お友だちブログを見に行ったら、面白い記事が載っていた。
なんでも、車の運転中に検問に引っかかり、免許証を見せたところ、一年前に有効期限が切れていたことがあったそうだ。(続きはこちらから)
かれこれ30年前の話らしいが、私も20年ほど前の出来事を思い出してしまった。
当時、私は学生で、神奈川県川崎市にある某大学に通っていた。
「砂希、今日、免許持っとる?」
3時間目の講義が終わると、隣にいる彼氏が名古屋弁で尋ねてくる。いつもは家に置きっぱなしだが、その日はたまたま、別のことで身分証明のために使った免許証が、バッグの中に入ったままだった。
私はバッグの中身を確認し、「あるよ」と答えた。
「よかった、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるで~」と、彼が表情を崩したとき、非常にいやな予感がした。
そのまま私は、校舎裏の駐車場に連れて行かれた。車で通学する学生もいるが、彼はバイク登校である。スズキの400ccが彼の愛車だ。
「シミズにスクーターを貸しとったら、今日戻ってきたで。でも、オレ、これに乗ってきたから、スクーターのほうを砂希が運転してくれん?」
どうやら、彼は私に原付を運転させて、自分のアパートまで持ち帰るつもりらしい。運動音痴の私は仰天した。
「ええっ、スクーターなんか乗ったことないよ!」
「大丈夫、普通免許があれば簡単だがや」
彼は私にブレーキとアクセルの操作を教えると、何の不安も抱かずヘルメットを渡した。しかし、私は不安だらけだった。
本当に運転できるんだろうか?
わけがわからないまま、原付を押して駐車場出口に向かった。
「じゃあ、ゆっくり走るから、ついてきてな」
「わかった」
大学から彼のアパートまでは、ほんの10分くらいである。ちょっと頑張れば、すぐにゴールできると思いこんでいた。
右腕を回転させてアクセルをふかすと、スクーターが進む。でも、速いのは怖い。バイクの後ろに乗せてもらったことはあるが、自分で運転するときはまた別なのだ。
彼のバイクがどんどん小さくなり、やがて路肩に停まるところが見えた。
私は自転車並みの超スローなスピードで、彼を目指してノロノロと走る。いや、もしかしたら自転車のほうが速かったかもしれない。場合によっては、ジョギング中の中高年にも負ける可能性もある。
追い越していく車の窓から、「なにこの人、遅ッ」といった冷たい視線を浴びた。ヘルメットで顔が隠れていることを、これほどありがたいと感じたことはない。
ようやく彼のもとにたどり着き、私もブレーキをかけた。顔から笑みが消え、彼は硬い表情になっている。
「……大丈夫?」
まさか、こんなにトロいとは思っていなかったのだろう。
「怖いよ~! あとどれくらい?」
「もうちょい。この先、交通量の多い道に出るで。スピード上げられん?」
「ダメだぁ」
「じゃあ、遅くてもええわ。絶対コケんようにな」
「わかった」
左折すると、幹線道路に合流する。流れに乗れず、ノンビリ走っていると、横を追い越していく車がひときわ速く感じられる。スクーターという名のカメが、すばしっこいウサギの群れに抜かれているのだ。はたから見たら、「免許持ってるのか!?」というレベルだろう。「原付が危険な運転をしています」などと通報されたら大変だ。彼も、走っては停まり、走っては停まりの繰り返しで、実に怪しい。免許を持っていても、親や大学に連絡が行き、こってり油を絞られそうな気がした。
ようやく幹線道路を抜け、人気のない通りに出ると、心底ホッとする。
川崎市といっても、多摩区、麻生区はアップダウンが激しい。急な上り坂では、初めてスクーターの威力が発揮でき、自転車よりも速く走れた。
坂を上りきると、彼のアパートは目と鼻の先にある。わずか10分といえども、極度の緊張とスリルで、30分走ったくらいの疲れだ。無事、到着したときは、全身の力が抜けるような気がした。
おまわりさんに「その原付、停まりなさい!」と制止されずにすんだのは、神奈川県という場所のせいだろうか。
この数年後、神奈川県警は、数々の不祥事が明るみに出て、誌面を騒がすことになる。
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
