 でも、光子さん、去年の6月には入院せざるを得なくなった。

「June bride じゃなくってjune patient(六月の病人)だね」

「なに言ってるんだ、前向きに行くんだろ。予定通り成人式に合わせて結婚しよう、式場も予約しよう」

「……うん、そうね」

 でも、光子さんは結婚式に間に合わず、クリスマスの前の日に神に召されてしまった。


 でもね、田中さんは結婚式を挙げることにしたんだ。


 披露宴は無し、神前のお式と写真撮影だけの結婚式。

「ねえ、なんとかならないのかしら?」

 なんだか胸に迫って来て、須世理姫である采女さんに声をかけた。大晦日の埼玉では、あれだけの奇跡を見せてくれたんだ。ひょっとしたらと思ったんだ。

「無茶いわないでよ、伊邪那岐命(イザナギノミコト)だって、奥さんの伊邪那美(イザナミノミコト)を生き返らせることはできなかったのよ」

「やっぱし……」

 光子さんは顔なしのマネキンに花嫁衣裳を着せて、式と写真撮影を行った。

 顔のところは、光子さんの別の写真から切り取ってはめ込んだもの。

「でも、アングルとか光の当たり具合とかに不自然さは無いですよ」

「うん、プロだからね、あたし」

「だったら」

 直美さんは春のコンテストに出す作品も手掛けている。そんなに時間をかけているわけにもいかない。

「空気感が全然違う」

「ああ……」

「でも、納期は迫ってるし……安請け合いしちゃったかなぁ」

「あのう、ちょっと借りていいですか?」

「え?」

 知り合いにアマチュアの写真家が居る……ということで、式場でのネガとコラージュ用の写真を借りた。


 家に持って帰って、AIのツールを使って創ってみた。


 あっという間に十枚ほど出来あがった。

 直美さんは「すごいすごい!」を連発して、そのうちの二枚を表装して田中さんに送ってあげた。

 ほんとうは十秒の動画も作ったんだけど、さすがに21世紀のAI技術を晒すわけにもいかない。

 花嫁衣装で旦那様と向き合って一言二言喋って、こちらを向いてニッコリ。

 上出来なんだけど、ファイルにしまって、そっ閉じにした。


☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・170『年度末と防寒対策』

2025-01-14 14:24:36 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

170『年度末と防寒対策』  




 三学期が始まって三日目の朝、いつものようにロコと駅を出たところでいっしょになって学校を目指す。

 ガガガガガガ ガガガガガガ ガガガガガガ

 交番の前を通って商店街に入ったところで、盛大に道路工事をやっている。

 さすがに塞がっているのは道幅の半分なんだけど、通勤通学の邪魔。

「迂回しますか」

 二年の三学期ともなると近隣の地理に明るくなって、相談しなくてもう回路に足が向く。

「年度末が近いから、駆け込み工事が増えるんですよね」

「駆け込み?」

「市とか県の予算ですよ。使い切らないと来年度の予算減らされますからね」

「そうなん……ウワ!」

 ちょっとした舗装の段差に引っかかって、ロコが咄嗟に手を引いてくれて助かる。

「あ、ありがとう(;'∀')」

「ここはクリスマス前に工事したとこですねえ、舗装工事は向こうと合わせて来年度予算といったところですね」

「アハハハ……来年度予算ねぇ(^_^;)」

 これだけの工事なのにガードマンも付いていないし、案内板すらない。

 だいたい通学時間帯の通学路の道路工事なんて反則だと思う。まあ、片側封鎖だし、昭和的ファジーさと嘆きの虫を押し殺して学校へ急ぐ。

 ロコはいつも通りにカバン一つ。わたしはカバンを右手に、左手で紙袋を抱えている。この紙袋で足元が視界不良になってるんだ。

「ああ、窓際になったんですねぇ……」

 ロコも思い当たって、今さらながら同情してくれる。


 実は、昨日の席替えで入学以来初めて窓際になったんだ。


 宮之森はいちおう鉄筋校舎だけど、中身はポンコツ。

 教室のドアは鍵も掛からない木製で、教室は年に二回は油びきが必要な板張り。

 むろんエアコンなんてあるはずもなく、冬の暖房は教壇横のガスストーブで間に合わせている。

 間に合わせているというのは、他にも改善しなきゃならないところがあるからなのよ。

 それが、南側の窓。

 窓枠は、さすがに木製じゃないけど、令和じゃ常識のアルミサッシでもない。

 なんと鉄製!

 それも左右に開く引き違い式じゃなくて、まるで車のハッチバック!

 下の方に真鍮のクランクというか掛け金があって、それを横にクイっと倒して外側に押す!

