勤務先の高校には、はねっ返り娘や、ぐうたら男がたくさんいる。
愛奈もそのうちの一人で、めっぽう我が強く、周りの反対には耳を貸さずに、自分の意見を押し通すところがある。教員から見ても、扱いにくいワガママ娘であることは間違いない。
しかし、彼氏ができてから、素直でかわいい面も見せるようになった。
類は友を呼ぶというが、この彼氏も勉強嫌いの怠け者である。ワガママ娘と怠け者の、いわゆるバカップルが誕生した。
よほど気が合うのか、あるいは別のところの相性がいいのか、この2人は大変仲良しだった。
朝はわざわざ早目に登校し、廊下でベタベタくっついて話をしている。クラスが違うので、休み時間のたびに、お互いを探してイチャイチャ、昼休みも一緒にお弁当を食べ、放課後も2人セットで行動する。
よりによって、私の授業は2人揃って選択している。「はあ」とため息が出る。くじ引きで席を決めたら、愛奈の後ろがたまたま彼氏となってしまい、さらにウンザリである。
だが、新たな発見もあった。同性の友達には、大きな声で話しかける愛奈が、彼氏の前ではやけに静かなのだ。ときどき後ろを振り返り、「ここ、わかんない」などと、ささやくように尋ねている。はにかむような笑顔を見せ、その一角だけハートマークが飛び交う有様だ。口には出さないけれど、誰もが「勝手にしろ」と思ったに違いない。
ある日、出席を取っていたら、愛奈の姿が見えない。彼氏に「愛奈は休み?」と聞くと、「さあ」という素っ気ない返事が返ってきた。
授業が終わると、本人がやってきて、「保健室にいたから授業に出られなかったの」と報告するではないか。目が赤くなっているところを見ると、泣いていたらしい。愛奈は、小さな声で続けた。
「先生、席を替えてくれない? 昨日ケンカして、彼氏と別れちゃったから気まずい……」
私は耳を疑った。はねっ返り娘返上ともいえる言葉が、まさか愛奈の口から飛び出すとは。相当こたえているのだと察し、「いいよ」と了解した。段取りをつけ、座席表まで書き換えたあと、愛奈がうれしそうに駆けつけた。
「先生! 仲直りしたから、やっぱり席替えしなくていい~♪ しちゃヤダからね!!」
愛奈の身勝手さに、私がムッとしたことは言うまでもない……。
半月ほどは睦まじかった2人だが、気づいたときには、別行動ばかりになっていた。
「先生、結局、私たち別れたの」
「そっか、残念だったね」
「今ね、つき合っていたとき、買ってもらったもののお金を請求されているんだよ」
「……せこい」
「ホント、せこいよね」
愛奈は淋しげな様子だったが、その目は赤くなかった。おそらく、2人がよりを戻すことはないだろう。
「でも、席はあのままでいいからね。普通に大丈夫だもん」
また授業の日がやってきた。本当に大丈夫かしらと心配になった。
愛奈は、保健室に避難することなく、顔を上げて自分の席に座っている。
その日はテストだったので、前から順に問題用紙を回して配った。愛奈は、後ろの彼氏に向かって、放り投げるように問題を渡したようだ。机の上を通り越し、床のほうに用紙が飛んでいった。
舌打ちをして、彼氏が、いや元彼氏が問題を拾いに行く。
愛奈は澄ました顔で前を向き、振り返りもしない。「してやったり」の表情だ。
やっぱり、はねっ返り娘はこうでなくちゃね。
なんだか、少し安心した。
みんな、ちょっとずつ、大人に近づいていくのだ。
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
愛奈もそのうちの一人で、めっぽう我が強く、周りの反対には耳を貸さずに、自分の意見を押し通すところがある。教員から見ても、扱いにくいワガママ娘であることは間違いない。
しかし、彼氏ができてから、素直でかわいい面も見せるようになった。
類は友を呼ぶというが、この彼氏も勉強嫌いの怠け者である。ワガママ娘と怠け者の、いわゆるバカップルが誕生した。
よほど気が合うのか、あるいは別のところの相性がいいのか、この2人は大変仲良しだった。
朝はわざわざ早目に登校し、廊下でベタベタくっついて話をしている。クラスが違うので、休み時間のたびに、お互いを探してイチャイチャ、昼休みも一緒にお弁当を食べ、放課後も2人セットで行動する。
よりによって、私の授業は2人揃って選択している。「はあ」とため息が出る。くじ引きで席を決めたら、愛奈の後ろがたまたま彼氏となってしまい、さらにウンザリである。
だが、新たな発見もあった。同性の友達には、大きな声で話しかける愛奈が、彼氏の前ではやけに静かなのだ。ときどき後ろを振り返り、「ここ、わかんない」などと、ささやくように尋ねている。はにかむような笑顔を見せ、その一角だけハートマークが飛び交う有様だ。口には出さないけれど、誰もが「勝手にしろ」と思ったに違いない。
ある日、出席を取っていたら、愛奈の姿が見えない。彼氏に「愛奈は休み?」と聞くと、「さあ」という素っ気ない返事が返ってきた。
授業が終わると、本人がやってきて、「保健室にいたから授業に出られなかったの」と報告するではないか。目が赤くなっているところを見ると、泣いていたらしい。愛奈は、小さな声で続けた。
「先生、席を替えてくれない? 昨日ケンカして、彼氏と別れちゃったから気まずい……」
私は耳を疑った。はねっ返り娘返上ともいえる言葉が、まさか愛奈の口から飛び出すとは。相当こたえているのだと察し、「いいよ」と了解した。段取りをつけ、座席表まで書き換えたあと、愛奈がうれしそうに駆けつけた。
「先生! 仲直りしたから、やっぱり席替えしなくていい~♪ しちゃヤダからね!!」
愛奈の身勝手さに、私がムッとしたことは言うまでもない……。
半月ほどは睦まじかった2人だが、気づいたときには、別行動ばかりになっていた。
「先生、結局、私たち別れたの」
「そっか、残念だったね」
「今ね、つき合っていたとき、買ってもらったもののお金を請求されているんだよ」
「……せこい」
「ホント、せこいよね」
愛奈は淋しげな様子だったが、その目は赤くなかった。おそらく、2人がよりを戻すことはないだろう。
「でも、席はあのままでいいからね。普通に大丈夫だもん」
また授業の日がやってきた。本当に大丈夫かしらと心配になった。
愛奈は、保健室に避難することなく、顔を上げて自分の席に座っている。
その日はテストだったので、前から順に問題用紙を回して配った。愛奈は、後ろの彼氏に向かって、放り投げるように問題を渡したようだ。机の上を通り越し、床のほうに用紙が飛んでいった。
舌打ちをして、彼氏が、いや元彼氏が問題を拾いに行く。
愛奈は澄ました顔で前を向き、振り返りもしない。「してやったり」の表情だ。
やっぱり、はねっ返り娘はこうでなくちゃね。
なんだか、少し安心した。
みんな、ちょっとずつ、大人に近づいていくのだ。
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)