なんでも、車の運転中に検問に引っかかり、免許証を見せたところ、一年前に有効期限が切れていたことがあったそうだ。(続きはこちらから)
かれこれ30年前の話らしいが、私も20年ほど前の出来事を思い出してしまった。
当時、私は学生で、神奈川県川崎市にある某大学に通っていた。
「砂希、今日、免許持っとる?」
3時間目の講義が終わると、隣にいる彼氏が名古屋弁で尋ねてくる。いつもは家に置きっぱなしだが、その日はたまたま、別のことで身分証明のために使った免許証が、バッグの中に入ったままだった。
私はバッグの中身を確認し、「あるよ」と答えた。
「よかった、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるで~」と、彼が表情を崩したとき、非常にいやな予感がした。
そのまま私は、校舎裏の駐車場に連れて行かれた。車で通学する学生もいるが、彼はバイク登校である。スズキの400ccが彼の愛車だ。
「シミズにスクーターを貸しとったら、今日戻ってきたで。でも、オレ、これに乗ってきたから、スクーターのほうを砂希が運転してくれん?」
どうやら、彼は私に原付を運転させて、自分のアパートまで持ち帰るつもりらしい。運動音痴の私は仰天した。
「ええっ、スクーターなんか乗ったことないよ!」
「大丈夫、普通免許があれば簡単だがや」
彼は私にブレーキとアクセルの操作を教えると、何の不安も抱かずヘルメットを渡した。しかし、私は不安だらけだった。
本当に運転できるんだろうか?
わけがわからないまま、原付を押して駐車場出口に向かった。
「じゃあ、ゆっくり走るから、ついてきてな」
「わかった」
大学から彼のアパートまでは、ほんの10分くらいである。ちょっと頑張れば、すぐにゴールできると思いこんでいた。
右腕を回転させてアクセルをふかすと、スクーターが進む。でも、速いのは怖い。バイクの後ろに乗せてもらったことはあるが、自分で運転するときはまた別なのだ。
彼のバイクがどんどん小さくなり、やがて路肩に停まるところが見えた。
私は自転車並みの超スローなスピードで、彼を目指してノロノロと走る。いや、もしかしたら自転車のほうが速かったかもしれない。場合によっては、ジョギング中の中高年にも負ける可能性もある。
追い越していく車の窓から、「なにこの人、遅ッ」といった冷たい視線を浴びた。ヘルメットで顔が隠れていることを、これほどありがたいと感じたことはない。
ようやく彼のもとにたどり着き、私もブレーキをかけた。顔から笑みが消え、彼は硬い表情になっている。
「……大丈夫?」
まさか、こんなにトロいとは思っていなかったのだろう。
「怖いよ~! あとどれくらい?」
「もうちょい。この先、交通量の多い道に出るで。スピード上げられん?」
「ダメだぁ」
「じゃあ、遅くてもええわ。絶対コケんようにな」
「わかった」
左折すると、幹線道路に合流する。流れに乗れず、ノンビリ走っていると、横を追い越していく車がひときわ速く感じられる。スクーターという名のカメが、すばしっこいウサギの群れに抜かれているのだ。はたから見たら、「免許持ってるのか!?」というレベルだろう。「原付が危険な運転をしています」などと通報されたら大変だ。彼も、走っては停まり、走っては停まりの繰り返しで、実に怪しい。免許を持っていても、親や大学に連絡が行き、こってり油を絞られそうな気がした。
ようやく幹線道路を抜け、人気のない通りに出ると、心底ホッとする。
川崎市といっても、多摩区、麻生区はアップダウンが激しい。急な上り坂では、初めてスクーターの威力が発揮でき、自転車よりも速く走れた。
坂を上りきると、彼のアパートは目と鼻の先にある。わずか10分といえども、極度の緊張とスリルで、30分走ったくらいの疲れだ。無事、到着したときは、全身の力が抜けるような気がした。
おまわりさんに「その原付、停まりなさい!」と制止されずにすんだのは、神奈川県という場所のせいだろうか。
この数年後、神奈川県警は、数々の不祥事が明るみに出て、誌面を騒がすことになる。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)