 すると窓は0度~45度くらいに傾斜して、傾斜した窓の上と下から空気が出入りするというシロモノ。

 密かにググると『横滑り窓』というらしい。気密性が高いのが売りらしいけど、ゴムとかシリコンとかのパッキングが無いものだから隙間風がハンパない。

 横滑り窓の上にはスライド式の窓もあるんだけど、こいつも隙間風を遮断するようにはできていない。

 この隙間風と、一重の窓から容赦なく忍び寄る寒気防止のための防寒具が必要なわけ。

 毛糸のひざ掛けと座布団。

「もうちょっと魔法が使えたら、妖気の膜を張って寒さなんて一発で克服できんのにね」

 お祖母ちゃんは、わたしを本物の魔法少女にしたくて余計なことを言うけど、その手にはのらない。

 それに、ストーブなんだけど。暖気は全部教室の上1/3ぐらいのところに溜まって降りてこない。

 埼玉の茶畑にあった防霜扇を付けて欲しいと思った。

 一時間目が終わって、わたしの後ろになった加奈子が質問してきた。

「ねえ、ずっと指を回してたけど、なんなのあれ?」

「え、ああ……寒さで指が凍えそうで……アハハハ(^_^;)」

「え、ああ、そうなんだ……」

 不得要領な顔の加奈子。

 実は、魔法で教室の空気を循環させようと無駄な努力をしていた。

 壁の向こうの覗き見魔法しか使えないわたしには無理な魔法なんだけどね、溺れる者は~的な悪あがき。

 まあ、手首だけは、ちょっとだけ暖かくなったかも。


 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!116『レコード大賞』

2025-01-14 09:54:06 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
116『レコード大賞』 





 史上初! レコード大賞に三組目の新人賞( ゚Д゚)!!

 受賞者はもちろん、観客もテレビの視聴者も、ネットでながら見してるやつらも、日本中、世界中のやつらがビックリしやがったぜ!

 思いもかけない『神楽坂24』が、その三つ目の新人賞でよ、その興奮がまだまだ冷めねえっていうのに、大賞の発表になったぞ!

 ダラララララララララララララララララ(^^♪

 陽気なドラムロールに続いて、ファンファーレが鳴り響くぜ!

 パンパカパンパンパーーーン(^▽^)!!

「本年度の栄えあるレコード大賞は…………AKR47のみなさんが歌った《GACHI》に決しました!」

 ウワァーーーーーー(*^▢^*)!!

 会場は歓声に包まれ、AKRのメンバーは、それぞれの想いや感動を胸に舞台に上がったぞ。みんなうれし涙、萌とか知井子は涙と鼻水でグチャグチャ(^_^;) 最年長の服部八重も口と拳をギュっと結んでやがる。

 敵のルリ子も受賞者席で目を潤ませて、天使の利恵でさえ――こういうのも悪くない――なんて方頬で笑ってやがる。

 最後までポーカーフェイスだった大石クララも表彰状をもらった瞬間にドッとうれし涙が溢れてきやがって、それを拭いもせずに会場のみんなに高く掲げて見せた瞬間、会場は感激と興奮のルツボになっちまった。
 その歓声と拍手はクララが立ち眩みでグラっと揺れて、賞状を握ったクララの拳が知井子の頭を打って、知井子が「アイテ!」と目をXXにして会場の全員が爆笑するまで続きやがった。

 舞台袖じゃポーカーフェイスを決め込んでる小柄なジジイ、光ミツル会長が一人静かに感動してやがる。
 春に作ったAKRが新人賞をとっただけでもすごいのに、レコード大賞までとっちまったんだ。塩を送ってやったカタキも新人賞を取ったしな。

 こういうジジイは『みんな俺ががいたからこそ』と己惚れるもんだ。

 でもよ、光ミツルの心には、意外に素直な感謝の気持ちが溢れていたぞ。

 この曲の発表の日に、AKRは新生オモクロと対決した。引き分けに終わったが、その陰には黒羽Dの懸命の努力があった。

 オモクロとは、ヒットチャートの順位が毎週入れ替わるようなデッドヒートをくり返した。一時期はオモクロ分裂と騒がれたオモクロ・E残グミが、急速に力を伸ばし、アイドルグル-プの第三極になり、そちらからの攻勢もうけた。起死回生を狙って作った《GACHI》は、歌も振りも、かなり難しい曲で、新メンバーの小野寺潤が倒れる事態にもなった。よくここまで来られたと、感慨ひとしおだったぞ。

 その黒羽Dの頭には、曲の発表を見届け逝ってしまった美優の姿があったぞ。

 小野寺潤は、死の淵から奇跡の回復、そして晴れの舞台に立てた喜びとマユへの感謝が。

 リーダーの大石クララは、光ミツル会長と同じような、激戦を勝ち抜いてきた想いとみんなへの感謝が。

 オモクロの吉良ルリ子でさえ感動してやがる。この夏までは、東城学院でスケバンを気取っていただけの、ただのスネた女子高生でしかなかった。それが今ではオモクロのセンターを張って、いっぱしのアイドルになってやがる。

 桃畑加奈子は、神楽坂24として成功した喜びとともに、途中で脱落せざるを得なかった仲間たちの顔が浮かんだ。

 そして、舞台では、AKR47の選抜メンバーたちが、歌い踊っていた。


《GACHI》

 キミはいつでもGACHI ボクのことなど頭の隅にもない
 やるだけやったそのあとで キミの瞳の残像になれればいい……

 分かっていても 分からなくても
 キミに気づかれなくてもいい by the way

 まっすぐ まっすぐ進んでいけ
 想いを溢れさせよう Go a hed!

