これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

スネ夫の誕生日

2011年06月16日 20時57分11秒 | エッセイ
 夫は3年前に定年退職し、我が家の専業主夫となっている。
 汗っかきのせいか、最近、食事の味付けが濃くなってきた。昨日は焼き魚の塩をふり過ぎていたので、つい耳の痛いことを口にした。
「パパ、このお魚、塩辛いよ」
「そう?」
「もっと塩を減らして。それから、この煮物も醤油を入れすぎだよ」
「……」
 いかん、黙ってしまった。
 そういえば、食事の前には、娘に口ごたえされていたようだ。女2人に、よってたかって、いじめられたと思ったのかもしれない。

 たまたま、翌日の今日が、夫の誕生日である。
 私は昨夜のやり取りをフォローすべく、出勤前に、夫に声をかけた。
「今日は誕生日だね。ご飯食べに行く?」
 しかし、夫の反応は悪い。か細い声の、つれない返事が返ってきた。
「いい。ミキの試験が終わってからで」
 ちょうど娘の中間考査が始まったところだ。試験中は勉強に専念させるため、週末まで待つ気でいるらしい。
「じゃあ、ケーキだけでも買ってこようか?」
「いらない」
 ……まだスネているのだろう。まったく、手のかかる男である。見た目は間違いなくジャイアンだが、スネ夫という名がピッタリという気がした。

 出勤後、授業の合間に電話をし、豆腐懐石店の予約を入れる。運よく個室が取れた。
 それだけでは、機嫌が直らないかもしれないから、デパートでプレゼントを買って帰ることにした。
 しかし、年配の男性へのプレゼントは難しい。いったい、何を買えばいいのかだろう。ひとまずメンズのフロアに向かい、あるものから選ぶしかない。
 まず、目に入ったのは杖である……。これを選んだら、夏になっても、夫婦仲が氷点下に冷え込むことは間違いないだろう。却下。
 それから、ベルトが並んでいる。XLのサイズの男が、はめられるベルトなんてあるんだろうか。品定めが難しそうだ。これも却下。
 ネクタイ。今でも、いっぱい持っているし、出かける場所はほとんどない。却下。
 財布のコーナーで足が止まった。そういえば、夫は機能的な財布を持っていない。昔ながらの札入れと、小銭入れを併用しているはずだ。
「小銭入れは、取り出しやすいものに限るね」と言っていたことを思い出し、店員を呼んで、札入れにボックス型の小銭入れがついているタイプを出してもらう。
「こちらには、カードがたっぷり収納できます」と説明された財布に決めた。



 ポイントカードが増えるので、主夫の財布は、収納力が命なのだ。気に入ってもらえる自信はある。
 夕食が終わったときを見計らい、娘からプレゼントを渡してもらった。同じものでも、妻から手渡されるより満足度が上がるらしい。少々癪だが、これも作戦である。案の定、夫は朝の不機嫌がウソのように、満面の笑みで答えた。
「ミキ、ありがとう! 大事に使うよ」
 買ってきたのは私なんですけど、という言葉は飲み込んでおく……。
 夫は財布の仕様を確認し、こちらを向いた。ようやく私の番らしい。
 だが、言われたことは、お礼ではなかった。
「ママ、中身が入ってない」

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コメント (18)
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