 顔を風上に向けろ 倒れるぐらいに前のめりになれ

 戦いの力と愛 自分一人が進むんじゃないけど
 戦いの力をわかっているのか? とにかく自分が前に進め

 みんなの為にジャなんかじゃなく
 キミが進んでいくことで やがてみんな気が付くんだ You see?

 そしてキミが進んだ道 それをだれかが乗り越える Any way!
走りすぎるキミの瞳

 その瞳の奥の残像になれればいい
 キミもボクも いつかは誰かの残像になるんだ

 Gachi… Gachi…Gachi!


 今年も残すところあと一日、大晦日を残すだけ。きっと来年はいい年になると、日本中が、ネットで観ている世界中のやつらが、閻魔大王と仕事納めの乾杯をしている悪魔の先輩たちさえ思ってやがるだろ。

 天国の神々は「我々の助けも無しに……」と悔しがってるだろうけど、天使の奴らは無邪気に喜んでやがる。天国にこういう影響を与えたのは利恵のイッチョカミ、ほんのちょっとだけだけどな。関わったことが大きかったんだと思うぜ。来年も勝負は続くんだろうなあ……ク……不覚にもマユも感動してるし(;'∀')。


 そして、一人だけ、静かに別の覚悟を決めた奴がいやがる。


 マユのアバターに入った浅野拓美は、歌いながら感じた。マユとしての体は高揚感と達成感で躍動し輝いていつ。しかし拓美自身は、ひどく透き通って落ち着いた気持ちになってやがる。

――よくやった、これで十分。ありがとうマユ、クララ、潤、そしてAKRのみんな……――

 そして、三番を歌い終わり最後のリフレインになった……。


 キミはいつでもGACHI ボクのことなど頭の隅にもない
 やるだけやったそのあとで キミの瞳の残像になれればいい……


 踊る自分の姿が残像のようにダブってきた。そして、アバターの本来の主であるマユのスピリットが入ってくるのが分かった。

――拓美、いいのか……おめえ、昇天しちまうぞ――

――なんだか潮時みたい。昇天しちゃうのは私の意思じゃないけど、もう、これでいいと思う――

――拓美……――

――事務所の屋上で、マユが、このアバターを貸してくれた。あの時の執着心がもうないの。やりたいことはやれたみたい。潤みたいな後輩も育ってきたし、いつまでも幽霊がこんなことしていちゃいけないんだわ……――

――拓美……!――

 歌い終わって決めポーズになったとき、マユのアバターの中味は完全に入れ替わって本来のマユに戻っていたぞ。

 マユの目には見えたぞ……観客席の通路を拓美の霊が出口へ向かって歩いていくのが。薄くなっていくその姿が、最後に振り返った。その顔は満面の笑みを浮かべ、その刹那光って消えちまった。
 
 マユは、涙が止まらなかったぞ。観客もメンバーも、その涙を大賞受賞の涙だと思っていやがったけどな……。



☆彡 主な登場人物

マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗      マユの同級生
沙耶       マユの同級生
知井子      マユの同級生
指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
デーモン     マユの先生
ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
レミ       エルフの王女
ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
白雪姫
赤ずきん
ドロシー
西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
由美子      英二の妹
真田       由美子の元カレ
美優       ローザンヌの娘 英二の妻
光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
浅野 拓美    オーディションの受験生
大石 クララ   オーディションの受験生
服部 八重    オーディションの受験生
矢藤 絵萌    オーディションの受験生
上杉       オモクロのプロディューサー
桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  


 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!115『三つ目の新人賞』

2025-01-13 17:50:56 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
115『三つ目の新人賞』 





 本年度のレコード大賞新人賞は、もう一組ございます!

 ええ? なんで? もう一組って? もう二組選ばれてるのに!? 三組目? こんなの初めて! いや、 どういうこと!? おもしろい!

 会場の新国立劇場は意外のささやきが、さざ波のように広がったぞ。

 今年の新人賞は、AKRと新人賞のオモクロがノミネートされよ。その通りに、たった今発表が行われたところだ。それが、異例にもっちゅうか、レコ大史上初めて、三組目の新人賞の発表になっちまってよ。会場のざわめきも無理はねえ!

「例年、新人賞を受けた人たちのなかから、一組の最優秀新人賞が選ばれますが、今年は、審査員一同の意向により見送ることとなりました。その代わりと申してはなんですが、もう一組の新人賞を選ぶことになりました。それでは発表いたします……」

 ダラララララララララララララララララ(^^♪

 司会の堺利彦が、審査結果の封を切る間にドラムロールが鳴り響いて、会場は暖かい緊張感につつまれたぞ。

「本年度、三番目の新人賞は、この秋に、彗星の如く現れ、居並ぶライバルと見事に肩ををならべ、新曲『東京タワー』で、躍り出た「神楽坂24」のみなさんです!」

 キャーー! ウワァーー! パチパチパチ!!

 リーダーの桃畑加奈子を先頭に、メンバー二十四人と、プロデューサーの別所がステージに上がった。審査員席では、審査員の仁和明宏も暖かく拍手をしてやがるぞ!

 仁科香奈のアバターの中でマユは気づいていたぜ。

――仁和さんの押し、でも、それだけの力も勢いもあったしな♫――

「わたしたちは、この秋にオモクロのユニット『オモクロ・E残グミ』として発足いたしました。その陰では、オモクロの上杉プロディユーサーや、別所プロディユーサー、そして関係のみなさんの暖かい励ましがあって、この秋に『神楽坂24』として発足したばかりです。そんなところで、AKRさんや、オモクロさんと肩を並べて新人賞をいただけるなんて、嬉しい前に怖ろしいような気がします……」
 
 加奈子の胸には、オモクロの発足メンバーとしてがんばったこと。やっと軌道に乗りかけた頃、吉良ルリ子や安藤美紀、美川エルたちに乗っ取られるようにして、『E残グミ』として事実上の二軍落ちしたこと。そして父、高峯純一との和解、アイドルグループの第三極としての『神楽坂24』の再出発。そして、今回の思いもしない新人賞……まるで戦い疲れて、帰国し、大統領から勲章をもらった兵士のような気持ちだったぜ。

 実際、初期の『おもしろクローバー』のころから、脱落していった仲間も少なくねえしな。

 観客席で、娘の晴れ姿を見守ってる往年の名俳優高峯純一の胸には、終戦後、負傷兵として復員し、俳優の道を真っ当できなかった父、また自身撮影中の事故で、父同様に道半ばで俳優を辞めなければならなかった自分の想いが重なった。

 俳優としての嫉妬心から、娘の芸能活動を素直に応援してやれず、それどころか、生き霊に成り果て、その邪魔をした醜い自分。しかし、娘の桃畑加奈子は、『神楽坂24』の芸術顧問の席を用意してくれた。

「それでは、新人賞『神楽坂24』のみなさんに歌っていただきます。作詞:高峯純一、作曲:塩田隆一『東京タワー』です!」


《東京タワー》

 キミと登った東京タワー スカイツリーもいいけれど キミとボクには程よい高さだよ

 二人そろって 高所恐怖症 二人に程よい距離だった

 神谷町駅徒歩7分 見上げた姿は333メーター 赤白姿のストライプ
 ボクの心もストライプ 告白しようか止めようか

 太陽背にした東京タワー 焦らすねボクの心を 神谷町から7分に高まるテンションさ

 キミはスキップ、一歩先 それがとても遠く愛おしく

 やっと踏んだキミの影 はじけた笑顔眩しくて 赤白姿のストライプ

 ボクをせかせてストライプ やっと追いつき照れ笑い

 ああ 東京タワー ああ 東京タワー ああ ああ 東京タワー


 そう、元の詞は加奈子だけれど、詞の構想を膨らませてくれたのは「お父さんだよ」と、作詞の名誉を与えてくれた。歌う加奈子の目にも、父、高峯純一の目にも光るものがありやがったぞ。

――どう、天使が、ちょっと手を出せば、こんなにみんながハッピーになれんのよ!――

 美川エルのアバターに入っているオチコボレ天使・雅部利恵の思念が飛び込んできやがった。

――あのなあ、おめえのお節介の修正でどれだけマユが苦労したか……!――

 やっぱし、売り言葉に買い言葉になっちまう!

 バチバチバチ!

 二人の思念は、劇場の中でスパークしたけどよ、みんな演出効果だと思って不思議には思わなかった。

 そして、いよいよレコード大賞の発表の時が迫ってきたぞ……!



☆彡 主な登場人物

マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗      マユの同級生
沙耶       マユの同級生
知井子      マユの同級生
指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
デーモン     マユの先生
ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
レミ       エルフの王女
ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
白雪姫
赤ずきん
ドロシー
西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
由美子      英二の妹
真田       由美子の元カレ
美優       ローザンヌの娘 英二の妻
光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
浅野 拓美    オーディションの受験生
大石 クララ   オーディションの受験生
服部 八重    オーディションの受験生
矢藤 絵萌    オーディションの受験生
上杉       オモクロのプロディューサー
桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  


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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!114『潤の復帰と重大発表』

2025-01-13 17:41:51 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  小悪魔だけどな(≧▢≦)!
114『潤の復帰と重大発表』          




 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

 みんなが拍手で迎えてくれやがる(^_^;)。

 事務所の前からスタジオまで、メンバーやスタッフのやつらが笑顔で並んでやがる。たかが研究生上がりの復帰とは思えねえほどのマスコミのやつらも集まって、事務所のビルに入るのも一苦労だぜ。

「潤、おかえり! 復帰おめでとう!」

 リーダーのクララが花輪と激励の言葉をかけやがる。いっそう高まるみんなの拍手。

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

「さあ、ちょっと忙しいが、今から記者会見だ。潤、スタジオへ」

 黒羽Dが、スタジオのドアを開けると、各社を代表する芸能記者やレポーター。あちこちでフラッシュ! 何台ものカメラが、驚く潤にレンズを向けてきやがる!

「みなさん、ほんとうにありがとうございました……」

 復帰の挨拶と会見は、ほんの十分ほどで終わった。

 ちょっと拍子抜けがしたぞ。

「では、ここから、AKRから枝分かれする新ユニットの発表をさせていただきます」

 黒羽が宣言すると、「おかえり、潤!」の横断幕がハラリとめくれて、新しいのが現れたぞ。

『新ユニット 三つ葉のクローバー結成発表!!』

「さあ、知井子、萌、前へ! あ、潤はそのままで」

「え? あ、キヤ(><)!」

 戻りかけた潤が、黒羽の制止でずっこけ、また笑われた。

「わたし……居ていいんですか?」

「潤もメンバーの一人だよ」

「え、うそ……!」

「改めて紹介します。三つ葉のクローバー、小野寺潤・桜井知井子・矢頭萌の三人です。ちなみに、このユニットにはセンターもリーダーもいません。名前の順番は、単なるアイウエオ順です。デビュー曲は決まっていますが、まだ発表はいたしません。なんせメンバーの潤など、たった今、知ったばかりですから」

 潤が顔を赤くし、みんなが暖かく笑った。

「この子達は、AKRでも、とびきり優秀……というわけでもありません」

 プ( ´艸`)

 また、笑いが起こりかけるけど、さすがに話が核心に入ってきたのを察して、みんなこらえやがる。

「AKRを花畑に例えれば、この三人は、ありふれた三つ葉のクローバーです。でも、三つ葉のクローバーというのは、人から注目されることもなく、路ばたで踏みつけにさえされます。そうやって傷ついたところから……むつかしい言葉では成長点といいますが、そこから、新しい四枚目の葉っぱが生まれて四つ葉のクロ-バーになります。そういう可能性を秘めた意味をこめて『三つ葉のクローバー』というユニット名にしました。この三人は、経験の浅い者や、ドンクサイ者たちです」

 ププ(*≧艸≦)

 またまた笑いをこらえ、中には盛大に鼻水を噴き出す奴もいやがるぜ!

「しかし、その分、他の者たちよりも苦労はしております。挫折も経験しております。心身共に。なあ潤」

「あ、はい。一時は心臓止まりかけました! で、でも、先輩のみなさんが一生懸命助けて……あ、マユ先輩。帰ってからのお楽しみって、このことだったんですね!?」

 ニャハハハ(o´罒`o)

「三人に、それぞれハンドルネームを与えます。マユ、よろしく」

 リーダーのクララが指名してきやがって。マユ(拓美)は色紙を持って前に出てきたぞ。

「潤は『希望』、奇跡の復活はAKRの希望。知井子は『信仰』……友情というAKRの信仰。萌は『愛情』ファンのみなさんや、仲間への愛情」

 マユ(拓美)は、色紙を三人に渡した。思いの外ヘタクソナ字だったぞ。

「なお、色紙を書いたのは、うちの会長です」

 オオ!?

 いろんな驚きやら思いのこもったどよめきが起こりかけたけど、当の会長は様子が変だ。

 スマホに深々と頭を下げたかと思うと、ガッツポーズのままジャンプしやがった!

「今、新しいニュースが入ってきたぞ!」

 え?

「たった今、AKRが、レコード大賞にノミネートされたぞ!」



☆彡 主な登場人物

マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗      マユの同級生
沙耶       マユの同級生
知井子      マユの同級生
指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
デーモン     マユの先生
ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
レミ       エルフの王女
ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
白雪姫
赤ずきん
ドロシー
西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
由美子      英二の妹
真田       由美子の元カレ
美優       ローザンヌの娘 英二の妻
光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
浅野 拓美    オーディションの受験生
大石 クララ   オーディションの受験生
服部 八重    オーディションの受験生
矢藤 絵萌    オーディションの受験生
上杉       オモクロのプロディューサー
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!113『ハッピークローバー』

2025-01-13 17:38:43 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  小悪魔だけどな(≧▢≦)!

113『ハッピークローバー』          




 
「もう、あの曲は歌えるようになってる?」

「そうだ聴きたい! 教授、さっそく聴かせてもらえませんか!?」

「自分はまだ准教授ですよ」

「いや、これをここまでにしたんだ、教授でなきゃいかん!」

「ちょ、どこに行くのよミツル!?」

「学長に掛け合ってくる、司博士を教授にしろって!」

「アハハ、まずは聴いていただきましょう(^_^;)」

「もう、ジッとしてなさい!」

「す、すまん(;'∀')」

 新しいオモチャを見せられた子どもみてえな会長に笑ってしまう二人だけど、実直な博士はすぐに真顔に戻って続けたぞ。

「ボ-カロイドとしては完成してます。ミクの十倍はすごいですよ。どうぞ、ここをクリックすると歌います」

「じゃあ、さっそく!」

「ミツルが触ると壊しちゃう。わたしが……」

 仁和が笑顔でクリックすると、そいつはゆっくりと顔を上げて笑顔で歌い始めたぞ!



 《ハッピークローバー》

 もったいないほどの青空に白い雲。アテもなく乗ったバスは岬をめぐり
 雲よりも白い灯台に心引かれて 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘

 ジュン チイコ モエ 訳もなく走り出した岬の先に白い灯台 その足もとに一面のクロ-バー
 これはシロツメクサって チイコがしたり顔してご説明

 諸君、クローバーの花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の標だぞ 
 茎は地面を這って あっちこちから根を出して20cmの茎が立つ草で茎や葉は無毛ですぞ

 なんで、そんなにくわしいの くわしいの

 いいえ 悔しいの だってあいつは それだけ教えて海の彼方よ

 ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー
 その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー

 四枚目のハッピー葉っぱは、傷つくことで生まれるの 
 踏まれて ひしゃげて 傷つき ムチャクチャになって 生まれるの 生まれるの 
  
 そうよ あいつはわたしを傷つけて わたしは生まれたの 生まれ変わったの 

 ハッピー ハッピークローバー 奇跡のクローバー 


「いい声だぁ……元気で艶があって、チャーミングで……」

「それでいて、どこか大人で、奥行きの向こうにペーソスを感じさせる……」

 光会長と黒羽ディレクターは、ため息をついた。

「で、この子は、いつ発表したらいいのかい?」

「それは……わたしも、まだ分からない。まずは48番目の子自身のことが、なんとかならなきゃ」


 
「……マユさん、香奈さん、少し疲れてません」

「そーお?」

「ハハ、病人に言われちゃ世話無いよね」

 拓美は、限界まで潤にエネルギーをやったこともあるけれど、実際疲れてやがった。

 潤は医者の予想を超える回復ぶり。それが嬉しくて、今日も拓美と示し合わせて病院に来てるぞ。

 あれから紅白歌合戦への出場も決まった。オモクロも神楽坂もいっしょだ。少女グループ全盛と言っても早すぎる。カラオケボックスで死ぬほど歌って、こう言ってやったぞ。

――元は、拓美、あんたが頑張りすぎたから。でしょ、拓美が頑張らなきゃ仁科香奈なんて存在もしなかった。オモクロもあんなにヒットしなかっただろうし、神楽坂だってできてないわ。みんな、あんたのとばっち……――

 仁科香奈でいるときは小悪魔弁はひかえてる。慣れてきたけど、たまに舌噛みそうになるぜ。じっさい噛んだし!

――どうかした?――

――舌噛んだぁ、拓美のせいだ!――

――あ、ちょ、なにすんのぉ!――

 頭をクシャクシャにしてやったら、二人とも涙が出てきちまってよ、それを思い出しかけちまった。

「レコード大賞……新人賞はもらえますよ」

「さ、どうだろ。オモクロも神楽坂もがんばってるからね」

 そのとき、ドクターが病室に入ってきた。

「結果が出たよ、明後日退院してもいい。それにしても奇跡的な回復ぶりだなあ!」

「あ、ありがとうございます!」

「礼を言うなら、自分の体力と運だね」

 潤も拓美も、花が咲いたように明るい笑顔になった。

――これでいいんだ――

「わたし、復帰したら《GACHI》がんばりますからね!」

「お、オヤジギャグ!」

「ちがいますよ。たまたま、新曲が《GACHI》だし、気持ちもガチだし!」

「で、復帰したら、もう一つあるわよ」

「え、なんですか!?」

「それは、復帰してのお楽しみ」

「もう、先輩って、意地悪!」

「ハハ、これくらいの楽しみがなきゃ、助けた意味がない!」

 退院間近の病室は、明るい笑い声に満ちたぞ……。



☆彡 主な登場人物

マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗      マユの同級生
沙耶       マユの同級生
知井子      マユの同級生
指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
デーモン     マユの先生
ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
レミ       エルフの王女
ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
白雪姫
赤ずきん
ドロシー
西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
由美子      英二の妹
真田       由美子の元カレ
美優       ローザンヌの娘 英二の妻
光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
浅野 拓美    オーディションの受験生
大石 クララ   オーディションの受験生
服部 八重    オーディションの受験生
矢藤 絵萌    オーディションの受験生
上杉       オモクロのプロディューサー
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!1112『拓美とカラオケ』

2025-01-13 17:29:41 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  小悪魔だけどな(≧▢≦)!

112『拓美とカラオケ』   




「で、本当なのかい、このAKRが……」

 トランプが仁和のポーチに収まると光会長が顔を上げたぞ。

「ええ、もう一人いる」

「それを足して四つ葉のクローバーに?」

「いずれはね……」

 紅茶の香りを楽しみながら続ける仁和。黒羽と光会長は、お香と紅茶の香りが混ざって半分夢を見ているような気持ちになってやがる。

「仁和さんは、どこで気づかれたんですか?」

「神楽坂のプロモを撮っているときにね、体と魂が合ってない子がいて……錯覚かとも思ったんだけど、ここに来て確信になったの」

 仁和は、壁にかけてあるメンバーの写真の一つを見つめる。その視線の先には出昼マユの笑顔の写真。

 ウウ、なんだか写真を通してマユの実体を見られてるみてえで、思わずクシャミが出ちまった。


 ヘクチ(>△<)!


「ごめん、待たせちゃった」

「ううん、わたしも今来たところだから」

 千代田線A駅前で、久々に拓美と待ち合わせ。

 拓美はAKRの出昼マユ、マユはアバターの仁科香奈の姿。ややこしいから、ここからは中味の魂の名前でいくぞ。

 二人は、駅近のカラオケの個室に収まった。ここなら、二人だけで話ができるからな。

「わたし、なんだか変なの……」

 ブルゾンも脱がずに拓美がポツンとこぼす。

「どんなふうに?」

「……潤を助けながら、感じたの……わたしってば、何がしたいのかって」

「それはさ……」

「うん?」

「ええと……アイドルになって自分を表現すること……的な?」

「うん、だから……マユの体を借りてここまでこられたんだけどね」

「……わたしも、行きがかり上、アイドルになっちゃったけど……ま、ドリンクでも飲みながら話そうか」

「え、あ、そうね。熱いのがいいわね」

 拓美もやっとブルゾンを脱いで、二人でドリンクを取りに行く。

 ホットチョコかカフェオレか、それともミルクティーかと迷って、やっと調子が戻りかけ、トレーに載せたドリンクを「おっと」とか「ちょ、ヤバ」とか言いながら個室に戻ると少しは普通に喋れるようになったぞ。

「わたし、本当は幽霊でしょ。それをマユに無理言ってアバター借りちゃってさ……最初は、レッスンの時や本番のとき、AKRとして活動するときだけ貸してもらうって約束だったじゃない」

「そんなことなら気にしないでよ。わたしも仁科香奈ってアバターが気に入ってるし。なにより魔界の補習受けなくてすんでるし(´>ω∂`)」

「ありがとう……でも、時々だけど、とても不自然な気になることがある。わたしは、とっくにあの世に逝って、もし、あるんだとしたら、そこで次に生まれ変わる準備をしなくちゃならないんじゃないかって……アツ!」

 飲みかけのホットチョコ、薄皮の下が熱くて目を✕にする拓美。

 目と目が合ってマユは続けたぞ。

「気にしすぎ。もし、わたしたちの入れ違いが間違っていたら、サタンやミカエルとかの悪魔やら天使のエライさんが黙ってない。わたしが補習サボるためだけに、こんな状況が許されたりしないわよ」

「う、うん……」

「悪魔はウソはつかないわ。さあさあ、そんな不景気な顔してないで。景気よく歌いまくろうよ、せっかくカラオケにきたんだからさ」

 ここは、言葉じゃなくて勢いだと思ったぞ。

「う、うん。そうだね」

「そう、なるようになるって!」

 で、二人は、アイドルにあるまじく、十曲あまりを熱唱して、喉をつぶしちまった……(^_^;)。


「ほう……良くできている!」


 光会長が、歓声を上げた。

「まるで、実在してるみたいだ……」

 黒羽も感心して、写メってみやがる。

「あ……写メると、体が透けて見える」

「そう、そこが最後の改善点です」

 司準教授が腕を組んだ。

「ルックスも少し手を加えて欲しいかなあ」

 仁和が注文をつける。

 ここは、T大学情報工学部の研究室。三人は、司準教授が作った3Dのバーチャルアイドルのプロトタイプを見に来たところだったぞ。



☆彡 主な登場人物

マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
里依紗      マユの同級生
沙耶       マユの同級生
知井子      マユの同級生
指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
デーモン     マユの先生
ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
レミ       エルフの王女
ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
白雪姫
赤ずきん
ドロシー
西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
由美子      英二の妹
真田       由美子の元カレ
美優       ローザンヌの娘 英二の妻
光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
浅野 拓美    オーディションの受験生
大石 クララ   オーディションの受験生
服部 八重    オーディションの受験生
矢藤 絵萌    オーディションの受験生
上杉       オモクロのプロディューサー
桃畑 加奈子   オモクロの創設メンバー  


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銀河太平記・267『マーマレードを預かって西之島を目指す』

2025-01-09 14:22:05 | 小説4
・267

『マーマレードを預かって西之島を目指す』 東鈴 




「ねえ、これを預けられた意味って分かってる?」


 西之島に向かう筋斗雲のコクピット。

 あたしと悟兵の間には大時代な袱紗に包まれたガラス瓶が収まっている。

「お手間だけど、これを西之島のお岩さんに渡して欲しいの」

 官邸のサンルームで預けられたときは――籠められた意味は何だ?――と勘ぐってしまった。

「フフ、東鈴は深読みしすぎ。作り過ぎたからお知り合いにお裾分けしたいだけなのよ(^▽^)」

「あ、はあ……」

「劉宏大統領に、果醤(コージャン)作る趣味あったアルか?」

「いいえ、作ったのはあの二人ですよ」

 サンルームの外、中庭にはこないだのモンゴル事変で見かけた女性中尉、ええと胡盛媛だったっけ。その中尉が、ホッソリした男の人といっしょに花の世話をしているのが見えた。

「おお、フーちゃんアル!」

「あ、声かけちゃダメよ」

「あ、ああ……」

「男の人は事故で記憶を失っていてね、うちで預かっていて、フーちゃんにお世話を頼んでるの。よろしくお願いするわね、孫大人」

 二人はとても穏やかで、なんだか、生物部の先輩と後輩が学校菜園の世話をしてるみたい。男性の目……が見える距離じゃないんだけど、受ける印象は春の日向のように暖かい。アーカイブから情報を拾えば高い確率で正体を知ることができるんだけど、そんなことは承知の上で「声かけちゃダメ⇒ここでは詮索しないで」と言っている。だからやらない。

 そして、中庭の二人には直接に会うことはしないで筋斗雲で北京を離れた。

 離れるにあたって、大統領は「握手しよう」と手を差し出してきた――ああ、やっぱり――そんな感じがした。

 おそらく、素体としてのあたしと大統領は姉妹の関係。たぶんJR西。

 あたしはJシリーズのロボット、いろんな事情や経緯があってカルチェタランの倉庫に収まっていた。姉妹は他にも数体あったはず……でも詮索はしない。検索禁止のプログラムがされているわけじゃない。なんだろ……ロボットに『言い伝え』というのはおかしいんだけど、そんな感じ。

 一昨日、鈴麗の体の一部を移植した時の記憶があいまい。老婆婆の他にもう一人、孫悟でもない人間が居て、移植のいっさいをやったような気がするんだけど、夢のようにボンヤリしている。

「あそこに居たのは、成治天皇五世孫の森ノ宮親王殿下アルな」

「あ、詮索しちゃダメだって!」

「大っぴらには言わないアルよ。ほんとうにダメアルなら、見せてないアルよ。劉宏も迷ってるみたいアル。ちょい出ししながら様子見てるアル」

「ん~~そうかもだけど、ちょっと下品」

「ええ、東鈴、ワシに下品言うあるかぁ!?」

「うん、で、そのアルアル語やめてくれない。緊急事態でもないんだからさ」

「そうか……それでは、普通に喋ろう(-_-)」

「え、なに、そのオスマシダンディーは!?」

「久しぶりの西之島でもあるからな、島には馴染みも多い、ドンパチも収まった。ゆっくりリゾート気分で羽根を伸ばすとするか……ん? どうして目をつぶるんだい?」

「あ、声だけなら、けっこうイケてるかもだから」

「え、そう……って、目を開けたら台無しってことぉ!?」

「うん」

「ああ、傷つくなア、傷つくアルよお!」

「ああ、もう、だからアルアル語わぁ! あ、目開けちゃったじゃない! もう、着くまでそっち向いててよ!」

「ああ、もう東鈴わあ!」

「もう、わあわあウルさい!」

「うるさいくらい辛抱するアル!」

 ガクンガクン

「キャ!」「うわ!」

『操縦が不安定なので、オートに切り替えますよ』

 しびれを切らした筋斗雲がオートに切り替えて、直近のコースで西之島を目指した。

 でも、オートの声は老婆婆ソックリ。

 島に着いたら、人工音声を切り替えようと、これだけは意見が一致した。



 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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